Swing Option Valuation of Fuel Index-linked Power Purchase
Agreement
∗Misao Endo
†Socio-economic Research Center, Central Research Institute of Electric Power Industry
Abstract: This paper proposes a simple method to evaluate swing option of fuel index-linked PPA.
Swing option will be assumed as a bundle of European option straddle by considering the most frequently used full swing option and using the oil forward curve as the fuel index. Based on such assumption, swing option will be evaluated by Monte Carlo simulation under risk-neutral measure obtained from TOCOM electricity futures market. As a result, the possibility of LNG shortage and surplus is provided. Power generation companies must hedge their LNG position properly to avoid any loss incurred from execution of option by retail companies.
Keywords: Swing option; Full swing; Power purchase agreement; Fuel cost adjustment; Index-linked
∗Received: July 1, 2020; Accepted: November 20, 2020.
†Corresponding author. Address: 1-6-1 Otemachi, Chiyoda-ku, Tokyo 100-8126, Japan; Phone: +81-70-5584-8894;
燃料費調整付き卸電力購入契約におけるスイング・オプションの価値評価
遠藤 操
一般財団法人電力中央研究所 社会経済研究所1
はじめに
わが国の旧一般電気事業者は,ガス火力発電の燃料であるLNGの多くを10年以上の長期売買契約で 安定的に調達している.これらの契約の購入価格はインデックス連動(多くは原油価格インデックス連 動)で,LNGを引き取らなくても支払い義務を負うTake or Pay条項や,転売を禁止する仕向地条項な どが付くことが多い.したがって,旧一般電気事業者(発販分離した場合は発電事業者)は将来にわた り引き取り義務のある原油価格インデックス連動のLNG長期契約を多く抱えている. 一方で,電力市場が2016年4月から小売全面自由化され,多くの新電力が小売に参入した.旧一般電 気事業者の「規制なき独占」を防ぐため,燃料費調整制度を含む規制料金(経過措置料金)が存続してお り,小売電気事業者の自由料金メニューにおいても燃料費調整を適用することが一般化している.その 結果,卸電力の相対取引,すなわち,発電事業者と小売電気事業者の間の卸電力購入契約(PPA: Power Purchase Agreement)においても燃料費調整を付けることが一般的となっている. 現在,わが国ではFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)により太陽光発電が急増し,市場価 格が最下限値0.01円/kWhをつけるなど変動が大きくなっている.電力は経済的に大量に貯蔵すること が難しいため,小売電気事業者は,FIT太陽光の発電量や小売需要の変動,さらにはそれに伴う市場価 格の変動に応じて,電力の調達量を短期的に柔軟に変化させる必要に迫られている. このようなわが国の発電事業者と小売電気事業者の状況をふまえて,両者の間では,燃料費調整が付 いたPPA契約に,受け渡し数量を柔軟に増減できる権利(スイング・オプション)を付する取引が行わ れている.PPAは相対契約であるため個別の契約条件が開示されることは少ないが,たとえば,火力電 源入札などにおいてはその入札募集要項に通告変更権(スイング・オプションのこと)や燃料費調整の 条件が示されている. スイング・オプションの価値評価には様々な手法が提案されており,数値計算手法と定式化手法に大別 される.数値計算手法には,シミュレーション,格子法(ツリーモデル,フォレストモデル),有限要素 法などがある.シミュレーションは,原資産の価格プロセスを限定しない柔軟な手法であり,Longstaff and Schwartz [14]により,まずアメリカン・オプションの評価手法として最小二乗モンテ・カルロ法が提案され,Stentoft [20]やClement and Protter [3]によって真のオプション値に収束することが示さ
れ,さらにMeinshausen and Hambly [17]によってスイング・オプションへと応用された.実証研究と
しては,Hirsch [6]により,ドイツEEX (European Energy Exchange)を対象として,1時間単位のス
イング・オプション価値評価に用いられている.また,遠藤[24]により,わが国の卸電力市場を対象と
するスイング・オプション価値評価に用いられている.格子法は,二項ツリーモデルに基づいてアメリ カン・オプションを評価する手法としてHull and White [8]により提案され,Thompson [21]によりス
イング権の回数が契約期間の日数と同じ場合のスイング・オプションへ応用された.さらに,Jaillet et al. [9]により原資産価格とスイング権回数と行使数量の3次元からなるフォレストモデルへと拡張され, Hambly et al. [5]により価格スパイクを含むモデルに拡張されている.また,Lari-Lavassani et al. [13]
により,真のオプション価値へ収束することが証明されている.この手法は,満期からツリーに沿って バックワードにオプション価値評価と権利行使判断をしており,動的計画法とも呼ばれている.有限要 素法は,確率微分方程式の近似解を数値的に得る方法として,Wilhelm and Winter [22]によってスイ ング・オプション価値評価に応用され,Kao and Wang [10]により確率的ボラティリティのもとでのス イング・オプション価値評価に拡張されている.
