雇用形態による労働者の健康管理活動の実態
Using Workers’ Employment Conditions to Determine the Actual Status of
Health-Care-Administration Activities
石川 拓耶
1),飯島 純夫
2) ISHIKAWA Takuya, IIJIMA Sumio要 旨
雇用形態及び事業所種別の観点から,正規・非正規労働者における健康管理活動の実態と課題を明らかと することを目的とした。調査対象は,A 県内の派遣先・一般派遣元・特定派遣元の計 628 社であり,アンケー ト郵送法による調査を実施し,計 257 社から回答が得られた(有効回収率 40.9%)。調査の結果,雇用形態の種 別における保健指導の実施及びメンタルヘルス対策の実施割合に有意差はみられなかったが,非正規におい て低い傾向がみられた。また,保健指導では派遣先非正規で「疾患の予防方法」が有意に低く,特定派遣元非 正規で,「疾患の予防方法」,「健診結果の読み方」が有意に低かった。メンタルヘルス対策では,派遣先非正 規で「専門医院への受診促進」,「休業の促し」が有意に低かった。 以上のことから,産業看護職には非正規に対する心身の健康管理対策に加え,事業主に対する理解促進や 協力機関との連携の必要性があることが示唆された。 キーワード 正規労働者,非正規労働者,健康管理活動,保健指導,メンタルヘルス対策Key Words Regular Employment Workers, Non-Regular Employee, Health-Care-Administration Activities, Health Guidance, The Measure Against Mental Health
Ⅰ . はじめに
現在,総務省統計局による労働力調査1)では,正規労 働者 3,371 万人に対して非正規労働者の数は 1,737 万人 となり,労働者全体の 34.0%にのぼると報告している。 これを,経年的な雇用形態の変遷として捉えてみると, 非正規労働者数はこの 5 年間で 4%増加し,1990 年と比 較すると 14%以上も増加していることとなる。 しかし,労働者の健康問題に関する研究では,非正規 労働者を対象としたものは少なく,非正規労働者の健康 課題・健康管理活動の実態は未だ明らかにされていない。 また,過去には健康診断後の事後措置の実施調査が行わ れたが,雇用形態による影響までを解明するに至らな かったという報告2)や,正規労働者と比べて派遣労働者 の労働安全衛生管理状況が劣っていたとの報告3)もみら れている。このことからも,非正規労働者が内在してい る健康課題と健康管理活動の実態に関し,その詳細な現 状を調査する必要があるといえる。 さらに,滋賀県の大規模調査4)では,一般健康診断・ 特殊健康診断は正規労働者において適切に実施されてい たが,パートタイム労働者に対しては半数が雇い入れ時 の健康診断を実施されていなかったと報告している。こ れに加え,産業医と衛生管理者は,看護職と比較して定 期健康診断後の事後措置の実施状況を把握していない者 が多いという結果も得られている。この調査以外にも, 中・小規模事業所では定期健康診断の事後措置だけでな く,健康診断そのものへの対応にも差があり,適切な事 後措置や保健指導が実施されていない事業所が多く存在 することが報告されている5)。 また,労働者の健康課題を把握するためには身体的な 問題だけでなく,心の問題にも着目する必要がある。平 成 19 年 労働者健康状況調査では,心の健康対策に取り 組んでいる事業所の割合は 33.6%であるが,自分の仕事 や職業生活に関して「強い不安,悩み,ストレスがある」と する労働者の割合は 58.0%にも達すると報告している6)。 中村7)は,仕事に関して強い不安やストレスを感じてい る労働者は 6 割を越え,業務による心理的負荷を原因と して精神障害を発病,あるいは当該精神障害により自殺 受理日:2012 年 1 月 25 日1) 山梨県中北保健福祉事務所:Yamanashi Chuhoku Public Health and Welfare Offi ce
