わが国税務会計発達史の研究(下)――近代税務会計
の誕生と確立――
著者
高橋 志朗
雑誌名
東北学院大学論集. 経済学
号
137
ページ
31-69
発行年
1998-03-20
URL
http://id.nii.ac.jp/1204/00024266/
わが国税務会計発達史
の
研究(下)
一近代税務会計
の誕生と確立
一高
橋
志
朗
目 次 はじめに 1 ・ l 先達による税務会計発達史研究と時代区分 1 ・ 2 初期の税法の所得計算規定にみられる特色と間題点 1 ・ 3 威課課税制度下の税務会計の実態と間題点 1 ・ 3 ・ 1 減価債却の取り扱いをめぐる間題点 1 ・ 3 ・ 2 株式プレミアムの取り扱いをめく'る間題点 (以上,第135号) 2 ・ 1 「シャウプ勧告』と昭和22年の税制改正 2 ・ 2 税務行政の改善と会計の改善 2 ・ 3 企業会計の改善にむけての勧告 2 ・ 4 税務会計近代化にむけての勧告 (以上,第l36号) 3 ・ 1 「シャウプ税制」の成立と税務会計研究の興隆 3 ・ 1 ・ l 昭和25年の法人税法改正とその間題点 3 ・ 1 ・ 2 税法批判と 「純資産增加説」見直し論の登場 3 ・ 1 ・ 3 税務当局者による税法研究の進展と伝統的税務会計観の動揺 3 ・ 2 税法改正連動の展開 3 ・ 2 ・ l 「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」の発表(昭和27年 6 月 ) と そ の 影 響 3 ・ 2 ・ 2 税 法 と 「企業会計原則」との調整の進展 3 ・ 2 ・ 3 「税法と企業会計との調整に関する意見!1t
」の発表(昭和4l年10月) と「公正会計処理基準」の誕生 お わ り に ( 以 上 , 本 号 ) 東北学院大学論集 経済学第137号 1998年3月-
31 - l東北学院大学論集経済学第137号
3
・1
「シ
ャウプ税制」の成立と税務会計研究の興隆3
・1
・1
昭和25
年の法人税法改正とその間題点 『シ ャ ウ ブ 勧 告 』 は , 昭和25年(l950年) 3月の税制改正によって, ほ ぼ全面的に実施された'
'
)。
法人税法の所得計算規定の改正を求めたさきの 勧告もまた, つぎのような内容の法人税法ならびに法人税施行規則の改正 と な っ て , 実 を 結 ん だ。
繰越欠損金の控除の期間延長(法人税法第9条第4項) 従来は1年だけだった控除期間が, 5年に延長された。 棚卸資産評価規定の創設(法人税法第9条の7ならびに法人税法施 行規則第20条) 原 価 法 と し て , 個 別 法 , 先 入 先 出 法 , 後 入 先 出 法 , 総 平 均 法 , 移 動平均法,単純平均法,最終仕入原価法,売価還元法が認められる と と も に , 時価法と低価法の採用も認められることになった。
固定資産の減価償却規定の整備 (法人税法第9条の8ならびに法人 税法施行規則第2l条)一
般有形固定資産にっ
いて, 新たに定額法の適用が認められた結 果, 定率法と定額法との選択適用の
道がひらかれた。
欠損の
繰戻し制度の創設(法人税法第26条の 3 ) 修繕費と資本的支出との区分基準の明確化 (法人税法施行規則第l0 条 の 2 ) 資本的支出にかんする概念規定の創設によって, 修繕費との区分 1 ) 改革案としての 『 シ ャ ウ プ 勧 告 』 と , 実際に法制化された制度とを区別す る 都 合 上 , 実 施 後 の 税 制 は ,「シ ャ ウ プ 税 制 」 と 呼 ば れ る こ と が 多 い。両者 の 間 の 重 要 な 相 違 と し て は , 『 シ ャ ウ プ 勧 告 』 で は , そ の 実 施 が 強 制 さ れ て いた資産再評価が任意とされた点や, 地方税として導入が勧告されていた附 加価値税の実施時期が延期された点などがあげられる。 な お , 附加価値税は,, 再三の実施延期ののち,昭和29年(1954年)にいたって, 日の目をみないま ま廃止されている。-
32-わが国税務会計発達史の研究
01
) が明確にされた。
貸倒引当金制度の創設 (法人税法施行規則第l4条) 『シャ ウプ勧告』に沿つたこれらの改正を通じて,税務会計の近代化は, 大きく前進したことになる。それは,わが国税務会計の発展史上かっ
てな い画期的な出来事であった2'
。
こ れ らの改正にくわえて,この
税法改正では,各種資本準備金の積み立 てを求める商法規定の創設に伴つて,つぎのような改正も実施されている。
額面超過金(株式プレミアム)益金不算入制度の創設(法人税法第 9 条の 2 ) 3 ) 減資差益益金不算入制度の創設(法人税法第9条の 4 ) 合併会計処理基準の改正 (法人税法第9条の5) 人格合一
説(人格継承説)に立脚して,合併差益の一
部 ( 合 併 減 資益と被合併会社の積立金)を益金不算入とし,評価益から成る合 併差益だけを益金とした。
他方, 昭和25年の改正税法は, ここに指摘した近代的側面とは英胆に, 旧法の影響を残す側面をもあゎせ持つていた。
た と ぇ ば,改正税法は,額面超過金(株式プレミアム)の
全額を益金不 算 入 と す る こ と な く , 益金不算入額の計算方法を定めたっ
ぎのような規定 を設けている4)。 2 ) 武田教授は, 「近代的税務会計は.
この昭和25年の改正をもって, 始 ま っ た と い っ て も 過 言 で は な い で あ ろ う。」 と述ぺて, 昭和25年の法人税改正の 税務会計発展史上の意義を重視している。 武田, 1977, 107ベージ。 また, 黒沢教授は, こ の 改 正 を ふ り か え っ て , 「 税 法 は シ ャ ープ動告がご ざ い ま し て , われわれの意見が直接に反映したわけではございませんが, わ れゎれの意見を実現したのに近い税法改正も行われた。」 と述べて, 企業会 計制度の改善・統一
を め ざ す か れ ら に と っ て , この改正が欲迎すべき内容の も の で あ っ た こ と を , あ き ら か に し て い る。 染谷恭次郎 (編) 『我国会計学 の潮流 第一
巻』雄松堂書店,1984年,26ベージ。 3 ) た だ し , こ の 改 正 で は , 額 面 超 過 金 ( 株 式 プ レ ミ ア ム ) の う ち の 株 式 発 行 費控除後の残高のみが,益金不算入とされた。 の ち に 詳 述 す る よ う に , こ の 事実は,税法固有の「益金」 概念を知るうえで見逃せない。 4 ) この条文中の「前條第一
項」に あ た る 法 人 税 法 第 8 条 第 l 項 に は , 「 法/''
-
33-
3東北学院大学論集 経済学第137号 「法人が額面をこえる価額で株式を発行した場合の額面をこえる金額 から当該株式の発行のために要した費用の額を控除した金額は, 前條 第
一
項の所得の計算上, これを益金に算入しない。」
(法人税法第9条 の 2 ) この規定は, 額面超過金 (株式プレミアム) の全額の益金不算入を容認 せず, 株式発行費控除後の残高の
みの益金不算入を指示している。 こ う し た控除計算を要求する税法の根拠は, 本来は益金である額面超過金 (株式 プレミ ア ム ) を益金に算入しない以上, その益金に関速する費用の損金計 上も認められないとする解釈に置かれているのは, 明自であろう。 か く て , 上記規定において,税法は,額面超過金(株式プレミアム)の本質を資本 と み る 解 釈 を 受 け 入 れ た わ け で は な く , む し ろ , そ の本 質 を 「 益 金 」 と み る伝統的解釈を, 依 然 と し て 踏 襲 し て い る こ と に な る。
さ ら に , 国庫補助金に対する圧縮記帳の規定 (法人税法施行規則第l1条) と保険差益に対する圧縮記帳の規定 (昭和22年l0月改正法人税法施行規則 第 1 3 条 の 2 , 3 , 4 , 5 , 6 ) も ま た , l 日 法 か ら 継 承 さ れ て い る5 )。 そ も そ も , 、、
、.
