交通学研究 第 63 号 (研究論文)
アメリカ航空輸送産業におけるジョイントベンチャーと費用効率性の関係
∗ 矢田部 亨(名古屋市立大学)1 要旨 航空輸送市場で総輸送シェアを大きく拡大してきている新たな事業体がある。それは、ジョイントベンチャー(JV)と呼ば れる共同事業体である。JV とは、異なる航空会社間で特定の路線における協力体制を形成する事業体を指す。これまでのグロ ーバルアライアンスがさらに深化した提携で、航空会社間での施設の共有、スケジュールの調整や運賃の共通化が可能である。 これらを通して旅客の利便性を向上する一方で、競争の優位性を獲得することや競争から協力への変化による、競争圧力の低 下が考えられる。ジョイントベンチャーが競争に及ぼす影響について費用関数の視点から検討する。アメリカの航空産業を対 象に、JV と費用効率性の関係について分析を行った結果、JV が航空会社の費用効率性を損なう可能性が指摘された。これは、 JV が競争圧力を低下させてしまう可能性を示唆している。 Key Words:ジョイントベンチャー、費用効率性、競争圧力、アメリカ航空輸送産業 1.はじめに 20 世紀末から 21 世紀初頭にかけ、世界の航空産業は様々な規制緩和によって大きく変化した。国内輸送市場 では、航空運賃の自由化によって運賃が下がり、低費用航空会社(LCC)が参入するまでに至った。国際輸送市 場では、フルサービスキャリアがオープンスカイ協定、航空会社間の提携やアライアンスによって参入を容易に していたが、近年はこれらに加盟していないLCC の参入も見られる。 アメリカ運輸省(USDOT)の運輸統計局(BTS)によると、航空産業が 2025 年には他産業と同じように、国 の垣根を越えた参入を自由にできる産業になることを目指している。それを実現するためには、国籍条項や外資 規制の撤廃やカボタージュ問題の解決が必要になってくる。前者は規制緩和により、合資系の航空会社が見られ るようになったが、このようなケースは少なく、国際間の合併や買収は禁止されている。後者は、ヨーロッパ連 合内でのみ解消されている。このように、航空産業は、国際輸送市場においては、未だ規制の強い産業である。 しかし、近年、国際輸送市場における擬似的な合併状態を形成する事業体が増加している。それは、ジョイント ベンチャー(以下ではJV とする)と呼ばれる事業体である。JV とは、これまでの提携やアライアンスよりも強 固な協力体制を作り上げることを許容された事業体を指す。 JV を実施すると、その市場における競争が損なわれてしまう可能性が考えられる。なぜなら、競争関係にあっ た会社と協力関係になるからである。また、航空会社間の強固な協力体制は、航空輸送産業における社会的余剰 を減少させる可能性がある。その場合、規制当局には、認可した航空会社の動向を監視する、または一部に規制 をかけるなどの対応が必要となる。これまでの研究でJV 実施直後の旅客増大や航空運賃の低下が報告されてい るが、その後の分析についてはあまり言及されていない。ATI(反トラスト法適用除外)の付与なしには可能とな ∗2019 年11 月17 日初原稿受理、2020 年2 月1 日採択。日本交通学会第 78 回研究報告会発表時のタイトルは「アメリカ航空産 業におけるJV と費用効率性の関係」であった。 1 問合せ先。〒467-8501 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字山の畑1 名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程 矢田 部亨。E-mail: [email protected]。りえない事業体では、非競争的な行動をするインセンティブが働くため、その後の分析も必要である。そこで本 稿では、JV と費用効率性の関係について分析を行う。JV の実施後、費用効率性が下がることが観察された場合、 競争圧力が低下している恐れがある。分析の結果、アメリカの航空産業におけるJV は費用の非効率性を上げる 可能性が示唆される結果となった。アメリカの航空産業では、JV により競争の圧力が低下した可能性が考えられ る。 本稿は以下で構成されている。第2節では、先行研究を取り上げる。第3節では、JV の背景と動向について。 第4節では、モデルと推定方法を、第5節では推定に使用したデータについて説明する。第6節で当該データに 基づく分析を行い、第7節が結論となる。 2.先行研究 これまでの航空産業では、オープンスカイや提携による参入の促進やアライアンスを通したコードシェアやフ リークエントフライヤープログラムの導入などによって旅客の利便性を向上してきた。