定式化手法には,確率計画法やデリバティブ商品で複製する手法などがある.確率計画法によるスイ ング・オプション価値評価は,Haarbr¨ucker and Kuhn [4]により多段階の確率計画問題として定式化さ
れた.また,Pflug and Broussev [18]により,スイング・オプションの買い手の行動モデルに基づいて
売り手の合理的な売値を求める確率計画問題として定式化され,さらに,Kovacevic and Pflug [12]に
より,売り手と買い手が非対称な情報を持つバイレベルの確率計画問題として定式化されている.デリ バティブ商品で複製する手法は,市場が完備であるという前提のもとで,スイング・オプションを先渡 契約とコール・オプションで複製して価値評価する手法としてKeppo [11]により提案された.さらに, Berger et al. [1]により,指数連動スイング・オプションについて,先渡契約とコール・オプションと時 間スプレッド・オプションで複製して価値評価する手法に拡張されている.ただし,わが国では電力先 渡や電力先物の流動性は乏しく,電力オプションは上場されておらず,市場が完備とは言い難い状況で ある. このように,スイング・オプション価値評価には様々な手法があり,海外市場での実証分析も行われ ている.一方で,わが国の卸電力市場を対象とした分析は,遠藤[24]により,事前に定めた固定のPPA 受け渡し価格(以後,PPA単価と記す)を行使価格とするスイング・オプション価値評価が行われたが, PPA単価が燃料費調整される契約でのスイング・オプション価値評価は,著者の知る限りまだ行われ ていない.そこで本研究では,遠藤[24]をPPA単価が燃料費調整されるモデルに発展させ,わが国の PPA契約実態により即したモデルでのスイング・オプション価値評価を行う.また,燃料費調整に伴う 想定PPA単価の水準や形状の変化に対する感度分析も行う. 本稿の構成は以下の通りである.2節で燃料費調整付きPPAに付するスイング・オプションについて 述べる.3節で原資産となるJEPXスポット価格モデルを構築・推定する.4節でスイング・オプション 価値評価と感度分析を行う.5節でまとめを述べる.
2
燃料費調整付き
PPA
に付するスイング・オプション
2.1
燃料費調整付き PPA に付するスイング・オプション
燃料費調整付きPPAは,発電事業者と小売電気事業者との間で,ベースロード,ピークロード,任意 のロードカーブなど,契約期間中に受け渡す電力量のパターンを定めて,そのPPA単価を,燃料費調整 制度と同様に,発電用燃料の輸入統計価格インデックス等を用いて調整する契約である. 燃料費調整付きPPAに付するスイング・オプションは,燃料費調整付きPPAであらかじめ定めた日々 の受け渡し電力量を,一定割合(たとえば20%など)増量,もしくは,減量できる権利を指す.直前ま で通告変更が可能なスイング・オプションが付いたPPA契約において,小売電気事業者(オプション 保有者)が権利行使する場合には,日々のゲートクローズ(電力広域的運営推進機関への当日の調達計 画提出期限,すなわち,実需給の開始時刻の1時間前)までに変更後の受け渡し量を発電事業者(オプション付与者)に通告する.オプションが行使されれば,発電事業者は変更された量を発電して小売電 気事業者に受け渡す.受け渡された量に燃料費調整されたPPA単価を掛けた金額が小売電気事業者か ら発電事業者に支払われる.日々のスイング・オプションの行使は,スポット価格が決まる時点よりも 後に可能であり,小売電気事業者は,スポット市場価格とPPA単価との比較で,より安価な電力調達が 可能となる. したがって,スイング・オプションが付いた燃料費調整付きPPAとは,契約期間のPPA単価が将来 の燃料価格インデックスに連動して変動し,その受け渡される数量が,オプション保有者からの通告に より増減される契約ということになる.
