標数
0
における対称群の表現論について
京都大学大学院理学研究科数学・数理解析専攻修士 2 年 土岡俊介
∗平成 18 年 8 月 6 日
このたびは第 3 回城崎新人セミナーに参加させていただき,大変有意義な時間を過ごさせていた だきました.セミナーの運営にご尽力された方々に厚く御礼申し上げます.報告集には標数 0 にお ける対称群の表現論についてまとめたものを報告させていただきます.具体的には対称群の表現論 とは一見無関係に思われる対称多項式の結果を用いて,対称群の既約表現の既約指標等を求めます.0
Young
図形についての準備
対称群(あるいは古典群)の表現論は Young 図形を中心とした組合せ論の言葉で語られること が多い.議論が脱線しないようにするために基本的な用語の定義はしないが.混乱が生じないよう に以下必要な記法を確認・固定しておく.用語は [F] に従ったので,詳しくはそちらを参照してい ただきたい. 定義 0.1. (Young 図形に関する言葉) • λ が n の分割であることを λ ` n で表す.λ = (λ1,· · · , λl)(ここで λ1≥ λ2≥ · · · ≥ λl)と か λ = (1m1, 2m2,· · · ) のように記し,さらに |λ| = n, l(λ) = l と定義する. • 分割全体の集合 {λ ` n | n ≥ 0} を P で表す. • λ = (λ1,· · · ), µ = (µ1,· · · ) ` n について支配的順序 λ D µ を任意の自然数 k に対して k ∑ i=1 λi≥ k ∑ i=1 µiが成り立つことと定める.また λ≥ µ を,λ = µ,または,ある自然数 k が 存在して,任意の i < k について λi= µiかつ λk> µkが成り立つことと定義する(≥ はい わゆる逆辞書式順序であり,また全順序である). • このレポートで Young 図形というときは,箱に数が入っていないものを意味する1.• このレポートで Young 盤というときには,通常の semi-standard Young 盤を意味する. • λ 型の標準 Young 盤,Young 盤全体をそれぞれ STab(λ), SSTab(λ) で表す.
• λ/µ 型の標準 skew Young 盤,skew Young 盤全体をそれぞれ STab(λ/µ), SSTab(λ/µ) で表す. • このレポートで λ 型の numbering というときは,λ 型の Young 図形に 1 から |λ| までの数を
丁度 1 つずつ(何の制約もなく)書きこんだものを意味する. ∗e-mail:[email protected]
• λ ` n 型の numbering 全体を Num(λ) で表す.
• Young 盤または numbering T について,その i 行 j 列の箱に書かれている数を Tijで表す.
• Young 盤 T について,その内容 (content) を cont T で,行語 (row word) を word T で表す.
• µ ` n とする.Sn中で,サイクル型が µ の共役類全体の集合を C(µ) と記す. 定義 0.2. (Young 図形で記述される数) • λ, µ ` n について Kostka 数 Kµλを Kµλ def = #{T ∈ SSTab(µ) | cont T = λ} で定義する. • λ ` m, µ ` n, ν ` m + n について,Littlewood-Richardson 係数 cν λµを次式で定義する2 cνλµ def
= #{T ∈ SSTab(ν/λ) | cont T = µ かつ word T は Yamanouchi 語 }
例 0.3. (Littlewood-Richardson 係数の計算例) m = n = 3, λ = µ = (2, 1) = としたときに ν` 6 について Littlewood-Richardson 係数 cνλµを計算した例を以下のように表で示す. FF F FF 1 1F 2 FF 1 1 F 2 FF 1 F 1 2 FF 1 F 1 2 c(5,1)(2,1)(2,1)= 0 c(4,2)(2,1)(2,1)= 1 c(2,1)(2,1)(4,1,1) = 1 c(3,3)(2,1)(2,1)= 1 c(3,1,1,1)(2,1)(2,1)= 1 FF 1 F 1 2 FF 1 F 2 1 FF F 1 1 2 FF F 1 1 2 FF F c(3,2,1)(2,1)(2,1)= 2 c(2,2,2)(2,1)(2,1)= 1 c(2,2,1,1)(2,1)(2,1)= 1 c(2,1,1,1,1)(2,1)(2,1) = 0
1
対称群の既約表現の分類
半単純な有限次元C-代数の表現論の一般論が整理されている現代的な枠組みに従えば,半単純 環C[Sn]の既約表現を求めるには,C[Sn]の原始的冪等元を求めればよい.それは Young 対称子 というものであることが知られている. 定義 1.1. (Young 対称子)2Yamanouchi語というのは物理学者の山内恭彦に由来する.reverse lattice word ということも多い.ここで語 w が
Yamanouchi語であるとは,語を一番右端から(左向きに)k 個分だけ見たときに,そこまでにおける数 l の出現回数を dk l とすると,任意の k≥ 1 について i < j =) dk i ≥ d k j が成立することを意味する.
