原発再稼働の「地元合意」に関する住民意識:浜岡原発を事例とした質問紙調査の結果から
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(2) 原発再稼働の「地元合意」に関する住民意識:浜岡原発を事例とした質問紙調査の結果から. え,周辺の 5 市にも実質的な事前了解権を認める新しい a). 51. 稼働をめぐる地元合意に関与するべきなのかは必ずしも明. 安全協定が締結された 。後述のように,浜岡原発をめ. 確ではない。そして,地元合意のあり方は,再稼働の可否. ぐっても,UPZ を含む 7 市町によって安全協定締結が目. に大きな影響を与えるため,それ自体が政治的な争点とな. 指された。. る。そのため,原発の再稼働に向けた手続きが各地で進む. 原発再稼働のプロセスにおける地元合意の位置付けやそ. 中で,地元合意をどう考えるのかは重要な課題である。誰. の範囲については,国会でもたびたび取り上げられてき. が,どのような手続きによって再稼働の是非を判断するべ. た。例えば,高浜原発の再稼働に関する 2015 年 3 月の国. きなのか。より社会的に受容可能な地元合意を考える上で. 会の答弁で,国は「地元自治体の同意というのは,法令上. は,原子力に関わる専門家,政治家,利害関係者だけでな. 原発の再稼働の要件ではございません。再稼働に当たって. く,一般の市民・住民の認識・態度を明らかにすることが. は,地元の理解を得ることは大変大事でありますけれど. 重要である。. も,その方法とかその範囲につきましては,各立地によっ. 迷 惑 施 設 問 題 や NIMBY 問 題 の 研 究 に お い て は, 補. て事情が様々であることでありますので,国が一方的,一. 償 ,リスク緩和 ,オークション・アプローチ ,ボラ. 律に決めるのではなくて,各地とよく相談しながら対応す. ンタリ・アプローチ ,負担分担 ,市民参加. b). 8). 9). 10). 11). 12). 13,14). など,. ることが重要だと思っております。」と述べている 。ま. 地元合意を形成するための様々な手法や手続きが提案され. た,地元合意の法制化についても議論されており,例えば. てきた。さらに,決定手続きの正当性や公正性について,. 日本維新の会は原発稼働に関して原子力災害対策を重点的. 人々の認識や態度を明らかにした研究も存在する。例え. に実施すべき都道府県(特定都道府県)の同意に関する法律 c). ば,Gross は,風力発電に対する利害関係や必要性への信 念によって,結果の好ましさ,結果の公正性,手続きの公. 案を提出している 。. 15). 再稼働をめぐっては,各地で住民投票の実施も求められ. 正性のどれを重視するかが変わってくると論じている 。. てきた。例えば,2012 年 12 月,東京電力柏崎刈羽原発. 日本の文脈においても,野波・土屋・桜井は,在日米軍基. の再稼働をめぐり住民が直接請求した県民投票条例案が新. 地を対象に,当事者と非当事者の間で決定権をめぐる各ア. 潟県議会に付議された. d,6). 。本報で取り上げる浜岡原発の. クターの正当性の規定要因が異なることを,大学生を対象. 再稼働問題でも,2012 年に県民投票の実施を求める直接. とした調査によって示している 。同じく,野波ほかは. 請求がなされ,県議会で議論された。近年では,2019 年. NIMBY 問題をめぐって,迷惑施設に対する域外多数者の. 2 月に市民グループ「みんなで決める会」が中心となって. 関心が立地地域少数者の情動反応や,公平性評価,共感性. 東北電力女川原発 2 号機の再稼働の是非を問う県民投票. 評価に及ぼす影響を大学生を対象とした仮想シナリオ実験. e). 16). 17). 条例案を直接請求して,宮城県議会に提出した 。また,. の結果から示している 。馬場も,仮想的な施設立地に対. 日本原電東海第二原発を対象に市民グループ「いばらき原. して一般市民の関与意向,公平性の基準に対する評価,結. 発県民投票」が 2020 年 1 月より県民投票条例制定の直接. 果の受容性について分析し,意思決定プロセスにおける公. 請求のための署名運動を行い,茨城県議会に条例案が提出. 平性の基準としては代表性が重視され,住民投票や専門家. f). された 。しかし,これら県民投票条例案をめぐる直接請. 委員会の検討結果が受容されやすい傾向があることを明ら. 求は法定署名数を集めたものの,いずれも県議会で否決さ. かにしている 。. 18). れている。2020 年時点で,日本で原発や原発の再稼働の. しかし,迷惑施設の影響は空間的にも多岐に渡り不確実. 是非を対象とした都道府県レベルの住民投票は実施されて. 性をはらむため,当事者/非当事者,立地地域/域外と. 7). いない 。 このように,どの範囲の自治体および住民が,いかに再 a). 朝日新聞「再稼働の道 5市が一石『ある意味で出発点』事前 了解拡大」2018 年 3 月 30 日(朝刊)茨城版 29 面。 b) 宮沢洋一内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機 構)の答弁,“第 189 回国会参議院予算委員会第 13 号”,2015 年 3 月 27 日。役職は当時。 c) 日本維新の会,“発電用原子炉施設の使用の開始又は再開に係 る特定都道府県の同意に関する法律案,”日本維新の会「震災 復興・エネルギー政策」,2017 Mar. 9,[in Japanese],[Internet], https://o-ishin.jp/news/bill/list02.html, (cited 2020 Apr. 10). d) 条例案は賛成 7,反対 44 で否決されている。 e) 朝日新聞「県議会で論戦始まる 女川再稼働問う県民投票条例 案」2019 年 2 月 22 日(朝刊)宮城全県版 23 面。 f) いばらき原発県民投票の会,“話そう 選ぼう いばらきの未 来,”いばらき原発県民投票の会,2020 July 6,[in Japanese], [Internet], http://ibarakitohyo.net/, (cited 2020 July 10).. いった線引きをアプリオリに想定することは困難であり, 19,20). それ自体が政治的な争点となる. 。上述のように,原発. 再稼働をめぐっては了解を得るべき「地元」の範囲が問題 となっており,その点についての市民・住民の意識を明ら かにすることは重要である。また,大学生を対象とした調 査や仮想シナリオ実験ではなく,実際に地元合意のあり方 が問題となっている事例を対象に,潜在的な「当事者」で ある市民・住民の地元合意への態度・認識を明らかにする ことは,社会的にも意義があると考える。 原子力や原発に関しては,一般市民・住民の認識や態度 についての調査. 21~23). や,地元合意のあり方について地方 24,25). 自治体首長の態度を調査した研究は存在する. 。しか. し,原発に関する地元合意のあり方について一般市民・住 民の意識を詳細に明らかにした研究は管見の限り存在して いない。上園・江口・関は島根原発についての松江市民の 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(3) 論 文(辰巳,他). 52. 