2.2
スプレッド・オプションの束としてのスイング・オプション
一般に,発電用燃料の調達は事業者ごとに行われ,また,電力供給に用いる発電所の諸元も事業者に より異なるので,PPA契約の条件は事業者ごとに異なっている.ここでは以下の仮定をおいて,標準的 な燃料費調整付きPPAとそれに付するスイング・オプションを考える. 1. PPA契約期間のすべての日に増量・減量スイング権を設定した場合(フル・スイング)のみを考 える.すなわち,1年間のPPA契約であれば365回の増量・減量スイング権とする.一般にスイ ング・オプションは契約期間に任意の回数を設定できるが,わが国における一般的な燃料費調整付 きPPAに付するスイング・オプションは,需給調整への対応のため,すべての日にスイング権を 設定する場合が多い. 2. 契約期間全体のスイング量の総量に上限や下限は設けず,単純に日々のスイング量にのみ上限下限 を設定する.一般には,スイング・オプションは,契約期間のスイング量の総量に制約を設けた り,それが満たされない場合にペナルティを設けたりする.わが国では,LNG調達におけるTake or Pay条項つき長期契約などがこれにあたる. 3. スイング権は,各日のスポット価格がPPA単価よりも高ければ(低ければ),日々のスイング量 の上限(下限)いっぱいまで増量(減量)スイング権が行使されるものとする.すなわち,スイン グ・オプションの行使価格を日々のPPA単価とし,利益を最大化するbang-bangな戦略のみを取 り得るとする.一般に,スイング権の総量に制約がなければ,スイング権は上限(下限)いっぱい まで行使することが経済合理的である. 4. PPAとしてはベースロードを考える.これと3.の仮定により,日々のスイング権の行使量が一 定となり,kWhあたりの価値で考えて,必要に応じてベースロードPPAの契約kWを時間倍す ればよい.また,原資産のスポット価格として24時間平均システムプライスを考えればよい. 以上の仮定をおくと,燃料費調整付きPPAに付するスイング・オプションは,契約期間のすべての日 にスイング権利が設定され,その変更できる数量も固定されるため,契約期間にいつどれだけ行使する かの意思決定が不要になる.したがって,スイング・オプションを,契約期間のすべての日を満期とし て,PPA単価と電力スポット価格の差を原資産とするスプレッド・オプションのコールとプットの束と みなすことができる.図1: Brent 原油フォワードカーブと想定 PPA 単価 図2: TOCOM 電力フォワードカーブと想定 PPA
2.3
想定燃料価格として燃料フォワードカーブを利用
スプレッド・オプションは,Margrabe [16]により理論価格式が求められている.しかし,スプレッ ド・オプションの原資産の一つであるPPA単価は,燃料価格インデックスに連動し,燃料価格インデッ クスは主に国際的な要因で変動する.一方で,もう一つの原資産である電力スポット価格は主に国内の 天候や需給などの要因で変動する.また,電力は貯蔵することができないので,他の証券・商品で複製 ポートフォリオをつくることはできず,無裁定条件によりリスク中立確率に変換してオプション価値評 価を行うことは難しい.そこで,燃料価格インデックスについては,多くのPPA契約の燃料費調整で原 油価格インデックスを用いていることから,オプション価値評価時点の原油フォワードカーブを代用的 に用い,時間に関する確定的な関数として扱う.すなわち,各月の想定PPA単価を,その月を限月とす る原油フォワードカーブから確定的な関数として計算する.具体的な計算は以下の通り.まず,ICE (Intercontinental Exchange)上場のBrent原油先物価格[29]
を,標準的なLNG価格フォーミュラ [28] (LN G = 0.1485∗ Oil + 0.5)に代入して当該月の想定LNG 価格(USD/MMBTU)を求める.そして,具体的なLNG火力電源は想定できないので,標準的なLNG 火力電源として,発電コスト検証ワーキンググループ[26]のコストレビューシート(為替レート105.24 円/USD,政策コスト含まず)に,想定LNG価格を代入してLNG火力電源の想定発電コスト(円/kWh) を求め,それを当該月の想定PPA単価とする.図1は,2020年7月31日のBrent原油フォワードカー ブから計算した2020年10月–2021年9月の想定PPA単価である.図 2に同期間の東京商品取引所 (TOCOM) [25]の電力フォワードカーブと想定PPA単価を示す.全期間において想定PPA単価よりも
電力先物価格のほうが低い傾向が見られる.つまり,年間を通じてPPAで発電事業者から調達するよ り,電力先物市場から調達するほうが安い状況である.
