整 形 外 科 と 災 害 外 科 47:(2)479∼484,1998. 479
当科 にお ける先天性股 関節脱 臼の治療 成績
九州厚生年金病院整形外科
劉
斯
允 ・寺
戸
一
成
野
口
康
男
Radiological Results of Congenital Dislocation of the Hip by
Suyun Ryu, Kazushige Terado and Yasuo Noguchi Department of Orthopaedic Surgery,
Kyushu Kouseinenkin Hospital
Radiological results of twenty four congenitally dislocated hip joints of twenty three patients, which had been reduced by the Pavlik harness (eleven joints), manual reduc-tion (ten joints), or open reduction (three joints) were assessed using Severin's classifi-cation. Severin's classification at the latest follow-up (more than six years old) was as follows; ten of group I a, twelve of group ‡V, and two of group ‡W. Regarding joi-nts which were reduced by the Pavlik harness, the average age of patients with good results (group I a) was less than that of patients with poor results (group ‡V). One joint with severe deformity due to avascular necrosis showed a poor radiological result.
Key words:Congential dislocation of the hip(先 天 性 股 関 節 脱 臼),Radiological result (X線 成 績) は じ め に 1982年 か ら1996年 まで の15年 間 に,当 科 に て 補 正 手術 を 含 め15歳 未 満 で 先 天 性 股 関 節 脱 臼 の 治 療 を 受 け た 症 例 数 は87例97関 節 で あ っ た.受 診 年 齢 別 に は2歳 か ら10歳 まで の42人 が 最 も多 く,そ の 次 は0 歳 か ら4カ 月 まで の18人 で あ った(図1).治 療 法 別 に み る と初 期 治療 で は リー メ ン ビ ュ ーゲ ル装 具(以 下 R.B.)が42例,徒 手 整 復 が25例,観 血 整 復 術6例 で,そ の後 の補 正 手術 と して 内 反 骨 切 り術,減 捻 内反 骨 切 り術,Salter手 術 な どが 行 な わ れ て い た(図2). 今 回 は,そ の うち 当科 に お い て 先 天 股脱 の整 復 を行 い, 6歳 以 後 ま で経 過観 察 で きた 症 例 につ い て,整 復 法 別 に整 復 月令 や ペ ル テ ス様 変 化 の 有 無 とX線 成 績 との 関連 性 につ い て検 討 した の で 報 告 す る. 症 例 当科 に て 整復 した 先 天 性 股 関 節 脱 臼 は62例64関 節 あ っ た が,そ の うち 転 院,転 居 で 連 絡 不 能 お よ び最 終 追跡 時年 齢 が6歳 未 満 の 症 例 を除 い た23例24関 節 を 調 査 対 象 と した.そ の 内 訳 は 女 性19例,男 性4例 で, 片 側 脱 臼22例,両 側 脱 臼 は1例 で あ っ た.追 跡 期 間 は5.4年 か ら20.9年 で 平 均12.3年 で あ っ た.整 復 法 別 で は,RB整 復 例11例11関 節,徒 手 整 復 例10例 10関 節,観 血 整 復 例2例3関 節 で あ った. 方 法 最 終 受 診 時 のX線 成 績 をSeverinの 判 定 基 準 に て 評 価 した3).Severinの 判 定基 準 はGradeＩ の 正 常 股 か ら,GradeⅡ の 変形 股 関節,GradeⅢ の 臼 蓋 形 成
図1初 診年齢 図2初 期治療 及び補正手術の内訳 表1 Salterの 基 準(Perthes病 様 変 化 の 診 断 基 準) (1)整 復 後1年 以 上 にわ た っ て骨 端 核 が 出現 しな い と き (2)整 復 後1年 以 上 に わた っ て骨 端 核 が 成 長 しな い と き (3)整 復 後1年 間 に,骨 幹 端 部 の 幅が 広 くな る と き (4)骨 端 核 の 分 節 像 と,そ れ に引 き続 く硬 化 像 (5)骨 端 核 と骨 幹 端 部 の 変 形 残 存