意識調査から,「地元」の範囲を現状程度に留めるべきと. の全域あるいは大半の地域,および静岡県の富士川以西の. 考える人は,島根原発の必要性があると考える人が多く,. 地域に電力を供給しており,中部電力の発電量に占める原. 「地元」の範囲を 30 キロ圏や 100 キロ圏に広げるべきと. 子力の割合は,2009 年度で約 12.3%であった 。 g). 1967 年に旧浜岡町が原発の候補地として選ばれ,1976. 考えている人は,島根原発の廃炉を求めている人が多いこ とを示している 。しかし,「地元」の範囲への態度が,. 年には 1 号機が営業運転を開始している。その後,中部. 尊重されるべき地域や主体への認識とどのように関連して. 電力が増設を申し入れ,1978 年に 2 号機,1987 年に 3. いるのかや,地元合意への態度が性別,世代,居住地と. 号機,1993 年に 4 号機,2005 年に 5 号機が営業運転を. いった社会属性の間でどのように異なっているかは明らか. 開始した。2008 年には,1・2 号機の廃炉と 6 号機建設計. にされていない。. 画が公表された。. 26). そこで,本報では,浜岡原発を事例に,再稼働をめぐる. 2011 年 3 月の東北地方太平洋沖地震と福島第一・第二. 地元合意への静岡県民の認識・態度を,2019 年 3 月から. 原子力発電所の事故を受け,同年 5 月に政府による停止. 4 月にかけて実施した郵送質問紙調査の結果から明らかに. 要請で 4 号機と 5 号機が運転停止,3 号機の運転再開が見. する。次章では,浜岡原発についての概要と,安全協定お. 送られ,浜岡原発は全機が運転を停止した。その後,中部. よび県民投票をめぐる経緯と論点について簡単に整理す. 電力は海抜 22 m の防波壁建設など,福島原発事故後に制. る。. 定された新規制基準を踏まえた設備対策を進め,2014 年. II. 浜岡原子力発電所と地元合意. に 4 号機,2015 年に 3 号機の適合性確認審査を申請し た。現在,1・2 号機は廃炉措置中,3・4 号機は新規制基. 1. 浜岡原子力発電所の経緯と現状. 準適合性に係る審査中で,申請準備中としている 5 号機. 旧浜岡町(2004 年に御前崎町と合併し,現在は御前崎. を含め全機が運転を停止している 。. h,i). 市)の佐倉地区に立地する浜岡原発は,中部電力㈱(以下,. 2. 安全協定締結の範囲と事前了解. 中 部 電 力 )が 所 有・ 運 営 す る 唯 一 の 商 用 原 発 で あ る (Fig. 1)。中部電力は,愛知県,長野県,岐阜県,三重県. Fig. 1. 原子力発電所について,地方自治体は,住民の健康や財. Map showing the location of Hamaoka NPP. 経済産業省資源エネルギー庁,“2–(5)発受電実電実績 | 過去の データ | 集計結果又は推計結果 | 電力調査統計,”資源エネル ギー庁,2019,[in Japanese],[Internet], http://www.enecho. meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/results_archive. html,(cited 2019 May 3). h) 静岡新聞「5 号機審査申請言及 中電社長,原子力規制委に 浜岡原発」2019 年 9 月 4 日(朝刊)28 面。 g). 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021). i). 6 号機計画については,2018 年 3 月に公表された中部電力の 長期経営指針「経営ビジョン」の改定版では,計画の白紙撤回 を意味するものではないとしながらも,記載を見送られてい る。静岡新聞「今回も記載見送り 中電浜岡原発の 6 号機計画 ―経営指針」2018 年 3 月 28 日(朝刊)30 面。.
(4) 原発再稼働の「地元合意」に関する住民意識:浜岡原発を事例とした質問紙調査の結果から. 産を守るための方策の 1 つとして安全協定を結んでい る. 2,4). 53. 態への危惧も示されたものの,既存の 1 県 4 市の安全協. 。浜岡原発についても,1971 年に静岡県,旧浜岡. 定に正式に盛り込まれていない条項を含めることは困難で. 町,旧御前崎町,旧相良町が中部電力と安全協定を締結し. あるという意見もあり,事前了解は明文化されなかった。. た。1981 年には,旧大東町と旧小笠町も安全協定に加. 3. 県民投票についての経緯. わっている。1979 年の米国スリーマイル島原子力発電所 の事故を受けて,原子力安全委員会が「防災対策を重点的. 浜岡原発再稼働の是非をめぐっては,2012 年に市民団. に充実すべき地域の範囲(EPZ)」を 10 km 程度と設定し. 体「原発県民投票静岡」によって「中部電力浜岡原子力発. たことが,契機の 1 つとなっている 。その後,基礎自治. 電所の再稼働の是非を問う県民投票条例案」が静岡県議会. j). 体の合併が進み,2011 年時点で,静岡県,浜岡原発が立. に提出された。原発県民投票静岡は,2012 年 8 月までに. 地する御前崎市,御前崎市に隣接する菊川市,掛川市,牧. 165,127 の有効署名を集め,県民投票条例の制定を直接請. 之原市の 1 県 4 市が安全協定を締結していた。. 求した 。. 27). 2011 年の福島原発事故後には,UPZ が浜岡原発から半. この条例の目的は,「中部電力原子力発電所の再稼働の. 径 31 キロの地域に設定された。UPZ を含む自治体は,広. 是非に関し,県民の意思を明らかにするための公正かつ民. 域避難計画を策定する必要がある。これを受け,2016 年. 主的な手続きを確保することにより,中期的なエネルギー. には,従来の 1 県 4 市が締結していた安全協定に「準じ. 政策に関わる住民自治を推進し,もって県政の民主的かつ. る」安全協定が,UPZ を抱える 7 市町(島田市,磐田市,. 健全な運営を図ること」とされている。2012 年 9 月に. 焼津市,藤枝市,袋井市,吉田町,森町)と中部電力の間. は,県の意見を受けて,原発県民投票静岡が条例の修正案. で締結された。. を提出した。. 浜岡原発の安全協定の特徴の 1 つに,原発の重要な施. 県議会では,特に市町村の協力や結果の拘束性が争点と. 設変更などを行う場合の事前了解が明文化されていない点. なった 。住民投票を実施するためには,投票資格者の名. が挙げられる。安全協定では「発電所の周辺環境の安全確. 簿を作成し投開票の事務を行う必要があるが,選挙人名簿. 保のため,別に定めるところにより必要な事項について通. は市町村が管理しているため,都道府県が投票資格者を把. 報しなければならない」(第 5 条)とされており,通報措. 握するためには,市町村の協力が必要になる。また,投開. 置要領が作成されている。安全協定の解釈書では,「通報. 票の事務も,市町村に委託する必要があるとされる。その. 措置要領に基づいて事前に通報がされ,事前協議を通じて. ため,静岡県議会では,県民投票に協力しない市町があっ. 実質的に事前了解が担保される」と解されている。. た場合,はたして実施可能なのかが議論された。また,一. l). 事前了解を安全協定に明記すべきかについては,2005. 般に,都道府県や市町村の条例に基づいて実施される住民. 