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日本甲殻類学会 Short Paper
Carcinological Society of Japan
原著短報
(受付:2018年1月18日,受理:2018年4月10日)
Cancer 27: 37–40 (2018)
飼育個体から得たモロトゲエビ属
2種(コエビ下目:
タラバエビ科)のポストラーバの種判別形質
Differentiating characters of postlarvae of two species of the pandalid shrimp genus Pandalopsis
(Decapoda: Caridea) based on the laboratory-reared materials
日比野麻衣
1・松崎浩二
1・小西光一
2Mai Hibino, Koji Matsuzaki, and Kooichi Konishi
Abstract: Postlarvae of two pandalid species genus
Pan-dalopsis Spence Bate, 1888, P. coccinata Urita, 1941 and P. spinosior Hanamura, Kohno & Sakaji, 2000, which have ab-breviated development, are examined in order to assess diag-nostic characters for species differentiation. It has been found that the postlarvae of the two species are distinguished by 1) the ratio of dactylus length/propodus length, 2) the po-sition of the distalmost flexor spinule of dactylus of the third pereopod, and 3) the color pattern of the pereopods in the first stage. The former two characters are useful in differenti-ating the two species throughout the ontogenetic stages.
Key Words: postlarva, identification, Pandalidae, morphology
はじめに
モ ロ ト ゲ エ ビ 属(Pandalopsis Spence Bate, 1888) は,水産重要種を含み(Holthuis, 1980), 現在20種が 知られている(De Grave & Fransen, 2011).これらの うち,南西大西洋に分布するP. ampla Spence Bate, 1888を除く全ての種が北太平洋に分布し,多くが 深海性である(Komai, 1994; 林,2007).そのなか でも北海道東部から千葉県沖にかけて分布するヒゴ ロモエビP. coccinata Urita, 1941は,漁獲量は少ない ながらも‘ブドウエビ’の通称で高級食材として流 通している.公益財団法人ふくしま海洋科学館で は,2004年から北海道羅臼沖でエビかご漁を通じ て採集したモロトゲエビ属エビ類をヒゴロモエビと し て 展 示 し て い た が,Hibino et al. (2015)により, 展示されていたエビ類はヒゴロモエビではなく,中 千島から新種として記載されたPandalopsis spinosior Hanamura, Kohno & Sakaji, 2000(ラウスブドウエビ) であることが明らかになった.ラウスブドウエビも 羅臼町では水産重要種であり,やはり‘ブドウエ ビ’という名称で流通している.これら2種はいず れも水深300 mを超える漸深海帯に生息し,生体の 入手や飼育は必ずしも容易ではない. 上述のように,モロトゲエビ属は水産重要種を含 み,短縮発生を行う種が大多数であるが(倉田, 1964; Komai & Mizushima, 1993),深海性種が多く, 生体を得るのが難しいなどの理由によりふ化後の幼 体についての生物学的な情報は乏しい.現時点でポ ストラーバの形態学的な記載があるのは,ヒゴロモ
エビ(倉田,1964),モロトゲアカエビP. japonica
Balss, 1914 (Komai & Mizushima, 1993), およびP. dis-par Rathbun, 1902 (Park et al., 2004)の3種のみであ
る.しかも,ヒゴロモエビについては,第1期ポス トラーバが知られるだけである. 本研究では,ふくしま海洋科学館で継続的に飼育 してきたラウスブドウエビのポストラーバと,近縁 1 公益財団法人ふくしま海洋科学館 〒971–8101 福島県いわき市小名浜字辰巳町50 50 Tatsumi-Cho, Onahama, Iwaki, Fukushima 971–8101,
Japan
2 国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究
所海洋・生態系研究センター
〒236–8648 神奈川県横浜市金沢区福浦2–12–4 National Research Institute of Fisheries Science, Japan
