• 検索結果がありません。

家族の立場から見えた思春期・青年期の自殺既遂者の行動変化について ―自死遺族手記の検討―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "家族の立場から見えた思春期・青年期の自殺既遂者の行動変化について ―自死遺族手記の検討―"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

の行動変化について ―自死遺族手記の検討―

著者

塚越 友子, 加藤 道代

雑誌名

東北大学大学院教育学研究科研究年報

68

2

ページ

175-195

発行年

2020-06-30

URL

http://hdl.handle.net/10097/00128387

(2)

 我が国では,10代の自殺者数が3年連続で増加している。若年層の自殺予防には周囲の大人であ る家族が若年層の精神的不調に気づき,適切に支援する必要がある。本研究では,10代の子どもが 自死へのプロセスにあるとき,親は,子どもの姿をどう見て,子どもの様子をどう評価し,どう感じ ていたのか7名の自死遺族の手記から,親が実際に気づく SOS の言動や気づきにくい言動を分析し た。その結果,3つの大カテゴリー【気になった子どもの言動】【親なりの言動理解】【後悔】と14の 小カテゴリーに分類された。親は子どもの精神的不調の危険度を認識することが難しく,子どもか ら苦悩を告げられてもその対応に苦慮していることが明らかになった。今後は親へのメンタルヘル スリテラシー教育が必要であろう。 キーワード:若年層の自殺予防,親の気づき,自死遺族,メンタルヘルスリテラシー,ゲートキーパー

問題と目的

 我が国の自殺をめぐる状況は, 令和元年度中における自殺の状況における調査(厚労省・警察庁, 2020)によると,全体の自殺死亡者数は10年連続で減少しているにもかかわらず,10代の自殺死亡 者数は3年連続で増加し,前年比60人(10.0%)増で過去最多の659人となった。さらに,若年層の 自殺関連行動のピークは15歳(渡辺ら,2015)との報告もある。令和元年自殺対策白書(厚労省, 2019)では,若年層の自殺をめぐる状況が深刻になっていることから,ひとりひとりが身近な人の様 子に気づき支えていくことが不可欠とし,子ども・若者の自殺対策を更に推進していくことを新た に自殺対策総合対策要綱に盛り込むとした。このように若年層の自殺予防対策は喫緊の課題である。  自殺予防対策のためには,そのリスク要因・保護要因を明らかにすることが重要である。従来より, 精神医学の領域では,自死者個々に複雑な背景要因を解き明かすために,自殺既遂者の生前の心理 的問題について遺族などに面接調査を行う「心理学的剖検」(Shneidman, 1993)が行われてきた。ま た,自死者を知る者から情報が得られない時には,自死者の伝記などを通して自殺と関連する要因 を客観的に確かめると同時に可能な限り個人の内面に入って共感的に理解する「人生史解剖」とい う方法(布施,1991)がとられてきた。

家族の立場から見えた思春期・青年期の

自殺既遂者の行動変化について

―自死遺族手記の検討―

塚 越 友 子

* 

加 藤 道 代

**  *教育学研究科 博士課程後期 **教育学研究科 教授

(3)

 その結果,自殺にはプロセスがあり,自殺の兆候があることが示された(厚労省,2010)。近年の 自殺予防対策では,周囲が自殺のサインに気づくことが予防にとって不可欠であると強調されてい る(高橋,2001;2008)。一方で,自殺念慮の高まりと援助要請意図の低さとの関連の指摘(末木, 2011)や,自殺の意図は隠される傾向(松本,2015)にあること,適応の良い生徒の中にも自殺リスク の高い生徒がいる(Delisle, 1986)との報告もあり,自殺の兆候は隠されてしまう場合もある。その 一方で,自殺の危険の高い人が援助要請をする相手は家族,友人など非専門家であり,若年層では その傾向が顕著である(Wilson, 2002)とも報告されており,周りの大人たとえば家族がその精神不 調に気づき,適切に援助する必要がある(Pisani et al, 2012)ことも明らかになっている。 1. 自殺のサイン・サインに気づくこととは  自殺のサインについて,専門家で共有されている具体的な兆候を Table.1にて示す。一方で非専 門家によるサポート者の養成としてゲートキーパーがある。ゲートキーパーは自殺の危険を示すサ インに気づき,適切な対応(悩んでいる人に気づき,声をかけ,話を聞いて,必要な支援につなげ, 見守る)をとれる人のことで,言わば「命の門番」とも位置付けられる人のこと(厚労省, 2013)とさ れている。厚労省によるゲートキーパー養成講座テキストでは,個別の自殺のサイン(Table.2)に 先立って,自殺の危険性を示すサインとして,「いつもと違う」「普段と何か様子が違う」をあげてい る。まずはこの「いつもと違う様子」に気づき,個別の兆候と照らし合わせ,関わるべき対象として 認識することが支援の出発点となるとされている。つまり,家族のゲートキーパーとしての役割は, 支援につなげるまでのプロセスであり,これは家族が本人に変わって援助要請を専門家に行うこと だといえる。木村ら(2014)によると,人が精神的問題をかかえた際に専門家あるいは身近な人に援 助を要請する時には,4回の意思決定をおこなうという。1回目は,自分の状態がいつもと違う状態 だとわかるかどうかであり,問題を認識することである。2回目は,対処が必要かどうかを判断する。 3回目は,対処が必要な場合,自分で対処するのか誰かに相談するのかを決定する。4回目は,誰か に相談すると決めた際に,専門家に相談するのか家族や友人など身近な人に相談するのかを決定す る。そして行動に移してはじめて援助要請が成立する。つまり家族がゲートキーパーとなる際にも このプロセスを経て,適切な支援につなぐことができる。このように家族が自殺予防としていつも と違う様子に “ 気づく ” ということは,単にいつもと違うようすを認識できればよいという意味で はないと考えられる。  近年,専門家への援助要請に関する分野において,援助要請に至るまでに発生する様々な要素(例 えば,深刻度の評価,スティグマなど)を新たな枠組みで捉え直したメンタルヘルスリテラシー (Mental Health Literacy:以下 MHL)という概念がある。MHL とは,精神障害の認識,管理,予防 を援助する知識と信念と定義され,援助要請行動に影響を与え,次の6つの要素で構成される。す なわち,①特定の疾患や心理的苦痛を同定する能力②危険因子や原因に関する知識と信念③セルフ ヘルプに関する知識と信念④有益な専門支援に関する知識と信念⑤認識や適切な援助要請を促進す る態度(スティグマ)⑥メンタルヘルスに関する情報の入手方法の知識である(Jorm, 2000)。総合

(4)

