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フィリピンの高校経済学における評価について

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Academic year: 2021

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82 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告

Ⅰ.はじめに

 2005 年 7 月 9 日に内閣府が経済教育サミットを開催 したのを契機にして,現在,日本の経済教育のあり方 に関する調査・研究が進展しつつある。内閣府では, 経済教育の目的として,以下の三点を挙げた。 (1)合理的な意思決定を行う個人の育成 (2)実際の経済社会に対する深い理解 (3)政策的課題の検討・解決  さらに「希少性」「選択」「機会費用」「リスク」に 代表される経済学的な考え方を身につけることの重要 性,すなわち,経済教育の必要性を強調している。日 本企業の海外進出が進むと同時に,外国人労働者数が 増加する社会環境の中で,人々は経済リテラシーの習 得が求められている。  経済リテラシーとは,学校で教育される経済に関す る共通教養であり,社会的自立の基礎となる経済に関 する公共的な教養である(栗原 2005)。また,民間の 非営利団体であるジュニアアチーブメント・ジャパン は,「社会情勢がいかように変化しようとも,子ども たちが「社会のしくみや経済の働き」を正しく理解し, 自分の確たる意志で進路選択・将来設計が行えるよう, 基本的資質(主体的に社会に適応できる力)を育むた めの支援を提供する」という基本理念を掲げ,青少年 のための経済教育の普及活動を行なっている。  フィリピンでは海外へ出稼ぎに行く労働者の数が約 1000 万人いる。海外出稼ぎ労働者(OverseaFilipino Worker:OFW)が同国内の家族へ送金した額は名目 GDP の 10% を超えた(2012 年)。OFW の自国通貨建 て賃金は,為替レートの変動により影響を受ける。 人々は,外貨を通して生計管理の能力や金銭感覚を高 めるように努めることで,より安定した生活を送る可 能性を高めることができる。経済教育の推進は, OFW が増加する雇用環境の中で,生計管理能力や金 銭感覚の向上につながることが期待される。本研究で は,アメリカ経済教育協議会(CouncilforEconomic Education:CEE)が 2013 年より web 上で公開してい る「 経 済 リ テ ラ シ ー ク イ ズ(EconomicLiteracy Quiz)」を用いて,フィリピンの公立高校に在籍する 生徒の経済リテラシーを評価することを試みたい。

Ⅱ.経済リテラシークイズの概要

 経済リテラシークイズは,経済学の基礎,ミクロ経 済学,マクロ経済学,国際経済の 4 分野から出題され ており,解答者は 4 つ選択肢の中から正しいものを 1 つ選ぶ。表 1 は経済リテラシークイズの出題内容を示 している。このような出題形式は経済リテラシーテス ト(TestofEconomicLiteracy:TEL)と同じであ る。加えて問題の内容が似ている。  しかし,経済リテラシークイズの出題数は 20 問で あり,TEL の出題数の半数である。それ故に,該当 ウェブサイトの訪問者は誰でも試験問題の全体を閲覧 でき,気軽に挑戦できる。クイズとして経済リテラ シーをインターネット上で公開することはその周知の 一助となる。実際,2013 年 3 月 26 日から 2014 年 8 月 20 日までの間の経済リテラシークイズへの参加者数 は 97,930 人となっている。その内,高校生の参加者数 が 44,423 人で一番多い。平均年齢は 24 歳で,平均点 は 14 点(20 点満点,1 問正答につき 1 点で計算)で あった。  今回調査したフィリピンの公立高校では 1 年間を四 つの期間にわけて授業を実施している。教員は各期に 試験を実施することで生徒の学習到達度を確認する。 今回のクイズ受験の対象とした高校 4 年生(高校最終 学年)は,旧制度の下で経済学を学習している。経済 リテラシークイズ実施時点で,1 期(FirstQuarter) を終えており,経済学の原理,フィリピン経済史, フィリピンの天然資源と人的資源,希少性,ニーズ

フィリピンの高校経済学におけ

る評価について

The Journal of Economic Education No.34, September, 2015

How Students are Graded in the Phillppines at High School Economics Classes?

