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多様化するワイヤレスアクセスシステムに対する電波伝搬技術の国際標準化における技術課題

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解説論文

多様化するワイヤレスアクセスシステムに対する電波伝搬技術の

国際標準化における技術課題

佐藤

明雄

a)

Technical Issues in International Standardization of Radiowave Propagation

Technology to Diversified Wireless Access Systems

Akio SATO

†a)

あらまし 近年,ユーザに身近なワイヤレスアクセスシステムの重要性が増大するとともに,周波数共用,シ ステム評価等の共通項としての伝搬技術の標準化が進んでいる.本論文ではITU-R SG3 を中心に進められてい るミリ波帯ワイヤレスアクセスシステム関係の伝搬技術標準化活動を取り上げ,伝搬技術標準化が抱える問題点 やその解決へのアプローチを紹介する.更に将来へのスコープの明確化を試み,研究成果の反映対象の一つであ る国際標準化が多様化しつつある無線システムの発展にどのように関わっていくかを提言する. キーワード 電波伝搬,標準化,ワイヤレスアクセス,ミリ波

1.

ま え が き

無線技術の分野で最も影響が大きい標準化は周波数 利用に関わる国際標準化である.周波数の有効利用の 推進は電波を用いる全ての技術分野に共通する命題で あり,無線システムの具体的な技術検討では常に意識 されている.中でも電波伝搬に関わる標準化は伝送路 である空間を電波が伝わるという物理現象の理解に基 づき,技術的な視点から各種無線システムの標準化検 討に必要な伝搬特性のモデル化や様々なパラメータの 計算方法を共通化することにより,周波数有効利用を グローバルに実現する基本的な役割を担っている[1]. また,標準化が望まれる新たな無線技術に対してもそ の発展を側面から技術的に支える責務がある[2].この ように,電波伝搬を物理現象の解明対象として捉える だけでなく,技術として捉えることで実用面がより明 確かつ発展的になる.これに基づき,以下では電波伝 搬を電波伝搬技術として論じる. よく知られているように,9 kHzから275 GHzまで の周波数の国際的な割当ては国連の専門機関の一つで 東京工科大学コンピュータサイエンス学部,八王子市

School of Computer Science, Tokyo University of Technology, 1404–1 Katakura, Hachioji-shi, 192–0982 Japan a) E-mail: [email protected]

ある国際電気通信連合(ITU:International Telecom-munication Union)の無線通信部門(Radio commu-nication sector),通称ITU-Rで審議され,3∼4年ご

とに開催される世界無線通信会議(WRC:World Ra-diocommunication Conference)で決定されるため, ITU-Rにおける標準化は社会に及ぼす影響が大きい. 本論文では,まず電波伝搬技術の国際標準化におい て様々な無線システムに対応する活動の特長を示す. 特に標準化の速度,すなわち,標準化作業が完了する までにかかる期間を決める要因について論じる.次 に,電波伝搬技術の標準化は固定伝搬及び移動伝搬か ら電離圏伝搬にまで及んでいるが,最近新たな技術要 素が検討されつつあるミリ波帯ワイヤレスアクセスシ ステムの伝搬を取り上げ,動的な伝搬モデルの標準化 について具体的な検討結果を示す.ここではミリ波帯 で影響が大きい降雨減衰特性の動特性のモデル化を考 察し,新しいシステム設計パラメータであるOutage Intensity (OI)推定法の検討の現状を示す.最後に, 上記のテーマも含め,伝搬技術における標準化の今後 の方向性を明らかにする.

2. ITU-R

における電波伝搬技術の標準化

の特徴

周波数の利用方法について国際的な方向性を定め

(2)