2) 山梨大学大学院医学工学総合研究部(健康・生活支援看護学 講座):Interdisciplinary Graduate School of Medicine and En g in ee r in g (De p a r t m en t of Healt h S c ien c e an d Community-Based Nursing), University of Yamanashi
に至る事案が増加傾向にあると述べている。そのため, 労働者の健康管理活動の一環として,健康管理スタッフ によるカウンセリング等の専門的なメンタルヘルス対策 を講じる必要性がある。 なお,これまで労働者に対する健康管理活動の現状と 健康課題に関して述べてきたが,我が国では労働者の健 康管理活動について法律で定めてられている。特に,労 働安全衛生法では,従業員数 50 人以上の労働者を有す る事業所に対し,産業医の配置を明記している。 その一方で,事業所の規模次第では産業医を置くこと を義務付けてはおらず,中・小規模事業所における健康 管理活動の実態を不明確なものとさせている。 以上のことから,労働者に対する健康管理活動の実態 把握と共に,主として非正規労働者に内在している健康 課題を捉え,今後の健康管理活動の在り方について検討 する必要があると考え,次のような目的で本研究を実施 した。
Ⅱ . 目的
本調査は,雇用形態及び事業所種別の観点から,正規・ 非正規労働者における健康管理活動の実態と課題を明ら かとすることを目的とした。 その結果を基に,主として非正規労働者が内在してい ると考えられる健康課題を捉え,今後の健康管理活動の 在り方について検討する。Ⅲ . 対象及び方法
1. 調査対象 本調査は,A 県内の派遣先事業所(以下,派遣先),一 般派遣元事業所(以下,一般派遣元),特定派遣元事業所 (以下,特定派遣元)を対象として実施した。 なお,派遣先は対象数が膨大であったため,従業員数 別による系統抽出法により 254 社を選定した。派遣元は, A 県内に所在する全ての事業所(一般派遣元 163 社,特 定派遣元 211 社)を対象とし,派遣先・派遣元を合わせ た計 628 社を本調査における対象とした。 2. 調査方法 調査方法は,各事業所に対するアンケート郵送法であ り,調査内容は雇用形態及び事業所種別による健康管理 活動の実態と課題を明らかとすることを目的に独自に作 成した。 なお,調査内容は「アンケート回答者」,「事業所規模」, 「保健指導の実施状況及び内容」,「メンタルヘルス対策 の実施状況及び内容」,「非正規労働者に対する健康診断 の実施状況」,「非正規労働者のメンタルヘルス問題」の 6 項目である。 分析方法は,雇用形態による健康管理活動の実態につ いて,上記調査内容に対する回答数の一般統計量を求め た上で実施割合として算出した。データ解析は,χ2検 定により有意水準 5%で差があることとし,集計及び解 析には統計処理ソフト SPSS Ver.18.0 を用いた。Ⅳ . 用語の操作的定義
1. 事業所の種別 本調査では,対象となる事業所を派遣先・派遣元とに 二分している。そこで,事業所の種別について以下の通 り定めた。 派 遣 先:正規・非正規・派遣労働者から成る事業所 一般派遣元: 名簿に登録された労働者を派遣先へと派遣 する事業所 特定派遣元:自社の社員を派遣先へと派遣する事業所 2. 非正規労働者の区分 非正規労働者には,事業所と労働者との間に雇用契約 が結ばれた労働者に加え,派遣元から派遣された派遣労 働者が存在する。 そこで,本調査では非正規労働者について,以下の区 分を設けることとした。 派 遣 労 働 者:派遣元事業所から派遣された労働者 非正規労働者:全ての非正規労働者を合わせた労働者 ( 派遣労働者+自社雇用の契約・嘱託・ パート・請負労働者)Ⅴ . 倫理的配慮
