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西京味噌浸漬によるめかじきのプリン体組成の変化

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要  約 本邦における「高尿酸血症・痛風の治療ガイド ライン第 3版」では,患者が食事から摂取するプ リン体摂取目標値が400mg// 日以下とされている. 著者らは,これまで,発酵食品に着目し,酒粕に 魚を浸漬すると,魚のプリン体が減少することを 報告した.本研究では異なる発酵食品で,和食の 定番である西京味噌漬けを検討した.めかじきを 同量の西京味噌に 1 日間と 3 日間浸漬した.食品 中のプリン体は,当研究室で開発された高速液体 クロマトグラフィー(HPLC)を用いた 2 つの方法 で測定した.方法 1 では,試料を酸加水分解し, プリン塩基にまで分解したものを測定し,総プリ ン体量を求めた.方法2では,酸加水分解は行わず, 遊離プリン体を分子種別に一斉分析する方法を用 いて測定した.方法 1で測定した総プリン体の結 果は,めかじき(1 日)は 149.7mg//100g で,プリ ン塩基別ではヒポキサンチン(HX)類の割合が最 も多かった.めかじき(漬け3日)では,めかじき (3日)と比較してHXが有意に減少した.一方,西京 味噌(1日)では,総プリン体量は40.9mg//100gで, 西京味噌(漬け1日)のHXが有意に増加していた. 方法 2 で測定した,めかじき(1 日)および(3 日) には,遊離プリン体として存在するイノシン酸 (IMP),イノシン(Ino),HX が多く見られた. めかじき(漬け 3 日)の Ino が減少し,西京味噌 (漬け 3 日)の Ino が増加した.さらに,西京味噌 (1日)および(3日)と,西京味噌(漬け1日)および (漬け 3 日)を固液分離した結果,西京味噌(漬け 1日)および西京味噌(漬け 3日)の液体側に Inoが 存在していた.これらの結果より,西京漬けは, めかじきに多く含まれる HX 類である Ino を減少 させたこと,その多くが西京味噌の液体側に移行 したことが示された.西京漬けは魚の調理法とし て,高尿酸血症・痛風患者の食事療法に提案した い献立の一つと考えた. 緒  言 高尿酸血症・痛風などの生活習慣病の発症は, 食生活を含めた生活習慣と密接な関係があり,食 生活の改善は疾患の治療へ繋がり,その役割は重 要である.本邦における「高尿酸血症・痛風の治 療ガイドライン第 3版」において,生活指導の中 で食事療法が掲げられ,食事から摂取するプリン 体管理目標として400mg// 日が推奨されている1) これまでに,肉類や魚類の摂取量が多いほど,痛 風発症のリスクが高くなることが疫学調査で報告 されていること2)や,HX類が血清尿酸値を上げや すいことも明らかになっている3).当研究室の報 告でも,プリン体の腸管膜透過試験において,ア デニン(A)や HX が膜透過しやすいこと,ヌクレ オシドやヌクレオチドは細胞外で代謝されやすい 受付:2020年6月26日,受理:2020年7月28日

1)帝京大学薬学部臨床分析学研究室 Fukue Takayanagi, Tomoko Fukuuchi, Noriko Yamaoka, Kiyoko Kaneko

2)帝京大学薬学部医薬品分析学研究室 Makoto Yasuda, Ken-ichi Mawatari, Naoto Oku キーワード:高尿酸血症・痛風, 食事療法, プリン体含有量, 西京味噌, 魚料理 連絡先:金子希代子 〒173-8605 東京都板橋区加賀 2-11-1  帝京大学薬学部臨床分析学研究室

西京味噌浸漬によるめかじきのプリン体組成の変化

髙栁ふくえ1)  福内 友子1)  山岡 法子1) 安田  誠2)  馬渡 健一2)  奥  直人2) 金子希代子1)

