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d > 2 α B(y) y (5.1) s 2 = c z = x d 1+α dx ln u 1 ] 2u ψ(u) c z y 1 d 2 + α c z y t y y t- s 2 2 s 2 > d > 2 T c y T c y = T t c = T c /T 1 (3.

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(1)

5

磁化率の温度依存性

この節では遍歴電子磁性体の常磁性状態における磁化率の温度依存性について述べる。磁化曲線 について前節で説明したように、スピン振幅が温度によらず一定であるという以下の条件を利用し て磁化率の温度依存性を求めるための方程式を導くことができる。

­

StotST(y, t) +­SZ(y) = const.

この節では常磁性状態だけについて考えるので、磁気秩序は存在せずスピンの 2 乗振幅を表す (4.22) 式の左辺の最後の項 σ2/4は存在せず、磁化率の異方性についても考慮する必要はない。つまり、 y = yzが成り立つ。したがって、この節では逆磁化率を表すパラメータ y は、温度 t = T /T0だ けについての関数と考えられる。上の式の右辺の第 1 項と第 2 項はそれぞれ熱ゆらぎと量子ゆらぎ の成分を表す。さらにこのそれぞれの成分に対し 、(3.9) と (3.15) を用いて書き換えを行うことに より次の式が得られる。 ∆s2 = A(y, t)− B(y) (5.1) A(y, t) = Z 1 0 xd−1+αdx · ln u− 1 2u − ψ(u) ¸ , u = x(y + x2)/t ∆s2 TA 3T0dStot­SZ(0)] ここで d は空間次元を表し 、α の値は強磁性か反強磁性かによって 1 または 0 の値をとる。関数 B(y)は量子ゆらぎの振幅の y 依存性を表し 、3 次元強磁性体の場合は B(y) = czyで与えられる。 保存する全スピン振幅の値と y = 0 とおいた場合の量子ゆらぎの振幅の差として ∆s2 を定義し た。臨界温度 t = tc (y = 0)における保存則を考えると、この値は有限温度で何らかの磁気秩序が 発生する場合、臨界温度における熱ゆらぎの振幅と次の関係がある。 ∆s2= TA 3T0d ­ ST(0, tc) = A(0, tc) (5.2) この場合、∆s2 の値は必ず正になる。一方、∆s2< 0が成り立つ場合、温度をいくら下げても磁 気秩序が発生することはない。温度を下げることにより、熱ゆらぎの振幅はいずれゼロになる。し かしながら、温度の低下に伴う磁気的相関距離の発達により y の値は減少する。したがって、量 子ゆらぎの振幅は逆に増大する。∆s2が負の場合に y の値が磁気秩序の発生を意味する 0 の値ま で減少することは不可能である。もし y = 0 を仮定してしまうと、量子ゆらぎの振幅の増大がゆ らぎの全振幅の値、­S2® tot、を越えてしまい矛盾する。つまり常に y > 0 が成り立ち、磁化率の 値が発散することはない。 磁化率の温度依存性は (5.1) 式を利用し 、y を温度 t の関数として解くことによって得られる。 特にこの式において、量子スピンゆらぎの存在によって現れる特徴として以下のようなものが挙げ られる。 • ∆s2 の値が小さな値に抑えらること。 • (5.1) の最初の式の右辺の第 2 項に量子ゆらぎの効果を表す y 依存性 B(y) が現れること。 これらの効果により、磁化率は絶縁体磁性の場合とは異なる温度依存性を示す可能性がある。磁化 率の温度依存性の生ずる原因は、温度によって増大する熱ゆらぎの振幅を、スピンゆらぎのスペク トルの分布幅が振幅を一定に保つように変化するためであると考えられる。

(2)

特に d > 2− α が成り立つとき量子ゆらぎの寄与 B(y) が y に比例し、(5.1) 式は次のように表 すことができる。 ∆s2 = Z 1 0 xd−1+αdx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ − czy cz = 1 d− 2 + α ただし 、この czの値が得られるのは、スピンゆらぎの波数、および周波数空間におけるスペクト ルについてローレンツ型の分布を仮定した場合である。

5.1

強磁性、反強磁性の違いや空間次元の及ぼす影響

すでに第 3 節で求められた熱ゆらぎの振幅と量子ゆらぎの振幅の y および t 依存性についての 結果を利用して、一般的な y の温度依存性のふるまいについてついてこれから詳しく述べていく が 、その前に、y の t-依存性が ∆s2の符号により大きく 2 通りに分けて考えることができること に注意しておく。 ∆s2> 0 の場合 この場合で空間次元について d > 2 が成り立つとき、臨界温度 T c 以下の温度 で磁気的な秩序が発生する。系が最初に常磁性状態にあるとき、温度の低下に伴い y の値が減少 し 、臨界温度 Tc で磁化率が発散し y = 0 となる。スピンゆらぎのスペクトル幅 T0を用いて規格 化した臨界温度 tc= Tc/T0の値は弱い強磁性体、反強磁性体の場合には 1 に比べて充分小さな値 をもつ。その場合には、臨界熱ゆらぎの振幅に関する (3.12) 式を (5.2) に代入し 、tc と ∆s2の値 を結びつける次の関係が得られる。 ∆s2= 1 2 + αCνt ν c = TA 3T0d ­ S2i®T(0, tc), ν = (d + α)/(2 + α) (5.3) さらに、第 4 節で導かれた臨界温度における熱ゆらぎの振幅と基底状態における飽和磁化の値と を結び付ける関係を用いて、臨界温度 tc と σs2との関係 (4.17) が得られる。 σ2 s 4 = 5T0d (2 + α)TA Cνtνc (5.4) d≤ 2 の場合は、有限温度では y の値は 0 になることはないが、ある温度 t∗ 以下で y はきわめ て小さな値をもち、磁気相関長が発達した状態が実現される。充分低温で y の t 依存性は以下の 式を y について解くことにより求めることができる。 ∆s2=                      t 4ln(t 2/3/y)− y, 2次元強磁性のとき t 4ln(t 2/3/y)y 2[ln(1/y) + 1], 2次元反強磁性のとき πt 2y1/2 y 2[ln(1/y) + 1], 1次元強磁性のとき πt 2y1/2 − πy 1/2, 1次元反強磁性のとき