また、これらはネットワ ークの拡大を容易にし、競争圧力を高めることで航空運賃が下がることも期待され、ブランドの確立や参入コス トの削減などの費用削減効果も見込まれていた。実際、アライアンスへの加入は、収入へ正の影響を及ぼす可能 性は低く、コードシェアや設備の共有などによる費用削減効果が報告されている遠藤, 2012 Douglas and Tan, 2017; Chua et al., 2005。 JV はアライアンスと合併の中間に位置する事業体である。Fageda(2019)は従来のアライアンスと JV をそれぞ れ費用シェア型の提携、収入シェア型の提携と大別した。コードシェアや設備の共有から、後者は収入をプール 化する特徴から分けられている。JV の実施によって、期待されていることは、需要の拡大である。航空会社間の 協力体制によってスケジュールの調整が可能となり、シームレスなサービスを提供することによって旅客の利便 性を向上させる。遠藤(2018)、Fageda(2019)では、JV がもたらす効果について分析がなされ、需要に有意な正の効 果があることを示している。特に、Fageda(2019)では、協力体制の程度別に分析を行い、それぞれの路線における 需要増大効果の違いについて分析を行い、JV が最も需要を拡大させていることを明らかにしている。以上のよう に、JV 実施直後は旅客の利便性を向上し、需要を拡大させる効果があることについて実証的にも明らかにされて いる。 さらに、JV の形成には運賃の低下も期待されている。国土交通省(2013)と ANA(2017)によると ATI 付与の認可 を得るためには、運賃の低下ないしは価格の維持が必須となる。JV を組む際、航空会社間の運賃が異なるときに は運賃がより低い方が適用される。また、JV の実施によって時間による価格差別が軽減される効果も期待されて
いる。その他にも、JV 実施後には需要の拡大によって密度の経済性が働くこと(Bruckner and Proost, (2010); Fageda, 2019)や協力体制によって重複するネットワークにおけるダブルマージンが軽減されること(Robert et al., 2017)が期 待されている。このような見込みがあるため、運賃を下げてでもJV の形成を試みている。Ustaömer et al.(2015)や Robert et al.(2017)では、JV 実施後に運賃を下げていることを明らかにしている。また、Bruckner and Proost (2010)
では、カーブアウトとJV の関係性について言及し、JV による効率性の獲得について、シミュレーションによる 分析から明らかにしている。 その一方で、アライアンスや合併では、競争力やマーケットシェアの拡大による競争圧力の低下が報告される ケースも存在する。Zhou(2017)では、合併とコードシェアがマルチマーケットコンタクトによる競争圧力の低下 をもたらす可能性を示している。朝日(2015)、Ciliberto et al.(2019)でも、マルチマーケットコンタクトによる競争 圧力の低下とコードシェアによる協調の可能性を指摘している。このようにアライアンスや合併では、費用削減 に影響を及ぼす一方で、航空運賃は協調的になる可能性が指摘されている。しかし、JV は航空運賃の協調を認可 した上で経営を行う。また、ATI 認可の際、運賃は原則上げずにサービスを提供することが一般的である。つま り、アライアンスや合併と同様の効果、協調による運賃の上昇は見られないと思われる。Ustaömer et al.(2015)で
は、デルタ航空がJV 後に運賃を上げていることを指摘しているが、合併による効果などを考慮していないため、 詳細な分析が必要である。
さらに、Min and Joo(2010)、Yu et al.(2017)では、DEA 分析を適用し、アライアンスへの加盟が効率性とどのよ うな関係にあるかを示した。前者は三大アライアンスを、後者はスカイチームについて言及している。加盟して いる航空会社の数が多いアライアンスほど、技術的効率性が低い傾向にあることが示され、アライアンス加盟の 航空会社はそうでない航空会社に比べて効率性が低い傾向にあった。しかし、アライアンスに加盟している航空 会社は、アメリカや欧州の航空会社が多く含まれている。Coelli et al.(1999)によると、これらの地域に属する航空 会社は、他地域に比べて効率的な経営が難しい状態にある可能性がある。そのため、アライアンスに加盟してか ら相対的な効率性が落ちたのは、他地域の生産技術が進歩したためという可能性も考えられる。また、彼らの研 究では、非効率性とその要因を関数と同時に推定していない。そこで本稿では、確率的フロンティア分析を適用 し、費用関数と非効率性の要因を同時に推定可能なモデルを適用し、JV が非効率性の要因としてどのような影響 を及ぼすかを検討する。 