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一強多弱からの脱却には選挙協力が鍵 -- マレーシアと日本 (特集 選挙の風景)

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Academic year: 2021

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(1)

一強多弱からの脱却には選挙協力が鍵 -- マレーシ

アと日本 (特集 選挙の風景)

著者

中村 正志

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

251

ページ

10-11

発行年

2016-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002887

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.251(2016. 9)

10

  マレーシアの国政選挙は下院選 挙のみである。執政制度は議院内 閣制で、議会は二院制だが上院の 直接選挙は行われないからだ。選 挙制度は、かつての宗主国イギリ スと同じ単純小選挙区制である。   一九五七年の独立以来、これま でに一三回の総選挙が行われたが、 政 権 交 代 は 一 度 も 生 じ て い な い。 歴代首相はみな統一マレー人国民 組織(UMNO)の代表で、UM NOがマレーシア華人協会やマレ ーシア・インド人会議などととも に構成する与党連合の統治が六〇 年も続いている。   マレーシアには、民族や地域性 の違いを反映するかたちで多数の 政党がある。与党連合の国民戦線 も、一三の政党の寄り合い所帯で ある。ただし国民戦線は、選挙の 際は全選挙区で統一候補を擁立し てきた。加盟政党の候補はみな国 民戦線の候補として出馬する。つ まり、選挙において国民戦線は事 実上単一の政党として機能する。   一方、野党は長らくばらばらで あった。代表的野党のひとつ汎マ レーシア ・ イスラーム党(PAS) は、その名が示すとおりイスラー ム主義の政党であり、イスラーム 法を全面的に採用する国家の建設 を党の目標にしている。もうひと つの代表的野党は、華人を支持母 体とする社会民主主義政党の民主 行動党(DAP)である。DAP は、もっぱら非マレー系、非ムス リム市民の利益を代表する政党で あ り、 P A S と は 対 立 し て き た。 その他の野党はほとんどが泡沫政 党である。この国の政党制は、巨 大な与党連合をばらばらの野党が 取り巻く一強多弱が常態であった。

  ただし一強多弱といっても、与 党が国民の圧倒的な支持を得てき たわけではない。与党の議席占有 率と得票率には、一貫して大きな 乖 離 が あ る( 図 1) 。 直 近 の 二〇一三年選挙では与党の得票率 が四七 ・ 四%にまで落ち込んだが、 それでも与党は議席の六割を得た。 過半数票を得ながら政権をとれな かった野党側は、民意を反映しな い選挙は不当だと訴えている。   この意見に、皆さんは同意なさ るだろうか。翻って我が国の状況 をみると、二〇一四年の衆議院選 挙の小選挙区において、連立与党 は 四 九 ・ 五 % の 得 票 率 で 議 席 の 七 八 ・ 六 % を 得 て お り、 得 票 率 と 議席率の乖離はマレーシアのそれ よ り 大 き い( 表 1) 。 比 例 代 表 の 部分を合わせても、自民党と公明 党は四八 ・ 二%の票で六八 ・ 六%の 議席を得た勘定になる。日本の与 党も、得票に対して不釣り合いに 多くの議席を得ているのである。   た だ し 日 本 と マ レ ー シ ア で は、 得票率と議席占有率の差をもたら す 要 因 に 違 い が あ る。 日 本 で は、 小選挙区制であるにもかかわらず 与野党が一騎打ちになる選挙区が 少ない。多くの場合、政府・与党 に対する批判票を野党どうしが奪 い合っている。前回の衆議院選挙 における自民・公明両党の当選者 のうち、得票率が五〇%に満たな かった候補の割合は約四割に達す る。野党どうしの争いが膨大な死 票を生んでいるのである。   一 方、 マ レ ー シ ア の 野 党 は 一九九〇年代から断続的に選挙協 力を行ってきた。対立と歩み寄り を繰り返すなかで、協調すれば議 席が増え、対立すれば減ることを 野党は学んだ。二〇一三年選挙で は野党側も候補者の一本化を完遂 したため、五〇%以下の得票率で 当選できた議員はわずかであった。   にもかかわらず、全体としては 与党が五割に満たない得票で六割 の議席を得た。なぜなら、マレー シアでは一票の格差が極端に大き く、与党の地盤である農村部が過 大な議席をもっているからだ。有

