利益測定構造とその学習
―簿記・会計学習導入段階の課題―
Income Measurement Structure and Its Teaching Method :
Some Problems in the Introductory Stages
of Bookkeeping and Accounting
寺戸節郎
SetsuroTERADO
複式簿記の基礎知識と記録・計算技術の修得は,簿記・会計の高度な学習と応用に不可欠である. しかし,複式簿記の記録・計算方式は,特有の形式を有する.よって,学習の動機づけが特に重要に なる. 本稿では,簿記・会計の導入単元における,記録・計算方式の学習方法とその課題について考察する. 標準的2欄形式のもとでは,記入と財・事実クラスの増減の関係が曖昧になる.その結果,記入と 貸借対照表等式,損益計算書等式との関連が理解しにくい.また,貸借対照表等式,損益計算書等式 の関係,その根拠も不明確である. これらの問題を緩和するひとつの試みは,経済事象の記録への増減符号の導入である.その結果, 2欄形式による記録は必ずしも必要でなくなる.現状の学習方法の再検討は,内在的要因および環境 的要因から必要になる. キーワード:簿記・会計教育 科目統合 原理探究過程 利益計算構造 複式増減記録1.はじめに
会計の分野においても,他の分野と同じく理論の深化 と適用領域の拡大,実務の高度化が見られる.その過程 では,周辺諸科学の成果が導入され,新しい情報処理技 術が適用されている.しかし,会計の基本的な記録・計 算システムは複式簿記である.また,財務会計における 利害調整のための会計情報の基本的伝達手段は,複式簿 記による記録から作成される財務諸表である.したがっ て,複式簿記の基礎知識と記録・計算技術を修得するこ とは,将来の高度な学習と応用を可能にするために不可 欠である. 簿記・会計関係の科目において,記録・計算の対象と して間接的に学習の対象になる経済活動は,企業による 経済活動である.しかも,それには財・サービスの取引 だけでなく,資金の取引も含まれる.さらに,直接の学 習対象である記録・計算方式は,複式簿記特有の形式を 有する.よって,簿記・会計関係の科目は,学習者にとっ ては,他の経済・経営科目と比べてなじみが薄い.そこ で,導入段階において簿記・会計に親近感をもたせ,学 習を動機づけることが特に重要になる. しかし,複式簿記に特有な記録・計算方式は,学習の 動機づけを妨げる可能性を有している.本稿では,高等 学校の商業科目における簿記・会計科目を手がかりとし て,簿記・会計の導入単元における,記録・計算方式の 導入方法とその課題について考察する.H.簿記・会計の学習目標・内容
経済学教室 (1)簿記・会計科目統合の意義 商業科目にっいて,高等学校学習指導要領は1970年と 1978年の2度にわたって大きく改訂1)された.1970年 の改訂の特色は,商業科目が細分化され,同時に情報処 理およびマーケティング関係の科目が新設されたことで ある.1978年の改訂の特色は,逆に科目の統合が図られ たことにある.この2度の改訂は,いずれも商業活動, 事務および経営管理に関する活動・手法の革新に対応し たものである. 1970年の改訂においては,科目を新設することによっ て新しい活動・手法が学習対象に含められた.しかし, 分化した専門的な経営管理の知識・手法は,革新によっ て陳腐化するのも早い.そこで,1978年の改訂において は,革新への適応力を養成するため2)に,むしろ基礎的な知識・手法に修得対象が絞り込まれた. 