• 検索結果がありません。

マムシ咬症の犬48例と猫4例(1997年-2006年)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "マムシ咬症の犬48例と猫4例(1997年-2006年)"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

マムシ咬症の犬 48 例と猫 4 例(1997 年 - 2006 年)

浅井由希子1) 髙島一昭1)  山根義久1, 2)

1)㈶鳥取県動物臨床医学研究所(鳥取県倉吉市八屋 214-10 〒 682-0025) 2)東京農工大学農学部獣医学科(東京都府中市幸町 3-5-8 〒 183-8509)

Mamushi (

Gloydius blomhoff ii) Bites in Forty-eight Dogs and Four Cats (1997-2006)

Yukiko ASAI1), Kazuaki TAKASHIMA1), Yoshihisa YAMANE1, 2)

1) Animal Clinical Research Foundation, 214-10 Yatsuya, Kurayoshi-shi, Tottori 682-0025, Japan

2) Department of Veterinary Medicine, Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture and Technology, 3-5-8 Saiwai-cho,

Fuchu-shi, Tokyo 183-8509, Japan

(Received 12 September 2007 / Accepted 21 March 2008)

SUMMARY : During the ten years from 1997 through 2006, cases of mamushi bites in 48 dogs and 4 cats were surveyed retrospectively regarding the season of occurrence, time of day, place, breed of dog, the number and sites of bites, clinical signs, results of blood tests and bacterial cultures, treatment, frequency of consultation, and final dermal condition at the last visit. Mamushi bites mostly occurred while walking at night from August to October. Mild swelling was found in almost all dogs, but there was one severe case in a toy-breed dog. In cats, there were fewer victims, and the clinical signs were all mild. In 12 of 17 dogs, especially in toy-breed dogs (5 of 6), blood tests were abnormal. In the most severe cases, hemolysis, anemia, hypoalbminemia, electrolyte imbalance, abnor-mality of serum biochemistry and coagulation profile, and increase in white blood cells were found. Antimicrobial-resistant bactaria were also found in this case. As small dogs tend to become severe, careful monitoring is needed especially when toy-breed dogs show abnormality of systemic clinical signs and/or blood tests.

KEY WORDS : cat, dog, Mamushi

(J Anim Clin Med, 17 (2) 45-51, 2008) 要約:1997 年から 2006 年までの 10 年間で,マムシ咬症で来院した犬 48 例,猫 4 例について,発生時期,時間帯,場 所,犬種,受傷部位,咬傷数,症状,血液検査,細菌培養,治療,来院回数,最終診察時の創部の状態について調査した。 その結果,咬傷は 8 ~ 10 月の夜間散歩中に多く発生し,ほぼすべての症例で腫脹が認められ,多くは軽症であったが小 型犬で重症例が 1 例認められた。猫は症例数も少なく,症状も軽度であった。血液検査では 17 例中 12 例が異常値を示し, 特に小型犬で異常が多くみられた(6 例中 5 例)。重症例では溶血,貧血,低アルブミン血症,電解質,生化学や凝固系 での異常が認められ,その他,WBC の上昇や多剤耐性菌も認められた。症状が重度もしくは中等度の症例が小型犬で認 められたため,特に小型犬で全身症状や血液検査で異常がみられる症例では注意深いモニタリングが必要であると考え られた。 キーワード:猫,犬,マムシ (動物臨床医学 17(2)45-51, 2008)

(2)