人税の課税標準は, 各事葉年度の所得及び積立金の金額による。」 との規定 が置かれている。な ぉ , 額 面 超 過 金 ( 株 式 プ レ ミ ア ム ) の 益 金 不 算 入 額 の 計 算 上 , 株 式 発 行 費 の 控 除 を 求 め る 規 定 は , 額 面 超 過 金 ( 株 式 プ レ ミ ア ム ) の 益金不算入を初めて認めた昭和2l年の租税特別措置法において, すでに, 採 用 さ れ て い る。 5 ) 国印補助金に対する圧縮記帳については,昭和25年の法人税法施行規則改 正によって今日の詳細な規定の原型の誕生をみたが, それ以前の昭和22年3 月の施行規則全文改正に お い て , す で に , つ ぎ の よ う な 規 定 が 設 け ら れ て い るo 「法人が資本的支出に充てるため,公布された国庫補助金,都道府県補 助金又は市町村補助金を資本的支出に充てたと きはその資本的支出に充 てた部分の金額は, 各事業年度の普通所得の計算上, これを損金に算入 する。 法人が前項の資本的支出に充てた部分の金額を資産と して計算したと きは, これを資産として計算しなかったものとみなす。」(昭和22年3月 改正法人税法施行規則第ll条) 上記第2項の規定は, 表現こそ異なれ, 昭和25年改正後の規定と同様に,, 国庫補助金等の損金計上にあたって, それらの損金計上額を取得資産の張薄 価 格 か ら 切 り 下 げ る こ と を 義 務 づ け て い る も の と 理 解 さ れ る。-
34-わが国税務会計発達史の研究(l') これらの圧縮記帳制度は, 国庫補助金や保険金によって取得した資産の取 得価額の切下げを条件として,国庫補助金や保険差益に相当する損失(圧 縮損) の計上を認める課税技術にほかならず, この制度の適用を受ける国 庫補助金や保険金を非課税ないしは免税の所得として課税所得から除外す るわけではない
。
しかも, 国庫補助金や保険金で取得した資産の取得価額 切下げの影響は, 減価償却費計算を通じて, 資産の耐用期間にわたる所得 金額の增加となって現れ, それによって, 資産取得時点における損失計上 からもたらされた滅税効果は, 実 質 的 に 相 殺 さ れ て し ま う こ と に な る 。 つ ま り , 圧縮記帳制度は, 国庫補助金や保険金について課税の繰延べを認め るための課税技術にすぎず,国庫補肋金と保険差益は「益金」として課税 さ れ て い る こ と に な る。
こ の よ う に , 昭和25年改正後の税法には, 『シ ャ ウ プ 勧 告 』 に そ っ て 導 入された新制度と, l日法の影響を色濃く反映する旧制度とが混在していた こ と に な る 。 こ の 点 に お い て , 改 正 税 法 は , ま さ に , 新 旧 の 理 論 の 交 錯 す る 「モザイク」
6 )に ほ か な ら な か っ た こ と に な る 。3
・1
・ 2 税法批判と「純資産增加説」見直し論の登場 昭和25年の税法改正 ( 3 月 ) 後 ま も な い 同 年 9 月 に は , 通達の公開主義へ
の 転 換 を 求 め た 『 シャ ウ ブ 勧 告 』 の提案が受け入れられ7 ), 「法人税法 6 ) 黒沢教授は, 昭和2、)年改正後の法人税法の課税所得計算規定について, 「そ れ は 古 い 課 税 思 想 と 新 し い 課 税 思 想 と の モ ザ イ ッ ク に す ぎ な い こ と が 見 出 さ れ る。」と述べている。黒沢 清「近代税法と会計原則」 『産業経理』Vol.11,, N o . 1 , January,l95l, p.10. 7 ) 「個 人 所 得 税 お よ び 法 人 所 得 税 の 執 行 」 と 題 さ れ た 『 シ ャ ウ プ 勧 告」の第 4巻では, 税法にかんする税務当局の解釈や判断のみならず, 税務行政上の 各種の手続きにかんする説明を含む官庁の資料の多くを, 組織的に公開すべ き こ と が , つ ぎ の よ う に 要 請 さ れ て い る。 「 3 訓令の運用 国税庁は, 国税局および税務署に発した訓令を再検討し, それを最新 の も の に し , 直 ち に 尊 守 利 用 で き る よ う に 適 当 に 編 集 し , 索引を付す/'
'-
35-東北学院大学論集 経済学第137号 基本通達」 (昭和25年9月25日, 直 法 l
-
100) が公開された。
法人所得計 算の通則規定として,昭和25年改正税法はl日法とまったく同様に,「内国 法人の各事業年度の所得は, 各事業年度の総益金から総損金を控除した金 額 に よ る。 」 ( 第 9 条 第 1 項 ) との規定を掲げるだけだったが, これを契機 と し て , 「 益 金 」 ならびに「損金」の計算の実質的基準とされてきた,つ ぎのような税務当局の解釈が公開された。
「
総益金とは, 法令により別段の定めのあるものの外資本の払込以外 において純資産増加の原因となるべき一切の事実をいう。」
(昭和25年 9月25日附「直法1-
l00」51)「
総損金とは, 法令により別段の定めのあるものの外資本の払戻又は、、
・
べきである。 このような内部的な行政上の訓令は, 基本的性質を有する 解釈とは別個にすべきである。 行政上の手続きが改正された後は, 国税 庁は全行政過程の詳細な説明を大衆に提供すべきである。この説明には,, 国税庁および税務署ならびにその各部課に配分された機能, 行政過程に おける各種の手続き, 異識申し立てや上訴にかんする規則等の説明を含 まねばならない。 公表することの適当な内部的訓令は, できるだけ多く 含 ま れ て い な け れ ば な ら な い。 このような行政過程の説明は, たえず改 正し, 最 新 の も の に し て お か な け れ ば な ら な い。 4 税法の行政上の解釈 税法の客観的適用を基礎とする税法執行の改善は, 必然的に税法の重 要な規定にかんする多数の解釈上の間題を惹起するであろう。国税庁は,, 行政過程のこの部分を託することのできる資格のある税務官吏の一
団 を 育成すべきである。 こ の よ う な 解 釈 は , 国税庁および税務署ばかりでな く , 可能な最大限まで公衆へも提供されるべきである。 それは 『解釈』 ま た は 『 判 定 』 と ぃっ た よ う な 特 別 の 主 題 を 付 し , かっ, 適 当 な 索 引 を つ け て 編 基 さ れ る ぺ き で あ る。」(Shoup Mission, l 9 4 9 , V o l u m e W,, pp.D47-
D48) 「 ( 3 ) 解 釈 お よ び 判 定 一 国 税 庁 の 解 釈 お よ び 判 定 は , 現 在.