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ことを報告している4).また,プリン塩基別含有 率で肉類や魚類のHX類は50 %以上と最も高く含 まれることも見出している5).これらのことから 食品中の総プリン体量に加え,ヌクレオシドやヌ クレオチドを含めたプリン体分子種を明らかにす ることは,生体内での吸収や血中尿酸値への影響 を考慮する上で,重要であると考える. 厚 生 労 働 省 の 循 環 器 疾 患 基 礎 調 査 で あ る NIPPON DATE90によると,肉類に多く含まれる 飽和脂肪酸摂取量と血清総コレステロール,LDL コレステロールが正の相関を示し6),「高血圧 治療ガイドライン 2019」では,多価不飽和脂肪酸 の摂取が推奨されている7).高尿酸血症・痛風は, 脂質異常症や高血圧症などを合併しやすいため, これらの食事療法も並行して行うことは有効で ある.そのためには,プリン体制限に加えて, 飽和脂肪酸の多い肉類の摂取量を控え,ω-3 多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸 (EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富な 魚類の適切な摂取も勧めたい. 農林水産省の食料需給量の調査によると,日本 人の魚介類摂取量は,諸外国と比較して高水準を 示している.それは,海に囲まれている日本の地 形から魚資源が豊富なことに加え,様々な方法で 調理されてきたことが影響している.魚の鮮度を 保つ技術がなかった時代,わが国では発酵食品を 利用し,保存性を向上させ,風味を豊かにするな ど,嗜好性を高めてきた.最近は発酵食品を利用 した和食の注目度も高く,家庭食および外食によ る需要の増加も予想される. 著者らは,これまでに発酵食品である酒粕を用 いて,めかじき中のプリン体について報告し8) 酒粕浸漬によるめかじきのプリン体低減を観察 した.しかし,酒粕は日本酒の製造過程の副産物 であるため,種類によってアルコール分を含んで いることから酒類を好まない人には適していない. そこで発酵食品の中から,和食の定番として日本 人に好まれ,摂食機会が多い西京味噌漬けを選択 した.西京味噌は味噌類の中でも麹歩合が高く, 麹菌が生成した酵素で原料である米のでんぷんを 糖化し,大豆たんぱく質を分解してできたもろみ が熟成して作られている9).程よい甘味が特徴で, 酒粕とは異なり塩分が含まれている. 本研究では,プリン体摂取制限を行う患者が魚 を摂取する際,魚の調理加工法として提案できる, 新たな発酵食品を見出すことを目的とし,めかじ きを西京味噌につけるとプリン体組成がどのよう に変化するかを検討した.また,酒粕漬けで見ら れた魚側から発酵食品側にプリン体が移行する 変化が西京味噌でも同様に観察できるかどうか, また移行した場合,液体側への浸出なのか,発酵 微生物を構成する菌体などの固体成分への移行な のかを調べるために,西京味噌(1日)および西京 味噌(3日)と西京味噌(漬け1日)および西京味噌 (漬け3日)を固液分離し,固体・液体それぞれの プリン体も併せて測定した. 方  法 1. 西京漬け試料の作成方法 ⅰ)入手方法 めかじきは魚屋で国産(宮城県産)の切り 身を入手した.一切れ 70g 位の切り身が 3 切 れで 1 パックにされており,切り身の形は四 角いものを選んだ.西京味噌は味噌専門店で 販売されていた京都で作られたもので冷所に て保存されていた一袋 250g 入りのものを入 手した. ⅱ)浸漬・保存方法 めかじき 3 切れのうち 2 切れは西京漬け用 として,水分をプロワイプで軽く拭きとり, 同量の西京味噌に浸漬し,ラップで包んだ. 一切れは浸漬期間を 1 日に,もう一切れは 浸漬期間を 3 日とし,冷所(4℃)に保存した (Fig 1). ⅲ)測定試料(めかじきと西京味噌) 西京漬けにしためかじきは,表面に付着 した西京味噌をゴムベラで丁寧に拭い取り, めかじき(漬け1日,漬け3日)と西京味噌(漬 け 1 日,漬け 3 日)に分けた(Fig 1).一方, 3切 れ の う ち 残 り の 1 切 れ の め か じ き と