すると家族が気づくとは,自殺行動につながる危険な言動について知っており,その行動を知覚で きることと,それを支援につなげる必要があるほど深刻であると評価することまでを指すと考えら れる。  次に,家族が自殺のサインにどの程度気づいていたのかについての調査を概観する。自殺実態白 書(NPO 法人ライフリンク,2013)によると,「自殺のサインがあったと思うか」との問いに「あった と思う」と答えた遺族は58%。「それが発せられた時点でそれを自殺のサインだと思った」には,遺 族の10%が「思った」と回答している。他にも,自殺未遂患者の33%が「家族の対応が早ければ自殺 を予防できた」と回答したとする調査(黒木,2005)や家族の多くは自殺企図の予兆に気づいていな かったという調査もある(Owens et, al, 2011;黒木2005)。また,自死遺族への自殺動機へのインタ ビュー調査では,「でもそれ(が自殺のサインだということ)は,後で分かることだから。自殺した から(わかること)」と遺族は心情を明かしている(藤原,2009)。このように実際には,家族が自殺 のサインだと危険性を評価し,サインを発している子どもを支援の対象だと認識するまでの気づき とは,かなり難しいことがうかがえる。

(5)

2. 心理学的剖検以外の家族への調査  心理学の領域には,自死遺族の悲嘆や自死遺族支援について主に質的な研究を行う自死遺族研究 (末木,2010)という分野がある。しかし自死遺族には家族を亡くしたことによる悲嘆や苦しみだけ でなく,二次被害といって自死ゆえに遺族が受ける他の死因とは違った精神的・心理的・社会的被 害をもうける(岡本,2017)ため,援助希求すら示しにくい(山口・根岸・藤原,2008;川野,2011)こ とが知られている。さらに末木(2017)は,自殺は予防できるというメタメッセージが自死遺族の自 責感を掻き立てるがゆえに,研究者との間に距離をとってしまい研究が進展しないと指摘をしてい る。このことは,自死遺族へのインタビューが遺族への二次被害となる可能性を示しており,侵襲 性が高くかつ倫理的にも難しいという現状がある。  一方で,そもそも自死遺族は,自死について語りにくいという現状もある。有末(2013)によると, 遺族は生きている人への配慮,死者の尊厳を守る,自責自罰の思いから無限の悔恨の思いにとらわ れ語りにくい状況にいるという。さらに坂口(2010)によれば,「子どもの死は,死別体験の中でも 特に衝撃の大きい体験の一つであり,残された親の悲嘆は深く」語ることが難しいと指摘している。  以上のような理由から,親からみて自死者の子どもがどのような言動の変化や SOS を発信して おり,親はどのように対応していたのかという親の気づきのプロセスについての資料が少ないとみ られる。しかし,家族がゲートキーパーとして機能するためには,心理学的剖検でえられた兆候の うち,親が実際にいつもと違い何かおかしいと観察することが可能な言動は何か,いつもと違い何 かおかしいと観察することが難しい兆候としてどんな言動があるのか,親がいつもと違い何かおか しいと思いつつ,その先のプロセスへと進みづらくなる要因は何か,あるいはいつもと違い何かお かしいと気づけない要因は何かなどについて,侵襲性の低い方法で明らかにする必要があるだろう。 Table.2 ゲートキーパー向け自殺サイン

(6)

3. 遺族が自死を語ることと遺族から見えていた故人の姿  平山(2004)によると,自死遺族が体験する自死の受容には4段階がある。第1段階ショックの段階, 第2段階怒りの段階,第3段階抑うつの段階,第4段階立ち直りの段階である。ショックの段階では, 故人の死を実感できず,ショックが大きく,日常生活をまともに送れない。怒りの段階では,ショッ ク状態を脱し,ほんの少しだけ故人を振り返り,後悔や自責の念が浮かび,なくなった人が何を思っ て何を感じていたのか,なぜ自殺したのかを探索しようとする。抑うつの段階では,故人はもう戻 らないことを認識して,絶望感に打ちひしがれる。立ち直りの段階では,少し整理がつくようになり, 新しい人生にゆっくりと踏み出し始める。このように,自死遺族の体験する死の受容体験において は,第2段階怒りの段階において,故人が何を思っていたかの振り返りが多くなることがわかる。  一方で,末木(2010)による国内の自死遺族研究のレビューによると,研究は大きく自死遺族の悲 嘆に関する研究と自死遺族支援者に関する研究に分けられ,悲嘆に関する研究は,インタビュー調 査によって自死遺族の心的特徴をカテゴリー化したものが主であると示されている。共通した特徴 としては,故人への怒り,罪悪・自責感,遺族会などで自殺について語ることが遺族にとって有意義 な経験であった。自死遺族のグリーフワークを促進させた要因についての研究(柏葉・藤井,2017) では,「心の拠り所」となる場所で,「経験の表出」をすることや自死を無駄にしないために講演で語 るような「経験の社会化」も挙げられている。このように,自死遺族へのインタビューにもとづく研 究では,自死遺族自身の悲嘆にともなう心的な経験の全体的な変化が中心となっており,故人が何 を思って何を感じていたのか,なぜ自殺したのかを探索しようとするなど,遺族による故人の内面 への探索過程に焦点化したものはみあたらない。  またオーラル・ヒストリー研究における語りと沈黙についての有末(2013)の論考によると,自死 遺族の語りには「語りえること」「語りにくいこと」「語りえないこと」という異なる次元が存在する という。「語りにくいこと」はなかなか「語れないこと」であり,すぐに語り出されることでもなく, 調査者―被調査者の機微によっても左右されるものである。「語りにくいこと」が,故人の名誉や生 きている者への配慮や語らせない空気などから語りにブレーキがかかるものであるのに対し,「語 りえないこと」とは,沈黙でしか対応できない,到底語ることができないレベルのものだとされてい る。語りの次元で考えても「なぜ気づいていたにも関わらず救えなかったのか」という故人の生前 のようすや自死の原因については,インタビュー調査において遺族への2次被害につながることも あり,より一層「語りにくいこと」となることが想像される。その一方で,語りにくいことが語られ ようとする場所としては,自死遺族会内の分かち合いの会などがあること(有末,2013)や「心の拠 り所」となる場所で,「経験の表出」をすること(柏葉・藤井,2017)が指摘されている。自死遺族の 会では,この経験の表出の一貫として手記を書くことが行われ,これらは書籍として広く公開され ているものもある。また,笹崎(2007)によると,自死遺族の心理的側面の共通点は,「なぜ死んだ のかという問い」「自責感と自死阻止可能性」「故人への怒り」「死への意志性の否定」「死を無駄にし たくない」の5つであり,遺族が自死を自分と亡くなった相手との中だけで考える傾向があると結論 づけている。つまり,自死遺族自らが,自らのために悲嘆のプロセスを表出した手記を使用するこ

(7)