以上の仮定を前提にすると,燃料費調整付きPPAに付されたスイング・オプションは,電力スポット 価格を原資産とし,月ごとに異なる想定PPA単価を行使価格とするヨーロピアン・オプションのストラ ドルの束とみなせて,各時点における1kWhあたりのペイオフは以下の式で与えられる.
Payoff (Pt) = w max (Pt− FPPA(0, t), 0) + w max (FPPA(0, t)− Pt, 0) , (1)
ただし,tは年表示の時間を表し,PtおよびFPPA(0, t)は,日次の時点t = t0, t1, . . . , tiにおける電力ス
ポット価格,および,期初t = 0における原油フォワードカーブから計算される想定PPA単価を表す. ∆t = ti− ti−1 = 0.0027年である.また,wは日々のスイング幅(1kWhに対する割合)を表す.なお,
本分析では休日補正を行っていない.また,増量もしくは減量が可能なスイング・オプションを考えて いるので,スポット価格と想定PPA単価が異なれば,いずれかのオプションが行使されペイオフはプラ スとなる.
3
JEPX
スポット価格モデルの推定
3.1
JEPX スポット価格モデル
電力スポット価格Ptのモデルとして,多くの海外電力市場でも見られる季節周期性,平均回帰性, 価格スパイクなどの特性を組み込むため,季節周期性をもつ平均回帰ジャンプ拡散過程でモデル化す る[15, 19, 24]. ln Pt= f (t) + Xt, (2)f (t) = s0+ µt + s1sin 2πt + s2cos 2πt + s3sin 4πt + s4sin 4πt, (3)
dXt= (α− κXt) dt + σXdWt+ ξtdJt. (4) ただし,f (t)は季節性を表す確定的な関数で,µは線形トレンド,s0は定数項,s1, s2, s3, s4は季節性の 各周期のパラメータを表し,Xtはランダム性を表す確率的な関数で,α, κは平均回帰のパラメータ,σX はボラティリティ,Wtは標準ブラウン運動を表す.Jtは生起率λのポアソン過程とし,ξtはジャンプ の大きさを表し,N (µξ, σξ)の正規分布に従う.推定の際には,Jtを確率λ∆tでジャンプが起こり,確 率(1− λ∆t)でジャンプが起こらないベルヌーイ過程で置き換え,以下の離散時間モデルで近似する. Xti = α∆t + (1− κ∆t)Xti−1+ σXϵX + µξ+ σξϵJ, 確率 λ∆t, α∆t + (1− κ∆t)Xti−1+ σXϵX, 確率 (1− λ∆t). (5) このとき,Xtiの条件付き確率密度関数は以下となる. g(Xti | Xti−1 ) = λ∆tN1 ( Xti | Xti−1 ) + (1− λ∆t)N2 ( Xti | Xti−1 ) , N1 ( Xti | Xti−1 ) = √ 1 2π ( σ2X + σξ2 ) exp − ( xti− α∆t − (1 − κ∆t)Xti−1− µξ )2 2 ( σ2 X + σ2ξ ) , N2 ( Xti | Xti−1 ) = √ 1 2πσX2 exp ( −(Xti− α∆t − (1 − κ∆t)Xti−1 )2 2σ2X ) . (6)
3.2
パラメータの推定
パラメータは過去のJEPX市場価格(2016年1月–2020年7月の24時間平均システムプライス, JEPX [23]よりダウンロード)から推定する.まず(3)式を最小二乗法で推定して表1の結果を得た.定 数項s0は2.24(約9.4円),傾きµは−0.053(若干のマイナストレンド)と推定された.季節性の周 期を表すs1, s2, s3, s4も有意に推定された.図3にスポット価格の系列と推定された季節性を示す. 次に,スポット価格の系列から季節性を引いた残差系列に対して(5)式を最尤法により推定して,表 2の結果を得た.平均回帰傾向κと高いジャンプ確率約22% (λ∆t = 0.22)が有意に推定された.ただ し,平均的なジャンプの大きさを表すµξは0.04と推定され,そのばらつきσξ = 0.19に比して小さめに表1: (3)式のパラメータ推定結果(**1%有意) パラメータ s0 µ s1 s2 s3 s4 推定値 2.240∗∗ −0.053∗∗ −0.080∗∗ 0.081∗∗ 0.090∗∗ 0.050∗∗ 図3: 電力スポット価格と推定された季節性 推定されている.