は じ め に  日本生息の毒蛇は主にマムシやハブ,ヤマカガシなど であるが,一般に北海道から九州にかけて問題になるの はマムシ(Gloydius blomhoff ii)である [1-5]。山地森林, その周辺の田畑や藪,湿地などに多く生息しているため, そのような環境下ではマムシと遭遇しやすい [3, 5]。蛇 毒は溶血毒および出血毒(血管毒)を主成分とする蛋白 分解酵素,ヒアルロニダーゼ,ホスホリパーゼ,レシチ ナーゼなどであるが,心毒性,神経毒性をもつポリペプ チドやブラジキニン遊離酵素も含んでおり,リンパを介 して吸収される [1-5]。咬傷があっても 10 ~ 25%は毒液 注入がないとされ,毒液の注入がなければ腫脹などの症 状はほとんどみられず,一過性の物理的疼痛があるのみ である [1, 2]。しかし,毒液注入があった場合は咬傷直後 に疼痛を生じ,腫脹は咬傷後 20 ~ 30 分で出現して約 1 ~ 2 時間で皮下や筋層に出血と腫脹が始まり,次第に近 位に広がる [2, 4, 5]。また,組織還流の低下あるいは毒 そのものによる筋肉や組織の壊死がみられることもある。 その他の症状としては元気消失,食欲不振,口渇,流涎, リンパ節の疼痛,赤色尿(ヘモグロビン・ミオグロビン), 視力障害や眼瞼下垂といった一過性の神経麻痺症状など がある [1, 2]。症状は受傷動物の体格,受傷後の活動量, マムシの攻撃性,咬傷の数,咬傷の位置や深さなどによっ て重症度が異なるといわれている [2, 6]。重症例では, 発熱,嘔吐,下痢,心悸亢進,徐脈,痙攣,腫脹による 等張性脱水,血圧下降,循環血液量減少性ショック,呼 吸困難,腎・肝不全,凝固異常,DIC,起立不能などの 全身症状がみられ,昏睡に陥り死亡することもある [1, 2, 4, 5]。マムシによる死亡例はヒトの場合で 1000 ~ 1500 例に 1 例といわれている [2]。犬はマムシ咬症に対して抵 抗性が強いといわれており [3, 5],動物での死亡例は非 常にまれである。しかし,犬や猫のマムシ咬症に関する 報告はあまり多くないため,今回,マムシによる咬傷も しくは咬傷が強く疑われた症例について調査,検討した ので,その概要を報告する。 材料および方法  1997 年から 2006 年までの 10 年間で,鳥取県の山根 動物病院と米子動物医療センターに来院し,マムシによ る咬傷もしくは咬傷が強く疑われた犬 48 例,猫 4 例の 計 52 例について,発生時期と気温と件数の関係,時間帯, 場所,犬種,受傷部位,咬傷数,症状,血液検査,培養検査, 治療,来院回数,最終診察時の創部の状態について調査 した。 結果 1) 月別発生件数と鳥取県の月別平均気温:鳥取県の気温 は,調査した 10 年間の気象庁の記録を平均したものを 示した。マムシ咬傷の発生は 5 月からみられはじめ,8 ~ 9 月をピークに 11 月までと,主に夏から秋に発生がみ られた(Fig.1)。咬傷の発生件数は気温の上昇と低下に ともなって増減しており,発生件数が最も多い 8 月(52 件中 19 件)は平均気温が 26.5 度と最も高く,発生と気 温のピークが一致していた。しかし,7 月の平均気温が 25.4 度と高いにもかかわらず,7 月より平均気温の低い 9 月(22.6 度,14 件)と 10 月(17.2 度,9 件)が 7 月 の発生件数(5 件)を超えていた。 2) 時間帯:1 日を朝(3:00 ~ 11:00),昼(11:00 ~ 17:00), 夜(17:00 ~ 3:00)にわけ,どの時間帯に咬傷が発生し ているかを調べた。52 例中,朝が 2 例(4%),昼が 2 例 (4%),夜が 28 例(54%)で,20 例(38%)が不明であっ た。時間が不明な例も多く認められたが,半数以上が夜 間に受傷していた(Fig.2)。 3) 場所:咬傷を受けた場所について調べたところ,半数 以上(59%)が不明あるいは問診による聴取を行ってい なかったが,一般に通常の散歩コースで受傷しているよ うであった。場所が明らかな症例の中で最も多いのが草 むらでの受傷(13 例,25%)で,その他は畑,山,庭が 各 2 例(4%),河原,ゴミ捨て場が各 1 例(2%で)あっ た。(Fig.3)。 Fig.1 月別発生件数と鳥取県の月別平均気温 Fig.2 発生の時間帯

(3)