とで,遺族に対する2次被害を含めた侵襲性の問題を防ぎ,さらに調査者―被調査者の関係性の影 響を取り除き,遺族と亡くなった子どもとの間での起きたことについての記述を集めることができ るのではないかと考えられる。

目的

 以上のことから,本研究の目的は,自死遺族の手記から,子どもが自死へのプロセスにあるとき, 親には子どもの姿がどのように見えていたのか,子どもようすをどう評価し,どう感じていたのか を明らかにし,親が実際に気づける SOS の言動,気づくことが難しい言動について示唆を得ること である。

方法

1. 対象  10代の子どもを自死によって亡くした自死遺族が執筆した手記かつ書籍として販売されている ものとした。書籍の収集は,国立国会図書館資料検索にて,キーワードを「自死遺族」,検索条件と して,資料種別を本,発行年を2000年〜 2019年として検索をかけ,結果68件が抽出された。なお,キー ワードに「手記」を含めると検索結果が0件になったため,キーワードは「自死遺族」のみとした。68 件のうち詩集,講演会資料,遺族ケアについてをのぞき,子どもの自死へのプロセスがエピソード として記述されている11冊のうち10代の子どもの遺族の手記が掲載されている6冊を分析対象と した(Table.3)。また,その書籍の中から,研究の対象となる自死時19歳までの子ども(内訳7名(15 歳2名,17歳2名,19歳3名。男子4名,女子3名)を亡くした親が,自殺前の言動に関して振り返っ た部分のみを抽出した。 2. 分析方法  手記の中から特に,子どもが自死へのプロセスにあるとき,両親には子どもの姿がどのように見 えていたのか,子どもようすをどう評価し,どう感じていたのかについての記述をピックアップし, 内容分析を行い分類を行った。 Table.3 分析資料

(8)

結果

 手記の分析の結果,3つの大カテゴリーの中に14の小カテゴリーが分類された(Table.4)。以下 大カテゴリーは【 】を,小カテゴリーは< >を用いて表す。 1. カテゴリー 1【気になった子どもの言動】  このカテゴリーは,【気になった子どもの言動】であり,手記の中で生前の子どもの自殺と関連があ りそうな言動だと思い親が記述をしているカテゴリーである。小カテゴリーは,<苦しいようす><心 情の吐露><心情の吐露をめぐる親子のすれ違い><いつもと違うようす><家族を気遣う行動>< 好ましい性格>の6つに分類された(Table.5)。小カテゴリー 6つの記述のうち,子どもの言動につい て明確に時期の記述があったものは,3名でそれぞれ1 ヶ月前,3ヶ月前,2週間前から直前までであった。  <苦しいようす>は,親として子どもが学業・友人関係など何かに苦しんでいるようすを気づい ていたという記述であった。具体的には,「受験が思うようにいかず,悩んでいるのは知っていたし, 苦しんでいるのも気づいてはいた」「うつの症状の悪化には気づいていたのですが」といった記述で ある。<心情の吐露>は,子どもが抱えている苦しさや死にたい気持ちを親や親族に告白したエピ ソードの記述グループであった。具体的には「本当のぼくはきっとだれにもわかってもらえないと いうことを言い始めたのもこの頃だった」「今,死にたい。これ以上何をやっても無駄。もういまま で精一杯やった」といった記述である。<心情の吐露をめぐる親子のすれ違い>は,子どもが抱え ている苦しさや死にたい気持ちの告白をした際に,親が子どもの気持ちを否定したり,安易に励ま したりし,子どもが親は無理解であることを表現したり,伝えることを諦めるエピソードの記述で ある。具体的には「(自殺3 ヶ月前)息子は私だけに,『絶対誰にも言わないで。こんな僕,これから の将来やっていけないに決まっている』と言い出しました。『これからいろいろ学んでいくから大丈 夫よ』とありきたりの言葉で励ましました」といった記述である。<いつもと違う行動>は,普段の 子どもの性格や興味の対象とは異なる行動についての記述グループであった。具体的には,「なく なる一ヶ月前からそれまで興味のなかったパソコンの前に夜遅くまで座っているようになった」と いった記述である。<家族を気遣う行動>は,親や兄弟を気遣っているような行動や言動で,親に とって好ましく,子どもの状態が良好もしくは問題が解決したと捉えられるような行動に関する記 述であった。具体的には,「それからの息子は明るく振舞い,家の手伝いもよくやってくれました。 食欲も大変旺盛でした。私の買い物にもよくつきあってくれました」といった記述である。<好ま しい性格>は,中学生になってからも望ましい性格や言動が目立っていたという記述グループであ Table.4 最終的に作成された大カテゴリー・小カテゴリー

(9)

る。具体的には「むしろ際立っていたのは,どんなことがあっても,決して他人に向かって何かを することがなかったことだ」といった記述である。 2. カテゴリー 2【親なりの言動理解】  このカテゴリーは,【親なりの言動理解】であり,親自身が【気になった子どもの言動】について当 時どのように理解していたかのカテゴリーである。小カテゴリーは<思春期特有の心理><思って もみない><死を否定したい><専門家のアドバイス>の4つに分類された(Table.6)。<思春期 特有の心理>は,今となっては自殺と関連があったと思っている言動が,当時は思春期にはよくあ る荒れや落ち込みや親としゃべらない傾向だととらえ見守っていたと自身の子ども理解を説明する 記述であった。具体的には「親離れの少年に特有のことと思っていた」「どこの家庭にでもあるよう な,父親に対する反発や不満」といった記述である。<思ってもみない>は,子どもの行動がまさか 自死につながるとは思ってもみなかったという自身の子ども理解を説明する記述であった。具体的 には,「死ぬほど思い詰めるものを抱えているとは,正直考えてもみなかった」といった記述である。 <死を否定したい>は,自死の可能性を否定したい気持ちから子どもの発言をなかったことや,見 てみぬふりをしてしまう心情であったと自身の子ども理解を説明する記述であった。<専門家のア ドバイス>は,医師やカウンセラーなど専門家のアドバイス通りに見守っていたという自身の行動 を説明する記述であった。具体的には,「お医者さまにも診ていただきましたが,『生き方を模索し ているときなので,見守るしかない』という診断だったのです」といった記述である。 3. カテゴリー 3【後悔】  このカテゴリーは,【後悔】であり,【気になった子どもの言動】以外の子どもの自死にともなう後 悔全般に関する記述である。小カテゴリーは<余裕のなさ><親役割のはたせなさ><子どもへの 向き合い不足><うつ病の知識のなさ>の4つに分類された(Table.7)。<余裕のなさ>は,親自身 が仕事や他家族との関係で余裕がなく死なせてしまったという後悔に関する記述であった。具体的 には「自分のことに精一杯で,子どもたちの思いにたって考える余裕がなかった」といった記述であ る。<親役割のはたせなさ>は,親として子どもの興味関心,特性へ注意を向けられなかったこと や子どもを相談相手にしてしまったことなど,親としてやるべきことができなかったという後悔に 関する記述であった。具体的には,「次男は人の悲しみ苦しさにも敏感で,母のつらさを訴えるぐち にも耳を傾けてくれた」といった記述である。<子どもへの向き合い不足>は,子どもの気持ちへの 思いいたらなさ,自身がとった対応の子どもへの影響への思いいたらなさなど,子どもの立場にたっ て考えられなかったことへの後悔に関する記述である。具体的には,「甘い見通ししか持たない,そ れが長男を追い詰めることになっていたとは少しも気づけない」といった記述である。<うつ病の 知識のなさ>は,うつ病の知識があれば下手な対応を取らなかっただろうし,うまく対応できてい たかもしれないという後悔に関する記述である。具体的には,「今思えば,長男はうつ病だったのか もしれません。当時私はうつ病についての専門知識はなにもない状態でした」といった記述である。