µξが大きい正の値なら平均回帰傾向と併せて電力市場特有の鋭いスパイクを表すが, この結果はそこまで高い値とは言えない.またボラティリティは年率190% (σX = 1.90)と推定された. 得られたパラメータを(5)式に代入し,標準正規乱数と二項分布乱数を逐次代入してシミュレーション を行うと,図4のようになる.初期値にはデータサンプル期間の平均値9.32円/kWhを用いる.シミュ レーションでは,季節性のまわりに22%の確率でジャンプが起こりながら,年率190%のボラティリティ でランダムに変動するサンプルパスが生成される. 1,000回のシミュレーションを行い,その平均値をとることで,各時点でのスポット価格の期待値を計 算し,想定PPA単価と併せて表示すると図5のようになる.スポット価格のシミュレーション期待値 は,想定PPA単価の上下に季節性をもって推移している.
4
スイング・オプションの価値評価
4.1
リスク中立確率への変換
スイング・オプション価値評価のために,前節で得られたスポット価格プロセスをリスク中立確率で のプロセスに変換する.電力は貯蔵することができないので,Seifert and Uhrig-Homburg [19]およびBurger et al. [2]に従い,TOCOM電力フォワードカーブからリスクの市場価値mtを推計して,リスク
表2: (5)式のパラメータ推定結果(*5%有意)
パラメータ α κ µξ σX σξ λ
図4: 推定されたパラメータでのシミュレーション 図5: 想定 PPA 単価とスポット価格の期待値 図 6: 電力フォワードカーブとスポット価格の期 待値 図7: リスクの市場価値 中立確率へ変換する.まずPを実確率とし,P と同値なリスク中立確率Qのもとで,(4)式のドリフト がσXmt差し引かれ,リスク中立なドリフトに変換されると仮定する. dXt= (α− κXt) dt− σXmtdt + σXdWtQ+ ξtdJt. (7) ただし,WtQはQのもとでの標準ブラウン運動を表す.そして,期初における時点tを満期とする電力先 物価格をF (0, t)とし,F (0, t)がリスク中立確率Qのもとでスポット価格の期待値と等しいと仮定する. すなわち,F (0, t) = EQ(Pt)となるように,逆算してリスクの市場価値mtを推計する.F (0, t) = EQ(Pt) に(2), (7)式を代入し,確率微分方程式を解いて(4)式を用いて整理すると, F (0, t) = exp ( −σXe−κt ∫ t 0 eκsmsds ) EP(Pt) , (8) を得る.F (0, t)に2020年10月限∼ 2021年9月限のTOCOM電力フォワードカーブを代入し,EP(Pt) に3節で求めた実確率Pのもとでのシミュレーションによるスポット価格の期待値を代入する. 図6にTOCOM電力フォワードカーブとスポット価格の期待値を示し,図7に得られたリスクの市 場価値mtを示す.TOCOM電力フォワードカーブは,シミュレーションによるスポット価格の期待値
図8: リスク中立確率でのシミュレーション 図9: リスク中立確率でのスポット価格の期待値と TOCOM 電力フォワードカーブ より,計測した期間にわたって低い値で約定(一部は帳入値段)しており,その結果,リスクの市場価 値はほとんどプラスの値を示している.計測されたmtを用いて,リスク中立確率のもとでのスポット 価格を,以下の式によりシミュレーションし,そのサンプルパスを図 8に示す. Xti = α∆t− (1 − κ∆t)Xti−1− σXmti−1+ σXϵX + µξ+ σξϵJ, 確率 λ∆t, α∆t− (1 − κ∆t)Xti−1− σXmti−1+ σXϵX, 確率 (1− λ∆t). (9) リスクの市場価値がほとんどの期間でプラスに計測されているので,リスク中立確率のもとでシミュ レーションすると,実確率でのシミュレーションに比べて下方にずれる.リスク中立確率でのシミュレー ションを1000回行い,各時点での平均値をとってスポット価格の期待値を求めると,図 9のようにな る.リスク中立確率のもとでは,スポット価格の期待値がTOCOM電力フォワードカーブに一致するよ うなシミュレーションになっていることがわかる.
