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堀江典生編著『現代中央アジア・ロシア移民論』(ミネルヴァ書房、2010年)  (大津定美)

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Academic year: 2021

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220 221 第一回地域研究コンソーシアム賞 受賞者発表 第六章    カザフスタンを経由する移民たち 第七章    モスクワの中央アジア移民 第Ⅲ部   中央アジアからカザフスタンへの移民 第八章    カザフスタン移民政策の基本コンセプト 第九章    カザフスタンへの移民 第一〇章   カザフスタンにおける移民定着の諸問題 第一一章   カザフスタンにおける移民の変容 第Ⅱ部と第Ⅲ部は、中央アジアからロシアへ、そして中 央アジからカザフスタンへという、二つの大きな流れを区 別して取り扱う。中央アジアとロシアの移民というと、従 来は送り出し先と受け入れ先と二分して、しかし流れは一 方向で捉えられてきた。しかし、経済成長軌道に乗り始め た カ ザ フ ス タ ン は、 二 〇 〇 二 年 か ら「受 入 国」 に 転 換 し た。この流れの変化を大きく捉えようとする点でも、本書 は新しいアプローチを試みているといえる。カザフ移民研 究としては、日本ではごく少数の論文があるだけだ。本書 の表題に「中央アジア」とあるが、カザフスタンの比重は 圧倒的に大きく、あえてワンセクションを設定している。 第Ⅳ部   市民・移民・地域の安全保障 第一二章   中央アジア、ロシアにおける移民と「人間 社会の安全保障」 第一三章   中央アジアのシティズンシップと安全保障 第一四章   シベリア・極東地域におけるステレオタイ プと移民恐怖症 第一五章   ロシアにおける超エスノフォビア 第一六章   カザフスタンにおける人身売買のリスク 第Ⅳ部は、これまでの諸章が人流・フローの側面を重視 した分析となっていたとすれば、ここではいわば人流が引 き 起 こ す「ス ト ッ ク の 課 題」 で、 「人 間 の 安 全 保 障」 、「エ スノフォビア」や「人身売買」など社会的課題とそれへの 対応など、これまでわが国ではあまり紹介されてこなかっ た問題だ。それを中央アジアという地域での特殊性を考慮 に入れた視角から迫るという、きわめてユニークな課題設 定とみることができる。 さらに、付録・付属資料「モスクワに住む中央アジア移 民たちの証言」は、モスクワで暮らす移民労働者・非合法 滞在者も含めて、計二〇人へのインタビューの実録で、第 Ⅳ部までのマクロな分析とは異なって、徹底的に個人に密 着 し た ラ イ フ ヒ ス ト リ ー、 移 民 労 働 者 と し て の 生 活 と 仕 事、モスクワという特殊な社会で家族から離れて一人で暮 らす人々のミクロの実像に迫ろうという試みである。街頭 で掃除人として働いている人に話しかけ、ましてや暮らし や所得についてあれこれ聞き出すのは、普通の日本人には 至難の業だ。こうした調査は、まさに国際的な研究協力な しには不可能で、本書のいまひとつの大きな特色となって いる。

書評

︵ ミ ネ ル ヴ ァ 書 房 、 二 〇 一 〇 年 ︶

︵ 神 戸 大 学 名 誉 教 授 ︶ ソ連社会主義が崩壊して二〇年、かつてソ連領であった 中央アジア諸国での経済と社会はどうなっているであろう か。それを労働移動と移民という問題を軸に検証しようと いうのが本書の狙いである。同趣旨の問題意識で、中・東 欧地域や中国・極東ロシアにおける状況を追求した類書が す で に い く つ か あ る が (文 末 リ ス ト 参 照) 、 中 央 ア ジ ア 地 域に関するわが国での包括的な研究書としては、本書が鏑 矢である。 本書は、文科省科研費の補助を受け実施された調査とそ れをもとに開催された大規模な国際シンポでの報告論文が もとになっている。執筆者の国籍は、ロシア、カザフスタ ン、韓国、日本の四か国となっているが、移民研究者の常 として、絶えず現地調査に歩き廻っているコスモポリタン が多いから、筆者の国籍をあまり重視する必要はないかも しれない。

