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Vol.53 , No.2(2005)068村上 徳樹「サパンの意知覚説の設定について」

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Academic year: 2021

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(201) 印度學佛敎學研究第53巻 第2号 平成17年3月

サパ ンの意 知 覚 説 の設 定 につ い て

村 上 徳 樹

1.は じ め に サ パ ン(Sa skya pandita Kun dga'rgyal mtshan,ll82-1251)は,RTRGに お い て,サ ン プ(gSang phu)学 問 寺 に 属 し た 学 僧 達 の 論 理 学 を 強 く否 定 し た.そ のRTRGで 説 か れ る意 知 覚(yid kyi mngon sum)に つ い て は,Scherbatskyの 研 究 以 来,サ パ ン が ダ ル モ ー ッ タ ラ(Dharmottara,740-800頃)と フ。ラ ジ ュ ニ ャ ー カ ラ グ プ タ(Prajnakaragupta,750-810頃,以 下 プ ラ ジ ュ ニ ャー カ ラ)の 意 知 覚 説 を 否 定 し た こ と は よ く知 ら れ て い る1).そ の 両 者 の 意 知 覚 説 の 否 定 も,サ ン プ 学 問 寺 の 学 僧 達 の 意 知 覚 説 と無 関 係 で は な い.つ ま り,サ ン プ 学 問 寺 の 学 僧 達 は 意 知 覚 を 論 ず る 際 に,ダ ル モ ー ッ タ ラ と プ ラ ジ ュ ニ ャ ー カ ラ の 意 知 覚 説 を 議 論 の 中 心 に 据 え て 論 じ て い た の で あ り,そ れ を 背 景 と し て,サ パ ン は 両 者 の 意 知 覚 説 を 否 定 し,自 身 の 意 知 覚 説 を 設 定 した と考 え ら れ る.

本 稿 で は,RTRG及 び,ツ ァ ン ナ ク パ(gTsang nag pa brTson'grus seng ge, ll42-ll82)のTNLDを 資 料 と し て,サ ン プ 系 の 学 僧 達 が 想 定 し て い た プ ラ ジ ュ ニ ャ ー カ ラ と ダ ル モ ー ッ タ ラ の 意 知 覚 説 が い か な る も の で あ っ た の か,ま た サ パ ン の 意 知 覚 説 の 設 定 に 関 して どの よ う な 問 題 点 が あ っ た の か を 検 討 し た い. 2.サ パ ン が 否 定 す る 二 つ の 説 こ の 意 知 覚 に つ い て の 見 解 の 相 違 は,感 官 知 の 後 に 意 知 覚 が ど の よ う に 生 起 す る か と い う点 に つ い て の 対 立 で あ る.先 ず ダ ル モ ー ッ タ ラ説(以 下D説)で あ る が,D説 は 数 刹 那 に 渡 っ て 感 官 知 が 働 き,そ の 機 能 が 停 止 した 時 点 で 一 刹 那 の み 意 知 覚 が 生 じ る と い う も の で あ る(RTRG,109b6, TNLD,52b7-8). 次 に プ ラ ジ ュ ニ ャ ー カ ラ 説(以 下P説)を 検 討 す る.P説 は 感 官 知 と意 知 覚 の 関 係 がspel maと い う語 に よ り 表 現 さ れ る.こ の 語 は 後 代 のLRな ど に よ れ ば 「交 互 」 と解 釈 さ れ て お り,P説 は 感 官 知 と 意 知 覚 が 全 く並 存 す る こ と な く,交 互 に 生 起 す る 説 と理 解 さ れ て い る(LR,2ba4-5).し か し,spel maと い う 語 はRTRGお