3.ジョイントベンチャーの背景と動向 JV は、アライアンスを深化させた事業体であるが、これまでの政策、オープンスカイやアライアンスの形成と は少々話が異なる。オープンスカイは国家間での協定であり、お互いが認めた路線で航空会社による参入を認め るものであった。アライアンスは航空会社間で形成され、そこに加盟する航空会社が国際輸送の市場におけるネ ットワーク拡大を容易にするものであった。しかし、JV の多くは既に同じアライアンスに加盟している航空会社 同士が形成している。つまり、JV の影響はオープンスカイやアライアンスによる参入の容易化よりも航空会社間 の協力体制によるものが大きい。この場合、JV の形成は競争における優位性の獲得をしたことと同義になるだろ う。また、その路線で競争関係にあった航空会社と協力体制になることは、競争の圧力の低下をもたらす可能性 もある。実施以前に比べ、独占力の行使が容易になる。ATI 付与を得るために一時は運賃の低下をするが、その 後はどうなるか分からない。 一方で、世界の航空産業においてJV の形成を試みるフルサービスキャリアは増加している。JV が占める輸送 の割合は20世紀末に5%程度であったのに対し、2016年には25%にまで拡大している(Business Traveller, 2017) 。 このような事業体の形成が許可されるのは、旅客の利便性が向上すると見なされたときである。条件を満たすた めには運賃を引き上げることはできないが、それでもJV の形成を試みている。LCC に対して競争の優位性を獲 得するためである。アメリカやヨーロッパでの航空運賃の自由化を皮切りに、各国の国内輸送市場にLCC が参入 した。CAPA(2019)によると、アメリカやヨーロッパでの LCC のシェアは 2018 年まで着実に増加している。アフ リカでもシェアが緩やかに拡大している。アジアでは、シェアが急速に増加している。結果、座席マイルで、2018 年におけるLCC のシェアが世界に占める割合は、2008 年の約二倍にまで至っている。フルサービスキャリアの 成長よりもLCC の成長が上回っているのである。LCC が参入し始めた当初、ノーフリルなサービスを提供して いたように、フルサービスキャリアと LCC の間にはサービスの質に差があったが、現在は大きく緩和されてい る。そのため、旅客の利便性を高めることでLCC と差をつけようとしている アライアンスへの加盟は様々なメリットがあるが、国際輸送市場において、乗り換えがスムーズにいかないこ とやコードシェア便における運賃の複雑化が問題となっていた。これらの問題を改善するためには、スケジュー ルの調整による乗り換えの円滑化、その路線、期間における航空運賃の共通化が必要になってくる。これは、ATI の認可や合併なしには実現し得ない。しかし、ATI の付与を受けても一部の路線にカーブアウトが存在するケー
スもある。この場合には効率性の改善の効果が十分に得られないBruckner and Proost, 2010;Fageda, 2019)。また、 国籍条項、外資規制が存在しているため、アライアンス内であっても国際的な買収・合併は厳しく規制されてい
ビスキャリアはLCC とのシェアをめぐる競争を、規制当局は航空会社のシームレスなサービスの提供や運賃の
共通化を通じて消費者の利便性を向上することを目的としてJV の形成に至った。
4.確率的フロンティアモデル
本稿では、確率的フロンティア分析SFA)を費用関数に適用する。SFA は、生産関数や費用関数に対して、ノイ
ズを表す対称的な誤差項と技術効率性や費用効率性を表す誤差項を導入した分析であり、Meeusen and van den Broeck(1977)、Aigner, Lovell and Schmidt(1977)に始まる。かつて、効率性を表す誤差項を適切な説明変数で説明す るような試みは、2段階で推定が行われていた(Pitt and Lee, 1981)。第1段階目に効率性を示す誤差項を推定し、 第2段階目に第1段階目に推定した誤差項を被説明変数に推定を行っていた。しかし、第1段階目では、効率性 を示す誤差項は確率的であるのに対し、第2段階目では非確率的な変数として扱われているといった矛盾があっ た。それに対し、本稿で適用するモデルでは、1段階目と2段階目を同時に推定するため、このような矛盾は回 避できる。 また、パネルデータにおいてSFA のモデル推定を行うとき、pooled 推定、固定効果モデル、ランダム効果モデ ルなどを適用した推定が行われてきた。しかし、これら従来の推定方法では、定数と効率性を表す誤差項との間 に相関関係が生じ、純粋な効率性の推定ができない。