(3)

∆s2< 0の場合 パラメータ ∆s2 の値は、臨界熱ゆらぎの振幅に関係する値であるとしたが 、文 字通りの意味からすると、これが負の値をとるというのは少し奇異な印象を与えるかも知れない。 この場合の熱ゆらぎの振幅は 、y = 0 とおいて零点ゆらぎの振幅計算したときの値を表し 、実際 には以下の説明でもわかるように y は常に正の値をとるため、熱ゆらぎの振幅が負の値にはなら ない。 この ∆s2< 0の状況が実現している場合、低温まですべての温度範囲にわたり磁気秩序状態が 発生することはなく、y の値は常に正の値をもつ。温度の減少と共に y の値は減少するが、充分低 い温度でその値はある一定の値 y0> 0に近づく。熱ゆらぎの振幅が温度と共に減少し 、基底状態 でゼロとなるので、基底状態における y(t) の値 y0= y(0)は、スピンの零点ゆらぎの y 依存性を 反映して決まり、∆s2 の値と次のように関係する。 |∆s2| =            y0 d− 2 + α, d > 2− α のとき y0 2[ln(1/y0) + 1], 2次元反強磁性, 1 次元強磁性のとき πy1/20 , 1次元反強磁性のとき 空間次元が 3 次元と 2 次元の場合の磁化率の逆数 y の温度依存性について、以下でさらに詳し く調べてみよう。

5.2

3

次元の弱い強磁性、反強磁性の場合

3 次元で強い強磁性的な磁気相関を示す系における磁化率の逆数の温度依存性を求めるには 、 d = 3, α = 1とおいた場合の (5.1)、つまり次の方程式を用い、y を温度の関数として解けばよい。 ∆s2 = Z 1 0 x3dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ − czy (5.5) u = x(y + x2)/t 反強磁性の場合は α = 0 とおけばよい。この節の最初に述べたように ∆s2が正の時だけ強磁性が 発生する。この値が負の場合でも、磁性の発生についての臨界点近傍に系が位置し 、|∆s2| ¿ 1 が 成り立つ場合には、その磁化率は磁性体と同様な温度依存性を示す。このような状況にある系を、 「交換増強された常磁性体」と呼ぶこともある。以下では ∆s2 符号に応じた 2 つの場合のそれぞ れについて、逆磁化率 y の 温度依存性について説明する。 5.2.1 強磁性が発生する場合 3次元の強磁性相関の存在する系で ∆s2> 0が成り立つ場合には、ある臨界温度 t c 以下の温度 で強磁性が発生する。また、臨界温度 t = tcで磁化率は発散し 、y = 0 が成り立つ。したがって、 (5.5)から臨界温度における熱ゆらぎの振幅についての次の関係が得られる。 A(0, tc) = Z 1 0 dxx3[ln uc− 1/2uc− ψ(uc)] = ∆s2, uc= x3/tc (5.6) すでに前節で説明し たように 、熱ゆらぎ の振幅と自発磁気モーメントの間には (4.17) の関係、 ∆s2= A(0, t c) = czy10σ2sが成り立つ。上の (5.6) 式は、キュリー温度 tc = Tc/T0 と基底状態の

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自発磁化 σsとの間に成り立つ関係を与えるものである。弱い遍歴電子強磁性体で tc ¿ 1 が成り 立つ場合には、(3.12) を利用することにより上の関係は次のように表すこともできる。 1 3C4/3t 4/3 c ' ∆s 2= c zy10σ2s, y10= TA 60czT0 つまり、σ2sと Tc とを結びつける次の関係式が得られる。 σ2s= 20C4/3T0 TA µ Tc T0 ¶4/3 (5.7) 式 (5.5) に (5.6) の関係を代入すると、磁化率の逆数 y の温度依存性を求めるための式が次のよ うに求められる。 A(y, t)− czy = A(0, tc) (5.8) 磁化率の温度依存性を求めるには、温度を決めたとき上の式を満たす解 y を数値的に求める必要が ある。上の式を解いて得られる y は一般に 2 つのパラメータ t と tc の関数となるが、t = T /T0= tcT /Tc が成り立つので、y を T /Tc の関数と考えた場合の関数形は唯一のパラメータ tcにのみ依 存して決まる。数値的に求めた温度依存性の例を参考のため図 10 に示す。 磁気秩序状態で発生する自発磁化の温度依存性については次の節で取り上げるが、常磁性状態で も自発磁化に相当する値を次のように定義することができる。 y(t) = y1(t)σ0 2(t) (5.9) このように定義すると、常磁性状態の磁化曲線を強磁性状態の場合と似た形に表すことができる。 y = y1(t)[σ2+ σ∗0 2(t)] 臨界温度近傍の磁化率の温度依存性 臨界温度近傍については 、この領域で成り立つ熱ゆらぎの 振幅の温度依存性と y 依存性に関する (3.13) 式( または、表 4)、つまり次の式を利用し 、磁化 率のより詳しい温度依存性を調べることができる。 Z 1 0 x3dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ '1 3C4/3t 4/3πtc 4 y (5.10) 式 (5.10) を (5.8) に代入して得られる式に現れる熱ゆらぎによる √y の依存性に比べ、量子ゆら ぎの寄与による小さな y に比例する寄与が無視でき、 臨界領域における y の t 依存性として次の 式が得られる。 πtc 4 y ∼C4/3 3 (t 4/3− t4/3 c ) つまり、この領域で y が (T /Tc− 1)2に比例する次の結果が得られる。また、その比例係数は tc の値だけに依存して決まる。 y(t)' ( 4C4/3t 1/3 c T Tc4/3 − 1 #)2 ' ( 16C4/3t 1/3 c µ T Tc − 1 ¶)2 = µ 16C4/3 ¶2 t2/3c µ T Tc − 1 ¶2 (5.11) 前節の (4.27) 式を y1(t)の温度依存性の結果を利用すれば 、自発磁化に対応する σ∗02(t)の温度依 存性は次のように表される。 σ∗02(t) =y0(t) y1(t) ' C4/3t 4/3 c 6czy10 "µ T Tc4/3 − 1 # ' 2C4/3t 4/3 c 9czy10 µ T Tc − 1 ¶ (5.12) この値の臨界温度近傍の温度依存性は (T /Tc− 1) に比例する。