一般に公 開 さ れ て い な い。 こ れ ら は , 今日, 国税庁および税務署に発せられる通 際 に 統 合 さ れ て い る。 これらの解釈および判定は, 通際から分離し, 適 当な索引を付して,一
般大衆の用に供すべきである。こ れ ら は , あ き ら か に , 統一的な様式で定期的に発行され, 常 に 最 新 の も の に し て お く べ きである。」(Shoup Mission,1949,Volume IV, p . D65) な ぉ , 『 シ ャ ウ プ 勧 告 』 以 前 に お い て も , 通 達 の 公 開 が ま っ た く な さ れ な か っ た わ け で は な い 。 こ の 点 に つ い て は , 井 上一
郎「租税史発掘 終 戦 か ら シ ャ ウ ブ 勧 告 ま で 租税通達の公表一申告納税制度に関連して一」『税務広 報 』 V o 1 . 3 0 , N o . 3 , M a r c h , l 9 8 2, pp.l16-
1l7を参照されたい。-
36-わが国税務会計発達史の研究
C
l1) 利益の処分以外において純資産減少の原因となるべき一
切の事実をい う。」
(昭和25年9月25日 附 「直 法 l-
l00」52) こ れ らの通達は,「益金」ならびに「損金」を,純資産增加原因ならび に減少原因として定義している。
課税所得は「総益金」 と「
総損金」との
差額概念であるから, 上記の通達は, 所得を純資産の增加分ないしは減少 分として定義していることになる。
このことから,上記の定義は,一
般に, 「純資産增加説」と呼ばれ,わが国においては,法人の課税所得概念、の
説 明として, 税務当局によって従来から用いられていた8i
税務当局の伝統的所得計算理論としての「純資産增加説」の特徴は,「益 金」 および 「損金」 とはみなされない資本取引の範國を法定資本金の增減 取引に限定する前提にたって, 法定資本金以外の純資産の增加原因の
一
切 を「益金」とみる解釈を展開した点にある9)。
上記の通達もまた,これと 同様の
前提に立つて , 「
資本の払込」ならびに「資本の払戻」という用語 を , 「資本金の払い込み」
ならびに「資本金の払い戻し」の意味に用い, 伝統的「純資産增加説」を踏襲しているものとみられるlo'。
ちなみに , 上 記「益金」の定義中に,「法令により別段の定めのあるものの外」という 除外規定を挿入した税務当局の意図は,額面超過金(株式プレ ミ ア ム ) に ついて,「
本来ならば, 法人の益金であるが, 法律の特別規定によってこ れを益金としては取扱わない旨の
規定であることを言外に表示」l l )す る 8 ) な ぉ , わが国法人税法上の「純費産增加説」と, シ ャ ン ツ (Georg Schanz)がl9世紀末に唱えた「純資産增加説」との関係については, 田中 勝次郎「税法と企業会計原則との調整意見書に対する批判」「税法学」, No. 20.
August,l952,pp.7-
l9が詳しい。
9 ) 「純資産增加説」は,すでに論及した「株 式 プ レ ミ ア ム 論 争 」において「益 金説」 を主張する税務当局の論i
n
でもあった。 l0) 上記通達を税務当局の「旧時代の商法依存主義」の象徴として批判する見 解が,通達の示達直後にすでに表明されている。
この批判を含め,上記通達 の分析については, 国中勝次郎「シ ャ ン ツの純資産增加説と認定質与」「税 法学」 N o.
3 , M a r c h , l 9 5 l , p p . l-
llを参照されたい。 l l ) 田中勝次郎「税法の独立と税法学の震生」「税法学」No.9,September,, l95l.
p.2.-
37-
7東北学院大学論集 経済学第137号 ことにあったといわれている。 上記の通達に示された税務当局の伝統的理論ならびに従来の税務会計の あ り 方 は , 通達の公開とともに, 国 民 の 強 い 批 判 に さ ら さ れ る こ と に な る12o まず, 『シ ャウプ勧告』 の啓発を受けて, 当時, 急速に勃興しっつあっ た税法学研究の分野ではl3), 昭和26年l月に発行された 『税法学』 創刊号 l2) 武田教授は, この通達公開の意義に注目し, 「課税当局における法解釈の 内 容 が 公 開 さ れ た こ と に な り , その意味では
一
般の国民の批判の材料が出撤 っ た こ と に も な っ た の で あ る。」と述べている。武田,l990,40ベージ。 ま た , 当 時 , 国 税 庁 法 人 税 課 に 所 属 し て い た 漢 良 之 助 氏 も ま た , こ の 通 達公開の意義を重視し, 「他方税務会計の側においても, 従来の秘密主義が ーてきされて取扱通達が公表された。 こ の こ と に よ り , そ れ ま で う か が い し れない不可思識な存在であった税務会計の全貌が明らかになり, 全面的な理 論関争の素材が提供された。」と述べ,通達公開主義への 転 換 を 求 め た 『 シ ャウプ勧告』が税務会計研究の戦後の発展に果たした役割を指摘している。 漢 良之助「税務会計原則の在り方」『 産 業 経 理 』 V o 1 . 1 1 , N o . 7 , July,, l951, p.22. l3) 『 シ ャ ウ プ 勧 告 』 の 第 2 巻 第 1 4 章 「 所 得 税 に お け る 納 税 協 力 , 税 務 行 政 の 執 行 な ら び に 訴 訟 」 で は , 「 租 税 に 対 す る 学 究 的 関 心 」 と い う タ イ ト ル の も と で , 税 法 に か ん す る 教 育 ・研 究 の 重 要 性 が , つ ぎ の よ う に 指 摘 さ れ て い る。 「租税にかんする研究が重要視されればされるほど, 日本の税制はよ り 効 果 的 な も の と な る で あ ろ う。 なぜならば, 租税の研究を志す頭脳明敏 な者の数が增すにつれて, か れ ら は , ますます重要で知的関心を呼ぶよ う な 間 題 を こ の 分 野 に お い て 提 起 す る で あ ろ う。 こ の こ と は , 法律およ び会計の実務に携わる者と, 大学や政府の調査部局で教育や調査に あ た っ て い る 者 に も あ て は ま る。」(Shoup Mission, 1 9 4 9 , Volume I[ , p.226)
「各大学の法学部は, 税法の識座を独立の学科目として開設すべきであ る。 税法の実体的かつ技術的規定ならびに税務行政の専門的側面に注意 が 向 け ら れ る べ き で あ る。」(Shoup Mission,1949, Volume IV, p. D
67) ま た , 同 様 の 勧 告 は , 『 シ ャ ウ プ 使 節 団 日 本 税 制 第 二 次 報 告 書 』 で も , つ ぎ の よ う に な さ れ て い る 。 「大学の法学部は, 財政政策ならびに財政学の見地とは異なる法律的見 地に立 つた所得税および法人税の講座を, 開設すべきである。 そ う し た 講 座 は , 弁 護 士 を し て , 租 税 の 間 題 に 興 味 を い だ か せ , かっ, 租 税 制 度 についての見識ある批判を喚起するのに
.
大いに役立つであろう。 それ は ま た , 当 然 の こ と な が ら , 租税の法律面についての必要な学間的研究 を 発 達 さ せ る こ と に つ な が る で あ ろ う 。 法 学 部 が そ う し た 講 座 を 開 設/'
-
38-わが国税務会計発速史の研究
C
11) の誌上において, はやく も, 昭和25年の改正税法ならびに取扱通達へ
の
批 判が展開されている。
た と え ば,
中川一
郎教授は, 「税法の法源と税法規の解釈」
と題した論 文において, 税務当局から公表される通達の法的性格について, 「いず れも税法の法源ではなく, 又各税法規の
解釈に際しては, その明確に定 める納税義務の限界拡大とならないものに 限 り,
一
基準となるにすぎな い」
l4) と結論している。
さらに,「法人税取扱通達批判(-
) 」 と 題 し た 別稿において, 同教授は, 法人税の課税所得計算の基礎とされるべき 「益 金」 ならびに 「損金」概念を定義した明文規定が法人税法上設けられてい ない点を立法上の欠点として指摘したうえで,「
殊に納税義務法定主義の 建前よりして,かかる重要な法概念を通達をもって決定せんとする態度は, 国民に不要な疑惑を与えるものとして強く排舉されなければならぬ。」
l5) と厳しく批判している。
こうした批判に続いて,中川教授は,上記の取扱通達に示された「
総益 金」
ならびに「
総損金」の定義の
間題点を指摘したうえで, それらにとっ て代わるべきつぎのような新たな定義を提示している。
「益金とは法人の純資産を增加せしめるような事実にもとずく収益その
他経済的利益をいい, 損金とは法人の株主又は社員に対する利益配 当以外において法人の純資産を減少せしめるような事実にもとずく費 、、
.