年のプルサーマル計画発表を契機に,当時,安全協定を締. 投票には法的な拘束力はないとされること,再稼働につい. 結していた 4 市や静岡県で議論された。例えば,静岡県. て都道府県に法的権限はないとされていることから,県民. 議会においては,度重なるデータ改ざんによって中電との. 投票の結果を知事および県議会に尊重させることに意味が. 信頼関係は揺らいでいる,中電が一方的に進めることのな. あるのかが問題になっている。その他にも,議会制民主主. いよう事前了解事項を安全協定に盛り込むべき,という意. 義との整合性,国策を対象とすることの是非,一般住民に. 見が出される一方で,変更があれば事前に通報され十分協. 適切な判断ができるのかどうか,二者択一で判断すること. 議をすることができ実質的に事前了解と同様の効力があ. の是非,投票率が半分未満の場合に無効とすることの是非. る,原子力発電所については県や市町には法的な権限がな. などが論点として挙がっている。 結果として,2012 年 10 月の県議会で原案は賛成 0 票,. いため仮に明文化したとしても事前了解には法的根拠がな k). い,といった見解が示されている 。. 反対 65 票で,修正案は賛成 17 票,反対 48 票で反対多数. 2011 年の福島原発事故後に UPZ 圏内を含む 7 市町が. となり,否決された。しかし,静岡県知事の川勝平太は. 新たに安全協定を締結する際にも,事前了解は争点の 1. 2013 年の知事選挙で県民投票の実施を公約した経緯もあ. つとなった。事前了解が解釈書によって担保されている状. り,将来,中部電力が再稼働を申請する際には県民投票の. 「解釈書」1(1)には,「甲のうち静岡県以外の者は,国の原子力 安全委員会策定の「原子力施設等の防災対策について」に基づ き静岡県が設定した原子力防災対策を重点的に充実すべき地 域」(以下「EPZ 」という。)を行政区域内にもつ市である。な お,静岡県は,EPZ を原子力発電所からおおむね半径 10 km の範囲としている。」と記述されている。また,静岡県議会に おいても,2002 年の水漏れ事故に際して,関係市町範囲を拡 大すべきという意見に対して,「安全協定は,国の防災指針に 基づく防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲に含まれる町 と県および事業者が締結しているものであり,現行の関係町の 範囲を拡大することは困難」という旨の答弁がされている。. j). m). 是非が再び大きな争点となると想定される 。 k). 以上の論点については,静岡県議会議事録から抽出した。 以下に挙げる論点は,静岡県議会議事録から抽出した。 m) 静岡新聞「総合計画達成へ決意 知事選出馬,川勝氏正式表 1 面。ただし,2017 年静岡県知 明」2013 年 4 月 23 日(朝刊) 事選挙の際は「〔浜岡原発の〕再稼働について考えうる状況に ない。それゆえ県民投票は〔2017 年知事選では〕課題になら な い(〔 〕 内 筆 者 )」 と 述 べ て い る( 静 岡 新 聞「2017 知 事 選 県政の論点(6) 浜岡原発の再稼働『地元同意』範囲焦点」 2017 年 6 月 18 日(朝刊)1 面。)。 l). 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(5) 論 文(辰巳,他). 54. 設問では,以下のような意見に対して回答者がどのように. III. 方法とデータ. 考えるかを,「1. そう思う」から「3. どちらともいえな. 以上,浜岡原発の再稼働に関する地元合意の問題につい. い」を挟み「5. そう思わない」までの 5 件法で尋ねた。. て,安全協定と県民投票をめぐる経緯から概説した。それ. 分析では「1. そう思う」を 5 点,「5. そう思わない」を. では,静岡県民は事前了解や県民投票を含む地元合意のあ. 1 点のように順に得点換算している。. り方について,どのような認識,意見をもっているのか。. 分析においては,まず単純集計から各意見についての回. 本報では「浜岡原発の再稼働と地元合意」をテーマに実施. 答者の態度の分布をみていく。次いで,設問群の関連性を. n). o). した質問紙調査 の結果をデータとして用いる 。この質 28). 問紙調査は,討論型世論調査 を模した熟議イベントの一. 偏相関係数で確認する。そして,意見の潜在的な構造を明 らかにするために,因子分析を実施する。. 環として実施されたものであり,基本的な社会属性に加え. 相関の推定や因子の抽出に当たり,設問の回答は 5 件. て,浜岡原発再稼働や県民投票への賛否,再稼働の地元合. 法であるが,背後に連続性を仮定して,最尤推定法で推定. 意や原発への態度・認識を尋ねた。. したポリコリック相関を用いる。ポリコリック相関は天井. 調査対象は,静岡県の有権者を母集団として 5,000 標本. 効果や床効果があるような歪んだ分布でも,比較的に正し. を自治体ごとに人口比で割り付け,選挙人名簿から系統抽. い推定を行う。なお,相関の推定ではペアワイズ法で,因. p). q). 出した 。質問調査は郵送法による調査票調査とした 。 調査日程は,2019 年 3 月 7 日から 19 日までとして,4 月. 子抽出ではリストワイズ法で欠損値を処理している。 因子分析では,因子数は複数の手法を用いて推定された. 17 日到着分までを集計対象とした。回答から対象者以外. 2~5 因子を検討して,最終的に 3 因子とした。これは対. が答えたと考えられる回答などを無効として,有効回答を. 角 SMC 並行分析(principal components)による推定因子. 集計した。有効回答は 2,052 票で,有効回答率は 41.0%. 数と一致する。Kaiser-Meyer-Olkin 標本妥当性は 0.78,. であった。. Kaiser 基準で middling と妥当な標本の範囲である。因子. 分析においては,地元合意に関連する 11 の意見への態. 抽出は最尤法で,因子抽出後の回転は因子間の相関を仮定. 度を尋ねた設問(問 5)を主に用いた(Table 1)。これらの. した斜交回転の 1 つである独立クラスター回転を用いた。. Table 1 List of survey questions for analysis Num.. Item. 1 2. 直接被害地域の判断 間接被害地域の判断. 3. 産業・財政影響地域の判断. 4 5 6. 立地自治体の判断 電力消費地の判断 電力会社の判断. 7 8 9 10 11. 日本政府の判断 首長と議会の判断 専門家の判断 一般の人びとの判断 原発推進主体への信頼. Question Text 原発の再稼働は,事故による汚染や避難など直接的な被害が想定される地域が判断すべきである。 原発の再稼働は,事故による直接的な被害だけでなく,風評被害が想定される地域の判断も尊重さ れるべきである。 浜岡原発が停止し続けることで,産業や雇用が悪化したり,交付金の見直しが懸念される地域の意 見をより尊重すべきである。 浜岡原発の再稼働は,これまで原発を受け入れてきた御前崎市の判断が尊重されるべきである。 浜岡原発の再稼働は,原発からの電気を消費する都市部にも,そのあり方を決める権利と責任がある。 