4) 犬 種: 犬 48 例 の 犬 種 に 関 し て は, 雑 種(17 例, 35%)が最も多く,次いで柴(8 例,17%),ビーグル(6 例, 13%)がみられた。2005 年以降は,人気犬種のミニチュ アダックスフント(5 例,10%)の受傷が目立つように なった。次いでラブラドールレトリバー(3 例,6%),ゴー ルデンレトリバー(2 例,4%)がみられた。その他,ジャッ クラッセルテリア,ダルメシアン,コリー,ポインター, シーズー,マルチーズ,ヨークシャーテリアが各 1 例で あった。体重は 2.05 ~ 34.45 kg の範囲で,平均 14.1 kg であった。48 例中,小型犬は 7 例(ミニチュアダックス フント 5 例,マルチーズ 1 例,ヨークシャーテリア 1 例) であった(Fig.4)。 5) 受傷部位:受傷部位は,犬で頭部・顔面部が最も多く(48 例中 27 例,56%),次いで前肢(10 例,21%),後肢(9 例,19%)で,不明な症例が 2 例(4%)あった(Fig.5)。 猫は前肢(4 例中 3 例,75%)と顔面(1 例,25%)に みられていた(Fig.6)。また,犬種別にみたところ,純 血種ではレトリバー,ミニチュアダックスフント,ビー グルに頭部・顔面の受傷が多くみられた(Table 1)。 6) 牙痕数:咬傷を受けた部位に,マムシの牙の痕がいく つあったかを調べた。牙痕は 52 例中 18 例(34.5%)が 不明であり,牙痕が明らかな症例の約半数が 2 箇所(18 例,34.5%)で,ついで 1 箇所(9 例,17%),4 箇所(5 例,10%),3 箇所(2 例,4%)の順であった(Fig.7)。 7) 症状:ほぼすべての例で腫脹がみられ(52 例中 49 例, 94%),元気消失(23 例,44%),出血(20 例,38%), 食欲不振(18 例,35%),皮膚の変色(11 例,21%)も よくみられる症状であった。52 例中 1 例が重篤化し,そ の 1 例と治療に時間を要した中等度症例で嘔吐や下痢, 皮膚の脱落,赤色尿,前眼房出血などの症状が認められ た。猫の 4 例中 3 例(75%)は腫脹以外の症状はほと んどなかった。皮膚の変色がみられた症例の大部分は四 Table 1 犬種,受傷部位別の発生件数 犬  種  発生件数 頭部 前肢 後肢 不明 雑種 8 5 4 0 柴 3 3 1 1 ビーグル 4 1 1 0 ミニチュアダックスフント 4 0 1 0 ラブラドールレトリバー 3 0 0 0 ゴールデンレトリバー 2 0 0 0 ジャックラッセルテリア 1 0 0 0 ダルメシアン 1 0 0 0 コリー 1 0 0 0 ポインター 0 1 0 0 ヨークシャーテリア 0 0 1 0 シーズー 0 0 1 0 マルチーズ 0 0 0 1 合計 27 10 9 2 Fig.3 発生場所 Fig.4 犬種 Fig.5 咬傷部位(犬) Fig.6 咬傷部位(猫)

(4)