481 不 全,Grade Ⅳ の 亜 脱 臼,Grade Ⅴ の 二 次 臼 蓋 形 成 そ し てGrade Ⅵ の 再 脱 臼 ま で の6段 階 に 判 定 す る 方 法 で あ る.ま た,Perthes様 変 化 の 診 断 はSalterの 基 準2)を 用 い て 検 討 し た(表1). 結 果 最 終 時 のSeverin判 定 は 全 体 で は Ｉaが10関 節, Ⅲ が12関 節,Ⅳ が2関 節 で あ っ た.整 復 法 別 に 見 て い く と,リ ー メ ン ビ ュ ー ゲ ル 整 復 例 の11関 節 中, Severin判 定 は Ｉaが5関 節,Ⅲ が6関 節 で,そ れ 以 外 は な か っ た.整 復 時 月 令 は3か ら19カ 月 で,平 均 8.1カ 月 で あ っ た.こ れ をSeverin判 定 別 で み て み る と,Severin Ｉaが 平 均6.4カ 月 に 対 し,Severin Ⅲ で は 平 均10.8カ 月 と,成 績 の 良 い ほ う が 平 均 の 整 復 月 齢 は 低 か っ た.Perthes様 変 化 は 見 ら れ な か っ た. 徒 手 整 復 例 の10関 節 中,Severin判 定 は Ｉaが3 関 節,Ⅲ が5関 節,Ⅳ が2関 節 で あ っ た.整 復 時 月 令 は8か ら18カ 月,平 均14.4カ 月 で あ っ た.こ れ を Severin分 類 別 で み て み て も Ｉa,Ⅲ,Ⅳ の 平 均 は そ れ ぞ れ15.3カ 月,13.3カ 月,11.5カ 月 で あ り,ほ と ん ど 差 は 見 ら れ な か っ た.Perthes様 変 化 が1関 節 に 見 ら れ,こ の 症 例 で はSeverin Ⅳaと 成 績 は 不 良 で あ っ た. 観 血 整 復 例 は2例3関 節 と 症 例 が 少 な い が,Severin 判 定 は Ｉaが2関 節,Ⅲ が1関 節 で あ っ た.整 復 時 年 令 は4歳1カ 月 に 年 長 例 が Ｉaの 良 好 な 成 績 を 示 した. ペ ル テ ス 様 変 化 を 示 し た 症 例 は な か っ た. 症 例 供 覧 【症 例1】 女 性,右 先 天 性 股 関 節 脱 臼 1歳 時 健 診 に て 右 先 天 性 股 関節 脱 臼 を指 摘 され,当 科 紹 介 受 診 と な る.RBを6カ 月 間装 着 し整 復 され た 症例 で,最 終 受 診 時,Sharp角41度,CE角19度 で Severin分 類 の Ⅲ と 臼蓋 形 成不 全 を残 した.健 側 の 右 で はSharp角 は47度,CE角 は23度 でSeverin分 類 の Ｉbで あ っ た.Perthes様 変 化 は な かっ た(図3). 【症 例2】 男 性,左 先 天性 股 関 節 脱 臼 処 女 歩 行 後 に診 断 され,1歳4カ 月 で 牽 引 後 徒 手 整 復 さ れ た.最 終 受 診 時,Sharp角54度,CE角-4 度 でSeverin分 類 の Ⅲ と 臼 蓋 形 成 不 全 を 残 し た が, 健 側 の右 股 で もSharp角49度,CE角3度 でSeverin 分 類 の Ⅲ で あ り,臼 蓋 形 成 能 が 先 天 的 に低 い可 能性 が 示 唆 され た(図4). 【症 例3】 男 性,右 先 天 性 股 関節 脱 臼 徒 手 整 復 例 で1歳6カ 月で牽 引 後,徒 手整 復術 を行 っ た が,ギ プ ス か らRBに 移 し た 際 に 再 脱 臼 を 認 め, 再 度 徒 手 整 復 術 を施 行 した.こ の よ う な経 過 に もか か わ らず,最 終 受 診 時,Sharp角40度,CE角24度 で Severin分 類 の Ｉaと 良 好 な成 績 で あ っ た.ち な み に 健 側 はSharp角41度,CE角24度 でSeverin分 類 の Ｉbで あ っ た(図5). 【症 例4】 女 性,両 先 天 性 股 関 節 脱 臼 初 診 は3歳10カ 月,入 園時 検 診 に て 跛 行 を 指 摘 さ れ,当 科 へ 紹 介 され 受 診.水 平 牽 引4週,オ ーバ ーヘ ッ ド牽 引2週,綱 線 牽 引2週 後 に観 血 整 復術 が 施 行 され 図3症 例1,女 性.1歳6カ 月 で リ ー メ ン ビ ュ ー ゲ ル 整 復 例.
A.整 復 前B.整 復 後3カ 月C.5歳D.17歳 の 最 終 受 診 時 で は 左 股 はCE角19度 のSeverin Ⅲ で あ っ た. E.最 終 時 の 健 側 はCE角23度 のSeverin Ｉbで あ っ た.
図4症 例2,男 性.1歳4カ 月 の徒 手整 復 例.
A.整 復 前B.整 復 後6カ 月C.5歳D.12歳 の 最 終 時,左 股 はCE角-4度 のSeverin Ⅲで あ っ た. E.最 終 時 の 健 股 はCE角3度 のSeverin Ⅲで,臼 蓋 形 成 能 の 低 下 を示 唆 す る 症 例 で あ っ た.
図5症 例3,男 性.1歳6カ 月 の 徒 手 整 復 例.
A.整 復 前B.整 復 後6カ 月C.5歳D.12歳 の 最 終 時,右 股 はCE角24度 のSeverin Ｉa E.最 終 時 の 健 側 もCE角24度 のSeverin Ｉaで あ っ た.