4.2
スイング・オプション価値評価
PPA契約により時間粒度(コマ単位か,日単位かなど)は異なるが,ここでは燃料費調整付きベース ロードPPAに付された日単位(t = t1, . . . , tM)で行使可能なスイング・オプションを考える.ベースロー ドPPAの契約kWに対して,割合wまで増量・減量できるスイング・オプションの価値 S(円/kWh) は,リスク中立確率Qのもとで電力スポット価格Ptiのシミュレーションを行い,モンテ・カルロ法に より期待値を求めることで,以下の式で計算される.ただし,無リスク金利rは,2020年7月31日の 無担保コール翌日物(Hull [7]参照)の平均値−0.021%(日本銀行金融市場局 [27])を用いる. S = w M M ∑ i=1 e−rtiEQ(max (Pti− FPPA(0, ti) , 0) + max (FPPA(0, ti)− Pti, 0) , ) . (10)
PPA契約期間を2020年10月1日–2021年9月30日(M = 365)とし,FPPA(0, ti)は2節にて計算し
た値とする.スイング権の上限・下限をベースロードPPA契約の±20% (w = 0.2)とすると,スイン
グ・オプション価値は,S = 0.39円/kWhと評価された.また,シミュレーションに基づく日々の減量
オプション行使率をプロットすると図10のようになる.分析期間を通じて減量オプションが行使される
図 10: 日々の減量オプション行使率 発電事業者は,発電計画に基づき長期契約にて受け取り義務のあるLNGを購入済みであるため,減 量オプションが行使されて卸電力販売量が減少するとLNGが余剰となる.例えば,2020年11月は平均 して約90%の減量オプション行使率であるが,これは購入済みLNG 1単位に対して,リスク中立確率 のもとで,約90%の確率で減量スイング権が行使され,必要量が20%減量して0.8単位に減り,結果と して0.2単位の余剰になることを示している.通常LNGタンクに十分な余裕はないため,余ったLNG は転売するか,もしくは,発電して安価なスポット市場で投げ売りしなければならない(なぜなら,ス ポット価格が安価であるから減量オプションが行使されているため). オプション付与者である発電事業者は,LNG長期契約の引取義務の下で,スイング権が行使されるこ とにより被る損失リスクを理解し,その対価(オプション価値)をオプション保有者である小売電気事 業者から適正に受け取る必要があるが,対価を高く設定しすぎると契約に至らない可能性がある.一方 で,小売電気事業者は,自社の電力調達ニーズに合うPPA契約を選ぶために,PPA単価の高低に加え て,スイング・オプション価値を含めた定量的な評価を行って,発電事業者ごとに異なるPPA契約(例 えば,PPA単価は安いがスイング・オプションがない場合と,PPA単価は高いが柔軟なスイング・オ プションが付く場合)を比較する必要がある. このようなPPA契約当事者の双方のニーズに対して,本研究の手法で計算されたスイング・オプショ ン価値は,燃料と電力のフォワードカーブに基づいてリスク中立確率で評価した合理的な値であり,PPA 契約交渉やPPA契約比較における指標価格として機能することが期待される.また,同時に計算され た減量オプション行使率は,発電事業者のLNG調達における合理的なヘッジ取引への応用が考えられ る.すなわち,減量オプション行使率を将来のLNGの余剰・不足を示す指標として,LNG先物もしく は電力先物でのポジション調整への活用が期待される.