肢,耳,舌といった末端部に咬傷を受けて起こっていた (Fig.8)。 8) 血液検査:血液検査は 17 例で実施され,12 例で異常 値が認められた(Table 2, 3)。症例 1 のミニチュアダッ クスフントは重篤な症状を示しており,症例 1 ~ 3 が入 Table 2 犬種と体重,CBC 検査所見 症例 品  種  体重(kg) WBC(/μℓ) PCV(%) RBC(106/μℓ) Hb(g/㎗) 1 ミニチュアダックスフント 6.65 75500 27 4.1 9.2 2 ミニチュアダックスフント 3.8 17700 51 6.86 16.2 3 マルチーズ 2.05 14500 46 5.97 15.2 4 ヨークシャーテリア 4.15 12800 47 6.99 15.5 5 ミニチュアダックスフント 3.95 30000 52 7.51 15.3 6 ラブラドールレトリバー 31.35 34800 51 7.82 16.6 7 雑種 16.55 19200 55 7.11 17.8 8 ゴールデンレトリバー 31.25 12200 52 6.7 17.9 9 雑種 13.25 10300 59 8.45 19 10 雑種 10.88 6800 57 8.53 19.5 11 雑種 8.45 8400 57 9.58 14 12 柴 8.58 11900 57.7 7.7 16.4 13 ラブラドールレトリバー 31.6 12100 51 7.01 17.3 14 雑種 14.15 10000 54.8 8.47 18.1 15 雑種 12.05 13800 47 6.17 15.2 16 ミニチュアダックスフント 3.65 9400 52 7.76 17.1 17 雑種 12.1 16100 51 7.89 17 Fig.7 牙痕数 箇所 箇所 箇所 箇所 Fig.8 症状の発生頻度 院治療を行った。小型犬 7 例中,血液検査を行ったのは 6 例で,そのうち 5 例に何らかの異常値が認められた。 WBC 上昇が 5 例,PCV 低下が 1 例,PCV 上昇が 4 例, RBC 低下が 1 例,Hb 低下が 1 例,Hb 上昇が 2 例,TP 低下が 3 例,Alb 低下が 2 例,Glu 上昇が 4 例,CK 上 昇が 4 例,AST 上昇が 6 例,ALT 上昇が 3 例,ALP 上 昇が 4 例,GGT 上昇が 1 例,BUN 上昇が 1 例,電解質 異常が 3 例で認められた。また,症例 1 に関しては溶血 が第 9 病日まで認められ,凝固系検査で FDP の軽度上 昇(10.3μg /mℓ),APTT の延長(37.8 秒),ヘパプラス チンの低下(62%)がみられた。 9) 培養検査:症状が重篤であった症例 1 で WBC が上昇 したまま低下しなかったため,受傷後 9 日目に潰瘍化し た部位の培養検査を行った。また,それまでにアンピシ リン,セファゾリン,エンロフロキサシン,ゲンタマイシ ンの投薬を行っていた。P.aeruginosa,Corynebacterium spp.,Enterococcus spp. が 検 出 さ れ,P.aeruginosa, Enterococcus spp. の 2 菌種で感受性試験を実施した。 P.aeruginosaは多剤耐性菌で,Enterococcus spp. も比較 的多くの抗生剤に耐性であった(Table 4)。 10) 症 状 の ピ ー ク: 症 状 の ピ ー ク は 1 日 目(24 例, 46%)もしくは 2 日目(22 例,42%)で,ほぼ半数ずつ であった。重篤な症状を示した 1 例のみ 3 日目がピーク であった(Fig.9)。 11) 局所から周辺組織への症状の波及:顔面については 頸部まで,四肢については関節をまたいで症状の波及が みられた症例に関して調査した。約半数(52 例中 27 例,

(5)

52%)の症例で症状の波及が認められ,波及が認められ ない症例(12 例,23%)の倍以上の頻度であった(Fig.10)。 12) 治療:調査症例に対して行った治療は,軽症例では 安静指示,抗生剤,短期間のステロイド投与,創部の洗浄・ 消毒などを中心に行い,場合によって制酸制吐剤,止血剤, グリチルリチンやその他の強肝剤,抗ヒスタミン剤の投 与,皮下点滴を行った。入院治療を行った症例では,静 脈内点滴を行い,さらに重篤な症例 1 では輸血やメシル 酸ガベキサートの持続点滴,低分子ヘパリン,ビタミン K2の投与を行った。 13) 来院回数:来院回数は 1 回から 4 回が最も多く(1 回 11 例,2 回 10 例,3 回 9 例,4 回 10 例),猫はすべ て初回のみの来院で終了していた。入院治療を行った症 例は 3 例で,いずれも小型犬(ミニチュアダックスフン ト 2 例,マルチーズ 1 例)であった(Fig.11)。 Table 3 血液生化学検査所見 症例 AST (U/ℓ) ALT (U/ℓ) ALP (U/ℓ) GGT (U/ℓ) TP (g/㎗) Alb (g/㎗) Glu (mg/㎗) CPK (U/ℓ) BUN (mg/㎗) Cre (mg/㎗) Na (mmol/ℓ) K (mmol/ℓ) Cl (mmol/ℓ) 1 1517 193 1935 47 4.3 1.9 95 19884 52.9 1.2 139 3  100 2 133 45 589 4 4.2 2.7 79 8604 13.4 0.5 135 3.8 97 3 221 72 358 12 5.5 - 132 5790 19.7 0.4 145 4.2 112 4 153 258 138 - 6.3 - 102 4098 6.2 0.5 146 3.5 109 5 77 39 298 9 4 2.3 139 - 20.3 0.5 - - -6 24 38 246 - 5.6 - 139 - 10.1 0.9 - - -7 44 41 252 - 5.8 - 178 - 14.9 0.8 - - -8 56 135 172 - 6.5 - 116 100 23  0.8 - - -9 30 33 24 - 5.9 3.8 105 - 22  1.3 - - -10 28 46 97 - 5.7 - - - 10.8 0.7 - - -12 - 50 - - - 148 4.2 112 13 35 51 121 - 6.6 - 104 - 20.8 1.1 - - -15 - 30 74 - 5.8 3.2 111 - 13  0.8 - 4.2 -16 30 37 207 - 5.6 - 108 - 19.3 0.6 - - -17 28 29 132 - 5.6 - 103 - 6.2 1.5 - - --:検査実施せず Table 4 症例 1 の細菌培養,感受性試験結果