国の原子力規制委員会による安全審査が完了すれば,自治体の同意がなくとも電力会社の判断で原 発を再稼働しても良い。 原発の再稼働は,国全体の問題なので,日本政府が責任をもって判断すべきである。 原発の再稼働は,選挙で選ばれた地方議会と知事,市町村長の責任と判断で行うべきである。 一般の人びとには原発の再稼働に関する問題は難しすぎるので,専門家の判断に任せるべきである。 原発の再稼働は,政治家や専門家に任せず,一般の人びとの意思によって判断すべきである。 原発の再稼働を推進している政府,企業,専門家たちは,国民に対して正確な情報を発信している。. Notes:質問紙では,問 5「次の意見に対して,あなたはどのようにお考えでしょうか?それぞれについて,最も当てはまる番号ひとつに○をつけてくださ い。」と尋ね,上記の各設問で「1. そう思う」~「3. どちらともいえない」~「5. そう思わない」の 5 件法で回答を求めた。 n). 実査は,個人情報やプライバシーの取り扱い,回収率や費用な どを勘案して外部機関への委託は行わず,静岡大学中澤高師研 究室として実施した。 o) 調査票の構成や設問は「浜岡原発の再稼働と地元合意について の意識調査」Web サイト(https://lap.inf.shizuoka.ac.jp/)掲載 の調査票を参照のこと。 p) 標本抽出は,定時登録時点(2018 年 12 月)の選挙人名簿を標本 抽出枠として利用した。5,000 標本を静岡県内 43 自治体に有 権者比で割り当てた。抽出過程では,自治体ごとに有権者数か ら割り当てた標本サイズを除して,小数点以下を切り捨てた整 数を抽出間隔とした。抽出開始点は,投票区を無作為に 1 つ選 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021). び(投票区ごとに名簿が区分されていない自治体は 1 投票区と した) ,抽出間隔より小さい自然数を無作為に選び,その投票 区でその数の順番に記載されていた有権者とした。抽出間隔が 十分大きいため,同じ世帯から複数の調査対象者は選ばれてい ない。本調査は県民投票という政治制度に関わるため,年齢や 居住地による選別 (高齢者や社会福祉施設への入居者などの除 外)はしていない。選挙権停止中の者や DV 法等の支援対象者 は除外した。 q) 調査票調査では,回答のためのボールペンを同封し,調査期間 中にお礼と督促を兼ねた葉書を郵送して回収率の向上を試みた。.
(6) 原発再稼働の「地元合意」に関する住民意識:浜岡原発を事例とした質問紙調査の結果から. 55. いくつかの設問では,因子負荷量が複数の因子にまたがっ. 他方,「6. 国の原子力規制委員会による安全審査が完了. て抽出された。しかし,共通性が低くないことや因子間の. すれば,自治体の同意がなくとも電力会社の判断で原発を. 関連性を想定していることを勘案して,いずれの設問も除. 再稼働しても良い」はほとんど支持されておらず,なんら. 外しなかった。. かの形での地元合意があるべきだと考えられている。しか. 抽出された因子について考察したうえで,さらに因子得. し,自治体の同意が必要だと考えられている一方で,. 点を比較することで,各因子がどの地理的スケールと結び. 「8. 首長と議会の判断」への不信が強く,「9. 専門家の判. 付いているのか,再稼働および県民投票への態度,世代,. 断」も信頼されていない。それに対して,「10. 一般の人. 性別,居住地域によって地元合意への態度に違いがあるか. びとの判断」,「7. 日本政府の判断」は支持がやや強い。 以上のことから,従来のような「直接被害地元」や「利. を検討する。. 益地元」だけでなく,風評被害のような間接的な被害の可. IV. 結果と考察. 能性を根拠とする「間接被害地元」や電力消費を根拠とし. Table 2 に問 5 への回答者の態度の分布を示す。まず,. た「消費地元」まで地元合意の対象を拡張すること,ま. 「2. 間接被害地域の判断」, 「6. 電力消費地の判断」など,. た,専門家の判断は信頼されておらず,自治体の了解に際. より広範な地域が地元合意に関わることを支持する意見が. しては首長や議会ではなく一般市民が判断することが支持. 多い。一方で,「1. 直接被害地域の判断」「3. 産業・財政. されていることが確認された。 次に設問群の関連性を相関係数と偏相関係数で確認する. 影響地域の判断」「4. 立地自治体の判断」は,賛否が分か. (Table 3)。対角を挟んで上側は相関係数,下側は他の設. れている。 浜岡原発の安全協定の範囲で述べたように,地元合意の. 問の影響をコントロールした偏相関係数である。相関係数. 根拠の 1 つとなる安全協定の範囲は,直接被害の想定範. が高い設問間は関連が強いことを表し,偏相関係数が高い. 囲に規定されてきた。一方,福島原発事故後には,原発の. 設問間は,設問間に直接的な関連が強いことを意味する。 太字は 5%水準で有意であることを表す。. 「地元」をめぐって,「立地地元」だけでなく「被害地元」 29~31). 。. ここでは特に偏相関係数を中心にみていく。再稼働に際. 辰巳・中澤は,中電管内の自治体への質問紙調査によっ. して「3. 産業・財政影響地域の判断」が尊重されるべき. て,自治体の間では,事故による被害を根拠とした「直接. とした回答者は「4. 立地自治体の判断」を尊重すべきと. や「消費地元」という地元概念が提起されてきた. 被害地元」が地元了解権の範囲として支持される傾向があ. いう意見にも支持を表明する傾向が強く,偏相関係数で. り,中部電力から電力供給を受けるという消費を根拠とし. 0.40 である。また,「4. 立地自治体の判断」と「1. 直接. た「消費地元」 ,交付金・固定資産税などの受益者である. 被害地域の判断」も,偏相関係数で 0.29 と弱い正の相関. ことを根拠とするような「利益地元」は表面化していない. があり,立地自治体と「利益地元」および「直接被害地. 24). 元」が結び付く形で地元合意の対象地域として考えられて. と論じている 。. いることが示唆される。. しかし,今回の県民意識調査では,地元合意に関与する より多様な根拠と,地理的に広い範囲が支持されている。. 一方で,「5. 電力消費地の判断」も尊重すべきだという. 「4. 立地自治体の判断」, 「1. 直接被害地域の判断」, 「3. 産. 回答は「1. 直接被害地域の判断」との偏相関係数が-0.26. 業・財政影響地域の判断」は賛否が分かれており,「2. 間. と弱い負の相関を取り,「2. 間接被害地域の判断」とは偏. 接被害地域の判断」と消費を根拠とした「5. 電力消費地. 相関係数が 0.23 と反対の正の弱い相関を示す。また, 「7. 日本政府の判断」という回答とも 0.22 と弱い正の相. の判断」への支持が高い。. Table 2 Frequency distribution of responses about the attitudes of local agreement Num. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11. Item 直接被害地域の判断 間接被害地域の判断 産業・財政影響地域の判断 立地自治体の判断 電力消費地の判断 電力会社の判断 日本政府の判断 首長と議会の判断 専門家の判断 一般の人びとの判断 原発推進主体への信頼. そう思わない 1. 