るWRCを核としてITU-Rの標準化活動は動いてい る.このWRCの結果は無線規則(RR:Radio Reg-ulation)に反映され,加盟国の批准をもって発効する ため,それぞれ国内における周波数割当てはRRを遵 守して定められている.このようにWRCごとに周波 数の利用方法が見直される仕組みであるため,ITU-R ではWRC間の期間を一会期とした活動が基本であ り,それぞれの会期中に検討すべき具体的な課題が設 定されている. これらの仕組みを機能させ,周波数有効利用を世界 的に推進するために必要な具体的な技術に関する標 準化活動を行う組織としてITU-Rには六つの研究委 員会(SG:Study Group)が設置されている.スペク トル管理のSG1,電波伝搬技術のSG3,衛星業務の SG4,地上業務のSG5,放送業務のSG6及び宇宙・ 科学業務のSG7である.SG1とSG3は,具体的な業 務における標準化を担当するいわゆるサービスSGと 呼ばれるSG4,SG5及びSG6の活動を支援する位置 付けである.SG3が担当する代表的な分野としては, 各種無線システム設計に必要な伝搬損やマルチパス関 連パラメータの推定法,周波数共用検討に必要な干渉 レベル推定法などの標準化がある. 無線技術の標準化に関する活動は,表1に示す六つ のSG構成の枠組みで行われている.各SGには担当 する研究課題(Question)に関する具体的な技術検討 を進めるために複数の作業班(WP:Working Party) がそれぞれ三∼四つ設けられている.したがって,一 般的には標準化の実務はWP単位で進められ,SGは 作業結果の取りまとめ審議と承認手続の遂行が主な役 目である. いわゆる標準化のプロダクトとしては勧告 (Recom-mendation)が中心であり,その新規作成や内容の改 訂は加盟国の承認を経て成立する.報告(Report)と 表 1 ITU-Rにおける SG 構成

Table 1 Structure of study groups in ITU-R.

ハンドブック(Handbook)は勧告より位置付けが一段 低いが,関連勧告を補強する技術情報等を取りまとめ た性格が強く,SG会合での承認で成立する.このよ うにSG会合が標準化活動の検討結果を具体化する場 といえる.一般的にWP会合が開催された後にSG会 合が引き続き開催されることが多いが,WP会合のみ 開催され,SG会合は次のWP会合後に開催される場 合もある.SG会合の開催頻度はSGごとに異なるが, サービスSGでは年2回程度である.電波伝搬を担 当するSG3においては原則的に四つのWP合同会合 (約10日間)が毎年1回,SG会合(2日間)は2年 に1回であるため,研究成果の具現化としての勧告等 の作成は2年に1度のペースであり,他のSGよりも スパンが長い特徴がある.したがって,伝搬技術の標 準化ではこのタイムスパンを考慮した活動が必要であ る.すなわち,長期展望と会合間での活動である.前 者についてはある程度の経験が物をいうが,WRCの 審議項目などは直接的に将来の課題を見せてくれる. 後者においては会合間でも検討を進めることができ るようにコレスポンデンスグループ(Correspondence group)が適宜設置されてメール等を用いた活動が行 われている. 最近のSG3における標準化活動の状況については 文献[3]∼[6]に詳しく述べられている.これらによれ ば新しい勧告の作成には少なくとも4∼5年,既存勧 告の改訂には2年以上,中には7年要したケースも紹 介されている.このようにSG3の標準化活動は他の SGに比べてタイムスパンが長い.この要因を以下に 考察する. (1) 研究課題との関係 ITU-Rにおける標準化活動は,各SGが担当する分 野に対して定めたいくつかの研究課題(Question)に 基づいて進められる.例えばSG3では現在23の研究 課題を所掌している.各研究課題は緊急性の度合で区 分されており,関連する研究の進捗状況に応じた研究 課題自体の見直しも行われている.通常の活動はこれ らの研究課題をベースに進められる.そのため研究課 題に含まれていない項目は標準化審議対象になりにく い傾向がある.すなわち,スタートポイントが未設定 の場合は審議を進めるためのコンセンサス作りにまず は時間を要する. (2) 寄書の必要性 具体的な審議は基本的に提案ベースで行われる.す なわち研究課題が設定されていたとしても誰かが具体

(3)