Fisheries Research and Education Agency, 2–12–4 Fukuu-ra, Kanazawa, Yokohama, Kanagawa 236–8648, Japan
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Cancer 27 (2018) 日比野麻衣・松崎浩二・小西光一 種のヒゴロモエビについても飼育下でポストラーバ を得ることができた.本報では,これらの標本に基 づき,ポストラーバ段階において種を識別するため の形質が分化しているかどうかの検討を行った. 材料および方法 採 集 ラウスブドウエビは,2016年7月に北海道羅臼沖 根室海峡のエビ籠漁(水深600~650 m)で採集し た.ヒゴロモエビは,2016年2月に青森県沖の底曳 き網漁で漁獲された個体を入手した.いずれも水揚 げ後に死亡した抱卵個体をふくしま海洋科学館へ搬 入し,腹肢から発眼卵を外して水量5.0 m3, 水温約 3.0℃の水槽内に浮かべたトリカルネット製容器で 管理し,孵化を待った. 飼育管理 ラ ウ ス ブ ド ウ エ ビ は2017年1月10~16日にかけ て,ヒゴロモエビは2016年12月2日~2017年1月13 日にそれぞれ約75個体がふ化し,うち各15個体を本 研究に供した(なお,第1~5期全ての脱皮殻を使用 した研究においては,脱皮殻の最大サンプル数はn =45).餌料は2種ともに,サクラエビ,アサリ,ナ ンキョクオキアミ等をミンチ状にしたものを与え, 成長にあわせサクラエビ,アサリ,キビナゴへと切 り替えた.給餌は2~3日ごとに餌料を全交換し,脱 皮後の共食いを防ぐため常時飽食状態とした. 観察方法 脱皮ごとにすべての殻を回収し,頭胸甲長(CL) の計測及び外部形態の観察を実体顕微鏡SteREO Discovery.V12を用いて行った.頭胸甲長は,眼窩 後縁から頭胸甲背後縁間の距離とした.ステージは 孵化後第5期まで観察を行った.また生時の体色比 較に関しては,第1期及び第5期にCANON Eos7D を用いて撮影を行い比較した. 標本の保存 本研究で使用した材料のうち,体色比較で使用し た個体は飼育実験で使用したため保存していない. また,計測および形態観察に使用した脱皮殻の標本 は,ふくしま海洋科学館に収蔵されている(登録番 号AMF-ZC0035, 0036). 用 語 直接発生に近い短縮型発生という変則的な状態で ふ化する幼体は,厳密にいえば未変態の状態であ る.本属の種の第1期幼体においても,腹部付属肢 は生じているが,十分には発達せず,遊泳機能はな い. そ の た め, メ ガ ロ パ(megalopa) や デ カ ポ ディッド(decapodid)などのカテゴリーには一致 しない.一方,胸部付属肢の外肢はほぼ消失してい るので,ゾエアにも該当せず,初期発育段階を表す 適切な用語が見当たらない(Felder et al., 1985).こ こでは一般的な後期の幼体を意味するものとして暫 定的に「ポストラーバ」を使用する. 結 果 両種のポストラーバは,ふ化時の平均CL 3.8 mm と 大 型 で, ふ 化 直 後 よ り 遊 泳 せ ず 底 生 で あ っ た (Fig. 1).その後の成長においては,第3期は平均 CL 4.7 mm, 第5期は平均CL 6.3 mmであり,両種の 成長はほぼ同様であった.形態について観察した結 果,同属の既知種同様,第1期の第1触角及び尾節 は未発達な状態であった.両種間における多くの形 質について大きな差異はみられなかった.そこで, 成体の識別形質の1つである第3胸脚指節の形態 (Hibino et al., 2015)をふ化後の5期にわたって比較 した.Fig. 1. First postlarva of Pandalopsis spinosior
Hanamura, Kohno & Sakaji, 2000 just after hatching. Scale bar=1 mm.
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Cancer 27 (2018) モロトゲエビ属2種のポストラーバの種判別形質 1)第3胸脚指節の前節に対する比率 ラ ウ ス ブ ド ウ エ ビ で は 平 均25.6%(範 囲22.9– 27.1, n=17),ヒゴロモエビでは平均38.6%(範囲 36.2–41.2, n=12)であり,これは成体の比率と一致 する(Fig. 2).また,ヒゴロモエビにおいては,ふ 化時は前節長に対する指節長の割合が特に大きく, 成長に伴い小さくなることが判明した. 2)第3胸脚指節下縁の棘配列の違い 両種ともに指節下縁に棘はみられたが棘数は3~ 4本であり,5~7本である成体より少なかった.し かし指節基部から棘列先端棘までの位置の比率に関 しては,ラウスブドウエビ平均48.5%(範囲46.6– 50.2, n=37),ヒゴロモエビ平均31.5%(範囲30.3–Fig. 2. Comparison of relative length of dactylus (D)
of third pereopod against propodus (P) between postlarvae of P. coccinata Urita, 1941 and P. spinosisor Hanamura, Kohno & Sakaji, 2000. Vertical bars showing SD; PL=postlarval stage.
