IoT を基盤としたサイバーフィジカルな学習支援環境の開発
Development of Cyber-Physical Learning Support Environment Based on IoT
野口孝文
1千田和範
1稲守栄
1Takafumi NOGUCHI
1, Kazunori CHIDA
1, and Sakae INAMORI
1 1釧路高専
1
National Institute of Technology, Kushiro College
Abstract:
In this paper, we describe cyber physical learning environment that was developed by combination of the real-world equipment of IoT and the computer-based educational materials that the learner can edit or combine. This study, adaptive learning materials in conjunction to the real world can be realized and allowing a high flexible learning environment.
1. はじめに
身の回りにはコンピュータが組み込まれた様々な 機器があるが,それらをコンピュータ上のツールと 自由に組み合わせて利用することは実現できていな い.コンピュータ上の教材や実世界の機器を自由に 組み合わせた編集が可能になれば,これまでにない 自由度の高い学習環境が実現できると考えられる. 本論文では,工学教育における実験で使われる測 定装置や実験装置をIoT 化することについて述べる. またこれらのIoT 化した機器と,我々が開発してき たコンピュータ上で直接操作可能なオブジェクト部 品を用いた学習支援システム(IntelligentPad)[1],[2] を組み合わせることによって,上述の自由度の高い 学習環境を実現する. 本論では,IoT 化された機器と連携するオブジェ クト部品を我々のシステムに開発することによって, 他の学習者が利用するコンピュータも含め実世界に ある機器とコンピュータ上の教材を学習者自身が組 み合わせたり編集したりできるサイバーフィジカル な学習環境の実現について述べる.これが実現する と,たとえば「気温と消費電力の関係を調べる」と いう課題では,エアコンや電力計と連携するコンピ ュータ上のツールがあれば,そのツールを組み合わ せてエネルギー消費と室温や外気温との関係を知る といった適応的な教材を構築することが可能になる. このような学習環境からは,課題に関し体験的に 深く学ぶことができるばかりでなく,ツールを組み 合わせることがプログラミングに対応し,論理的な 思考法を実践的に学ぶこともできるという効果が期 待できる. 本論文の2 章ではプログラムと計測器の連携を必 要とする背景ついて述べる.3 章では,従来の実験方 法とIoT 化によって可能になる学習環境について述 べる.4 章では,システムを用いた学習支援の例と期 待する効果について,そして5 章にまとめを述べる.2. IoT 化が望まれる技術的背景
2.1.
IntelligentPad システム
図1 は,IntelligentPad を用いて開発した学習支援 システムの様子である.IntelligentPad は,パッドと 呼ばれるオブジェクトをダイナミックに組み合わせ たり,変更したりできるシステムである.パッドは, ディスプレイ上に可視化され,マウスによる直接操 作でパッドを自由に組み合わせることができる.パ ッド同士の結合は,標準化されたスロットの結合に よって行う.本システムでは様々な機能を持つパッ ドが用意されている.次節では,外部装置と連携す るパッドについて述べる. 図 1 IntelligentPad による教材の再利用が可能なシステム 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B505-03 ― 12 ―2.2. コンピュータに直接接続された機器
これまで我々は,コンピュータ外部にある機器と コンピュータ上のプログラム部品とを組み合わせた 学習環境を実現してきた[3].図 2 は,我々の開発し てきた学生実験のシステムである.LEGO(NXT)を 制御するプログラムをコンポーネント化し,制御プ ログラムも部品の組み合わせで作成している.この システムでは,多様なレベルの学習者に対応するた めに,通信機能や表示の機能部品を与えることで, 学習者が制御プログラム作成に集中できるようにし ている. 決められた機器を用いているため,本システムを 用いた実験の計画や実施は,容易であった.しかし, 実験を進めながら使用する機器の構成を変えていく といった,試行錯誤的な使い方には十分対応してい るとは言えない.たとえば,NXT を用いた装置を個 別に開発し,それらを持ち寄って統合してシステム を構成するといったときには,NXT とコンピュータ 上のプログラムとの対応を改めてとる必要がある. NXT をコンピュータに接続するとデバイスドライ バは自動的に組み込まれるが,アクセスのための識 別番号が接続した順番によって変わってしまう可能 性があるからである.2.3. 従来の工学実験
ここでは,これまでコンピュータを用いてこなか った工学実験において,使用機器をIoT 化すること の利点について述べる.図3 は,電気工学科で従来 実施してきた直流電動機の特性を計測する実験の様 子を示している.多くの電圧計や電流計を用いてい る.従来は,一連の操作に対して,それぞれの計測 器の値を読み取り,計測終了後にグラフ化し検討考 察を行うのが一般的であった.実験方法は予め決め られていて,その操作に従って各計測器の測定値を 記録する.この方法は,効率的に実験を進めること ができるが,よく理解していないと,測定範囲や測 定値の間隔の取り方が悪く,レポートを書くまでデ ータが不足していることに気づかないこともあった. 一方試行錯誤しながら実験を行うには,学生に与え られる時間は少ない.このような実験では計測器や 実験装置のIoT 化によって,自由に計測器を組み合 わせ可能にし,学習者が行う操作に対し即座に結果 の観察ができるようにすることが望まれる.2.4. ネットワークに接続された機器
