共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導 : 共通実行機能に基づくゲーム課題を用いて
14
0
0
全文
(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導 ― 共通実行機能に基づくゲーム課題を用いて ―. 五十嵐晴菜・北村 博幸* 北海道教育大学大学院教育学研究科 *. 北海道教育大学函館校. Instruction for Child with Weaknesses of Common EF ― Using Game Tasks based on Common EF ―. IGARASHI Haruna and KITAMURA Hiroyuki* Graduate School of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education *. Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は共通実行機能(Common EF)に弱さがある自閉症スペクトラムの児童に対し,共 通実行機能に基づいて作成したゲーム課題を用いた介入の効果を検討した。その結果,課題遂 行中の行動の改善と誤答率の低下がみられた。合わせて,実行機能アセスメントにおける課題 の得点向上が認められた。これらのことから,共通実行機能に基づくゲーム課題を指導課題と して行った継続的な訓練には,訓練効果があったと考えられる。今後は,実行機能アセスメン トの修正により精度を高めるとともに,実行機能アセスメントの得点向上が与える学習や日常 生活への影響を明確にすることで,実行機能に障害がある子どもたちの学習や日常生活への効 果的な支援を行うことが可能になると考えられる。. Ⅰ 問題と目的. の実行機能課題を実施し,分析の結果から,「更 新(Updating)」, 「シフティング(Sifting)」, 「抑. 学習や行動において,適応的で目的にそった行. 制(Inhibition)」の3つが重要な構成要素である. 動や思考を組織化することに必要とされる心理機. としたモデルがある。更新とは,ワーキングメモ. 能として,実行機能がある(Jurado & Rosselli,. リ内に保存されている情報を監督し,必要な情報. 2007) 。. を最新のものとしておく機能である。シフティン. 実行機能の中でも,Miyakeら(2000)が複数. グは,遂行すべき課題をある課題から別の課題に. 147.
(3) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 切り替える能力である。抑制とは,自動的あるい. での認知促進プログラムといった,実行機能の障. は優勢な反応を,必要に応じて,意図的にそして. 害は適切な介入によって改善されるという知見の. 制御的に抑制する能力をさす。Miyakeら(2000). 蓄積が進んでいる。このことは,実行機能の障害. は,分析の結果から,この3つの要素は,単一の. の可能性が予想される発達障害児に対する,実行. ものではなく互いに関連しながらも区別できるも. 機能の障害への介入の有効性を示唆しているもの. のであることを示唆した。. であると言える(加藤・北村,2014)。. Friedmanら(2008) は,Miyakeら(2000) の. 加藤・北村(2015)は,実行機能の障害の改善. 研究で抽出された3つの要素間に中程度の相関が. により,日常の学習や行動に関わる実態の改善に. あったことから,共通する因子が存在すると考. つながると予測し,実行機能のアセスメントと介. え,Miyakeら(2000)が用いた実行機能課題の. 入が一体化した支援プログラムを開発した。事例. 一部を変更した9つの実行機能課題を用いて新た. を通して検討した結果,このプログラムは,アセ. な分析を試みた。その結果,全ての課題で, 「共. スメントと実行機能の改善に向けた介入に用いる. 通実行機能(Common EF)」と相関関係が認め. 課題として有効であると報告している。. られたとした。また,更新能力とシフティング能. 知的障害児・者の実行機能について,宮下ら. 力については,それぞれの独自の変数が示された. (2015)は,知的障害児・者の実行機能の特徴や. が,抑制には独自の変数は示されなかったとして. これまで実施されてきた実行機能課題について知. いる。. 見を整理した上で,Miyakeら(2012)の実行機. こ の 結 果 に 基 づ き,Miyake & Friedman. 