Greene(2005)のtrue モデルの提唱により、以前の推定で生じ ていた偏りを正す推定方法が適用されるようになった。また、前者のモデルでは非効率性を時系列で扱うことが できない。JV を実施している航空会社とその期間を扱った推定をするために、後者のtrueモデルを適用する。ま た、JV を識別するための変数として期間、航空会社で分けられたダミー変数を適用し、非効率性を説明する変数 として導入をしているため、true-random effect モデルを適用する。そして、コブ・ダグラス型費用関数を仮定す る。コブ・ダグラス型の費用関数は、単一の式から推定することが可能であるため、本モデルでの推定に適用し ている。しかし、フレキシブルな関数でないというデメリットもある。 ln (TC/PitO) =α+wi+α0trend+αn∑ dn n=1,2,3 +β ln Qit +αLln (Pit L/P it O) +α Fln (PitF/PitO)
+αasl(ASLit)+αlf(LFit)+αm∑ MAm
m=AA,DL,UA,WN +vit+uit uit=δ0+δ1JV vit~N(0,σv2) uit~N+(μ𝑖𝑖𝑖𝑖,σu2) TC は、総費用を表し、αは定数、wiは個別効果であり、時間に対して不変な部分を表す確率変数である。trend は、 年を表し、係数が負のとき技術進歩を表す。Qitは生産量、PitLは労働、PitFは燃料、PitOはその他投入物価格で、i は 航空会社、t は時間を表している。先行研究の多くは投入物に資本を使用しているが、本稿ではその他費用に含め
ている。Mark and Jongsay(2006)によると、資本投入物は扱う期間から 15 年から 20 年遡ったデータが必要になる。
これらのデータが入手できないため、資本投入に関するデータはその他費用として扱っている。また、PitOは、費
用全体から労働と燃料に関する費用を取り除いた、その他費用の投入物価格を表し、投入物価格に関して一次同 次性の制約を課すため、PitOでTC とそれぞれの投入物価格を除している。dn は、四半期ダミーを表し、第4四半
期を基準にその他の期間ダミーが導入されている。MA は、合併して以降1、それ以外0となる合併ダミー変数
である。MAAA は AA と US エアウェイズの合併、MADL は DL とノースウェストの合併、MAUA は、UA とコ
ンチネンタルの合併、MAWN は WN とエアトランの合併を表している。先行研究によると、合併は費用関数を
下げる要因になり得るため、合併に関する変数は費用関数内に導入されている。δは非効率性の説明変数の係数
なるダミー変数である。上2行の式を同時推定することで、JV と費用効率性の関係について分析が可能となる。 JV の輸送量に関する詳細なデータが入手できなかったため、本稿ではダミー変数を使用している。誤差項vitは平 均ゼロ、分散のσv2正規分布に従う。uitは平均μ 𝑖𝑖𝑖𝑖、分散σu2の切断正規分布に従う。uitは、航空会社の非効率の大き さを表している。つまり、δの値が大きいほど費用の非効率性が大きいことを意味する。 5.データ 本稿で使用したデータは、2003 年の第1四半期から 2018 年の第4四半期におけるアメリカの航空会社のもの である。推定に使用した航空会社の数は、9社である2。フルサービスキャリアであるアメリカンエアラインズ (AA)、ユナイテッド航空(UA)、デルタ航空(DL)と LCC であるサウスウェスト航空(WN)、ジェットブル ー(B6)、フロンティア航空(F9)、スピリット航空(NK)とリージョナルジェットであるハワイアン航空(HA)、 アラスカ航空(AS)である。
推定に使用した変数は、推定式のTC、trend、Q、PL、PF、asl、load factor、MA、JV である。trend は、2003 年
を1とし、年と共に増加する変数である。負の符号であれば、技術進歩を示している。TC は、企業の営業費用
を使用している。US DOT の form41、Schedule P-1.1 から入手した。Q は生産量に関する変数で、有償旅客マイル を使用している。asl は、平均飛行距離である。総飛行距離を運航回数で除して求めた。load factor は、座席利用
率である。有償座席マイルを有効座席マイルで除して百分率に変換することで求められる。それぞれ、US DOT
のSchedule T-100 から入手したものをベースにしている。PLは、労働投入物の価格に関する変数で、役職ごとの 従業員人数を重みとした平均賃金を使用している。従業員の役職ごとの給料は、US DOT の Schedule P-6 から入 手し、それぞれの人数はUS DOT の Schedule P-10 から入手した。PFは、燃料価格に関する変数である。1L当り ジェット燃料価格を使用している。US DOT の Schedule P-12(a)から入手した。POは、総費用から給料の総支給額