本 書 の 編 別・ 省 別 構 成 は 以 下 の と お り で あ る (執 筆 者 名 は省略) 。 第Ⅰ部   中央アジア・ロシア移民問題の領域 第一章   中央アジア地域の人的資源と社会状況 第二章   労働移民がつなぐロシアと中央アジア 第三章   中央アジアにおける人身売買との戦い 第四章   CIS諸国の移民問題へのILOの取り組み 第 Ⅰ 部 は、 研 究 対 象 に つ い て の い わ ば 総 論 で、 第 一 章 は、中央アジア地域の経済・社会状況の人口論視角からの 概 論、 と く に 人 的 資 源 の ス ト ッ ク に 重 き を お い て 概 観 す る。第二章は、旧ソ連時代からの長い歴史をもつ中央アジ ア・ロシアの移民の歴史的・今日的問題状況を一瞥するも の で、 第 三 章 は、 「人 身 売 買」 と い う 特 定 の、 と は い え き わ め て 先 鋭 な 問 題 領 域 か ら の 問 題 提 起、 第 四 章 は I L O (国 際 労 働 機 関) が C I S の 労 働 移 動 問 題 を ど の よ う に 捉 えているかの概観を示している。 第Ⅱ部   中央アジアからロシアへの移民 第五章    シベリアへ向う中央アジア移民

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222 223 第一回地域研究コンソーシアム賞 受賞者発表 成 果 も 多 数 刊 行 さ れ て い る (と は い え、 こ の 地 域 で 国 境 を 接 し た 中 国 に は ま だ そ う し た 移 民 研 究 グ ル ー プ は 見 ら れ な い。このテーマはなお「禁じられた」分野に近いようだ) 。 評 者 は (私 事 と な る が) 、 主 に 第 二 の グ ル ー プ と こ の 一 〇年以上研究交流を重ねてきたし、二〇〇二年にはジャン ナ・ ア ン ト ノ ヴ ナ さ ん (本 書 第 二 章 筆 者) や 中 国 の 移 民 研 究の第一人者ゲリブラス教授を京都にお招きして国際シン ポ ジ ウ ム を も っ た (成 果 は 文 献 ①) 。 ま た、 F M C 主 宰 の シ ン ポ ジ ウ ム に 参 加 (モ ス ク ワ 二 〇 〇 一、 二 〇 〇 六 だ け で な く、 サ ン ク ト ペ テ ル ブ ル ク 二 〇 〇 四、 キ シ ニ ョ フ 二 〇 〇 五、 ス ー ズ ダ リ 二 〇 〇 六 な ど) 、 各 地 で 多 く の 研 究 者 の 知 己 をえたが、共同調査といえるものを実施したことはなかっ た。 本書の編者は、第三のグループに属する一人、ロシア社 会政策研究所のセルゲイ・リャザンツエフ教授との緊密な 研 究 協 力 体 制 を 樹 立、 モ ス ク ワ (だ け で な く 地 方 に も) や 中央アジアでの現地調査を実施し、シンポジウムを企画、 本書にまとめられた。ロシアやカザフスタンとのみごとな 研究協力の成果といえよう。

本書の特色のひとつは、中央アジアでの移民問題が内包 する社会問題、人身売買を含む人権問題などに目を向けて いることである。とくに第Ⅳ部「市民・移民・地域の安全 保障」に含まれる諸章、第一二章「中央アジア、ロシアに おける移民と『人間社会の安全保障』 」、第一三章「中央ア ジ ア の シ テ ィ ズ ン シ ッ プ と 安 全 保 障」 、 第 一 四 章「シ ベ リ ア・ 極 東 地 域 に お け る ス テ レ オ タ イ プ と 移 民 恐 怖 症」 、 第 一 五 章「ロ シ ア に お け る 超 エ ス ノ フ ォ ビ ア」 、 第 一 六 章 「カ ザ フ ス タ ン に お け る 人 身 売 買 の リ ス ク」 が そ う で あ り、また第三章「中央アジアにおける人身売買との戦い」 も そ う で あ る。 も っ と も、 Human Trafficking は 国 際 移 民 問題ではどこでも一大研究テーマであったが、中央アジア 研究では、少なくともこれまでわが国ではあまり紹介・注 目されてこなかった問題でもある。 それとの関連で第三章と第一六章の二つの章の筆者、カ ザフスタンのエカテリーナ・バディコヴァ女史のコントリ ビューションについてひとこと触れておこう。彼女は「中 央アジア人身売買撲滅NGO協会」の代表で、被害者救済 の運動を担う研究者である。中央アジア諸国が長く封建的 な身分制や女性差別の慣行でならされてきたことが奴隷的 な労働や搾取を温存させてきた背景にあり、社会主義から 市場経済への転換とその混乱のなかで女性の売春や人身売 買を横行させてきたこと、彼らを保護すべき法的システム や社会意識の遅れを強く指摘している。もっともこれは経 本書の各章の内容は、編者による「はじめに」で簡にし て要をえた紹介がなされているので、それをご覧いただく のが最適である。 以上のように、本書は、実に大きなテーマに多面的かつ 包括的に迫ろうとしているので、全体を咀嚼し成果を簡潔 に 纏 め る の は 容 易 で は な い。 こ こ で は 二、 三 の テ ー マ に 絞って、若干のコメントを試みよう。