能モデル,Friedmanら(2008)の課題に依拠し,. (2012)は, 「更新固有(Updating specific)」, 「シ. IQが軽度から中等度の知的障害児・者を対象と. フティング固有(Shifting specific)」,「共通実行. した実行機能アセスメントを開発した。実行機能. 機能(Common EF)」の要素からなる枠組みを. アセスメントを行うことで,個々の児童生徒の実. 提案した。この枠組みでは, 「更新能力(Updating. 行機能の特徴を把握すること,日常生活の実態と. ability) 」 , 「シフティング能力(Shifting ability)」. 関連させた支援を提案することが可能であるとし. は共通実行機能とそれぞれの固有実行機能によっ. た。また,今後の課題の一つとして,実行機能ア. て構成され,抑制能力(Inhibition ability)」は,. セスメントの結果を実際の学習の場での支援に活. 共通実行機能によって成り立っているとされる。. かしていくために,知的障害児・者一人一人の実. つまり,共通実行機能は,3つの実行機能の能力. 行機能の特徴と日常生活における具体的な姿とを. に必要であり,更に,抑制の鍵として捉えられて. 結びつけ,多くの事例を通して検証していくこと. いる。. が必要であるとしている。. 発達障害児を対象とした実行機能の研究では,. これらのことから,実行機能の障害への介入は. 注意欠陥・多動性障害には実行機能の抑制機能に. 有効であると推察される。しかし,実行機能の障. 障害があり(Ozonoff & Jensen,1999;Happeら,. 害に対し直接的にトレーニングを行う事例は存在. 2006;青木ら,2012),広汎性発達障害には実行機. するが,今まで用いられてきたトレーニング課題. 能のセットの転換(シフティング)に障害がある. は,子どもたちの身近なものでなく,誰もが実践. (Ozonoffら,1999;Lissら,2001)と報告されて. できるトレーニングとは言えない。. おり,発達障害児には,実行機能の障害がある可. そ こ で, 本 研 究 は 共 通 実 行 機 能(Common. 能性が指摘されている。しかし,その評価方法は. EF)に弱さがある自閉症スペクトラムの児童に. 確立しておらず,発達障害と実行機能の関連につ. 対し,共通実行機能の評価課題に基づいて作成し. いての知見は必ずしも一致していない。一方で,. たゲーム課題を用いて指導を行い,指導の効果を. 医療領域での認知リハビリテーション,教育領域. 検討することを目的とした。. 148.
(4) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導. Ⅱ 方 法. いていたため,パーソナルコンピューター上の課 題ではなく,子どもにとって身近で親しみやすく,. 1.対象児. 対象児が体を動かす,又は,カードを動かすといっ. 小学校通常学級に在籍する6年生の男児1名。. た動作のある課題とした。. 小学校2年生時に自閉症スペクトラムと診断さ. 課題は,Antisaccadeに対応した課題として「あ. れた。. とだしあっちむいてほい」,Black Whiteに対応. 学習課題に対し注意を向け続けることが苦手で. した課題として「旗上げゲーム」,STOP−ITに. あり,学習課題の遂行に困難さがあることから,. 対応した課題として「仲間わけゲーム」の3課題. 小学校4年生時より,H大学において個別指導を. を作成し,実施した。また,課題は,誰でも実践. 受けている。. しやすい課題とした。さらに,実行機能障害のな い定型発達児であれば,2回程度の練習を行うこ. 2.心理アセスメント. とで,誤答率が0%になる課題とした。. 認知機能の特徴把握とゲーム課題の作成や支援. 心理検査の結果より,対象児は聴覚情報の処理. 方法の検討のために,日本版WISC−Ⅳ(以下,. や単純な文字の分類が比較的得意で,視覚情報の. WISC−Ⅳと示す)及び日本版DN−CAS(以下,. 処理及び写真の処理を苦手としていた。これらの. DN−CASと示す)を実施した。. 認知機能の差により課題の遂行に困難を生じさせ ることが予測されたため,各ゲームに提示カテゴ. 3.時 期. リーを設け,試行回数を設定した。. 2016年の5月から9月までの週1回30分程度と. 本研究で用いた課題の概要を表1に示す。また,. し,対象児が夏休みの期間は分析の対象としな. ゲームのルール及び流れを図1〜図7に示す。. かった。一度の指導につき,2つのゲーム課題を 実施することを基準とし,時間が余った場合には,. 1)あとだしあっちむいてほい. 対象児と相談をして,3つのゲーム課題を一度の. カテゴリー1では,図1のように,指導者が矢. 