(10)

Table.5 親が気になった子どもの言動に関する小カテゴリーの作成結果

(11)
(12)

考察

 本研究の目的は,自死遺族の振り返りの語りの中から,子どもが自死へのプロセスにあるとき, 親には子どもの姿がどのように見えていたのか,子どものようすをどう評価し,どう感じていたの かについての記述から,親が実際に気づける SOS の言動・気づくことが難しい SOS の言動につい て示唆を得ることであった。以下,カテゴリーごとに考察を行った後,全体考察を行う。 1. カテゴリー 1【気になった子どもの言動】  【気になった子どもの言動】では,親が自殺と関連するだろうと考えている子どもの言動が抽出さ れた。小カテゴリーは,<苦しいようす><心情の吐露><心情の吐露をめぐる親子のすれ違い> <いつもと違うようす><家族を気遣う行動><好ましい性格>の6つであった。いずれも,自殺 のサイン(Table.1・2),末木(2011),松本(2015)で指摘されていた言動であり,自殺のサインとな る言動・隠される傾向は先行研究と一致した。  手記の分析により明らかになったことは,小カテゴリーのうち<苦しいようす><心情の吐露> <いつもと違うようす>の3カテゴリーでは,子どもが学業や友だち関係における苦しさや死にた い気持ちを親に見せているまたは直接的に吐露している様子が見られたことである。「本当のボク はきっとだれにもわかってもらえない」「受験が思うように行かず」「『死んだ』というメールを送る」 「絶対誰にも言わないで。こんなボク,これからの将来,やっていけないに決まっている」「今,死に たい。これ以上何をやっても無駄。もういままで精一杯やった」「いじめられている」という告白が, 親に対して表明されていた。以上のことから,親による気づきのプロセスでは,危険性の評価能力, 親に必要な MHL では①特定の疾患や心理的苦痛を同定する能力②危険因子や原因に関する知識と 信念が重要だと考えられる。  一方で,<いつもと違うようす>の具体例をみると,「それまで使用しなかったパソコンを使用 するようになった」という子どもの行動は,そこに支援の必要性や危険性を見出すことは,とても難 しいと思われた。ただし,近年ではインターネットを通じて自殺願望のある者が知り合うことによ り自殺企図が起きる事件もおきており,パソコン・インターネットなど電子通信機器の使用頻度の 変化もいつもと違う行動として,注目する必要があるのではないかと考えられる。MHL では⑥メ ンタルヘルスに関する情報の入手方法の知識が変化の速い現代にはあらためて必要であると考えら れる。  <心情の吐露をめぐる親子のすれ違い>は,子どもが苦しい気持ちを吐露している際の実際の親 子の相互作用についての記述である。「(自殺3 ヶ月前)息子は私だけに,『絶対誰にも言わないで。 こんな僕,これからの将来やっていけないに決まっている』と言い出しました。『これからいろいろ 学んでいくから大丈夫よ』とありきたりの言葉で励ましました」,「私はうろたえて泣きました。「あ なたが死んだら,ママ,生きていけない」そんな私を前に,息子は口をつぐんでしまいました。その 話はその時だけで終わりました。」,「学校についたとき私は『大丈夫,みーちゃん悪いわけじゃない から』と。すると娘は,わかるわけないよと大きな声で言いながら車のドアを締め」など親が子の苦

(13)

痛を受け止めきれていない相互作用が記述されている。ゲートキーパーとしては不適切な対応とさ れている「安易な励まし」や「泣き崩れる」(厚労省,2013)と一致する相互作用である。保護者の MHL について実態調査を行った吉岡(2014)の報告よると,うつ事例にあるような子どもを助ける ときに,40%以上の保護者は「まったく自信がもてない」と回答し,どんな対応が助けになると思う かとの問いには,死にたい気持ちがあるか尋ねるような踏み込んだ対応について助けになると回答 した保護者は10%以下であった。自殺ハイリスク者に対して適切に支援できないのではないかと いう不安がハイリスク者支援の障壁になる(Valente et al., 2004)との指摘もある。以上のことから, MHL の6つの構成要素のうち,②危険因子や原因についての知識や信念③自分で行える対処法に ついての知識と信念の2つの要素が不十分であるといえる。また,一度心のうちを打ち明けて,親 がうまく対応できなかった場合に,その後,子どもは苦しさを隠すことも明らかになった。家族は 子どもの支援者であるが,同時に問題に対処する当事者でもある(厚労省,2008)。この2重の役割が, 家族による子どもの支援を難しくしていると考えられる。以上のことから,家族がゲートキーパー になるためには,思春期の親子関係を考慮したうえで,思春期親子特有の危機介入スキルの開発が 課題として挙げられるだろう。  <家族を気遣う行動><好ましい性格>の2カテゴリーは,自殺につながるような兆候は思い返 しても見当たらないという記述であった。自殺念慮の高まりと援助要請意図の低さとの関連の指摘 (末木,2011)や,自殺の意図は隠される傾向(松本,2015)にあるという先行研究通りに,意図を隠 していた子どもたちの様子が窺える。自殺の意図だけでなく,子どもは自分の悩みが親にわかって もらえないのではないかと感じ,親に相談しない子ども(塚越,2019)がおり,中学生・高校生を対 象にした全国的な実態調査(石隈・小野瀬,1997)では,悩みを抱えながら誰にも言えない生徒が 38%存在したことが報告されている。さらに,Delisle(1986)の報告にあるように,一見問題のな い子は自殺リスクが高いことがわかっている。一方で,自殺念慮のような深刻な悩みを持つ生徒で あっても,多様なソーシャル・サポートがあるならば援助要請意図が高いこと,実際の援助要請行 動に至るには援助してくれる大人の存在を感じられるかが関わっていることが指摘されている (Pisani et al, 2012)。以上のことから,日頃から,親子で危機が訪れたときに相談できる関係性を作っ ておくことや,援助希求についての肯定的な態度を醸成しておくことも必要なのではないかと考え られる。  【気になった子どもの言動】があった時期については,時期が明確に記された手記からすると,自 死が起きる3 ヶ月前〜 2週間前の出来事であった。長い期間の中でどのような変化があったのかに ついては今回の手記分析では収集することができなかった。自殺にはプロセスがあり,通常学生の 場合自殺企図までに平均3.3年を要する(ライフリンク,2013)といわれている。いじめが続いてい たという出来事レベルでの長期の経過についての記述は見られたが,長い期間の中でどのような子 どもの言動変化があったかという情報について得られなかったのは,自死遺族が心の整理のために 書いた手記であるという調査手法上の限界点だと考えられる。一方で,思春期の自殺関連行動に関 する調査では,不安や苦悩が一過性・反応性であっても自殺のリスクを高める(渡辺,2015)との報