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西京味噌は,ラップに包み冷所で保存した. 1日保存の試料としてめかじきを約半分(約 35g)切り分け,測定試料とした.残りの半 分(約 35g)は引き続き 3 日保存した後,測定 試料とした.各試料とも約5gのものを3サン プル採取して測定し,平均値および標準偏差 を算出し,プリン体測定値とした. 2. プリン体の測定方法 当研究室で確立された HPLC を用いた 2 つの 方法で測定した.方法 1では食品中の核酸も含 めたプリン体を各塩基別に定量し,合計値を総 プリン体量としている.方法 2では食品中に遊 離で存在しているプリン体分子種を測定した. これら2つの方法を用いる理由は,総プリン体 で定量されたプリン塩基中のプリン体種を明ら かにするためである. 方法 1:食品中に含まれるプリン体種(核酸 である DNA,RNA およびヌクレオチド,ヌク レオシド)を酸加水分解によりプリン塩基まで 分解し定量する.測定対象は,プリン塩基で あるアデニン(A),グアニン(G),ヒポキサン チン(HX),キサンチン(X),尿酸(UA)とした. 試料 5g をポリトロンホモジナイザーで粉砕し たものを凍結乾燥した後,その試料を 70%過 塩素酸にて加熱条件(100℃)下で,酸加水分解 を行った.その後,水酸化カリウムで中和し, 遠心分離した上清を採取した.次にピーク同定 と夾雑物の影響を除去するためにキサンチンオ キシダーゼを用いて酵素処理を行い,限外ろ 過またはフィルターろ過で処理後,HPLC を用 いて試料を測定した.測定装置は SHIMADZU LC-20Aを 用 い て, カ ラ ム は Shodex Asahipak

GS 320HQ(7.6 mmI.D.×300 mm)を使用し, カラム温度は35℃とした.移動相は150 mMリ ン酸ナトリウム緩衝液(pH 2.8)で流速 0.6 mL// min,紫外可視検出器(UV)を使用し検出波長 は 260 nm とした.酵素未処理と酵素処理後の クロマトグラムの面積を差し引いてピークを 同定した5)

Fig 1. Saikyozuke (1 day or 3days) swordfish and Saikyo miso and not soaking (1day or 3days) swordfish and Saikyo-miso.

めかじき めかじき めかじき 西京漬け 4℃ 1日 めかじき (漬け1日) (漬け1日)西京味 めかじき (漬け3日) (漬け3日)西京味 固体 液体 4℃ 3日 西京漬け 固体 液体 +西京味 +西京味 めかじき (1日) めかじき (3日) 4℃ 1日 4℃ 1日 4℃ 3日 4℃ 3日 固体 液体 漬け(ー) 固体 液体 西京味 西京味 (1日) 西京味 (3日)

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方法 2:試料は酸加水分解を行わないため, 遊離で存在している食品中のプリン体種(プリ ン塩基,ヌクレオシド,ヌクレオチド)を定 量した.測定対象はプリン塩基 5 種(A, G, HX, UA, X),ヌクレオシド4種(アデノシン(Ado), グアノシン(Guo), イノシン(Ino), キサントシ ン(Xao)),ヌクレオチド 8 種(ATP, ADP, AMP, GTP, GDP, GMP, IMP, XMP)とした.試料200mg は 70%アセトニトリルを加えホモジネートし 除タンパク後にプリン体を抽出し,遠心後の上 清を採取し,遠心エバポレーターで濃縮乾固を 行い,フィルターろ過後,HPLCにて測定した. 装置は SHIMADZU LC-20Aを用い,カラムは