• λ = (λ1,· · · , λl)` n について,Tλ∈ STab(λ) を標準的に次で 1 つ定めておく. Tλ= 1 · · · · λ1 λ1+ 1 · · · · λ1+ λ2 .. . n− λl+ 1 · · · n • Sn は λ ` n 型の numbering の集合 Num(λ) に,(σ · T)ij def = σ(Tij)で作用する(ここで σ∈ Sn, T ∈ Num(λ)). • λ ` n 型の numbering T ∈ Num(λ) について,その水平置換群 R(T) と垂直置換群 C(T) をそ れぞれ次式で定義する. R(T ) ={σ ∈ Sn | σ · T は T の行を置換したものになっている } C(T ) ={σ ∈ Sn | σ · T は T の列を置換したものになっている } • 上の状況でさらに水平対称子 aT,垂直対称子 bT,Young 対称子 cTを次式で定義する(これ らはいずれもC[Sn]の元である). aT = ∑ σ∈R(T) σ, bT = ∑ σ∈C(T) (sgn σ)σ, cT = aTbT • 特に λ ` n について aλ= aTλ, bλ= bTλ, cλ= cTλ, Rλ= R(Tλ), Cλ= C(Tλ)と定義する. • λ ` n について左 C[Sn]加群 Sλを Sλ=C[Sn]cλで定義する. • λ = (λ1,· · · , λl)について Sλ def= Sλ1×· · ·×Sλlとおく.ここで自然な包含群準同型 S λ,→ S n があるが,これから Mλ= IndSn SλC と定義する.ただし C は自明表現を表す. 実は T ∈ Num(λ) であれば aT などの役割は aλと大して変わらないのであるが,証明の準備上 区別しておいた.対称群の既約表現の分類に必要な組合せ論的準備をしておこう. 補題 1.2. (支配的順序) S, T をそれぞれ λ, µ` n 型の numbering とする.ここで λ 6 .µ であれば 次のいずれかが(一方だけ)成立する. • ある相異なる i, j が存在して,この 2 数は T の同じ行と S の同じ列に存在する. • λ = µ であり,ある p ∈ R(S), q ∈ C(S) が存在して T = p · q · S と書ける. 略証 前者が成り立たないとしよう.このとき T の第 1 行にある数はどれも S の異なる列に存在す ることが分かる.この考えを繰り返し適用すると λD µ が分かり,仮定から λ = µ. よって,ある q1∈ C(S) が存在して q1· S と T の第 1 行にある数は種類が一致する.この考えを 繰り返し適用すると,ある q∈ C(S) が存在して q · S と T は各行にある数の種類が一致する.故 にある p∈ R(S) を用いて T = p · q · S とできる.