指導で実施した。. 印を提示し,対象児には手を二回叩き,続けて, 矢印の向いていた方向に顔を向けることを求め. 4.手続き. た。手拍子を妨害刺激とした。. ⑴ 実行機能の事前評価及び事後評価. カテゴリー2では,図2のように,指導者がカー. 実行機能の事前評価及び事後評価は,宮下ら. ドを用いて矢印を提示し,その後,二枚の白いカー. (2015)の知的障害児・者の実行機能のアセスメ. ドを見せた。対象児には二枚目の白い紙が出たら. ント課題を実施した。手続きは,宮下ら(2015). 手を二回叩き,続けて,矢印の向いていた方向に. における知的障害児・者の実行機能のアセスメン. 顔を向けることを求めた。二枚の白い紙と手拍子. ト課題と同様の手順で実施した。. を妨害刺激とした。. ⑵ 指導課題. 2)旗上げゲーム. 対 象 児 の 実 態 及 び, 事 前 評 価 の 結 果 よ り,. カテゴリー1では,図3のように,対象児には. Friedmanら(2008) の 共 通 実 行 機 能 課 題. 指導者の指示を聞き,白か赤の旗を上げることを. (Antisaccade:アンチサッカード,Black White:. 求めた。指導者から出される指示は,判断の妨害. 白/黒,STOP−IT:ストップ・イット)に対応. となる情報を徐々に増やした。その中で,対象児. したゲーム課題を作成し実施した。. は的確に情報を聞き,旗を上げることが求められ. 対象児は,学習することに対して苦手意識を抱. る。中立条件と不一致条件を混合して行った。指. 149.
(5) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 導者の指示を判断の妨害刺激とした。. ⑶ 指導手続き. カテゴリー2では,図4のように,指導者がカー. 加藤・北村(2015)の指導手続きを参考に,以. ドを用いて指示を出した。カテゴリー1同様に,. 下の手順で指導を行った。. 指導者の指を判断の妨害刺激とした。. ① 前回の振り返りを行う。 ② 課題の教示を行う。. 3)仲間わけゲーム. ③ 課題を実施する。. カテゴリー1では,図5のように,身近な単語. ④ 対象児と一緒に課題をもっとうまく遂行す. のカードを用意し指導者が提示した。カテゴリー. るための注意点を考える。その注意点を意. 2(色カード)は図6に,カテゴリー3(写真カー. 識するよう指示してから,もう一度,課題. ド)は図7に示す。対象児には,特定の音が鳴っ. を実施する。. たら,提示されたものを仲間分けボード上で仲間. ⑤ 意識して行った注意点について,フィード. 分けすることを求めた。特定音以外の音の場合は,. バックし,自己評価を行う。また,次回の. 仲間分けボードの“仲間分けしない”の場所に置. 注意点を確認する。指導者が次回へ向けて. くこととした。全てのカテゴリーにおいて,妨害. 注意点の記録を行うことで,次回の参考に. 刺激として,音楽をかけた。. なるようにする。. 表1 課題の概要. 150.
(6) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導. ⑷ 達成基準. 指標が持つ意味に対して「低い」または「高い」. 各課題の各カテゴリーにおいて,誤答率0%が. の判断をした。また,対象児の実態を踏まえ,共. 2回続くことを達成基準とし,達成基準を満たし. 通実行機能に焦点を当て分析を行った。. た場合に事後評価を行う。各課題10回終えた時点 で達成基準を満たさなかった場合は事後評価に移. 2)指 導. る。. 本研究で行うすべての指導をVTRに記録し, VTRから,課題の誤答率,課題遂行中の不必要. ⑸ 分析方法. 行動の頻度を算出した。その結果を用いて誤答率. 1)実行機能の事前評価及び事後評価. と不必要行動との関係を明らかにするために,回. 宮下(2015)を参考に,小学生群の平均値と比. 帰分析により相関係数を求め分析を行なった。. 較し2標準編差(SD)以上乖離がある場合は,. 図1 あとだしあっちむいてほい カテゴリー1. 図2 あとだしあっちむいてほい カテゴリー2. 151.
(7) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 図3 旗上げゲーム カテゴリー1. 図4 旗上げゲーム カテゴリー2. 152.
(8) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導. 図5 仲間分けゲーム カテゴリー1. 図6 仲間分けゲーム カテゴリー2. 図7 仲間分けゲーム カテゴリー3. 153.