とジェット燃料費を除き、有効座席マイルで除したものを使用している。ただし、2012 年の HA では、労働に係 った費用に関するデータは欠損している。推定をする際、欠損したサンプルは除外される。 表1 アメリカにおける -9 アメリカの航空会社 加盟アライアンス 年月 JV 加盟航空会社 アメリカン航空 ワンワールド 2010 年 11 月 ブリティッシュエアウェイズ、イベリア航空 2013 年6月 フィンエア 2011 年4月 日本航空 2012 年1月 カンタス航空3 デルタ航空 スカイチーム 2009 年6月 エールフランス、KLM 2010 年6月 アリタリア航空 2014 年1月 ヴァージンアトランティック ユナイテッド航空 スター アライアンス 2009 年 10 月 エアカナダ、ルフトハンザ航空 2010 年4月 BMI 2011 年7月 オーストリア航空、スイス航空 2011 年6月 ブリュッセル航空 2016 年3月 エアニュージーランド 2011 年4月 全日本空輸 2 推定に使用した期間内で合併により吸収された、ノースウェスト航空、USエアウェイズ、コンチネンタル航空、エアトラン は除いた数になっている。 3 この JV は、2016 年の11月までの契約になっていたが、2019年に再びJVを実施することを表明した。
注:点線部は同一のJVによるもの。 Q の係数は、規模の経済性を表し、先行研究では0.8~1.2 の値が観察されている。平均飛行距離は、飛行距離が 長いほど費用が効率的になると考えられるので、負の符号が想定される。LFの係数も同様で、この変数が大きい ほど費用が効率的になると考えられる。MA は、合併後の航空会社を1、それ以前と合併していない航空会社を 0としたダミー変数である。USDOT のデータベースを参考に作成した。合併をする航空会社は、合併の効果を 取り除くため、先行研究に則り、それぞれの変数が合併前から集計された状態で分析に使用されている。多くの 先行研究で、費用削減の効果が得られている(Gudmundsson, 2015; Yan et al., 2019)。つまり、負の符号が想定され
る。JV は、航空会社が JV を実施している期間を1、その他は0とするダミー変数である。係数が正であれば、 費用非効率性が高まることを示す。先行研究を参考に作成した。JV を実施している航空会社のサンプル数は、113 である。本稿で扱うJV の一覧を表1に表した。 また、物価の変動をコントロールするため、総費用、労働投入はGDP デフレーターで標準化している。アメリ カ合衆国商務省経済分析局(BEA)から入手した。以上のデータの記述統計は表2に記載している。 表2 基本統計量 変数 単位 平均 最大値 最小値 標準偏差 TC 百万ドル 3,449 11,381 102.18 3,606. Q 百万人マイル 4,110 21,150 1,830 39,294 PL ドル 10,443 37,076 8,772 4,003 PF ドル 2.1531 4.01 0.71 0.75 PO ドル 0.028 0.065 0.01 0.01 ASL マイル 1,039 1,757 553 259.76 LF パーセント 81.80 92.76 58.22 4.820 6.分析結果 表3は、true-random effect モデルを適用してコブ・ダグラス型費用関数を推定した結果である。費用関数におい て、trend は負の値を示し1%水準で統計的に有意である。四半期ダミーのうち、第1期は5%水準で統計的に有 意、第2期は10%水準で統計的に有意、第3期は1%水準で統計的に有意であるが、その他の期間ダミーは、統 計的に有意でない。生産量に関する係数も1%水準で統計的に有意で、既存研究で推定されたものと大きな差は ない。労働投入は小さな値になっているが、燃料投入に関する係数も整合的な符号を示し、1%水準で統計的に 有意であった。合併ダミーの係数も1%水準で統計的に有意であり、符合はいずれも負を示している。非効率性 を説明するモデルは、いずれも1%水準で統計的に有意である。 費用関数の係数のうちβの値は、1.135 である。アメリカの航空産業では規模の経済が働かないことが示されて いる。合併に関する係数は、いずれも負の値を示している。既存の研究に論拠する結果となっている。 効率性に関するモデルにおいて、JV の係数が正であることから、JV は費用非効率性を引き上げることを示し ている。このような結果が得られた理由として、JV による協力体制の強化が、競争優位性の獲得による独占力 の行使または競合企業の低下による競争圧力の低下をもたらしたため、費用の削減の余地が増大したためである と考えられる。その他、𝜎𝜎𝑢𝑢⁄ 、𝜎𝜎𝜎𝜎𝑣𝑣 𝑣𝑣、𝜎𝜎𝑢𝑢が1%水準で統計的に有意であった。また、Coelli et al.(1999)や遠藤 (2012)が指摘しているように、各地域の特殊性が存在し、それによる非効率性が表れているのであれば、今後、 効率性が高くなる可能性も考えられる。
