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現代所得税の研究 : ルールとしての租税システムとリスク社会

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Academic year: 2021

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博 士 論 文 要 旨 現 代 所 得 税 の 研 究 − ル ー ル と し て の 租 税 シ ス テ ム と リ ス ク 社 会 − 2 0 0 6 年 7 月 滋 賀 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 経 済 経 営 リ ス ク 専 攻 有 田 行 雄 指 導 教 員 北 村 裕 明 指 導 教 員 成 瀬 龍 夫 指 導 教 員 秋 山 義 則

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1 戦後のわが国の税制の展開は、シャウプ勧告とそれを受けたシャウプ税制によ って、包括的所得税中心の税制が確立したかに見えながら、その理念から乖離し ていく過程であった。 本論文では、租税をルールとして捉え、その中核に包括的所得税を据えたサイ モンズの租税論を導きの糸として、戦後の所得税制を、給与所得の源泉徴収と年 末調整制度、所得捕捉率格差、青色申告制度、税収のイロージョンという側面か ら実証分析を行う。そして、包括的所得税という理念からの乖離の過程とルール としての租税システムの実現への展望について検討することを課題としている。 本論文は、リスク社会におけるわが国の税制のあり方を考える重要な素材を提供 することになるであろう。 第1 章「H.C.サイモンズ租税論の再検討」では、ルールとしての租税システム を唱えたサイモンズの租税論を再検討した。 サイモンズのルール主義は、ルールを形成するものとしての交換上の正義を強 く認めながらも、ルールの中に分配上の正義を含めて、累進課税と包括的所得税 という形をとって現れる。公共選択学派であるブキャナンもルール主義を唱える が、彼が問題にするのは過程であり、ルールに分配上の正義を入れるのか入れな いのか、ということを選択するのは納税者であるとする。しかし、サイモンズは、 分配上の正義をルールの重要な柱であるとするのである。ルールに基づく財政政 策を取り上げる際には、ルールにどのような内容を持たせるのかが、決定的に重 要である。この点において、ルールの重要な柱として交換上の正義とともに分配 上の正義を位置づけることによって、包括的所得税に基づく租税システムを主張 したサイモンズの今日的意義がある。 第2 章「給与所得の源泉徴収と年末調整制度の変容」では、包括的所得税を実 施する上での基盤となるべき申告納税制度と給与所得者に対する年末調整制度と の関係について考察した。 社会の変容にともなって、確定申告をする給与所得者は年々増加している。年 末調整制度で完結するというこれまでのシステムは形骸化しつつあり、すでに給 与所得者の4 人に 1 人は確定申告をしている。給与所得者が公共的理性を身につ

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2 けた納税者に成長するためには、給与所得者にも申告納税制度を原則とする必要 がある。 第3 章「所得捕捉率格差の実態」では税務行政上の公平を取り扱い、クロヨン 問題と言われる業種間の所得捕捉率格差の実態を解明した。 納税者数や申告形態から分析することによって、業種間の捕捉率格差の質的な 問題に触れた。低所得者階級には脱税の要因は残るものの、それ以外の階級では、 少なくとも「脱税から節税へ」と、申告納税制度に参加する意思を納税者が示し 始めており、クロヨンという現象は解消の方向にある。そして、青色申告制度が そのことに貢献していることを提示した。 第4 章「青色申告制度の進展」では、第 3 章で触れた青色申告制度について、 さらに深く分析を加えた。 シャウプ勧告によって制度化された青色申告制度の進展には、青色事業専従者 給与の完全給与制と青色申告特別控除制度の特典が大きな役割を果たしている。 分析の結果、所得階級によって意識の開きはあるものの、継続的かつ正しい記帳 を行い、事業と家計を明確にすることが自らのためになると考える納税意識を持 った申告者層が形成されつつあることが明らかになった。 第5 章「課税の公平と税収のイロージョン」では税収のイロージョンの問題を 扱い、第3 章で分析した税務行政上の公平を踏まえた上で、公平な税制の検討を 行った。 わが国は、形骸化してきたとはいえ、シャウプ税制の枠組みを今日まで維持し てきているが、課税ベースの包括性を維持するためには、税収のイロージョンを 分析することが不可欠である。分析の結果、過大な給与所得控除の概算と資産性 所得の分離課税とが、今日の税収のイロージョンに大きく寄与していることが明 らかになった。これは以前の推計と比べ基本構造に変化はないのである。 以上の分析が明らかにしているように、シャウプ税制自体は形骸化しつつある ものの、申告納税制度が国民の間へ一定の浸透をみせていることがわかった。こ のことは、公共的理性を持った納税者基盤が形成されてきていることを示してい る。税務行政上と租税制度上の改革を行うことができれば、シャウプ勧告型の包

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3 括的所得税を基軸としたルールとしての租税システムへの展望が切り拓かれるの である。 リスク社会において、人々が見通しを持って行動できるには、ルールとしての 租税システムの確立が不可欠である。市民的自覚、すなわち公共的理性を持った 納税者を前提にし、課税ベースの包括性と累進税率構造に基礎を置く、包括的所 得税を中核とするルールとしての租税システムは、公平性を基軸として今後の税 制を考える上での重要な指針となるであろう。

参照

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