雪氷研究大会(2020・オンライン)2020.11.16–11.18
JSSI & JSSE Joint Conference – 2020 in online
1 東海大学情報技術センター Tokai University Research and Information Center
2 北海道教育大学釧路校 Hokkaido University of Education Kushiro Campus
3 気象庁気象研究所 Meteorological Research Institute, Japan Meteorological Agency
©2020(公社)日本雪氷学会
海氷の厚さと3周波数帯のマイクロ波輝度温度の関係
The Relationship Between Sea Ice Thickness and
Microwave Brightness Temperature of 3 Frequency
○直木和弘
1
,中山雅茂
2
,谷川朋範
3
,長幸平
1
Kazuhiro Naoki, Masashige Nakayama, Tomonori Tanikawa and Kohei Cho
1.はじめに
衛星搭載型マイクロ波放射計は,天候の影響を受けにくく,
また,観測幅が広いため,全球の海氷面積の変動や海氷分布の
把握に有効であり,30 年以上利用されている.結氷期における
海氷のマイクロ波輝度温度は,海氷の構造や海氷上積雪の影響
等によって変動する.しかし,結氷期の海氷の成長過程におけ
るマイクロ波輝度温度の変動傾向を捉えた観測は十分に実施さ
れていない.筆者らは,海氷の厚さと輝度温度の関係を明らか
にすることを目的に,実験用水槽を用いて,成長する海氷の輝
度温度を測定している(直木ら,2019).本発表では,2019 年度
冬期に実施した観測結果について報告する.
2.観測輝度温度
観測は,2020 年 2 月 3 日から 2020 年 3 月 16 日まで実施した.
海氷の成長方法は,昨年の雪氷研究大会で報告した手法と同じ
である.塩分 33ppt の海水が入った水槽を屋外に設置し,冷却器
等を用いて冷却し,成長する海氷の厚さと輝度温度を測定した.
測定した海氷の表面は,輝度温度観測時以外は断熱材で覆って
いるため,積雪がない状態である.
海氷の輝度温度の観測には,三菱特機システム株式会社製小
型マイクロ波放射計(MMRS2)を使用し,18GHz の垂直偏波(18V)
と水平偏波(18H),36GHz の垂直偏波(36V)と水平偏波(36H),新
たに 7GHz の垂直偏波(7V)と水平偏波(7H)を観測した.以下,「輝
度温度」は MMRS2 で観測した輝度温度を指す.観測に使用し
た 36GHz の MMRS2 は,1 台のみだったため,輝度温度を測定
する際に本体を 90 度回転し交互に水平偏波と垂直偏波の輝度温
度を測定した.本観測での入射角は,衛星搭載マイクロ波放射
計 AMSR2 と同じ 55 度とした.海氷の厚さは,輝度温度観測時
にサンプルを取得し,測定した.塩分濃度は,海氷サンプルを
融解後,測定した.
3.結果
観測終了時の海氷厚は,45cm であった.図 1 は,海氷の厚さ
と 7GHz,18GHz,36GHz の両偏波の輝度温度を比較した結果で
ある.図中の 0 cm は,海水の輝度温度である.観測した全ての
輝度温度は,海面が最も低く,海氷が生成されると直ぐに急激
に上昇し,その後,厚くなるに従い,緩やかに増加した.特に
7GHz は,顕著であった.また,3 周波数の垂直偏波は,最大値
を示した後一定となった.水平偏波は,18GHz と 36GHz が最大
値を示した後減少し,ほぼ一定となった.この傾向は,昨年の
観測と同様である.7GHz の水平偏波は,垂直偏波のように最大
値を示した後,減少せずほぼ一定となった.36GHz の輝度温度
は,両偏波共に厚さ約 3cm で最大となった. 18GHz の輝度温度
は,両偏波共に厚さ約 7cm で最大となった. 7GHz の輝度温度
は,両偏波共に厚さ約 13cm で最大となった.最大値となる厚さ
は,周波数が低いほど増加する周波数特性が見られた.
今回の観測における海氷の厚さと輝度温度の関係は,36GHz
の輝度温度は,厚さ約 5cm まで,18GHz の輝度温度は,厚さ約
10 ㎝まで,7GHz の輝度温度は,15cm まで輝度温度が変動する
ことが分かった.また,7GHz 以外の各チャネルの最大値となる
までの輝度温度の変動は,これまでの観測と同様な傾向を示し,
本観測条件における氷厚と輝度温度の関係の再現性が確認でき
た.また,新たに観測した 7GHz の観測結果から,低周波帯の
方が氷厚の推定には有利であると考えられる.なお,本研究は,
筆者らが JAXA からの GCOM-W に関する受託研究の一環として
実施したものである.
参考文献
1) 直木和弘,中山雅茂,谷川朋範,長幸平,2019:海氷の厚
さとマイクロ波輝度温度の関係2.雪氷研究大会講演要旨
集,114.
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Bri
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(K)
Thickness (cm)
7V
7H
18V
18H
36V
36H
図 1 海氷の厚さとマイクロ波輝度温度の比較