系 1.3.(Young 対称子の特徴付け)λ` n を 1 つ固定しておく.c ∈ C[Sn]が,任意の p∈ Rλ, q∈ Cλ について p· c · (sgn q)q = c を満たすことと,ある複素数 β が存在して c = βcλと書けることは同 値である. 略証 ある複素数 β が存在して c = βcλと書ければ上で述べられている条件を満たすことは明らか なので,これの逆を示そう. まず Rλ∩ Cλ={1} であることに注意しよう.従って,任意の σ ∈ Snは p∈ Rλ, q∈ Cλを用い て σ = pq と書けたとすると,それは 1 通りに限る. さて c = ∑ σ∈Sn γσ·σ が,任意の p ∈ Rλ, q∈ Cλについて p·c·(sgn q)q = c を満たすとすると,任 意の p∈ Rλ, q∈ Cλ, σ∈ Snについて γpσq= (sgn q)γσが成り立つ.よって特に γpq= (sgn q)γ1. 故に,σ∈ Snが p∈ Rλ, q∈ Cλを用いて σ = pq と表せないときに γσ= 0を示せばよい.補題 1.2.の対偶を考えると,ある相異なる i, j が存在して,この 2 数は σ· Tλの同じ行と Tλの同じ列に 存在する.つまり p0= σ(i, j)σ−1∈ Rλ, q0= (i, j)∈ Cλであって, γσ= γp0σq0= (sgn q0)γσ= −γσ よって σ6∈ RλCλならば γσ= 0であることが示された. 系 1.4. (Young 対称子の性質) λ, µ` n について λ > µ ならば cλ· cµ= 0である. 証明 特に,任意の x∈ C[Sn]について aλxbµ= 0を言えばよく,そのためには任意の σ∈ Snに ついて aλσbµ= 0を言えばよい. aλσbµ= aλσbµσ−1σ= aTλbσ·Tµσ である.λE µ であれば λ ≤ µ であるはずだから λ 6E µ. 従って補題 1.2. より,ある相異なる i, j が存在して,この 2 数は Tλの同じ行,σ· Tµの同じ列に存在する.π = (i, j) とおくと, aTλbσ·Tµ = (aTλπ)· (πbσ·Tµ) = (aTλ)· (−bσ·Tµ) = −aTλbσ·Tµ 以上で示された. 定理 1.5. (対称群の既約表現の分類) Snの既約表現の同型類の完全代表系は{Sλ| λ ` n} で与えられる. 証明 系 1.3. よりある βλ∈ C が存在して,cλcλ= βλcλとなることに注意しよう.ここで任意の λ` n について βλ6= 0 が言えたとすると,cλたちは”ほとんど”冪等元であり,標数 0 の体C 上で 考えているから,
dim HomC[Sn](Sλ, Sλ) = dim cλC[Sn]cλ= dimCcλ= 1
であるから Sλは各々既約である.一方,λ6= µ とすると,λ > µ であるとしても一般性を失わず,
系 1.4. より,
なので左C[Sn]-加群として Sλ6∼= Sµ.一般論より Snの既約表現の同型類は Snの共役類の個数 だけあるので,これがすべてである. よって,任意の λ` n について βλ 6= 0 を示そう.右乗法 ρ : C[Sn]→ C[Sn], x7→ xcλを考え る.C[Sn]は半単純だから A = Sλ⊕ I と適当な左 C[Sn]-加群 I を用いて分解し,Im ρ∈ Sλであ るから Trace ρ = βλdim Sλが成立する.一方,Rλ∩ Cλ={1} より Trace(ρ) = ∑ p∈Rλ,q∈Cλ (sgn q) Trace(pq) =|G| であるから|G| = βλdim Sλを得る.よって特に βλ6= 0. 私は出来上がった形でしか対称群の既約表現の分類・構成を学んだことがないので,先人がどの ようにして上のような議論に至ったのかは分からない.Sλは Specht 加群と言われるものであるが, Specht自身は無限次元の表現空間である n 変数多項式環C[x1,· · · , xn]への Snの作用の中からこ れを見出したそうである. ところで,λ` n は Snの共役類と対応がつくことがよく知られているので,何も考えなければ {Mλ| λ ` n} が既約表現の同型類の完全代表系になっていることを期待しそうだが,実はそうでは ない.ただし Mλは左乗法による S n/Rλへの作用の線形化(左剰余類表現)として実現できるの で作用が見易いという利点がある.また Mλ=∼ C[S n]aλなので理論的にも扱いやすい. Sλも polytabloid というものを使って具体的に基底を構成し,作用も見ることが出来る.この ような議論は対称群の正標数の体上の表現論において有用であることが知られている.