Pseudomonas aeruginosa Enterococcus spp.

PCG * S ABPC * S AMPC * S CVA/AMPC * S CEZ * R CEX R R CMX R R CPM S R CFTM R R TC R I DOXY R I MINO R I GM S R JM * R CP R R LCM R R CLDM * R ST R R OFLX I R GFLX I R VCM R S PCG:ベンジルペニシリン , ABPC:アンピシリン , AMPC:アモキシシリン CVA/AMPC:クラブラン酸 / アモキシシリン , CEZ:セファゾリン , CEX:セファレキシン CMX:セルメノキシム , CPM:セフピラミド, CFTM:セフテラム , TC:テトラサイクリン DOXY:ドキシサイクリン , MINO:ミノサイクリン , GM:ゲンタマイシン JM:ジョサマイシン , CP:クロラムフェニコール , LCM:リンコマイシン CLDM:クリンダマイシン , ST:スルファメトキサゾール /トリメトプリム OFLX:オフロキサシン , GFLX:ガチフロキサシン , VCM:バンコマイシン S:感受性 R:耐性 I:中間 *:検査実施せず Fig.9 症状のピーク

(6)

14) 最後診察時の創部の状態:正常になるまで来院した のは 52 例中 10 例(19%)で,傷や腫脹が残ったまま終 了した症例が半数を超えた(33 例,64%)。また,症状 として脱毛が認められた 2 例のうち 1 例は,後遺症とし て脱毛が残ったままであった(Fig.12)。正常になるまで 経過観察できた 10 例の完治までの日数は 4 ~ 23 日(平 均 11 日)であった。 考     察  ヘビ類の至適温度は 24 ~ 32℃である [7]。マムシは 3 ~ 11 月の,主に夜間に活動し,冬季には冬眠する [3, 4]。 7 ~ 9 月にかけて繁殖期を迎え,卵胎生で翌年の 8 ~ 10 月初めにかけて出産する。今回の調査では,気温の上昇 とともに発生がみられるようになっていたが,7 月より 平均気温の低い 9 月と 10 月が 7 月の発生件数を超えて, 8 ~ 10 月に多く発生がみられていたことから,受傷の機 会の増加は,至適温度となる気温の上昇のみではなく, 出産時期にマムシの攻撃性が高まることによると考えら れた。  発生の時間帯はマムシの活動が活発な時間帯の夜間に 多くみられていた。ヒトの場合,昼の農作業中に受傷す ることが多いといわれているが [1, 2],今回の結果から, 犬とヒトとでは受傷機会に違いがあることが明らかで あった。犬の場合はマムシが夜間活動しているところに 侵入することで受傷していると考えられ,マムシがよく みられるような地域では夜間の散歩や草むらへの侵入を 控えるよう飼い主に伝えることも必要であると思われた。  犬の受傷部位について,顔面の受傷は散歩中の探索に よって,また,四肢の受傷は草むらに踏み込んだことで 起こったことが推察された。また,猫の場合はマムシに 自ら手を出して負傷した可能性が考えられた。  犬種は,2004 年までは小型犬の受傷がみられなかっ たが,2005 年以降は人気犬種のダックスフントを中心と した小型犬での発生がみられるようになった。頭部・顔 面に受傷した犬種は,ダルメシアンとコリー以外は狩猟 犬としての歴史を持つ犬ばかりであり,犬種による性格 が関係している可能性が考えられた。  牙痕数は 2 箇所が最も多く,マムシの毒牙が 2 本ある ことに由来していると考えられ,3 箇所以上の牙痕は複 数回受傷したことによると考えられた。咬傷の数が多け れば一般的に重症化しやすいといわれているが [2],今回 の調査では 3 箇所以上の牙痕を持つ症例が重症化するこ とはなかった。  症状は腫脹がほぼすべての症例で認められたことか ら,腫脹があればマムシの毒液注入があったと推察して もいいと考えられた。元気消失,出血,食欲不振,皮膚 の変色なども比較的よくみられる症状であった。その他 の発生頻度が少なかった嘔吐や赤色尿,前眼房出血など は,重篤な症例や治療に時間を要した症例で認められ, また小型犬がこのような症状を示すことが多かったこと から,特に小型犬でこれらの症状が認められた際には十 分注意する必要があると思われた。末端部に咬傷を受け た場合,腫脹による血液還流の阻害などに起因すると思 われる皮膚の変色や壊死が起こりやすく,注意が必要で あった。  血液検査では重篤な症状を示した症例 1 のミニチュア Fig.10 周辺組織への症状の波及 Fig.11 来院回数 Fig.12 最後診察時の創部の状態