文書によって研究の必要性と期待される効果を説明 し,調査票の提出をもって同意を得たものとした。また, 研究依頼に対する拒否の機会は,調査票を提出しないこ とにより確保され,研究に対する質問等についてはいつ でも対応できる体制を整えた。 なお,本調査は「山梨大学医学部倫理委員会」の承認を 受けて実施した。Ⅵ . 結果
1. アンケート回収率 本調査では,派遣先 106 社,一般派遣元 57 社,特定 派遣元 94 社の計 257 社から回答が得られた(有効回収率 40.9%)。 2. アンケート回答者 アンケート回答者は,各事業所共に「総務課職員」による回答が多く,派遣先 57 社(53.8%),一般派遣元 27 社 (47.3%),特定派遣元 44 社(46.8%)であった。 一方で,産業医・保健師・看護師という「健康管理スタッ フ 」に よ る 回 答 は 少 な い 傾 向 を 示 し, 派 遣 先 6 社 (5.6%),一般派遣元 1 社(1.7%),特定派遣元 0 社(0%) となった。 また,「その他」として派遣先 9 社(8.5%),一般派遣 元 9 社(15.9%),特定派遣元 18 社(19.2%)の回答があり, 社長等の管理者クラスからの回答であった。なお,「無 回答」は派遣先 34 社(32.1%),一般派遣元 20 社(35.1%), 特定派遣元 32 社(34.0%)となった。 3. 事業所規模 各事業所において,正規・非正規労働者の合算人数を 事業所規模としてまとめた(表 1)。 派遣先では,従業員数「100 人以上」の事業所が 63 社 (59.4%)と最も多く,「1000 人以上」という大規模事業所 も 3 社(2.8%)みられた。 一般派遣元では,「50 人未満」37 社(64.9%),次いで「100 人以上」10 社(17.5%)となり,特定派遣元においても「50 人未満」の事業所が 58 社(61.7%)と最多であった。なお, 派遣元では「500 人以上」及び「1000 人以上」の従業員を有 する事業所は存在しなかった。 4. 保健指導の実施状況及び内容 1) 派遣先 保健指導について,正規労働者に対して保健指導を実 施していた事業所は 87 社(82.1%),非正規労働者では 71 社(67.0%)であり,非正規労働者で低い傾向が認めら れた(表 2)。 また,保健指導の内容では,「疾患の予防方法」において 非正規労働者で有意に低い傾向を示した(P<0.05)(表 3)。 2) 一般派遣元 保健指導について,正規労働者に対して保健指導を実 施していた事業所は 39 社(68.4%),非正規労働者では 33 社(57.9%)であり,派遣先と同様に非正規労働者で低 い傾向が認められた(表 2)。 また,保健指導の内容では,正規労働者は「健診結果 表 1 事業所の規模 50 人未満 50 ∼ 100 人 100 人以上 500 人以上 1000 人以上 無回答 派遣先 10 19 63 4 3 7 一般派遣元 37 7 10 0 0 3 特定派遣元 58 17 16 0 0 3 表 2 保健指導の実施状況 実施 非実施 その他 無回答 派遣先 正規 87(82.1%) 13(12.3%) 3(2.8%) 3(2.8%) 非正規 71(67.0%) 19(17.9%) 5(4.7%) 11(9.4%) 一般派遣元 正規 39(68.4%) 12(21.1%) 2(3.5%) 4(7.0%) 非正規 33(57.9%) 14(24.6%) 1(1.8%) 9(15.8%) 特定派遣元 正規 60(63.8%) 28(29.8%) 2(2.1%) 4(4.3%) 非正規 30(31.9%) 27(28.7%) 1(1.1%) 36(38.3%) 表 3 保健指導の内容 1 位 2 位 3 位 4 位 5 位 派遣先 正規 疾患の予防方法 * 健診結果の読み方 食事習慣 運動習慣 喫煙習慣 67(63.2%) 53(50.0%) 28(26.4%) 25(23.6%) 