またその ような議論をすれば dim Sλ = #STab(λ)などが分かる.しかしここではそのような立場はとらず, {Mλ| λ ` n} の情報から出来るだけ {Sλ| λ ` n} の情報を引き出す(具体的には指標を決定するこ とを意味している)という立場をとる.これはリー環論において,支配的正ウェイト λ∈ P+につ いて,まずは最高ウェイト λ の Verma 加群 M(λ) の指標を求めておいてから,既約最高ウェイト λの最高ウェイト表現 V(λ) の Kac-Weyl の指標公式を求める議論に似ている.その鍵になるのが, 次の 2 つの命題である. 命題 1.6. (Young の規則(暫定版)) 適当な自然数 kµλが存在して,Mλは次の形に書ける. Mλ= S∼ λ⊕ M µ`n,µ>λ (Sµ)⊕kµλ 略証 まず Mλ 中には Sλが 1 つだけ出てくることを示そう.aλaλ= #Rλaλより”ほとんど”冪等元 であることに注意すると,
dim HomC[Sn](Sλ, Mλ) = dim HomC[Sn](M
λ, Sλ) = dim a
λC[Sn]cλ= dimCcλ= 1
であるから示された.ここで最右辺から 2 番目の式変形に系 1.3. を用いた. 次に µ < λ であるとすると,
dim HomC[Sn](Sµ, Mλ) = dim aµbµC[Sn]aλ= dim{0} = 0
より Sµは Mλの既約直和分解には現れないことが分かる.ここで最右辺から 2 番目の式変形に,
µ6 .λ と補題 1.2. を用いたお決まりの議論で bµC[Sn]aλ= 0が言えるということを用いた.なお,
命題 1.7. (Mλの指標) λ = (λ 1,· · · , λn), µ = (1m1,· · · , nmn)` n とする.Mλの C(µ) におけ る指標の値は n ∏ i=1 (xi1+· · · + xin)miの xλ1 1 · · · x λn n の係数で与えられる. 略証 今度は Mλ を左剰余類表現として実現したものを用いて考察する.この場合はさらに tabloid と呼ばれる Young 盤の変種を基底とする線型空間で考えたほうが作用が見易いが,どちらにして も初等的な議論になるので詳細は省略する.
2
対称群の表現環の構造
対称群全体は S1,S2,· · · というように系列を成しているために,各 Snの Grothendieck 群を直 和して一斉に考えることができる.さらに以下に定義するように,それには次数付きZ-代数の構 造が入る.この環が,中学生以来慣れ親しんできた「無限変数の対称多項式環」と同型になるとい うのがこの節の内容である. 定義 2.1. (対称群の表現環) • Snの表現 V の同値類を [V] で表す. • 次の生成元と関係式で定まる Z-加群を Snの Grothendieck 群と呼び,Rnで表す. 生成元:{[V] | V は Snの表現} 関係式: [V⊕ W] = [V] + [W] • R =M n≥0 Rn(ただし R0=Z)には,Smの表現 V,Snの表現 W について, [V]¦ [W]def= [IndSm+n Sm×SnV£CW](∈ Rm+n) とすれば単位的結合的次数付き可換Z-代数の構造が入る(ただし,S0={1} とし,R0の生 成元 [1] は S0の自明表現と解釈する).これを対称群の表現環3と呼ぶ. • R には λ, µ ∈ P について h[Sλ], [Sµ]i = δ λµとすることで正値対称Z-双線型形式が入る. 定義 2.2. (無限変数対称多項式環) • 自然数 m ≥ n について, ϕm,n:Z[x1,· · · , xm]→ Z[x1,· · · , xn], xi7→ xi (1≤ i ≤ n) 0 (n < i≤ m) で環準同型写像を定める. • n 変数対称多項式環 Z[x1,· · · , xn]Sn を Λnと表し,そのうち斉次 k 次対称多項式(0 も含 む)全体のなす部分加群を Λk nと表す. 3これはあまり一般的な用語ではない.• ϕm,nの Λkmへの制限は,加法準同型 ρkm,n def = ϕm,n¯¯Λk m : Λkm→ Λknを引き起こす. • 固定された k ≥ 0 について {ρk m,n: Λkm → Λkn | m ≥ n} は射影系をなす.これを用いて, Λk def= lim ←−k Λkn, Λ def = M k≥0 Λk と定義する.Λ には自然に単位的結合的次数付き可換Z-代数の構造が入る.これを無限変数 対称多項式環4という. ではこの節で活躍する(無限変数)対称多項式を定義しよう.いずれも昔からなじみのあるもの ばかりである. 