(7)

ダックスフントで多くの項目に異常値がみられた。軽度 な異常値が認められた症例が PCV と Hb の増加といっ たごく軽度の脱水を思わせる変化のみであったのに対し て,重篤な症例では溶血によると思われる PCV,RBC, Hb の低下がみられ,溶血が認められた際は厳重な注意 が必要であると思われた。凝固系検査を行ったのは 1 例 のみであったため重症例でのみ異常が認められるのか どうかは不明であったが,全身症状がみられる症例では 行っておくべき検査であると思われた。比較的治療に時 間を要した症例では,TP,Alb の低下,肝酵素値,CK の上昇,電解質異常が認められたため,これらの異常が 認められた際は点滴など積極的な治療を行うべきである と思われた。WBC の上昇が認められた症例も 17 例中 5 例あり,正常値に回復するまで 2 週間以上かかった症例 もあった。   培 養 検 査 で はP.aeruginosa,Corynebacterium spp., Enterococcus spp. が 検 出 さ れ た。Corynebacterium spp. は犬の皮膚常在菌として一般的に分離されるため [8],マムシからの感染ではない可能性も考えられたが, ヘ ビ の口 腔 内 や 毒 素 中 からP.aeruginosa,Clostridium spp.,Corynebacterium spp.,Staphylococcus spp., Streptococcus spp. などが分離されるといわれており [2, 3, 9],今回の結果は報告とほぼ一致していた。分離され たP.aeruginosaは多剤耐性菌であり,Corynebacterium spp. も比較的多くの抗生剤に耐性であったことから,速 やかに WBC が回復しない場合は早期の培養検査を行う べきであり,それらの感染の管理が重要であると思われ た。今回の多剤耐性菌の出現は検査を実施する以前に使 用していた抗生剤の影響も考えられたが,近年,野生動 物において多剤耐性菌が観察されている報告もあり,興 味深い結果であった。  症状のピークは 1 日目もしくは 2 日目で,重篤な 1 例 のみ 3 日目がピークであった。ピークは比較的早い段階 でみられたが,全身症状や感染がみられた症例は数日か ら数週間にわたるモニタリングが必要であると思われた。  猫は症例数が少なく,臨床症状も比較的軽く,来院も すべて初回のみであったため,犬に比べるとマムシによ る咬傷はあまり問題にならないようであった。  最終診察時の創部の状態として,後遺症として脱毛が 残った症例が 1 例あった。脱毛の原因は,おそらく腫脹 による血液還流の阻害や組織壊死に起因していると考え られた。創部にある程度の腫脹があっても,元気や食欲 などの一般状態がよく,皮膚の変色などがなければ来院 しない症例が多くみられた。ヒトにおいて全身症状が出 る場合,24 ~ 72 時間かけて進行し,また 3 ~ 10 日目 に腎不全を起こすことがあり,1 カ月程度の経過で死亡 する場合もあるとの報告があることから [1, 2, 4, 6],初 回来院時の調子が良くても飼い主に注意を促す必要があ ると思われた。今回の調査では,経過を観察することが できた症例における完治までの日数は 4 ~ 23 日(平均 11 日)であった。ヒトでは通常,数日~ 2 週間程度で回 復するといわれており [2],犬においてもヒトの場合とほ ぼ同様であると考えられた。  治療については一般的に,安静,受傷部位の固定,輸 液,広域スペクトルの抗生物質投与,創部の洗浄・消毒 などがある。その他,吸引や切開による毒素排出,軽い 圧迫包帯,ステロイドや昇圧剤の投与,酸素吸入,抗ヒ スタミン剤,グリチルリチン,チオプロニン,キモトリ プシンなどの投与,多価抗毒素血清,セファランチン(タ マサキツヅラフジ抽出アルカロイド)の投与などが報告 されているが [1-7, 9],賛否両論があり確定的な治療法で はない。今回の調査症例において,経過が明らかな全症 例で症状は回復したが,今後更に症例を重ね,完治する まで経過を観察した症例の中で治療方法と治癒期間の関 係をみることが必要であると思われた。  今回の調査では,死亡例はなく,症状は軽度な場合が 多かったが,1 例が重篤化した。その症例も含め,入院 治療を行った症例はすべて小型犬であり,血液検査で異 常値を示した症例でも小型犬が多くみられた。そのため, 特に小型犬の受傷や全身症状,血液検査の異常が認めら れる症例では注意が必要であると思われた。 引 用 文 献 1) 沢井芳男:生物学的因子による疾患 蛇咬症 . 最新内 科学大系(井村裕夫 , 尾形悦郎 , 高久史麿 , ほか編), 75, 233-240, 中山書店 , 東京 (1994) 2) 真栄城優夫:毒蛇咬症 . 救急医学 , 3 (10) 1378-1383 (1979) 3) 桑島法昭:蛇毒咬創 . 犬の診療最前線(長谷川篤彦 監修), 700-701, インターズー , 東京 (1997) 4) 石川利雄:蛇毒咬創 . 猫の診療最前線(長谷川篤彦 監修), 619-620, インターズー , 東京 (1999) 5) 原行雄:毒蛇の咬傷 . 主要症状を基礎にした犬の臨 床(其田三夫 監修), 270-271, デーリィマン社 , 札幌 (1988) 6) Gfellre R.W., Messonnier S.P. (内野富弥 監訳):ま むし . 犬と猫の中毒ハンドブック-診断と治療-, 205-210, 学窓社 , 東京 (1999)