で き る よ う に, 十分な資金が予算に計上されるべきである。」
(Shoup Mission,l950,p.78) 「シャウプ動告」のこれらの提言が, わが国における税法学研究の生成・ 発展に大きく貢献したのは, まぎれもない事実であろう。
ち な み に, 金子教 授は,a
税法の研究と教青へ
の気運が,「シ ャ ウ プ 動 告」の発表以前から港 在的に高まりっ
つ あ っ た こ と を 指 摘 し た う え で , 「この気運を一
挙に願在化 さ せ た の が , シ ャ ウ プ 動 告 で あ っ た。」と述べている。
金子 宏「所得概念 の研究」有要関.
1995年,「は し が き 」 , 2ベ ー ジ。
l4) 中川一
郎「税法の法源と税法規の解釈一
取扱通達について一」「税法学」 N o . l.
January, l 9 5 l , p . 3 3.
l5) 中川一
郎「法人税取扱通達批判(-
) 」 「税法学」No. l , January,l95l,, p.4l.-
39-
9東北学院大学論集 経済学第l37号 用その他の経済的損失をいう
。」
l6) さらに,の
ちに中川教授は,「現行税法における基本的法概念としての 『所得』」
と題した一
連の論文を発表し, わが国税法上の所得概念の究明 を目的とした独自の研究成果を発表している。
この研究において, 同教授 は,「益金」ならびに「損金Jの計算方法を定めた法人税法,同法施行規 則ならびに租税特別措置法上の規定の詳細な検討結果として, つぎの よ う な結論をえている。
「以上の如く,益金・損金の概念の基準となるものは,金銭價権及び 金銭債務の発生,価値権の增減,金銭債権・債務の絶対的消減並びに 責任準備金積立義務であるということができる。それは, ドイツ所得 税法第四条が規定するが如き計算方法と結果的に変わりはなく, 又会 計学者の説く成果計算法とも変わりはないであろう。
唯, 税法上, 益 金 ・損金の概念を把握するには,以上の如く,権利義務をもって表現 しなければならないのである。蓋し,
法的価値判断の
尺度は, 権利義 務以外にはないからである。」
l7) 中川教授による上記の研究とほぼ同時期に,
田中勝次郎氏もまた,一
連 の税法研究の成果を発表している。
同氏は, 昭和25年の改正税法ならびに 上記の取扱通達の「総益金」ならびに「総損金」の定義を,「誤つた商法 依存主義」
I8) と評して, 鋭く批判し, 税法独自の日的にそった法解釈の l6) 中川一
郎「法人税取扱通達批判(-
) J 「税 法 学 」 N o . l , January.
l95l,, p.42. l 7 ) 中川一
郎「現行税法における基本的法概念としての「所得」( 十一
) J 「税 法学」 N o.
27.
March,l953.
p.
28. な ぉ.
この結論は,法人税法上の所得計算原理を,成果計算原理として理 解すべきことを示唆する点において, 従来の伝続的見解ないしは通説を理す 内容のものだった。税法学研究の黎明期において.
そうした知見をえた中川 教授の研究の先見性は, 注 目 に あ た い し よ う。
l8) 田中.
March.
l95l,p.6. なぉ, 田中氏による同様の批判は,つぎの各 論文においても展開されている。
田中勝次郎「法人税取扱通達と商法依存主義」「税経通信」 V o l.
6.
No.
l , January,l95l,pp.l09-
ll7./''
l0-
40-わが国税務会計発達史の研究
C
l1
) 必要性を指摘している的t
同氏によれば, 上記の取扱通達中の
「資本の払 込」ならびに「資本の払戻」は,本来は,「商法上の意義ではなく,
経済 上の意義における払込と払戻し」 と解されるべきであり, したがって, 上 記通達は,「
経済上の意味における」
という文言を挿入したうぇで, つぎ のように訂正されるぺきであるというmt
「
総益金とは経済上の意味における資本の
払込以外において純資産の 增加原因となるべき一
切の事実をいう」
「
総損金とは, 経済上の意味における資本の払戻以外において純資産 減少の原因となるべき一
切の事実をいう」
さらに, シャウプ使節団の支持を背景に, 「企業会計原則」の公表にこ ぎ着けた会計学者の
一
部も, 企業会計制度の統一
というかれらの最終日的 の達成にむけて, 昭和25年の改正税法ならびに上記通達に対する批判を開 始した。
た と え ば,
すでに指描したように,黒沢 清教授は,昭和26年l月に「近
代税法と会計原則」
と題した論文を発表し, 改正税法を, 新旧の理論が交 錯する「モザ イ ク」
2 l ) と呼んで,その非近代的側面を批判している。
同 教授は, この論文において,「
企業会計原則J の立場から指摘されるべき 改正税法の所得計算規定の主要な間題点を列挙したの
ちに,「
日本税法は, 近代化の途を進みっ
つも, 未だ若干の点で停滞を示しているものと断ぜさ、
田中膀次郎 「再び我国の種端なる商法依存主義について (漢事務官の批判 に 答 う ) 」 「税経通信」 V o l . 6 , N o . 9 , September,l95l,pp.
44-
58. 国中勝次郎「税法の独立と税法学の震生J f税法学」No.9.
September,, l 9 5 l , p p . l-
l 5.
l9) 田中氏による税法批判について,当時,国税庁法人税課に所属していた漢 良之助氏は,「領聴に値する所論であり,この間題について反省の気運が生 じているのは,一
に 同 氏 の 研 究 に よ る も の と い え よ う。」
と述ぺ, その意義 を高く評価している。
漢 良之助「改正商法と税法」『税経通信」 V o l ・ 6 ,, No.7, July,l95l,p.86. 20) 田中, January,l95l,p. l l 3.
2 l ) 黒 沢 , l 9 5 l , p . l 0.
-
4l-
l l東北学院大学論集 経済学第l37号 るをえないのである
。」
22) との認識を示し, 結論として, 税法の
よ り い っ そうの近代化のために,税法上の伝統的所得計算原理たる 「純資産增加説」
を見直す必要性を説いている'
a:'
。
太田哲三教授もまた, 黒沢論文と同様の見地から税法を批判した自らの 講演の要旨をとりまとめた論文を,「
会計原則と税務」
と題して発表して いる。
同教授は,この
論文において,昭和25年の税法改正を,税法による「
企業会計原則」へ
の「近接」24) と 呼 ん で 欲 迎 し , 結 論 と し て , 残 さ れ た両者の差異の
解消のために 「純資産增加説」
を見直す必要性を説いてい る。3
・ 1
・3
税務当局者による税法研究の進展と伝統的税務会計観の動 橋一
方, 『シャウプ動告』 の発表ならびに「シ
ャウプ税制」の
成立を契機 として,税務当局の内部には,従来の税務行政に対する真準な反省が生ま れていた。
た と え ば, 忠 佐市氏は,大蔵省主税局調査課長だった昭和24年ll月に,「
税務計算と会計原則」 と題した論文を発表し, そのなかで, 従来の成課 課税制度時代の税務行政へ
の反省をっ
ぎのように述べている。
「見逃すことのできない事実は, こ のような課税方式 (成課課税方式の
こと:高橋注)をとってきた関係から,租税法規に関する解釈等は,, すべて行政訓令的に上級官庁から下級官庁に対する内都通際等の
形式 で伝達され, 外部的に納税者に与えられる性質のものではなかったと い う こ と で あ る。
も っ と も , これらの解釈通際の一
部は, 必要に応じ て外部の納税者へ
も発表せられ, また, 行政裁判事件などを通じてそ 22) 黒 沢 , l 9 5 l , p.
l5. 23) 黒沢.
l 9 5 l , p . l 5 . 24) 太 田 哲 三 「会計原則と税務」 『企業会計」Vol. 3 , N o.
