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自動運転システムにおける情報処理技術の最新動向:4. 安全安心な走行を実現する自律運転知能システムの運動計画と制御

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Academic year: 2021

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(1)特集 自動運転システムにおける情報処理技術の最新動向. 安全安心な走行を実現する 自律運転知能システムの運動 計画と制御. 基 応 専 般. 4. ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク(東京農工大学) 安全運転を確保する自動運転. 1). ステム」 (2010 年度〜 2019 年度)を実施している . 本稿では,このプロジェクトの一部の研究開発状況. 人間による自動車の運転は, 「認知」, 「判断」, 「操. について紹介する.. 作」の 3 段階であると言われている.これを自動. 本プロジェクトが目指している高度運転支援シス. 運転自動車に当てはめると,「環境認識・理解部(セ. テムの基盤技術の柱としては,従来の予防安全技術. ンシング) 」 , 「状況判断部」 , 「運動制御部」の大き. に加えて,高精度の道路環境センシング技術,デジ. な 3 つの構成になる.長時間運転の快適性を目的. タル地図,自律運転知能技術,運転操作系 HMI(ヒ. としている自動運転は,リスクの低い単純な走行場. ューマンマシンインタフェース)最適化技術などが. 面において 1950 年代から開発されてきた.しかし,. 挙げられる.. 事故ゼロを目指す自動運転技術として,リスクの高. これらの技術を有機的に統合し,信頼性と有効性. い複雑な走行場面において安全を確保するための高. が高い自律運転知能による制御介入型運転支援シス. 度運転支援の体系的な設計論はいまだに確立されて. テムを開発する.このシステムの活用としては,地. いないように思われる.. 方の高齢者に向けた安全自動車の提供を当面の目標. 本稿では,安全走行に必要不可欠な危険予測運転. とする.技術開発を継続的に進め,動作範囲の拡張. 特性に基づく自律運転知能システムの運動制御系設. やさらなる高機能化を実現していくことを目指す.. 計について紹介する.その中核技術は,走行空間上. 実現可能性のハードルの高い完全自動運転ではなく,. のリスクポテンシャル関数を用いた制御系の理論的. 運転者が主で機械支援が従のシステムを狙うことで,. 設計法である.自動車の運動制御では,そのリスク. 運転者や社会の受容性は十分検討する必要はあるも. ポテンシャル関数に基づき目標経路を計画し,加減. のの,実現可能性は十分に高いと考えている.. 速・操舵を制御する.ここでは,典型的な市街地走 行シーンとして,駐車車両の側を通過するときの, 経路計画および運動制御系の設計手法を紹介する.. 制御系設計の構造 自律運転知能システムに内蔵されているドライバ. 自律運転知能システム. ーモデルについて述べる.本研究では,熟練ドライ. 筆者らは,科学技術振興機構(JST)の戦略的イ. ら緊急時までの走行領域に対応できる運転知能のモ. ノベーション創出推進プログラム(S- イノベ)の研. デルを構築した.その概略図を図 -1 に示す.衝突. 究開発テーマ「高齢社会を豊かにする科学・技術・. 危険度を予測したドライバーの行動を表現するた. システムの創成」において,研究課題「高齢者の自. め,(1)基本走行,(2)潜在リスク予測,(3)緊急. 立を支援し安全安心社会を実現する自律運転知能シ. 回避の 3 つのドライバーモデルで制御構造を構築. バーの運転行動をモデル化するため,通常走行時か. 情報処理 Vol.57 No.5 May 2016. 451.