YMC-Triart C18(4.6 mmI.D.×250 mm, 3μm)を

使用し,カラム温度は 35℃とした.移動相 A は 80 mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 4.1), 移動相Bは30%メタノール in Aで流速0.6 mL// min グラジエント溶出,フォトダイオードアレ イ検出器(PDA)を使用し検出波長は 260 nm と した10) 3. 西京味噌の固体液体分離の方法 西京味噌(1 日)および西京味噌(3 日)と西京 味噌(漬け 1 日)および西京味噌(漬け 3 日)を 各々 200 mg 採取し,同量の生理食塩水 200 μL で数回に分けて洗い,0.45 μm のフィルターを 用いて3,000 rpm,10 min,4 ℃にて遠心ろ過し, 固体と液体に分離し,70 %アセトニトリルを 用いて固体側に含まれるプリン体の抽出を行っ た.固体側には味噌原料の大豆,米や麹菌の成 分と取り込まれたプリン体が,液体側には水分 に溶出したプリン体が集積される.固液試料は 方法2を用いて測定した. 結果・考察 Table 1にめかじき(1日)とめかじき(漬け1日), 西京味噌(1日)と西京味噌(漬け1日)の各プリン 塩基と総プリン体量の結果を示した.Table 2 に も同様に3日後の結果を示した. 方法 1 で測定した,めかじき(1 日)の総プリ ン体量は,149.7mg//100g で,めかじき(3 日)は 139.0mg // 100gであった.これまで著者らが報 告しためかじきの含有量とほぼ同等で,ガイド ラインの食品中のプリン体含有量分類の中程度 (100mg~200mg//100g)に相当した.西京味噌の総 プリン体量は,赤味噌や白味噌に含まれる総プリ ン体量に近似し,西京味噌(1 日)は 40.9mg//100g と西京味噌(3 日)は 25.5mg//100g で,プリン体 含有量の分類は極めて少ない(~50 mg//100g)と なった.3 日冷所保存するだけでアデニンを除く プリン塩基に減少傾向が見られたことから,保 存中における西京味噌の成分によるプリン体の

Table 1. Total contents of four purine bases in swordfish and Saikyo-miso (n=3). Swordfish was soaked in Saikyo-miso for 1 day.

Data are presented as the mean ± SD of three measurements.

mg/100g Compound swordfish(1 day) (soaked 1 day)swordfish Saikyo(1 day)-miso (soaked 1 day)Saikyo-miso

Adenine-related Guanine-related Hypoxanthine-related Xanthine-related 15.0 ± 2.3 14.4 ± 3.5 119.3 ± 26.9 1.1 ± 0.2 17.0 ± 4.8 16.0 ± 2.8 95.6 ± 13.9 4.3 ± 1.1 0.7 ± 0.1 13.2 ± 7.1 19.1 ± 1.6 7.9 ± 1.5 0.4 ± 0.2 2.8 ± 0.8 15.3 ± 3.0 2.7 ± 0.7 Total 149.7 ± 30.4 132.8 ± 19.8 40.9 ± 10.2 20.9 ± 4.5 * : p < 0.05 versus 1 day