(14)

告がある。自殺のサインは,一つ一つは非特異的でもいくつか集まれば特異的となる(高橋,2008) ことが指摘されており,日常を共有する家族にはこの点で直前の出来事が印象に残り,特異的なサ インとして語られると考えることができるだろう。 2 カテゴリー 2【親なりの言動理解】  【気になった子どもの言動】に分類された子どもの言動について,【親なりの言動理解】は,当時親 がどのような理解をしていたかの記述が抽出された。小カテゴリーは<思春期特有の心理><思っ てもみない><死を否定したい><専門家のアドバイス>の4つであった。【親なりの言動理解】で は,気づきの中でも親にとって危険性の評価が難しいことが明らかになった。  <思春期特有の心理><思ってもみない>の2カテゴリーは,「親離れの少年に特有のことと思っ ていた」「親としてはインターネットが死の引き金になるとは思ってもみなかった」「死ぬほど思い つめたものを抱えているとは,正直考えてもみなかった」というもので,子どもの言動が自殺を伴う ほどの危険のあるものだとの評価に至らなかった様子が見て取れる。これらは,自殺のサインが発 せられた時点で自殺のサインだと思ったと回答している遺族が10%である(ライフリング,2013) 点からも相応の結果と言えるだろう。蔭山(2012)による家族が精神障害者をケアする過程につい ての研究では,「問題への気付き」「効果的に対処できず憔悴」「危機の訪れ」「診断もしくは疾患と 認識」「専門家やシステムへの不満」「否定的感情」「喪失・悲嘆」「スティグマによる困難」「不安定な 病状」「効果的な対処方法やシステムの活用」「病状の安定・慢性化」「現実的な希望」の12段階が存 在した。家族は問題に気づくが事態を理解できない「問題への気付き」を体験し,家族に対処できな い「効果的に対処できず憔悴」を経て,「診断もしくは疾患として認識」となるとされている。精神 障害の原因とリスク要因に関する一般的信念について日豪で比較調査を行った研究(Nakane, et al, 2005)では,日本人のうつ病やうつ病と希死念慮の事例についての正答率は女性・若者・老人におい て20%台であった。このように,問題に気づくが理解できないプロセスが存在することは,MHL で考えれば,①特定の疾患や心理的苦痛を同定する能力であり,自殺に関する知識を持つだけでな く,自殺のサインだとラベルをつけ,危険性を認識することに知識を活用できることの難しさを示 していると考えられる。また,20代から70代の一般市民に対して死や自殺への態度を問うたアンケー ト結果では,人々は自殺に関する情報を得ることはあるが,それを整理できない,片づけない,考え ない状況にあること,死・自殺から積極的に距離を置こうとすること,などが報告されている (荘 島ら,2010)。一般に自殺という現象は稀な現象であり,自殺の兆候が何かという知識を持っている ことも稀であり,さらに自殺の兆候だと認識することは難しいことは想像に固くない。さらに,人 には自分にとって好ましくない状況において,他者よりも自分の状況を楽観的に評価する認知バイ アスを持っている。大学生を対象に自分自身と友人で抑うつ症状を呈した場合において,自分の方 が友人よりも重症度や予後,援助要請の重要性を有意に楽観的に評価する傾向にある(Rothman, et al, 1996; Weinstein, 1980)ことが報告されている。つまり,親としては,まさかうちの子が自殺を考 えいているほど重症ではないと考えてしまうことが起きていると考えられる。このように一般に自

(15)

殺という現象は稀な現象であり,自殺の兆候が何かという知識を持っていることも稀であり,さら に自殺の兆候だと認識することは認知バイアスの問題もからみ,通常とても難しいことだという現 実が浮かび上がった。  <死を否定したい>は,「サインはありすぎるほどあったのに,必死に自分の危機を伝えていた のに,ありえないことにしてしまっていたのです。」「息子の抱えているような悩みを抱いて「死を 思った」こともあった。しかし,自分は死ななかった。生きてきた。「きっとあの子もきりぬけていく」 という確信めいたものをよりどころに,彼の内面にそれ以上ふれようとはしなかった」など文字通 り死の可能性を否定していた。死,自殺,精神障害にはスティグマがある。このスティグマによっ て問題の存在を認めることが自尊心への脅威となり,問題を認めることが難しくなる(Nadler, 1991)と言われており,死の可能性を認識することは難しいことであるのは当然だと考えられる。 <思春期特有の心理><思ってもみない>の2カテゴリーとともに,死や自殺についての自身の価 値観や反応を知り整理しておく体験や MHL として精神医学的な知識を身に着けておくことの必要 性を示しているだろう。  <専門家のアドバイス>は,「お医者さまにも診ていただきましたが,「生き方を模索していると きなので,見守るしかない」という診断だったのです。」という記述にみられるように,専門家の指示 のもと試行錯誤していたが,自死が起きてしまったという記述である。MHL のうち①特定の疾患 や心理的苦痛を同定する能力は,症状に関する知識だけでなく,診断や治療に必要な情報提供がな されないという意味で専門家とのコミュニケーションにも影響を及ぼす(jorm,2000)といわれて いる。治療段階での家族への患者ケアの心理教育や家族との協力体制が必要であること(高橋, 2007)は従来から指摘されているが,より具体的にはどんなことが必要なのかのさらなる調査が求 められるだろう。一方で,家族が精神障害者をケアする過程(蔭山,2012)では,診断がついて効果 的な対処方法やシステムを活用するまでには,試行錯誤がある。この事例はその試行錯誤の間に自 死が起きてしまった状況と考えられる。これは,どうしても防ぐことの難しい自死が存在するとい う事実でもあり,遺族の悲嘆を和らげ,二次被害を防ぐためにも,精神保健の専門家だけでなく,遺 族の支援者・行政サービス・コミュニティの人々に向けて,予防の努力とともに知らせるべき事実 であるだろう。 3. カテゴリー 3【後悔】  【後悔】は,【気になった子どもの言動】に関してというよりは,自死に関して全般的な親の後悔に ついての記述が抽出された。小カテゴリーは<余裕のなさ><親役割のはたせなさ><子どもへの 向き合い不足><うつ病の知識のなさ>の4つに分類された。笹崎(2007)で報告されていたように, 本研究も手記という資料の特性上,【自責感と自死阻止可能性】が子どもとの関係性の中での後悔の 記述となっていた。  3つの小カテゴリー<親役割のはたせなさ><子どもへの向き合い不足><うつ病の知識のなさ >は,しなかったこと・できなかったことに対しての後悔の念の記述であった。後悔は自分の選択

