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“Nationale Bildungskonferenz Elektromobilität 2015
(E モビリティ教育に関する全国会議 2015年)”レポート
APEV ベルリンデスク シュリットディトリッヒ桃子 1.イベント概要
イベント名:“Nationale Bildungskonferenz Elektromobilität 2015” 日時:2015年2月23-24日
場所:ドイツ ベルリン工科大学 主催:ドイツ連邦教育研究省
協賛:Berliner Agentur fuer Elekromobilität eMO, Nationale Plattform Elektromobilität, Technische Universität Berlin 会場となったベルリン工科大学の入口 入口付近に展示されていたスポーツタイプのスマート 2.概要 自動車大国および環境大国として名高いドイツだが、電気自動車の普及はなかなか進んでいないのが現状である。 そんな中、ドイツ連邦教育研究省が「E モバイル普及のためには、専門の教育を施すことが不可欠」と本会議を 開催した。二日間にわたる全国会議には、連邦教育研究大臣を始めとする政府関係者をはじめ、各自治体、大学 や研究所などの研究機関、職業訓練校や高校といった教育機関、そして大手自動車および機器メーカー、環境コ ンサルタント会社など、多岐にわたった分野から、学生や職人を含む約300名がドイツ内各州よりベルリンへ集 結した。 1日目は現場見学から始まり、基調講演と続き、二日目は各分野に分かれたフォーラム形式で会議は進んだ。本 レポートではその様子をお伝えする。 3.現場見学 4つのグループに分かれ、チャーターバスで見学場所まで移動したが、筆者が選んだのは‘Oberstufenzentrum Kfz-Technik Berlin und Mercedes Welt am Salzufer’コース。このコースは人気が高かったようで、事前に予 約がいっぱいになった程だった。‘Oberstufenzentrum Kfz-Technik Berlin’とは、主に自動車工としての技術 を学ぶ職業訓練校で‘Mercedes Welt am Salzufer’は、メルセデスのショールーム兼修理工場である。 まず Oberstufenzentrum Kfz-Technik では、マイスター(職人)の称号を持つ先生二人より、学内の電気自動車 工場にて説明頂いた。
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EV 工場内の様子と授業で使用する EV 車 この職業訓練校では主に基礎理論を学び、約3年間でコースは修了するが、その中で電気自動車の仕組みを学ん だり、分析を行う。自動車技術者の資格をとるための、細かい品質チェックリストが存在し、それに基づいて学 生たちは学んでいく。コースの目標は学生が一人前の自動車技術者として自立し、自動車工場に就職できるよう にすることであるので、理論を重んずると同時に、実践も行っていく。実践で足りない部分は、Weiterbildung (就職した後の研修)で、各自学ぶこととなる。 現在、学内には、授業用に98台の自動車があり、学生12名あたり1台の割り当てとなっている。電気自動車に関 しては、他の州(例:BMW の本拠地のバイエルン)などでは自動車会社から寄付として教育用に EV が与えられる ケースも多い模様だが、ベルリンにはそのような産業はない。そのような状況の中、フランスのルノーが1台寄 付してくれたが、その他は学校で購入しなければならないという厳しい状況である。次に‘Mercedes Welt am Salzufer’(メルセデスショーケース兼修理工場)へ。Smart とのショーケースと隣接 しているこの施設では約200台のメルセデス車が展示されている。それらは、さすがメルセデスと思わせる豪華 な展示だったが、その中でも水素燃料カーF-CELL は見学者の注目を集めていた。 メルセデス F-CELL (燃料電池車) ショールームを抜けて案内されたのは EV 専用の修理工場の一部。「緑の工場」と呼ばれるこのエリアでは、スマ ート EV およびメルセデス EV(B クラス)とメルセデスのハイブリッド車(S,E,C クラス)および燃料電池車(B クラス)の修理、メンテナンスが行われている。また、メルセデスの EV は1年、もしくは2万キロ走行後にメ ンテナンスを受けることとなっているため、サービスや修理セクションではそのための特別なツールも必要とな るが、これらも全て、この「緑の工場」に揃っている。