9,September, l951, p.4. l2-
42-わが国税務会計発達史の研究
t
i1lの
解釈の
当否が争われたことも一
再ではなかったために税務官庁側に おける租税法規の解釈適用に関するあらかたの方向は, 関心を有する 納税者及び学界の知悉するところとなっている。
しかし, この解釈通 際が実定法規を補充して一
体となって租税法体系を形作る, と い う よ うな客観性をもつものと観念せられるまでにはとうてい至らなかった のである。あまっ
さ え,この税務官庁の解釈の
集成を,税務意識にも とずく独自の原則と観念されたり, また, 税務官庁の独善かつ独占的 労 作 と 誤 解 さ れ た こ と も一
再に止まらなかったと考えられる。」
25) こうした反省にもとづいて, 忠氏は, 申告納税制度へ
転換後の税制の新 時代にふさわしぃ「合理的な,客観的な」
26) 租税法解釈の基準確立の必 要性を説き, そうした基準確立にむけた試みの
一
環として, 当時発表され て間もない「
企業会計原則」
と税法の相違の分析を行つている。
この研究 からえられた結論のひとっ
と し て , 同 氏 は ,「
か く し て , 今 回 発 表 さ れ た 企業会計原則は, 法人税法における所得の概念規定においてすでに秩序ず けられた体系を大きくゆりはじめたのである。」
2'
) との認識を示している。
忠氏のこの研究では, 伝統的 「純資産增加説」
見直しにかんする具体的提 言はなされてはいないが, 税務会計研究の方法論にかんする, つぎのよう ないましめが説かれている。
「
税務官庁がその年来信奉してきた財産增加説を所与のものとして科 学的検討の
労を惜しむことは独断であり, また学界が税務官庁の伝統 的解釈の根底を解割し , 批 判 せ ず し て , かっ
合理的な租税負担の実現 を論証せずして, その非を唱うることには与しぇないものがある。」
28) 25) 忠 佐市 「税務計算と会計原則(-
) 」 「企業会計」 Vol.
l , N o .l l ,, November,l949,p.34. 26) 忠.
November,l949.
p.
35. 27) 忠.
November,l949.
p.
36.
28) 忠 佐市 「税務計算と会計原則(二)」 「企業会計」 Vol.
1 , N o .l2,, December, l 9 4 9 , p.
26.
忠氏のこの主張は, 税務会計研究のあるべき要を他にさきがけて指摘した も の と し て , 注 日 に あ た い し よ う。
な ぉ.
当時の税務会計研究の発展状況/'
'-
43-
l 3東北学院大学論集経済学第l37号
その後,
患氏は,「
税務計算の新理論」
と題した一
連の
論文を発表し, そのなかで, 昭和25年の税法改正に伴う法人所得概念の修正点の分析をふ まえて,「益金」ならびに「
損金」にかんす る , つ ぎの
よ う な 独 自の
定義 を展開している。
「
総益金とは, 対資本主取引以外において, 法人の純資産の增加とな るぺき一
切の事実にもとずく収益その他の
経済的利益を指し, 総損金 とは, 対資本主取引以外において, 法人の純資産の減少となるべき一
切の事実にもとずく費用その
他の
経済的損費を指す」
29) さ ら に , 忠氏は, 法人税法の所得計算構造の特質にも論及し, つぎのよ うな見解を表明している。
「
所得の
概念規定において財産增加説を主張することと, 所得の
計算 において財産計算原理によるか, それとも成果計算原理によるかは,, 必然的な関連を有しない間題であって, 特に, 現行税法の全体の構成 を通観するときは, 基本的には成果計算原理に立脚する所得計算の原 則があきらかにせられている, と理解しているものである。」3o) こ れ らの研究を経て, 忠氏は,つ
ぎのような最終結論をえるにいたって いるo「
所得概念を規定するものとしての正味財産增加説 (通用語は純資産、
・
'については, 患 佐市 「科学としての税務会計のありかた」「産業経理」 Vol.
l 0 , N o.
l2,December,l950.
pp.
9-
l4を参照されたい。
2 9 ) 患 佐 市 「 税 務 会 計 の 新 理 論 (-
) 」 「 企 葉 会 計」 V o l . 3 , N o . l ,, January.
l95l,p.38. な ぉ , 忠 佐市「a
税法要論」日本評論社,l950年.
l53ベージにも, 同様の定義が掲げられている。
3 0 ) 患 佐市 「 税 務 会 計 の 新 理 論 ( 二 ) 」 「企 業 会 計 』 V o l.
3 , N o.
2.
February,l95l,p.68.なぉ,忠氏は,この見解の論n
を 掲 げ た , つ ぎ の一
速の論文を発表している。
患 佐市「税法における所得計算原理(-
)」「企業会計」Vol.
3 , N o.
7.
July.
l95l,pp.37-
4l.
患 佐市「税法における所得計算原理(二)」「企業会計」 V o l . 3 , N o.
8 ,, August,l95l,pp.l6-
l9.
患 佐市「税法における所得計算原理(完)」「企業会計」Vol.
3 , N o.
9 ,, hptembef , l 9 5 l , p p . 3 4-
39.
l4-
44-わが国税務会計発達史の研究
C
F1 增加説) と, 所得計算における期間的所得計測の
原則とは区別せられ るべきものであること,そして,税法上の期間的所得計測については,, 期間的損益配分の原則と, 原価主義評価の原則との二支柱に立脚して いるものと考えられる」3I) また, 企業会計とは日的を異にする税務会計の独自性に注日し, 「企業 会計原則」
と対比されるべき「
税務会計原則」
の究明を日的とした意欲的 研究も, この時期に, 税務当局者の手で開始されるようになった。
たとえば, 富岡幸雄教授は, 東京国税局に所属していた昭和25年7月,「
税務会計論序説一税務会計の理念と現実一
」
と題した論文を発表し, その
結論において, 「税務会計原則」
確立の必要性をっ
ぎのように述ぺてい るo 「以上により筆者は税務会計を「理念としての税務会計』と『現実と しての税務会計』 とに便宣的に概念的に区別し税務会計の理念として の姿の認識に於ける企業会計との統一
性えの理想は是認するものなる も, 税務会計の特殊性よりする税務会計の現実としては両者の
計算思 考に於ける離反を認識し, これが解決を計る方法として税務会計原則 を樹立し企業会計原則に準拠し作成せられたる 『企業財務諾表』 を こ の税務会計原則の提供する計算基準に依り修正し課税所得の計算的把 握 を な す 『 税 務 財 務 諸 表 』 えの
道を開拓することに依り,税務会計の 特殊なる性格の
作用による企業会計の
混乱と会計理論の発達に於ける 具体的実務えの妥当性の面における妨げによる不合理さを解消し, 同 時にこの税務会計原則の樹立に依り, 課税所得金額計算の明確なる基 準を提供することに依り, 課税の公平と其の明確性, 合理性が期し得 ら れ る も の と 考 え る。」
32) 3 l ) 患 佐市「税法における梅利確定主義の展開」「会計」 V o l.
63, No.
l ,, January,l953,p.
85.
なぉ, この結論の論n
に つ い て は , 患 佐市「法人 税法における成果計算的思考の理解」 「会計』Vol.62,No.6,November,, l952, pp.8 l-
94を参照されたい。
32) 富岡幸雄「税務会計論序説一
税務会計の理念と現実一
」 「税 経 通 信 』 /''
-
45-
l 5東北学院大学論集経済学第l37号 富岡教授は,その研究の成果を掲載した多数の論文に続いて33)
一
連の 研究を集大成した著書「
税務上の損益計算」
を発表し, そのなかで,法人 税法の
所得計算構造の分析にかんする結論を, つぎのように述べている。
「斯 く て法人所得の
計算構造は税務上の資本取引の区分の原則に立ち 成果計算の原理に基本的な基盤を求める計算原理に立脚するものであ ると考えるものである。」
34) 学会ならびに官界双方における先駆的税務会計研究が, かくて, 深まり をみせるなかで, 昭和26年5月には, 日本会計研究学会第l0回大会が「
会 計原則, 規則と商法・税法」
と い う 統一
論題のもとで開催され, 「企業会 計原則」
と税法との
調整のあり方ををめぐって,学界・官界・産業界の各 代表者による研究報告ならびに円卓討論が行われた1S1'
。
この大会に, 客員 として,とくに招かれた国税庁法人税課長の明里長太郎氏は,「企業経理 と税務経理の相違点について」 と題する研究報告をおこない, その
結論に おいて, つぎのような注目すべき発言をしている。
、
、',Vol.5, N o . 8 , July, l950,pp.