(16)

した行動と選択しなかった行動とを比較し,選択しなかった行動のほうがより良い結果が得られた と感じる場合に生じる,苦痛を伴った認知的感情と定義されている(Zeelenberg, et al 1998)。さら に後悔は,行ったことに対する「〜しなければよかった」という行為後悔と行わなかったことに対す る「〜すればよかった」という非行為後悔に分類され,人は最近のことを振り返る短期的視点では 行ったことをより強く後悔し,人生を振り返る長期的視点では行わなかったことをより強く後悔す る傾向がある(Gilovich et al, 1994)。塩崎ら(2010)の終末期患者の家族が治療の選択といういわば, 重大で一度しか選択できない文脈での意思決定における,遺族の後悔についての調査によると,遺 族は行わなかった後悔の方が思い出されやすかったという報告がある。行わなかった後悔について は,時間とともに現実の把握ができるようになり,今ならできるという自身が高まった状態で思い 返すため,「〜すればよかった」という行わなかった後悔が増えるというメカニズムも報告されてい る(Gilovich et al, 1995)。たとえば<子どもへの向き合い不足>には,「甘い見通ししか持たない, それが長男を追い詰めることになっていたとは気づけない」など,今なら子どもの気持ちや子ども に対して行った自分の言動についてもっとうまくやれると思っている記述があることと一致する。 <うつ病の知識のなさ>については,明らかに MHL の不十分さが自死に影響してしまったという 記述である。しなかった後悔という視点や各カテゴリーの内容から,家族の MHL の不十分さが気 づけなさに影響していることが明らかになったといえる。これは,自殺予防対策をすすめる上で, 基本的な周囲の支援力の醸成が望まれているということの証であり,反対に言えば子どもにとって 身近なセーフティーネットが構築されていないと考えることもでき,保護者への MHL 教育によっ て十分に解決の余地があるのではないかと考えられる。  <余裕のなさ>は,できなかったことというよりは,できなかった理由として「夫や姑との関係 性の悪化」「仕事が忙しい」「自分の苦悩で精一杯」「話を聞く余裕がなかった」という親自身の余裕 のなさについて自責をしている内容であった。思春期の子供の自殺の危険因子として家族の問題 (e.g. 渡辺,2015; 長岡,2008)が指摘されている。また,多くの先行研究では自殺の危険の高い小児 期や思春期の家族病理の影響を指摘している。(e.g. Sabbath, 1996; Richman, 1986; Pfeffer, 1986)。 一方で,保護要因として,家族がよく話を聞いてくれること(田中ら,2002)や家族の凝集性 (Rubenstein, et al, 1998)も指摘されている。高橋(2007)は,自殺の危険の高い人と家族全体の相互 関係は,常に念頭においておく必要がある視点であるとして,家族システムの影響を指摘している。 令和元年度自殺対策白書(厚労省,2019)において,小中学生の自殺の原因は家族問題が最多となっ ている最近の特徴を考えると,自殺予防として,日頃の親のメンタルヘルスに対する支援や,コミュ ニティ単位での親への支援環境を整えることも必要だと考えられる。 4. 総合考察  以上,カテゴリーごとに考察を行った。本研究の目的は,自死遺族の手記から,子どもが自死へ のプロセスにあるとき,両親には子どもの姿がどのように見えていたのか,子どもようすをどう評 価し,どう感じていたのかを明らかにし,家族が実際に気づける SOS の言動,気づくことの難しい

(17)

SOS の言動について示唆を得ることであった。以下に親の気づきについての総合考察を行う。  両親には子どもの姿がどう見え,子どもの様子をどう評価し,親自身はどう感じていたのかにつ いて,【気になった子どもの言動】【親なりの言動理解】を総合すると親の気づきと子どもの状態の 評価には次の6パターンがあることが明らかになった。まず,子どもが親へ苦しさを訴えており苦 しい状態にあることは気づいていたパターンと隠されていて気づけなかった2パターンに大別され た。気づいていたパターンは,思春期の子にはよくある兆候でたいしたことないだろうと評価する パターンと危険かもしれないと評価するパターンにさらに分かれる。ただし,気づいていたパター ンには,理論上,子どもは直接伝えないが親は気づいていたというパターンも存在するはずである が,本研究の分析では存在しなかった。危険かもしれないと評価したパターンは,対応できたと当 時は考えていたパターンと,うまく対応できず苦慮しているパターンと見てみぬふりをしたパター ンにわかれた。自死遺族の手記の分析という特性上,子どもとの相互作用の中でも自責につながる 記述が多いという点はあるにせよ,①子どもが苦悩を直接に訴えている状況では,いつもと違う様 子だと認識することができるが,危険性の評価が難しいことと②危険だと感じた際の対応がうまく できないことが明らかになったといえる。  以上のことから親がゲートキーパーとなるための今後の課題として,第1点目は MHL 教育を親 に提供し,子どものいつもと違う様子の危機について評価できるようにすることである。第2点目は, 子どもの危機に直面した親が子どもに適切に対応できるように,危機介入スキルの心理教育を行う ことである。家族は子どもにとって支援者でもあるが,同時に問題の対象者である可能性や親は支 援者でもあり,子どもの問題を抱えた当事者でもあるという複雑な関係性をはらんでいる。吉岡 (2014)の調査によると,子どもが自分で解決することが子どものためになると考えている保護者は うつ病事例で45%程度もいる。自殺ハイリスク者を支援する人たちのケア行動は,支援者の時自殺 に対する態度が影響する(Bagley et al, 1989; Samuelsson et al., 1997)との報告もある。思春期は自 立の時期とはいえど,心理的な不適応や精神障害などは周囲の支援が必要であり,保護者の助けが 必要であることを強調する必要があるだろう。そのため,通常の危機介入スキルではなく,思春期 の親子関係にみあった危機介入スキルを開発することが望まれる。