的な提案をしなければ審議は始まらない.提案は寄書

(Contribution)や入力(Input)と呼ばれる文書 (Doc-ument),更に他SGやWPからの連絡文書(Liaison statement)等としてWP会合やSG会合に入力され る.これらの文書では要求するアクションを明示して いることが重要である.このように,寄書による新規 提案はそれまでの研究成果に基づいているが,位置付 けとしては標準化作業のスタートに相当する.学術的 論文が研究成果のゴールとして位置づけられるのと異 なる点である. (3) 検証 提案が妥当かどうかの検証が必要である.伝搬技術 の場合は伝搬データをもとにしている場合が多く,提 案の根拠データの信頼性がまず問われる.標準化の視 点から提案の一般性や適用性も吟味する必要がある. すなわち,ごく限られた地域のみ適用可能な提案につ いては適用性の改善が求められる場合がある.また, 新たな測定が必要とされる場合もある.これらの検証 を効率的に進めるため,SG3ではデータバンクを設 け,各種の伝搬データを標準化したフォーマットで蓄 積している.データバンクのデータは誰でも閲覧可能 である[7].ただし,新分野に関する提案では対応する データ自体が蓄積されておらず,検証用データの取得 が必要な場合もある.通常,SG3では新たな提案に対 しては1年以上の検証期間を置いている.提案が入力 されたWP会合の次のWP会合までの期間がこれに 相当し,提案時の審議に基づく更なる検討の積上げや 一般性・適用性の向上が求められる. 上記の(1)と(2)はSG3以外にも共通する標準 化活動の特徴であるが,(3)は物理現象である伝搬特 性を主たる対象とするSG3特有の状況といえる. このような作業環境であることを認識して伝搬技術 の標準化を進めることにより,いわゆる技術先進国の みならず多くの国や地域で新しい無線技術の導入を可 能としている.極端な言い方をすれば,ある特定地域 に対する適用性が低くなっても世界的な適用性を優先 するスタンスが根底にある.このために検証における 適用性の確認が重要視され,様々なデータとの突合せ が必要となることから比較的長いタイムスパンでの標 準化作業となっている.次章ではこれまで述べたSG3 における標準化活動例としてミリ波帯の伝搬技術で重 要な降雨減衰動特性に関する検討を取り上げ,伝搬技 術標準化プロセスの理解を深める.

3.

ミリ波帯ワイヤレスアクセスシステム

のための動的伝搬特性

3. 1 新たな伝送品質評価パラメータ 一般にネットワークは不稼動率規格を満たすように 構築され,年間や最悪月における不稼動率や瞬断率が 伝送品質を評価する主要なパラメータであった[8]∼ [10].ネットワークのIP化に伴い,これらの時間統 計量以外に不稼動状態の年間発生回数(OI:Outage Intensity)が新たな伝送品質評価パラメータとして 2005年に勧告化されている[11]. OI = DjLlink LR + Ej (1) ここで,LR = 2500 km,DjLlink 及びEjは伝送 区間距離と種別に応じたパラメータであり,例えば 国内伝送路で区間距離が30 kmのアクセス区間の場 合,Dj= 0,Llink = 50,Ej= 100であることから OI = 100が求まる.すなわち,上記区間では不稼動 状態の発生回数が年間100回以下になるような回線設 計が必要であることが分かる.この動向は伝搬特性の 検討にも影響し,固定系無線システムにおける伝搬損 の時間変動特性のモデル化や減衰継続時間の推定法開 発などの検討が求められている[12].不稼動の発生自 体はシステム性能に依存するため,伝搬特性としては ある減衰量を超える状態が10秒以上継続する事象の 発生回数が推定の対象となっている. 大容量の基幹回線に用いられる長距離マイクロ波帯 無線システムに対しては大気屈折率変動に起因するマ ルチパスフェージングの動特性が対象であり,フェージ ング時の減衰継続時間推定法とOI推定法を結び付け た検討が行われている[13]∼[15].BWA (Broadband Wireless Access)のようなミリ波帯を用いたワイヤレ スアクセスシステムでは降雨減衰の影響が大きいた め,降雨強度並びに降雨減衰の動特性の検討が行われ ている[16]∼[20].降雨減衰については減衰継続時間 分布等の推定法の検討だけでなく,減衰の時間変動そ のもののシミュレーション手法の勧告化まで進んでい る[21]. 以下では,これらの動特性の検討における降雨強 度動特性,降雨減衰動特性,降雨減衰時間変動シミュ レータの検討について述べ,更にOI推定法との関係 も示す. 3. 2 降雨強度の動特性 降雨強度の動特性は降雨減衰の動特性検討の基礎で

(4)

あり,そのモデル化が進められている.SG3では,降 雨強度がR[mm/hr]以上の状態がDR[s]以上継続す る事象の年間発生回数NR(DR|R)については以下の 推定式を検討している[22]. NR(DR|R) = N0exp