(2) 特集 自動運転システムにおける情報処理技術の最新動向. ための前方注視点モデル,目標速 度や前車追従走行モデルに加えて, センサから直接見えている障害物 に対して最適な経路を決定する制 御系である.潜在リスク予測ドラ イバーモデルは,リアルワールド での走行データから学習される潜 在リスクとそれに対して最適な経. 目標経路 生成. +. -. アクチュエータ. は,目標コースに沿って走行する. センサフュージョン・環境構築モデル. した.基本走行ドライバーモデル. 操舵角/トルク. 基本走行 ドライバー モデル. アクセルペダル ブレーキペダル. 操舵 アクセル ブレーキ. 車両. 経路更新. 潜在リスク予測 ドライバーモデル. 障害物位置. 【機械学習】 危険予測知識 データベース. 緊急回避 ドライバー モデル. 車両挙動(速度,横変位,自己位置). 図 -1 自律運転知能システムのドライバーモデルの構造. 路を更新する制御系で,本プロジ ェクトの中核技術である.緊急回. 走行レーン位置. 避ドライバーモデルは,事故直前. 障害物位置. に作動する緊急自動ブレーキや自. 目標 ヨーレイト. g*. 目標ヨーレイト 生成部. 操舵角. 操舵角 算出器. 目標 加速度. 動操舵回避制御系である.このよ うに事故が発生し得る時間から 3. a*x. 目標減速度 生成部. 段階に分けて遡って,1 秒以内は. 運動計画部. 機械が優位の緊急回避機能,1 〜 10 秒は潜在リスク領域の協調運. * d sw. ブレーキ トルク ブレーキトルク 算出器. 車両. * m. T. 車両制御部. 車両予測位置. 車両運動予測. 車両運動状態 (位置,速度,加速度). 転(Shared Control) ,10 秒 以 上 は基本走行機能として設計されて. 図 -2 自律運転知能システムの構造. いることが本研究のドライバーモ デルの特徴である.. る.算出した目標減速度を車両の制動トルクに変換. 障害物回避のための自律運転知能システムの概要. することによって車両前後方向の運動を制御する.. 図を図 -2 に示す.障害物回避アルゴリズムの設計は, ポテンシャルフィールド法がよく用いられており. 2) ,3). ,. 基本走行制御. 走行位置におけるポテンシャルの勾配を移動体に作. 452. 用する力として計算している.経路計画に関して. 本章では,基本走行制御として,車両横方向の運. は,道路境界と見えている障害物のリスクポテンシ. 動制御について述べる.直線単路に静止障害物があ. ャルを定義し,数秒先の将来の車両軌跡上において. る場面において,自車の横方向の運動計画に影響を. 最もリスクポテンシャルの総和の低い目標ヨーレイ. 及ぼす要素は道路境界,静止障害物の 2 要素と考. ト(車両回転角速度)を決定する演算を行う.車両. える.道路境界と静止障害物の斥力ポテンシャルの. の逆モデルを解き,算出した目標ヨーレイトを目標. 形状をそれぞれ図 -3 と図 -4 に示す.. 操舵角に変換することによって車両横方向の運動を. 次に,上記のリスクポテンシャルに基づき,横方. 制御する.速度計画に関しても,経路計画と同様の. 向の運動を制御する方法について述べる.リスクポ. 計算過程を行う.遮蔽物による死角からの飛び出し. テンシャルを用いる場合,その勾配による制御が一. を考慮した見えない障害物のリスクポテンシャルを. 般的である .しかし,車両挙動の不安定化やロー. 設定し,数秒先の将来の車両軌跡上において最もリ. カルミニマムポイントから抜け出せないといった問. スクポテンシャルの総和の低い目標減速度を決定す. 題が発生する可能性がある.本稿では,サンプリン. 情報処理 Vol.57 No.5 May 2016. 2).