(5)

5.2.2 強磁性の発生寸前の交換増強された常磁性体 この節の最初に説明したように 、∆s2が負の場合、温度をいくら下げても強磁性は発生せず y の値は常に正である。温度の低下に伴い y の値は減少し 、低温の極限で (5.5) 式の右辺の第 1 項 の熱ゆらぎの振幅がゼロとなることからその値は y0=|∆s2|/czとなることがわかる。ここでは強 磁性体の場合の取り扱いを参考に 、交換増強された常磁性体の磁化率の温度依存性について説明 する。 臨界温度、自発磁化に対応するパラメータ 強磁性は発生しないものの、系が磁気不安定点にどの 程度近いかを特徴づける量として強磁性体の規格化された臨界温度 tc= Tc/T0に当たるパラメー タ t∗c を次の式を用いて導入できる。 A(0, t∗c) =|∆s2| = czy0 (5.13) 強磁性体の場合に成り立つ A(0, tc) = czy10σs2の関係を考慮すると、この場合にも自発磁化に当た るパラメー タとして σp の値を次のように定義すると都合がよい。 y0= y(0) = y10σp2, y10= TA 60czT0 (5.14) この定義を用いると、強磁性体の磁化曲線 (4.18) と交換増強された常磁性体の 強磁性体の場合 : y(σ, 0) = y102− σs2), 常磁性体の場合 : y(σ, 0) = y102+ σp2), t∗c ¿ 1 が成り立つ場合の熱ゆらぎの振幅 A(0, t∗c)が t∗c4/3 に比例するという結果を利用すれば 、 Tc∗= t∗cT0と σp の間に次の関係の成り立つことがわかる。 σp2=20C4/3T0 TA µ Tc T0 ¶4/3 (5.15) ここで定義した (5.13) を (5.5) に代入すれば 、磁化率の逆数 y(t) の温度依存性を求める式は次の ように表される。 A(y, t)− czy =−A(0, t∗c) (5.16) 強磁性の場合と同様に、y を T /Tc∗の関数と考えたときの関数形は唯一のパラメータ t∗c だけで決 まる。 低温の極限( t→ 0)で u が十分大きな値をもつときのダイガンマ関数 ψ(u) についての漸近的 なふるまい、 ln u− 1 2u− ψ(u) ∼ 1 12u2, (1¿ u) を (5.5) 式の被積分関数に代入することにより、熱ゆらぎの振幅の温度依存性は以下に示すように t2に比例することがわかる。 Z 1 0 x3dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ ' Z 1 0 dx x 3 12u2 = t2 12 Z 1 0 dx x (y + x2)2 = t 2 24y(1 + y), u = x(y + x 2)/t この結果を用いると、低温での y の t 依存性は次のように与えられる。 y(t)' y0+ t2 24czy0 = y0+ (t∗c)2/3 8C4/3 µ T Tc ¶2 この式からわかるように y の低温での t2-依存性の係数は、系が磁気的不安定点に近づくにつれて、 1/y0に比例して増大する。

(6)

磁化率の Curie-Weiss 則 磁化率の温度依存性を、臨界温度近傍や低温など の限られた温度領 域を除く任意の温度 t に対して求めるには、(5.8) や (5.16) を数値的に解いて y の値を t の関数と して求める必要がある。このような計算を実際に実行して解を求めてみると、比較的広い温度範囲 で y が t に比例するように見える領域が存在することがわかる。つまり、これらの式から磁化率 のキュリー・ワイス則にしたがうような温度依存性が導かれる。強磁性体の場合について数値的に 求めた y の温度依存性の例を、参考のため図 10 に示す。交換増強された常磁性体の場合の計算例 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

T/T

c 0.00 0.02 0.04

y(t)

T

c

/T

0

= 0.10

0.05

0.01

図 10: 強磁性体の磁化率の逆数 y の温度依存性 は図 11 に示す。式 (5.8) や (5.16) を数値的に解く方法については Appendix A.4 に説明がある。 5.2.3 反強磁性秩序が発生する場合 強い反強磁性的な磁気相関の存在する 3 次元系の場合、規格化した磁化率の反強磁性成分 χ(Q) の逆数を表す y の温度依存性を決める方程式は、(5.1) 式で d = 3, α = 0 と置くことにより次の ように表される。 ∆s2 = A(y, t)− czy (5.17) A(y, t) = Z 1 0 x2dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ , u = (y + x2)/t 強磁性の場合との違いは、スピンゆらぎの周波数空間におけるスペクトル幅の波数依存性の違いを 反映し 、u の x 依存性が異なっている。この影響により、上の被積分関数に現れる x のべき乗も x3から x2に変更されている。反強磁性秩序が発生するのは、∆s2が正の値のときである。この 場合をここで説明し 、負の値をもつ場合についてはこの後でのべる。 反強磁性が発生する場合、温度を下げるとともに y の値は減少し 、臨界温度(ネール温度)TN で磁化率の反強磁性成分が発散し y = 0 となる。それ以下の温度では、系には自発的に有限の値 の反強磁性モーメントが現れる。この ∆s2の値は、強磁性の場合と同様に臨界温度における熱ゆ