22-
23. 33) たとえば, 上記論文につづいて昭和25年から翌26年にかけて発表された論 文としては,以下のものがあげられる。
富岡幸雄「税務上の益金損金対応の原則」「税経通信』Vol.5,No.l0,, &ptember,l950,pp.ll1-
120.
富岡幸雄 「税務上の期間損益確定の原則一税務会計の原則論の一
的一
」 「税経通信』V o l . 5 , N o . l l O c t o b e r , l 9 5 0 , p p . l l 8-
l26. 富岡幸雄 「税務上の期間損益確定の原則一
税務会計の原則論の一
的 (その 二 ) 一 」 「税経通信」Vol.
5 , N o . l1,November,l950,pp.
46-
55.
富岡幸雄「期間外損益と法人税務会計[税務上の期間演益確定の原則]」 「税経通信』 Vol. 6 , N o . 3 , M a r c h , l 9 5 l , p p . 7 6-
87. 富岡幸雄「税務上の売買損益計算」「税経通信」Vol.
6 , N o.
8,August,, l95l.
pp.95-
l04. 富岡幸雄「委託販売の税務損益計算」 「 税 経 通 信」 V o l.
6 , N o.
9 ,, hptember,l95l,pp.28-
39. 34) 富岡幸雄「税務上の組益計算」岩崎書店,l95l年,p.
24。
35) 日本会計研究学会第l0回大会の概要については,「日本会計研究学会報」f会 計」Vol. 5 9 , N o . 6 , J u n e , l 9 5 l , p p.
l l 2-
ll3ならびに飯野利夫「日本会 計研究学会第l0回大会の記」「産業経理」Vol.
1 l , N o . 7 , J u l y , l 9 5 l , p p.
62-
63を参照されたい。
l6-
46-わが国税務会計発達史の研究
C
lll 「税務経理はさきに述べたようにそれ自体が独自な会計理論を有する ものではなく,税法に:i
oける実体的規定は, その時において一
般的に 認められた会計理論を基礎として規定されたものである。
したがって,, 現在においては, 別段のものを除く外なお純資産增加説が採用されて いると解すべきであるが, 企業会計原則が一
般に公正妥当と認められ た場合においては, 損益確定の理論と して税務経理は全面的にそれを 基礎とすべきであると考えられる。
た だ , こ の 場 合 に お い て も , さ き に述べたように課税日的による面において相違することはやむを得な いであろうo」
:u) この明里氏の発言によれば,「
企業会計原則が一
般に公正妥当と認めら れた場合」
には,課税所得計算の基本は,「企業会計原則」
に全面的に依 存すべ き こ と に な る。
この見解は, 税務当局者の
間に従来から存在したと いわれる「
税務会計として固有の原則がある乃至あるべきであるという根 深い伝統的観念」3「'
)の動揺と,それに代わる「企業会計の尊重」 と い う 新たな理念の台頭を反映したものと理解されよう。
3 ・ 2
税法改正通動の
展開3 ・ 2 ・ 1
「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」の発表(昭 和2
1
,
年6月)
とその影響 昭和27年 (l952年) 代に入ると, 税法と 「企業会計原則」
との
調整を求 める企業会計基準審議会の
一
連の働きかけが開始され, それらを通じて, 税務会計の
い っ そ うの近代化が達成されてゆくことになる381l
,
36) 明里長太郎「企業経理と税務経理の相違点について」『会計』, Vol・60,, No.1, July,l95l.
p.24. 37) 演 , l 9 5 l , p . 2 l.
38) ち な み に,昭和20年代後半から昭和40年代初頭にかけて, 企業会計基準審 議会(企業会計審識会)から公表された税法と「企業会計原則」との調整/''
-
47-
l7東北学院大学論集経済学第l37号 昭和27年(l952年) 6月, 企業会計基準審議会は,
「
税法と企業会計原 則との調整に関する意見書」(以下では,「27年意見書」 と 略 称 す る ) と 題 された意見書を発表した39)。
, 「27年意見書」 の
目的は,「企業会計原則」
と 税法との間に残された矛盾対立にっ
いて, 「企業会計原則」
の立場から, 税法に対して調整を希望する間題点を提起し, それらについて望まれる調 整の方向を示すこととに置かれた4o'
。
「27年意見書」 の
検討対象は,発生主義の原則,実現主義の原則,費用 収益対応の原則ならびに継続性の
原則といった損益の期間配分にかかわる 原則の税法へ
の適用上の間題と, 資本剰余金と利益剰余金の区分という資 本と利益の区分原則の税法へ
の適用上の間題とに区分され, それぞれの間 題について,「総論」では原則的間題,「各論」では個別・具体的な間題が 論じられている。
「27年意見書」
において指摘された間題点と要望は多岐 にわたっているが, その基本的な主張は, つぎの点に要約される。
「
税法における所得計算の基本理念もまた窮極において, 『一
般に認 められた会計原則』 に根拠を求めなければならないのである。」
4!)「
税法においても, 明文をもって正規の薄記の原則を認め, 企業の純、、,,
に関速した 「意見書」 な ら び に 「速続意見書」 は.
下記のとぉりである。
「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」 (昭和27年6月l6日, 経済 安定本部企業会計基準審識会中間報告)。
「企業会計原則と関速諾法令との調整に関する速続意見書 第一
・ 第 二 ・ 第 三 」 (昭和35年6月22日, 大蔵省企業会計審識会中間報告)。
「企業会計原則と関速諾法令との調整に関する速続意見密 第 四 ・ 第 五 」 (路和37年8月7日,大蔵省企業会計審設会中間報告)。
「税法と企業会計との調整に関する意見書」 (昭和4l年l0月l7日, 大蔵省企 業会計審議会中間報告)。
なお,「企業会計原則」と税法との, いわゆる「調整論争」の推移につい て は, 畑山,l984,45-
54ページが詳しい。
39) 「税法と企業会計原則との調整に関する意見密」 (昭和27年6月l6日,経済 安定本部企業会計基準審議会中間報告)。
40) 「税法と企業会計原則との調整に関する意見密」 (昭和27年6月l6日, 経済 安定本都企業会計基準審識会中間報告),「前文二J参照。 4 l ) 「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」(昭和27年6月l6日, 経済 安定本部企業会計基準審識会申間報告),「総論 第一
a
税日的のための会 計原則の適用」。-
48-わが国税務会計発達史の研究(l;11 所得の決定に関しては, 健全な会計慣行を尊重するごと き規定の設け ら れ る こ と が 望 ま し い
。」
42) もちろん, 「27年意見書」 は, 課税所得の計算を目的とする税法の独自 性をも否定したわけではなかったが43), 上記の主張ならびに要望について は , そ れ ら を 「企業会計原則至上主義」44) と み な す 厳 し い 批 判 が , 税 務 当局者を中心に巻き起こった。 たとえば,「27年意見書」発表直後に,国税庁から発せられた通達「『税 法と企業会計原則との調整に関する意見書』 の発表について」 (昭和27年 7 月 2 3 日 , 直 法 1-
l 0 1 国税庁長官・国税局長)では,「27年意見書」
に対する, つぎのような批判が展開されている。
「
二 この意見書に対する税法上の批判 この意見書は, 企業会計原則の立場から税法に対する見解を述 べたものである。 会計学者, 会計実務家等が一
年余にわたって研究した結果であ る か ら , 参考となるべき意見書であることはいうまでもないが,, その根本的な考え方は, 租税政策上差異があるものを除いては企 業会計原則を至上のものとしてそれに一
致せしめられるべきもの であるとの立場を採つている。
しかし, 税法においては課税所得に対する固有の理論があるの で あ る か ら , 企業会計原則と税法の課税原則との間に本質的に一
