釧路農協連通信 2016.9 1
釧路農協連通信
釧路農協連通信
No.
54
2016.9
http://946nokyoren.or.jp/
公式Webアドレス 炎(えん)とシス③ ...P2 釧路管内の乳用雌牛飼養動向について ...P8 黒毛繁殖成績優良農場の飼養管理例について...P12 乳牛市場・F1平均価格の推移 ...P15contents
ょ う か? 少 々 ま わ り く ど い 話 に なりますが、その理由について紐 解いてみましょう。 生命のルーツをたどっていくと 単細胞の生物です。外部から必要 な養分を直接取り込んで、老廃物 となったものはそのまま外へと排 出すればこと足ります。ところが こうした老廃物は一般的に生命に とって有害物質であるため、高濃 度で自分の周りに老廃物があって は大変に困るのです。 たとえば乳酸菌。糖分を取り込 み、これを養分として増殖します が、その過程で生じた乳酸や酪酸 といった酸は体外へと排出されま 前回、状態を 表現する語尾である 「シス(- )」と名のつく 疾病として、ケトーシスを取り 上げました。今回はもうひとつ の乳牛の代表的な疾病である アシドーシスについて 考えてみましょう。
炎
えん
と
シ
ス
Vol.
3
■
アシドーシスとは
アシドーシス︵ acidosis ︶は、 酸 を 意 味 す る ア シ ッ ド︵ acid ︶ に由来しています。つまり標準よ りも酸性側に傾いている状態を表 し ま す。 酸 性 や ア ル カ リ 性 の レ ベ ル は pH ︵ ペ ー ハ ー︶ の 値 で 示 さ れ ますが、この値が小さくなる程、 強い酸性であることを表します。 乳牛も人も体液や血液のちょう ど い い pHは ︵ 弱 ア ル カ リ ︶ で す。そしてこの pHは非常に厳密に コントロールされていて、その変 動幅はわずか±0.05という極 め て 狭 い 範 囲 に お さ ま っ て い ま す。もしもこの pHが下がり過ぎて しまうと、人は頭痛・低血圧・疲 労 感 な ど を 感 じ る こ と が あ り ま す。ではアルカリ側がいいのかと 言えば、こちらにはアルカローシ ス と い う 症 状 が あ り、 し び れ・ 痙 けいれん 攣 ・吐き気といった体調不良が 現れることがあります。ちょうど いい pHにあることは、健康レベル の維持管理に相当に重要な意味が あるようです。 では何ゆえ体内の pHコントロー ルはこれほどまでに厳格なのでし す。自ら排出した酸が自分の周辺 に増え過ぎてしまうと、その影響 で乳酸菌自身は増殖が抑制、ある いは停止してしまいます。乳酸発 酵したサイレージは、乳牛には都 合の良いエサではありますが、そ れは原料草の中の糖分をエサとし て増殖した乳酸菌が自ら発した乳 酸によって pHが低下し、増殖でき なくなった状態なのです。 も う ひ と つ 事 例 を 挙 げ ま し ょ う。かつての地球の大気は二酸化 炭 素︵ CO︶2 濃 度 が 高 く、 植 物 が 旺盛に 繁 はん 茂 も していました。ところ が植物が大量に排出し続けたのが 酸素です。徐々に大気中の酸素濃 度が高まるにつれ、植物はこの酸 素に苦しめられることになりまし た︵ 今 で も 植 物 を 高 CO濃2 度 で 成 育させると、驚くほど大きくなる そ う で す ︶。 嫌 気 性 微 生 物 に と っ ても猛毒物質となる酸素の存在は 深刻。酸素から逃げるために地球 上で限られた場所でしか生存の道 は残されていませんでした。 生物は進化するにつれ、複雑か つ精巧な仕組みが作り上げてきま した。それでも人にしても乳牛にpH
釧路農協連通信 2016.9 3 欠 と な り ま す。 こ の た め 各 細 胞 の 居 住 環 境 と な る 周 辺 pH の 維 持 安 定 は、 非 常 に 重 要 な 位 置 づ け と な っ て お り、 厳 格 な コ ン ト ロ ー ル が な さ れ る こ と は 生 命 維 持 に 欠 か せ な い 仕 組 み と な っ て い る のです。 る作用があるため、ケトアシドー シスという疾病を引き起こすこと があります。これとは反対に 嘔 おう 吐 と を繰り返すことで強烈な酸である 胃液が急激に失われるとアルカロ ーシスになることがあります。 少々面倒な話が続きましたが、 アシドーシスとアルカローシスの 関係を簡単にまとめると下表のよ うになります。 以上、体内のひとつずつの細胞 が機能を果たしていくには、酸素 とともに必要な養分を供給するこ と、そして不必要な老廃物を速や かに片付けるという仕組みが不可 カリ化し、アルカローシスとなる ことがあります。 