−(ln(DR)− μ) 2 2



(2) ここで,N0,μ及びσの例を表2に示す.これらのパ ラメータ値は測定された降雨強度継続時間DRの累積 分布に対するカーブフィッティングから導出されてい る.したがって,式(2)はDRに関する累積分布であ るが,いわゆる対数正規分布ではない.DRの累積分 布をDRの対数を変数とするガウス関数の単調減少部 分で近似したものである.図1に表2のパラメータを 用いた計算例を示す.式の形からパラメータによって は極値をもち,例えば図1のNorwayの場合で横軸が 100秒以下でこの傾向が現れる.これはカーブフィッ ティングに用いたもとのデータ範囲に依存しているた めである.したがって横軸の適用範囲に注意が必要で ある. このようにグローバルな適用性のある推定法の構築 では地域性に起因する問題が不可避である.測定デー タに基づく推定法の開発は当然のことながらもとにな るデータの性質に依存するため,SG3ではデータバ ンクに各種のデータテーブルを設け,共通フォーマッ トでデータ蓄積を進めている.我が国からも降雨強 度や降雨減衰の継続時間特性データが提供されてい る[23]∼[25].また,降雨強度継続時間累積分布の推 定において,熱帯地域ではガウス関数タイプの近似よ り指数関数による近似の精度が高いことが報告されて いる[26].このように標準化に際しては地域的な適用 性の向上が重要であり,最も簡単な方法は地域ごとの 計算法を羅列することであるが,できる限り一つの方 法に統一されることが望ましい. 表 2 式 (2) の計算に用いるパラメータ

Table 2 Parameters for calculation in Eq. (2).

以下ではガウス型関数と指数関数の近似方法の統合 を目指した検討を示す.確率分布が指数分布の場合, 変数以外のパラメータは一つである.ここで指数分布 の一般形としてワイブル分布を用い,温帯地域で精度 のよいガウス型関数近似にどの程度対応できるかを検 討する[27]. 図2はブラジルにおける降雨強度継続時間累積分布 の測定結果を指数分布,ワイブル分布,ガウス型関数 の3種で近似した例で,表3に残差をまとめた.表3 図 1 降雨強度継続時間推定例

Fig. 1 Examples of estimated rain rate duration.

図 2 熱帯地域の降雨強度継続時間分布

Fig. 2 Rain rate duration distribution in tropical area.

(5)

より,全体的な近似度合はガウス型でもよさそうであ るが,降雨強度が大きい場合にも精度を確保したい場 合はワイブル分布が適当である. 熱帯地域でのワイブル分布形の適用性が確認できた ため,温帯地域への適用性を検討する.ワイブル分布 の確率密度関数f (x)と累積分布F (x)を以下のよう に表す. f (x) = α βα · (x−r) α−1· exp





x − r β



α



(3) F (x) =



x f (t)dt = exp





x − r β



α



(4) β =



σ2+ (x − r)2 Γ (1 + 2/α) (5) x = β · Γ



1 +1 α

+ r (6) σ =



β2·

Γ



1 + 2 α

Γ



1 + 1 α

2

(7) ここでσは標準偏差,xは平均値,αβ及びrはそ れぞれ形状,尺度及び位置に関するパラメータである. α = 1の場合は指数分布,α = 2ではレイリー分布に なる.分布形の比較には文献[28]で導出された東京に おける降雨強度継続時間の平均値等の統計パラメータ を用いた. N0= 2.32 · 104· R−1.49 (8) x(R) = 535.1 · R−0.2651 (9) σ(R) = 1768.1 · R−0.5637 (10) ここで,R[mm/h]は降雨強度,N0は年間発生回数 [回/年],xは継続時間平均値[s],σは標準偏差[s]で ある.式(6)や式(7)で分かるように,関数形を決め るパラメータの一つであるαがガンマ関数に内包され 表 3 3種類の関数形による近似精度の比較