(7)

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

T/T

c* 0.00 0.02 0.04 0.06

y(t)

T

c*

/T

0

= 0.10

0.05

0.01

図 11: 交換増強された常磁性体の磁化率の逆数 y の温度依存性 らぎの振幅と次の関係がある。 A(0, tN) = Z 1 0 dxx2[ln uc− 1/2uc− ψ(uc)] = ∆s2, uc= x2/tN (5.18) 温度スケール T0で規格化したネール温度 tN= TN/T0について、tN ¿ 1 が成り立つ弱い反強磁 性体の場合には、臨界熱ゆらぎの振幅についての (3.13) を利用して上の式を次のように表すこと もできる。 1 2C3/2t 3/2 N ' ∆s 2 (5.19) 強磁性の場合とこの関係が少し異なるのは、(5.17) の熱ゆらぎの振幅についての被積分関数に現れ る u の x 依存性の違いなどによるものである。 さらに (4.17) の関係を用いて σ2s 4 = 15T0 2TA C3/2t 3/2 N (5.20) の関係が導かれる。 磁化率の反強磁性成分に対する Curie-Weiss 則 常磁性状態の任意の温度 T について (5.17) を 解いて y の t 依存性を求めためには数値的な方法に頼らざ るを得ない。数値計算の結果から、広 い温度範囲で逆磁化率を表す y が t = T /T0にほぼ比例するような温度依存性を示すことがわかっ ている。つまり、磁化率の反強磁性成分 Q についての Curie-Weiss 則にしたがう温度依存性が得 られることを意味する。ただし 、弱い反強磁性体の場合は一様な磁場をかけて測定した磁化率の強 磁性成分の値は一般に小さく、またその温度依存性も小さいことが知られている。したがって、磁 化測定などの手段を用いて反強磁性成分の温度依存性を実験的に知ることは難しい。(5.17) 式の数 値的な取り扱い方については Appendix A.4 を参照。

(8)

臨界温度近傍の温度依存性 臨界温度近傍 (t∼ tN)で y∼ 0 が成り立つ場合、逆磁化率の y の温 度依存性について詳しく調べることができる。強磁性の場合と同様に、この近傍で熱ゆらぎの振幅 の温度依存性と y 依存性は次のように表すことができる。 Z 1 0 x2dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ '1 2C3/2t 3/2πtN 4 y (5.21) これを、(5.17) に代入し 、y¿ 1 のとき y に比例する項が上の √y 依存性に比べ無視できること に注意すれば 、y の t 依存性として次の結果が得られる。 πtN 4 y∼ C3/2 2 (t 3/2− t3/2 N ) これをさらに次のように書き換えることができる。 y' µ2C 3/2 π ¶2 tNT TN3/2 − 1 #2 ' µ3C 3/2 π ¶2 tN µ T TN − 1 ¶2 (5.22) したがって、臨界温度近傍で磁化率 χ(Q) の逆数は (T /TN− 1)2に比例する温度依存性を示す。 5.2.4 反強磁性発生寸前の常磁性体 反強磁性が発生しない ∆s2< 0 の場合でも、|∆s2| ¿ 1 が成り立つ弱い反強磁の発現寸前の常 磁性状態では、磁化率の反強磁性成分は大きな値を持ち、温度依存性を示す。強磁性の場合と同様 に、この場合も臨界温度にどの程度近いかを表す温度 TN∗ = t∗NT0と自発磁化に相当するモーメン ト σpを次のように定義することができる。 A(0, t∗N) =|∆s2| = czy0, σp2= y0 y10 (5.23)

ただし 、y0= y(0)は基底状態における磁化率の反強磁性成分の値を表し 、y10は、自由エネルギー

を反強磁性モーメントで展開した 4 次の項の係数を規格化した値である。 磁化率の温度依存性 磁化率の温度依存性は、(5.23) の定義を (5.17) に代入した次の式を利用し て求められる。 A(y, t)− czy =−A(0, t∗N) (5.24) 任意の温度でこの式の解を求めるには数値的な方法に頼らざるを得ない。数値計算では、広い温度 範囲で y が t に比例する結果が得られている。つまり、反強磁性磁化率はキュリー・ワイス則に 従う温度依存性を示す。 式 (5.24) からも基底状態の磁化率の値が (5.23) の関係を満足することがわかる。以下に示す ように 、この近傍の低温領域で y は t2 に比例する温度依存性を示す。熱ゆらぎの振幅に関する (5.17) 式の被積分関数に現れる u は低温で大きな値をとる。ダ イガンマ関数の漸近展開を利用す れば 、低温極限での熱ゆらぎの振幅が次のように表される。 Z 1 0 x2dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ ' Z 1 0 dx x 2 12u2 = t2 12 Z 1 0 dx x 2 (y + x2)2 = t 2 12 µ −∂ ∂y ¶ Z 1 0 dx x 2 y + x2 = t 2 24 · 1 ytan−1√1 y 1 1 + y ¸ ' πt2 48√y

(9)

この結果を (5.24) に代入すれば 、低温極限の y の温度依存性が次のように求まる。 y' y0+ πt2 48cz√y0 = y0+ 2 48pczC3/2 t∗N5/4 µ T TN ¶2