商業科目のうち簿記会計関係科目は,1970年の改訂前 は「商業簿記」,「会計」と「銀行簿記」,「工業簿記」に よって構成されていた.ところが,1970年の改訂では, 「商業簿記」,「会計」が「簿記会計1∼皿」に編成替え され,さらに,「機械簿記」,「税務会計」,「経理実践」が 加えられた.しかし,1978年の改訂によって,「簿記会 計1∼皿」が「簿記会計1,ll」に再編成され,「経理 実践」は「総合実践」に統合された.また,「銀行簿記」, 「機械簿記」は主要科目から除かれた. (2)簿記・会計の位置づけ 商業科目は,その学習の対象から分類することができ る3).商業科目の学習対象は,経済社会機構・経営活動, 経営支援活動・手法,経営成果測定・開示に大別される. その学習内容には,知識,新原理,技能が含まれる.「簿 記会計」の学習対象は,経営活動の記録およびそれに基 づく経営成果の測定と開示である.学習内容は,新原理 および技能である. 今日,多数の人々が企業に対して利害関係を有する. それらの人々は,企業に関する様々な経済的意思決定を 行う.経営者による意思決定はもとより,その他の人々 による経済的意思決定においても,会計情報は大きな役 割を果たす.したがって,適切な経済的意思決定を可能 にするため,あるいは,有用な会計情報を作成・提供す るためには,会計情報を生み出す記録・計算の体系,そ の根底にある会計理論について学ぶ必要がある.さらに, 経済活動の計数的把握は,日常生活における経済活動を 合理的に営むうえでも必要である. 会計の直接的な認識・測定の対象は,経済財のフロー である.したがって,経済価値の変動を生じる経営活動 が記録の対象になる.よって,「簿記会計」は,経済社 会機構・経営活動を対象とする諸科目(「商業経済1, ll」,「商業法規」,「マーケティング」など)と密接に関 連する.また,会計の操作的機能(認識・測定,伝達) は,事務・情報処理システムを通じて遂行される.よっ て,経営支援活動を対象とする諸科目(「計算事務」, 「文書事務」,「情報処理1,皿」など)とも関連する. 経営成果の測定は,複式簿記による経済事象の記録に 基づいて行われる.複式簿記の基礎的な知識と技術は, 「簿記会計1,fi」において学習される.複式簿記は, 経済事象の2面的把握,加法的減算という,特有の記録・ 計算方式を有す.しかも,標準的形式による複式簿記の 記録・計算は,ひとつの技能である. よって,経営支援活動・手法を対象とする諸科目の多 くと同じく,「簿記会計」の学習内容には,複式簿記特 有の記録・計算方式という新原理が含まれる.同時に, それに基づく経済事象の記録・計算という技能も含まれ る.したがって,一般に「簿記会計」の学習は,体験的 学習による原理探求の形態がとられる. (3)「簿記会計」の学習体系 「簿記会計」で学習する内容は,記録・計算に関する 複式簿記の原理(「簿記会計1」)と,認識・測定,開示 に関する企業会計の基礎理論(「簿記会計ll」)である. 前者は,経済財および経済事実(資本およびその増減) 概念と相互関係,ならびに経済事象の記録原則,経済財・ 経済事実別集計,利益計算への集約原則を含む.後者は, 会計情報作成・開示の基本原則,キャッシュ・フV・一一の 期間配分基準,クラス別の経済財フロー・経済事実の認 識・測定の基準,分類・表示の基準を含む. 一般に簿記・会計においては,経済事象の記録と利益・ 資本への集約を反復しながら,より複雑な経済事象への これらの原理の適用が学習される.