2. どちらともいえない 3. 4. そう思う 5. mean. std.. 592 84 363 488 210 1,341 384 882 765 241 720. 146 42 163 184 126 256 189 315 325 203 357. 352 216 661 495 480 270 433 490 505 659 740. 315 417 360 356 478 74 290 172 207 382 128. 614 1,256 469 483 708 77 713 152 212 524 68. 3.1 4.3 3.2 3.1 3.7 1.7 3.4 2.2 2.4 3.4 2.2. 1.6 1.0 1.4 1.5 1.3 1.1 1.5 1.3 1.4 1.3 1.1. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(7) 論 文(辰巳,他). 56. Table 3 Correlation and partial correlation coefficients matrix Num.. Item. 1 2 3 4 5 6 7 8 9. 直接被害地域の判断 間接被害地域の判断 産業・財政影響地域の判断 立地自治体の判断 電力消費地の判断 電力会社の判断 日本政府の判断 首長と議会の判断 専門家の判断 一般の人びとの判断 原発推進主体への信頼. 10 11. 1. 2. 3. ― .12 .20 .29. .10 ― .17. .40 .08. −.26 -.02 −.06 .20 .00 .08. -.03. -.02 .23 −.35 .03 -.01 .00 .15. −.07. ― .40 .11 .19 .02 −.05 .08 .00 .08. 4. 5. .46 -.01 .61 ― .10 .01 .06 .09 .05. −.06 .12. 6. −.14 .23 .17 .13 ― .03 .22 -.02 -.02 .05 .03. 7. 8. 9. 10. .12. .05. .31. .16. −.40 .37 .33 .03. -.02 .25 .26 .26 .28. −.11 .27 .35 .00 .34 .27. −.21 .35 .36 .04 .52 .37 .41. ― .06 .09 .24 -.03 .25. ― .11 .21 .05 .06. ― .20 .02 .10. -.01 .28 −.16 −.20 .05 −.33 −.13 −.18 −.47 ― −.09. ― −.34 .04. 11 .13 −.22 .33 .36 .07 .49 .26 .31 .39. −.29 ―. Notes:上半分がポリコリック相関係数,下半分が偏相関係数。5%水準で相関が認められる項目を太字とした。. 関となる。ここには,従来の「利益地元」や「直接被害地 元」よりも広範な「間接被害地元」や「消費地元」への支. Table 4 Factor loadings using maximum likelihood method with cluster rotation. 持と,国の責任と判断への支持が結び付く傾向がみられる。. Items. 次に「2. 間接被害地域の判断」も尊重されるべきとい う回答は,「6. 電力会社の判断」との間で偏相関係数が -0.35 と相対的に大きい負の相関となる。さらに「2. 間 接被害地域の判断」と「1. 直接被害地域の判断」の関係 は,相関係数,偏相関係数ともに 0.10,0.12 と低い水準 にあり,被害の範囲を「地元」の根拠として想定したとし ても,「直接被害地元」が地元合意の対象地域とする回答 者が,必ずしも「間接被害地元」も地元合意の対象地域だ と回答する傾向にはない(逆も同様)結果となった。 再稼働の判断主体について,一般の人々の意思で判断す べきとした回答者は,「9. 専門家の判断」に任せるべきで ないと回答する傾向にある(偏相関係数:-0.34)。しか し,「7. 日本政府の判断」や「8. 首長と議会の判断」と の間に相関は認めらないことから,一般の人々の判断への 支持と日本政府や自治体が判断することへの支持が必ずし も排他的ではなく,相補的なものだと考えられている可能 性がある。. 6 電力会社の判断 2a)間接被害地域の判断. Factors F1 .73. F2 .02. F3 .09. .67 -.29 -.24 9 専門家の判断 .63 .11 .12 10a)一般の人びとの判断 .56 -.07 -.01 11 原発推進主体への信頼 .51 .10 .13 8 首長と議会の判断 .34 .30 -.01 1 直接被害地域の判断 .81 −.32 -.10 4 立地自治体の判断 .13 .68 .09 3 産業・財政影響地域の .10 .63 .18 判断 5 電力消費地の判断 .76 -.19 -.09 7 日本政府の判断 .25 .05 .38 Inter-factor correlations F1 従来型決定主体 F2 狭い地元主義 F3 国家的受益. ―. .38 ―. Communality .57. .53 .27 .28 .51 .37 .54 .61 .59 .41 .29. .22 .35 ―. Notes: は逆転処理した項目。n=1,940,KMO=.78。因子負荷量が 0.3 を越える項目は太字とした。 a). 「11. 原発推進主体への信頼」については,「6. 電力会 社の判断」と弱い正の相関があり,「7. 日本政府の判断」. で原発に関する判断を担ってきた主体の判断を支持し,そ. および「9. 専門家の判断」とは,相関は認められないか,. れへの代替案には否定的な因子であると考えられる。. あっても非常に小さなものであった。 次に,因子分析の結果,以下の 3 つの因子が析出され た(Table 4)。. 第 2 因子は,「狭い地元主義」に関する因子である。こ の因子は,「1. 直接被害地域の判断」,「3. 産業・財政影 響地域の判断」,「4. 立地自治体の判断」において因子負. 第 1 因子は,「従来型決定主体」に関する因子である。. 荷量が大きい。「8. 首長と議会の判断」における因子負荷. この因子は,「6. 電力会社の判断」 ,「9. 専門家の判断」,. 量も比較的に強い。すなわち,原発に関わる地域の意思決. 「10. 一般の人びとの判断」 ,「8. 首長と議会の判断」,. 定で従来重視されてきた狭い範囲での地元合意をどう評価. 「11. 原発推進主体への信頼」といった変数における因子. するかと関連している。この因子は,「1. 直接被害地域の. 負荷量が大きい。すなわち,原発の再稼働を誰が主体と. 判断」,「3. 産業・財政影響地域の判断」 ,「4. 立地自治体. なって判断すべきと考えるかに関連している。この因子. の判断」といった狭い範囲の地元合意への支持と強い正の. は,国,電力会社,地方自治体,専門家の判断への支持に. 相関があり,「2. 間接被害地域の判断」への支持とは弱い. はポジティブに,一般の人々の判断と風評被害地域の判断. 負の相関関係にある。. への支持にはネガティブに作用していることから,これま 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021). 第 3 因子は,「国家的受益」に関する因子である。この.
