「トイレ戦争」から見る南アフリカの都市開発 (特
集 南アフリカの経済・社会変容)
著者
戸川 翔太郎
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
206
ページ
26-27
発行年
2012-11
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003830
●はじめに
二〇 一 一 年 五 月 、 南 ア フ リ カ 共 和 国 ︵ 南 ア フ リ カ ︶ に おいて 、 地 方議会議員を決 め る 地 方選挙 が 開 催された 。 民 主化以 降 、 国 会 で は 圧倒的な票を集 め て い る ア フ リ カ 民族会議 ︵ A N C ︶ だ が 、 地 方 で は必 ず し も 一 党 優 位 を 確 立 し て お らず 、 四 回目と な る 今 回 の 地方選 挙で も 一 部で 激 し い票 争 い が 繰 り 広げら れ た 。 な か で も 最大野党 の 民主 同盟 ︵ D A ︶ が 政 権を握 る 西 ケー プ州 の ケ ー プ タウ ン に お い て は、 巻 き 返 し を 図 る A N C が 青 年 同盟 を中心 に 大 々 的なキ ャ ン ペ ー ンを 行 い 、 D A か ら の 政 権 奪 取 を 試みた 。 そ の 一 端 が 、 本 稿 で論じ る﹁ ト イ レ 戦 争 ﹂ で あ る 。 ﹁トイレ戦争﹂は 、ケープタウ ンのタウンシップ ︵旧黒人居住区︶ に設置されたトイレを巡り、ケー プタウン市と当該地区住民との間 で起こった紛争である 。﹁ 戦争﹂ という名のとおり、住民は市を相 手取って訴訟を起こすと共に、一 部暴徒化して警官隊と衝突し、ケ ガ人や逮捕者まで出る騒ぎとなっ た。こうした貧困層による暴動は 南アフリカでは珍しくないもの の、トイレというトピックの目新 しさと地方選挙が相まって、社会 的に大きな注目を集めた。 ﹁トイ レ 戦争﹂ に よ る D A 批判 もむ な し く 、 ケ ー プ タ ウ ン 市議会 選挙は 再 び D A の 勝利 に 終 わ る 。 しかし 、﹁ ト イレ戦 争 ﹂ は 単 な る 選 挙キ ャ ン ペ ー ン で は片付けられな い、 南 ア フ リ カ の 都 市 開 発 に お け る普 遍 的 な 課 題 を 示 唆 し て い る 。 事実 、 今 回 の 件を き っ か け に 、﹁社 会正義連合 ﹂ と い う 市 民 社 会組 織 が貧 困 地 区 に お け る公 衆 衛 生 の 改 善を求め る 運 動を本格的 に 開始 し 、 問題解決 に 向 け て 政治を超え た活 動 を 行 っ て い る。 本 稿 で は 、﹁ ト イレ 戦 争 ﹂ の 事 例 を 通 し 、 現 在 の 南アフリ カ に おける 都 市 開 発や 行 政サービ ス の 課題を考 察する 。●
﹁トイレ戦争﹂の発端と経緯 ﹁トイレ戦争﹂の主な舞台は 、 ケープタウンの東端に位置するカ エリチャ ︵コーサ語で ﹁新しい家﹂ の意︶ というタウンシップである。 カエリチャは、南アフリカ最大の タウンシップであるソウェトに次 ぐ規模で近年ますます拡大してお り、二〇〇五年の推計人口は約四 一万人とされている。住民の多く は隣の東ケープ州から職を求めて 流入したコーサ人である。現在の カエリチャには、基礎的な公共イ ンフラをはじめ商業施設等も整備 されてきている一方、公共インフ ラすら未整備な﹁インフォーマル 居住区﹂も数多く存在し、貧困層 は電気や水道のない掘立小屋で生 活をしている。 ケープタウンでは、 白人、 カラー ド ︵混血︶ 、アフリカ人が同じく らいの人口割合を占めており、所 得階級では上位から白人、カラー ド、底辺の多くがアフリカ人とい う構造である。そのため行政に対 する貧困層の批判の矛先は、白人 を党首に掲げるDAに向きやす い。アフリカ人タウンシップであ るカエリチャの住民も大多数がA NC支持者であり、DA批判が起 こりやすかったといえる。 ﹁トイ レ 戦争﹂ は 、 こ うした背 景を持 つ カ エ リチ ャ で の 都 市開発 プロ ジ ェ ク ト に 端 を 発 す る 。二〇 〇九 年 、 あるイ ン フ ォ ー マ ル 居 住 区の 整 備 に 際 し 、 DA政 権 のケ ー プタウ ン 市が ﹁囲 い な しトイ レ ﹂ を一 世 帯 に 一 台 ず つ 設 置 し た。 市 によ れ ば 、 こ れは 市 が 設 置 し た 水 洗トイ レ を住民が自分 で 囲 っ て 使 うと い う 、 住 民と の 合 意 に 基 づ く ﹁官民連携﹂ プ ロ ジ ェ クト で あ っ た。 し か し 二 〇一 〇 年 に 入 り 、 そ のよ う な 合 意 は な か っ たと主張 す る住民が暴 動 を起 こ し 始め 、 A N Cの 青 年 同 盟 と 協 力 し て 市 を 裁 判 で訴 えた 。 囲 い を 建て る経 済 的 余 裕がな い 貧困層は 、 囲 い の な い ト イレを 公 衆の 面 前 で 使 用 せ ざる を南ア
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アジ研ワールド・トレンド No.206 (2012. 11)得な い 。 こ の よ う なトイ レ の 設 置 は屈 辱 的 であり 、 白 人 政 権 に よ る 人種差別だ と い う の で あ る 。 選挙直前の二〇一一年四月、訴 訟を受け持った西ケープ高等裁判 所は、 市による﹁囲いなしトイレ﹂ の設置は違憲であるとの判決を下 した。この判決で、市は﹁囲いな しトイレ﹂にコンクリートの囲い を建設するよう命ぜられ、筆者が 現地で調査を行った二〇一一年八 月には市がまさに建設工事を行っ ている最中であった。