24(22.6%) 非正規 疾患の予防方法 * 健診結果の読み方 食事習慣 運動習慣 喫煙習慣 53(50.0%) 46(43.4%) 23(21.7%) 20(18.9%) 19(17.9%) 一般派遣元 正規 健診結果の読み方 疾患の予防方法 食事習慣 サービス提供/運動習慣 29(50.9%) 25(43.9%) 10(18.0%) (14.0%)8 非正規 疾患の予防方法 健診結果の読み方 食事習慣 ストレス/飲酒習慣 25(43.8%) 21(36.8%) (14.0%)8 (12.3%)7 特定派遣元 正規 疾患の予防方法 ** 健診結果の読み方** 運動習慣 食事習慣/飲酒習慣 48(51.1%) 37(39.4%) 17(18.1%) 15(16.9%) 非正規 健診結果の読み方 ** 疾患の予防方法** 運動習慣 喫煙習慣/飲酒習慣 25(26.6%) 19(20.2%) (9.6%)9 (8.5%)8 *:P<0.05,**:P<0.01
の読み方」,非正規労働者では「疾患の予防方法」が上位 に挙げられていた(表 3)。 3) 特定派遣元 保健指導について,正規労働者に対して保健指導を実 施していた事業所は 60 社(63.8%),非正規労働者では 30 社(31.9%)であり,派遣先・一般派遣元と同様に非正 規労働者で低い傾向が認められた (表 2)。 また,保健指導の内容では,「疾患の予防方法」及び「健 診結果の読み方」において,非正規労働者の方が有意に 実施割合が低いという結果がみられた(P<0.01)(表 3)。 5. メンタルヘルス対策の実施状況及び内容 1) 派遣先 正規労働者に対してメンタルヘルス対策を実施してい た 事 業 所 は 63 社(59.4 %), 非 正 規 労 働 者 で は 50 社 (47.2%)であり,非正規労働者で低い傾向が認められた (表 4)。 また,メンタルヘルス対策の内容として,正規労働者 は「専門医院・社外機関への受診促進」が,非正規労働者 では「メンタルヘルス教育」や「相談」等が,実施割合にお ける上位項目として挙げられていた。 なお,「職場内環境の調整(人事異動含む)」において P<0.05,「専門医院・社外機関への受診促進」で P<0.01 の有意差がみられ,非正規労働者で有意に低い結果と なった(表 5)。 2) 一般派遣元 正規労働者に対してメンタルヘルス対策を実施してい た事業所は 20 社(35.1%)であり,非正規労働者の実施 割合 25 社(43.9%)と比較して下回っていた(表 4)。 また,正規労働者では「メンタルヘルス教育」や「相談」, 「専門医院・社外機関への受診促進」の他に,第 5 位では あるが「休業の促し」という項目が選択されていた。しか し,非正規労働者の上位項目には「休業の促し」は挙げら れておらず,正規・非正規労働者間の比較では,有意差 のみられた項目は存在しなかった(表 5)。 3) 特定派遣元 正規労働者に対してメンタルヘルス対策を実施してい た事業所は 41 社(43.6%)であり,非正規労働者への実 施割合 27 社(28.7%)と比較して高く,派遣先と同様の 傾向であった(表 4)。 また,正規労働者と同様に,非正規労働者に対して「相 談」,「専門医院・社外機関への受診促進」の他に「休業の 表 4 メンタルヘルス対策の実施状況 実施 非実施 無回答 派遣先 正規 63(59.4%) 33(31.1%) 10(9.4%) 非正規 50(47.2%) 39(36.8%) 17(16.0%) 一般派遣元 正規 20(35.1%) 30(52.6%) 7(12.3%) 非正規 25(43.9%) 22(38.6%) 10(17.5%) 特定派遣元 正規 41(43.6%) 40(42.5%) 13(13.8%) 非正規 27(28.7%) 28(29.9%) 39(41.5%) 表 5 メンタルヘルス対策の内容 1 位 2 位 3 位 4 位 5 位 派遣先 正規 専門医院への 受診促進** メンタルヘルス 