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説明は主に B クラス EV と S クラス ハイブリット車について行われた。まず B クラス EV は28kWh で走行距離200 キロ、最高時速160キロ、急速充電器を使えば、11kw で3時間の充電が可能とのこと。バッテリーは6年もしくは 10万キロ保証。 B クラス EV(左)と S クラス ハイブリッド(右) 「緑の工場」では壁も緑色 また、‘Mercedes Welt’には9つ支所があるのだが、EV の作業を行ったり、社員の EV 教育を施すことができる のはこの「緑の工場」だけである。ここで働くためには、高電圧に関する資格など特別な資格をとる必要がある。 現在メルセデスで働く見習い工は、全員これらの特別な資格を得るために、社内トレーニングを受けている。 また、メルセデスでは EV の車種ごとに特別なトレーニングを受けることも求めており、例えば B クラス EV の製 造に関するトレーニングは2か月かかる。さらに、B クラス EV では、サービス販売、メンテナンス、修理に関す る研修は別途存在する。このように、セクションごとに異なるトレーニングが細かく分けられているので、見習 い工や社員は、それぞれのタスクに応じて、様々な研修を受けなければならない。 ちなみに、EV 車は他の車種とは異なる材料を使ったり、危険な高電圧を使用するので、EV 車に関わる社員の健 康チェックも定期的に行っている、とのこと。 4.基調講演 現場見学の後は、ベルリン技術大学学長、ドイツ連邦教育研究大臣、ベルリン市議員のスピーチに続き、大学教 授らによる基調講演が行われた。要点は以下のとおり。 4-1.ベルリンの現状 ベルリンはドイツのみならず、ドイツ EV の首都である。 - 多様な人々が集まっているので、新しいものに対する受容性が高い。 - 交通機関が発達しているので、小型 EV のレンタカービジネスが盛況。 市としても、EV 関連の 30 プロジェクトを進めており、電気自動車バスも走り始めた。 一般市民への普及は長期戦で行う覚悟が必要。 4-2.世界の現状 世界の EV 台数(2014 年6月時点)は 80 万台4
- 米国が最多で 22 万台超(ドイツの約 10 倍)。充電器数も最多で 15.200 台(ドイツの約 3 倍)。 - 最近はノルウェー(25,700 台)、オランダ(38,200 台)の追随が激しく、(2014 年前期は前年同期比それぞ れ+310%、+240%)、EV 台数、伸び率ともにドイツ(24,000 台、同+78%)を上回る。 - 膨大な投資を有する中国も EV 台数(29,100 台)、充電器数(8,100 台)ともにドイツを上回る。同国はハイ ブリッドに注力しており、2050 年には主流になる見通し。 4-3.ドイツの現状と問題点ドイツ国産 EV は現在 17 種類(BEV 25%、REV および PHEV 75%)。2015 年には、さらに 12 モデル発表予定。し かし、ドイツで走っている EV のほとんどは商用車で、一般普及率は高くない。普及率を上げるために、下記が 決められた。 - 二酸化炭素排出量削減および 2020 年までに EV 数 100 万台という目標達成に向けて、政府は 15 億ユーロ助成。 - 普及率が上がらない3つの要因(高価格、電池および走行距離の問題、充電器インフラ)に対する政策実施。 価格:EV 購入時の税制優遇 電池開発:国の重点研究テーマとした 充電器:規格を米国と合わせ、互換性を持たせた さらに「教育」に重点を置くことにより、世界の EV リーダーとなりたい意向。 4-4.ドイツ EV 普及への道 この問題は様々な要因が複雑に絡み合う「ブラックボックス」なので、革新的な解決策を練らなければならない。 → 政府、教育、産業界が一体になることによってのみ成功。これら3つのチームワークが不可欠。 なぜ E モビリティ関連の教育が重要か? - 特別な EV 教育を導入することによって、若者の雇用機会も増大する。 - 将来起こりうることに対して、最新の情報技術を伝えることが「教育」である。 E モビリティはドイツの教育システムに革新的影響を及ぼす。 具体的には、Dualsystem(学校での教育と就職してからの研修)が不可欠。 - いったん就職してから実用的なことを学ぶことにより、経済効果も大きい。 理論と実践の両方が必要 そのためには、教育界と産業界が協働することが重要 また、技術分野のみならず、ビジネス、経営学の分野でも EV に関する研究、教育を進める必要がある。さらに、 E モミリティに関する一般知見を広める必要性から、メディアやマーケティングの役割も重要。 ●この解決策に対する問題点 - 州ごとに教育システムが異なる。 - 学校教育にて EV 関連の授業がまだ少ない。 - 教師が最新 EV 情報を知らなかったり、教えられるほどの知識を持ち合わせていない。 - 職人と産業(企業)間にもギャップがある 大学生と職業訓練校の学生が共に学ぶことが必要。大学生にはより経験を、職業訓練生にはより理論 を! マイスター技術者と企業間の相互理解・連携が必要