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「近代化」のなかの ジェンダー (三) (秩序としての混沌 -- インド研究ノート 第12回)

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(1)

「近代化」のなかの ジェンダー (三) (秩序として

の混沌 -- インド研究ノート 第12回)

著者

湊 一樹

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

212

ページ

39-40

発行年

2013-05

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003714

(2)

●女性差別とそれ以外の要因

  インドや中国をはじめとする一 部の途上国では、人口全体に占め る女性の割合が極端に少なく、性 比に顕著な偏りがみられる(前回 の 連 載 の 表 1を 参 照 )。 こ の 事 実 は、 「喪われた女性たち」 ( missing women ) と い う 言 葉 と と も に 広 く知られており、女性に対する深 刻な差別がこれらの国々の社会に 根強く残っていることを示す証拠 のひとつとしてよく取り上げられ る。   しかし、人口全体の性比が大き く歪んでいるからといって、その すべてが女性に対する差別によっ て生み出されているという訳では ない。例えば、大多数の人たちが 十分な医療サービスを受けられな い 状 況 に あ る 多 く の 途 上 国 で は、 妊産婦が妊娠中や出産前後に死亡 する可能性はきわめて高く、これ が女性の死亡率を押し上げるとと もに人口の男女比にも少なからず 影響を与えている。さらに、一般 的に途上国の女性は妊娠・出産す る機会がより多いため、このよう な傾向に一層拍車がかかるのであ る。図 1は、インドの妊産婦死亡 率 ( m at er n al m o rt al ity r at io と出生率 (

total fertility rate

) の 推移を示したものである。これら の指標の値は過去二〇年間で急速 に低下しているものの、依然とし て 高 い 水 準 に あ る こ と が わ か る ( ち な み に、 二 〇 一 〇 年 の 日 本 の 妊 産 婦 死 亡 率 は 五、 出 生 率 は 一・ 四である) 。   また、性比の問題を考える際に は、人口移動が果たす役割につい ても十分注意を払わなければなら ない。例えば、インドの場合、貧 しい農村部からより豊かな都市部 や 工 業 地 帯 へ の 労 働 移 動( 特 に、 働き盛りの男性が自分以外の家族 を残していく出稼ぎ)が広くみら れるため、それが国内の各地域や 各州の性比に影響を及ぼしている と考えられる。   このように、性比の偏 りの背後には女性に対す る差別とそれ以外の要因 が潜んでいるものの、そ れぞれがどの程度の役割 を果たしているのかを正 確に求めるのは容易なこ とではない。実際、女性 差別によって生み出され ている「喪われた女性た ち」の人数を試算した研 究では、具体的な数字に 大きな隔たりがある(参 考 文 献 ②、 一 〇 五 〜 六 ページ) 。   しかし、その一方で、インドで み ら れ る 性 比 の 歪 み の 根 底 に は、 女性に対する深刻な差別があると いう点に疑いを差し挟む余地はな い。なぜなら、〇〜六歳の子供の 性 比 が 異 常 に 低 い 水 準 に あ る 上 に、過去五〇年間にわたってその 値が下がり続けているという事実 が、このことを強く裏付けている からである(子供の性比について は、前回の連載の図 3を参照) 。   こ の よ う に 考 え ら れ る の に は、 いくつかの理由がある。まず、妊 娠・出産にともなう女性特有のリ スクや労働移動などの要因は、あ る一定の年齢以上の人口の性比に のみ影響を与え、子供の性比とは 1,000 800 600 400 200 0 2010 2005 2000 1995 1990 妊産婦死亡率(左軸) 出生率(右軸) 5 4 3 2 1 0 (出所)妊産婦死亡率は参考文献①、出生率は世界銀行のデータ(http://data. worldbank.org/)を基に筆者作成。 (注)妊産婦死亡率とは、出産10万件あたりの妊産婦死亡数(妊娠中および出産後 42日以内の死亡)のことである。より詳細については、参考文献①を参照。 図1 インドの妊産婦死亡率と出生率

インド研究ノート

湊 一樹

秩序としての

混沌

第12回

「近代化」のなかの

ジェンダー

(三)

39

アジ研ワールド・トレンド No.212 (2013. 5)

(3)