皿.記録・計算原理
(1)経済事象の記録原則 会計は経済量を測定し,その結果を伝達する.ストッ ク経済量はフロー量の累計である.よって,測定対象の 最小単位は,経済量フローである.経済量フローの典型 は経済財のフローである.経済財フローのデータは, 〔財のクラスai,フロー価値額vi,時点tz〕4)という構 成をとる. ところが,経済主体が保有ないし使用している経済財 には,借り入れた経済財が含まれる.したがって,所有 財の価値額(資本)を測定するには,保有ないし使用財 価値額から借り入れた財の価値額分を控除することが必 要である.しかし,保有財ないし使用財(資産)から借 り入れ財を区別することは困難である.その場合,所有 財の価値額測定は,負の価値を有す財(負債)を擬制す ることによって可能になる.すなわち, 資産A+負債(−L)=資本E. (3. 1) 経済活動は,連続する経済財フU一を生じる.資産の 流入を〔ai,+vi, tz〕と記録するとき,資産の流出は 〔ai,△vi, t・)と記録される.さらに,負債の消滅,発 生は,それぞれ〔aj,△(一勿), tz ),〔α」,+(−vj), t・ )と記録される.この関係は,次のようになる5). 価値増加(+) 価値減少(一) 資 産 + Vi 負 債 △(−Vj) △ Vi +(−Vj)連続する経済財フローは,対価関係(取引)によって 分割できる.取引には経済財の流入,流出が対応する場 合(交換取引)と,一方が単独で生じる場合(非交換取 引)とがある.さらに,前者には経済財の流入・流出が 価値に関して均衡する場合と,均衡しない場合とがある. 経済財フローは,所有財価値額の変動をもたらす.そ れ故,不均衡取引によって資本価値は増減する.経済財 フローの不均衡は,利益に作用する場合と中立的な場合 とがある.利益中立的な不均衡は,所有者の持分変化に ともなう所有財変動によって生じる.流入・流出の対応 と価値均衡,利益との関係は,次のようになる.
‡交㌶\㌶z灘蕊㌶
費用の発生は,それぞれ〔nr,一{+Vr}, t・ ),〔n、,一 {△Vc}, tz〕と記録される8).この関係は,次のように なる. 価値増加(+) 価値減少(一) 資 本 収 益 費 用 {△Vle} {△Vc} {+Vk} {+Vr} よって,持分変化による経済財フローの集合Kに属さ ない経済財フローの価値額の集計V(R)により,利益 が計算される6).しかし,均衡取引に含まれる経済財フ ローの価値額集計値V(B)は,利益中立的である.よっ て,集合Kに属さない経済財フローから,Bに属す経済 財フU−一をさらに除いて価値額を集計すること(V(B ∩幻)により利益が計算される.その場合,利益計算 に要する経済財フロー記録データ数を節約することが可 能である. しかし,不均衡取引に含まれる経済財フローの集合Bを 識別するには,取引を測定単位にすることが必要である. さらに,集合Kに属さない経済財フローを識別するには, 持分変化による経済財フローか否かの情報が必要である. 経済フロー発生の事実内容に関するデータは,〔経済事 実のクラスni,フロー価値額Vk,時点tz〕という構成 をとる.その場合,フロー価値額は,流入価値額viiと 流出価値額vi。の差額である.すなわち, Vle=一{vii+vi。}. (2)記録の集約・計算構造 前項の経済事象データは,次のように経済財および経 済事実別に集計される. 価値増加(+) 価値減少(一) 資 産 + Ait Σ(+ γり 負債Σ(△(一乃)) 資本Σ(一{△Vk}) 収 益 費用Σ(一{△Vc}) Σ(△ Vi) +(−L元り Σ(+(一乃)) 一{+Ekt} Σ(一{+Vk}) Σ(一{+Vr}) (3.2) ところが,業績尺度として利益を計算する場合,経済 価値の流入額に対する流入・流出の差額の関係が重要で ある.よって,その場合,不均衡取引に含まれ,かつ持 分変化によらない,経済財の流入額と流出額とにフロー 価値額が分解される7).