教育 上司・同僚・部下 を含めた相談 休業の促し ** 職場内環境調整 (人事異動含む)* 44(41.5%) 42(39.6%) 40(37.7%) 37(34.9%) 36(34.0%) 非正規 メンタルヘルス 教育 上司・同僚・部下 を含めた相談 専門医院への 受診促進** 職場内環境調整 (人事異動含む)* スタッフによる 相談 32(30.2%) 30(28.3%) 24(22.6%) 20(18.9%) 16(15.1%) 一般派遣元 正規 上司・同僚・部下 を含めた相談 メンタルヘルス教育 専門医院への受診促進 スタッフによる相談 休業の促し 19(33.3%) 10(17.5%) 8(14.0) (10.5%)6 非正規 上司・同僚・部下 を含めた相談 専門医院への 受診促進 メンタルヘルス教育 スタッフによる相談 作業場雰囲気の改善 16(28.1%) 10(17.5%) 9(15.8%) (18.9%)8 特定派遣元 正規 専門医院への 受診促進 上司・同僚・部下 を含めた相談 作業場雰囲気改善 休業の促し メンタルヘルス教育 25(26.6%) 24(25.5%) 20(21.3%) 16(17.0%) 非正規 上司・同僚・部下 を含めた相談 専門医院への 受診促進 メンタルヘルス教育 休業の促し 17(18.1%) 15(16.0%) 11(11.7%) (8.5%)8 *:P<0.05,**:P<0.01
促し」という項目が上位 5 項目の中に含まれていた。 なお,正規・非正規労働者間の比較では,有意差のみ られた項目は存在しなかった(表 5)。 6. 非正規労働者に対する健康診断の実施状況 1) 定期健康診断の実施状況 自社雇用の非正規労働者に対する定期健康診断の実施 状況について,派遣先では実施 87(82.1%),非実施 5 (4.7%)であり,一般派遣元では実施 30(52.6%),非実 施 5(8.8%),特定派遣元では実施 37(39.4%),非実施 3 (3.2%)であった。 2) 非正規労働者の健康診断の実施状況 派遣先における,派遣労働者と自社雇用の非正規労働 者間での健康管理活動の差を比較した。その結果,派遣 労働者に対して健康診断を実施している事業所は 12 社 (11.3%)のみであったが,自社雇用の非正規労働者では 82 社(77.4%)において実施されていた。 7. 非正規労働者のメンタルヘルス問題 1) 派遣先 派遣先における,メンタルヘルス問題で多い内容は, 「職務内容」が 34.0%と最多であり,次いで「身体状況と の関連」20.8%,「上司との関係」16.0%と続いていた。 2) 一般派遣元 一般派遣元では,派遣先と同様に「職務内容」が 35.1% と最も多くみられた。その一方で,「雇用形態」が 18.0% であり,非正規労働者に特有の問題も挙げられていた。 3) 特定派遣元 特定派遣元における,メンタルヘルス問題で多い内容 は,「身体状況との関連」が 17.1%と最多であり,次いで 「職務内容」17.0%,「同僚との関係」10.6%と続いていた。 なお,「職務内容」に関しては正規労働者と比較して有 意に高い項目であった(P<0.05)。 4) 非正規労働者のメンタルヘルス問題 上記結果をまとめると,非正規労働者が内在している メンタルヘルス問題の上位項目は,「職務内容」,「身体 状況」,「同僚との関係」,「上司との関係」,「雇用形態」 であった。 一方,正規労働者におけるメンタルヘルス問題の上位 項目においても,非正規労働者の結果と同様に,「身体 状況」,「同僚との関係」,「上司との関係」が含まれていた。 つまり,非正規労働者に生じているメンタルヘルス問 題は,その内容自体は正規労働者のものと類似した傾向 を示しているといえる。
Ⅶ . 考察