関係がない。したがって、子供の 性比にみられる極端な歪みは、イ ンド社会において女性が激しい差 別にさらされていることをより強 く示唆するのである。   さらに、女性差別とは異なるそ の他の要因によって子供の性比の 偏りを説明しようとする研究がい くつかあるものの、いずれも十分 説 得 力 の あ る も の と は い え な い。 例 え ば、 「 B 型 肝 炎 に 感 染 し て い る母親から生まれる子供は、男児 である確率がより高い」という仮 説を検証することで、B型肝炎の 罹患率と子供の男女比の因果関係 を実証的に示した研究がある(参 考 文 献 ③ )。 し か し、 よ り 詳 細 な デ ー タ を 用 い た そ の 後 の 研 究 に よって、B型肝炎の罹患率の高さ が子供の性比の偏りの原因である とする議論は完全に否定されてい る( 参 考 文 献 ④ )。 ま た、 性 比 が 低い水準にあるのは、センサスに おいて女性が数え落とされている ためであるという議論がこれまで にもたびたび提起されてきた。し かし、女児だけをこれほどの規模 で数え落としたり、さらにはセン サスのたびごとに女児の数え落と しが増えたりするとは考えにくい ( そ の 他 に も、 参 考 文 献 ⑤・ ⑥ の ような議論がある) 。

●「喪われた少女たち」

 

めぐる問題

  男児に比べて女児の数が圧倒的 に少ないのは、女性に対する差別 が社会に深く根ざしているためで あるという点については多くの研 究 者 の 間 で 見 解 が 一 致 し て い る。 よ り 具 体 的 に は、 ( 十 分 な 栄 養 が 与えられないとか、病気になって も積極的に治療が施されないとい う意味での)ネグレクトや嬰児殺 しによる女児の死亡率の上昇、超 音波診断などの性選択的技術を用 いた中絶による女児の出生率の低 下という二つの要因によって、子 供の性比が歪められていると繰り 返し指摘されている。特に、性選 択 的 技 術 へ の ア ク セ ス が 容 易 に なってきたことが、子供の性比が 低下し続けている最大の理由なの ではないかとの見方が強い(写真 を参照) 。   このような背景から、インドに おける性比をめぐる問題は、人口 全体の男女比から子供の男女比― つ ま り、 「 喪 わ れ た 女 性 た ち 」 か ら「喪われた少女たち」―へとそ の焦点を大きく転換してきている のである(参考文献⑦) 。 ( み な と   か ず き / ア ジ ア 経 済 研 究 所   在デリー海外派遣員) 《参考文献》 ① Wo rld H ea lth O rg an iz at io n 2 0 1 2 . T re n d s in M a te rn a l M o rt a lit y: 1 9 9 0 t o 2 0 1 0 . (h ttp :// w w w .u n fp a. o rg /w eb -d av /s ite /g lo b al/ sh ar ed /d o cu -m e n ts /p u b lic a tio n s/ 2 0 1 2 / T re n d s_ in _m at er n al_ m o rta li-ty_A4-1.pdf). ② S en , A m ar ty a 1 9 9 9 . D ev el -o p m e n t a s F re e d o m , N e w Y

ork: Anchor Books.

③ Oster , Emily 2005. “Hepati -tis B a n d t h e C a se o f th e Missing W omen, ” Journal of P ol iti ca l E co n om y, 1 1 3 (6 ), pp. 1163-216. ④ L in , M in g -J en , a n d M in g -C h in g L u o h 2 0 0 8 . “C a n H ep at itis B M ot h er s A cc ou n t fo r th e N u m b er o f M is sin g W o m e n ? E v id e n c e f ro m T h re e M ill io n N ew b o rn s in T aiw an ,” A m er ic an E co n om ic R ev ie w , 9 8 (5 ), pp . 2 2 5 9 -7 3 . ⑤ P er w ez , S h ah id , R o ge r Je f-fe ry , a n d P a tr ic ia J e ff e ry 2 0 1 2 . “D ec lin in g C h ild S ex R at io a n d S ex -S ele ct io n in In d ia : A D em og ra p h ic E pip h -an y? ” E co n om ic a n d P ol iti -ca l W ee kl y, A u gu st, 1 8 . ⑥ D rè ze , Je a n 2 0 1 2 . “C h ild S e x R a tio a n d S e x S e le c-tio n : O ld F a lla ci es in N ew B o ttl es ,” E co n om ic a n d P o-lit ic a l W e e k ly , S e p te m b e r 22. ⑦ 村 山 真 弓[ 二 〇 〇 九 ]「 イ ン ド に お け る 性 比 問 題: 文 献 レ ビュー」平島成望・小田尚也編 「 包 括 的 成 長 へ の ア プ ロ ー チ: インドの挑戦」アジア経済研究 所 ( h tt p :/ /w w w .id e .g o .j p / Ja p an es e/ P u b lis h /D o w n lo ad / R ep o rt/ p d f/2 0 0 8 _0 1 0 6 _c h 7 . pdf )。 バス停の背後に掲げられている、女児の中絶を止めるよう呼びか ける州政府の広告(2013年2月、デリー市内で筆者撮影)

秩序

としての

混沌

インド研究ノート

40

アジ研ワールド・トレンド No.212 (2013. 5)

参照

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