Table 3 Comparison of three types of approxima-tion. ているため式(9)及び(10)の平均値と標準偏差から 直接計算できない.αβを変化させて近似する必要 がある.また,降雨強度は1分間降雨強度が一般的に 用いられるため,位置パラメータはr = 60 [s]とした. 図3に式(2)によるガウス型関数近似式による計算 値とワイブル分布による近似の対比を示す.継続時間 DRの小さい領域と大きい領域で差異があるが,100∼ 5000秒では相対誤差< 30 %で近似できている. このときの平均値と標準偏差の降雨強度依存性を比 較して図4に示す.黒塗りシンボルは式(9),(10)に よる測定値の平均値と標準偏差である.白抜きシンボ ルはワイブル分布近似に用いたαβ等のパラメータ から計算した値である.ワイブル分布近似では,位置 パラメータr ≥ 60 [s]の領域でカーブフィッティング しているため,もとの平均値と標準偏差の値とは異な る.降雨強度に対し,ガウス型関数近似に比べて平均 値は同様の傾向で変化するが,標準偏差についてはワ イブル分布の方が大きく変化させてもとの累積分布 図 3 ワイブル分布による近似

Fig. 3 Approximated results by Weibull distribution.

図 4 平均値と分散の比較

Fig. 4 Comparisons of mean values and standard de-viations.

(6)

カーブに合わせようとしていることが分かる.降雨強 度の大きな領域ではワイブル分布の平均値と標準偏差 が等しくなる傾向が見られ,指数分布近似に相当して いる.すなわち,平均値と標準偏差が等しければ熱帯 地域に対応する指数分布,異なる値を用いて温帯地域 の分布形に適用できるといえる. 以上の検討から温帯地域の降雨強度継続時間特性に ワイブル分布による近似法を導入可能なことが分かる. 推定には降雨強度Rがもとになるため,図5に降雨 強度とワイブル分布のパラメータαβとの回帰式を 示す. 3. 3 降雨減衰の動特性 降雨減衰量はもとになる降雨強度の空間分布特性と 関係している.降雨減衰の動特性の検討においてもそ のもとになる降雨強度の動特性の検討をベースにする 方法が提案されている[28]. ある値A[dB]以上の降雨減衰がDA[s]継続する事 象の年間の発生回数NA(DA|A)の表式は式(2)と同 じとし,継続時間DAに関わる自然対数部分のみ変え ることで推定できることが提案されている.すなわち, 式(2)のDRを次式で置き換える. DR= 1.6 · DA0.8 (11) 更に,減衰量A[dB]に対応するR[mm/h]は次式で表 される. A = a · Rb· d · rp (12) ここで,abはよく知られた降雨減衰係数[dB/km] の計算に用いるパラメータである[29].また,d[km] は伝搬路長,rpは空間相関係数である.したがって, ある減衰量A[dB]以上の事象継続時間発生回数は,式 (12)から該当するRを計算して式(11)とともに式 図 5 パラメータα,β の降雨強度依存性

Fig. 5 Rain rate dependencies of parameters α and

β. (2)に代入すれば計算できる.このとき,Rの計算に 用いるrpにはいくつかの表式があり,我が国では次 式が有効とされている[28]. rp= exp



−0.11 ·√d



(13) 図6は降雨減衰と対応する降雨強度の継続時間特 性推定例である.例えば,周波数f = 32 GHz,の水 平偏波の場合,式(12)のパラメータabは文献[29] よりそれぞれ0.2588,0.9392である.距離d = 2 km での降雨減衰が10 dBに相当する地点降雨強度は式 (12)より31 mm/hとなる.式(2)及び式(11)を用い てA = 10 dB並びにR = 31 mm/hの継続時間特性 が推定できる.どちらの事象も総発生回数は同じであ るが,分布の傾きが異なる.すなわち,同じ継続時間 の場合,地点降雨強度での発生回数より降雨減衰での 発生回数が多く,空間における積分効果が現れている といえる. 3. 4 降雨減衰時間変動特性のシミュレーション手法 これまで述べたように,測定された降雨強度や降雨減 衰の継続時間特性の統計モデルに対する推定法の検討 とは別に,降雨減衰の時間変動特性の計算機シミュレー ション手法の構築がSG3でも進められている.その 一つの成果として勧告P.1853,“Tropospheric atten-uation time series synthesis”がある[30].