Sasaki, Kenichi

佐々木 謙一(北海道教育大学)

The Japan Society for Economic Education

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経済教育34号  83 表 1 出題内容 分野 問題番号 出題内容 構成比率 経済の基礎 2 起業家 40%(20 問中 8 問) 3 利子率 4 個人所得の内訳 9 生産 12 資源配分 13 株式市場 14 交換 20 貨幣 ミクロ経済 1 競争 30%(20 問中 6 問) 6 代替財 8 家賃規制 11 需要と供給 15 費用と便益 16 公共財 マクロ経済 5 国内総生産 20%(20 問中 4 問) 17 財政 18 インフレーション 19 イノベーション促進 国際経済 7 輸入停止 10%(20 問中 2 問) 10 貿易

(出典) Council for Economic Education(2013) より作成 表 2 フィリピンの高校経済学 学習内容 1 期 経済学の原理,フィリピンの経済史,資源,希少性,ニーズとウォンツ,消費 2 期 配分,生産,ミクロ経済学の基礎 3 期 マクロ経済学の基礎,インフォーマル部門,農業・漁業,工業 4 期 公共部門,国際貿易,経済成長・開発,経済開発 (出典)Sasaki,K and Diaz,N.(2014)より作成

表 3 得点分布 点数 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 人数 1 2 2 2 7 16 13 14 18 8 7 2 (Needs)とウォンツ(Wants),消費について学習済 である。本調査後に生徒が学習する内容は,表 2 の 2 期(SecondQuarter)から 4 期(FourthQuarter)ま でに示されている。

Ⅲ.経済リテラシークイズの結果

 今回の調査では,現地の高校教員の協力を得て, フィリピンの公立高校 4 年生 92 名(2 クラス)が 20 分間で経済リテラシークイズに解答した。現地の高校 教員は生徒に対して本クイズの実施を事前に告知して いない。得点分布は表 3 で示され,平均点は 13.56 点, The Japan Society for Economic Education

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84 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告 最高点は 18 点,最低点は 7 点であった。  各設問の正答率と解答内容は表 4 の通りである。正 答率 90%以上の問題番号は 2,6,10,14,19 であり, 正答率が 50%以下の問題番号は 3,5,7,8,17,18, 20 である。この結果から,マクロ経済学からの出題 の正答率が低かった。

Ⅳ.おわりに

 フィリピンでは 2012 年度から新教育制度の K-12 BasicEducationProgramを実施しており,大学入学 前教育年数が 10 年から 12 年に増加した。旧制度の下 で入学した児童・生徒が卒業を迎えるまでの数年間は, 10 年制の教育制度を修了した生徒が大学等に入学す ることになる。新課程へ移行に伴い各教科の授業内容 について改善する機会の有無にかかわらず,教員は事 前準備として教育活動上行われる評価を実施して資料 を作成した方が良い。  なぜならば,教育活動上行われる評価は,授業展開 を再検討する時やカリキュラム内容を改善する際に重 要な資料となるからである。本研究において,受験者 のマクロ経済学の設問に関する正答率が低かった。継 続的な調査を行うことで,新教育制度 K-12 の進展や 経済情勢も考慮しつつ,調査校の教員が経済学の授業 の進め方についての課題や高校経済学で強化すべき学 習単元等を明らかにすることが可能となる。  本研究は経済リテラシー習得の程度にかかる実態調 査を通じた評価の一側面に過ぎない。実際,教育評価 には児童・生徒・学生にかんする成績評価,児童・生 徒・学生などによる教員にかんする授業評価,教師自 ら行う授業自己評価などがあり,教育現場におけるさ まざま視点から評価できる。したがって,本研究にお いても包括的な評価の実施が望ましい。フィリピンの 教育現場における諸般の事情に鑑み,現地の教員とと もに包括的な評価の実施の可能性を高める教育研究活 動を続けていきたい。  最後に,調査方法の課題として,母語による経済リ テラシークイズの実施を挙げておく。今回は英語でク 表 4 各設問の正答率と解答内容 〔A〕 〔B〕 〔C〕 〔D〕