(8) 原発再稼働の「地元合意」に関する住民意識:浜岡原発を事例とした質問紙調査の結果から. 因子は,「5. 電力消費地の判断」 ,「7. 日本政府の判断」. 57. 派に近い傾向を示している。. で因子負荷量が大きい。すなわち,原発の再稼働を消費地. 反対派と賛成派における地元合意への態度の差は,戦略. 元という広範な受益者の問題として捉え,国の責任と判断. 的な選択である可能性がある。辰巳・中澤は,自治体の再. を重視する立場への態度と結び付いている。また, 「1. 直. 稼働賛否と県民投票への賛否や地元了解の範囲との選択に. 接被害地域の判断」とは弱い負の相関関係があり,特に. 関連性があり,戦略的に選択している可能性を指摘してい. 「5. 電力消費地の判断」という都市部を含む広範な範囲の. る24)。原発に限らず,施設紛争における「地元」の範囲. 判断と責任と強い正の相関関係にある。このことから,原. は,しばしば施設への賛成・反対に基づき戦略的に主張さ. 発の再稼働を電力供給という国家的規模の受益から捉える. れる 。上述したように,地元合意のあり方は,再稼働の. 認識を示す因子であると考えられる。. 可否に大きな影響を与えるため,それ自体が政治的な争点. 19). 因子間の相関係数は,第 1 因子–第 2 因子間で 0.38,第. となる。そのため,再稼働賛成派は再稼働が容易な地元合. 1 因子–第 3 因子間で 0.22,第 2 因子–第 3 因子間で 0.35. 意のあり方を,反対派は再稼働が困難となるような地元合. となり,それぞれ正の弱い相関がみられる。したがって,. 意のあり方を選好している可能性がある。. 「従来型決定主体」「狭い地元主義」「国家的受益」という. 県民投票への態度に関しては,第 1 因子と第 2 因子で. 3 つの因子は独立ではなく,相互に結び付きながら 2011. 有意差がみられた。第 1 因子では,県民投票に「反対」. 年の福島原発事故前の地元合意における判断の主体や地域. と「わからない」が,「賛成」よりも因子得点が有意に高. の枠組み,電力需給の利害関係を示していると考えられる。. い。第 2 因子においては,「賛成」の因子得点はゼロに近. 次に,各回答者の態度や属性ごとの特徴を示すために,. い一方,「反対」,「わからない」はマイナスになってい. 因子ごとに推定される因子得点を用いた分析を行う。. る。多重比較の結果,「賛成」の因子得点は,「反対」,「わ. まず,各因子が浜岡原発再稼働への態度にどう結び付い. からない」よりも有意に高い。これにより,国,電力会. ているのかを選択肢ごとの因子得点からみていく。分散分. 社,地方自治体,専門家への支持が,「反対」と「わから. 析の結果,すべての因子において,因子得点の平均には有. ない」に比べて「賛成」では低くなっており,これまで原. 意差がみられた(Table 5)。いずれの因子においても,賛. 発に関する判断を担ってきた主体への不信が県民投票への. 成派は因子得点が高く,反対派は低くなっており,「わか. 支持と結び付いていることが確認できる。一方,県民投票. らない」はその中間となっている(多重比較の結果,すべ. への反対は,「直接被害地元」 ,「利益地元」 ,「立地地元」. ての因子において各カテゴリー間に有意差あり) 。すなわ. といった「狭い地元」への支持と必ずしも結び付いていな. ち,再稼働への態度の差によって,意思決定への態度に明. い。上述のように,県民投票の是非をめぐっては様々な論. 確な違いがみられる。賛成派は原発の再稼働を電力供給と. 点が存在した。県民投票に反対する論理としては,県単位. いう国家的規模の受益から捉えており,国,電力会社,専. で投票することで,浜岡原発に対する直接的な利害関係の. 門家,自治体といった主体の判断と,直接被害や雇用・交. 強い地域の意思が反映されづらくなる点も挙げ得るが,今. 付金などの利害を根拠とした比較的狭い範囲での合意を重. 回の調査結果からは,県民投票反対派はこうした「狭い地. 視する傾向がある。反対派はこれとは逆の傾向にある。ま. 元主義」には否定的な傾向があることが明らかになった。. た,再稼働の賛否に「わからない」とした回答者は,賛成. むしろ,県民投票反対派は,地域社会が再稼働の是非を判. Table 5 Mean factor scores of exploratory factor analysis by opinion towards restarting the Hamaoka Nuclear Power Plant N 再稼働への態度 賛成 反対 わからない 県民投票への態度 賛成 反対 わからない 了解を得るべき自治体の範囲 立地自治体 立地自治体と隣接自治体 広域避難計画を策定する自治体 静岡県内すべての自治体 自治体の了解は必要ない. 423 947 553 1,394 180 352 16 108 720 1,004 36. F1 mean. F2 SEM. F(2, 1920)=380.5, p<.001 0.72 0.05 0.02 -0.53 0.33 0.03 F(2, 1923)=56.7, p<.001 0.02 -0.15 0.49 0.10 0.30 0.05 F(4, 1879)=106.0, p<.001 1.96 0.25 0.79 0.10 0.14 0.03 0.03 -0.30 1.75 0.23. mean. F3 SEM. F(2, 1920)=193.7, p<.001 0.52 0.04 0.03 -0.42 0.29 0.03 F(2, 1923)=8.8, p<.001 0.05 0.03 0.08 -0.24 0.05 -0.10 F(4, 1879)=52.1, p<.001 0.77 0.24 0.62 0.07 0.28 0.03 0.03 -0.27 0.14 -0.40 . mean. SEM. F(2, 1920)=52.4, p<.001 0.29 0.04 0.03 -0.24 0.14 0.04 F(2, 1923)=0.6, p=.56 0.01 0.03 0.08 -0.04 0.05 -0.05 F(4, 1879)=1.6, p=.18 0.45 0.20 0.02 0.09 0.04 -0.06 0.02 0.03 0.18 -0.08 . 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(9) 論 文(辰巳,他). 58. 断する「地元合意」というプロセス自体に反対である可能. イナスになっている。すなわち,再稼働に当たって自治体. 性がある。. 了解の必要性を否定する人々では,従来型の意思決定主体. 次に,各因子がどの空間的スケールと結び付けられてい. に肯定的である傾向が強い一方で,直接被害や雇用・交付. るかを明らかにするために,再稼働に際して了解を得るべ. 金などの利害を根拠とした比較的狭い範囲での合意には否. き自治体の範囲を尋ねた問 6 において,選択肢ごとの因. 定的な傾向がある。. 子得点を確認する。分散分析の結果,第 1 因子と第 2 因. 続いて,性別,世代,居住地域をみていく(Table 6)。. 子において有意差がみられたが,第 3 因子では有意差が. 性別については,いずれの因子の因子得点においても有意. みられなかった。第 1 因子と第 2 因子の因子得点は,い. 差は確認できなかった。日本における原子力に対する態度. ずれも範囲が狭いほど高くなっており(ただし,多重検定. では男女差が存在し,女性の方が原子力発電に否定的な態. の結果,第 2 因子の「立地自治体のみ」と,「立地地自体. 度と「わからない」とする割合が多い. と隣接自治体」「広域避難計画を策定する自治体」の間に. 象とした今回の調査でも,女性が男性よりも賛成の割合が. は有意差なし),「静岡県内すべての自治体」ではマイナス. 低く,わからないが多くなっている。また,上で示したよ. になっている。. うに,地元合意への態度は,原発再稼働への態度によって. 特に両因子とも「立地自治体のみ」と「立地地自体と隣 接自治体」で因子得点が高くなっている。これまで地元合 意を担ってきた御前崎市および浜岡原発安全等対策協議会. 22,33). 。静岡県民を対. 大きく異なっている。