致 に 至 ら な い 部 面 の あ る こ と は や む を ぇ な い こ と で あ る 。 42) 「税法と企薬会計原則との調整に関する意見書」 (昭和27年6月16日, 経済 安定本部企業会計基準審識会中間報告),「総論 第一
組税日的のための会 計原則の適用」。 43) 「27年意見i!;」の前文は,「もとより税法はそれ自身の論理と体系を持ち,, 又国家の財政政策及び租税政策を反映するものであって, 『企業会計原則』 との間に完全な一
致を期待しえない部分が, 理 論 的 に も ま た 実 際 的 に も あ り 得 る。」 と述べている。「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」 (昭 和27年6月16日, 経済安定本部企業会計基準審識会中間報告)。 44) 畑 山 , l 9 8 4 , 4 5 ベージ。 - 49-
19東北学院大学論集 経済学第137号 又現在多く の点において, 税法が
一
般の会計実務と一
致してい るのは, 税法上の所得と会計上の利益とでは理論的には異なる構 成を有しながら, 実際上はその範囲がきわめて接近していること と , 税法が実務上の便宜によりできるだけ会計実務を技術的に採 り 入 れ て い る こ と に よ る も の で あ る。
かかる観点からこの意見書にっ
いては, 根本的な両者の
相違点 を明確に認識した上において両者の
調整を考うべ一きものであるか ら, 意見書のよって立つ立場に対して更に批判がなされなければ ならないものである。
三 この意見書と現行税法 この意見書は, 右に述べたように, 企業会計原則の立場から細 部にわたって税法の改正についての見解を述べたものであるから その内容にっ
いて更に充分な検討を必要とするものであり,また,, 立法上は考うべき点もあるが, これを現行法の改正に直ちに移す にはなお相当の時日と研究を要するものと認められる。」 45) 上記通達では,「27年意見書」に対する税務当局側からの, い わ ば ,「
逆 批判」
が展開されているのであり, 「企業会計原則」 の:
尊重を求める企業 会計基準審議会の主張と要望は,結局のところ,「
門前払い」を く っ た 形 と な っ て い る 。 か く て , 「27年意見書」の上記の主張と要望は, ただちに受け入れられ 45) 当時, 大蔵省税制課長だった泉 美之松氏も, 「27年意見書」の調整への 基本姿勢を, 「租税政策上又は租税日的上差異があるものを除いては, 企業 会計原則を至上のものとし, 税法はそれに調整されなければならぬとする態 度」 と 評 し た う え で , 「会計原則が唯一
絶対なものであって, 商法も税法も こ れ に 調 整 す る よ う に し な け ら ば な ら な い と 説 く の は , 全くの独断に過ぎな い の で は あ る ま い か。」 と 批 判 し て い る。泉 美 之 松 「 意 見 書 の 『 総 論 』 に ついて」「企 業 会 計 』 V o 1 . 4 , N o . 8 , July, 1 9 5 2 , p p . 8 7-
88. な お , 「 会 計 』 , 「 産 業 経 理 』 , 「企業会計』の各誌において,「27年意見書」 への賛否両論を掲載した特集号や臨時增刊号が刊行されている。 た と え ば ,, 『 会 計 』 V o l . 6 2 , N o . 3 , July,1952, 「産葉経理」 V o l . 1 2 , N o . 7 , July,, l952, 「企業会計』Vo1.4,No. 8 , July,l952などを参照されたい。 20-
50-わが国税務会計発達史の研究l
1
1'
1l る こ と は な か っ た 。 しかし, 上記通達に示されたかたくなな姿勢にもかか わらず,税法規定の整備・近代化は着実に進行し,次第に本格的な税法改 正運動へ
と拡大していった。3
・2
・2
税法と「企業会計原則」との調整の進展 まず, 昭和28年(1953年) 5月には, 通達「原価差額の調整について」 ( 昭 和 2 8 年 5 月 l 8 日 , 直 法 l-
54) 46), な ら び に , 通 達 「 法 人 税 基 本 通 達 の一
部改正(たな卸資産関係)にっ
いて」(昭和28年5月l8日,直法l-
54) が国税庁から発せられた。 原価差額の税務上の処理方法の統一
をはかるた めに発せられた通達「原価差額の調整にっ
いて」は, 反対論の根強い原価 差額の調整計算を原則として要求したことから, 調整計算不要論者の新た な 反 発 を 招 く 結 果 と な っ た47。
しかし,通達「法人税基本通達の一部改正 (たな卸資産関係) にっ
いて」 は, 棚卸資産の取得価額にかんする詳細な 計 算 方 法 を 示 す こ と で , 従 来 の 通 達 の 規 定 の 整 備 に48), 大 き く 貢 献 し 46) この通達は, 原価差額の税務上の取り扱いについて統一
を 求 め る一
般 か ら の 要 望 の 高 ま り に こ た え て 発 せ ら れ た も の で あ っ た。 ち な み に , 昭和27年2 月には, 日本租税研究協会から 「原価差額の期末処理に関する意見」 が税務 当局宛に提出されたのに続いて, 昭和27年8月には, 経済団体連合会からも 「原価差額の調整に関する要望」 が税務当局宛に提出されている。 通達が発 せ ら れ る ま で の 経 細 こ つ い て は , 吉国二郎「原価差額の調整の通達に つ い て 」 『 企 業 会 計 』 V o l . 5, N o . 7 , July, 1 9 5 3 , pp.39-
45を参照されたい。 47) た と え ば , 調 整 不 要 論 者 の一
人であった黒沢 清 教 授 は , 「本来原価差額 の処理のごとき純会計技術的な間題は, 企業会計の自治の領域に委ねるべき も の で , 法 の 支 配 介 入 す べ き こ と が ら で は な い。」と述べて,通達「原価差 額 の 調 整 に つ い て 」 を 強 く 批 判 し て い る。黒沢 清「原価差額再論」『会計』 Vo1.63,No.6, June,l953, p.7. 同様の批判は, 西野嘉一郎「原価差額に対する二つの規則一国税庁『通達』 に 関 連 し て 一」『 企 業 会 計 』 V o l . 5 , N o . 7 , July,l953,pp.73-78に も み ら れ る。 なぉ, 原価差額調整の必要性については, 標準原価計算制度の実施を待つ て, こ れ を 再 考 す る と い う 含 み が , こ の 通 達 に は 残 さ れ て い た と い わ れ る 。 「 企 業 会 計 座 談 会 ( I ) 「原価差額の調整』通達をめく' っ て 」『 企 業 会 計 』 ( 臨 時 增 大 号 ) V o l . 5 , N o . 7 , July,1953, p.60.-
5 l-
2l東北学院大学論集 経済学第137号 昭和30年代に入ると, 既存の通達の整理統合と, 新たな総合通達制定の ための税務当局による検討作業が開始された;
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o)。
その改正案検討の過程で, 通達による規制の範囲を逸脱するような基本的事項にかんする規定を, 法 令にゆだねる必要性が生じたため, 法人税法施行規則や租税特別措置法施 行令などの関係法令の改正が, 昭和34年3月に, 先行して実施された5''
。
48) 通達の従来の規定については, 「法人税法基本通達」 (昭和25年9月25日,, 直法1-
l 0 0 ) 第 l 7 , 1 8 0-
l90を参照されたい。 49) この通達では, 他から購入した棚卸資産と自家製造の棚卸資産の取得原価 のそれぞれについて, 別々の規定が設けられ, それぞれについて取得原価の 計算方法が具体的に定められている。 従前の規定との最大の相違は, 棚卸資 産原価に含められるべき付随費用の範囲が拡大されている点にある。 なぉ,, 武田教授は,通達「法人税基本通達の一部改正(たな卸資産関係)について」 の意義にかんして, 「この通達は, たな卸資産の取得価額について会計学的 ア プ ローチがなされたという意味で,原価差額の調整に関する通達とともに,,, ーつ の 時 期 を 画 し た と い っ て よ い」 と述べている。 「座談会 企業会計制度 の基盤 ゎが国会計法制の30年」『企業会計』 Vol.30,No.l2,November,, l978,p.27. 50) 法人税取扱通達の全面改正作業は,昭和25年の「法人税法基本通達」(昭 和25年9月25日, 直 法 l-