夏、乳牛は暑熱ストレスにさら され続けると、汗をかくのが苦手 なので、ぜいぜいと呼吸を繰り返 すことで放熱しようとします。し かしこれが長く続いてしまうとア ルカローシスとなるのは、過換気 症候群と同じ理屈です。 さ て 細 胞 は COの2 他 に も 老 廃 物 と して酸性物質も排出しています。 これらも速やかに血液を介して体 の外へと排出されなければなりま せんが、こちらをコントロールす る役を担っているのは 腎 じんぞう 臓 です。 腎臓は運び込まれた血液中の不要 物を 濾 こ して、きれいにする役割を 果たしています。排出される尿の pHは、血液の状態により5∼9と かなりの変動がありますが、これ によって血中 pHの安定が維持され ることとなります。 腎 臓 の 機 能 が 低 下︵ 腎 不 全 な ど︶すると、血中に不要な酸が蓄 積しやすくなり、やはりアシドー シスとなってしまいます。また前 回解説したケトーシスも、増えす ぎたケトン体が体液を酸性化させ しても、ひとつずつの細胞の集合 体であることには変わりありませ ん。それぞれの細胞に養分を供給 するとともに、排出される老廃物 を速やかに処理していく流れがな ければ、各細胞は生きていくこと はできません。 細 胞 か ら は COが2 老 廃 物 と し て 排 出 さ れ ま す。 COは2 ご く あ り ふ れ た 物質ながら水に溶けると酸性を呈 します。つまり滞留してしまうと 酸性化︵ pH低下︶が進み、細胞が 生き抜くためには厳しい状況へと 追い込まれることになります。こ れに対処するために血液を介して COを2 肺 へ と 運 び 込 み、 そ こ か ら 外 部へと排出し、代わりに酸素を取 り込むといった仕組みを作り上げ ま し た。 こ れ で 細 胞 が COに2 よ っ て 苦しむことなく生き延びていく環 境 が 整 え ら れ る こ と と な り ま し た。もし肺炎や 喘 ぜんそく 息 などによって 呼 吸 不 全 を 起 こ す と、 COは2 放 出 し づ ら く な る の で、 体 内 に COが2 滞 留 してアシドーシスが危惧されるこ ととなります。その逆に過換気症 候群のように、呼吸が過度に深く て 速 く な っ て し ま う と、 血 中 の COが2 排 出 さ れ 過 ぎ て、 血 液 が ア ル 鳥居薬品㈱ HPより 症 状 要 因 pH 代謝性 アシドーシス 腎不全、下痢、糖尿病など ↓ アルカローシス 嘔吐など ↑ 呼吸性 アシドーシス 呼吸不全など ↓ アルカローシス 過換気症候群など ↑ 安心できる居住環境
を果たしています。 ルーメン内の微生物が栄養源と するのは、乳牛が摂取したエサで す。対して主な排出物は、酢酸・ 酪酸・プロピオン酸といった揮発 性脂肪酸︵VFA︶と呼ばれるも のです。これらの排出物は酸性物 質であるため、あまりに増え過ぎ たり、そのバランスを崩したりす ると、ルーメン内 pHは低下してき ます。これがいわゆるルーメンア シドーシスといわれる状態で、特 にルーメン微生物の主役であるセ ンイ分を分解する微生物たちの居 住環境を悪くします。通常であれ ばルーメン内へと流れ込む唾液の 中和作用を受けたり、発生した酸 をルーメン壁から吸収したり、あ るいは第四胃へと流れ込んでいく た め、 少 々 の pH変 動 は あ る に せ よ、急激にそのバランスを崩すこ とはありません。 右下図はルーメン pHの推移例で すが、給飼されるエサの中身、採 食量やその頻度、そして反芻など により pHが変動しているのがイメ ージされるかと思います。概ねル ーメン pH 以上が常時確保されて
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ルーメン内の微生物たち
さて乳牛のルーメンは巨大な発 酵槽と言われるだけあって、その 中には膨大な微生物が住みついて います。これら微生物が増殖して いくためには養分が必要ですし、 同時に微生物からの排出物が希釈 されていく環境が整わなければな りません。つまりルーメン内の pH も安定していなければならないこ とを意味します。そしてそれをコ ントロールするのは、人︵酪農家 や栄養管理者など︶が大きな役割 いれば理想ですが、腹ペコの牛が 一気に配合を馬鹿食いすると急激 に pHが低下し、急性︵乳酸︶アシ ドーシスに陥って明確な臨床症状 を示すことがあります。しかしほ とんどのアシドーシスは短時間に やや pHが下がるといった亜急性ル ーメンアシドーシス︵SARA︶ と呼ばれるものです。