しかし,地元合意への態度について は,性別による差はみられなかった。 世代ではすべての因子において有意差がみられた。第 1. (四市対協) を構成する隣接自治体を了解の範囲とする. 因子は 10・20 代から 40 代の若い世代と 80 代で因子得点. ことへの支持が,従来型の意思決定主体を支持する傾向,. が高く,60 代では低い傾向がある。第 2 因子も 10・20. 直接被害や雇用・交付金などの利害を根拠とした比較的狭. 代から 40 代と 80 代で因子得点が高く,60 代と 70 代で. い範囲での合意を重視する傾向と強く結び付いていること. は低くなっている。第 3 因子は 50 代で低く,80 代で高. がわかる。一方,「自治体の了解は必要ない」を選択した. くなっている。以上から,40 代以下の比較的若い世代と. 回答者では,第 1 因子の因子得点が高く,第 2 因子はマ. 80 代以上の高齢世代では,従来型の意思決定主体と狭い. r,32). Table 6 Mean factor scores of exploratory factor analysis by demographic attribution N 性別 男 女 年代 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代 居住地域(3 分割) 東部 中部 西部 居住地域(4 分割) 30 km 東部 中部 西部. 925 1,015 32 120 206 290 292 431 365 178 24 612 617 710 483 612 385 459. F1 mean. F2 SEM. F(1, 1938)=1.6, p=.20 0.03 0.04 0.03 -0.03 F (8, 1929)=4.2, p<.001 0.18 0.12 0.14 0.08 0.11 0.06 0.11 0.06 0.06 -0.06 0.05 -0.19 0.06 -0.05 0.18 0.08 0.13 0.25 F(2, 1936)=0.0, p=.98 0.00 0.04 0.04 -0.01 0.04 -0.01 F(3, 1935)=0.1, p=.96 0.00 0.05 0.00 0.04 0.00 0.05 0.05 -0.03 . r). 「原子力発電所設置に伴い住民の安全確保ならびに地域開発に ついて調査研究し,もって地域の発展と福祉の向上に寄与する こと」を目的としており,福島原発事故以前から中部電力と安. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021). mean. F3 SEM. F(1, 1938)=3.1, p=.08 0.03 -0.05 0.03 0.03 F(8, 1929)=17.0, p<.001 0.54 0.15 0.41 0.07 0.28 0.06 0.19 0.05 0.06 -0.05 0.05 -0.28 0.05 -0.27 0.20 0.08 0.28 0.21 F(2, 1936)=1.0, p=.36 0.01 0.04 0.02 0.04 0.04 -0.05 F(3, 1935)=1.7, p=.16 0.05 -0.03 0.01 0.04 0.08 0.05 0.05 -0.07 . mean. SEM. F(1, 1938)=1.7, p=.20 0.03 -0.04 0.02 0.03 F(8, 1929)=3.6, p<.001 0.17 0.17 0.09 -0.04 0.06 -0.07 0.02 0.05 0.06 -0.21 0.05 -0.05 0.07 0.05 0.23 0.08 0.26 0.19 F(2, 1936)=3.4, p=.03 0.05 0.04 0.02 0.04 0.04 -0.09 F(3, 1935)=5.0, p<.001 0.05 -0.14 0.05 0.04 0.09 0.05 0.05 -0.03 . 全協定を結んできた御前崎市,掛川市,菊川市,牧之原市の首 長,議会代表,事業所代表,住民代表等で構成される。.
(10) 原発再稼働の「地元合意」に関する住民意識:浜岡原発を事例とした質問紙調査の結果から. 59. 範囲での地元を支持する傾向が強く,その中間的な世代で. 中部,東部の住民からすれば,「直接被害地元」や「利益. はこれらに否定的な傾向があることがわかる。原発の再稼. 地元」に限られることで,自らの意見を決定に反映させる. 働を消費地元という広範な受益者の問題として捉え,国の. 機会を失う。したがって,UPZ11 市町の住民は第 2 因子. 責任と判断を重視する立場への態度は,80 代以上で高く,. の得点が高くなり,それ以外の住民は逆になっても不思議. 50 代で低い一方,若い世代では中立的である。. ではない。しかし,こうした想定に反して,今回の調査分. これは再稼働への賛否が影響している可能性がある。今. 析からは大きな地域差は見い出せなかった。一方,第 3. 回の調査では,10 代から 30 代前半までの若い世代では再. 因子の因子得点には有意差がみられ,UPZ11 市町が比較. 稼働への賛否が拮抗するのに対し,特に 50 代から 70 代. 的に小さくなっている。第 3 因子は都市部を含む広範な. では反対が賛成を大きく上回る結果となっている。また,. 「5. 電力消費地の判断」と強い正の関係にある。直接的な. 上で述べたように,再稼働反対派の方がすべての因子の因. 被害が想定される UPZ を含む市町の住民にとって,再稼. 子得点が低くなり,再稼働賛成派は高くなる傾向がみられ. 働の是非が「消費地元」によって判断されることへの忌避. る。そこで,再稼働への態度別に世代ごとの因子得点を確. 感が働いた可能性がある。. 認すると,第 1 因子において,賛成派と反対派の得点の s). 差が,上の世代ほど大きくなる傾向がみられる (Fig. 2)。. V. 結. 論. つまり,世代が上がるほど,再稼働への賛成派と反対派の. 本報では,浜岡原発を事例に,再稼働をめぐる地元合意. 間で,「従来型決定主体」への態度が分極化していく傾向. への静岡県民の認識・態度を,郵送質問紙調査の結果から. がある。第 2 因子については,特に 60 代と 70 代の再稼. 明らかにした。地元合意への態度を訊いた 11 の質問への. 働反対派で因子得点が低く,「狭い地元主義」への否定的. 回答を分析した結果,以下の点が明らかになった。まず,. な姿勢が強くなっている。. 従来のような「直接被害地元」や「利益地元」だけでな. 最後に,居住地域について確認する。地域は UPZ を含. く,「間接被害地元」や「消費地元」まで地元合意の対象. む 11 市町,それ以外の中部,西部,東部の 4 分類で因子. を拡張することへの支持が高い。また,専門家の判断は信. 得点を算出した。結果,第 1 因子と第 2 因子においては,. 頼されておらず,自治体の了解に際しては首長や議会では. 因子得点の平均値に有意差はみられなかった。特に第 2. なく一般市民が判断することが支持されている。. 因子に有意差がみられなかったのは意外である。自身,あ. 上で述べたように,原発の再稼働をめぐっては,従来の. るいは自身の居住する自治体が,地元合意の範囲に含まれ. 「立地地元」から UPZ 圏へと自治体了解の範囲を広げる. るかどうかは,どのような地元合意を望ましいか考える上. べきかが議論されてきた。浜岡原発をめぐっては,辰巳・. で,大きな要因だと想定される。特に,UPZ11 市町は,. 中澤は,自治体首長調査の結果から,これまで地元合意を. 「直接被害地元」や「利益地元」を超えて地元が広がる. 担ってきた立地・隣接 4 自治体は地元了解の範囲として. と,自分たちの意見が「薄まって」しまう。逆に,西部,. の支持を失いつつあり,代わりに UPZ を地元了解の範囲. Fig. 2 s). Mean factor scores by attitude towards restarting the Hamaoka Nuclear Power Plant. ただし,90 代を除く。 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021).