The Japan Society for Economic Education

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経済教育34号  85 イズを実施した。しかし,今回の受験生は母語で社会 科の授業を受けている。さらに K-12BasicEducation Program の実施に伴い,母語による授業の強化を 図っている。母語で経済リテラシークイズを実施する ことで,生徒の評価をより正確に行うことができる。 参考文献 [1] 栗原久「近年の経済動向と経済教育」『グローバル時代の 経済リテラシー』ミネルヴァ書房 第 2 章,2005 年 [2] ク レ イ ト ン ,G.E.『 ア メ リ カ の 高 校 生 が 学 ぶ 経 済 学 』 WAVE 出版,2005 年 [3] 佐々木謙一「大学における公務員試験対策講座の導入実 例とその課題~経済系科目を中心に~」『経済教育25 号』, 2006 年 [4] 佐々木謙一「フィリピンの高等学校における経済教育の 現状と課題」『経済教育25 号』,2014 年 [5] 内閣府経済社会総合研究所『経済教育に関する研究会  中間報告書』内閣府経済社会総合研究所,2005 年 [6] 西澤正純「好調なフィリピン経済をけん引する海外出稼 ぎ労働者の送金事情」海外情報レポート,日本商工会議 所 《http://www.jcci.or.jp/news/trend-box/2013/1010110405. html》,2013 年 [7] 山岡道男他『21 世紀における経済教育政策の日米比較─ 経済リテラシーテストの分析結果から─』早稲田大学経 済教育研究所,2003 年 [8] CouncilforEconomicEducation“EconomicLiteracyQuiz” 《http://www.councilforeconed.org/news-information/ economic-literacy-quiz/》,2013 年 [9] LibraryEconomicsLiberty“The51KeyEconomicsCon-cepts:HighSchoolEconomicsTopics” 《http://www.econlib.org/library/Topics/HighSchool/ KeyConcepts.html》

[10]National Center for Education Statistics “Economics 2012:NATIONALASSESSMENTOFEDUCATIONAL PROGRESSATGRADE12”,2013 年

[11]Salemi,MichaelK.“TeachingEconomicLiteracy:Why, WhatandHow”International Review of Economics Edu︲ cation,volume4,issue2,pp.46-57,2005 年

[12]Sasaki,KandDiaz,N.“HighSchoolEconomicsinthePhil-ippines” Journal of Hokkaido University of Education (HumanitiesandSocialSciences)Vol.64No.2,2014 年 [13]TheFederalReserveBankofMinneapolis“Economic LiteracySurvey:ResultsoftheEconomicLiteracySur-vey” 《https://www.minneapolisfed.org/publications_papers/ pub_display.cfm?id=3580》,1998 年 [14]WasedaInstituteforEconomicsEducation“CollectedPa-personEconomicLiteracyinAsia-PacificRegion”,2004 年 [15]OECD/CERIInternationalConference“Learninginthe 21stCentury:Research,InnovationandPolicy”,2008 年 [16]National Assessment of Educational Progress “What

DoestheNAEPEconomicsAssessmentMeasure?”Insti︲ tution Education Science,2012 年

The Japan Society for Economic Education

表 2 フィリピンの高校経済学 学習内容 1 期 経済学の原理,フィリピンの経済史,資源,希少性,ニーズとウォンツ,消費 2 期 配分,生産,ミクロ経済学の基礎 3 期 マクロ経済学の基礎,インフォーマル部門,農業・漁業,工業 4 期 公共部門,国際貿易,経済成長・開発,経済開発

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