(9) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 図8 WISC-Ⅳの結果. Ⅲ 結 果. 図9 DN-CASの結果. れ た。PASS標 準 得 点 は, プ ラ ン ニ ン グ が104 (90%:96−111),同時処理が69(90%:65−79),. 1.心理アセスメント. 注意が89(90%:82−99),継次処理が85(90%:. ⑴ WISC-Ⅳ. 79−94)であった。PASS尺度間での比較では,. 11歳9ヵ月時に実施したWISC-Ⅳの結果を図8. プランニングの標準得点が有意に強く,同時処理. に示す。全検査IQ(FSIQ)は78(90%:74−84). の標準得点が有意に低いと判断された。このこと. で「低い(境界域)〜平均の下」の知能水準に分. から,聴覚的・言語的手がかりをもとにした情報. 類された。合 成得点は,言語 理 解(VCI)が72. の処理が比較的得意であると推察された。. (90%:68−82) ,知覚推理(PRI)が68(90%:64. 下位検査の分析において,実行機能課題として. −79) ,ワーキングメモリ(WMI)が79(90%:74. 用いられるストループ課題と非常に類似した,注. −88) ,処理速度(PSI)が115(90%:105−121). 意〔表出の制御〕が平均に比べて強いと判断され. であった。. た。このことについては,〔表出の制御〕が,ス. 指標レベルでのディスクレパシー比較では,. トループ課題と類似した課題であるものの,スト. PRI<WMI,VCI<PSI,PRI<PSI,WMI<PSI. ループ干渉の程度を換算しておらず,注意の能力. において有意差が認められた。下位検査レベルで. を測定するための下位検査として設定されている. のディスクレパシー比較では,〔数唱〕<〔語音. ことから,直接的に実行機能の能力を測る課題で. 整列〕において有意差が認められた。プロセス分. あるとは言えないと考えられた。. 析については, 〔符号〕と〔記号探し〕で有意に 強いと判断された。. 2.実行機能の事前評価. 〔数唱〕<〔語音整列〕であることから,言語. 指導前の11歳9ヵ月時に,事前評価として実施. 的な情報処理が得意と考えられ,〔符号〕と〔記. した実行機能アセスメントの結果では,共通実行. 号探し〕で有意に強いと判断されたことから,写. 機能課題であるAntisaccadeの正反応率は「低い」. 真や絵などの視覚的な有意味刺激の処理が苦手で. と示された。Black Whiteでは,中立正反応率,. あると推察された。. 不一致正反応率ともに100%であった。 一方,コンフリクト効果は「-106.55」と,ご. ⑵ DN-CAS. く稀な数値であり非常に「低い」数値であった。. 11歳10ヵ月時に実施したDN-CASの結果を図. 共通実行機能課題であるBlack Whiteでは,中. 9に示す。全検査標準得点は83(90%:78-89)で,. 立正反応率,不一致正反応率はともに100%であっ. 「平均より低い〜平均の下」の知能水準に分類さ. たことから,対象児にとって比較的簡易な課題で. 154.
(10) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導. あったと言える。しかし,Antisaccadeの正答率. ⑵ 不必要行動. が平均と比べて「低い」と判断されたこと,中立. 各課題遂行中の不必要行動回数の推移を図11に. 課題の際にぼんやりしている時間が非常に長い. 示す。. こと,コンフリクト効果が「-106.55」と,ごく. 多少の変動はあるが,回数を重ねることにより,. 稀な数値が示されたことから,Black Whiteの結. 減少傾向にあった。学校の担任の先生が見学に来. 果は妥当性の低いものであると言える。このこと. たセッション3回目については,不必要行動は少. から,共通実行機能に弱さがあると推察された。. なかった。. 3.課題の成績の推移. ⑶ 誤答率と不必要行動の関係性. ⑴ 誤答率. 各課題の誤答率と不必要行動との関係をみるた. 9回の指導により,すべての課題で達成基準を. め,回帰分析により相関係数を求め分析を行なっ. 満たした。. た。結果,あとだしあっちむいてほい「R²(決. 視覚指示の課題及び写真カードを用いた課題で. 定係数)=0.037」,旗上げゲーム「R²=0.7581」,. 誤答率が高く示された。回数を重ねることで,誤. 仲間分けゲーム「R²=0.7913」であり,旗上げゲー. 答率のばらつきが減り,誤答率が低下する傾向に. ム及び仲間分けゲームには,誤答率と不必要行動. あった。. との間に強い正の相関が認められた。. 各課題の誤答率の推移を図10に示す。. 図10−1 あとだしあっちむいてほい. 図10−2 旗上げゲーム. 図10−3 仲間分けゲーム. 図10 課題の誤答率の推移. 155.