4.3
感度分析
この節では,電気事業における実践的応用に資するため,想定PPA単価の水準や形状,および,電力 スポット価格のボラティリティを変化させたときのスイング・オプション価値や減量オプション行使率 への影響を分析する.図 11: 想定 PPA 単価の平行移動 図 12: 想定 PPA 単価の平行移動に対するスイン グ・オプション価値と年平均の減量オプション行使率 4.3.1 想定PPA単価の水準変化に対する感度分析 想定PPA単価FPPA(0, t), t = t1, . . . , t365の水準を変化(1年間の階段形状はそのままで上下に平行 移動)させたときのスイング・オプション価値の変化を分析する.図11に−1円,−2円平行移動した 場合の例を示す.図12に,想定PPA単価の平行移動の幅を横軸にとり,それに対するスイング・オプ ション価値と年平均の減量オプション行使率(日々の減量オプション行使率を年間で平均したもの)の 変化を示す. 2節で原油フォワードカーブから計算した想定PPA単価(図12で平行移動が0円の場合)では,年 平均の減量オプションの行使率は76%となる.約 −1.5円平行移動すると,年平均の減量オプション行 使率が50%となり,スイング・オプション価値は最も低い0.31円/kWhとなる.さらにマイナス方向に 平行移動すると減量オプションの行使率はさらに下がるが,逆に増量オプションの行使率が上がるため, スイング・オプション価値は上昇に転じる.全体として想定PPA単価の水準変化に対してU字型のグ ラフが描かれることになる. 4.3.2 想定PPA単価の形状変化に対する感度分析 想定PPA単価は,原油フォワードカーブより計算しているのでその形状に依存する.原油フォワード カーブの形状には,将来の需給等を反映して,期先が期近よりも上昇するコンタンゴと,その逆のバッ クワーデーションがある.図13に,前小節の分析で最もオプション価値が低いケース(最初の想定PPA 単価を約−1.5円平行移動,減量オプション行使率50%,スイング・オプション価値0.31円/kWh)を 標準ケースとして,コンタンゴおよびバックワーデーションの例を示す.そして,それぞれの想定PPA 単価からスイング・オプション価値を計算し,図14–16にその減量オプション行使率を示す. コンタンゴのケース(図15)では,標準ケース(図14)に比べて期先になるほど減量オプション行使 率が高くなり,年平均の減量オプション行使率は約72%に上がって,スイング・オプション価値は0.36 円/kWhに上昇した.減量オプション行使率の形状を見ると期先のLNG余剰が想定される. 一方で,バックワーデーションのケース(図16)では,標準ケース(図14)に比べて期先ほど減量オ プション行使率が低くなり,年平均の減量オプション行使率は約24%に下がって,逆に増量オプション
図13: 想定 PPA 単価の形状の 3 ケース 図14: 標準ケースの減量オプション行使率 図15: コンタンゴでの減量オプション行使率 図 16: バックワーデーションでの減量オプション 行使率 行使率が上がるのでスイング・オプション価値は0.40円/kWhに上昇する.減量オプション行使率の形 状を見ると期先のLNG不足が想定される. 4.3.3 電力スポット価格のボラティリティに対する感度分析 電力スポット価格のボラティリティσX を変化させた場合のスイング・オプション価値の変化を図17 に示す.3節で推定したJEPXスポット市場のボラティリティは190%で,スイング・オプション価値 は0.39円/kWhであった.その半分の水準のボラティリティ95%を仮定すると,オプション価値は0.34 円/kWhとなった.スイング・オプション価値は,ボラティリティが低いところから200%あたりまで は,ボラティリティ増大に対して徐々に変化率を増加させながら上昇する傾向が見られる.ボラティリ ティ200%以上では,ほぼ線形に上昇し,100%ボラティリティが増大するごとに約0.1円/kWhのオプ ション価値上昇を示している.
図17: 電力スポット価格のボラティリティ変化に対するスイング・オプション価値の変化
5
まとめ
本稿では,燃料費調整付きPPAに付するスイング・オプションの評価手法を提案した.本研究の貢 献は,燃料費調整が考慮されていない既存研究(特に遠藤 [24])を,わが国のPPA契約実態を踏まえ て,燃料費調整付きのモデルへと発展させたことである.提案した手法により評価されたスイング・オ プション価値は,燃料費調整付きPPAの契約交渉における指標価格として実践的応用が期待される. また,燃料費調整に伴う想定PPA単価の水準変化や形状変化に対する感度分析を行ったことも本研究 の新たな貢献である.特に,減量オプション行使率の算出は,発電事業者が長期契約で購入済みのLNG について,将来の余剰・不足を示すものであり,LNG調達における適切なヘッジ取引に活用されること が期待される.参考文献
[1] Berger, B., Dietrich, M., D¨ottling, R., Heider, P. and Spanderen, K. (2018): Semianalytical pricing and hedging of fixed and indexed energy swing contracts. Journal of Energy Markets, 11, 1–26.