 多くの先行研究では自殺の危険の高い小児期や思春期の家族病理の影響を指摘していた(e.g. Sabbath, 1996; Richman, 1986; Pfeffer, 1986)ように,【後悔】からは,家族全体の相互作用の中での 子どもの苦しさにどう気づき,対応していけばいいのかという問題が明らかになった。従来より, 治療過程では,家族を抜きにした治療は治療の有効性も損ない,もたらす危険性も大きく,治療同 盟に家族を参加させることが重要視されている(高橋,1992)。家族がゲートキーパーとなるために は親に余裕がなければ難しく,予防の段階で親のケアが必要だと考えられる。子育て支援は乳幼児 の親を対象に行われているが,思春期の子どもとの親子関係も複雑であり,同時に思春期の子をも つ親は中年期であり親自身中年期の複雑さを抱えている。この点をふまえ,中年期の親に対するメ ンタルケアや子育て支援を研究し,浸透させていく社会システムを作ることが望まれる。  最後に本研究の限界点としては,自死遺族の会の中で気持ちを整理する体験として書かれた手記

(18)

を分析の対象としたことで,次の2点が考えられる。第1点目は,悲嘆のプロセスにおける後悔や自 責・罪悪感などの感情的な側面からの振り返りであり,当時本当に遺族に見えていたかはわからな い点である。第2点目は,自死遺族会において自殺についての心理教育・悲嘆のケアをうけて書か れているという点で後知恵バイアスが働きやすいこと,そのため手記では語られなかったが,他に も多くの子どもの言動が埋もれているかもしれないことがある。  今後は,親への MHL 教育や親のメンタルケアについての研究を重ね,より実践的で多角的な親 へのゲートキーパー教育プログラムが開発されることが期待される。 【引用文献】 有末 賢(2013).語りにくいこと : 自死遺族たちの声 日本オーラル・ヒストリー研究.9,36-46.

Bagley, C., & Ramsay, R. F. (1989). Attitudes toward suicide, religious values and suicidal behavior: Evidence from a community survey. In R. F. W. Diekstra, R. Maris, S. Platt, A. Schmidtke, & G. Sonneck (Eds.), Advances in suicidology, Vol. 1. Suicide and its prevention: The role of attitude and imitation (p.78-90). E J Brill.

Bertolote JM, Fleischmann A. (2002). Suicide and psychiatric diagnosis: a worldwide perspective. World Psychiatry

1, 181-185.

Delisle, J. R. (1986). Death with Honors: Suicide Among Gifted Adolescents Journal of Counseling & Development.

64(9), 0748-9633.

藤原 信行(2009).自死遺族による死者への自殺動機付与過程過程の「政治」――意味ある他者の死にたいする自殺 動機付与にたいする逡巡のなかで 生存学―生きて或るを学ぶ― 立命館大学生存学研究センター.1,55-69. 布施 豊正(1991).死の横顔――なぜ彼らは自殺したのか 誠信書房.

Gi1ovich, T., Medvec, V. H. (l994). Thetemporal pattern to the experience of regret. Journal of Personality and Social Psychology, 67, 857-365.

Gi1ovich, T., Medvec, V. H. (l995). Theex perience of regret: What, when, and why. Psycho1ogical Review, 102, 379- 395.

平山 正実(2004)自ら逝ったあなた,遺された私 家族の自死と向き合う 朝日新聞社

石隈 利紀・小野瀬 雅人(1997)スクールカウンセラーに求められる役割に関する学校心理学的研究:子ども・教師・ 保護者を対象としたニーズ調査の結果より 科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書

Jorm, A. F. (2000). Mental health literacy: Public knowledge and beliefs about mental disorders British Journal of Psychiatry. 177(5), 396-401. 蔭山 正子(2012)家族が精神障害者をケアする経験の過程 ―国内外の文献レビューに基づく共通段階― 日本看護 科学会誌 32(4),63-70 柏葉 英美・藤井 博英(2017).自死遺族のグリーフワークを促進させた要因 岩手県立大学社会福祉学部紀要.19(28), 1-11. 川野健治(2011) 自死遺族の精神保健的問題 精神神經學雜誌 日本精神神経学会.113(1),87-93. 木村 真人・梅垣 佑介・水野 治久(2014).学生相談機関に対する大学生の援助要請行動のプロセスとその関連要因  教育心理学研究.62(3),173-186, 厚労省・警察庁(2020).令和元年度中における自殺の状況

(19)

https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R02/R01_jisatuno_joukyou.pdf(2020年3月17) 厚生労働省(2019).自殺対策白書 https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/19/index.html(2020年2月1日) 厚 生 労 働 省(2013). ゲ ー ト キ ー パ ー 養 成 研 修 テ キ ス ト 第3版 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/ bunya/0000128774.html(2020年3月3日) 厚生労働省(2008).自殺に傾いた人を支えるために―相談担当者のための指針―自殺未遂者,自傷を繰り返す人,自 殺を考えている人に対する支援とケア 平成20年度厚生労働科学研究費補助こころの健康科学研究事業 自殺 未遂者および自殺者遺族等へのケアに関する研究. 厚生労働省こころの健康科学研究事業(2010).心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究: 平成21年度総括・分担研究報告書.国立精神・神経センター精神保健研究所. 黒木 宣夫(2005).自殺念慮者への危機介入 日本外来精神医療学会誌.4,6-10. 松本 俊彦(2015).自殺念慮のアセスメント 精神科治療学.30,325-332. 文科省(2009).「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」のマニュアル及びリーフレット https://www.mext. go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/046/gaiyou/1259186.htm(2020年3月3日)

Nadler, A. (1991). Help-seeking behavior: Psychological costs and instrumental benefits. In M. S. Clark (Ed.), Review of personality and social psychology, 12. Prosocial behavior. 290-311.

長岡利貞(2008).学校と自殺予防 自殺予防と危機介入.28(1),56-60

Nakane, Y., Jorm, A. F., Yoshioka, K., Christensen, H., Nakane, H., & Griffiths, K. M. (2005). Public beliefs about causes and risk factors for mental disorders: a comparison of Japan and Australia. BMC psychiatry, 5, 33. Published online.

NPO 法人ライフリンク(2013).自殺実態白書

  http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/whitepaper2013_1.pdf (2020年2月1日)

岡本 洋子(2017).自死遺族における二次被害とは何か:聞き取り調査による実態と背景 社会関係研究,熊本学園大 学社会関係学会.23(1),39-83.

Owens, C., Owen, G., Belam, J., Lloyd, K., Rapport, F., Donovan, J., & Lambert, H. (2011). Recognising and responding to suicidal crisis within family and social networks: qualitative study. BMJ (Clinical research ed.), 343. d5801. Pfeffer, C. R. (1986). The suicidal child. New York Guillford.(高橋祥友訳(1990)死に急ぐ子どもたち:小児の自殺の

臨床精神医学的研究 中央洋書出版部.)