Maseng-Bakkenモデルによる降雨減衰の確率論的時系列生成 法をベースとしている[31].SG3では2003年頃から 技術検討が始まり[32], [33],2009年に勧告化された. 本勧告は地上及び地上–衛星伝搬路における降雨また はシンチレーションによる減衰の時系列データをコン ピュータで生成する手法を勧告している.そのプロセ スは以下のパラメータ抽出(Step-1)と減衰の時系列 図 6 降雨減衰と降雨強度継続時間特性推定例

Fig. 6 Estimated examples of duration characteris-tics of both rain attenuation and rain rate.

(7)

生成(Step-2)で構成される. [Step-1] パラメータ抽出 降雨減衰累積分布を対数正規分布で近似 対数正規分布のパラメータ(m:平均値,σ:標 準偏差)を決定 このプロセスでは以下のITU-R勧告を用いる. 勧告P.837 [34]:降雨強度累積分布の0.01 %値(R0.01) 勧告P.838 [30]:降雨減衰係数(γR[dB/km]) 勧告P.530 [35]:降雨減衰累積分布の推定 [Step-2] 時系列データの生成 定常ガウス–マルコフ過程に従う 時刻tはインデックスkと時間間隔T sの積 t = k · T sで与えられる. • β は 時 間 相 関 に 関 す る パ ラ メ ー タ で ,10∼ 50 GHzでは平均的にβ = 2 × 10−4[1/s]とする. 以下の再帰方程式により正規乱数ベースのラン ダムノイズから減衰の時系列Arainを生成する.この とき,はじめの20万サンプルは廃棄する. X(k · Ts) = ρ · X((k − 1)Ts) +



1− ρ2· n(k · Ts) (14) ρ = exp(−β · Ts) (15) Arain(k · Ts) = exp(m + σ · X(k · Ts)) (16) 上記手法で発生させた減衰の時系列の例を図7に示す. 2回の出力の一部を併記している.周波数40 GHz,距 離3 km,水平偏波の例である. このように,もともとの降雨強度累積分布のみを ベースにしていることから扱いが容易である利点が 大きいが,後述するようにいくつかの課題が残されて いる. 3. 5 時系列生成法の応用 降雨減衰の時系列生成を用いて動特性の検討が可能 図 7 降雨減衰時系列生成例

Fig. 7 Examples of generated time series of the rain attenuation. である.まず,基本統計量として対象とした対数正規 分布に対する近似の状況を調べる.図8のシンボルは 50か月相当の期間における降雨減衰時系列データから 求めた降雨減衰量の累積分布である.実線は時系列発 生に用いた対数正規分布であり,小さい確率領域では まだ収束していないが比較的よい一致を示している. 次に,3.2で述べた降雨減衰継続時間特性について, 推定値(実線)とシミュレーション(シンボル)の対 比を図9に示す.両者の違いは大きく,推定値の方が 一けた近く大きい場合もある.このように,図8の減 衰累積分布のような静的な統計量はよく一致している 場合でも,継続時間特性のような動特性については検 討の余地がある.この原因の一つとしては時系列生成 で用いるパラメータβを固定値にしていることが挙げ られる.SG3での検討でも8箇所の地上伝搬路での測 定では2× 10−5 ∼ 3.83 × 10−4に分布しており,こ れらに衛星伝搬路での24の測定結果を含めた代表値 として決められている[36].βに地域性等を反映させ ることにより推定精度が改善する可能性はある.また, 動特性の中では減衰変化速度が送信電力制御等での必 図 8 降雨減衰累積分布

Fig. 8 Cumulative distribution of the rain attenua-tion.

図 9 減衰継続時間の累積分布

Fig. 9 Cumulative distribution of the duration of at-tenuation.

(8)

要性から従来から検討されており[37],これらの情報 も今後の検討に有効である. 次に,Outage Intensity推定法への展開について検 討する.3.1で述べたようにOI推定法は伝搬特性とし て10秒以上ある減衰以上の状態が継続する事象の発 生回数をもとにしている.図10と図11はそれぞれ発 生させた10か月分の降雨減衰時系列データから求めた 月ごとの減衰量A[dB]の累積分布p(A)A = 10 dB を超える継続時間の累積分布NAである. ある減衰量Aを超える継続時間の積分値は総観測 時間とp(A)の積に相当するため,NAp(A)は正の 相関をもつといえる.SG3のデータバンクの継続時間 分布のデータは現状では日本とブラジルに限られてい るが,ロシアからこれらのデータと自国のデータをも とに,t > 10sのみを対象とした年間のNA推定式が 以下のように提案されている[38]. NA(t > 10s) = 1 + 1313 · p(A)0.945 0.0001% < p(A) < 1% (17) 図 10 降雨減衰月間累積分布例

Fig. 10 Examples of monthly distribution of rain at-tenuation.