選び食いし やすいTMRあるいは分離給与さ れている牛が数㎏の配合を食べる と、短時間はルーメン pHが少々下 がることは避けがたいことです。 しかし概ね pH 以下となる時間が 給餌 給餌 給餌 給餌 給餌 pH 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 急性アシドーシス 亜急性アシドーシス 一日のうちで5時間以上もあるこ とが多くなると、SARAによる 乳牛へのダメージが大きくなると 言われています。 pHが低下するレ ベルやその変動幅をなるべく抑え るように栄養および飼養管理面か らの配慮が、ルーメンアシドーシ スを予防します。 さてVFAは微生物にとっては 排出物ながら、乳牛にとっては肝 臓でグルコースなどに変換される ので、重要なエネルギー源となっ ています。また同時に乳脂肪分を 合成する際の主要な原材料でもあ ります。人間にとってはエネルギ ー源としての価値が皆無に等しい センイながら、乳牛は腹の中で養 っ て い る 微 生 物 ら の 手 助 け を 借 り、そこから得られるVFAをエ ネルギー源とする⋮、反芻する草 食動物たちが生き抜くために微生 物たちとの共存共栄を図るという 栄養分に取りつく微生物、そして発せられるVFA(NHK) VFAは貴重な エネルギー源! 図:ルーメンpHの推移釧路農協連通信 2016.9 5 見 事 な シ ス テ ム と い え る で し ょ う 。 ホルスタイン牛が家畜となり、 さらに品種改良が進められるにつ れて、彼女らが必要とするエネル ギー量は半端なく増加しました。 いくら高品質な基礎飼料をお腹に 一杯ため込んでも、センイ分だけ では必要なエネルギーを供給する ことはできません。そのためセン イ分をベースとしつつ、他の炭水 化物︵デンプンなど︶や脂質の力 を添えて、バランスをとりながら エネルギーを充足させていくのが 現在の乳牛の栄養管理のひとつの 肝となっています。 雑草や刈り遅れ、採食量の不足 などはセンイ分からのエネルギー 供給を制約します。すると高産乳 牛のエネルギーを充足するには、 デンプンなどに強く依存せざるを 得なくなります。このことは乳牛 の唾液分泌量を少なくしやすいの でルーメン pHの中和作用が弱まる ばかりでなく、デンプンを利用す る微生物はルーメン pHをより低下 させやすいタイプのVFAを排出 するため、ルーメンアシドーシス のリスクが高まります。さらに概 して飼料費も高くつきます。 草食動物である乳牛は、やはり エネルギー源をなるべくセンイ分 に求めていくことが健康の維持に は欠かせない条件となります。そ のため高い嗜好性とともにエネル ギーを供給しやすい基礎飼料を農 場に十分に用意しておくことが重 要となります。同時にそれらを乳 牛がお腹いっぱいに食べられる環 境作りも併せて求められることに なります。 ところで乳牛のルーメン内で大 量に発生している酸︵VFA揮 発 性 脂 肪 酸 ︶。 こ れ は 人 に は 関 係 ないでしょうか? 実はこれがおおあり。人の大腸
炎
えん
とシス
Vol. にも無数の微生物︵腸内細菌︶が 住みついていますが、ここに食物 センイが入り込んでくるとやはり 酸︵VFA︶が発生します。この VFAは微生物にとっては不要物 であっても、人の体にとっては健 康レベルを維持していく上では非 常に重要な役割を果たす物質とな っています。たとえば腸から吸収 されたVFAは、体内の脂肪細胞 へたどり着き、 貪 ど ん よ く 欲 にエネルギー 源を取り込もうとする脂肪細胞を 抑制させる作用があります。その 結果、肥満防止につながっていま ※腸内フローラ 人の大腸などには数百種 600 兆個以上の細菌が生息しており、顕微鏡で覗くとお花畑(fl ora) のようにみえることから腸内フローラと呼ばれるようになりました。 す。またVFAはインクレチンと いうホルモン物質を腸の細胞に分 泌させ、このホルモンが 膵 す い ぞ う 臓 へと 働きかけてインスリン分泌を促し ます。血中のインスリンが持続的 に高まれば糖尿病の予防となりま す。またこの他にも前立腺がんや 乳がんを予防する効果、免疫暴走 ︵ 花 粉 症 や ア ト ピ ー な ど ︶ を 抑 え る作用といったように、人の健康 維持にVFAは大変に役立ってい るという多くの事実が徐々に明ら かになっています。 飼料設計は、乳牛のルーメン微 生物のことを念頭に置いて検討す ることが重 要なのです が、人も腸 内フローラ ※ の こ と を 考えて食事 を摂ると健 康増進につ ながるよう です。腸内 細菌にとっ て好ましい エサ︵主に 腸内フローラの驚くべき役割(NHK)食物センイ︶を与え続けようとい う食事が大切というのは、まさに 乳牛の栄養管理とも相通じます。 