すなわち, Vk=一{+vii},または一{+vio} (3.3) これにより,取引単位の記録形式が次のように統一され る.すなわち,均衡取引〔α{,vi, tz;aj,〃ゴ, t・),不均 衡取引〔ai, vi, tz;ni,一{vi},幻. 持分の増加を〔nk,一{+Vk},幻と記録するとき, 持分の減少は〔nle,一{△Vk}, tz〕と記録される.収益, ただし,Ai t,(−Ljt),一{+Ek t}は期首累計. 経済財,経済事実別の価値額集計値は,次のように集 約される. 価値増加(+) 価値減少(一) 資 産 負 債 資 本 収 益 費 用 Ait+1 一{△Vc(の} (−Ljt+1) 一{+Ekt+1} 一{+Vr(t)} ただし,Ai t+1,(一L力+1),一{+Ek t+1}は期末累 計.一{+V・〈t)},一{△Vc(t)}は期中合計. 前項の記録原理より, Σ(Ai t+1)一Σ{△Vc(t)} =一 ー(−Lゴt+1)+Σ{+Ekt+1}+Σ {+Vr(t)}. (3.4) さらに,それらの集計値は,ストック量とフロー量と に区分される.すなわち, Σ(Ai t+1)+Σ(−Ljt+1)一Σ{+Ek t+1} =Σ{+Vr(t)}+Σ{△「Vc(t)}. (3.5)前者には,経済財クラス別在高と持分変化事実のクラス 別累計が含まれる.後者には,営業活動による所有財価 値額増減事実のクラス別正味発生高が含まれる.区分さ れた集計値は,それぞれ一覧式の報告書(貸借対照表, 損益計算書)に集約される9). 利益πは,営業活動による所有財価値額の,増加事実 と減少事実の正味発生高の差額である.すなわち, π=Σ{+Vr(t)}+Σ{△Vc(t)}. よって, Σ(Ait+1)+Σ(−Ljt+1)一Σ{+Ekt+1}=π. (3.6) したがって,両報告書は利益を媒介として結び付いて いる.以上の関係は次のようになる. (+) 貸借対照表 (一)
資産Σ(Ait+1)
負 債 資 本 利 益 Σ(−Ljt+1) 一Σ{+Ekt+1} 一 π (+) 損益計算書 (一) 一Σ{+iVr(t)} 資本の定義と貸借対照表等式より,貸借対照表における 資本内訳関係表示式が導かれる.すなわち, 期末資産At+1=期末負債Lt+1+期首資本Et +当期純損益π(t). (4.4) 収 益 費 用 利 益 一Σ{△Vc(の} πW.記録・計算原理の学習
(1)経済財・経済事実概念と相互関係 簿記・会計の標準的な学習方式では,導入段階におい て,先ず資産・負債,資本,ならびに収益・費用,利益 の概念とそれぞれの相互関係が規定される. すなわち,はじめに資産,負債から資本が前節のよう に定義される.次に,資本額の算定式(資本等式)が導 かれる.すなわち, 資産A一負債L=資本E. (4.1) これより,保有財の額とその内訳の関係表示式(貸借対 照表等式)が導かれる.すなわち, 資産A=負債L+資本E. (4.2) 他方,営業活動による資本純増減として純損益が定義さ れる.つまり, 期末資本Et+1一期首資本Et=純損益π(り (財産法). (4.3) さらに,収益,費用が資本増減の原因として定義され, 純損益の算定式が導かれる.すなわち, 収益R(t)一費用C(t)=純損益πω (損益法). (4.5) 次に,収益・費用,利益の関係表示式(損益計算書等式) が示される.すなわち, 費用C(t)+純損益π(の=収益R〈t). (4.6) しかし,純損益が貸借対照表の場合と反対側に表示され る必然性は示されない. 最後に,貸借対照表等式,損益計算書等式から資産・ 負債・資本,収益・費用・利益の全体としての相互関係 (試算表等式)が導かれる.すなわち, 期末資産At+1+費用C(t) =期末負債Lt+1+期首資本Et+収益R(t). (4.7) これから貸借対照表および損益計算書における純損益額 の一致が導かれる.