(11) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 図11 不必要行動回数の推移. 4.実行機能の事後評価. 激を処理することが苦手であり,このことが関連. 指導後の12歳4ヵ月時に事後評価として実行機. していると推察された。. 能アセスメントを実施した。実行機能の事前評価. 不必要行動については,課題を継続することに. と事後評価の成績の比較を表2に示す。. より減少する傾向にあったものの,出現の頻度に. 共通実行機能課題である,Antisaccadeでは,. ばらつきがあったことから,対象児のおかれる環. 平均の範囲内に収まり,結果が向上した。Black. 境や学習環境が影響を与えると考えられた。個別. Whiteでは,コンフリクト効果が平均の範囲内に. 指導場面におけるゲーム課題を用いた指導という. 収まり,どちらかの課題のみで,ぼんやりしてい. 特定の場面においては,不必要行動が減少する可. ることや適当にボタンキーを押してしまうという. 能性が示唆された。. こ と が 減 っ た。 更 新 固 有 課 題 で あ る,Letter. 誤答率と不必要行動の関係性の分析から,旗上. memory,Keep trackでは,得点率が,平均の範. げゲーム及び仲間分けゲームについては誤答率と. 囲内に収まり,n-backでは,平均を1SD以上上. 不必要行動の関係性が強いことが示された。これ. 回った。シフティング固有課題も,全ての課題で. ら2つの課題については,不必要行動を逐次観察. 正反応率が平均の範囲内に収まった。. しなくても,不必要行動が誤答率として現れる課. 一 方, シ フ テ ィ ン グ 固 有 課 題 で あ るColor. 題であると言えた。. shape,Lv1のセットの転換「642.70」を始めとす. 9回の指導で達成基準を満たしたことから,共. るセットの転換の値が非常に大きく示され,反応. 通実行機能に基づくゲーム課題を指導課題として. 時間の変動係数も「低い」と示された。. 用いた継続的な訓練には,訓練効果があったと言 える。この結果は,介入課題の継続的な指導によ. Ⅳ 考 察. り,介入課題の成績向上が見られたことを報告し た加藤ら(2014)の結果と類似している。. 1.指導課題の成績の推移 指導の効果として,課題遂行中の行動の改善と. 2.事前評価と事後評価の比較. 誤答率の低下がみられた。. 共 通 実 行 機 能 の 実 行 機 能 課 題 で あ る,. 誤答率は,視覚指示と写真カードで誤答率が高. Antisaccadeでは,平均の範囲内に収まり,結果. く示された。WISC−Ⅳの結果からも,知覚推理. が向上した。Black Whiteでは,コンフリクト効. よりワーキングメモリの標準得点が高く,耳から. 果が平均の範囲内に収まったことから,どちらか. 聞いた情報を正しく短期的に記憶し情報を使うこ. の課題のみで,ぼんやりしていることや適当にボ. とが得意であること,写真や絵などの具体的な刺. タンキーを押してしまうということが減ったと推. 156.
(12) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導. 表2 実行機能の事前評価及び事後評価. 157.
