山梨大学教育学部紀要 第 31 号 2020 年度抜刷
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cm〇mmを竹物差しで測定できない児童への援助-
An Effect of “the Subject Matter of Measure” for “Length” in Second Grade Arithmetic:
What Kind of Measure Teachers develop for Children Who cannot Measure Centimeter and Millimeter ?
梶 原 郁 郎 KAJIWARA Ikuo
単元「長さをはかろう」
(2年算数)における「物差し教材」の効果
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cm〇mmを竹物差しで測定できない児童への援助-
An Effect of “the Subject Matter of Measure” for “Length” in Second Grade Arithmetic :
What Kind of Measure Teachers develop for Children Who cannot Measure Centimeter and Millimeter ?
梶 原 郁 郎 KAJIWARA Ikuo 要旨:本稿は、単元「長さをはかろう」(2年算数)において○cm〇mmを竹物差しで測 定できない児童に対する、「物差し教材」(センチ物差し・ミリ物差し)による指導の効 果を報告している。第一に教材に焦点を当てて、○cm〇mmを測る先行実践事例を改め て考察して、「物差し教材」の特徴を説明する。第二に、同単元の最後に実施した、竹物 差しによる○cm〇mmを測る自作のプリント教材による結果を報告する。その教材で正 答率が低かった児童を含む【6名】に対して筆者は、「物差し教材」による指導を行った。 第三にその授業記録を提示して、その教材の効果を報告する。以上を踏まえて最後に、 教職大学院における教育実習指導の在り方について、内容研究を前提とする教授学習過 程研究の立場から知見を提示する。 [はじめに]本稿の課題と方法 本稿は、単元「長さをはかろう」(2年算数)において○cm〇mmを竹物差しで測定できない児童に 対する、「物差し教材」(センチ物差し・ミリ物差し)による指導の効果を報告する。これは、授業の 形態や発問の仕方等に授業改善の途を求める方法主義の習慣を対象視して(1)、教職大学院教員が院生 の実習指導を内容レベルでどのように保障するかという課題意識に基づくものである。 この課題に筆者が直面した授業から述べよう。2019 年度において筆者は教職大学院の教育実習指導 として、実習の連携協力校で院生1年2名とともに毎週火曜日に授業を参観させていただいた。院生 2名ともに同じ小学校に配属されて、院生A(特別支援学校高等部教諭)は2年クラス、院生 B(小 学校教諭)は5年クラスで参観実習をした。一学期後半に2年算数の単元「長さをはかろう(2)」(東 京書籍)を2時間参観して、担任教師による丁寧な指導があっても、竹物差しで○cm〇mmを測るこ とができない児童が4名程いるという現実を眼前にした(クラス児童数:24 名)。その参観後、院生2 名と話し合いをしたところ、院生B も同様の現実に直面した経験があるとのことで、「何回やっても できない子がいると教師はお手上げ」であると実情が報告された。その点を実習生が実習報告書に記 すに留まり、その改善策を熟考できなければ、参観実習の意味は大きく不足して、実習生と教職大学 院教員は連携協力校の担任教師にも児童にも何ら寄与したことにはならない。 その課題に取り組むことの難しさはどこにあるのであろうか。竹物差しで○cm〇mmを測ることが できない児童がいることを本学4年3名に話したところ、1名から「どうして測れないんですかねえ」 という発言があった。そこには次の無意図的な考えが内在していると思われる。○cm〇mmを測るの は「なぜ○cm〇mmなのか」と問うことのできない技能の学習であるから、測ることができない原因 は考えようのないこと、できなければ練習を重ねるしかない。これに対して、「6 ÷ 2/3 を 6 × 3/2 と計 算する理由を具体的に説明しなさい」と問い、説明できない事実に直面させられれば、学生は「6 ÷ 2/3」を学び直す必要を自己認識できるであろう。この場合とは異なり、○cm〇mm は測るだけのこ
となので、教師が学び直しをするところはないと思い、援助方法を問うところに思考が行かないので あろう。ここを学生にも院生にも私たち大学教員はメタ認知させて、○cm〇mmを測る指導でも、定 式化した「指導」に代わる援助の検討に向かわせることが求められる。 その検討に際して、単元「長さをはかろう」の教科書の指導手順をまずおさえてみよう。1年教科 書の単元「どちらがながい」で直接比較、間接比較、任意単位(マスいくつ分)による測定を学習す る(3)。それを受けて2年教科書の単元「長さをはかろう」では、任意単位を用いて数値化する活動の 後に普遍単位による測定を次の段階で学習する(4)。(1)ブロック何個分(図①㋐)、あるいはクリップ 何個分で長さを測る、(2)センチだけを測る簡易物差し(図①㋑)で長さを測る、(3)竹物差し(図 ①㋒)で長さを測る。(2)の後、「はがきのよ ことたての長さをしらべましょう」という課題 (葉書の横 10cm、縦 14cm8mm)が出されて、 その縦を測るところで竹物差しが登場する。そ の後、(4)消しゴム・鉛筆の幅・サイコロの一 辺・一円玉の直径・鉛筆のキャップ・スチック のりの長さを竹物差しで測る練習問題が提示さ れている。上述の児童4名程は、(1)(2)(3) の 段 階 的 指 導 で は(4) の 課 題 を 遂 行 で き な かったと想定できる。 この単元はどのような教材と内容で指導され てきているのであろうか。斎藤昭(小学校教諭)は本単元 11 時間の指導計画を提示している(5)。セン チの学習(第3時)では、簡易物差しに類似した「1cm ごとの目盛りを印刷した厚紙(工作用紙を 細長く切ったものでもよい)」(図②)を教材として、葉書の横の長さ(10cm)を測ることが課題とさ れている(6)。その後、ミリの学習(第5時)で、厚紙による物差しで葉書の縦(14 cm7mm)の14cm をまず測り、ハシタ(7mm)を竹物差しで測る課題が扱われている(7)。次の第6時では、竹物差し を使って〇センチ〇ミリの線を引く課題が出されている(8)。センチだけを測る物差しと竹物差しを教 材として○cm〇mmを学習する以上の指導計画は菅野宏隆においても二葉博啓においても同様となっ ている(9)。以上においてセンチ物差しは図①㋑を改良したものでもなく、ミリの学習は竹物差しで行 う点も教科書同様となっている(10)。したがっ てその指導で○ cm 〇 mm を測定できない児童 (現場の課題)にどう応えるか、この点は課題 として残されている。 この課題に筆者は、「物差し教材」(センチ物 差しとミリ物差し:図③)を自作して取り組んだ(11)。その教材の特徴と効果を報告の中心として、本 稿は冒頭要旨の内容構成となっている。これは、○cm〇mmを測定できない児童の要因の検討を含め て、その測定を可能とする教材開発とその効果を報告するものである。その効果次第では、技能学習 では練習・訓練を繰り返し積ませるしかないという「教育」観が問い直されることになる。 【図①】教科書の物差し教材 【図②】斎藤による簡易物差し 【図③】「物差し教材」(センチ物差し・ミリ物差し)