5.3

2

次元の弱い強磁性、反強磁性

2次元の遍歴磁性体の場合、すでに第 3 節で示したように有限温度 (t > 0) では y→ 0 の極限で 熱ゆらぎの振幅が log y−1したがって、発散する。有限温度で磁気的秩序が発生することはない。 温度 t = 0 の基底状態を除けば 、常に y > が成り立つ。これまでの説明と同様に、一般の温度で 磁化率の温度依存性を求めるには、数値計算に頼らざるを得ない。この節では、特に低温における y の温度依存性について詳しく調べてみよう。 5.3.1 強磁性相関の強い系 この場合の y の t 依存性は次の方程式を解くことによって求めることができる。 ∆s2 = Z 1 0 x2dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ − czy (5.25) u = x(y + x2)/t スピンゆらぎのスペクトルに対してローレンツ型分布を仮定した場合、cz= 1が成り立つ。 有限 の温度 (t > 0) では、常に y > 0 が成り立つが、∆s2の符号によって低温における y の温度依存性 に多少違いがある。符合が正負のそれぞれの場合について以下に述べる。高温領域において (5.25) を数値的に解いた結果によれば 、広い温度範囲でキュリー・ワイス則に従う依存性の得られること が知られている。 ∆s2> 0 の場合 基底状態 t = 0 を除けば y は有限の値をとるが 、ある温度以下でその値は極め て微小なものとなり y¿ t2/3が成り立つ。この場合の熱ゆらぎの振幅の y 依存性を代入すると、 上の (5.25) 式は次のように表される。 ∆s2= t 4ln µ t2/3 y− czy この式を解くと y についてエネルギーギャップの存在を示唆するような温度依存性が得られる。エ ネルギーギャップに相当する温度を tc∗= Tc∗/T0 を次のように定義すると、 tc∗= 2∆s2 その温度依存性は次のように表される。 y' t3/2exp(−2tc∗/t) つまり、磁化率の逆数 y は tc∗ より低い温度で指数関数的にその値が急激に減少し 、ほとんどゼ ロに近い値になる。これより低い温度で、系には極めて強い強磁性的な相関が存在するが、有限温 度では秩序が発生することはない。ただし 、層状化合物などのように実際には 3 次元系で面間と 面内の磁気的な相互作用の異方性のために擬 2 次元系と見なされる場合には、面内の相関距離の 発達により最終的には 3 次元的な秩序が生ずると考えられる。その場合には 、臨界温度近傍で 2 次元的なふるまいから 3 次元的なものへの移り変りが観測される場合もある (Takahashi 1997)。

(10)

∆s2 < 0 の場合 温度の減少に伴い y の値は減少を示すが 、この場合 y は低温である有限の y0=|∆s2|/czの値に留まるだけである。この点は 3 次元の場合と類似している。この場合の熱ゆ らぎの振幅の温度依存性は次のように与えられる。 Z 1 0 x2dx · ln u− 1 2u− ψ(u) ¸ ' Z 1 0 x2dx 1 12u2 = t 2 24 · 1 y√ytan −11 y + 1 1 + y ¸ ' πt2 48y√y, (y¿ 1) y¿ 1 が成り立つ場合には、基底状態近傍の y の温度依存性は次の式から求められる。 czy = czy0+ πt2 48y√y 低温極限では y ∼ y0が成り立つことから、低温領域の y の温度依存性は 3 次元系の場合と同様 に T2に比例し 、次のように与えられる。 y = y0+ πt2 48czy0√y0 5.3.2 反強磁性相関の強い系 反強磁性相関の強い系の場合には、零点ゆらぎの振幅の y 依存性が強磁性の場合と異なるため、 磁化率の反強磁性成分の逆数 y の温度依存性は強磁性の (5.25) 式とは少し 異なり次の方程式に 従う。 ∆s2 = t 2[φ(y/t)− φ((1 + y)/t)] − 1 2y · ln µ 1 y ¶ + 1 ¸ (5.26) φ(u) = Z 1 0 xdx · ln u− 1 2u − ψ(u) ¸ = −(u − 1/2) ln u + u + ln Γ(u) − ln√2π, u = (y + x2)/t この式を数値的に解いて得られる磁化率も、低温領域を除けばキュリー・ワイス則に従う温度変化 を示すことがすでに知られている。一方、低温領域における熱ゆらぎの振幅は、(5.26) に表れる関 数 φ(u) の u に関する異なる極限に関係がある。それぞれの極限での関数の u 依存性は次のよう に与えられる。 φ(u)'      1 2ln u, u¿ 1 1 12u, uÀ 1 (5.27) 以下にそれぞれの場合の温度依存性についてより詳しく説明する。 ∆s2< 0 の場合 この場合、温度の低下とともに y の値は減少するものの、低温の極限でもその 値はある有限の値 y0に留まる。したがって、この極限では u = (y + x2)/tÀ 1 が成り立つ。低 温極限において 5.26 式の熱ゆらぎの振幅が無視できるので、y0 と ∆s2の値との関係は次の式を 解いて得られる。 y0 2 · ln µ 1 y0 ¶ + 1 ¸ =−∆s2

(11)