世界的に見て、移民研究はすでに長い歴史を持っている が、ソ連崩壊でグロバリゼーションが加速され、資本や情 報だけでなく国境を越えた人・労働力の流れも近年ますま す活発になっている。この流れをどういう学問ディシプリ ンから捉えるのか。経済学、法律学、社会学などさまざま なアプローチがありうるが、従来の学問研究は暗黙の裡に 「一 国 シ ス テ ム」 を 前 提 と し て お り、 国 際 移 民 の よ う に い わば境界を超えた、境界のないフローを対象とする研究に は、単一の研究方法論はなお存在しないといえよう。 ロシアの場合で見ると、国際労働力移動・移民研究は幅 が広く、かつソ連時代から見ても長い歴史を持つ。ソ連崩 壊以後には、旧共和国が独立し新たな国境ができたことに より、旧来の国内移動が国際移動となり、一挙に問題が複 雑化した。そこで、実に多くの研究機関や個人の研究者が 関わってきた。その意味では、国際労働力移動研究は最近 の社会科学分野での一大人気テーマとなった感がある。そ れを担う研究者の層も実に厚く、本来の狭いディシプリン をかなぐり捨てて未知の広野に飛び出した形の「新参者」 も多いともいえよう。現在のモスクワに限っても、筆者の 見るところ、三つのグループが存在する。ひとつは、モス ク ワ 大 学 人 口 学 研 究 セ ン タ ー に つ な が る 研 究 者 で イ オ ン ツェフ教授を中心にしたグループで、第二は、ロシア科学 アカデミー「生産力配置研究所」をベースに新たに形成さ れ た「強 制 移 住 研 究 セ ン タ ー ( Forced Migration Center, F M C ) 」 に つ な が る 研 究 者 で (中 心 は ジ ャ ン ナ・ ザ イ オ ン チ コ フ ス カ ヤ 女 史、 本 書 第 二 章 筆 者) 、 ロ シ ア 各 地 に 協 力 者 を も ち、 I O M (国 際 移 住 機 構) モ ス ク ワ 支 部 も 強 い 協 力 関係にある。第三が、地方を含めそれ以外のいくつかの大 学ないし研究所にまたがる緩い繋がりで、とはいえ上記二 つのグループとは明らかに異なる志向を持つ。 三つのグループの性格を強引に特徴づけるとすれば、第 一は人口論研究から、第二は経済地理学から、第三はその ほか多面的なアプローチを採用する人達、といえようか。 またこれ以外にも、中国や北朝鮮からの労働移民が顕著な ロシア極東においても地域特性に注目する移民研究者が少 な く な い し (ハ バ ロ フ ス ク や ウ ラ ジ オ ス ト ッ ク な ど) 、 研 究