Pisani, A. R., Schmeelk-Cone, K., Gunzler, D., Petrova, M., Goldston, D. B., Tu, X., & Wyman, P. A. (2012). Associations between suicidal high school students' help-seeking and their attitudes and perceptions of social environment. Journal of youth and adolescence, 41(10), 1312-1324.

Richman, J. (1986). Family Therapy for Suicidal People Springer Pub Co.(高橋祥友訳1993 自殺と家族 金剛出版) Rothman, A. J., Klein, W. M., Weinstein, N. D. (1996) Absolute and Relative Biases in Estimations of Personal Risk

Journal of Applied Social Psychology. 26, 1213-1236.

Rubenstein JL, Halton A, Kasten L, Rubin C, Stecher G (1998) Suicidal behavior in adolescents: Stress and protection in different family contexts. American Journal Orthopychiatry 68, 274-284.

Sabbath, J. C. (1969). The suicidal adolescent: The expendable child. Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 8(2), 272-285.

(20)

笹崎 綾(2006).自死遺族の死別後の心理過程に関する研究 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要,心理発達 科学53,229-230.

Samuelsson, M., Sunbring, Y., Winell, I., & Åsberg, M. (1997). Nurses' Attitudes to Attempted Suicide Patients. Scandinavian Journal of Caring Sciences, 11(4), 232-237.

塩崎 麻里子・中里 和弘(2010).遺族の後悔と精神的健康の関連――行ったことに対する後悔あと行わなかったこ とに対する後悔 社会心理学研究.25(3),211-220.

Shneidman, E. S. (1993). Suicide as Psychache: A Clinical Approach to Self-Destructive Behavior Northvale Aronson, (高橋祥友訳(2005).シュナイドマンの自殺学 金剛出版)

Shneidman, E. S., Farberow, N. L., & Litman, R. E. (1994). The Psychology of Suicide (2nd ed.). Northvale, NJ: Jason Aronson, Inc. 末木 新(2010).自死遺族の悲嘆に関する研究の概観と展望 臨床心理学.10(6),873-884. 末木 新(2011).自殺の危険の高い者は他者に助けを求めないか?―自殺念慮・自殺関連行動と援助要請の関連に関 するレビュー― 自殺予防と危機介入.31(1),84-90. 末木 新(2017).自殺の予防と心理学――展望とその課題― 心理学評論.60(4),265-276. 荘島 幸了・川島 大輔・川野 健治(2010).死・自殺のイメージスキーマ.精神保健研究 56,65-79. 高橋 祥友(1992).強い自殺衝動をもつ患者の対応 精神科治療学.7,113-120 高橋 祥友(2001;2008).自殺のサインを読みとる 講談社 高橋 祥友(2007).自殺の危険の高い患者の治療の原則 精神療法.33(4),493-500 田中 英高・寺島 繁典・竹中 義人・永井 章・Borres, M.(2002).日本の子どもの自殺願望の背景に関する考察 ―日本―スウェーデンのアンケート調査から 心身医学.42(5),294-301 塚越 友子(2019).思春期の内在化問題行動における母子相互作用の探索的研究 臨床心理相談室紀要.東北大学大 学院教育学研究科臨床心理相談室.17,55-75. 山口 和浩・根岸 親・藤原 匡宣(2008)自死遺族が直面する現実 自殺実態白書2008第2版 自殺実態解析プロジェ クトチーム編 NPO 法人自殺対策支援センター ライフリンク 吉岡 久美子(2014).保護者のメンタルヘルスリテラシー:保護者の Helpseeking の特徴を中心にして 精神科.24 (6),657-662

Valente, S., Saunders, J. M., (2004) Barriers to suicide risk management in clinical practice: a national survey of oncology nurses, Issues in Mental Health Nursing, 25(6), 629-648.

渡辺 由香・尾崎仁・近藤直司(2015).子どもの自殺関連行動:東京都立小児総合医療センターの入院症例を中心に  児童青年精神医学とその近接領域.56(1),13-18.

Weinstein, N. D. (1980). Unrealistic optimism about future life events. Journal of Personality and Social Psychology,

39(5), 806-820.

WHO(2000).自殺予防 プライマリ・ヘルスケア従事者のための手引き(日本語版第2版) 監訳 河西千秋,平安良雄 横浜市立大学医学部精神医学教室(2007)

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/67603/WHO_MNH_MBD_00.4_jpn.pdf;jsessionid=C127798D8 761B90AF248E55B9A8103FE?sequence=6(2020年2月1日)

Wilson, C. J., Deane, F. P., Ciarrochi, J. V. & Rickwood, D. (2002). Adolescent barriers to seeking professional psychololgical help for personal-emotional and suicidal problems. Suicide Prevention Australia 9th Annual

(21)

Conference, June 2002.

Zeelenberg, M., van Dijk, W. W., van der Pligt, J., Manstead, A.S.R., van Empelen, P., & Reinderman, D. (1998). Emotional reactions to the outcomes of decisions: The role of counterfactual thought in the experience of regret and disappointment. 0rgamzationa1 Behaυior and Human Deciston Processes, 75, 117-141.

(22)

The number of teenage suicides in our country increased continuously last three years. To prevent this suicide, parents first of all have to be aware of children’s mental illness and support them promptly and appropriately. Few studies, however, have been done so far on the abilities of parents to recognize their children’s mental illness.

Based on analysis of the notes of bereaved families, children’s behaviors in life could be classified into three big categories namely【Behavior of children which their parents were concerned about】,【Parental understanding of children’s behavior】,【Regret】and 14 small categories. One of the important findings through this classification is that even though parents noticed children’s unusual behaviors, they did not take it seriously. Furthermore, parents had a hard time dealing with their children in psychological distress. Analysis done so far clearly indicate the importance of the mental health literacy education for parents to prevent effectively the adolescent suicide.

Keywords: suicide prevention for adolescent, Parental awareness, families bereaved by suicide, mental health literacy gatekeeper

Tomoko TSUKAKOSHI

(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

Michiyo KATO

(Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)

Behavioral changes in adolescent suicide attempters observed

by their families:

参照

関連したドキュメント

 高齢者をはじめ、妊娠期から子育て期までの行政サ

高齢者介護、家族介護に深く関連する医療制度に着目した。 1980 年代から 1990

Nursing for children of female patients with cancer in the child-rearing period and their families: a study of approach to children, maternal roles, and mother–child and.

自己防禦の立場に追いこまれている。死はもう自己の内的問題ではなく外から

2. 「早期」、「予防」の視点に立った自立支援の強化

 日本一自殺死亡率の高い秋田県で、さきがけとして2002年から自殺防

海に携わる事業者の高齢化と一般家庭の核家族化の進行により、子育て世代との

職員参加の下、提供するサービスについて 自己評価は各自で取り組んだあと 定期的かつ継続的に自己点検(自己評価)