また、この定義を用いて (5.26) は次のように表すことができる。 y · ln µ 1 y ¶ + 1 ¸ − y0 · ln µ 1 y0 ¶ + 1 ¸ = t [φ(y/t)− φ((1 + y)/t)] (5.28) 低温極限において成り立つ、(5.27) の uÀ 1 の場合の関数 φ(u) の u 依存性から、y ' y0が成り 立つ場合にこの式は次のように近似できる。 y · ln µ 1 y ¶ + 1 ¸ − y0 · ln µ 1 y0 ¶ + 1 ¸ ' ln µ 1 y0 ¶ (y− y0)' t2 12y0 つまり低温極限における次の温度依存性が導かれる。 y = y0+ t2 12y0ln(1/y0) +· · · 強磁性の場合と同様な t2に比例する温度依存性が現れるが、その温度係数の分母に ln(1/y 0)の因 子が現れる違いがある。 ∆s2> 0 の場合 強磁性の場合と同様に、この場合の y の値は低温領域で有限の値であっても極 めて微小な値となり y/t¿ 1 が成り立つ。したがって関数 φ(u) の u ¿ 1 の場合の u 依存性を反 映し y の温度依存性は次の式に従う。 ∆s2= t 4ln µ t y1 2y · ln µ 1 y ¶ + 1 ¸ 量子ゆらぎの振幅から生ずる y 依存性はこの領域では無視できる。この式から得られる y はエネ ルギーギャップの存在を示唆するような温度依存性を示す。そのエネルギーギャップに対応する温 度 t∗N = TN∗/T0を以下のように定義することができる。 t∗N = 2∆s2= y0 · ln µ 1 y0 ¶ + 1 ¸ この定義を用いて y の温度依存性は強磁性の場合と同様な次の式で与えられる。 y' te−2t∗N/t つまり、t < t∗N の温度領域で系には強い反強磁性的な相関が発達する。

5.4

磁化率の温度依存性についてのスケーリング関係式

3次元強磁性体の磁化率の温度依存性を求めるための方程式 (5.8) や、臨界温度 Tc と基底状態 の自発モーメントの間の関係 (5.16) を用いて導かれる興味ある結果についてここで説明する。ま ずその前に、(5.8) が SCR 理論によって得られる式と類似しているように見えても、両者には大き な違いがあることに注意が必要である。それは、この式に現れるパラメータ czのもつ意味に関係 がある。SCR 理論では、異なる波数をもつスピンゆらぎモード 間に働く非線型の結合エネルギー が及ぼす 2 次の線形項の係数への繰り込み効果により、磁化率の温度依存性に (5.8) の y に比例 する項が現れると考える。したがって、この係数 czはモード 間の結合の強さ、つまり磁化曲線を 特徴づける自由エネルギーの磁化による 4 次の展開係数によって決まる。また、この値はバンド 計 算によって求まる状態密度曲線の形状によって決まるとされている。実験的には磁化曲線に関する

(12)

データの解析( Arrott プロットの勾配)によって求められる理論の重要なパラメータである。し たがって、スピンゆらぎのスペクトル分布の形状とは全く無関係にその値が決まると考えられる。 一方、これまでの説明からわかるように、我々は式 (5.8) の y に比例する項のパラメータ czは、 量子ゆらぎの振幅の y 依存性を反映したものであり、したがってスピンゆらぎのスペクトルの周 波数、および波数空間における分布の様子によって決まると考えている。つまり、この値は全く自 由にいろいろな値を取り得るものではなく、ゆらぎのスペクトルと密接な関係があり、その取り得 る値にも制約がある。したがって、磁化曲線を表すパラメータは、基底状態も含め、予め仮定すべ きものではなく、むしろ後から導かれる性質であることがすでに導かれている。 このように2つの理論で、同じ項についての解釈が全く異なる。もし 、我々の考えが正しいとす ると、式 (5.8) には興味ある性質が含まれていることがわかる。それは、磁化率の温度依存性に関 するスケーリングである。式 (5.8) には、個々の磁性体を特徴づけるようなパラメータが一切含ま れていないことに着目すべきである。この式は 、規格化された逆磁化率 y と規格化された温度 t の間に成り立つ関係を与えるものであるが、物質に依らず全く同一の形をしているという特徴があ る。系の空間次元や物質の示す磁性が強磁性、反強磁性かの違いによって (5.8) 式には多少の違い があるものの、それ以外に関しては全く同じ形をしている。つまり、磁性体によってスピンゆらぎ のスペクトルを特徴づけるパラメータ T0や TAの値に違いがあっても、パラメータ TAの値を用 いてスケールした磁化率の観測値を T0の値でスケールした温度 t に対してプロットすると、その 温度依存性は磁性体によらずほぼ同じ普遍的な曲線上に分布することをこの式は意味する。この性 質は別な形に言い換えることも可能である。 5.4.1 pef f/ps vs tc 特に弱い遍歴強磁性体と呼ばれる物質は、キュリー温度より上の温度領域で観測される磁化率の Curie-Weiss 則のふるまいを利用して得られる Curie 定数から求めた有効磁気モーメント pef f値と、低温極限での自発磁化 psの値には大きな違いがあり、その比の値 pef f/ps(それぞれ σef f, σsに対応する) は、1 に比べ大きな値をもつことが知られている。また、これらの磁性体は比較的 低いキュリー温度 Tc をもつものが多い。一方、ハイゼンベルグモデルで記述される磁性体は、有 効モーメント pef f の値から、pc(pc+ 2) = p2ef f の関係を用いて得られた pc の値は、低温での飽 和磁化の値から求めた psの値にほぼ等しい。ただし 、キュリー温度の値はいろいろである。 ハイゼンベルグモデルで記述される磁性体と遍歴電子磁性体の磁気的な性質の違いを示すため、 (Rhodes & Wohlfarth 1963)は、いろいろな磁性体について得られた pcと psの比の値 pc/psを、