相違点は、乳牛には反芻を促すた めに一定レベルの食物センイの長 さが求められますが、人は特段、 スジばったセンイでなくても構わ ないということです︵水溶性セン イなど︶ 。 さて話しを牛のアシドーシスに 戻しましょう。 まず生まれたばかりの子牛のア シドーシスについてです。分娩の 際、大半の子牛は一時的に酸欠状 態 に 陥 る た め、 血 中 CO濃2 度 が 上 が り、呼吸性のアシドーシスを起こ しやすい状況にあります。同時に 胎児が体外へと出る際に受ける強 烈なストレスは、体内に乳酸を蓄 積させるので、代謝性アシドーシ スを受けやすいことになります。 逆子などは特にですが、速やかに 鼻についた粘膜を取り去り、呼吸 を確保してやることが重度のアシ ドーシス予防となります。 次に離乳前後の子牛は徐々に配 合を食べるようになりますが、こ の際に適度にセンイを摂取してい ないとアシドーシスが懸念される ことになります。1∼2㎏程度の スタータが小さなルーメンを痛め ないよう、水とともにつまみ食い できるような乾草を給与しておく ことが必要です。 さらに乳牛はルーメンだけでな く、大腸でアシドーシスを起こす ことがあります。通常、大腸に大 量の穀類が流れ込むことはありま せんが、ルーメン内で十分に発酵 せずに大腸へと到達した穀類があ ると大腸内で生育している微生物 たちがこれを発酵させます。これ が時に激烈に大腸内の pHが下がる こ と が あ り、 腸 粘 膜 を 傷 つ け ま す。糞が泡立ったり、粘々とした ムチンが混ざっているようであれ ば、大腸アシドーシスを疑ってみ る必要があるでしょう。
■土壌アシドーシス
土壌中にも無数の微生物が存在 しています。これら微生物は、土 壌 中 の 有 機 物 を エ サ と し て 分 解 し、分解されたものを植物の根が 吸収し、光合成をしながら成長・ 結実していきます。 土壌微生物のこうした活動の結 果、多くの酸が排出されます。酸 が蓄積し、土壌 pHが下がれば、土 壌中の微生物はいずくなって活動 を低下させます。結果、堆肥など 有 機 物 を 分 解 す る 力 が 低 下 し ま す 。 ま た 空 気 中 の COを2 溶 か し 込 ん で 酸 性化した雨水。降水量の多い日本 では土壌は総じて酸性です。それ に土壌微生物などの作用によって 土 壌 中 の CO濃2 度 は 大 気 の 約 1 0 0 倍。なおさら酸性土壌になりやす い条件下にあります。 牧 草 地 の 土 壌 pHが 低 い︵ 6 未 満︶状態、つまり土壌アシドーシ ス︵筆者の勝手な命名︶にあって は牧草の順調な生育を妨げる十分 な要因となり得ます。中には pHの 低い土壌でも元気に生育する雑草 もありますから、土壌アシドーシ スは牧草が雑草と競合していくに は不利な環境となります。石灰や ライムケーキなどを散布し、土壌 pHを コ ン ト ロ ー ル し て い く こ と は、良質な基礎飼料を得るための 基本となるでしょう。■乳牛の高い
健康レベルを維持する
前 回 の ケ ト ー シ ス も そ う で す が、アシドーシスもその大半は顕 著な症状を乳牛は示しません。つ まり何となく牛に元気がない、食 べる量がいまいち、産乳量や繁殖 成績などが期待値へと届かないと いったはっきりしないケースが多 いのです。人で例えると、ちょっ と二日酔い気味といったレベルか ら飲み過ぎて迎えた朝に﹁具合悪 いけど休めないなぁ﹂と言いつつ 動き出すといったレベルです︵具炎
えん
とシス
Vol. 釧路農協連通信 2016.9 7 ※ 筆 者 は 獣 医 学 的 な 知 識 の 持 ち 合 わ せ は な い た め 、 今 回 も N O S A I 道 東 の 石 井 亮 一 部 長 に 内 容 を 検 証 い た だ き ま し た 。 ご 多 忙 の 中 の ご 指 導 に 対 し て、厚くお礼申し上げます。 参考NHKスペシャル﹁腸内フローラ﹂ 、腸内フローラの 10の真実 ︵主婦と生活社︶ 土壌の科学︵日刊工業新聞社︶ 、土壌微生物のきほん︵誠文堂︶ 、 イオンバランスを知って乳牛を健康に飼おう︵雪印種苗・石田聡一氏︶ 他 合悪くて起きられない、食欲もな い⋮のは臨床症状のレベル︶ 。 乳牛の資産価値を失わせてしま う 3 大 要 因 は、 乳 房 炎 と 繁 殖 障 害、そして蹄病ですが、その一方 で常日頃の乳牛の健康レベルを 貶 おとし めやすいケトーシスやアシドーシ スも見逃せません。