さまざまな機器がネットワークを介してコンピュ ータに接続されることによって,前章で述べた問題 が回避できるばかりでなく,より柔軟なシステムを 構築することが可能になる. ネットワークで接続された機器は,IP アドレスや ポート番号によって区別することができる.また, 授受する情報によって機器を特定したり,機器側か ら機器の情報をコンピュータ側に送ったりすること もできる.機器にID を割り当て,ID をコンピュー タ側で管理することで機器の入れ替えや追加,取り 外しも柔軟に対応できるようにすることを示す.2.5. 自由な計測器の組み合わせ
前章の2.2 節で述べた実験においても,機器を IoT 化することによって,複数の実験で用いていた機器 を統合すると同時に,コンピュータ上のプログラム 部品と連携することも即座にできるようになる.コ ンピュータを用いた従来の実験システムは,実験に 合わせたシステムがコンピュータ上に用意されてい て,どの計測器がプログラムのどの変数に対応する かまで予め決められた「実験専用システム」になっ ていることが一般的であった.専用のシステムでは グラフの軸と計測器の対応を変更したいという要求 があっても,多くはできないか対応する計測器の接 続の変更が必要になった. コンピュータ上の教材や実世界の機器を自由に組 み合わせ編集が可能になれば,これまでにない自由 度の高い適応的でサイバーフィジカルな学習環境が 実現できると考えられる.ここでサイバーフィジカ ルな学習環境とは,実世界にある様々な機器が生み 出すデータをコンピュータ上に取り込み,コンピュ ータ上のツールとダイナミックに連携することがで 図2 パッドを用いたロボットの制御と実習の様子 NXT コントローラ 図3 電気工学実験(直流機の特性測定) 直流発電機 直流電動機 A V A V 界磁調整器 負荷 界磁調整器 DC100V A V A V T rpm DM DG 従来の実験の様子 ― 13 ―きる学習環境である.
2.6. IoT 化とシステムの構成
図4 に,開発したシステムの構成図を示す.デジ タルマルチメータや電源装置は,ラズベリーパイを 用いたサーバに接続している.また各計測器等には RFID のタグを取り付け,固有の ID を与えている. それらのID や IP アドレスやポート番号はそれを管 理するサーバにおいてある.制御データを装置に送 り計測値を受け取るには,①クライアントをコンピ ュータ上に起き,②RFID リーダから ID を読み取り, ③管理サーバにID を送り IP アドレスとポート番号 を受け取りクライアントに設定して可能になる. 複雑な操作に見えるが,どのクライアントも①か ら③の操作で容易にできる.また,この方法によっ て,任意の測定器や機器とプログラムを連携するこ とができるようになる.2.7. IoT 化した計測機器
ラズベリーパイを用いてIoT 化した機器を図 5 と 図6 に示す.各ラズベリーパイを用いたサーバのプ ログラムは,まったく同じである.各計測器には図 に示す位置にID を記録した RFID タグが貼付してあ る. 各機器の制御に必要なプログラムは,図7 に示す クライアント(パッド)で実現している.ラズベリ ーパイを用いたサーバは,クライアントから受け取 ったデータを接続されている機器に送る機能と機器 から送られてくるデータを接続されているクライア ントに送出する機能のみを持っている. RFID の読み取りと機器のクライアントを組み合 わせたパッドおよび RFID で読み取った ID から IP アドレスとポート番号を配送するサーバの様子を図 7 に示す.これらは何れもパッドで構成されており, 任意のコンピュータ上に配置することができる. 図7 の(a)は,直流電源を制御するクライアントパ ッドである.このパッドは,RFID 読み取りをする通 信機能と読み取ったID を IP アドレスとポート番号 に変換するためにサーバに送るクライアント機能お よび直流電源サーバと通信するクライアント機能, 直流電源を制御する制御機能からなる.同型の直流 電源であれば,IP アドレスやポート番号の設定によ って即座に接続が可能になる. 図7 の(b)は,デジタルマルチメータを制御するク ライアントパッドである.(a)と同様に,RFID 読み取 りをする通信機能と読み取ったID を IP アドレスと ポート番号に変換するためにサーバに送るクライア ント機能およびデジタルマルチメータサーバと通信 図 4 システムの構成 図 6 デジタルマルチメータとサーバ ラズベリーパイ デジタル マルチメータ 図5 電源装置とサーバ RFID タグ RFID タグ 直流電源 図 7 各種サーバおよびクライアントパッド (a) 直流電源クライアントパッド (b) デジタルマルチメータクライアントパッド (c) IP アドレス・ポート管理サーバパッド RFID 読み 込み機能 クライアントパッド クライアントパッド 直流電源 制御機能 マルチメータ 制御機能 ― 14 ―するクライアント機能,デジタルマルチメータを制 御する制御機能からなる.図6 に示す複数のデジタ ルマルチメータの何れとも IP アドレスを設定する ことで即座に接続することができる. 図7 の(c)は,IP アドレス・ポート番号サーバパッ ドである.図7 の(a)や(b)の RFID 読み込みで取り込 んだデータがクライアントを介して送られてくるの に対応して,IP アドレスとポート番号を配信する. (a)や(b)のクライアントは IP アドレスデータとポー ト番号データに分離して機器との通信を行うクライ アントにそれらのデータを設定する,