7.結論 本稿では、確率的フロンティア分析を適用し、2003 年から2018 年におけるアメリカの航空産業の JV と 費用効率性の関係について検討した。期間内には、航 空会社間の合併が起こっている。特に、JV を組む期 間の前後には、大手航空会社が3社とも合併をして いる。これらの影響をできるだけ除くために、四半期 データを扱い、合併それぞれのダミー変数を費用関 数に導入した。JV を費用の非効率性を説明する変数 として推定をしたところ、係数は正の値となった。JV を実施した航空会社は、JV 実施後に非効率性が高く なるという結果が得られた。これは、JV による協力 体制の強化が競争圧力を低下させた可能性が考えら れる。 これまでの研究では、JV 実施直後についての分析 が行われ、JV は航空運賃が引き下げ、需要の拡大を 促すことが示された。それに対し、本稿ではJV の実 施以後の期間を長く取り上げ、費用効率性について 分析し、非効率性が高まることを示した。JV のよう なATI 付与なしでは実現し得ない事業体には、競争 圧力低下のインセンティブが働いてしまうため、今 後のJV についての分析もする必要性がある。 また、本稿ではJV ダミーによって効率性へ与える 影響を計測したが、JV の拡大や増減に関する情報が 欠如している点に課題がある。さらに、分析の対象は 国際線、JV 実施、地方路線などの事業領域がはっき り分かれているため、JV 以外の影響が含まれている 可能性も考えられる。 謝辞 本稿は、2019 年 10 月に東京女子大学にて開催された第 78 回日本交通学研究発表会における報告を加筆・修正 したものである。討論者の花岡伸也先生(東京工業大学)、フロアの先生方、査読者から貴重なコメントを頂いた。 ここに記し、感謝を申し上げる次第である。なお、本稿の内容に関する一切の責任は筆者に帰するものである。 参考文献 朝日亮太(2015)「米国航空会社の合併時の運賃設定行動に関する実証分析~2005年USエア・アメリカウエスト合併のケース~」 『交通学研究』58巻、pp.129-136. 遠藤伸明(2012)「航空におけるグローバルアライアンスとジョイントベンチャーの展開と経済的影響:利益の安定性への影響に ついての計量分析を含めて」『海運経済研究』第46号、pp.35-42. 遠藤伸明(2018)「国際航空輸送産業における規制緩和政策とネットワーク・サービスの多様化への取り組み」日本交通政策研究 会、2018年9月10日、www.nikkouken.or.jp/pdf/symposium/JRCTP20180910.pdf. 久保等(2013)「航空法における独占禁止法適用除外制度の効果に関する調査研究」『国土交通政策研究』第110号. ㈱ANA総合研究所(2017)『航空産業入門』(第2版)、東洋経済新報社. 表3 推定結果 変数 パラメータ 係数の推定値 標準誤差 定数 α -7.346*** 0.300 trend α0 -0.005*** 0.000 d1 α1 0.012** 0.006 d2 α2 -0.015* 0.008 d3 α3 -0.021*** 0.006 lnQ Β 1.135*** 0.005 lnPl αL 0.103*** 0.019 lnPf αF 0.248*** 0.012 ln ASL αasl -0.066*** 0.013 ln LF αlf -0.840*** 0.056 MAAA αAA -0.307*** 0.023 MADL αDL -0.386*** 0.019 MAUA αUA -0.347*** 0.020 MAWN αWN -0.165*** 0.008 定数 δ0 0.102*** 0.006 JV δ1 0.146*** 0.014 𝜎𝜎𝑢𝑢⁄𝜎𝜎𝑣𝑣 0.255*** 0.003 𝜎𝜎𝑣𝑣 0.071*** 0.003 𝜎𝜎𝑢𝑢 0.018*** 0.001 対数尤度 789.425 観測値 572 注:標準誤差はWhite の標準誤差である。 ***は有意水準1%、**は有意水準5%、*は有意水準 10%で有意であることを表している。
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