後者は乳牛を 次々とダメにするタイプの疾病で はありませんが、乳房炎同様、症 状が明確な臨床性の状態よりも潜 在性や亜急性によって引き起こさ れているダメージのほうが酪農場 の大きな損失となっています。 ケトーシスの診断は、血液検査 やサンケトペーパー︵乳汁︶によ り推測が可能ですが、頻繁に行う には手間やコストがかかり過ぎま す。近い将来、乳汁中のBHBA ︵ β ヒ ド ロ キ シ 酪 酸 ︶ を 測 定 す る ことでケトーシスのレベルが推測 できるように整うでしょうから、 乳検成績にも反映され、大変に有 効なデータとして活用されること が期待されます︵十勝では既に対 応準備に入っています︶ 。 対してアシドーシスはルーメン pHを測定するため、試験研究のよ うに牛のお腹に穴︵フィステル 右写真︶を開けるわけにもいきま せん。残念ながら現場で実用の耐 えうるルーメン pHセンサーでも使 わない限り、SARA︵亜急性ル ーメンアシドーシス︶は簡単には 分からないのです。じわっと乳牛 が受け続けたSARAによるイン パクトは、時間差をもってボディ コンディションの低下や軟便、受 胎率の低下や蹄葉炎などにじわじ わと表れてくることが大半なので す。■おわりに
﹁ 炎 と シ ス ﹂ と 題 し、 断 片 的 に 疾病の一部をながめたに過ぎませ んが、改めて少々の栄養管理の失 敗、微妙に受けているストレスな ど は、 そ の 大 半 を 乳 牛 の 強 力 な 生 命 力 で 対 応 し て く れ て い る こ と を 感 じ さ せ ま す。 し か し 強 き ょ う じ ん 靭 な 乳 牛 と 言 え ど も、 周 産 期 や 暑 熱、 群 間 の 移 動 と い っ た 強 い ス ト レ ス が 加 わ る と き、 あ る い は 体 の か ゆ み や 混 み 過 ぎ る 群 れ の 中 に お か れ る と い っ た 長 期 に わ た る ス ト レ ス に さ ら さ れ る 場 合 に は、 乳 牛 の 健 康 レ ベ ル を 維 持 す る た め に 管 理 面 か ら 乳 牛 の ケ ア を 強 化 し て い く こ と が 欠 か せ な い こ と が 再 認 識 さ せ ら れ ま す 。 そ の た め、 今 後 な お 一 層 の 品質や嗜好性の高い基礎飼料をベ ースとした栄養管理、そしてカウ コンフォート︵乳牛の安楽性︶を 積み重ねていく重要性が増してい くこととなるでしょう。釧路管内
の
乳用雌牛飼養動向
に
つ
い
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農林水産省が今年発表した2月 1日現在の畜産統計によると全国 の 乳 用 牛 の 飼 養 頭 数 は 1 3 4 万 5, 0 0 0 頭 で、 前 年 に 比 べ 2 万 6, 0 0 0 頭︵ 前 年 比 1.9%︶ 減 少 し た。 北 海 道 が 78万 5, 7 0 0 頭 で、 前 年 に 比 べ 6, 7 0 0 頭︵ 前 年比 0.8%︶減少となっており、依 然として国内及び道内の乳用雌牛 の飼養頭数の減少に歯止めがかか らない状況であることが読み取れ ます。 北海道の初妊牛相場も1頭当平 均 70万 円 を 超 え る 異 例 の 高 値 と なっている最大の要因に乳用牛頭 数そのものが減少していることと 道内外のギガ・メガファームの規 模拡大を進める動きが相場高騰の 要因とされており、乳用牛資源の 減少が起因となって初妊牛相場を 押し上げる結果となっていること を伺い知ることができます。 生乳生産規模に関わらず酪農経 営の安定化を図るうえで、生乳生 産 量 を 将 来 的 に も 安 定 的 に 確 保 し、生産性の高い酪農経営実現の ためにも飼養管理面を含めた乳用 雌牛頭数の維持と後継牛生産対策 が更に必要であります。 今回、釧路管内の乳用雌牛の飼 養動向や飼養動向がどのような状 況にあるのか又、後継牛生産に影 響する交雑種生産の動向を家畜改 良センター個体識別情報課のデー タ︵平成 28年4月1日時点︶を基 にお知らせします。 860 880 900 920 940 960 980 1,000 1,020 1,040 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 1,022 991 966 953 914 戸数 (戸) ※各年度4月1日時点における乳用雌牛の飼養戸数❶年度別飼養戸数の推移