すなわち, (期末資産At+1一期末負債Lt+1) 一期首資本Et =収益R(t)一費用C(t). (4.8) しかし,結局,利益の反対表示の根拠は直接的には示さ れない10). (2)標準的記録・計算形式 周知のように,経済事象の標準的な記録形式としては, 2欄形式が採用されている.しかも,記入されるフロー 価値額はその絶対値である.その場合,流入,増加発生 はそれぞれ流出,減少発生と逆の欄に記録される. よって,2欄形式の各欄は,それぞれ前節の経済価値 増加側(借方),経済価値減少側(貸方)に対応する. フm−一,発生事実の内容は,経済財,経済事実のクラス と価値額の記入欄の組合せから判断することができる. 取引単位の記録内容・形式に基づき,経済事象は経済 財・経済事実のクラス別に記録集計される.したがっ て,2欄形式による財・事実のクラス別の(勘定11))記 録が行われる.また,周知のように,各クラスの流入, 増加発生側へのフU−一額記入による加算,その反対側へ の記入による減算により,残高,あるいは正味発生額が 計算される(加法的減法).V.2欄形式の必要性と問題点
(1)標準的2欄形式の特質 2欄形式は,取引単位の経済事象の記録(仕訳)にお いて,経済財フロー,発生経済事実の対応関係を表示す るのに便利である.経済財・経済事実別の記録では,当 然クラス別2欄形式の両欄には,流入・流出,増加・減 少発生いずれかが一元的に記入される.よって,財・事 実別の記録において,2欄形式は相反する方向のフロー とストックの一括表示に都合がよい記録形式12)である. しかし,取引単位の経済事象の記録において,標準的 な2欄形式の各欄は,経済財フローと発生経済事実の記 入が混在する.しかも,経済価値増加側に減少発生事実, 経済価値減少側に増加発生事実が記録される.したがっ て,前節での考察から明かなように,各欄で流入と増加 発生,流出と減少発生にそれぞれ共通の符号を付すこと はできない.フロー,発生事実の内容から,経済財・経 済事実のクラスと価値額記入欄の組合せが選択されなく てはならない.W.増減記入と2欄形式の接合
(1)経済財フロー単位の増減記録 前節で考察したように,利益測定構造の学習と標準的 2欄形式による経済事象記録の学習の間には不連続性が 存在する.この問題を緩和するいくつかの試みが既に示 されている.ひとつの試みは,経済財フローの記録に増 減符号を付すことである. すなわち,資産の流入〔ai,+vi, tz〕,流出〔ai,△vi, t・)と同様に,負債の発生,消滅は,それぞれ〔ω,+vゴ, tz〕,〔ω,△vゴ, tz〕と記録される.これらの記録は経済 財のクラス別に集計・集約され,資本等式より期末資本 が計算され,さらに純損益が計算される.この関係は次 のように示すことができる. 資産(+) 負債(一) + Vi △ Vi + 「7元 △ 乃 (2)記録・計算原理学習上の問題点 導入段階においては,財・事実のクラスと記入欄の組 合せは,貸借対照表等式,損益計算書等式から導かれる. すなわち,勘定式の貸借対照表,損益計算書における残 高あるいは正味発生額の記載と同じ側に,流入あるいは 発生が記入され,流出は逆側に記入されることが示され る. ところが,貸借対照表等式と損益計算書等式の関係は, 決算手続き学習の段階まで明らかにされない.周知の取 引8要素の結合関係図のように,経済財フu一と発生経 済事実の結合関係がどのように記録されるかが示される のみである. その結果,取引単位記録の学習の段階では,なぜ経済 価値増加と減少発生事実,経済価値減少と増加発生事実 がそれぞれ同じ欄に記入されるのか,理解するのは困難 である.さらに,なぜ貸借対照表等式と損益計算書等式 がそのような関係を有すのかは明らかにならない. また,フロー価値額には全く符号が付されない.よっ て,フロー価値額記入と経済価値増加・減少,増加・減 少発生事実との関連も曖昧になる.さらに,経済事象の 記入と貸借対照表等式,損益計算書等式ないし資本,純 損益の定義式の関連が不明確になり,経済事象が意味す る価値増減の認識が困難になる.そこで,記帳練習によ る経済事象別の結合関係パターンの発見と修得が,学習 のうえで重要になる.資産(+)負 債(一)資本