100)以降発表された膨大な数の通達の整理統合 を 日 的 と し て , 昭和3l年暮れ頃から開始され, 民間の研究機関をも交えた検 討作葉を重ねた末に,昭和34年8月24日付の改正通達「改正法人税法(昭和34 年3月改正) 等の施行に伴う法人税の取扱について」 (昭和34年8月24日,, 直法1-
1 5 0 ) な ら び に「改正租税特別措置法(昭和34年3月改正)の施行 等に伴う法人税の取扱について」(昭和34年8月24日, 直法1-
150)が発せ ら れ て い る。通達の改正作業の推移につ い て は , 坂 野 常 和 「昭和34年3月改 正法人税法等の取扱通達(総論)」f 税 務 広 報 』 V o 1 . 7 , No.10,0ctober,, l959,pp.28-
35を参照されたい。 なぉ, 当時, 国税庁法人税課係長として通達改正作業にたずさわっていた 武田教授は,棚卸資産関連の通達の改正に つ い て , 「 税 法 は 税 法 , 企 業 の 会 計は企業の会計といったような事は出来るだけ避ける事が望ましい」 と述べ て, 企業会計の尊重を基本方針とすべきことを表明している。 この発言は,, 国 税 庁 の 見 解 と し て で は な く , あ く ま で も , 武 田 氏 の 個 人 の 私 見 と し て 述 べ ら れ た も の で あ る が , 通達改正にあたった税務当局者の認識の一
端を示すも の と し て 注 目 さ れ ょ う。「座談会 棚卸資産に関する取扱通達の要改正点に ついて」『 税 経 通 信 』 V o l . l 2 , N o . l 1 0 c t o b e r , 1 9 5 7 , p . 1 8 6 . 51) 昭和34年の法人税法施行規則改正の歴史的意義と, この改正が行われるこ と と な っ た 背 景 に つ い て , 武 田 教 授 は , つぎのように述べて,企業会計的手 法の導入を求めた「27年意見書」の影響力に注目している。/'
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52-わが国税務会計発達史の研究(l
1
) これらの改正によって, 役員報酬ならびに賞与, 固定資産の交換, 固定資 産の評価換え,資産の取得価額,繰延費用の
償却,価格変動準備金の対象 資産などにかんする規定が政令として明文化されることとなった。
これらの
新たな規定の
なかで, 税法と「
企業会計原則」
との
調整という側面から とくに注日される点は, つぎのとおりである。
固定資産の評価損益の損金ならびに益金へ
の
算入を原則的に認めな い こ と (法人税法施行規則第l7条ならびに同規則第l7条の 2 )。
繰延費用の
範田ならびに償却方法にかんする原則的規定 (法人税法 施行規則第2l条の 8 ) を 創 設 す る と と も に , 創業費,建設利息,株式 発行費,社債発行費,開業費,開発費,
試験研究費の償却方法につい て, 任意債却ないし随時損金算入を部分的に認める規定 (法人税法施 行規則第2l条の 9 ) を 設 け た こ と。
繰延費用の
範国にっ
いて 「資産の取得価額に算入される費用及び前 払費用を除く」
旨の
規定 (法人税法施行規則第2l条の 8 ) を設けたこ とに伴つて, 資産の取得価額に含まれるべき費用の
範囲を明確にする 必要性が生じたため,株式,棚卸資産, 固定資産の取得価額にかんす る原則的規定(法人税法施行規則第l9条の6,同規則第20条の 4 , 同 規則第2l条の 7 ) を 設,
ナたこと。
その後,昭和36年の法人税法施行規則の改正では,既存の準備金・引当 金制度が整備され,貸倒準備金の損金算入限度額計算における所得基準の
廃止や, 退職給与引当金の取り崩し方法の合理化が実施された52t
これに 続いて, 昭和38年の同規則改正では, 前年の商法改正, ならびに, 「 企 業 会計原則と関連諾法令との
調整に関する連続意見書 第4 期卸資産の評、、,
,‘ 「これらの改正は,必ずしも派手なものではないが.
税務会計の沿革と いう面からは重視されるべき改正であるといってよい。
そして.
こ れ ら はその数年前からの環境の変化に応じたものであることはいうまでもな い。
いずれにしても, 「税法と企業会計原則との開整に関する意見書」 が与つて力があったといえる。」(武田,l990,42ベー ジ。
) 52) 退取結与引当金制度は, 昭和27年の法人税法施行規則の改正によって創設 されている。
-
53-
23東北学院大学論集 経済学第l37号 価に
っ
いて」 (昭和37年8月7日,
大蔵省企業会計審議会中間報告) の要 望に沿つて53) 棚卸資産評価方法のうちの時価法が廃止された。
昭和38年には,複雑化した法人税法規定の
体系的整備を目的として,精 力的な活動を,すでに,展開していた税制調査会から,「所得税法及び法 人税法の整備に関する答申」
5'
)が提出された。
この答申をもとにして, 昭和40年には, 当時, 懸案となっていた法人税法の全文改正がl8年ぶりに 実施された55'
。
この全文改正によって,課税所得計算の通則規定は大幅に 整備され, 「内国法人の各事業年度の
所得は, 各事業年度総益金から総損 53) 路和37年4月の商法改正では, 「企業会計原則」 との調整がはかられ, 資 産評価原則については, 従来の時価以下主義に代つて取得原価主義が新たに 採用されている。 ち な み に.
この改正では, 株式会社の流動資産の評価につ い て , つ ぎ の よ う な 規 定 が 創 設 さ れ た。 「第285条ノ 2 流動資産一
付テハ其ノ取得原価又ハ製作価額フ開'ス ル コ ト ヲ 要 ス 但 シ 時 価力'取得価額又ハ製作価額ヨ リ 著 シ ク 低 キ ト キハ其ノ 価格ガ取得価額又、製作価額迄回復スルト認,
,l ラ ル ル 場 合 ヲ 除 ク ノ 外 時 価 ヲ 附 ス ル コ ト ヲ 要 ス 前項ノ規定ハ時価ガ取得価額又ハ製 作 価 額 ヨ リ 低 キ ト キハ時 価 ヲ 附 ス ル モ ノ ト ス」一
方, 「企業会計原則と関連諸法令との調整に関する連続意見書 第 4 棚卸資産評価について」(昭和37年8月7日,大蔵省企業会計審議会中間報 告) では, 時価主義について, 「財産貸借対照表の概念から導き出された評 価思考であって, 適正な期間損益計算を目的とする決算貸借対照表には適用 され得ない。」 (「第一
企業会計原則と棚卸資産評価」「二 取得原価基準」 「l 費用配分の原則」)との立場から,「時価法については,これを原価法 と代替しえない評価方法とする本意見書の趣旨を尊重し, 健全な企業会計t
lf 行の育成に協力されることが望ましい。」(「第三 税法と棚卸資産評価」 「一
評価方法の体系」) との税法改正に対する要望がなされている。
54) この答申は, 昭和37年8月10日付けで, 当時の池国年人内関総理大臣から 中山伊知郎税制調査会会長に対して提出された, 「今後におけるわが国の社 会, 経済の発展に即応する基本的な租税制度のあり方」 についての語間にも とづいて, 同調査会の税法整備小委員会が行つた40回以上にもわたる審議の 結 果 を と り ま と め た も の で あ り , 昭 和 3 8 年 l 2 月 6 日 に,税制調査会会長名で 提出されている。 55) 法人税法全文改正に向けての準備作業は,昭和35年4月には.
大蔵省主税 局と税制調査会の双方において,すでに,開始されていたといわれる。昭和40 年の法人税法改正に至るまでの準備作業ならびに検討の経総については,, 「[座戰会]改正法人税法の間題点」『税経通信」 V o l . 2 0 , N o . 6 , June.
1965, pp.l06-
l08を参照されたい。
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54-わが国税務会計発達史の研究(下) 金を控除した金額による