定義 2.3. (単項対称多項式,冪和対称多項式,完全対称多項式,Schur 対称多項式,) • λ = (λ1,· · · , λl)∈ P について,単項対称多項式 mλ∈ Λ|λ|を次式で定義する. mλ= ∑ i1,··· ,il xλ1 i1 · · · x λl il ただし,ここで和は指数 (λ1,· · · , λl)をもつすべての異なる単項式についてとる. • n ≥ 1 について n 次の冪和対称多項式 pn ∈ Λn,完全対称多項式 hn ∈ Λnをそれぞれ pn= ∑ k≥1 xnk, hn = ∑ λ`n mλ で定義し,λ = (λ1,· · · , λl)∈ P については次式で定義する. pλ= pλ1· · · pλl(∈ Λ |λ|), h λ= hλ1· · · hλl(∈ Λ |λ|) • λ = (λ1,· · · , λl)∈ P について,Schur 対称多項式 mλ∈ Λ|λ|を次式で定義する5. sλ= ∑ T∈SSTab(λ) xT ¡ここで,xT def= ∏ k≥1 x#{(i,j)|Tij=k} k ¢ 注意 2.4. • ここでは [M] に従って Λk, Λを定義した.逆極限のように普遍写像性質を使って定義された 対象は,抽象的な議論によってある種の性質は簡単に論じられたり,基底に依らない定義が できて便利だが,実際にどのようなものかは分かりにくい.ここでは証明しないが, Λk=M λ`k Zmλ, Λ= M λ∈P Zmλ (Λ についてはさらに自然に積構造も入れたもの)として Λk, Λは具体的に実現されること が分かる.以下,Λ はこれによって実現されるものと同一視する.
4これもあまり一般的な用語ではない.英語では the ring of symmetric functions と言われることが多い.
5Schur対称多項式にはこれ以外にもたくさんの(同値な)定義が知られている.ここで採用した定義では,多項
式が実際にどういうものかは分かりやすいが,対称であることが明らかではない.Schur 自身は s–(x1;· · · ; xm) =
• Λ の定義は一見仰々しいが,例えば中学生のときから (x1+ x2)2= (x21+ x 2 2) + 2(x1x2) (x1+ x2+ x3)2= (x21+ x 2 2+ x 2 3) + 2(x1x2+ x1x3+ x2x3) etc というような計算には慣れ親しんでいる.Λ はこのような素朴な経験の 1 つの定式化であり, Λ中では上の一連の等式は m2= m + 2m として理解される. • ^Λを ρm,n def = ϕm,n¯¯Λ m: Λm→ Λnを用いて,射影系{ρm,n: Λm → Λn | m ≥ n} の逆極限 として ^Λ= lim ←−n Λnと定義した場合,それは定義 2.2. の Λ とは異なる. ^Λは ^ Λ= ∏ λ∈P Zmλ と実現されるものであり,Λ より真に大きい環である. • Λk をとる操作と係数拡大(テンソル積)は交換する.つまり,任意の可換環 A に対して A-係数の多項式環から出発して定義 2.2. のように作った Λ を ΛAとおくと,標準的な同型 ΛA= Λ∼ ⊗ZAが成立する. 補題 2.5. (基底の変換公式) λ` n について, hλ= sλ+ ∑ µ`n,µBλ Kµλsµ が成り立つ. 略証 これは古くから知られていることであり,おそらく証明もたくさん知られていることと思う. 私が知っているのは Robinson-Schensted-Knuth 対応(RSK 対応)と呼ばれる Young 図形に関する 組合せ論を用いるものであるが,レポートの本筋とあまり関係がないのでここでは言及するにとど めておく.後に,この補題 2.5. が第 1 節に出てきた Mλの既約分解に対応する表現論的解釈を持 つことについて述べるであろう. 命題 2.6. (Λ の基底) • {hλ| λ ∈ P}, {sλ| λ ∈ P} はそれぞれ Λ の Z-基底である. • {pλ| λ ∈ P} は ΛQ = Λ⊗ Q の Q-基底である. 略証 どれも経験的にはよく知っていることである.定義からある整数 cµλが存在して, sλ= mλ+ ∑ µ<λ cµλmµ と書けることと,{mλ| λ ∈ P} が Λ の Z-基底であることから {sλ| λ ∈ P} が Λ についての主張は 明らかである.同様の議論で,補題 2.5. より{hλ| λ ∈ P} が Λ についての主張も従う. {pλ| λ ∈ P} に関する主張は, nhn− p1hn−1− p2hn−2−· · · − pn = 0