た.右 股 の 観 血 整 復 術 の 進 入 法 はSmith-Peterson 進 入路 に よっ て行 っ た.術 中 で は,関 節 外 障 害 因子 の 緊 張 した大 腿 直筋 及 び腸 腰 筋 を そ れ ぞ れ 下前 腸 骨 棘 や 小転 子付 着 部 よ り切 離 した.ま た,肥 大 した 円 靱帯 も 切 除 した.関 節 内介 在物 は 少 な か っ た.整 復 は容 易 で あ っ た が,股 関節 伸 展位 に て再 脱 臼 す る た め,整 復 後 Lange肢 位(外 転 内 旋 位)に て ギ プ ス 固 定 を し た. 左 股 も同様 に展 開 した が,関 節 内 障 害 因 子 の 関節 唇 の 内 反 が な か っ たが,整 復 困 難 の た め,関 節 唇 の2個 所 に 割 を 入 れ て 整 復 し た.術 後 で は3週 間 の ギ プ ス 固 定 を行 っ た あ と,Bachelor gypsを5週 間 装 着 さ せ, そ の 後 ロ ー ラ ー に て 両 股 関 節 の 運 動 を 開 始 し た.4週 後 に 外 転 装 具 装 着 に て 歩 行 訓 練 を お こ な っ た.最 終 受 診 時,左 股 で はSharp角 は43度,CE角 は34度 で Severin分 類 の Ｉaで あ り,右 股 で はSharp角 は38
度,CE角 は34度 でSeverin分 類 の Ｉaで あ っ た. Perthes様 変 化 は な か っ た(図6).
483
図6症 例4,女 性.4歳1カ 月 の 観 血 整 復 例.
A.整 復 前B.整 復 後6カ 月C.9歳D.13歳 の 最 終 時 に 右 股 はCE 角35度 のSeverin Ｉaで,左 股 もCE角34度 のSeverin Ｉaで あ っ た.
考 察
整 復 月齢 と最 終 時 のX線 成 績 と の 関 連 をみ る と,
RB整 復 例 で は,Group Ｉaの5関 節 の 平 均 整 復 月 齢 が6.4カ 月 で,Group Ⅲ の6例 の10.8カ 月 よ り 低 く,整 復 月 齢 は 低 い ほ う が 成 績 が よ い こ と を 示 唆 して
い る の か も知 れ な い.一 方,徒 手 整 復 例 で はGroup 間 で 明 らか な差 は な か っ た.症 例2の ご と く最 終 受 診 時 に両 臼蓋 形 成 不 全 の 症 例 が 存 在 す る.中 塚 ら1)は 片 側 性 先 天 股 脱 の 非脱 臼 側 にお い て 必 ず し もCE角 が 十 分 で な い こ とよ り,先 天 股 脱 患 者 に於 け る 内在 す る 臼 蓋 形 成 能 の低 い こ とを 指摘 して お り,今 回我 々 の調 査 で は片 側 性 先 天 股 脱 の19例 中 に,臼 蓋 形 成 能 が 低 い と示 唆 す る両 臼蓋 形 成 不 全 の 残 す 症 例 が2例 み られた. こ れ らの 症 例 もそ の範 疇 に 入 る と思 わ れ る.ペ ル テ ス 様 変 化 とX線 成 績 の 関 連 は,ペ ル テ ス 様 変 化 の 症 例 が 少 な く,明 ら か に は で きな い が,ペ ル テス 様 変 化 が み られ た徒 手 整 復 例 の1例 はGroup Ⅳ で成 績 は 不 良 で あ っ た. ま と め ①15年 間 に 当科 に て整 復 した62例64関 節 の 先 天 股 脱 例 の う ち6歳 以 上 まで 追 跡 した23例24関 節 (RB法11例11関 節,徒 手 整 復 法10例10関 節,観 血 整 復 法2例3関 節)のX線 成 績 を調 査 した. ② 最 終 時 のSeverin判 定 は 全 体 で は Ｉaが10関 節, Ⅲが12関 節,Ⅳ が2関 節 で あ った. ③ リー メ ン ビュ ー ゲ ル 整 復 例 で は整 復 月齢 の低 い症 例 に 成 績 が よい 傾 向 が み られ た が,徒 手 整 復 や 観 血 整 復 例 で は 明 か で は な か っ た. ④ ペ ル テ ス 様 変 化 は1例 の み で,そ の 症 例 のX線 成 績 は 不 良 で あ った. 参 考 文 献 1)中 塚 洋一ほか:Rb法 による先 天股 脱 ・股亜 脱 の治療 成績.臨 床整形外科,24:605-609,1989.
2) Salter, R. B.: Innominate osteotomy in the treatm-ent of congtreatm-ential dislocation and subluxation of the hip. J. Bone Joint Surg., 43-B : 518-539, 1961. 3) Severin, E.: Congential dislocation of the hip.
Dev-elopment of the joint after closed reduction. J. Bone Joint Surg., 32-A : 507-518, 1950.