7) Donald G.: Reptiles. In: Birchard S.J., Sherding R.G. ed, Saunders Manual of Small Animal Practice, 1390-1411, WB Saunders, Philadelphia (1994) 8) 田淵清:環境と細菌 . 獣医微生物学(見上彪 編),

70-74, 文永堂出版 , 東京 (2001)

9) Pratt P.W. (加藤元 監訳):蛇の咬傷 . 猫の内科学 , 60, 文永堂出版 , 東京 (1988)

参照

関連したドキュメント

生物多様性の損失も著しい。世界の脊椎動物の個体数は、 1970 年から 2014 年まで の間に 60% 減少した。世界の天然林は、 2010 年から 2015 年までに年平均

北区無電柱化推進計画の対象期間は、平成 31 年(2019 年)度を初年度 とし、2028 年度までの 10

傷病者発生からモバイル AED 隊到着までの時間 覚知時間等の時間の記載が全くなかった4症例 を除いた

年度 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008. 件数 35 40 45 48 37

及び 回数 (予定) 令和4年4月から令和5年3月まで 計4回実施予定 晴天時の活動例 通年

・生物多様性の損失も著しい。世界の脊椎動物の個体数は 1970 年から 2014 年ま での間に 60% 減少した。また、世界の天然林は 2010 年から 2015 年までに年平 均 650

新々・総特策定以降の東電の取組状況を振り返ると、2017 年度から 2020 年度ま での 4 年間において賠償・廃炉に年約 4,000 億円から

2016 年度から 2020 年度までの5年間とする。また、2050 年を見据えた 2030 年の ビジョンを示すものである。... 第1章