[Ⅰ]センチ物差し・ミリ物差しの特徴-〇cm〇mmを測定できない児童の要因分析- 本章では、竹物差しで○cm〇mmを測定できない児童の要因をどのように検討して、センチ物差し・ ミリ物差しが作成されているのか報告して、その教材としての特徴を明示する。 上述のように算数教科書(東京書籍)では、(1)ブロックあるいはクリップで測る、(2)センチだ けを簡易物差しで測る、(3)竹物差しで○cm〇mmを測るという学習順序となっている。普遍単位を 学習する本単元「長さをはかろう」における教材について、教師用指導書は「測定する道具として1cm 目盛りの簡易物差しと 30 cm 物差し〔竹物差し〕を用いる。それぞれの特性を考え、必要に応じた使 い方を工夫することも大切になる」と記している(12)。そして「発達障害の特性を理解した指導」とし て留意事項が次のように書かれている。「目盛りの読み方が分からなかったり、目盛りを順番に数えて いくことが苦手だったりする児童がいる。このような児童には、物差しの拡大図を用意して、目盛り の読み方に限定した指導をしたり、目盛りに数字がついている物差しを使用させたりするなどの工夫 が必要である」(下線は引用者、以下同)(13)。「目盛りの読み方が分から」ず○cm〇mmと測定できな い児童は、既に記したように通常学級でも複数見られて、「発達障害のある児童」に限らない。 この指導書を受けて私たちが考えなければならないのは、○ cm 〇 mm と測定できない児童の要因 である。その要因を、「発達障害」というところや、「はかるものの端に物差しの端をあてれなかった り、物差しをはかるものの向きに合わせて置けなかったり、物差しをしっかり押さえられなかったり する(14)」という技能にしか求めることができない場合、私たちは、使用される物差し教材を改良しよ うという発想も、指導の中身を問い直そうという発想も持てず、技能の練習を重ねるほかないという 訓練以外の指導を考えようとしないであろう。この場合、○cm〇mmと測定できない原因は児童側に あると見なされて、教師の指導の側には求められないことになる(これでは私たち大学教員は専門的 力量を欠いていることになり、実習生を指導できない)。 その要因を探るために児童の立場になって、児童はどのような段階で○cm〇mmという答に至るの か一考してみよう。竹物差しで○cm〇mmを測るとき児童は、㋐まず○cm を測る、㋑次に〇 cm のと ころから1・2---- とmmを数えて、〇mmを測る、㋒最後にそれを合わせて○cm〇mmと答えるので あろう。この一連の作業は、大人は数秒でできもはや区分されていないが、初学者の児童ではそうで はないだろう。児童は、作業㋐で○cmを測り終えたら○ cm を一旦頭から外して、作業㋑に入るので、 頭を一度リセットしなければならない(頭を cm から mm に切り換えなければならない)のであろう。 そしてmmを測りはじめる起点を目で確認しなければならない。しかもこの切り換えを、 cm と mm の目 盛が一続きにつながっている竹物差しで行わなければならないとなると、○cm〇mmを測る作業はそ れほど容易ではないと教師は認識できるであろう(以上を筆者は4名の児童から考えさせられた、考 える機会を与えられたわけである。この機会に気づけるかどうかも私たち教師次第である)。 この点を踏まえて筆者が作成したのがセンチ物差し・ミリ物差し(図③)である。まずミリ物差し には次の検討が踏まえられている。7cm8mmの線の長さを測定する場合、センチ物差しで7cmのと ころに印をつける([ ]cm[ ]mmの欄に7cmと記入する。ミリまで測った後に、纏めて7cm8mm と記入させない)。その印に竹物差しを当てた場合、児童は、cm と mm の目盛が一続きになっている ので、(1)印のところに竹物差しの端を当てた場合、0 cm から1 cm の間の10 mm 以降の目盛りも視 界に入ってくるため、0cmから1cmの間の10mmに注目して、1・2・---- 8と数えるのは難しいので
はないか。(2)線の左端(0cm)のところに竹物差しの端を当てた場合、7 cm から8 cm の間の10 mm 以降の目盛りも視界に入ってくるため、7cmから8cmの間の10mmに注目して、1・2・---- 8と数 えるのは難しいのではないか。その「わずらわしさ」がミリ物差しではなくなり、印のところにミリ物 差しの端を当てれば1・2・---- 8と数えやすくなり、児童はハシタを8mmと測定できると考えた。 他方、センチ物差しには次の検討が踏まえられている。教科書では、ブロック物差しから竹物差し に移行する前に、簡易物差し(図②)が中間の教材として使用されている。簡易物差しに代えて筆者 がセンチ物差しを図③の形態にしたのは、ブロック物差しと竹物差しとの中間的性格をより明確にし たいという考えに基づいている。その明確化は、児童におけるブロック物差しから竹物差しへの移行 を一層円滑なものとするはずである。センチ物差しは1cmのブロックをつなげたものでありながら、 上の横線を実線にしてその他を点線にすることで、上の横線に視線が焦点化されるようになってい る。このことでセンチ物差しは、マスに注目して線を測るブロック物差しと横線に注目して線を測る 竹物差しとの中間形態として位置づけることができる。この点が、本稿の実践はセンチ物差しから竹 物差しへの移行まで検証するものではないが、センチ物差しには踏まえられている。 以上のように竹物差しで○cm〇mmを測定できない児童の要因を検討して、筆者はセンチ物差し・ ミリ物差しを作成した。図②に類似した、各辺1cmの正方形マスを横に並べたセンチ物差しは、中川 三郎も何森和代(数学教育研究協議会)も用いており、1cm四方の正方形が印刷されている工作用紙 が使用されている(15)。