S H R
mini
No.14
滋賀大学保健管理センター〔
2006.12 〕
人類はこれまで、ペストなどの大きな感染症に 襲われて大きな被害を経験すると共に、そこから 多くを学んできました。現在も世界中で、多種類 の感染症で、多くの人命が失われていますが、我 国で最も危惧される感染症は、エイズと新型イン フルエンザでしょう。治療の困難さはあるものの 予防法が確立しているエイズは、日本を除く先進 国では克服されつつあります。(我が国では、先 進国の中で唯一、新規に確認される HIV 感染者が 増加し続け、滋賀大学近隣の医療機関でも患者さ んが見つかるなど、対岸の火事ではありません。) 一方、関係者の努力にもかかわらず A 型 H5N1 鳥 インフルエンザ(H5N1)は、アジアからヨーロッ パやアフリカへも拡大し、ヒトへの感染例もじり じりと増加しつつあります。 インフルエンザは、毎年流行するウイルス性疾 患として、馴染み深い感染症です。乳幼児や高齢 者、慢性心疾患などの基礎疾患を持つ人で、致死 的な経過をたどることもありますが、多くの場合、 特に治療をしなくても 1-2 週間で自然治癒するこ と、ワクチン接種による予防法が確立しているこ と、有効な治療薬が存在することなどから、その 潜在的な怖さが十分には認識されずにきました。 ところが 1997 年香港で、それまで鳥類にのみ感 染すると考えられていた鳥インフルエンザウイ ルスがヒトに直接伝播することが確認されまし た。また、日本でも 2003 年暮れから、高病原性 鳥インフルエンザが各地で流行し、連日マスコミ で報道されました。東南アジアでの封じ込めが失 敗し、H5N1 の全世界的流行が現実味を帯びてきた 今、これが人類にとって大きな脅威となる可能性 があると考えられています。 インフルエンザの病原微生物であるインフル エンザウイルスは、A,B,C の 3 型に分類され、 毎年ヒトで流行するウイルスの大部分や近年問 題となっている鳥インフルエンザウイルスはい ずれも A 型に属しています。A 型インフルエンザ ウイルス感染に対する宿主の免疫反応で最も重 要なのは、HA(ヘマグルチニン)に対する抗体応 答とされています。現在ヒトの間で流行している のは、H3N2 および H1N1 の両亜型で、大抵のヒト はこれらの亜型に対して、抗体を産生する能力を 持っているので、感染しても重篤になりません。 しかし逆に、ヒトからヒトへ容易に伝染しうる、 H3 および H1 以外のウイルスが出現した場合、健 常人であっても重篤となり、大きな被害がおこる ことが予想されています。前世紀には 3 度の世界 的大流行(インフルエンザ・パンデミック)があ りました。1918 年のスペイン風邪(H1N1)、1957 年のアジア風邪(H2N2)、1968 年の香港風邪(H3N2) です。これらは当時の人々にとって未知の A 型亜 型との遭遇によってもたらされた災厄でした。 現在言われている「高病原性鳥インフルエンザ の流行」は、主に家禽での流行を指しており、ヒ トの間で流行しているわけではありません。H5N1 の鳥からヒトへの感染の多くは「濃厚な接触をおこなう」例に限られ、また、ヒトからヒトへの感 染は、「感染者と長時間同室で過ごす」、「感染防 止対策を取らずに感染者を看病する」など感染者 との濃厚な接触例に限定されています。しかし、 従来のインフルエンザが主として呼吸器系の感 染に限定されることが多いのに対して、H5N1 イン フルエンザは全身臓器に感染してそれらを障害 すると共に、ウイルスにより刺激された諸種白血 球から過剰に産生されるサイトカインが病態形 成の一端を担う(サイトカイン・ストーム)極め て重篤な全身疾患であると考えられています。 2006 年 11 月 29 日までの WHO の報告では、感染者 の死亡率は実に 59%に達しています(もっとも、 この場合の「感染者」は確定例のみですので、実 際の死亡率はもっと低いと考えられます)。いず れにせよ「君子危うきに近寄らず」、感染者が報 告されている国や地域、鳥インフルエンザが流行 している国や地域などへの旅行などは避け、やむ を得ない旅行に際しては、感染が生じた地域に近 寄らない、感染が疑われる病鳥や死んだ鳥への接 触を避けるなど、確実に感染の可能性をなくして 身を守る必要があります(詳しくは、12 月 7 日付 の掲示を参照してください)。 さらに、H5N1 がヒトからヒトに容易に感染する ヒト型へ変異する可能性(新型ウイルス出現)が 危惧されています。本年 5 月、インドネシアでヒ ト→ヒト→ヒトと3段階で家族内感染した例は、 H5N1 のヒトへの感染性の変化か?と注目されま したが、幸い新型ではなかったようです。もしヒ ト型 H5N1 によるパンデミック(汎世界的流行、 WHO のフェーズ6)になると、どんな事態となる のでしょうか?感染率を 25%として世界中で対 策が立てられていますが、1918 年のスペイン風邪 の感染率は 40%であったとされています。我国で も想定されている H5N1 の死亡率 2%はスペイン かぜのそれです。スペインかぜなど過去のパンデ ミックはすべて低病原性鳥インフルエンザがヒ ト型へ変異したものでしたが、出現が危惧される ヒト型 H5N1 は死亡率 60%の高病原性鳥インフル エンザに由来するものです。現在の高い死亡率の ままでは感染者はすぐ死亡するため感染は容易 には拡大せず、むしろ死亡率が 15-20%くらいに 低下した時に大きな感染の拡大があるとの見解 もあります。時期は不明ながら必ず起こる新型イ ンフルエンザパンデミックに対して、速やかに抗 ウイルス薬の備蓄や新型ウイルスに対するワク チンの開発が期待されますが、最悪の事態に備え る危機管理が必要な時期になったことだけは確 かなように思われます。 新型インフルエンザに関する最新情報は滋賀大 学のホームページ(http://www.shiga-u.ac.jp/) から、 左メニューの 附属・共同施設→保健管理センター にアクセスしてください。 SHRmini No.11 を御参照ください。