釧路管内の乳用雌牛飼養戸数は、24年度1,022戸から28年度914 戸と108戸(−10.6%)減少しています。 生 乳 生 産 の 基 盤 と な る 乳 用 雌 牛 頭 数 の 減 少 が 憂 慮 さ れ て か ら 数 ヵ 年 が 経 過 し ま し た が 、 そ の 間 、 乳 用 牛 導 入 事 業 に よ る 頭 数 の 維 持 対 策 や 性 選 別 精 液 の 活 用 と F 1 交 配 率 の 抑 制 等 に よ る 後 継 牛 生 産 対 策 等 が 各 J A を は じ め と し た 関係機関の乳用牛資源の維持と確保するための諸対策が講じられてきました。 データからは釧路管内の乳用雌牛飼養頭数は直近5年間の動向では2千5百頭︵約2%︶減少していることが判りました。❷年度・月齢別の飼養頭数の推移
釧路管内の乳用雌牛総飼養頭数は、24年度120,049頭と28年度117,500頭との5年間の比較では 2,549頭(−2.2%)減少しています。 月齢別の飼養頭数は、24カ月齢以上頭数では24年度73,728頭、28年度70,259頭と3,469頭の減少 と な っ て い る が 、 1 2 カ 月 齢 未 満 で は 2 4 年 度 2 3 , 3 5 0 頭 、 2 8 年 度23,995頭と645頭 の増加(+2.7%)と な っ て お り 、 2 4 カ 月 齢未満においても24年 度22,971頭、28年度 23,246頭と271頭の増 加(+1.1%)してい ます。搾乳用後継牛と される月齢の牛が微増 傾向にあります。❸農協・年度別飼養頭数の推移
釧路管内農協別の飼養頭数の24年度と28年度の5カ年の比較では、JA釧路太田818頭(−6.1%) の減少、JA浜中町240頭(+1.0%)増加、JAしべちゃ139頭(+0.3%)の増加、JA摩周湖823頭(− 6.5%)減少、JA阿寒419頭(−4.1%)の減少、JAくしろ丹頂868頭(−4.0%)の減少となってい ます。釧路管内の乳用雌牛飼養動向について
10,000 20,000 30,000 40,000 60,000 70,000 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 24ヵ月齢未満 ※各年度4月1日時点における乳用雌牛の頭数 23,350 22,971 73,728 24,232 22,106 72,877 24,717 23,140 71,169 23,864 23,550 70,925 23,995 23,246 70,259 12ヵ月齢未満 24ヵ月齢以上 80,000(頭) 合計 120,049 119,215合計 119,026合計 118,339合計 117,500合計 8,000 10,000 20,000 30,000 40,000 釧路太田 浜中 標茶 摩周湖 阿寒 釧路丹頂 25年度 ※各年度4月1日時点における乳用雌牛の飼養頭数 ※乳用種雌牛飼養頭数は、ホルスタイン種・ジャージー種・その他の乳用種を含みます。 (頭) 13,544 13,194 12,997 12,904 12,726 12,740 12,493 12,180 11,913 11,917 10,259 10,208 10,208 10,036 9,840 21,986 21,654 21,692 21,563 21,118 22,079 22,241 22,493 22,668 22,319 39,441 39,425 39,456 39,255 39,580 24年度 26年度 27年度 28年度 釧路農協連通信 2016.9 9❹農協別ホルスタイン種の出生頭数の推移
(抽出データ:各年度4月∼3月) 各年度における1年間の出生頭数の23年度と27年度の5カ年の比較では、JA釧路太田277頭(− 4.6%)の減少、JA浜中町235頭(+2.7%)増加、JAしべちゃ1,936頭(−11.9%)の減少、JA摩 周湖569頭(−9.9%)の減少、JA阿寒190頭(−4.2%)の減少、JAくしろ丹頂190頭(−2.0%) の減少となっています。 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 釧路太田 浜中 標茶 摩周湖 阿寒 釧路丹頂 24年度 (頭) 5,954 6,030 5,975 5,762 5,753 5,776 5,719 5,503 5,195 5,207 4,547 4,531 4,438 4,497 4,357 9,605 9,623 9,669 9,567 9,415 8,591 9,225 9,086 8,666 8,826 16,388 15,689 15,595 14,898 14,452 23年度 25年度 26年度 27年度❺交雑種(乳用種×肉専用種)の出生頭数推移