よ びTNLDで は 感 官 知 が 生 起 し た 後 の 刹 那 毎 に 意 知 覚 が 生 起 す る と い う生 起 の 次 804

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(202) サ パ ン の意 知 覚 説 の設 定 に つ い て(村 上) 第 を説 明 す る語 と して使 用 され て お り(RTRG,109b5-6,TNLD,53b6-7),交 互 とい う 意 味 で は使 用 され て い な い.従 って,P説 は 第 一 刹 那 の 感 官 知 が 滅 した 次 刹 那 以 降,感 官 知 と意 知 覚 は並 存 し,最 後 に感 官 知 が滅 した 次 刹 那 に意 知 覚 が 滅 す る と い う説 で あ る. 3.サ パ ン の 自説 サ パ ン は次 の よ うに 自説 を述 べ て い る.「 第 一 刹 那 の感 官 知 が 質 料 因 を な して,そ 〔の第 一 刹 那 の 感 官 知 〕 と同種 類 の第 二 刹 那 の 感 官 知 を生 み 出 し,そ れ(第 二刹那の感官知)と 同 時 に 〔第 一 刹 那 の感 官 知 が 〕 意 識 の 共 働 縁 を な し て,〔 感 官 知 と は〕 別 に第 一 刹 那 の意 知 覚 を生 み 出 す.外 界 を 見 る 〔認 識 〕 に,対 象 を認 識 す る もの で あ る 〔感 官 知 と意 知 覚 との 〕 二 つ の 知 覚 が 生 じ る時 内 界 を見 る 〔認 識 〕 で あ る単 一 の 自 己認 識 の 知 覚 が生 じ る(RTRG,llOa2-3).」 こ の記 述 か ら,彼 は既 に見 たD説 とP説,お よび 「相 続 が複 数 とな る難 点 」 とい う 三 つ の 点 を強 く意 識 して,自 己 の意 知 覚 説 を設 定 して い る こ とが看 取 され る. こ こで,サ パ ン の意 知 覚 説 を説 明 す る前 に,こ の 「相 続 が複 数 とな る難 点 」 が, サ パ ンがRTRGを 著 した 当 時 の 意 知 覚 に関 す る争 点 のー つ で あ っ た とい うこ とを 指摘 して お き た い.サ パ ン は 次 の よ うな 反 論 を想 定 して い る.「 五 つ の感 官 知 覚 が滅 した 後 に単 一 の意 知 覚 が 生 じる な らば,異 な る原 因 に よっ て 異 な る結 果 が 生 じな い こ とに な っ て し ま う.一 方,五 〔つ の 意 知 覚 〕 が 生 じ るな ら ば,複 数 の意 が 生 じ る こ とに な っ て しま う(RTRG,109a4-5)」 こ の反 論 は,眼,耳,鼻,舌,身 とい う五 つ の感 官 知 が 滅 した 後 に,意 知 覚 が 一.つしか 生 起 しな い の で あれ ば,原 因 が 結 果 に反 映 さ れ な い こ とに な っ て し まい,逆 に,五 つ の意 知 覚 が 同 時 に生 じ るな ら ば,相 続 は複 数 とな って しま う とい う もの で あ る.こ の サ パ ンの 想 定 す る 反 論 とほ ぼ 同様 の もの を,ツ ァ ン ナ クパ も想 定 して い る こ とが 確 認 で き る(TNLD, 51b4-5).サ パ ンの 意 知 覚 説 は,所 謂 「三 要 素('gro gsum pa)説 」 と言 わ れ る も の で あ るが,そ の三 要 素 の 中 に 自 己認 識 を要 請 す る の は,こ の反 論 に対 処 す る た め で あ る. 以 下 で は,サ パ ンがP説 とD説 及 び,「 相 続 が 複 数 とな る難 点1と い う こ の三 つ の 点 を 強 く意 識 して,自 身 の 意 知 覚 説 を設 定 した こ とを説 明 す る. 先 ず,第 一 刹 那 の 感 官 知 が 次 刹 那 に 感 官 知 と意 知 覚 を 生 み 出 す とい う規 定 は, D説 を 意 識 した もの で あ る.D説 は数 刹 那 に渡 って 感 官 知 が働 き,そ の機 能 が停 止 した時 点 で一 刹 那 の み 意 知 覚 が 生 じ る とい うも の で あ るが,サ パ ン説 で は第 一 刹 那 の感 官 知 が 直 後 の 第 二 刹 那 に意 知 覚 を生 み 出 し,そ の後,働 き を停 止 す る ま 803