1. アンケート回答者 本調査では,アンケート調査票の回答者を「労働者の 健康管理活動に携る者」と指定していた。しかし,いず れの事業所も総務課職員による回答が圧倒的に多く,実 際に労働者の健康管理活動に従事している産業医・保健 師・看護師等の「健康管理スタッフ」からの回答は少な かった。このことは,今回の調査対象は小規模事業所が 多いことと対応していると考えられた。今後は,労働者 に対する健康管理活動の実施状況とその内容を正確に捉 えるためにも,衛生管理者等も含めた「健康管理スタッ フ」からの回答を得る必要があると考えられる。 2. 保健指導の実施状況 労働者健康調査では,過去 1 年間に定期健康診断を実 施した事業所は全国で 86.2%,さらに健康の保持・増進 に取り組んでいる事業所は 45.2%と報告している6)。 本調査では,保健指導の実施状況における正規・非正 規労働者間の比較では有意な差はみられなかったが,非 正規労働者に対する保健指導の実施割合が低い傾向を示 した。これは,中・小規模事業所からの回答が多かった ことから,健康管理スタッフを常時雇用することが可能 な事業所が少なかったと考えることができる。 この点は,1 つの方策として外部機関を適宜活用する ことにより解決できるものもあると思われ,事業所内部 からだけではなく,外部からも労働者の健康管理活動を 支援していくことが求められているといえる。 3. 保健指導の内容 派遣先では,正規・非正規労働者間における保健指導 の内容に違いはみられなかった。しかし,一般派遣元は 雇用形態で保健指導の内容が異なり,特定派遣元では非 正規労働者で有意に低い保健指導の内容もみられている。 これは,他県における調査報告5)と類似していたが, 事業所の種別で保健指導の内容に差が生じた点にも着目 する必要がある。一般派遣元では名簿に登録された職員 を派遣するが,特定派遣元では自社の社員を派遣先へと 派遣する。つまり,一般派遣元の非正規労働者は雇用期 間が短い可能性があり,特定派遣元では常に派遣先で業 務に従事していることから,勤務形態が健康管理活動の 内容に影響を及ぼしたものと考えられる。 4. メンタルヘルス対策の実施状況 本調査の結果では,各事業所におけるメンタルヘルス 対策の実施に関し,雇用形態での実施割合に有意な差は みられなかった。しかし,正規・非正規労働者を問わず, メンタルヘルス対策が行われていない事業所が半数近く 存在していることが明らかとなった。これは,健康管理 スタッフからの回答が少なかった結果と併せると,事業 所にメンタルヘルス対策を講じる体制が十分には整えられていないという可能性が考えられる。 この点に関し,A 県における保健福祉事務所では,県 内における全ての事業所を対象とした「出張メンタルヘ ルス講座」を設けている。つまり,健康管理スタッフを 有さない事業所においても,社会資源の活用次第では健 康管理活動を行うことが可能である。 以上の結果を踏まえ,労働者の健康管理活動に携わる 者は,外部機関の積極的な活用と連携を考慮した対応が 必要であるといえる。特に,産業看護職の存在は,職場 の産業保健体制に効果的な影響を与えるという報告8)と 併せると,事業所に配属される保健師・看護師等の産業 看護職は,労働者への直接的な支援に加え,健康管理を 円滑に実施するために様々な関係機関との協同を考慮し た産業保健体制を構築することが求められる。 5. メンタルヘルス対策の内容 メンタルヘルス対策の内容に関して,事業所間での実 施内容に大きな差はみられないということが把握でき た。しかし,雇用形態という観点で捉えると,非正規労 働者に対する実施割合は低く,その内容に関しても若干 ながら差が生じている。 そして,メンタルヘルス対策の内容で最も着目すべき 点は「休業の促し」という項目である。これは,正規労働 者に対しては実施割合の上位項目として挙げられてはい るものの,非正規労働者では特定派遣元のみ上位項目と して挙げられている。 また,メンタルヘルス対策の具体的な内容は,「専門 医院・社外機関への受診促進」が上位に位置していた。 この結果は,事業所がメンタルヘルス対策を講じるだけ の能力を有していないと捉えることもできるが,専門的 なカウンセリングや投薬治療が必要な労働者が存在して いる可能性が考えられる。 