子宮頸がんと子宮体がん
藤田保健衛生大学産婦人科 准教授 長谷川 清志 子宮がんは子宮の頸部(子宮の入り口部分)に発生する子宮頸がんと子宮の 体部(子宮の上の部分)に発生する子宮体がんに分けられますが、この二つは 発生年齢、原因や発生する仕組みから治療方法にいたるまで全く違うものです。 子宮頸がんとは? 子宮頸がんは20 代から 30 代の若い女性に患者が急増しており、30 代にピー クを示します。2001 年の日本の統計では上皮内がん(初期がん)は 7,260 人、 浸潤がん(進行がん)は8,105 人が罹患し、約 2,500 人が亡くなっています。世 界では毎年 50 万人の女性が進行がんにかかり、約 27 万人がなくなっており、 約8 割が発展途上国に集中しています。 子宮頸がんはがんの発生する仕組みがかなり解明されています。子宮頸がん の99%以上にヒトパピローマウイルス (Human Papilloma Virus: HPV)が検出され、 このウイルスががん発生に関係しています。HPV は 100 種類以上のタイプがあ りますが、特に発がんと関連が強いものはハイリスク型と言われています。そ の中の一つのHPV16 型の遺伝子は、1983 年にドイツ人研究者のツアハウゼン博 士により発見され、2008 年のノーベル生理学医学賞を受賞したことは記憶に新 しいところです。 HPV 感染は性交渉を介しておこるありふれた感染で、性交渉のある女性の約 8 割が感染しますが、その大多数が一過性感染で、自らの免疫力で自然に治癒し ます。 しかしながら、少数の女性ではHPV が持続感染し 5 年から 10 年かけて前が ん状態の異形成から上皮内がん、さらに浸潤がんへと進行します。もちろん異 形成から正常に戻ることも多く経験されます。 このように子宮頸がん発生の自然史が解明されつつある中で、ハイリスク型 HPV の感染を予防し、子宮頸がんの発生を抑えることを目的とした予防ワクチ ンが開発され、現在世界 100 ヶ国以上ですでに承認されており、多くの国で公 費補助による接種が行われています。しかしながら、日本ではHPV 予防ワクチンは承認待ちの状態であり、行政の 早急な対応が望まれています。 HPV 予防ワクチンは一次予防、子宮頸がん検診は二次予防とされています。 昨今、細胞診とHPV 検査の併用により検診精度が向上し、アメリカやイギリス では子宮頸がんの発生率と死亡率の低下が示されています。アメリカやイギリ スの子宮頸がん検診受診率は 80%以上であるのに対して、日本女性の受診率は 20%台にすぎず、HPV 検査も保険適応とされていないため検査費用は自己負担 とされています。検診受診率の低下に伴い子宮頸がん発生数が徐々に増加して いるのは先進諸国では日本のみのようです。日本は子宮頸がんに対する一次予 防も二次予防も立ち遅れているのが現状です。 このように予防システム(防衛手段)が手薄な日本では、国民への正確な知 識・情報の伝達による意識改革とより一層の啓蒙活動が必要と思われます。 子宮頸がんは、これからは「治療するがん」から「予防するがん」へ変換し なければならないがんの一つと言えます。 子宮体がんとは? 一方、子宮体がんは 50 代から 60 代の中高年から高年者に多いがんですが、 一方では40 歳未満の若い女性にも増加しています。食生活の欧米化やライフス タイルの変化(晩婚化・少子化)に伴い、子宮体がん発生数は年々増加傾向に あり、日本の統計では2004 年の罹患数は 4,182 例とされています。体がん発生 の危険因子としては、肥満・未産婦・遅い閉経(52 歳以降)・糖尿病などがあり ます。肥満や糖尿病などが危険因子とされる理由として動物性脂肪摂取量の増 加が関連しているとの指摘があり、生活習慣病が背景にあることも多いようで す。 子宮体がんには二つのタイプがあります。一つは、女性ホルモンの一つであ るエストロゲンに依存して発生するタイプで全体の約 9 割を占め、エストロゲ ン過剰刺激により子宮内膜増殖症から子宮体がんが発生します。 多くは若い女性に発生し、比較的がんの性格のおとなしい治りやすいタイプで す。もう一つは、エストロゲンに依存せずに発生するタイプで全体の約 1 割と 少ないものの、高齢者に多く、がんの性格も悪いうえに治療にも抵抗性のこと が多いタイプです。 いずれの場合も初期症状は不正出血が多く、約 9 割の患者さんに認められま す。若い女性では、時にこの不正出血が排卵障害やホルモンバランス異常のた
めの月経不順と誤解されて発見が遅れることもあるため注意が必要です。 また、乳がんに罹患し、治療薬として有効なタモキシフェンを服用した場合 には、体がんの発症リスクが1.2 ~ 1.7 倍とされているため、乳腺外科と婦人科 が連携して検診を行うことが望まれます。さらに、子宮体がんの一部には、遺 伝が関与していることが解明されてきました。常染色体優生遺伝形式をとる「遺 伝性非ポリポーシス大腸がん」の家系内に高率に子宮体がんの発症が認められ、 泌尿器がん・小腸がんや乳がん・胃がん・卵巣がんなどの発がんリスクも高い ことが判明しています。 この遺伝性子宮体がんの日本における頻度は、子宮体がん全体の 1.38% であ ることが私どもの研究で判明しています。頻度としては少ないですが、家系内、 特に両親・兄弟・姉妹や子にがんの発症が多い場合には、詳しい家族歴を調べ たうえでかかりつけ医に相談することをお勧めします。このように本人のみな らず家族構成員に対しても定期的な検診を消化器内科や消化器外科、泌尿器科、 乳腺外科との連携で行うこともがん予防(一次予防、二次予防)の点から大切 です。