[2] Burger, M., Klar, B., M¨uller, A. and Schindlmayr, G. (2004): A spot market model for pricing derivatives in electricity markets. Journal of Quantitative Finance, 4, 109–122.
[3] Clement, E., Lamberton, D. and Protter, P. (2002): An analysis of a least squares regression method for American option pricing. Finance and Stochastics, 6, 449–471.
[4] Haarbr¨ucker, G. and Kuhn, D. (2009): Valuation of electricity swing options by multistage stochastic programming. Automatica, 45, 889–899.
[5] Hambly, B., Howison, S. and Kluge, T. (2009): Modelling spikes and pricing swing options in electricity markets. Quantitative Finance, 9, 937–949.
[6] Hirsch, G. (2009): Pricing of hourly exercisable electricity swing options using different price processes. Journal of Energy Markets, 2, 3–46.
[7] Hull, J. (2014): Options, futures and other derivatives (9th edition). Prentice Hall.
[8] Hull, J. and White, A. (1993): Efficient procedures for valuing European and American path-dependent options. Journal of Derivatives, 1, 21–31.
[9] Jaillet, P., Ronn, E. I. and Tompaidis, S. (2004): Valuation of commodity-based swing options. Management Science, 50, 909–921.
[10] Kao, E.P.C. and Wang, M.W. (2018): Finite element method for pricing swing options under stochastic volatility. Journal of Accounting and Finance, 18, 26–45.
[11] Keppo, J. (2004): Pricing of electricity swing options. Journal of Derivatives, 11, 26–43.
[12] Kovacevic, R. M. and Pflug, G. C. (2014): Electricity swing option pricing by stochastic bilevel optimization: A survey and new approaches. European Journal of Operational Research, 237, 389–403.
[13] Lari-Lavassani, A., Simchi, M. and Ware, A. (2001): A discrete valuation of swing options. Canadian Applied Mathematics Quarterly, 9, 35–73.
[14] Longstaff, F. A. and Schwartz, E. S. (2001): Valuing American options by simulation: A simple least-squares approach. Review of Financial Studies, 14, 113–147.
[15] Lucia, J. J. and Schwartz, E. (2002): Electricity Prices and Power Derivatives: Evidence from the Nordic Power Exchange. Review of Derivatives Research, 5, 5–50.
[16] Margrabe, W. (1978): The value of an option to exchange one asset for another. Journal of Finance, 33, 177–186.
[17] Meinshausen, N. and Hambly, B. M. (2004): Monte carlo methods for the valuation of multiple exercise options. Mathematical Science, 14, 557–583.
[18] Pflug, G. C. and Broussev, N. (2009): Electricity swing options: Behavioral models and pricing. European journal of operational research, 197, 1041–1050.
[19] Seifert, J. and Uhrig-Homburg, M. (2007): Modelling jumps in electricity prices: Theory and empirical evidence. Review of Derivatives Research, 10, 59–85.
[20] Stentoft, L. (2004): Convergence of the least squares monte carlo approach to american option valuation. Management Science, 50, 1193–1203.
[21] Thompson, A. C. (1995): Valuation of path-dependent contingent claims with multiple exercise decisions over time: The case of take-or-pay. Journal of Financial and Quantitative Analysis, 30, 271–293.
[22] Wilhelm, M. and Winter, C. (2008): Finite element valuation of swing options. Journal of Com-putational Finance, 11, 107–132.
[23] 一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX):取引情報.
[24] 遠藤操 (2020): “わが国の卸電力取引におけるスイング・オプションの価値評価”. エネルギー・資 源学会論文誌, 41, 233–242. [25] 株式会社東京商品取引所(TOCOM): ヒストリカルデータ. https://www.tocom.or.jp/jp/historical/download.html(アクセス日2020.7.10) [26] 経済産業省資源エネルギー庁: 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会発電コスト検証ワーキン ググループ. https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/#cost_ wg(アクセス日2020.7.31) [27] 日本銀行金融市場局: 無担保コール翌日物レート速報. https://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/mp200731.htm(アクセス日2020.7.31) [28] 日本経済新聞社: “LNG値決め,産ガス国優位に 激変緩和消え原油と連動強く”.(2012.3.21付) [29] リフィニティブEIKONよりダウンロード.