図 11 減衰継続時間月間累積分布例 (A = 10 dB)

Fig. 11 Examples of monthly distribution of dura-tion. 図12では時系列生成で得られる様々なp(A)NA の相関をで示している.は式(17)による計算値 である.簡易な推定式ながらシミュレーションと比較 的よい一致を示していることが分かる. また3.4でも述べたように定常ガウス–マルコフ過 程で正規乱数発生をもとに時系列を生成していること から有相関正規乱数を用いることにより相関のある時 系列の生成も可能である.図13は相関係数が0.9と 0.99で生成した時系列データの相関である.このよう に,独立した時系列生成だけでなく相関特性も考慮す ることにより降雨減衰や降雨強度の面的な動特性の検 討も可能となっている[39]. 図 12 式 (17) による推定値とシミュレーションの対比

Fig. 12 Comparison of the estimated results by Eq. (17) and simulated results.

図 13 相関のある時系列データの相関図 (ρ = 0.9, 0.99)

Fig. 13 Scatter graph of attenuations with different correlation factors.

(9)

4.

む す び

ミリ波ワイヤレスアクセスシステムの発展に寄与す る伝搬技術として降雨減衰動特性のモデル化等が国際 標準化の場で様々な制約を乗り越えつつ進められてい ることを示した.技術としてはまだ検討の余地が多い といえるがその根底に流れているのは“使えるもの” を生み出す実用化の精神である.我が国では電波伝搬 の分野でアクセス系ミリ波無線における降雨減衰の 検討と聞くと,既に主要な技術検討が終了した分野と 思いがちである.しかし,世界にはまだミリ波帯を中 心とする広帯域ワイヤレスアクセスシステム(BWA:

Broadband Wireless Access)を必要とするに至って いない地域も多い.標準化によって技術を蓄積するこ とは技術先導力のある国々の責務といえる.電波伝搬 技術の標準化とは伝搬技術の実用化の一側面であり, 一歩視点を変えることで研究や技術開発のヒントが山 のようにある世界でもある. ITU-R SG3の会合の中で初めて動特性の検討の話 題に触れたのは1998年のオタワ会合だったと思う. 以来,10年以上かかってここに至っている.現在で は,今回紹介した降雨関連動特性のみならず,晴天時 のマルチパスフェージングや対流圏散乱などのグロー バルな伝搬現象を反映させた動的モデル(WRPM:

Wide range propagation model)の構築が進められ ている[40].

文 献

[1] 東 政幸,“総論—電波伝搬技術標準化への期待,”信学誌,

vol.93, no.12, p.993, Dec. 2010.

[2] 佐藤明雄,“ITU-RSG3 における最近の電波伝搬に関する

標準化動向,”信学誌,vol.93, no.12, pp.995–999, Dec. 2010.

[3] 藤井輝也,表 英毅,太田喜元,“ITU-R SG3 における

移動通信の時空間電波伝搬モデルに関する標準化活動,”

信学誌,vol.93, no.12, pp.1000–1004, Dec. 2010.

[4] 北 直樹,増井裕也,米澤健也,佐藤明雄,“ITU-R SG3

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(平成 23 年 1 月 21 日受付,4 月 28 日再受付) 佐藤 明雄 (正員) 昭 56 九州大学大学院修士課程了.同年 日本電信電話公社(現 NTT)入社.電波伝 搬,各種無線通信方式回線設計法の研究実 用化及び国際標準化 (ITU-R) に従事.平 16より東京工科大学教授.総務省情通審 ITU-R部会電波伝搬委員会主査.慶應義 塾大学非常勤講師.工博.

Fig. 1 Examples of estimated rain rate duration.
図 4 平均値と分散の比較
図 9 減衰継続時間の累積分布
Fig. 10 Examples of monthly distribution of rain at- at-tenuation.

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