であること(Newton の公式)から従う.これは, ∑ n≥0 hntn = ∏ i≥1 1 1− xit , ∑ n≥0 pn tn n = log ∏ i≥1 1 1− xit という母関数表示から導くことができるが,詳細は省略する. 定義 2.7. (無限変数対称多項式環上の内積)(命題 2.6. より)Λ 上に,λ, µ∈ P について hsλ, sµi = δλµとすることで正値対称Z-双線型形式を定める. 命題 2.8. (対称多項式の直交関係式) 任意の λ, µ∈ P について, hhλ, mµi = δλµ, hpλ, pµi = zλδλµ が成立する.ここで,λ = (1m1,· · · , kmk)∈ P に対して,z λ def = k ∏ j=1 jmj· m j!とする6. 略証 議論の本筋から離れるので詳細は省略するが,証明の要点は,母関数表示を式変形して, ∏ i,j≥1 1 1− xiyj = ∑ λ∈P hλ(x)mλ(y) = ∑ λ∈P 1 zλ pλ(x)pλ(y) を,前に言及した RSK 対応呼ばれる Young 図形の組合せ論を再び用いて, ∏ i,j≥1 1 1− xiyj = ∑ λ∈P sλ(x)sλ(y) を示すことである.最後の式は Cauchy-Littlewood の公式と呼ばれ古くから知られている一方で, (GL, GL)-双対性と呼ばれる表現論的解釈を持つ. 定義 2.9. (基底の変換公式) 命題 2.6. より λ, µ` n について,χλ µ, ξ λ µ∈ Z が次式で定義できる. pµ= ∑ λ`n χλµsλ= ∑ λ`n ξλµmλ 系 2.10. (基底の変換公式) 命題 2.8. と定義 2.9. より,λ` n について次の公式を得る. sλ= ∑ µ`n 1 zµ χλµpµ, hλ= ∑ µ`n 1 zµ ξλµpµ 定理 2.11. (対称群の表現環の構造定理) Ψ: Λ→ R, sλ7→ [Sλ] で定まる写像は次数付きZ-代数の同型写像であり,さらにそれぞれの Z-双線型形式 h, i を保つ. 6–` n のとき,#C(—) = n!=z –で与えられる.
証明 [M] に有名な証明があるが,ここでは [F] に従って示す.示すことは, ^ Ψ: Λ→ R, hλ7→ [Mλ] で定義された写像が次数付きZ-代数の同型写像であり,それぞれの Z-双線型形式 h, i を保ち,さ らに ^Ψ(sλ) = [Sλ]が成立する(つまり ^Ψ= Ψ)ことである. • まず ^Ψ が Z-代数準同型であることを示そう.生成元(特に基底)について示せればよいの で,λ = (λ1,· · · , λl)のとき,hλ= hλ1· · · hλlであったことに注意すると,命題 2.6. より, [M(λ1)]¦ · · · ¦ [M(λl)] = [Mλ] であることを示せばよい.これは, [M(λ1)]¦ [M(λ2)] = [C[S λ1+λ2]⊗C[Sλ1×Sλ2]C £CC] ∼ = [C[Sλ1+λ2]⊗C[S(λ1,λ2)]C] = [IndSλ1+λ2 S(λ1,λ2)C] = [M (λ1,λ2)] なる計算を繰り返し用いることで達せられる. • 次に ^Ψ が全単射であること(つまり同型であること)を示そう.命題 1.6. より,{[Mλ]| λ ∈ P} は R のZ-基底である.これと再び命題 2.6. より,^Ψ は基底を基底に移すので ^Ψ は全単射で ある.また ^Ψが次数を保つことは明らかである. • ^Ψ が h, i を保つことについては,^Ψ の逆写像を構成し,それについて同じ主張を示せばよい. Vを Snの表現,その指標を χ で表し,その C(µ) での値を χ(C(µ)) と記す.ここで逆写像 の候補を考えてみる.系 2.10. を参考にすると,[Mλ]7→ hλ= ∑ µ 1 zµ ξλµpµとなっており,命 題 1.7. より ξλ µは Mλの指標の C(µ) における値であることに注意しよう.そこで, Θ: R→ ΛQ, [V]7→∑ µ`n 1 zµ χ(C(µ))pµ によって写像を構成すると先ほどの考察から, Θ◦ Ψ : Λ ,→ ΛQ (包含環準同型) である.ところで Ψ は R への特に上への写像であったから,実は Θ : R→ Λ でありこれが 求める逆写像である. • Θ が h, i を保つことを示そう.V, W を Snの表現,f, g をそれぞれ V, W の指標とすると, hΘ([V]), Θ([W])i = ∑ λ,µ`n 1 zλzµ f(C(λ))· g(C(µ)) · hpλ, pµi 2.8. =∑ λ`n 1 zλ f(C(λ))· g(C(λ)) = 1 n! ∑ σ∈Sn f(σ)· g(σ−1) =h[V], [W]i よって Θ が(そして ^Ψが)h, i を保つことを示された.