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(203) サ パ ンの 意 知 覚 説 の 設 定 につ いて(村 上) で 感 官 知 は意 知 覚 を生 み 出 し続 け る. 次 に,感 官知 とは別 に 意知 覚 が 生 じ る とい う規 定 はP説 を意 識 した も の で あ る. サ パ ン説 とP説 とは 第 一 刹 那 の 感 官 知 が 滅 した第 二 刹 那 以 降 で,感 官 知 と意 知 覚 が 並 存 す る こ とは 同 じで あ り,そ の 違 い は微 妙 で あ るが,ツ ァ ン ナ クパ に よれ ばP説 は 感 官 知 と意 知 覚 が 一 組 とな って 生 起 す る こ とを 特 質 と して お り(TNLD, 53b6-7),感 官 知 とは 「別 に(logs shig tu)」意 知 覚 が 生 起 す る と規 定 した こ とに よ

り,サ パ ンはP説 と差 異 化 した と考 え られ る. 最 後 に 自 己認 識 を要 請 す る の は,相 続 が複 数 に な る とい う意 知 覚 の 難 点 を意 識 した 規 定 で あ る.第 二 刹 那 以 降 で 外 界 を見 る認 識 に,外 界 の実 在 対 象 を認 識 す る もの で あ る感 官 知 と意 知 覚 との二 つ の知 覚 が どれ だ け生 じた と して も,内 界 を見 る認 識 で あ る単 一 の 自己 認 識 が それ らの知 覚 を ま とめ る の で相 続 が複 数 とな る こ とは な い. 4.ま とめ サ パ ン以 前 の チ ベ ッ トで は,「 第 一 刹 那 の 感 官 知 が 滅 し た次 刹 那 以 降,感 官 知 と意 知 覚 は 並 存 し,最 後 に感 官 知 が 滅 した 次 刹 那 に 意 知 覚 が 滅 す る」 とい うP説 と 「数 刹那 に 渡 って 感 官 知 が働 き,そ の 機 能 が 停 止 した 時 点 で 一 刹 那 の み意 知 覚 が 生 じ る」 とい うD説 が 主 張 さ れ て お り,ま た 意 知 覚 の 問 題 点 で あ る 「相 続 が 複 数 とな る難 点 」 が 主 に議 論 され て い た. そ れ に 対 して サ パ ンは,そ の 二 つ の意 知 覚 説 に は過 失 が あ り,ま た 「相 続 が 複 数 とな る難 点 」 に対 処 す る説 と して,い わ ゆ る 「三 要 素 説 」 と呼 ば れ る 自身 の意 知 覚 説 を新 た に設 定 した.

〈略号 〉LR : 'Jam dbyangs bzhad pa Ngag dbang brtson 'gros. hLo rig gyi rnana b. hag nyung gsa!

legs hshad gser gvi phreng nid:es, bKra sis 'khyil edition. RTRG : Sa skya pandita Kun dga' rgyal mtshan. Tvhud nra rigs pu 'i gter gvi rang gvi 'grel pa, sDe dge edition. TNLD : gTsang nag pa brTson 'grus seng ge. Tshud naa rnani pur Ages pa 'i ti ka legs hshacl bsdus pa, Otani No, 13971.

1) Cf. Th,Scherbatsky, Budclist Logic vol 2, Leningrad. Reprinted, New Dehli, 1996. pp.323-339.

〈キ ー ワ ー ド 〉 サ パ ン,意 知 覚,'gros gsum pa

(東京大学大学 院)

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