(3) ❹ 安全安心な走行を実現する自律運転知能システムの運動計画と制御. Potential Energy [J]. x 10. 4. Predictive position. 6. U risk( X , Y ). 4. t p _ y ・N y. t p _ y・0 t p _ y・1. 2 0. 2. 0. -2. Displacement Y [m]. 0. 50. 100. Displacement X [m]. Y. Ego vehicle. 0. 図 -3 道路境界のポテンシャル場. X x 10 Potential Energy [J]. Potential Energy high. low. 図 -5 リスクポテンシャル最適化の概念. 4. 10. 5. 0 4. 2. 0. Displacement Y [m]. -2. -4. 0. 50. 100. Displacement X [m]. 図 -4 静止障害物のポテンシャル場. Poor visibility. グタイムごとに複数の予測経路を算出し,リスクポ テンシャルと車両運動量を考慮した評価関数が最小 となる予測経路を選択することで,車両の安全性と 運動の滑らかさを確保しながら上記の問題を回避す. 図 -6 駐車車両の陰 から飛び出し てきた歩行者. Darting out pedestrians. る.具体的には,図 -5 に示すように将来車両が発 生すべきヨーレイトを複数の目標ヨーレイトの候補 値から選択する手法で,車両が描く軌跡上のリスク. ーは,歩行者の飛び出しを予測し,あらかじめ速度. ポテンシャルの合計値と車両運動の滑らかさを考慮. を落とすなど,危険予測により事故発生のリスクを. した評価関数を最小化するヨーレイトを求める計算. 回避している .このことから予防安全技術の効果. 処理を行っている.. をさらに高めるには,熟練ドライバーの危険予測知. 4). 識,いわゆる「運転知能」を支援システムに組み込. 潜在リスク予測. むことが重要である. 停車車両などの遮蔽物による死角が存在するよう. 日常の市街地道路において,停車中のバスを追い. な場面では,規範的なドライバーは死角からの歩行. 越そうとする際に,図 -6 に示すようにバスの陰か. 者の飛び出しを予測し,あらかじめ速度を落とすこ. ら歩行者が突然飛び出してくる危険が潜んでいる.. とで衝突のリスクを低減している.図 -7 に示すよ. このような場面において,既存の緊急自動ブレーキ. うな死角に存在するかもしれない仮想歩行者のリス. システムでは,センサの検出性能や作動領域が限定. クポテンシャルを設定することで最適な減速度を求. され,歩行者を認識できず,事故を回避できない可. める計算処理を行っている.. 能性がある.一方,運転経験を積んだ熟練ドライバ. 情報処理 Vol.57 No.5 May 2016. 453.

(4) 特集 自動運転システムにおける情報処理技術の最新動向. Y. Obstacle Vehicle (parked) Pedestrian. 50 40. Yped. +. V ped. Ypass d. Vmin. Collision point. Velocity [km/h]. +. 20 10 0. lmax. U ped. Displacement Y [m]. X Braking Start Distance. Braking Stop Distance. l. X*. Driver 1 Driver 2 Driver 3 Driver 4 All data. 30. 0. 10. 20 30 40 Displacement X [m]. 2 0. 50. 60. Obstacle Vehicle. -2 0. X ped. 10. 20 30 40 Displacement X [m]. 50. 60. 図 -9 駐車車両回避時の熟練ドライバーのデータ. X st. + X fin X of X ped. Xe. X. Obstacle Vehicle (parked). Y Yo=0.9 m. V0 O. =48.1m. X of X. =53.6m. Road Boundary 図 -8 駐車車両回避シーンの条件. 454. -1. ― Desired value ---Simulation result 0. 1. 2. 3. 4 Time [s]. 5. 6. 7. 8. 0. 1. 2. 3. 4 Time [s]. 5. 6. 7. 8. 0.1. 40 km/h X or. Test Vehicle. 0. -2. Road Boundary. Yaw rate [rad/s]. Yrc. Longitudinal acceleration 2 [m/s ]. 図 -7 仮想歩行者に対するリスクポテンシャル. 0 -0.1. 図 -10 駐車車両回避時の目標運動の計算結果. 走行シミュレーション. (All data)は,提案したドライバーモデルの評価用. 駐車車両回避シーンにおける運動計画アルゴリズ. 経路計画アルゴリズムによって計算された目標ヨ. ムの妥当性を検証するため,計算結果を熟練ドライ. ーレイト,目標減速度およびリスクポテンシャル理. バーによる走行データと比較する.熟練ドライバー. 論によって求めたヨーレイト,前後加速度の時系列. は自動車教習所の運転指導員 2 名と自動車メーカ. データを図 -10 に示す.図 -10 より,ヨーレイトと. で長年運転に関する安全教育を受けているドライバ. 前後加速度ともに,計算値がほぼ目標値に一致して. ー 2 名である.実車実験では,時速 40km/h の定. いることが確認できる.また,リスクポテンシャル. 常状態をつくり,自分の判断で停車車両を回避する. 理論のドライバーモデルによるシミュレーション結. タスクを各ドライバーに 7 回ずつ走行してもらっ. 果と熟練ドライバーの車両速度と車両軌跡のグラフ. た.停車車両の位置は図 -8 のように設定した.なお,. を図 -11 に示す.熟練ドライバーのグラフには進行. 本実験の実施については,各実験参加者に口頭で実. 方向 5m 刻みに標準偏差を示す.両者の軌跡はほぼ. 験の目的・方法・安全性に関する事柄を伝え,書面. 重なっており,速度と軌跡ともに熟練ドライバーの. にてインフォームドコンセントを得て実験を行った.. 実走行データの標準偏差以内であることから,提案. 得られた 4 人の熟練ドライバーの運転実験データと. した運動制御モデルは熟練ドライバーの運転行動を. その平均値を図 -9 に示す.図 -9 に示された平均値. 精度よく再現しているといえる.. 情報処理 Vol.57 No.5 May 2016. データとして扱う..