• 最後に, ^Ψ(sλ) = [Sλ]を示そう.命題 1.6. と補題 2.5. を見比べると, hλ= sλ+ ∑ µBλ Kµλsµ, Mλ= Sλ⊕ M µ>λ (Sµ)⊕kµλ であるから,帰納的にある整数 mµλを用いて ^ Ψ(sλ) = [Sλ] + ∑ µ>λ mµλ[Sµ] と書けることが分かる.一方で ^Ψはh, i を保つので, 1=hsλ, sλi = h^Ψ(sλ), ^Ψ(sλ)i = 1 + ∑ µ>λ m2µλ 故に ^Ψ(sλ) = [Sλ]が示された. 注意 2.12. 定理 2.11. で構成した逆写像(以下で V は Snの表現,χ は V の指標) Θ: R→ Λ, [V] 7→ ∑ µ`n 1 zµ χ(C(µ))pµ を ch = Θ と書き,指標写像 (characteristic map) と呼ぶことがある. 何故このような定理が成り立つのか私にはよく分からないが,定理 2.11. はとても興味深く定理 だと思う.一方でこの定理を使って対称多項式で成り立つ事柄を対称群の表現論の言葉に翻訳して みると,実に様々なことが言えてしまうという意味で,非常にたくさんの応用を持つ定理だとも言 える.いくつかこの定理 2.11. の応用を見てみよう. 系 2.13. (Young の規則) 補題 2.5. より,λ` n について, Mλ= S∼ λ⊕ M µ`n,µBλ (Sµ)⊕Kµλ と分解することが分かる(これは命題 1.6. の精密化と言える). 系 2.14. (Frobenius の指標公式) 定義 2.9. と注意 2.12. より,λ, µ` n について,Snの既約表 現 Sλの C(µ)-共役類での指標の値は χλ µである. 実際問題として,これによって Sλの指標を”速く”求められるということはないようであるが, 連立 1 次方程式の Gramer の公式のように理論的にはよく振舞う記述であると思う.指標を求める 公式としては他にも Murnaghan-Nakayama の規則という組合せ論的な記述も知られている. 系 2.15. (Littlewood-Richardson の規則) λ` m, µ ` n について,次の直和分解が成立する. IndSm+n Sm×SnS λ£ CSµ=∼ M ν`m+n (Sν)⊕cνλµ
系 2.15. は λ` m, µ ` n としたときに,Schur 対称多項式において成り立つ恒等式 sλsµ= ∑ ν`m+n cνλµsν の直接の言い換えである.この恒等式自体は Young 図形の組合せ論で知られている RSK 対応,
Sch¨utzenbergerの jeu de taquin7, Knuth同値関係などの道具立てを駆使して純粋に組合せ論的に証
明することができるが,かなり大変な証明になる. 系 2.16. (Pieri の規則) 系 2.15. を µ = (1)` 1 に適用すると,λ ` n について, IndSn+1 Sn S λ ∼ =M λ ˙⊂µ Sµ なる既約直和分解を得る.ここに λ ˙⊂µ とは,µ 型の Young 図形が λ 型の Young 図形に 1 つ箱を付 け加えたものであることを意味する.
参考文献
[F] William Fulton. Young Tableaux. Cambridge University Press, 1997
[M] I. G. Macdonald. Symmetric Functions and Hall Polynomials. Oxford University Press, 1995 [W] Hermann Weyl. The Classical Groups. Princeton University Press, 1966