Tc の関数としてプロットした結果を図示した。これを、Rhodes-Wohlfarth プロットと呼ぶ。この 図の中でハイゼンベルグモデルで記述される磁性体は、Tc の値の違いにより pc/ps= 1の水平な 直線上に分布する。一方、遍歴磁性体は比較的低い Tc の値で、モーメントの比が pc/ps> 1を満 たす領域に分布する様子が明らかになる。つまり、このようなプロットをすることにより、これら の磁性体の質的な違いが明瞭になる。この図でこれら 2 種類の磁性体は明らかに異なる分布を示す ことがわかる。 このようなプロットをすれば 、確に分布の様子の違いをはっきりさせることができるかも知れな いが、それ以上の深い意味があるわけではない。また、このようなプロットをする根拠についても 何らかの理論的な裏付けがあるわけでもない。これに対し 、Takahashi は理論的な根拠に基づき、 Rhodes-Wohlfarthプロットとは異なる新しいプロットのしかたを提唱している。それによれば 、 pc/psの比の代わりに pef f/psの比を、Tc ではなく、tc= Tc/T0 の比に対してプロットすべきで

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あるというものである。こちらのプロットの方が妥当であることの保証は、すぐ 前で述べた磁化率 のスケーリングによって与えられる。以下に、(Takahashi 1986) の考え方について説明する。 まず、磁化率 χ が Curie-Weiss 則 にしたがうことは、その温度依存性が次のように表されるこ とを意味する。 (gµB)2χ = N0µ2eff2 3(T− Tc) 一方、パラメータ y の定義 χ = N0/(2TAy)を用いると、Curie-Weiss 則 を y と t の関係として 次の形に表すことができる。 χ N0 = 1 2TAy = µ 2 2 eff 3(gµB)2(T− Tc) = σ 2 eff 12T0(t− tc) ここで、(5.7) 式による σ2 s と tcとの関係を用いると、上の関係はさらに次のように表すことがで きる。 σ2eff = 12T0(t− tc) 2TAy = 6σ 2 s 4 (2 + α) 15Cνtνc µ t− tc yeff/σs)2 2 + α 10Cν 1 (dy/dt) 1 c 式 (5.16) を解いて得られる y が 、Curie-Weiss 則にしたがうような温度依存性、つまり広い温度 範囲で (t− tc)に比例するような t-依存性を示すのであれば 、その比例係数は個々の物質などには 無関係の定数になると考えられる。3 次元強磁性の場合で tc¿ 1 が成り立つ場合に、この式を数 値的に解いてこの勾配を求めると、その値として dy/dt∼ 0.15 が得られる。さらにこの値を上の 式に代入すると (α = 1, ν = 4/3)、モーメントの比について次の結果が得られる。 σeff/σs' 1.4 t−2/3c (5.29) つまり、σeff/σsと tc= Tc/T0の間に成り立つ関係が導かれる。 上の (5.29) の関係が実際に成り立つかど うかを実験的に確かめることができる。図 12 にパラメー タ T0の値がすでに知られている化合物、ZrZn2(Kontani, et al. 1975), MnSi(Yasuoka, et al. 1978),

Ni3Al(de Boer, et al. 1969), Sc3In(Hioki & Masuda 1977), Y(Co,Al)2(Yoshimura, et al. 1987),

(Fe,Co)Si(Shimizu et al. 1990), YNix(Nakabayashi, et al. 1992)の σef f/σsの値を Tc/T0 の値に

対してプロットした結果を示した。T0 の値は、中性子散乱や NMR の緩和時間の温度依存性、磁 化測定によって得られた ¯F1 の値を用いて得られたものである。図中の実線は (5.16) 式を数値的 に解いて得られた結果を表す。図を見ればわかるように 、いろいろな磁性体を表す印が理論で求 めた曲線の近傍だけに分布することがよくわかる。また、(Nakabayashi et al. 1992) にしたがっ 化合物 σs σeff Tc(K) T0(K) σeff/σs Tc/T0 MnSi 0.4 2.25 30 231 5.6 0.194 Ni3Al 0.077 1.3 41.5 2760 16.9 0.015 Sc3In 0.045 1.3 5.5 479 28.9 0.0115 ZrZn2 0.12 1.44 21.3 1390 12.0 0.015 表 9: 実験から得られた磁化率についてのパラメータ

(14)

0 0.05 0.1 0.15

T

c

/T

0

0

20

40

60

80

σeff s Y(CoAl)2 (FeCo)Si YNi MnSi ZrZn2 Ni3Al Sc3In 図 12: σef f/σs- Tc/T0プロット

て YNi 化合物について、同じデータを 2 つの異なる方法( Rhodes-Wohlfarth と Takahashi)で プロットしたものが図 13 に比較されている。図中の黒丸は 、異なる組成 x, y の 化合物を表す。 Rhodes-Wohlfarthプロットでは広くばらばらに分散しているように見える点が 、Takahashi の提 案したプロットでは秩序をもって分布する傾向がはっきりわかる。 0 100 200 Tc 0 2 4 6 8 pC /ps 0 0.05 0.1 0.15 Tc /T0 0 10 20 peff /ps 図 13: YxNiyで求められた pef f/psと Tc/T0 の関係 モーメントの比が (Tc/T0)−2/3に比例するという (5.29) の関係についても Y(Co,Al)2についての 実験結果を用いて確かめることができる。磁化測定によって得られた (pef f/ps)2の値を (T0/Tc)4/3 の値に対してプロットした結果が図 14 に示されている。ただし 、ここで用いた T0は磁化測定に よって得られた ¯F1 の値を利用して間接的に得られた値が用いられている。いま示した磁化率の温 度依存性を特徴づけるパラメータに関する3つの図は、すべて pef f/psと Tc/T0の2つの比の間 に相関関係があることを強く示唆するものである。つまり、磁化率の温度依存性についてスケーリ

(15)