他方、ミリの測定の教材は竹物差しが齋藤と菅野の指導計画では使われていた が、何森の指導計画では「工作用紙の小さな目盛り」が用いられている(16)。○ cm〇mmの測定を指導 するための教材の現状をここでさらに見れば、その測定を困難にしている要因分析を踏まえて本稿の センチ物差しとミリ物差しが作成されているところに、教材としての特徴を指摘できる。 [Ⅱ]竹物差しで長さを測定する実践記録-児童が測りたくなる教材を探し出す- 本章では、単元「長さをはかろう」終了後に担任教諭に実施いただいた、チョウとガの幼虫(実物 大)の長さを竹物差しで測るワークシート(WS)の結果について報告する。このWSは、単元終了後 でもどのくらいの児童が竹物差しで長さを測定できないかを把握して、さらにWSの対象物は児童が 測定したいと思えるものであるかどうかを検証するものである。 単元「長さをはかろう」の算数教科書や実践報告の現状を前にするとき、物差しのみならず測定の 対象物についても私たちは熟考する必要があるのではないだろうか。上述のように教科書では、消し ゴム・鉛筆の幅・サイコロの一辺・一円玉の直径等、身近なモノが対象物として挙げられている。斎 藤の指導計画では、「1cmの目盛りのついたものさし」による測定では「みんなの身の回りにあるも の」が、30cmものさし(竹物差し)による測定では葉書が対象物とされている(17)。その他、菅野の指 導計画では 30cmものさしによる測定で鉛筆が、何森の実践報告ではセンチ専用の物差し(1cm四方 のタイルを紙テープに貼った物差し)による測定で「いろいろなものや場所」が、中川の指導計画で はセンチ専用の物差しによる測定で植物の茎が、上村の提案では 30cm物差しによる測定でチョーク・ 鉛筆・ノート等が、対象物とされている(18)。 これらの対象物で授業をしたとき、測ってみたいという動機づけが児童の中に生まれるのであろう か。どんな対象物であればその長さを測ってみたいという意識が生まれるだろうか、この点もまた本 単元の授業構想において必要ではないだろうか。そこで筆者は、連携協力校の二年生活科の授業で畑 に同行したとき(2019 年7月2日)、児童がチョウの幼虫や昆虫をとって、楽しく過ごしている様子 を想起した。幼虫や昆虫の実物大の写真が掲載されている本があれば、そしてそれを本単元の教材と すれば、測ってみたいという動機が児童に生まれるのではないかと考えた。そうした本がないかと連 携協力校の図書館の先生にお尋ねしたところ、松下清『これはなんのようちゅうかな』を探していた
だいた(19)。同書には、チョウやガやタマムシ等の幼虫の写真が実物大で数多く掲載されている。 その中から十匹の幼虫を選択して筆者は、左側に幼虫の実物大の写真、右側に成虫の写真(実物大 ではない)を配置したWSを次の図④のように作成した。 【図④】モンシロチョウの幼虫の長さ このWS(10問)の正答状況は、児童24名において次の結果となった。 児童がWS に取り組む中、測定な困難な児童には、筆者と院生1名とが数問において援助に入った。 それを含んだ結果が表①である。4問正答(6問誤答)の児童A、6問正答(4問誤答)の児童B、7 問正答(3問誤答)の児童C・D、この4名の外、4私たちが援助に入って児童Eが8問正答(2問誤 答)、児童Fが9問正答(1問誤答)であった。以上【6名】は、本単元終了時点でも竹物差しによる 測定が困難である児童と見ることができ、いかなる援助が必要かを検討することが課題となった。こ の課題を前に筆者が作成したのがセンチ物差しとミリ物差しである。 この新たな教材による学習援助の結果を次章で報告する前に、児童はWSによる測定に楽しく取り 組むことができたのかどうかについて見ておこう。WS の最後に、質問1として「チョウやカブトム シなどの[ようちゅう]の[長さ]を[はかる]のは、たのしかったですか」と尋ねて、「①とって もたのしかった・②まあまあたのしかった・③たのしくなかった」いずれかを選択させた。その結 果、①が 21 名(88%)、②が3名(12%)、③が0名(0%)であった。これは、WSの測定の対象物 (幼虫)を児童が測りたいと思うことができたという一定の成果と見ることができよう。その際に評 価の在り方として、以上の【6名】による①あるいは②と回答は、測定がまだ困難であるという事実 とともに評価しておく必要がある。測定ができた中での①あるいは②の回答と、まだ測定が十分にで きない中での①あるいは②の回答とは区分して、質問 1 の結果を見ておく必要がある。【6名】の中の 児童Aは②を選択していたが、まだ測定が十分にできないから①ではなく②と回答したものと想定で き、測定が十分にできれば①が選択されたのではないかと思われる。 最後に、WSによる授業に対する児童の感想をいくつか紹介しておこう。これは質問1の後に質問2 として記述を求めたものである。質問1で①を選択した児童と②を選択した児童からそれぞれ2名の 感想、【6名】の中から2名(児童A・B)の感想を、この順番で提示してみよう。 【表①】WS(竹物差しによる測定)の結果 10 問正答:11 名(49%) 9問正答:6名(38%) 8問正答:3名(13%) 計 20 名(83%) 7問正答:2名(8%) 6問正答:1名(4%) 4問正答:1名(13%) 計4名(17%)
児童2のように対象物そのものに興味を持った記述は、「ヤサウゾウムシのせいちゅうを見たことあ るけど、また見てみたい」「タマムシのようちゅうを見てみたい」のように、複数あった。これらの 記述には「たくさんの虫の長さがいっぱい分かった」という感想よりも、対象物を測ってみたいとい う児童の動機づけが反映されていると思われる。こういう動機づけの考慮が、教科書および先行実践 事例における測定の対象物を見るとき、教材選択の検討事項として欠けていると思われる。 以上のWSの作成と実施によって、単元「長さをはかろう」終了後において【6名】に補習の必要 があることが分かり、同時に WS の対象物は児童が測定したいものであることが示された。それは、竹 物差しの使い方を練習させる補習に代わる、センチ物差し・ミリ物差しによる補習である。その教材 としての効果を、授業記録によって検証する作業が次章の課題となる。 [Ⅲ]「物差し教材」(センチ物差し・ミリ物差し)の効果-授業記録とその考察- 本章では児童Aの授業記録を中心に、「物差し教材」(センチ物差し・ミリ物差し)による児童【6名】 に対する指導記録を提示・考察して、本教材の効果を報告する。【6名】は本単元「長さをはかろう」 終了時点でも、竹物差しで〇cm〇mmを測定する作業に困難を示した児童で、教師用指導書の研究編 でも指導上の留意を促している「発達障害のある児童」ではなく通常学級の児童である(20)。 (1)【問題 1】の授業記録-児童Aの測定過程- 【6名】に対する指導を筆者はまず3名(児童A・C・E:2019年9月3日)、次に1名(児童D:9 月 10 日)、最後に2名(児童B・F:9月 17 日)に行った。指導は一人ずつ、筆者が作成したワーク シート(WS)に基づいて行った。WS(表①)で7問正答の児童 C・D の他、8問正答の児童 E と9 問正答の児童F にも、WS(表①)回答時に筆者と院生1名と担任教諭が援助に入ったので、センチ 物差し・ミリ物差しによる本章の指導を行った。この指導は、〇cm〇mmの線をまずセンチ物差しで 測って、[ ]cm[ ]mmの[ ]cmの欄に数字を記入させて、次にミリ物差しでハシタを測って、 [ ]mmの欄に数字を記入させている。センチとミリを両方測った後、両方の数字を記入させないよ うにした。本章では、まず児童Aの授業記録をして、次に他5名の指導を要約するかたちで、指導時 の6名の学習の様子について報告する。 まず【問題 1】における児童A の授業記録 A ①を見てみよう。この記録中には、児童A の長さの測 定がどのような状況にあるかを知るひとつの情報として、測定時間も記入している。なおWS【問題 1-1】の線と【問題 1-2】の線とは下図のように、線の起点(〇cm〇mm)をずらして記してある。 【表②】WSによる授業に対する児童(6名)の感想 1 ながいようちゅうとか、いろいろなものがはかれて、とってもよかったです。わたしはいろいろな ものがはかりたいです。 2 虫の写真や長さをはかるのがたのしかったです。一ばん見てみたいのはオオミズアオです。 3 じっさいは、そんなにはかれないけど、これは〔今回のプリントで取り上げた幼虫の数は〕、すく ないけど、虫がはかれて、よかったです。 4 かぶとむしをかっているので、ママとじいちゃんとばあちゃんにおしえます。ママにすごいねとい われたいです。なんでしっているのっていわれたら、さんすうではかったんだといいたいです。 A 一ばんちいさいのがありました。カブトムシわ〔は〕すきだけど、ほかのわ〔は〕きもちわるかっ たです(質問1の回答:②)。 B たくさんの虫の長さがいっぱい分かった(質問1の回答:①)。
【問題 1-1】せんの[ながさ]を[はかろう](5cm3mm:竹物差し) T:Aさん、これ(5cm3mmの線)測ってみて。 C:(竹物差しで測る) T:ゆっくりでいいよ(1分10秒経過)。 C:(プリントに[5] cm [6] mm と記入) T:Aさん、これ(竹物差し)、使いやすい? C:うふふふ----。 T:先生、今日、物差し作ってきたんよ(センチ 物差し提示)。ここに1cmと書いてある。この 物差し(竹物差し)だと1cm ってどこ? C:(竹物差しで1cmのところを指す) T:そこね。(竹物差し)1、2、3、4、5で、ここ 5cm。 T:(センチ物差し7cmのところ)ここは何cm ? C:6。 T:もう一回、数えて。 C:7。 T:うん、7センチ。 【問題 1-2】せんの[ながさ]を[はかろう](5cm3mm:センチものさし・ミリものさし) T:(5cm3mmの線)これ(センチ物差し)で測ってみよう。これ(この線)、何cm入ってる? C:(測る)5センチ(10秒)。 T:5センチ。早いね、もう一回、測ってみて。 T:5cm。 T:5cmのところに、(鉛筆で)ちょんとしてみて(印をつけてみて)。 C:(WS:[5] cm と記入) T:この残り(3mm)、1cmより大きい、小さい? C:小さい。 T:小さいなー。小さいのは、これ(センチ物差し)で測れる? C:測れない。 T:測れないなー。 T:今度はね、(ミリ物差し提示)これ、使ってみようか。これ、何て書いてある? C:ミリものさし。 T:このひとつ(1mm)が何ミリ? :6ʴୌ ʵ ʴୌ ʵͦΞ͵͗͠Νɼ͢͠Ͳͺ͖Θ͑ɽ ʨ ʩFP ʨ ʩPP :6ʴୌ ʵ ʴୌ ʵͦΞ͵͗͠Νɼ͢͠Ͳͺ͖Θ͑ʤιϱο ͢͠ʀϝϨ͢͠ʥɽ ʨ ʩFP ʨ ʩPP 授業記録A①(児童A)
C:1ミリ。 T:これ(ミリ物差しの1cm)、全部で何mm ? C:9ミリ。 T:1cm って、何ミリだっけ? C:10ミリ。 T:(ミリ物差し)数えてみて、1、2、3、4---- って。 C:10mm。 T:じゃ、このノコリ(3mm)は何ミリだろ? C:(ノコリ(3mm)をミリ物差しで測る)3 mm (17秒)。 T:3mm。 C:([5] cm の横に[3] mm と記入) T:もう一回、これ(竹物差し)で、測ってみよう(5cm3mm) C:5cm3mm。 この授業記録A ①によれば、(1)【問題 1-1】で児童 A は竹物差しで5cm3mmの線を測るのに 1 分 以上の時間を要している。しかも3mm の誤差で回答している。この事実から、5cm3mm を竹物差 しで測ることが難しいということがわかる。この要因は次の点にあると思われる。竹物差しでは cm と mm の目盛が一続きにつながっているので、㋐まずセンチを測るとき、ミリの線は無視してセンチ の線だけに注目しなければならない、㋑次にミリをはかるとき今度はセンチの線は無視して、測りは じめる起点(5cm)に視線を当てて、そこから1・2---と数えはじめなければならない。(2)【問題 1-2】で児童Aは、まずセンチ物差しで5cm、次にセンチ物差しで3mmと、いずれもそれほどの時間 を要せず測定できた。これは、竹物差しによる測定時の困難㋐がセンチ物差しによって、困難㋑がミ リ物差しによって取り除かれたことによると考えられる。ここに本教材の効果を見ることができる。 (2)【問題 2・3】の授業記録-児童Aの測定過程- 次に【問題2】における児童A の授業記録 A ②を、プラスマイナス1mm 誤差は正答扱いとする教 師用指導書を踏まえて(21)、見てみよう。【問題 2-1】は「一人でやってみて」というかたちで出発した が、まだ難しい様子で、次の【問題 2-2】でも同様の様子であった。 【問題 2-1】せんの[ながさ]を[はかろう](3cm5mm:センチものさし・ミリものさし) T:今度はAさん、一人でやってみて。まず、何センチ? C:(センチ物差しで測る)4センチ(15秒)。 T:4センチかな? T:(線(3.5mm)にセンチ物差しをあてがった状態で、(センチ物差しの1cmのところを指して)1 センチ、(2cmのところを指して)2センチ、(3cmのところを指して)ここ3センチ。(4cmのと ころを指して)ここは? C:4センチ。 T:4センチより長い? 短い? 授業記録A②(児童A)