以上のことから,メンタルヘルス対策の内容について だけでなく,健康管理活動の一環としてメンタルヘルス 対策が位置付けられるような事業所への支援が必要と思 われる。 6. 非正規労働者の健康管理 派遣先において,派遣労働者の健康診断を実施してい る事業所は,わずか 11.3%であった。この結果は,派遣 先で業務に従事する派遣労働者の健康診断は,法律上は 直接的雇用主である派遣元に対して実施義務が課せられ ることに加え,経費の問題が関連していると考えられる。 しかし,派遣先には作業管理・作業環境管理等の物理的 労働環境を調整する義務があり,派遣労働者に対しても 自社雇用の労働者と同様に健康管理活動を行わなければ ならない。 以上のことから,非正規労働者に対する健康管理活動 を充実させるためには,事業主に対して,労働者の労働 環境を含めた健康管理活動の在り方について,理解を促 す必要がある。そして,その役割を担うべきは,労働者 の健康管理に携わる者である。特に,保健師や看護師等 の産業看護職は,人の心身と生活状況とを総合的に判断・ 支援していくことのできる職種であり,健康管理活動と 保健医療体制の構築という役割には適任と考えられる。 また,健康管理担当の総務課職員などへの研修,職場の 健康診断を担当した保健福祉事務所,保健センター,産 業保健推進センターなどからの保健指導なども必要であ ろう。 7. 非正規労働者のメンタルヘルス問題 非正規労働者では,「職務内容」及び「雇用形態」に関す る悩みが挙げられている一方で,「身体状況」,「同僚と の関係」,「上司との関係」は正規労働者が抱えている問 題と同じ傾向を示していた。つまり,雇用形態による特 徴がみられたとしても,労働者として抱えている悩みに は差はあまり生じていないということである。 このことから,労働者の健康管理活動は雇用形態で左 右されてはならず,全ての労働者が適切な健康管理活動 を受けられる配慮が事業所には求められる。 文献 1) 総務省統計局(2009)労働力調査. 2) 金子誉(2004)健康診断を取り巻く「保健指導体制」─山梨県内事 業所の実態─.労働者健康福祉機構 山梨県産業保健推進セン ター.http://www.sanpo19.jp/pdf/16_1summary.pdf 3) 城戸照彦(2007)雇用形態の多様化に伴う労働安全衛生管理の課 題. 労 働 者 健 康 福 祉 機 構 石 川 県 産 業 保 健 推 進 セ ン タ ー. h t t p : / / w w w . i s h i k a w a - s a n p o . j p / i s h i k a w a / c h o u s a / h19_koyoukeitai.pdf 4) 上田伸治,木村隆(2003)定期健康診断の事後措置に関する調査. 労働者健康福祉機構 滋賀県産業保健推進センター.http:// www.shigasanpo.jp/08research/12chosa.htm 5) 三川正人,鏡森定信,金 清(2001)富山県の小規模事業所にお ける産業保健活動の現状について.労働者健康福祉機構 富山 県産業保健推進センター.http://toyamasanpo.net/study/ index_syosai.php?eid=00020&kubetsu=1 6) 厚生労働省(2007)労働者健康状況調査【事業所調査】健康管理対 策の実施状況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/ saigai/anzen/kenkou07/j1.html 7) 中村百合子(2006)企業労働者のストレス対処能力(SOC)に及ぼ す生活背景の影響.広島国際大学看護学ジャーナル,4:15-24. 8) 吉川洋男(1998)保健婦,看護婦のいる事業所における産業保健 活動の評価に関する研究.労働者健康福祉機構 山形県産業保 健推進センター.http://sanpo06.jp/?page_id=43