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224 225 第一回地域研究コンソーシアム賞 受賞者発表 かろうが、これがロシアで出版されるということも、本書 の重要性を示す今ひとつの証左であろう。 ◉参考文献 ① 大 津 定 美 編 著(二 〇 〇 五) 『北 東 ア ジ ア に お け る 国 際 労 働 移 動と地域経済開発』ミネルヴァ書房。 ② 平 泉 秀 樹 編 著(二 〇 〇 六) 『東 北 ア ジ ア 地 域 に お け る 経 済 の 構造変化と人口変動』アジア経済研究所、明石書店。 ③ 赤 羽 恒 雄、 ア ン ナ・ ワ シ リ エ ヴ ァ 共 編 著(二 〇 〇 六) 『北 東 アジアにおける人口移動』国連大学出版。 ④ ⑤ Nancy Foner et al. Eds., Immigration Research for a new Century, Multidisciplinary Perspectives, Russel Sage Foundation, NY. 2000. ⑥ Craig A. Parsons and Timothy M. Smeeding Eds.; Immigration and the Transformation of Europe, Cambridge U.P. 2006, pp.480. 済的後進性のためばかりでなく、東南アジアやカリブ海周 辺、ヨーロッパでのロシア女性の強制売春など、どこでも 広く見られる問題だといえる。 また、バディコヴァ女史によると、今のところ救済のた めの活動資金は海外からの支援に頼っているのが現状であ り、最近の国際金融危機で支援規模が縮小しつつあるよう だ。とはいえ、カザフスタンが他の中央アジア諸国とは異 なって、第Ⅲ部の諸章の分析に見られるように、経済成長 を背景にして移民排出国から受入国に転換したという状況 のなかで、今後は被害者救済や国民の意思改革面でのいっ そうの努力が望まれる。

ロシア・中央アジアの労働移民の特殊性を評価するため に、 他 の 地 域 の そ れ と 対 比 し て み る こ と、 と く に 東 ア ジ ア、東南アジアとの比較が重要ではないかと思われる。本 書の対象からは若干外れるが、ベトナムとロシアとの関係 も無視できない。ベトナムは、旧ソ連時代の「盟友」で、 青年の教育・人材育成に協力してきただけでなく、ロシア で企業を立ち上げ、そこに大量のベトナム人を雇用してき たという経緯があり、その人流面でのパイプとネットワー クは今日も強固だ。二〇〇七年には、ロシアとベトナムの 労働移民問題に限定した大きなシンポジウムがモスクワで 開かれたほどだ。リャザンツエフ教授のリーダーシップで 可能となったこのシンポジウムに出席してその強さに驚い た。またごく最近では、ミャンマーの軍事政権との間に密 かに進められてきた軍事・エネルギー関係の政府間協力を もとに軍人や技術者の人材育成にもロシアは熱心で、多く の関係者が「ベトナム・ロシア」的交流を行っている。 もっとも、ここまで来ると、単なる二国間・地域間関係 の枠を超えて、もろに「国際政治の力学」が作用している 領域となる。また、今後の政治状況とも関わるが、プーチ ン 政 権 に よ る 旧 ソ 連 復 活、 「ロ シ ア 帝 国」 再 建 の 野 望 を 見 るうえで、こうした国際人流・労働力移動が果たす役割に も注目しておかねばならない。 最後に、本書の「ロシア語版・姉妹篇」が出版されたこ と に も 触 れ て お き た い。 『中 央 ア ジ ア 諸 国 か ら ロ シ ア へ の 労 働 移 民 ―― フ ロ ー の モ デ ル 化』 (モ ス ク ワ、 二 〇 一 一、 文 献 ④) が そ れ で、 セ ル ゲ イ・ リ ャ ザ ン ツ エ フ 氏 と 堀 江 典 生氏の共著で、構成は全一〇章、そのうち第七章と最終の 第 一 〇 章 (分 量 に す る と 両 者 で 七 割 弱) が 本 書 と 同 一 だ。 他の章は、タイトルは似ていても内容は異なり、中央アジ ア か ら の 移 民 問 題 へ の 政 策 提 言 (第 九 章) な ど も あ り、 研 究 助 成 機 関 へ の 配 慮 (?) も う か が わ せ る。 と い う わ け で、ロシアの読者向けに出された本書の姉妹篇といってよ М о д е л и р ов а н и е п о т о к ов т р у дов о й м и г р а н т ов и з с т ра н ц е н т ра ль н о й а з и и в р ос с и ю , С ю Р яз а н ц ев ,Н .Х о р и е ,М ос к в а . 2011, c. 191.

参照

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