C:短い。 T:ここ(3cm)は何センチ? C:3センチ([3]cmと記入。3.5cmの3cmのところに印をつける)。 T:じゃ、このノコリ(5mm)は何ミリ? C:(ミリ物差しで測る)5(40秒)。 T:うん、5。 C:([3]cmの横に[5]mmと記入) 【問題 2-2】せんの[ながさ]を[はかろう](8cm 7mm:センチものさし・ミリものさし) T:何センチあるかな。 C:9(15秒)。 T:(8cm 7mmの線に当てたセンチ物差し)ここまでが9センチ。9より長い、短い? C:短い。 T:この線の8(センチ)のところはどこ? C:(印をつける) T:8がここね。 C:([8]cm記入) T:ノコリは何ミリある? C:7ミリ(17秒)。 T:7あった? C:(もう一回測って確かめている)6(18秒)。 T:6。 C:([8]cmの横に[6]mmと記入) この授業記録A②のように、(1)センチ物差しで線の長さを測る場面で児童 Aは、【問題2-1】で4 センチ、【問題 2-2】で9センチと、いずれも1センチ多いところをまず答えている。これはおそらく、 3センチの目盛りと4センチの目盛りが両方目に入る中にあって、左側から長さを測っているという 意識が外れるのではないかと思われる(したがって後述の児童F同様に、児童Aは線ではなく、線の 右端の「点」が3と4との間にあることを見ているのではないかと思われる。それが「4」という発 言になっているのではないかと思われる)。児童Aが4センチと回答した直後、筆者は「(線の長さは) 4センチより長い? 短い?」という質問した。これに児童A が「短い」と答えたということは、左 側から線の長さを測っていることを意識したものと思われる。次の【問題 2-2】の最初でも児童A は 9センチと答えているが、これも【問題 2-1】同様のことが児童の意識の中で起きていたのではない かと思われる。(2)ミリ物差しでノコリ(ハシタ)を測る場面で児童Aは、【問題2-1】では約40秒で 「5」と答えた。次の【問題 2-2】では約 17 秒で「7ミリ」と答えて、測り直しでもほぼ同じ 18 秒で 「6」と答えた。ミリ物差しによるハシタの測定はできるようになったと見ることができる。 次に【問題3】における児童A の授業記録 A ③を見てみよう。【問題3】では児童 A は、まずセン チ物差しで、【問題2】のように1cm多い「7」ではなく「6」(センチ)と測定できている。【問題 3】では、左側から長さを測っているという意識を保ってセンチの測定ができたのではないかと思わ れる(このように児童の意識を考えてみることは、長さの測定等の技能は訓練するほかないという思
い込みから私たち教師が脱却するための要件である)。次にミリ物差しによるミリの測定は【問題2】 に続けてできている。線の長さ全体を6cm3mmと測る時間も約1分で、【問題3】では比較的順調に 6cm3mmの長さを測定できたと思われる。そして【問題 1-1】でできなかった竹物差しによる測定 も、【問題 3】の最後で、約 20 秒という比較的短い時間でできた。 【問題3】せんの[ながさ]を[はかろう](6cm4mm:センチものさし・ミリものさし) T:今度は先生だまっているから、ひとりでやってみて。 C:(まずセンチ物差しで測る)6(測った時間:15秒)。 T:6。 C:([6]cmと記入) C:(センチ物差しをミリ物差しに代えてミリを測る)。 C:(測って[3]mmと記入)(40秒) T:じゃ最後、これ(竹物差し)で測ってみて。 C:(線(6cm3mm)を竹物差しで測る:20秒) T:6センチ3ミリになってる? C:うん。 授業記録A③(児童A) 以上のように児童Aは【問題1・2】では、センチ物差しによるセンチの測定でつまずき(1cm多く 回答するつまずき)を見せながらも、【問題3】ではそれを克服して、センチ物差しとミリ物差しで 線の長さを測定できるようになった。これは、本教材(センチ物差しとミリ物差し)による指導の効 果と見ることができる(この点を再度検証するためには、児童が本教材による測定を後日できるか、 竹物差しによる測定を後日できるか、出題する必要がある)。その効果の要因は、cmとmmの目盛が一 続きにつながっている竹物差しから生まれる上述の困難㋐㋑(前節)が本教材によって取り除かれた ことになるのではないかと考えられる。センチ物差しではミリの目盛りが、他方、ミリ物差しではセン チの目盛りが目に入ってこないので、その心理的負担の軽減が本教材の効果の要因と考えられる。 (3)児童A以外の5名の指導記録 児童A 以外の5名に対する指導記録を、プラスマイナス1mm誤差は正答扱いとする教師用指導書 をここでも踏まえて、要約してみよう。(1)児童E(9月3日)は【問題 1-1】(5cm3mm)を竹物 差しで5cm4mmと回答できたが、センチ物差し・ミリ物差しによる測定指導をした。学習の推移は児童 Aとほぼ同様で【問題3】では自力で6cm3mmと測定できるようになった。(2)児童C(9月3日) は【問題 1-1】(5cm3mm)を竹物差しで5cm9mmと誤答後、【問題1-2】ではセンチ物差しで5cmと 回答できても、ミリ物差しを印(5cmのところ)に当てえず、ミリ物差しの左端が印より左側に数ミ リずれていた。その印にミリ物差しの左端を合わせるように【問題 2・3】でも指導する中、【問題 2-1】 で3cm 4mm(誤差1mm)、【問題2-2】で8cm 6mm(誤差1mm)、【問題3】で6cm 6mm(誤差2 mm)と回答できた。この結果でも【問題2-2】と【問題3】では、センチ物差しの左端を線の左端に当 ててセンチの測定はできたので、指導を継続すれば〇cm〇mmの測定ができるようになると思われた。 次に、特徴的なつまずきと思われたのが児童Dである。(3)児童D(9月10日)は、【問題 1-1】(5 cm3mm)を竹物差しで5cm4mmと回答できたが、センチ物差し・ミリ物差しによる測定指導をし
た。児童Dは、【問題2-1】(3cm5mm)を竹物差しで測定させたところ、3cm8mmと誤答した。し たがって竹物差しによる測定も十分ではないと見ることができる。その他の【問題 1-2】【問題 2-2】 【問題3】をセンチ物差しとミリ物差しで測定させたところ、【問題 1-2】でハシタ4mmのところを1 mmと回答した。次の【問題2-1】(3cm5mm)では3cm1mmと回答しなかったが、【問題2-2】と【問 題3】ではともに、センチ物差しによる測定はできたものの、ミリ物差しによるハシタの測定は両問 ともに1mmと回答した。このようにミリ物差しによる測定では児童Dはなぜハシタを1mmと回答し たのか、特徴的なつまずきと思われたその問題は筆者において未決状態となっている。ミリ物差しが 与えたと思われるその負の作用は今後の課題となった。 最後にまず児童B(9月17日)の指導記録である。(4)児童Bには、【問題1-1】(5cm3mm)の竹 物差しによる測定はできたが、センチ物差しとミリ物差しによる指導をした。両物差しの使い方を、 【問題 1-2】で児童に教えた後、【問題 2-1】【問題 2-2】【問題3】全てで両物差しによる測定ができた。 