期首在高 ΣAit ΣLjt
増減ΣVi(t)Σ乃ω
期末在高 ΣAit+1 ΣL元τ+1 ただし,Vi(t},γソω, Vk(t)は,期中合計. Et ΣVk(t) Et+1 =Et+π(t) 一ΣVk(t) この記録形式によれば,経済財の流入・流出ないし増 減が明確になる.しかし,測定単位が経済財フローであ る場合,純損益額は総括的に示されるだけである.収益, 費用の総額は,次のように,経済財フローを利益作用フ U・一一と利益中立フローに分割し,前者を上記と同様に集 計して得られる.収益(+)費用(一)
発生額 Σ Vr(t) Σ Vc(t) ところが,この場合,上記のフU−一分割は記録・計算 形式の外部で行われる.収益,費用の総額は,それを所 与として利益計算の外部で補足的に計算されるに過ぎな い.しかも,利益に作用する経済財フロー額が集計され るだけである.上記の記録データ内容から明らかなよう に,純損益の発生原因ないし収益,費用の内容は示され ない. すなわち,経済財クラスの増減符号を記録・計算形式 に導入することで収益,費用のクラス別計算を当該形式に内在させることはできない. (2)取引単位の2欄形式増減記帳 さらに,経済財フローだけでなく発生経済事実の記録 に増減符号を導入する場合を考える.すなわち,経済財 の流入・流出と同様に,所有財価値の増加,減少の発生 は,〔nr,+Vr, tz〕,〔nc,+・Vc, t・ )と,それぞれ記録さ れる.この記録・計算形式は,負債と資本の資金源泉と しての同質性の認識に基づく. その結果,経済財フローと経済事実に付される増減符 号は,次のように,資金運用または資金源泉の増減とし て整合性を有する. 資金運用(+) 資金源泉(一) 視する場合,所有財価値減少の発生は〔nc,△Vc, t。〕 と記録される.この記録・計算形式は,営業活動による 資本価値増加・減少としての収益・費用の対応関係の認 識に基づく.その結果,次のように,経済事実に付され る増減符号は,資本の増減として整合性を有する. 資金運用(+) 資金源泉(一) 資 産 + Vi △ Vi 負 債 資 本 資 産 負 債 資 本 収 益 費 用 + Vi △ 乃 △ Vk + Vc △ 十 十 十 Vi Vj
Vk
Vr
この形式による経済事象記録13)は,標準的2欄形式に よる記録と全く同様にして集計・集約される.よって, 純損益の発生原因ないし収益,費用の内容が示される. しかし,この形式は標準的2欄形式に増減符号が導入 されたものである.したがって,利益測定構造の学習と 経済事象の記録の学習との間には依然として不連続性が 残る.すなわち,経済財の流入・流出と価値増減事実の 発生は,資金運用または資金源泉の増加・減少として同 質的に記録される.つまり, 期首資産At+{資産増減ΣVi(t)+費用C(り} =期首負債Lt+期首資本Et+{負債増減ΣVj(川+資 本増減ΣVle(t)+収益R(t)}. (6.1) 収 益 費 用 + 乃 △ Vj + Vk △ Vk + 「Vr △ γε この形式による経済事象記録14)は,標準的2欄形式 による記録と全く同様にして集計・集約することができ る.純損益の発生原因ないし収益,費用の内容も示され る. しかし,この形式は標準的2欄形式に増減符号が単純 に導入されたものではない.費用を営業活動による資本 減少として記録する.