0.0 1000.0 2000.0 (T0/Tc) 4/3 0.0 2000.0 4000.0 (peff /ps ) 2 Y(Co−Al)2 図 14: Y(CoAl)2における pef f/psと Tc/T0の関係 ング関係が成り立つことを支持する。したがって、(5.8) 式に現れる係数 czは全く独立なパラメー タと考えることはできない。 Rhodes-Wohlfarthプロットと Takahashi によるプロットとを比較した場合、同じデータを用い ながらそれから受ける我々の印象はずいぶん違ったものとなる。Rhodes-Wohlfarth プロットから は、ハイゼンベルグモデルで記述される磁性体と遍歴電子磁性体とが、互いに違ったものであると の印象を受ける。一方、Takahashi によるプロットでは、それらが図中で互いに異なる領域を占め て分布するのではなく、すべてがひとつながりに分布しているように見える。図中で遍歴磁性体を 表す印が分布するが 、その tc ' 1 に当たる一端をハイゼンベルグ磁性体が占めることになる。つ まり両者の違いは質的なものではなく、単に程度の違いであるという感じをもつにすぎない。両者 の間の類似性の方がむしろ浮かび上がる。また、弱い遍歴磁性体とハイゼンベルグ磁性体とを区別 するパラメータは tc= Tc/T0の値の大小である。このひとつのパラメータを媒介とし磁化率の温 度依存性に関する Curie-Weiss 則の示す一般的な傾向を統一的にうまく表現できているというこ とはたいへん興味深い。 磁気モーメントの比と tc の間のこの関係が 、より多くの実験結果によって支持されることがわ かれば 、このプロットを利用してスピンのゆらぎの動的な性質であるスペクトルの周波数分布幅を 表すパラメータ T0 の値を間接的に評価することも可能である。実験的に得られた σeff/σsの値に 対応する tc の値を図から求めれば 、Tc の値を用いて T0 の値が予想できる。 局在スピン系のキュリー・ワイス則 遍歴電子磁性体の tc' 1 が成り立つ極限として、局在モー メント系の磁化率の温度依存性を理解できることを説明した。そこで、この系で一般的に観測され る磁化率の Curie-Weiss 則と保存則との関係についてここでさらに補足する。まず、この系のスピ ン振幅の保存則は次のように表される。 ­ S2i®= S(S + 1) = 3 N2 0 X q Z 0 dω cothβω 2 Imχ(q, ω) (5.30) 臨界温度 Tc 近傍で、この系のスピンゆらぎ スペクトルの周波数に関する原点付近の分布幅は、交 換相互作用 J の値とほぼ同程度の値になるという特徴がある。この値は kTc の値とも同程度の大 きさである。隣合うスピン間に働く交換相互作用のために、各スピンは τ ∼ ¯h/J 程度の時間でそ の向きについて反転を繰り返している。最初にある方向を向いたスピンの方向に関するこの寿命 τ

(16)

は、エネルギーと時間についての不確定性関係によってスピンゆらぎのスペクトルは J 程度の幅 を生ずる。つまり、スピンゆらぎの周波数空間におけるスペクトルはその原点近傍に集中する。こ のような場合、原点付近に kT /ω の周波数依存性をもつ熱ゆらぎの振幅に対して零点ゆらぎの寄 与は十分無視することが可能である。したがって、(5.30) 式で coth(βω/2)∼ 2T/ω の近似を用い ることによって次の関係が得られる。 S(S + 1) = 3kT N2 0 X q Z −∞ π Imχ(q, ω) ω = 3kT N2 0 X q Reχ(q, 0) つまり、磁化率についてのキュリー・ワイス則が導かれる。 Reχ(q, 0)' N0S(S + 1) 3kT 5.4.2 スピンゆらぎスペクト ルの周波数分布幅の温度依存性 遍歴電子磁性体の中で特に弱い強磁性体、反強磁性体の低エネルギーの磁気励起、つまりスピン ゆらぎの周波数空間におけるスペクトルはブ リルアンゾーンの原点や反強磁性モーメントの波数 Qの近傍で、ローレンツ型の分布を示す。その分布幅の波数依存性が次の式で与えられることは すでに第 3 節で述べた。 Γq= Γ0qα(κ2+ q2) = 2πT0xα(y + x2) 温度変化に対し 、このスペクトル幅 Γq は、磁気的相関距離(つまり y の値)の温度依存性を反映 した変化を示す。磁化率が Curie-Weiss 則にしたがう温度依存性を示すとすれば 、スペクトル幅の 温度変化も温度に比例することが上の式からわかる。その温度勾配の値は上の式の温度微分から次 のように表される。 1 ∂Γq ∂T = 2π ∂y ∂t すでに説明したように y は広い温度領域で温度に比例する変化を示すが 、その温度勾配 ∂y/∂t は 物質によらない定数である。つまり Γq/xαを温度 T でプロットして得られる曲線の傾きは、どの 物質であるかによらない定数で与えられる。これが磁化率についてのスケーリングの性質から導か れる結論である。 この理論の結果に関連があると思われる実験が反強磁性的な強い磁気相関が存在すると考えら れている β-Mn と β-Mn0.9Al0.1 について行われている。これらの物質について、反強磁性の波数 Q 近傍で、中性子散乱の実験によって観測されたスピンゆらぎの減衰定数の温度依存性の測定結 果 (Shiga, et al. 1994) を図 15 に示す。図中の黒丸と白丸が 、それぞれの化合物に対して得られた 実験データである。実線は理論による計算結果を表す。データの数は少ないものの、データから予 想される傾きと計算結果はよく一致しているように思われる。したがって、この実験も磁化率のス ケーリングの関係を支持するように見える。 磁化率の温度依存性については従来の SCR 理論とこの節の説明の基になる (5.1) 式との違いは ほんのわずかであるように見えるかも知れない。しかしながら、そのわずかな違いから多くの興味 ある性質が導かれ 、その結果は実験的に支持されている。

(17)

0 100 200 300 T (K) 0 100 200 300 400 500 Γ (K) β−Mn β−Mn0.9Al0.1 図 15: β-Mn における Γ の温度依存性

参考文献

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(18)

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参照

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