Fig. 4. Differences in the color pattern of the first to fifth pereopods between first postlarvae of Pandalopsis spp.
A, Pandalopsis spinosior Hanamura, Kohno & Sakaji, 2000; B, Pandalopsis coccinata Urita, 1941. Scale bar=1 mm.
Fig. 3. Comparison of the position of distalmost
spinule on the flexor margin of the dactylus of third pereopod (a) between postlarvae of Pandalopsis coccinata Urita, 1941 and P. spinosior Hanamura, Kohno & Sakaij, 2000. The position is represented by the distance between the distalmost spinule and the base of dactylus (b). Vertical bars showing SD; PL= larval stages.
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Cancer 27 (2018) 日比野麻衣・松崎浩二・小西光一 33.1, n=24)であり,成体の値と一致する(Fig. 3). 3)体色(胸脚の白斑) 体色はふ化時より両種とも成体同様に酷似してい るが,第1期において,ラウスブドウエビでは第1 ~5胸脚(特に前節)に明瞭な白斑が入ることが判 明した(Fig. 4).この白斑は成長が進むにつれ徐々 に消失し,第5期の時点ではほぼ確認できないこと から,ふ化直後のポストラーバ第1期での判別形質 となりうることがわかった. 考 察 成体において,ラウスブドウエビはヒゴロモエビ に比べ,(1)第3胸脚の指節が太く短い,(2)第3胸 脚前節,腕節内側面の小棘と毛束の量が非常に多く 密に配列する点で異なる(Hibino et al., 2015). 今回の初期発育段階での結果を上記の成体の判別 形質に照らし合わせて考えると,両種間ではふ化時 から形態は酷似しているが,Fig. 2とFig. 3で示す とおり,第3胸脚の指節/前節比,および指節下縁 にある棘列先端棘の位置による種判別が可能であ り,これはふ化から成体までの主要な発育段階で有 効な判別形質となり得る.また第1期の生体に限っ ては,胸脚の白斑の有無でも両種の判別が可能で あった. 十脚目では,幼生期と成体の対応関係が不明な種 も未だに多く,特に幼生期における種識別のための 標徴形質の評価は難しいことが多いのが現状であ る.本研究での事例は,短縮発生による初期幼体に おいても成体で認識される標徴形質が適用されるこ とを示すものであり,短縮発生型の種において初期 幼体の標徴形質を評価する上での重要な知見とな る. 前述したとおり,本属の成体は深海性の種が多 く,入手も飼育も容易ではないため幼体の情報は乏 しい.そのため,飼育下において成体を長期に飼育 し,幼体を得ることは本属においてきわめて重要だ と考えられる.今後は,今回の結果を他種にも適用 することで,本属幼生の初期発育段階における情報 を蓄積し,より精度の高いものを目指していきた い. 謝 辞 本報告を作成するにあたり,採集にご協力頂いた 「豊佑丸」藤本繁美氏,藤本繁樹氏,藤本繁忠氏, 羅臼漁業協同組合の田中勝博氏,石亀正則氏,本論 文の草稿段階での査読を繰り返しいただいた千葉県 立中央博物館の駒井智幸博士,そして多方面でご指 導を頂いた安部義孝館長,薦田章副館長,津崎順 氏,水谷精一氏に深く御礼申し上げます. 文 献De Grave, S., & Fransen, C., H., J., M., 2011. Carideorum Catalogus: The Recent species of the dendrobranchiate, stenopodidean, procarididean and caridean shrimps (Crustacea: Decapoda). Zoologische Mededelingen, Leiden, 85: 195–588.
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