(5) Velocity[km/h]. ❹ 安全安心な走行を実現する自律運転知能システムの運動計画と制御. 50. 今後は,実車実験による有効性の検証とドライビ. 40. ングシミュレータを用いた人間とシステムとの相互. 30. 作用や運転者の受容性評価を行う.さらには,高度. 20. 実験データ ( 標準偏差). 10. シミュレーション. 0. 0 10 20 30 40 50 60. Displacement Y[m]. Displacement X[m]. 2. リスク ポテン シャル. [J]×10. 運転支援システムの進化には,さまざまなシーンに おける運転知能にかかわるリアルワールドデータの 4. 蓄積が必要不可欠である.筆者らが収集している実. 1. 8. 0. 6. -1. 4. 識をデータベース化し自動車に組み込むことで,自. 2. 動車の知能化に貢献していきたい.. -2 -3. 路ヒヤリハットデータベースを活用し,危険予測知. 0 10 20 30 40 50 60 Displacement X[m]. 図 -11 駐車車両回避時の車両挙動. 今後の展望 本研究では,自動運転技術による衝突事故回避機 能として,潜在的な危険を先読みする高度運転支援 システムの開発を目的とする.横方向,前後方向そ れぞれについて独立に設定したリスクポテンシャル. 参考文献 1) 井上秀雄,永井正夫,鎌田 実,ポンサトーン・ラクシンチ ャラーンサク,大桑政幸:高齢者の自立を支援し安全安心社 会を実現する自律運転知能システム,自動車技術会学術講演 会前刷集,22-20145375, pp.1-4(2014). 2) 能登紀泰,奥田裕之,田崎勇一,鈴木達也:個人適合型ポテ ンシャル法に基づく障害物回避アシスト制御,自動車技術会 秋季大会学術講演会前刷集,No.138-11, pp.11-14(2011). 3) 金子哲也,杉山 哲,栗谷川幸代:車両周辺環境の変化に対 応した危険感ポテンシャルと車両運動性能を考慮した自律走 行のための制御目標生成,自動車技術会論文集 Vol.44, No.2, pp.759-764(2013). 4) Borowsky, A., Oron-Gilad, T. and Parmet, Y. : The Role of Driving Experience in Hazard Perception and Categorization: A Traffic-Scene Paradigm, World Academy of Science, Engineering and Technology, No.66, pp.305-309(2010). (2016 年 1 月 29 日受付). 最適化問題に帰着することで運動計画および運動制 御系の設計手法とそのシミュレーション結果につい て紹介した.ドライバー入力に対して機械側の制御 量との調整を行える構成とすることで,いわゆる「シ ェアード・コントロール(Shared Control)による ドライバー主権の制御システム」を実現することが 本プロジェクトの目指す運転支援の姿である.. ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク [email protected] 2005 年東京農工大学大学院博士(工学)学位取得,2004 年より 東京農工大学特任助手,2005 年より同大助手,2006 年より同特任 助教授(テニュアトラック),2011 年より同准教授(テニュア),現 在に至る.研究内容は自動車の運動力学と制御,予防安全と運転支援, 自動運転,ドライバーモデル,ヒューマンインタフェース等.自動 車技術会,日本機械学会,計測自動制御学会の正会員.. 情報処理 Vol.57 No.5 May 2016. 455.

(6)

図 -6 駐車車両の陰 から飛び出し てきた歩行者
図 -10 駐車車両回避時の目標運動の計算結果

参照

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