すなわち, 期首資産At+資産増減ΣVi(t) =期首負債Lt+負債増減ΣVj(t}+{期首資本Et +資本増減ΣVk(t)+収益R(t)一費用C(t)}. (6.3) よって,資金運用としての資産増加と運用資金の減少と しての費用発生の識別,すなわち, 期末資産At+1 =期末負債Lt+1+{期首資本Et+資本増減ΣVk(t) +収益R(彦)一費用C(t)}, (6.4) したがって,資金運用内部,資金源泉内部における経 済財流入・流出と経済価値増減事実発生の識別,すなわ ち, 期末資産4‘+1+費用C(t) =期末負債Lt+1+期首資本Et+収益R(t) (6.2) がなされ,貸借対照表等式と損益計算書等式の関係,つ まり, 期末資産At+1−{期末負債Lt+1+(期首資本Et +資本増減ΣVk(t))}=π(り=収益R(t)一費用C(,), (6.5) は,記録・計算形式の外部においてなされる.ことに, 資産流入と価値減少事実の同質的記録は,利益計算上の 両者の差異を曖昧にする.以上の結果,貸借対照表等式 と損益計算書等式の関係は,むしろ不明確になる. (3)取引単位の複式増減記録 経済価値減少事実の,発生ではなく発生事実内容を重 が明確になる. その結果,利益測定構造の学習と経済事象記録の学習 の間に連続性が与えられる.すなわち,損益計算書等式 から導かれる収益・費用の記録と貸借対照表等式から導 かれる資産・負債,資本の記録が,なぜそのような関係 になるかが明らかになる.皿、むすび 簿記・会計を学ぶうえで,複式簿記における記録と利 益測定の原理の学習は,その後の学習の基礎になる.そ の場合,一般に標準的な2欄形式による記録・計算を前 提として学習が進められる.しかし,標準的2欄形式は, それまでに学ぶ記録・計算形式と全く異なっている15). よって,初めての学習者にとって,標準的2欄形式を前 提とする記録・計算原理の学習はかなりの負担となる. 学習の動機づけの点からこれは望ましくない. 標準的2欄形式における加法的減法のもとでは,フn一 価値額記入と財・事実クラスの増減との関係が曖昧にな る.その結果,利益測定構造から記録原則を学習する場 合,経済事象の記入と貸借対照表等式,損益計算書等式 との関連が理解しにくい.逆に,経済事象の記録パター ンの学習から利益測定構造を探究する学習形態をとる場 合,記録原則から貸借対照表等式,損益計算書等式を発 見するのはかなり困難である. また,経済事象の記録と利益・資本への集約を反復し ながら学習するサイクル・メソッドのもとでは,前者の 場合,決算手続きの学習まで貸借対照表等式,損益計算 書等式の関係は不明確である.後者の場合も,その段階 まで記録原則と貸借対照表等式,損益計算書等式の関係 は曖昧である. したがって,どちらの場合も,経済財フローの記録と 経済事実の記録の関係が明らかにならない.いずれにし ても,試算表等式は経済事象の記録原則から導かれる. よって,結局その基礎にある貸借対照表等式と損益計算 書等式の関係の根拠は明らかにならない. これらの問題を緩和するひとつの試みは,経済事象の 記録への増減符号の導入である.増減符号は,経済財な いし経済事実のクラス別,あるいは,資本運用形態,資 金源泉形態のクラス別に付される.その結果,対置によ る減算は必要ない.よって2欄形式によって記録するこ とは必ずしも必要ない. しかし,現状において標準的2欄形式を前提とする簿 記・会計学習を全面的に見直すことは不可能である16). 学習内容に応じて適宜に記録・計算形式を採用し,一定 の段階まで増減符号を補助的に付すのが現実的である. また,導入段階におけるサイクル設定にも見直しの余 地がある.貸借対照表等式・損益計算書等式→記録原則 →試算表等式,という配列をとる場合,利益計算構造の 学習が経済事象の記録の学習によって分断される.それ を防ぐために利益計算構造,経済事象の記録ごとに学習 する場合も,配列や,両者を1サイクルに含めること自 体が問題になる. 標準的2欄形式を前提とする学習の再検討を必要にし ているのは,以上の内在的要因だけではない.環境的要 因も存在する.会計実践における記録の磁気化,集計・ 集約の自動化である.