(11) 論 文(辰巳,他). 60 24). う。浜岡原発を事例に,再稼働をめぐる地元合意への静岡. として支持する意見が強いと論じている 。 しかし,了解を得るべき自治体の範囲を尋ねた問 6 で は,約半数の回答者が「静岡県内すべての自治体」と回答. 県民の認識・態度を明らかにした本研究は,そのための第 一歩となるものである。. したことから,静岡県民を対象とした本研究の結果から は,UPZ 圏よりさらに広い範囲での地元合意が望まれて. 本研究は,JST CREST(JPMJCR15E1) および JSPS 科. いることが示唆された。また,特に風評被害などの影響を. 研費 (JP18K01994)の助成を受け,静岡大学人を対象とす. 受ける「間接被害地元」への強い支持がみられた。原発事. る研究に関する倫理審査の承認 (17–45) を得て実施された。. 故による風評被害が生じるメカニズムは複雑であり,その 34,35). 空間的スケールは広範に及ぶ可能性がある. 。実際に,. 福島原発事故による農林漁業・食品産業に関わる風評被害 の損害賠償に限ってみても,その範囲は福島県を超えて, 東北地方全域,北海道,関東地方,さらには中部地方や中 36). 国地方にも及んでいる 。また,諸外国による輸入規制を 含めれば,日本全体が「風評被害」の影響を受けたともい える。本調査の結果からは,回答者が「間接被害地元」を どの空間的スケールと結び付けて認識しているかを直接的 に示すことはできないが,了解を得るべき自治体の範囲を 尋ねた問 6 との関係から,「間接被害地元」への支持と 「静岡県内すべての自治体」の了解を得るべき範囲とする t). 意見が結び付く傾向がみられる 。 また,因子分析の結果,「従来型決定主体」,「狭い地元 主義」,「国家的受益」の 3 つの因子が析出された。各因 子の因子得点を比較した結果,再稼働と県民投票への態 度,世代によって地元合意への態度に差があることが明ら かになった。再稼働の賛否によって地元合意への態度は分 裂しており,特に高齢世代においてその傾向が顕著であっ た。一方,居住地域では第 3 因子に有意差がみられたも のの,第 1 因子と第 2 因子では差がなく,性別に関して はすべての因子において有意差がなかった。 始めに述べたように,原発の再稼働に関しては,その賛 否だけでなく,何をもって地元合意とするべきかが争点と なる。そのために,より社会的に受容可能な地元合意のあ り方を考える必要がある。本研究の結果からは,従来とは 違う地元合意のあり方が求められており,より社会的に受 容可能な地元合意のあり方として,地元の空間的範囲を拡 張し,一般市民がより直接的に関与する方向が示唆され る。しかし,本調査の結果から,特に再稼働への賛否に よって地元合意への態度に大きな差があることから,再稼 働の賛否と切り離して地元合意のあり方への合意を形成す ることの困難さも浮き彫りになった。また,世代間の差も みられることから,望ましい地元合意のあり方をめぐる議 論が,世代間対立となって表れる可能性も示唆された。 こうしたギャップを架橋するためには,原発がもたらす 環境影響や社会経済的影響についての多角的な検証に基づ き,どのような地元合意がより公正で社会的に受容可能で あるかを検討するプロセスをデザインする必要があるだろ t). 問 5-2 で「そう思う」(1 あるいは 2)とした回答者のうち,約 63%が「静岡県内すべての自治体」を選択。なお,問 6 では静 岡県を超える範囲については選択肢に入っていない。. 日本原子力学会和文論文誌,Vol. 20, No. 2(2021). ̶参考文献̶ 1)T. Koike, “New regulatory requirements and the restart of nuclear power plants: Issues in the case of Sendai Nuclear Power Station[新規制基準と原子力発電所の再稼働:川内原 ,”Issue Brief, 840, National 発再稼働をめぐる論点を中心に] Diet Library Research and Legislative Reference Bureau (2015),[in Japanese]. 2)S. Sugawara, H. Kimura, H. Madarame, “How can the local governments engage in nuclear safety governance?: A case analysis of the safety agreement of Hamaoka,” J. JSCE Div. D, 66[3], 316–328 (2010), [in Japanese]. DOI:10.2208/jscejd.66.316. 3)S. Sugawara, T. Inamura, H. Kimura, H. Madarame, “Analysis of relationship between the local governments and the power companies through the changes of safety agreements,” Trans. At. Energy Soc. Jpn., 8[2] , 154–164 (2009),[in Japanese]. DOI:10.3327/taesj.J07.048. 4)S. Sugawara, “Present situation and issues of nuclear safety agreement: Focusing on the role of the local governments [ 原子力安全協定の現状と課題:自治体の役割を中心 に],” Jurist, 1399, 35–43(2010),[in Japanese]. 5)Ministry of Economy, Trade and Industry, The Fifth Strategic Energy Plan, Ministry of Economy, Trade and Industry,[Internet] (2018),[in Japanese], https://www. enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/180703. pdf(cited 2018 Dec. 20). 6)Minna de Kimeru Kai “Genpatsu” Nigata Kenmin-tohyo o Seiko Saseyou, Activity Report: Progress and Achievement of the Citizen Initiative for Referendum on TEPCO Kashiwazaki-Kariwa Nuclear Power Plants in Nigata Prefecture [報告書:東京電力柏崎刈羽原子力発電所の稼働に関する新 潟県民投票条例の制定を求める直接請求及びその審議につい て], Minna de Kimeru Kai “Genpatsu” Nigata Kenmintohyo o Seiko Saseyou,[Internet] (2013),[in Japanese],. http://ng311.info/assets/report.pdf(cited 2018 Oct. 10). 7)T. Nakazawa, T. Tatsumi, Discussion Materials for Local Agreement on the Restart of Hamaoka Nuclear Power Plant[議論のための論点資料:浜岡原発の再稼働と県民投 票], Nakazawa Laboratory, Shizuoka University, Hamamatsu(2019),[in Japanese], https://lap.inf.shizuoka.ac. jp/document/publication/402991c2-1a88-4030-8643972dbffe35fb.pdf(cited 2019 Mar. 10). 8)M. OʼHare, “ ‘Not on My Block You Don’t’: Facilities Siting and the Strategic Importance of Compensation,” Public Policy, 25[4], 407–458(1977). 9)K. E. Portney, Siting Hazardous Waste Treatment Facilities: The Nimby Syndrome, Auburn House, New York, ISBN 0865690162(1991). 10)H. Inhaber, Slaying the NIMBY Dragon, Transaction Pub-.
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