最後に6cm8mmの測定を竹物差しでさせたところ、児童 B は測定できた。以上の活動を終えて児童 Bに尋ねたところ、前章のWS(幼虫の長さを測る)の後、竹物差しによる長さの測定の練習をしたと のことであった。そして最後に「1cmは何ミリ?」 尋ねたところ、回答がなかった。そこでセンチ物差 しとミリ物差しとを上下に密着させて並べて(図 ⑤)、「1cm は何ミリ?」と再度聞いたところ、児 童B は 10 ミリと答えた。児童B は「1 cm = 10 mm 」 という明確な認識がない中で、〇cm〇mmの測定が できる状態にあったと想定される。 次に児童F(9月17日)の指導記録である。(5)児童Fは、竹物差しによる【問題1-1】(5cm3mm) は6cm5mmと誤答した。両物差しの使い方を【問題 1-2】で説明した後、【問題 2-1】【問題 2-2】を 両物差しで測定させたところ、センチを 1 センチオーバーで答えていた。そこで左側から測っている ことを意識させるために、声に出して1、2、3---- と数えさせた。【問題 3】(6cm4mm)でようや く、1センチオーバーではなく6センチと回答して、6cm3mmと測定できた。その1センチオーバー の誤答は、単元「長さをはかろう」の授業を二度参観する中で、複数の児童に見られた。その要因を 一考するために着目しておきたいのが、【問題1-1】で筆者が何センチか尋ねたときの児童Fの回答「6 の真ん中」である。児童 F は「(5cm3mmは)6センチに足りない」と、竹物差しで測っている5cm 3mmを見るのではなくて、最終の「点」(5 cm 3 mm の線の右端)が5センチと6センチの「真ん中」 にあると見ているのであろう。このため何センチか判断できず、【問題 1-1】の[ ]cm[ ]mmの cm の欄に6と記入したのであろう。したがって線を左側から測っているという意識を持たせるため に、センチの目盛りを左側から1・2---- と声に出して数えさせる指導は有効であったと思われる。 以上本章では、まず「物差し教材」(センチ物差し・ミリ物差し)による児童A の授業記録を、次 に児童5名に対する指導記録を提示して、児童の学習過程を考察してきた。児童A・F には本教材の 効果が、児童C・Dには本教材でも竹物差しでも測定が不十分な結果が示された。児童 B・Eは【問題 1-1】で竹物差しによる測定ができ、【問題 1-2】の後の【問題 2】以降、本教材による測定もできた。 この授業を記録に起こして考察することで(22)、問題の推移にしたがってセンチとミリの測定時間が短 くなっていること、5cm3mmを1センチオーバーで回答するとき「6の真ん中」と認知されている こと等、授業者は改めて知り考察でき、次回の実践の準備とすることができる。 【図⑤】1cm = 10mm
[おわりに]本稿の総括-児童生徒の知識理解に向かう教職大学院の教育実習指導- 以上本稿は、単元「長さをはかろう」(2年算数)において○cm〇mmを竹物差しで測定できない児 童に対する、「物差し教材」(センチ物差し・ミリ物差し)による指導の効果を報告してきた。本教材 による指導を【6名】に行った結果、竹物差しで【問題 1-1】を測定できた2名(児童B・E:児童D は竹物差しによる測定を【問題 1-1】でできたが【問題 2-1】でできなかった)を除く4名(児童A・ C・D・F)のうち、少なくとも2名(児童A・F)には本教材の効果が示された。この報告を終えて次 の点を再度確認しておきたい。「「cm」「m」を天下りに教えていませんか」と銀林浩・岩村繁夫が警 告しているように(23)、本単元のような技能の学習の場合、本単元終了後も長さを竹物差しで測定でき ない児童に対して、私たち教員は、練習・訓練を繰り返し積ませるしかないという「教育」に傾斜し がちとなるように思われる。したがって第一章に指摘したように、私たちは、使用される物差し教材 を改良しようという発想も、指導の中身を問い直そうという発想も持ちにくいのではないかと想定さ れる。この技能の「教育」観はぼんやりとそう思われているものだけに、余計に改善を困難なものに していると思われる。その「教育」観を自覚した上で本稿は「物差し教材」を作成して、それによる 授業記録と指導記録を提示・考察してきた。 その「教育」観に類似する想念に眼を向けておこう。世間的に教育困難校と見られている高校の生 徒をも対象として筆者は芦沢友也とともに、接頭辞に着目した英単語の授業プラン(内容)を開発・ 実践してきている(24)。その語彙学習を担う英語教育界にも、接辞・語根を用いた語彙学習は「英語力 の高い学習者」にとって有効であると書かれているように(25)、それは「できない」子には無理である という「教育」観が存在している。その想念は、一方に「できる」子用の、他方に「できない」子用 の授業内容があるという区分論を孕んでいる。この想念に従って私たちが動けば、「できない」子に は接辞・語根を用いた語彙学習ではない語彙「学習」をさせる、実際には機械的学習による語彙「学 習」をさせるということになるであろう。少なくとも「できない」子だからこそ、接辞・語根を用い た語彙学習は一層綿密なものとして構想しなければならないという方向で私たちが動くことはない。 そうした「教育」観を私たちが常識としている限り、「できる」子と「できない」子との分離は固 定されてしまう。通常学級におけるいわゆる「できる」子と「できない」子との往還、さらには通常 学級と特別支援学級との往還も生まれない。これに直接関係する、「障害児教育の研究をしていくこ とによって、その成果が正常児の教育に大きく貢献し得る」にはじまる遠山啓の指摘を引用してみよ う(26)。「盲児の教育を研究していけば、視覚が認識の発達にいかなる影響を及ぼすかを明らかにでき るであろうし、同じく聾児の教育を進めていくと、認識の発達に聴覚がいかなる役割を演ずるかが解 明されていくであろう。また知恵遅れの子どもは知能の発達の速度がゆるやかであるために、その発 達のメカニズムが正常よりはるかに詳細に観察できるのである。それは物体の運動をくわしく観察す るために、スローモーション・フィルムが有効であるのと同じ理由である。だから、普通学級の教師 も一度は障害児教育を体験すべきだと思う。とくに教員養成大学の教育実習にはかならず障害児教育 を課すべきではないだろうか」。これに次の文章が続いている(27)。 障害児教育の授業プランは、普通学級のそれに比べると、はるかに緻密でなければならない。普通 学級では、プランに少しぐらい穴があっても、年長の生徒であったら、うまく調子を合わせてくれる ので、破綻が表面化しないですむことが多い。しかし、障害児のばあい、わずかな穴があっても、授 業がつまずいてしまうものである。だから、授業には綿密な事前検討が必要である。それは授業をす る教師には大きな苦労を背負いこませるが、そのことはまた教師の力量を鍛えるのに絶好の機会を提 供している。しかも、そこで獲得された力量は通常学級にもおおいに役立つのである。