(13) 五十嵐晴菜・北村 博幸. 察される。 更 新 固 有 の 実 行 機 能 課 題 で あ る,Letter. Ⅴ 課題と展望. memory,Keep trackでは,得点率が,平均の範. 1点目は,ゲーム課題を用いた指導の効果につ. 囲内に収まり,n-backでは,平均を1SD以上上回. いてである。本研究では,対象児が1名であるこ. る結果となった。また,シフティング固有の実行. と,3つのゲーム課題を合わせて指導を行ったこ. 機能課題でも,全ての課題で正反応率が平均の範. とから,どのゲーム課題に訓練効果があるのか,. 囲内に収まった。これらのことから,共通実行機. 指導による効果であるのかを明確にできていな. 能の向上によって,シフティング固有の結果にも. い。今後,ゲーム課題を絞って,条件を統一した. 影響を与えたと推察される。. 上で検討を積み重ねることが必要である。. 一 方 で,Color shape,Lv1の セ ッ ト の 転 換. 2点目は,本来の実行機能の能力についてであ. 「642.70」を始めとするセットの転換の値が非常. る。本研究では,ゲーム課題を用いて継続的に指. に大きく示された。セットの転換は,反応の判断. 導を行うことで実行機能アセスメントの得点向上. 基準が変わった際の構えの切り替え(セットの転. につながる可能性が示唆された。しかし,実行機. 換)が必要な試行と不必要な試行の平均反応時間. 能アセスメントの得点向上はゲーム課題の訓練効. の差を示している。事後評価の結果から,時間が. 果であり,実行機能そのものにどのような影響を. かかった試行と,比較的時間をかけずに取り組む. 与えるのか明確にすることができていない。その. ことができた試行があったと推察される。また,. ため,実行機能アセスメントの得点向上と実行機. 反応時間の変動係数が大きく示されたことから,. 能の本来の能力との関係性を明確にすることが必. 各試行によって反応時間の差があり,反応に不安. 要である。. 定さがあったと推察される。セットの転換の値が. 3点目は,実行機能アセスメントについてであ. 大きく示されたこと,反応時間の変動係数が大き. る。本研究で用いた宮下ら(2015)の実行機能ア. く示されたことは,共通実行機能の向上によって,. セスメントは,宮下ら(2015)によって,不十分. よく考えてからボタンキーを押すことができるよ. な点があるとされており,実行機能の特徴を把握. うになったからであると推察された。. するためのアセスメントとして精度の高いもので. これらのことから,共通実行機能の得点向上は. あると言えない。このことから,アセスメントの. 認められたものの,対象児は,切り替えに時間が. 内容を修正し,実行機能の特徴を把握するための. かかること,反応時間にばらつきがあることが課. アセスメントとして精度を高めていくことが必要. 題であると考えられるため,今後,切り替えの際. である。. にかかる時間を減らしていくための支援を提案. 4点目は,2・3点目を踏まえ,実行機能アセ. し,実施することが必要である。. スメントを実施し実行機能の特徴を把握すること. アセスメントにおける課題の得点向上は,加藤. で,実行機能の能力の弱さによる学習や日常生活. ら(2014)の「特定の実行機能課題を介入課題と. における困難さに共通点を見出し,支援方法の提. して継続的な訓練を行ったことで,訓練効果によ. 案につなげていくことが必要である。. り介入課題の成績が向上した」という結果と類似. 以上のことから,今後は宮下ら(2015)の実行. した成果が得られたと言える。このことから,本. 機能アセスメントの修正により精度を高めるとと. 研究で用いたゲーム課題は,実行機能課題と類似. もに,実行機能アセスメントの得点向上が与える. した課題であると考えられ,ゲーム課題を用いた. 学習や日常生活への影響を明確にすることで,実. 継続的に指導についても,訓練効果が得られ,実. 行機能に障害がある子どもたちへの学習や日常生. 行機能課題の成績が向上する可能性が示唆された。. 活への効果的な支援を行うことになると考えられ る。. 158.