(抽出データ:各年度4月∼3月) 乳用雌牛生産に影響されるとされる交雑種の1年間における出生頭数の23年度と27年度の5カ年の 比較では、23年度10,452頭、27年度12,935頭と2,483頭(+23.7%)と増加傾向にあります。 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 ※出生頭数は各年度4月1日~3月31日に出生した頭数 10,452 9,614 9,766 11,666 12,935 出生頭数 (頭)* 近年、乳用雌牛資源の減少は酪農家戸 数の減少や交雑種生産頭数の増加が大 きな要因とされていますが、子牛や搾 乳牛の疾病発生率が減少していない状 況や繁殖成績の低迷等が要因とも示唆 さ れ て お り ま す 。 過 般 、 道 内 3 会 場 ︵ 札 幌 市 、 旭 川 市 、 芽 室 町 ︶ に お い て、北海道乳用牛ベストパフォーマン ス実現セミナー︵主催北海道酪農検 定検査協会︶が開催されました。 本セミナーは、最近の北海道における 乳用牛の飼養頭数の減少や繁殖成績の 低下等により生乳生産量が減少し、生 乳生産基盤の確保が急務であることか ら、乳用後継牛の安定的確保の取組み と併せて、コスト低減を図りながら現 在飼養されている乳用牛の泌乳能力や 繁殖能力を最大限発揮する取組みを推 進する目的から開催されましたが、そ もそも全道的な取組みとしてベストパ フォーマンス︵BP︶に位置づけて取 組まれる背景には、深刻な乳用後継牛 の頭数減少の課題があると捉えること ができます。生乳生産基盤の強化に向 けて、後継牛の生産対策と併せて飼養 管理面の改善︵子牛の事故を減らす、 周産期疾病を減らす、繁殖成績を向上 させる等︶が求められています。
❻交雑種(乳用種×肉専用種)の農協・年度別出生頭数の推移
(抽出データ:各年度4月∼3月) 農協別の23年度から27年度の5年間の動向では、年度毎に出生動向は異なるもののJA釧路太田240 頭増加、JA浜中町508頭増加、JAしべちゃ1,123頭増加、JA摩周湖297頭増加、JA阿寒325頭減少 JAくしろ丹頂10頭減少となっています。 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 釧路太田 浜中 標茶 摩周湖 阿寒 釧路丹頂 24年度 (頭) 1,056 1,129 1,140 1,307 1,369 869 884 901 1,145 1,166 789 785 789 962 1,114 1,659 1,336 1,292 1,651 1,649 2,589 2,235 2,247 2,876 3,097 3,417 3,318 3,397 3,725 4,540 23年度 25年度 26年度 27年度釧路管内の乳用雌牛飼養動向について
参考:農林水産統計(平成28年7月5日公表) 釧路農協連通信 2016.9 11黒毛繁殖成績優良農場の
飼養管理例について
下のグラフは黒毛繁殖牛の平均分 間隔の年度別推移を地 域別に表したものです。釧路の平均分 間隔は平成23年と比 べて大幅に改善がされています。しかし和牛生産先進地域や全道 平均と比較した場合、もうひとがんばりの改善が必要と言えるでしょう。 釧路肉牛振興協議会では釧路 管内の黒毛生産農場において繁 殖成績が優秀な農場の表彰を 行っています。 この表彰は昨年から行われていますが、2年連続で受賞した早坂敏勝農場に繁殖性向上のために気を つけているポイントを伺いましたので紹介します。 労働数 2名 (牧場主、妻) 飼養頭数35頭 分 頭数30頭 生産率85.7%(5年間分 による死亡0頭) 平均分 間隔 387日 授精方式 人工授精 繁殖牛群管理舎 ①繁殖牛群牛舎(+放牧)1棟 ②分 前後牛管理牛舎1棟 高齢牛 10歳以上は半数近い (受胎率は若牛と比べてもあまり変わりはない) 426.5 427.1 426.6 425.6 423 401.7 405.7 460.9 455.1 444.2 441 437.8 470 460 450 440 430 420 410 400 390 釧 路 十 勝 北海道 胆 振 日 高 平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成27年度釧路黒毛和種優秀繁殖成績農場表彰受賞者 ※生産率(年度生産頭数÷飼養頭数)80%以上 農 協 受 賞 者 分 間隔 標 茶 町 佐々木 光 広 氏 365日 標 茶 町 松 田 昌 代 氏 387日 標 茶 町 伊 藤 泉 氏 392日 摩 周 湖 渋 谷 幹 夫 氏 397日 釧 路 丹 頂 早 坂 敏 勝 氏 387日牧場概要