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経時的変化があった可能性などが考えられた. めかじき(漬け 1 日)では,めかじき(1 日)と比 較してプリン体量において,ほぼ変化はなかっ たが,西京味噌(漬け 1日)のG類,X類および総 プリン体が西京味噌(1 日)に比べ有意に減少し 全てのプリン体類が減少傾向であった(Table 1). これは魚から浸出した水分により,西京味噌が 希釈された影響が考えられた.めかじき(漬け 3 日)では,めかじき(3 日)に比べ,HX 類が有意 に減少し,西京味噌(漬け3日)で有意に増加した (Table 2).めかじき(漬け3日)のHX類がめかじ き(3日)と比較し,およそ30%減少し,減少した HX類の値は,西京味噌(漬け 3 日)で増加した値 と近似していた.以前に報告した,めかじき酒粕 漬けの結果では,1 日および 3 日間浸漬した酒粕 漬けめかじきの G 類 HX 類と総プリン体が有意に 減少したが,西京漬けでは,めかじき(漬け3日) の HX 類のみが有意に減少していたことが異なっ ていた. 方法2で測定しためかじき(1日)とめかじき(漬 け 1 日),めかじき(3 日)とめかじき(漬け 3 日) の遊離プリン体の結果を Fig 2 に示し,西京味噌 (1 日)と西京味噌(漬け 1 日),西京味噌(3 日)と 西京味噌(漬け 3 日)の遊離プリン体の結果を Fig 3に示した.めかじき(1日)およびめかじき(3日) の遊離プリン体は IMP,Ino,HX が多く(Fig 2), 遊離プリン体の多くは HX 類であった.めかじき (漬け 3 日)では,めかじき(3 日)と比べ,Ino が 有意に減少したが HX には変化は見られなかった (Fig 2).以前に報告した酒粕漬けのめかじきで は,めかじき(1日)とめかじき(漬け1日)で比較 し,IMP,Ino,HX すべてが有意に減少していた ことから,発酵食品の違いで異なる結果となった. めかじき(1日)には,XMPは検出されなかったが, めかじき(漬け3日)で観察され,Xも増加してい た(Fig 2).一方,西京味噌(1 日)の主要なプリ ン体種は HX,Xであったが,西京味噌(漬け 1日 または漬け 3 日)では,Ino,HX,X が有意に増 加した(Fig 3).西京味噌(1日,3日)および西京 味噌(漬け1日,漬け 3日)いずれにもIMPは見ら れなかったことから,味噌中にはIMPは含まれて いないか,もしくは味噌中の成分によって代謝さ れた可能性が考えられた. 発酵食品は,様々な発酵微生物から製造されて いる.日本酒製造過程の搾り粕である酒粕は,一 部の米を麹菌で糖化させ,糖分と清酒酵母菌から なる副産物である.一方,米味噌に分類される西 京味噌は大豆,塩と米麹から生み出され,主に麹 菌の酵素が働き,でんぷんやたんぱく質を分解し 熟成させた主産物である.このように発酵食品は, 目的に合わせた多種多様な発酵微生物の働きで つくられている9).今回測定した西京味噌と,

Table 2. Total contents of four purine bases in swordfish and Saikyo-miso (n=3). Swordfish was soaked in Saikyo-miso for 3 days.

Data are presented as the mean ± SD of three measurements.

mg/100g Compound swordfish (3 days) swordfish (soaked 3 days) Saikyo-miso (3 days) Saikyo-miso (soaked 3 days) Adenine-related Guanine-related Hypoxanthine-related Xanthine-related 14.6 ± 5.8 5.7 ± 5.7 117.7 ± 20.5 1.1 ± 0.1 9.4 ± 1.9 13.6 ± 4.2 77.2 ± 4.1 2.1 ± 0.3 1.6 ± 0.7 6.2 ± 1.6 12.5 ± 0.0 5.2 ± 0.4 0.8 ± 0.2 8.3 ± 3.4 34.9 ± 8.1 4.3 ± 1.4 Total 139.0 ± 41.8 102.4 ± 11.8 25.5 ± 6.0 34.4 ± 7.6 *: p < 0.05 versus 3 days

(6)

以前に報告した酒粕で浸漬した結果が一部異なっ た理由には,二つの発酵食品で主に働く発酵微生 物が異なることや西京味噌の原材料に塩が含まれ ている事が,めかじきに含まれるプリン体および 遊離プリン体組成に影響したことが考えられた. 西京漬けすることにより,めかじきから移行し たプリン体の分布が,味噌の固体に含まれる発 酵微生物に移行するのか,あるいは液体への浸 出であるのかを調べるために,西京味噌(1日)と 西京味噌(3日),西京味噌(漬け1日)と西京味噌 (漬け3日)の試料を固体と液体に分離し,各々の プリン体を測定した結果をFig 4,Fig 5に示した. 固液分離した試料中では,プリン体は固体側よ り液体側に多く,漬け 1 日および 3 日で,含まれ るプリン体種が同様であった(Fig 4,5).漬け1日 では液体側に HXが最も多く,次いで Inoとなり, IMPは検出されなかった(Fig 4).漬け 3 日では, 液体側でInoが最も多く,次いでHXで,1日同様 IMPは見られなかった(Fig 5).漬け1日における 液体側で増加した Ino(Fig 4)は Fig 3 で見られた 西京味噌(漬け 1日)における Inoの有意な増加と ほぼ一致していたことから,西京味噌(漬け1日) のInoの増加は水分へ移行したことが示唆された. 一方,西京味噌(漬け 3 日)の固体側でも僅かに