経済事象の記録1件毎に直接入力 するかどうかは別にして,記憶,演算のうえからは,増 減についてのデータが必要である. よって,簿記・会計の学習における技能修得,あるい は記録・計算手法の変化のもとで不変の原理探究,いず れの観点からも,特定の記録・計算手法と結び付いた形 式は再検討の必要がある. 上記の記録・計算手法の変化は,導入段階における記 録・計算原理の学習にだけ影響を与えるのではない.手 作業による記録・計算を前提にした学習上の「常識」, 慣行17)の合理性,必要性も再検討されなくてはならな い. それらを含めて,現行の学習方法を再検討することが, 経済事象の記録利益計算の本質,そのための機構につ いての学習者の理解を図るうえで重要である.それが高 度な学習のための基礎的力の酒養につながる. 注 1)科目の変化の内容については,田中・雲英(1978) 59−67頁,藤本(1983)を参照. 2)高校進学率の上昇による生徒の能力のばらつき,学 校生活をゆとりあるものにするための卒業要件単位の 削減も背景にある(藤本(1983),61頁). ただし,生徒の履修科目低減と履修可能科目の幅を 狭めることは直結しない(田中・雲英(1978),63− 64頁). 3)田中・雲英(1978),64 一 65頁. 4)斎藤(1988),45−46頁.ただし,正確にはViZ. 5)以下,価値増加側と減少側とに左右に分けて記録す る必要はない. 6)すなわち, Σ(+Vi)+Σ(△Vi)+Σ(△(−Vj)) +Σ(+(−Vj))−v(K) =At+J−At+(−Lt+1)一(−Lt)−v(K) =At+1+(−Lt+1)−At+(−Lt)−v(K) =Et+1−Et−v(K). 7)配分可能成果として利益を計算する場合,分解は必 ずしも必要ない.損益データも同様.持分変化のデー タがあれば足りる. データ数が多い商品については,記録は流出の都度 行われない.利益計算の段階で期首,期末の未流出在 高を調整することにより,一括して計算される. 8)ただし,ストックが認識されないサービスについて
は,直接その提供・受領に基づいて記録されない.一 旦,貨幣財の流入・流出に基づいて収益・費用が記録 される. 9)ただし,サービスについては,貨幣財の流入・流出 とサービスの提供・受領のズレが調整される.商品に ついても同様である.さらに,費用については,収益 への貢献と費用財流出のズレが調整される. 10)試算表等式が, At+1=Lt+1+Et+(R(り一C(の) より貸借対照表等式に, {(At+1− Lt+1)−Et}+C(t)=R(t) より損益計算書等式に還元されるのみである.ただし, 持分変化による資本増減はないものとする. むしろ,損益計算書等式は, At+1=Lt+1+Et+π(り, R(t)−C(,)ニπ(t)より導かれる. 11)実際には,流入・流出の累計差額,発生額累計を記 録する残高欄が設けられる場合がある. 12)斎藤(1988),48頁.しかし,流入・流出,増加発生・ 減少発生の各総額が明らかになれば2欄形式である必 要はない. 13)中国における増減記帳法と同じ形式である.しかし, 中国では記入位置が逆になり,増減符号の代わりに 「増加」または「減少」が,経済財・事実クラスに付 される.さらに,資金運用・資金源泉ではなく,「資 金占用」「資金来源」の語が用いられる. 増減記帳法にっいては津谷(1982),山口(1979) などを参照. 14)井上(1988),4−62頁を参照.ただし,2欄形式で 記録する必要はない. 15)ただし,特定の文化圏に限定される可能性もある. 高寺(1982),20−28頁を参照. 16)たとえば,専門学校,商業高校では検定試験や将来 の職業との関係が学習動機づけのひとつの要素になる (田中・雲英(1978年),126・一・127頁). 17)たとえば,「三角線」の記入,純利益の赤記,製本 帳簿の使用など(安平(1992),4−8,16−18頁).