きれいに整頓されている分娩牛舎釧路農協連通信 2016.9 13 1)発情観察 毎日 3∼4回 2)発情発見 3ヶ月∼4ヶ月まで子牛を母牛に付けているが、その子牛が親に乗駕するなどを観察する。 (自然哺育をしていても発情はわかる。) 3)長期未受胎牛への対応 2ヶ月以上たっても発情がなければシダーを入れる。 4)飼料給与 夏期は過肥にならないように放牧草中心だが食べ過ぎない程度の広さと草量の放牧地に放牧させる。 (そこへの行き来で運動させる。) 春先の良い草を食べているときに分 する牛は、分 後良い発情が来ると感じられる。 分 前後は春の早刈りの良質乾草を与える。 冬季はビートパルプを給与する。 夏季はたまに給与する程度。 冬季のほうが繁殖牛は太ってしまい、受胎はやや低下しがちになるが、栄養不足に対応させる飼料 量を給与する。 受胎した繁殖牛には過肥の予防のため、繊維分が多く反すうを促す2番草又は刈り遅れの1番草を 給与する。 5)ミネラル等給与 天然カルシウム補給飼料を与えるようにしたが、そ れからというもの、 ①子牛が丈夫になった。 ② 今まで母牛が低カルシウム症で倒れることが頻 発していたが無くなった。 (低カル症で倒れた牛に直接溶かして飲ませ数日 後に治ったこともある) ③分 事故が無くなった。(5年間無し) 6)分 前後の管理 分 前後2週間は別管理(分 房牛舎) その期間は良質な乾草(春の早刈り)とビートパルプ、上記の天然カルシウム補給飼料を母牛に給 与するようにしている。 7)分 での生産低下防止対応 繁殖牛は体の大きいものを保留することにしているが、体は大きくても骨盤が狭く出産時産道があ まり開かない牛もいるため、生まれた子牛を死亡させてしまうことがある。そのような母牛を早め に更新する。 分 予定になっても陣痛の弱い牛(未経産牛なら分 予定日1週間後、経産牛なら分 予定日2週 間後)にはPGを打つことにしている。
繁殖牛の管理
ホクレン釧路地区家畜市場 H28.8.31現在 円
乳牛市場
50000 100000 150000 200000 250000 300000 420000 470000 520000 570000 620000 670000 720000 770000 腹ホル 腹F1 F1 ♂ F1 ♀初生乳用交雑種
(F1) 円 H24 .4 H24 .7 H24 .10 H25 .1 H25 .4 H25 .7 H25 .10 H26 .1 H26 .4 H26 .7 H26 .10 H27 .10 H27 .1 H28 .1 H27 .4 H28 .4 H28 .7 H27 .7 H24 .4 H24 .7 H24 .10 H25 .1 H25 .4 H25 .7 H25 .10 H26 .1 H26 .4 H26 .7 H26 .10 H27 .10 H27 .1 H28 .1 H27 .4 H28 .4 H28 .7 H27 .7 PGは強すぎると分 時胎児の首が正常な位置になる前に子宮の力で押し出され首曲がりの難産に なっていた経験から、 PGの量はホルスタ インの接種量の半分 の量にしている。 分 牛舎に赤外線カ メラを自分で設置す る。 太 い 線 で モ ニ ターにつなぎ映りを 良くしている。(1 ∼2万円程度) 8)人工授精 基本的に分 後1ヶ月の自然発情で人工授精してもらうようにしている。 直腸検査による卵の状態を確認してもらい都度説明をしてもらうようにしている。 卵が硬いという説明 をされた場合は21 日待たずに翌日も状 態確認に来てもらい、 卵がやわらかくなっ ていれば人工授精を してもらって、それ が受胎性の向上に繋 がっている。 9)受胎確認 直検による鑑定。 卵の状態を確認して連注し、受胎している。 こまやかな授精記録。繁殖成績が良好な要因として感じていること
①分 前後2週間の繁殖牛の管理 天然カルシウム補給飼料給与(子牛・母牛ともに状態が良くなった) 繁殖牛でもその期間は良質乾草(春の早刈り)を与える ②受胎性を上げるために自分が飼っている牛の状態を把握する。 卵の状態を確認してその場合はどうしたらよい結果に繋がったかを覚えておくなど、授精に関 連することを獣医師や授精師に任せきりにしない。 ③分 事故対策 分 事故の多い繁殖不適体型牛(骨盤狭く産道が狭い等)の早期更新。 陣痛の弱い牛へのPG適量投与。 設置カメラの映像はできるだけ映像レベルを高くする。(最近は安価な設置可能) ④繁殖牛の栄養度管理 冬季以外は食べ過ぎて過肥状態にならないように、冬季は栄養不足にならないように飼料給与 に注意をする。繁殖成績が良好な要因として感じていること
最も気を使っている繁殖管理のポイント
赤外線カメラ設置例釧路農協連通信 2016.9 15 ホクレン釧路地区家畜市場 H28.8.31現在 円