Fig 3. The free purine contents of Saikyo-miso of saikyozuke for 1 day or 3 days. Data are presented as the mean ± SD of three measurements

*: p < 0.05 versus not soaked (1 day)  #: p < 0.05 versus not soaked (3 days)  ##: p < 0.01 versus not soaked (3 days) ATP ADP AMP Ado A GTP GDP GMP Guo G IMP Ino HX XMP Xao X UA 0 20 40 60 80 100 120 C on ten t ( m g/ 100g) # ## * * # 西京味 漬け(−)1日  漬け(+)1日 漬け(−)3日 漬け(+)3日

ATP ADP AMP Ado A GTP GDP GMP Guo G IMP Ino HX XMP Xao X UA

C on ten t ( m g/ 100g) 0 20 40 60 80 100 120 めかじき 漬け(−)1日  漬け(+)1日 漬け(−)3日 漬け(+)3日 # # # *

Fig 2. The free purine contents of swordfish of saikyozuke for 1 day or 3 days. Data are presented as the mean ± SD of three measurements

(7)

Inoが増加していたことから,Inoが固体側に取り 込まれたことや,固体に水分が残留していた可能 性も推測された(Fig 5). 西京味噌(漬け 1 日,3 日)では IMP は検出され ず Ino が増加した結果に対して,めかじき酒粕で は酒粕側にIMPが移行したことや,鶏もも肉1gを 水中に 10 分間浸した際,溶出した遊離プリン体 は HX が最も多く,次いで Ino,IMP であったこ とから,HX 類が水に溶出しやすいことを当研究 室では報告している4, 11).また,魚肉を味噌漬 けにした場合の脂質の動向を観察した研究では, 味噌中の脂質が魚肉に移行し,魚肉の脂質に対し て酸化防止効果を示したとの報告がある12).プリ ン体が漬け側や水中へ浸出・溶出することや魚側 に脂質が移行する要因には,肉や魚の採取量や溶 出しやすいプリン体の性質,発酵食品の成分や浸 漬時間も影響すると推察した. 本研究では,めかじき(漬け 3 日)のプリン体 の半分以上を占め血清尿酸値を上昇させやすい HX類がおよそ 30%減少したこと,そのプリン体 種は Ino であったことが明らかになり,西京漬け は魚を食べる際のプリン体低減に役立つ調理およ び加工法であることが示された.めかじきの西京 漬けは加熱時,魚に付着した味噌は可能な限り

Fig 4. The purine contents of solid and liquid in Saikyo-miso, saikyozuke for 1 day.

Fig 5. The purine contents of solid and liquid in Saikyo-miso, saikyozuke for 3 days.

液体 漬け(−) 液体 漬け(+) 個体 漬け(−) 個体 漬け(+) Ino HX X 西京味  1日 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 C on te nt (㎍/200㎎) 液体 漬け(−) 液体 漬け(+) 個体 漬け(−) 個体 漬け(+) 西京味  3日 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 C on te nt (㎍/200㎎) Ino HX X

(8)

拭い取ることを推奨し,プリン体低減に役立つ 調理・加工法として提案したい.魚の多価不飽 和脂肪酸は極めて酸化されやすいが,味噌には魚 肉の脂質に対して酸化防止効果を示すことに加え, in vitro の研究ではω-3多価不飽和脂肪酸が腎 臓で尿酸輸送に関わる尿酸トランスポーター 1 (URAT-1)阻害活性を示したことが明らかになっ ている13) これらの結果から,高尿酸血症・痛風および生 活習慣病患者の食事療法において魚類の適切な摂 取が求められていることを踏まえると,西京漬け を献立の一つに加えることにより患者の嗜好に合 わせた食事指導が行えると考察した.今後,魚の 種類や他の発酵食品による組み合わせなどを検討し, 食事指導に役立てて行きたい. COI の開示 本論文に関連して,開示すべきCOI関係にある 企業などはありません. 文  献 1) 一 般 社 団 法 人 日 本 痛 風・ 核 酸 代 謝 学 会: 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版: 141-144, 2018.