特集

選挙の風景

一強多弱

脱却

選挙協力

本︱

04_特集.indd 10 16/08/02 10:39

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アジ研ワールド・トレンド No.251(2016. 9) 権者数が最少の選挙区と最多の選 挙区との格差は九 ・ 一三倍もある。   七八カ国の下院選挙における一 票の格差を比較した文献(参考文 献①)にならって、格差が一切な い状態(たとえば全国一区の比例 代表制)なら〇になり、格差が大 きくなるにつれて一に近づく指標 を 計 算 す る と、 日 本 の 数 値 が 〇・ 〇八三四なのに対し、マレーシア は 〇 ・ 一 七 三 三 で あ っ た。 先 の 文 献が対象とする七八カ国のうち最 悪の数値はタンザニア(一九九五 年 ) の 〇 ・ 二 六 一 九 だ っ た の で、 マレーシアの格差はかなり大きい と い え る。 こ の 文 献 の 事 例 と 二〇一三年のマレーシアを比較す ると、マレーシアより格差が大き い事例は五つしかない。   世 界 最 悪 水 準 の 一 票 の 格 差 は、 都市で支持を伸ばしてきた野党に とって大きな障壁である。だが裏 を返せば、マレーシアの野党は選 挙協力を完遂することで、もう少 しでこの壁を乗り越えられるとこ ろまで来たということでもある。

  では、野党の躍進を食い止めた い政府・与党には何ができるだろ う。これまでマレーシアでは、議 会の定数増員の際に与党に有利に なるような選挙区割りの変更が繰 り返されてきた。だがもうその手 は使えない。議員定数は憲法で定 められており、現状では与党単独 では憲法改正に必要な議員数(三 分の二)に満たないからだ。   残された選択肢のなかでもっと も効果が見込めるのは、野党のあ いだに楔を打ち込むことであろう。 もともと野党がばらばらだったの は、宗教政策などに関して大きな 立場の隔たりがあったからだ。こ の相違点を棚上げし、政治改革な ど近い立場をとる争点を前面に打 ち出すことで野党協調が可能にな った。そして有権者が新たな争点 の重要性を認めたからこそ、野党 は選挙で躍進し得た。ならば与党 は、その逆をやればよい。野党ど うしの立場が異なる争点に有権者 の 関 心 を 集 め る こ と が で き れ ば、 自ずと野党は割れるだろう。   二〇一三年選挙の後、苛烈なイ スラーム刑法(ハッド刑)の施行 に向けてPASが法改正に乗り出 し、その結果、野党間関係が著し く悪化した。二〇〇八年選挙を機 に結成された野党連合は昨年六月 に瓦解し、PASは分裂してしま った。その背景には、ハッド刑施 行のための法整備に関する首相府 とUMNOのPASへの協力があ った。政府・与党の協力があった からこそPASはハッド刑施行に 向けた法的手続きを進めることが でき、具体的な進展をみたことで この問題が重大争点となって野党 連合解体に至ったのである。   一強多弱からの脱却には野党の 選挙協力が鍵である。逆にいえば、 与党にとっては野党を分断するこ とが肝要である。そして野党協調 が成功するか否かは、有権者がど の争点を重要争点と認めるかにか かっている。 ( な か む ら   ま さ し / ア ジ ア 経 済 研究所   東南アジアⅠ研究グルー プ) 《参考文献》 ① Sa m ue ls, D av id a nd R ich ar d Sn yd er , "T he V alu e of a V ote : M a la p p o r ti o n m e n t in C om pa ra tiv e P er sp ec tiv e," B rit ish J ou rn al of Po lit ic al Science, 31(4), 2001, 651-671. 図 1 マレーシア下院選挙における与党の議席占有率と得票率の変遷 表 1 直近の下院選挙1)における連立与党の成績と一票の格差 マレーシア 日本 与 党 名称 国民戦線 自民・公明 得票率 47.4% 49.5% 議席占有率 59.9% 78.6% 得票率 50%未満の議席の割合 5.3% 39.7%

一票の格差 最大格差(最少 : 最多)MAL2) (Loosemore–Hanby index) 0.17331:9.13 0.08341:2.13

(注) 1 ) マレーシアは 2013 年 5 月 5 日の連邦下院選挙,日本は 2014 年 12 月 14 日の衆議院選挙の小選挙区が対象。 2) MAL=Σ|si−vi|. siは議席総数に対する選挙区iの議席数の割合。 viは有権者総数に対する選挙区iの有権者数の割合。 (出所) マレーシアについては選挙委員会ウェブサイト,日本については読売新 聞ウェブサイトならびに各都道府県のウェブサイトに記載のデータから算 出。 1959年 1964年 1969年 1974年 1978年 1982年 1986年 1990年 1995年 1999年 2004年 2008年 2013年 100(%) 90 80 70 60 50 40 議席占有率 得票率 (出所)マレーシア選挙委員会報告書、同ウェブサイトに記載のデータから算出。    1969 年についてはマレー半島部のみが対象。 04_特集.indd 11 16/08/02 10:39

図 1 マレーシア下院選挙における与党の議席占有率と得票率の変遷表 1 直近の下院選挙1)における連立与党の成績と一票の格差 マレーシア 日本 与 党 名称 国民戦線 自民・公明得票率47.4%49.5% 議席占有率 59.9% 78.6% 得票率 50%未満の議席の割合 5.3% 39.7% 一票の格差 最大格差(最少 : 最多) 1:9.13 1:2.13 MAL 2)  (Loosemore–Hanby index) 0.1733 0.0834

参照

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