(14) 共通実行機能に弱さが認められる児童に対する指導. 引用文献 青木真純・岡崎慎治・前川久男(2012):注意欠陥多動性 障害児における干渉課題遂行中の認知的制御に関する 検討.LD研究21⑷,460-469. Friedman, N.P., Miyake, A., Young, S.E., Defries, J.C., Coley, R.O, Hewitt, J.K.(2008):Individual differences in executive function are almost entirely genetic in orgin. Journal of Experimental Psychology 137⑵, 201225. Happe, F., Booth, R., Charlton, R. & Hughes, C(2006): Executive function deicits in autism spectrum disorders and attention-deficit/hyperactivity disoeder:Examining profiles across domains ad ages. Brain and Cognition 61, 25-39. 藤田和弘・青山真二・熊谷恵子(1998):特殊学級・養護 学校用◇長所活用型指導で子どもが変わる◇-認知処 理様式を生かす国語・算数・作業学習の指導方略-. 図書文化社.14-29. Jurado, M.B., & Rosselli, M.(2007):The elusive nature of e xe cuti ve fun c t io n s : a r e v ie w o f o u r c u r r e n t understanding. Neuropsychol Review 17, 213-233. 加藤元一郎(2009):脳損傷と認知リハビリテーション. 脳神経外科ジャーナル18⑷,277-285.. Complex “Frontal Lobe” Tasks:A Ltent Variable Analysis. Journal of Cognitive Psycholgy 41, 49-100. 宮下知子(2015):知的障害児・者の実行機能アセスメン トの研究.平成27年度北海道教育大学大学院教育学研 究科修士論文. 宮下知子・北村博幸・加藤順也(2015):知的障害児・者 の実行機能アセスメントの開発.北海道教育大学紀要.教 育科学編,66⑴:65-77. 前川久男・中山健・岡崎慎治(2007):日本版DN-CAS認 知評価システム 理論と解釈のためのハンドブック. 日本文化科学社. (Nagieri, J, A. , & Das, J.P.(1997): Cognitive Assessment System. Riverside Publishing. 日本版KABC-Ⅱ制作委員会(2013):日本版KABC-Ⅱマ ニュアル,丸善出版,86-88. 日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(2011):日本版WISC-Ⅳ知 能検査理論・解釈マニュアル,株式会社日本文化科学 社,94. Ozonoff, S., Jensen, J.(1999):Broef report:Specific executivef unction profiles in three neurodevelopmental disorders.Jurnal of Autism and Developmental Disorders 29, 171-177.. (五十嵐晴菜 大学院教育学研究科) (北村 博幸 函館校教授) . 加藤順也(2014):発達障害児の実行機能の評価と介入の ための支援プログラムの検討.平成26年度北海道教育 大学大学院教育学研究科修士論文. 加藤順也・北村博幸(2013):実行機能の評価と介入のた めの支援プログラムの開発-小学校に在籍する学習面 及び行動面に著しい困難を示す児童を対象として-. 北海道教育大学紀要.教育科学編,64⑴.365-380. 加藤順也・北村博幸(2015):発達障害児の実行機能の障 害への介入-実行機能の評価と介入が一体化した支援 プログラムを用いて-.北海道教育大学紀要.教育科 学編,66⑴:51-63. 川島隆太(2002):読み・書き・計算が子どもの脳を育て る.子どもの未来社. Liss, M., Fein, D., Allen, D., Dunn, M., Feinstein, C., Morris, R., Waterhouse, L., & Rapin, I.(2001): Executive functioning in high-functioning children with autism.Jurnal of Child Psychology and Psychiatry 42, 261-270. Miyake, A., Friedman, N.P. (2012):The Organization of Individual Differences in Executive Functions:Four General Conulusions. Current in Psychological Science 21⑴, 8-4. Miyake, A., Friedman, N.P., Emerson, M.J., Alexander, H.W., & Howerter, A.(2000):The Unity and Diversity of Executive Functions and Their Contributions to. 159.
(15)
関連したドキュメント
道路の交通機能は,通行機能とアクセス・滞留機能に
わが国において1999年に制定されたいわゆる児童ポルノ法 1) は、対償を供 与する等して行う児童
自ら将来の課題を探究し,その課題に対して 幅広い視野から柔軟かつ総合的に判断を下す 能力 (課題探究能力)
食品事業では、「収益認識に関する会計基準」等の適用に伴い、代理人として行われる取引について売上高を純
タップします。 6通知設定が「ON」になっ ているのを確認して「た めしに実行する」ボタン をタップします。.
FSIS が実施する HACCP の検証には、基本的検証と HACCP 運用に関する検証から構 成されている。基本的検証では、危害分析などの
学生は、関連する様々な課題に対してグローバルな視点から考え、実行可能な対策を立案・実践できる専門力と総合
これらの設備の正常な動作をさせるためには、機器相互間の干渉や電波などの障害に対す