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3) Clifford A.J. Riumallo J.A. Young V.R. et al : Effect of Oral Purines on Serum and Urinary Uric Acid of Normal, Hyperuricemia and Gouty Humans. J. Nutr. 106(3), 428-434, 1976.

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8) Takayanagi F. Fukuuchi T. Yamaoka N et al : The observed variation in the purine composition of food after soaking in sake lees. Nucleosides, Nucleotides and Nucleic Acids. 37(6), 348-352,

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10) Fukuuchi T. Yamaoka N. Kaneko K: Analysis of Intra- and Extracellular Levels of Purine Bases,

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Sci. 31(9), 895-901, 2015. 11) 福内友子,岩崎円香,山岡法子,金子希代 子.湯煎および電子レンジ加熱調理による食 品中のプリン体含量の変動.痛風と核酸代謝 42(2): 165-172, 2018. 12) 山崎歌織 川村フジ子 味噌の種類の影響. 日本調理科学会誌 30(2), 122-126, 1997.

13) Saito H. Toyoda Y. Takada T et al : Omega-3

Polyunsaturated Fatty Acids Inhibit the Function of Human URAT1, a Renal Urate Re-Absorber.

(9)

We have reported that when a fish is immersed in fermented sake lees, some purines in the fish migrate from the fish side to the soaked side. In this study, to compare different fermented foods, we investigated changes in the purine composition and behavior of swordfish soaked in Saikyo miso. The swordfish was soaked in Saikyo miso for 1 and 3 days. Purines of foods were measured by two methods using high performance liquid chromatography (HPLC) developed in our laboratory. The total purine contents of swordfish and Saikyo-miso were 149.7 and 40.9

mg //100 g respectively. When swordfish was soaked in Saikyo miso for 3 days, hypoxanthine (HX)-related

purine in the swordfish was significantly decreased. HX-related purine in Saikyo miso after soaking for 3

days was significantly increased.

As the results of free purine measurement, inosine monophosphate (IMP), inosine (Ino), and HX in raw swordfish were abundantly detected. When soaked in Saikyo miso, Ino in swordfish decreased and Ino in Saikyo miso increased. Furthermore, as a result of solid-liquid separation of Saikyo miso, purines were

mainly present on the liquid side.

Therefore, it was shown that Saikyo-zuke reduced

the amount of Ino, which is an HX type that is abundant in swordfish, and that most of it moved to the liquid side of Saikyo miso. This dish should be recommended in dietary therapy for patients with hyperuricemia and gout.

Fukue Takayanagi1) Tomoko Fukuuchi1) Noriko Yamaoka1) Makoto Yasuda2) Ken-ichi Mawatari2) Naoto Oku2) Kiyoko Kaneko1)

Changes in Purine Composition of Swordfish by Soaking

in Saikyo Miso

1) Laboratory of Biomedical and Analytical Sciences, Faculty of Pharma-Sciences, Teikyo University 2) Laboratory of Bioanalytical Chemistry,

Faculty of Pharma-Sciences, Teikyo University

Key words : Hyperuricemia/gout, diet therapy, purine contents, Saikyo-miso, fish dishes

Fig  1. Saikyozuke (1 day or 3days) swordfish and Saikyo miso and not soaking (1day or 3days)  swordfish and Saikyo-miso.
Table  2.  Total contents of four purine bases in swordfish and Saikyo-miso (n=3). Swordfish was  soaked in Saikyo-miso for 3 days.
Fig  3. The free purine contents of Saikyo-miso of saikyozuke for 1 day or 3 days.
Fig  5. The purine contents of solid and liquid in Saikyo-miso, saikyozuke for 3 days.

参照

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