この遠山の見解は、私たちが上述の「教育」観に埋没している限り、理解できない。そしてその理解 のためには、同見解が指す授業経験が私の側になければならない(28)。 その経験として、通常学級のいわゆる「できない」子に対する本稿の指導は見ることができよう。 児童A が〇cm〇mmを測定できるようになる過程は非常にゆっくりしたもので、センチを1cm オー バーで答える等のつまずきもはっきり見られた。そのつまずきは、本単元終了時点で〇cm〇mmを測 定できた「できる」子にも、本単元の授業中に実はあったのだが、授業過程で自力修正され表出しな かったのではなかろうか。その修正が自らできない「できない」子には、そのための教材と指導内容 が必要となり、「できる」子の教材と指導内容に比して「はるかに緻密でなければならない」。この事 例が示すように「できない」子の場合、「わずかな穴があっても、授業がつまずいてしまうものであ る。だから、授業には綿密な事前検討が必要である」。センチを1cmオーバーで答えるつまずきを私 たち教師が看過する「わずかな穴」に、「できない」子は気づかせてくれるのであろう。本実践の「で きない」子の学習過程は「できる」子のそれを、スローモーション・フィルムのように見せてくれた 一例ではないかと思われる。ここには両者の質的な区分は存在しない。 最後に、院生Aは本教材による実践をどう省察したのかについて紹介して、私たち教職大学院教員 による指導の在り方を一考しておこう。これは、図⑤を含めた指導に対する院生Aの省察である。① 「教科書では、1cm 目盛りの簡易物差しでいろいろな線や物を測定した後、官製葉書を測るときに、 はしたの長さが出てきて、竹製の 30cm 物差しが登場することになる。しかし、竹物差しをすぐに登 場させず、ここで「センチ物差し」「ミリ物差し」を提示することが有効にならないだろうか。なぜ なら、1本目の物差しでcm の長さを測り、2本目で mm の長さを順に測ることで、cm と mm の2つ の単位(上位単位と下位単位)の必要性や、1mmが10集まると1cmになるなどの関係性が明確にな るからである。ここまでを十分学習させた後、竹物差しへ移行していくことで、はしたのある線を1 本の物差しで測ることのできる竹物差しの有用性が高まり、学習内容の円滑な理解につながるのでは ないかと考えた」。このように院生Aは、〇cm〇mmの学習指導で竹物差しと本教材とをどのように使 うかを省察の対象として、竹物差しによる指導を吟味できている。 こうした思考を私たち教職大学院教員は、授業内容から離れて方法を「研究」する教育界の方法主 義の風土の下では(29)、院生に保障できない。この点を踏まえて、ある教職大学院生(記子)の授業科 目「授業技術の理論と実践」に対するコメントを見てみよう(30)。「教科としての意義より、生徒がこ の授業を受けることによって、どう変わるのかっていうか、教科としての力はもちろん考えないとい けないですけど、それを抜かしても、その子にとってどういう影響がその授業にあるのかということを 考えて授業を作れって、いつもいつも言われて」、このように授業担当者から記子は指導を受けた(31)。 教科の知識理解を生徒に保障することを第一目的とせず、授業の生徒への影響を第一目的とするその 授業は、内容(知識)に密着していない点で、方法主義と見ることができる。この立場に筆者が立っ ていれば、院生Aに上述のようなコメントではなく、授業の児童への影響という漠然とした「コメン ト」を求めることになろう。その影響は教師側の全く主観ではないかという吟味は行われず、教師側 は自らの授業の生徒への影響を正当と思い込むところに、その「コメント」の怖さがあろう。 したがって方法主義の問題を意識して私たちは院生指導を作っていくことが要求される。上述のコ メント①に続けて院生Aは次のように述べている。②「以上のように、児童のつまずき要因を探ろう とする過程で、今回教材が開発されたのである。つまずきの対象を児童に転嫁するのではなく、何が 児童のつまずきになっているだろうかと考えられる責任ある教師を目指し、内容理解を促すための教 材開発に私も注力したい」。このようにコメント①を記した上でコメント②が書かれている点に、本 教材による実習の院生Aにおける意味を認めることができよう。コメント②は、コメント①を記した 上でのものなので、単なる決意表明ではない。筆者のこれまでの経験によれば、実習生の教科の知識
理解(例:位取りの理解(註 28))を問わないかぎり、実習生は、授業者の知識理解の問題点に気付 くことができず、したがって実習報告書のコメントは、「児童の意欲を高める教材研究が必要である と感じた」というような感想(単なる決意表明)となる。この現状から抜け出てコメント①のような 省察ができるように指導していくには、分数除法の計算の仕方の意味理解に取り組む等(32)、私たち教 職大学院教員が教科の知識を理解することが何よりもまず要件となる。 【註】 (1) 石井英真『今求められる学力と学びとは-コンピテンシー・ベイスのカリキュラムの光と影-』日本標準、2015 年。この 方法主義について石井は、わが国では「教材づくりや授業展開の構想といった、授業方法レベルでの工夫(どのように教 え学ぶのか)に視野が限定されがちです」と指摘している(同上、34 頁)。 (2) 藤井斉亮『新しい算数2上』東京書籍、2015 年、34-47 頁、藤井斉亮・飯高茂『新しい算数2上』東京書籍、2012 年、 36-49 頁。 (3) 新しい算数編集委員会『新しい算数2上(教師用指導書・指導編)』東京書籍、2011 年、64 頁、藤井斉亮・飯高茂『あた らしいさんすう1』東京書籍、2012 年、81-90 頁。 (4) 新しい算数編集委員会、前掲、65 頁、藤井、前掲(2015)、36-41 頁。 (5) 斎藤昭「長さ」筑波大学付属小学校算数部(編)『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて(小学校2年生上)』東洋館 出版社、2003 年、100-125 頁。 (6) 同上、106-107 頁。この報告では葉書の縦の長さは 14cm7mmと書かれている(111頁)。 (7) 同上、110-112 頁。このハシタ(1cmに満たない長さ)の用語は、算数指導書(新しい算数編集委員会『新しい算数2上 (教師用指導書・研究編)』東京書籍、2011 年、153 頁)のほかにも、「いちばん大きい目盛り(1cmきざみ)で何cmかを 読み、次にはしたをミリメートルの目盛で読む」と書かれているように(日本数学教育学会「長さ」『算数教育指導用語 辞典(第五版)』教育出版、2018 年、251 頁)、本単元において一般的に用いられている。 (8) 齋藤、前掲、112-113 頁。 (9) 菅野宏隆「2年生:長さ」新算数教育研究会(編)『リーディングス新しい算数研究(三)-量と測定-』東洋館出版社、 2012 年、68-71 頁、二葉博啓「ものさしを使おう(長さ)」数学教育研究協議会『数学教室』703 号、新評論社、2010 年6 月、68-69 頁。 (10) 菅野によるcm 測定の物差しは「ものさし(cm 目盛りだけのもの)」と説明されているに留まっている(菅野、前掲、68 頁)。図①㋑に工夫が施された物差し、あるいは図②に代わる物差し等であれば図示されているだろうから、菅野による cm測定の物差しも図①㋑あるいは図②に近いものと思われる。 (11) その作り方は次の通りである。センチ物差しの図面(図③上)を用紙に書いて、そのコピーをカッターと定規で切り取 る。その際、上の横線(実線)と左横の縦線(点線)は、線ぎりぎりのところを切り取る(1mm以上の余白を残して切 り取っては定規にならないので、多少の熟練がいる)。切り取ったその図面よりやや大きめに工作用紙を切る。その用紙 の上の横線と左横の縦線に、センチ物差しの図面の横線と左横の縦線とがきれいに重なるように、図面を工作用紙にス チックのりで貼りつける。その際、のりは工作用紙の方に塗った方がよい。ミリ物差しも同様の要領で作る。 (12) 新しい算数編集委員会、前掲(指導編)、65 頁。 (13) 同上、65 頁。 (14) 同上、65 頁。 (15) 中川三郎「長さ」新算数教育研究会(編)『算数授業の新展開講座-第2学年の指導-』東洋館出版社、1990 年、154 頁、 何森和代「長さの四段階指導」『こまったときの算数の教え方(2年生)』大月書店、2010 年、96 頁。この工作用紙を用い たセンチ物差しは、前掲『算数教育指導用語辞典(第五版)』でも紹介されているので(252 頁)、現場に広く浸透してい るものと思われる。 (16) 何森、前掲、98 頁。
(17) 齋藤、前掲、108-111 頁。 (18)菅野、前掲、68-70 頁、何森、前掲、96-97 頁、中川、前景、153 頁、上村久「長さ」数学教育研究協議会『数学教室』717 号、 国土社、2011 年8月、62-63 頁。 (19)松下清『これはなんのようちゅうかな』学研教育出版、2015 年。 (20)新しい算数編集委員会、前掲(研究編)、159 頁。 (21)同上、158 頁。 (22)この点を敷衍しておくと、授業者が授業中にはわからなかった児童の発言を、授業記録を起こすことではじめて理解でき ることは多々ある。この点を4年生算数の授業(仮分数を帯分数に直す授業)で本学教職大学院2年生(2017 年度)末木 貴大は経験して、授業記録を起こす必要性を認識・指摘している(末木貴大・梶原郁郎「仮分数を帯分数になおす教授学 習過程-授業内容の構想・実践・効果-」『山梨大学教育学部紀要』第 30 号、2019 年、197-211 頁)。その授業中に末木は、 児童による仮分数を帯分数に直す手続きがわからず、授業記録を起こしてその児童の発言を熟考する中で、ようやくその 意味するところを理解している。これは、授業記録を起こさなければその児童の発言は放置・忘却されたであろうことを 意味する。これは、教師の専門的力量の向上に関わって授業記録の必要性を教えている。 (23)柴田義松(監)銀林浩・岩村繁夫(編著)『算数の本質がわかる授業⑤-いろいろな量-』日本標準、2008 年、21 頁。 (24)梶原郁郎・芦沢友也「英単語の機械的学習を改善する教育実習指導-既有知識を意図的に活用する有意味学習の経験を保 障する-」『山梨大学教育学部紀要』第 29 号、2018 年、111-125 頁、梶原郁郎・芦沢友也「英単語の有意味学習を図る授 業内容の構想と実践-既知を活用した接頭辞 con の英単語の体系的学習-」『教授学習心理学会第 15 回年会予稿集』2019 年6月 22・23 日、24-25 頁。 (25)投野由紀夫(編)『英語語彙習得論-ボキャブラリー学習を科学する-』研究社、2003 年、75 頁。 (26)遠山啓著作集『数学教育論シリーズ(1)数学教育の展望』太郎次郎社、1981 年、193 頁。 (27)同上、193-194 頁。 (28)その授業経験を意図的に創出する作業は難題である。「できない」子とされる児童の中に、例えば筆算「12 + 13」の答を 「205(ニジュウ・ゴ)」と書く児童がいる。この児童に私たち教師が対応できるには、位取りの知識をはっきりと理解し ておくことが要求される。その理解によって「できない」子へ対応できれば、「できる」子も位取りをはっきり理解でき るように援助できるようになるであろう。このような具体的課題に数学教育研究協議会の授業内容研究は応えてくれるの で、そしてそれは現在の課題でもあるので、同研究は私たち教師において随時学習されてよい(拙稿「「数え棒」教材の 問題点-数学教育協議会のタイル教材の意義を振り返る-」極地方式研究会(編)『デポ』139 号、2013 年、58‐68 頁)。 そうした学習に裏打ちされた授業経験がなければ、私たちは遠山の経験をわが事として読むことはできない。 (29)石井、前掲、34 頁。 (30)井上雅彦「新人教員養成のための教職大学院カリキュラムの理論と課題-授業力高度化コースに焦点をあてて-」『京都 教育大学大学院連合教職実践研究科年報』 (3)、2014 年、20 頁。 (31)記子(国語教育)に井上(教師)は、国語の授業を含む二年間の学びについてインタビューをして、授業が苦手な理由は 「教材で何を身につけさせるのかに自信がもてないからだと言う」と述べている(同上、21-22 頁)。これは、教職大学院 教員が自ら教科の知識理解に取り組んで、教科の知識理解の保障を授業の軸にしていない場合、必然的に生起する事態で ある。その点に記子は、院生らで国語科研究会を作り対応している(22 頁)。つまり記子らは、「何を身につけさせるのか」 という内容の学習は授業外部で補おうとしている。教科の知識理解が授業外部の事項となっている点に方法主義の根深さ がある。これは、方法主義が教育界全体の問題であること(石井、前掲、34 頁)を踏まえれば、例外事例ではなく典型事 例であろう。この方向に私たちは大学教育をこれまで以上に進めているのでないかという懸念を記子の苦悩に看取してお く必要は、教育危機の問題としておさえられておいてよいだろう。 (32)拙稿「意欲・誠意の評価項目に対する大学生の肯定観-道徳教育の評価問題に関わる調査と考察-」『山梨大学教育学部 紀要』第 28 号、2018 年、230 頁。