凍結精子の生存におよぼす塩酸プロカインの影響
町田隆彦*・青木晋平*・西川義正** /(*農学部畜産学研究室.**京都大学農学部家畜繁殖学研究室)
EflFectsof Procain HCL on the Motility of Freezing
Bovine
and Goat Spermatozoa
Takahiko Machida*, Shimpei AOKI*
and Yoshimasa NlsHIKAwA**‘
*Laboratoり哩Zootech面面Science,Faculりof Agricu加re ;
**£α加励りof Animal Repro血出卵,& ・りof Agriculture・
りmび函,削り
Abstract
A series of experiments was conducted to determine the effects of Procain HCL on motility of freezing goat and bo゛ine spermatozoa. Semen samples was collected in the artificial vagina from bulls and goats. We use in our experiments the semen washed with ca-frヽee krebs-ringer phoshate solution. Each washed semen samples was then eχtended at the rate of l part semen to 6-48 part of the egg-yolk citrate diluter. The 14% glycerol°containing fraction of the secondary eχtender was then added in four equal portion at 15 min. intervals at'5°C. After equilibration for l6−20 hr. at5°C. the semen was hermetically sealed in 1.0 m1. plastic straws and frozen in liquid nitrogen gass (-196°C・) or dry ice-alcohol (―80°C・)・ Straws were thawed in ice water and aliquot ・of semen placed on a glass slide previously warmed to 38°C. fi:)re斗imationsof percent progressively motile spermatozoa。
The results are summarized as follow: Experiment 1. The Procain HCL (300 mg/dl) was added to yolk-citrate glycerol extender to determine effects,on frozen sperm motility. Semen exteder with 3 mg Procain HCL permilliliter in greater sperm motility than ex-tender without Procain HCL after post thawing. Experiment 2/ Semen extender added Procain hcl before freezing in greater sperm motility than extender added post thawing・ Post thawing semen of goat and bovine samples exhibited a higher motility rate in LN than when frozed in DI. Experiment 3. Observation on the secondary frozen semen samples with Procain HCL showed high recovery of the progressive cells to without Procain HCL diluter. ’゛ ・一`
緒 言
筆者らは先の実験で1・2・3)中枢,迷走友らびに知覚神経を遮断する作用を有する麻酔剤のうち,バ
ルビッール酸系誘導体のオルトパンソーダと,局所麻酔剤の塩酸プロカインが液状精子の生存性を
延長する効果のあることを報告・した.更にバルビツール酸系誘導体は顕著に精子の呼吸を抑制し,
その代償として解糖を促進するが,一定以上の濃度では上記パスツール効果か出現しなくなり,精
子の運動性が低下すること,又局所麻酔剤の塩酸プロカイン,ヌペルカインなどでは呼吸,解糖の
両者を促進し,運動性も無添加区に比べて著しく活発になることを認めた.今回は5°Cの条件下
では生存を助長する働きのあった上記麻酔剤が−80°C∼-196°Cという苛酷左条件に曝される凍
結精子に対しても同様な効果があるかを確かめるために本実験を行なった. ・
8 0 高知大学学術研究報告 第20巻 農 学。第9号
実験1 凍結精子の生存におよぽす塩酸プロカインの影響と稀釈倍率の関係 ・.・ iw- ㎜ 材料おヽよび方法●
実験材料としては褐毛牛おヽよびザーネン種山羊より,人工腔法で採取七た精液をKrebs-ringer
phosphate bufiFer で1回洗潜して用いた.この洗潜精,子を30°Cの・摩湯中でEgg-yolk citrate を用 いて山羊は5,10, 15, 20倍,牛は3, 6, 12, 24倍と左乙よう1次稀釈した.この1次稀釈液を毎 1°C分の割合で5°Cまで冷却し,1時間放置したのち,塩酸プロカイン600 mg/d/ とグリセリン 14%を含んだE.C.D.で常法により等量に2次稀釈を行な?た.したがうて精子の最終倍率は山羊 10, 20, 30, 40倍,牛6, 12, 24, 48倍,又添加した塩酸プロカインの最終濃度は300 mg/d/, グリセ リンは7%となった.ここで12∼18時間のグリセリン平衡を行ない, 1.0 mlのビニールストロー に稀釈精液を分注し,ジャーの中で液体窒素ガスを用いて急速凍結した.なお精液の融解は4°C の氷水中で行ない,38°Cの加温器上で活力を検鏡しだ.ブダ ノ く 結果おヽよび考察 山羊および牛精子の凍結後の生存性におよぼす塩酸プロ\カインの影響を調べた成積はTable 1に 示す通りである. ‥‥‥
Table l. Z洒山びProcain HCL on themoltiilu of freezingboiiineand goatspsrmatoこoa
]
ProcainHOL concentra-tion (≒│d1) Magnifica-tion of diluterMotility(4°C)
Equilibra-tionof glycerolPost thawer(hr.)
0 I ・ 、2・ 3 4 5J
0 10 20 30 40 70 70 ’70 70 40 35 30 26 35 `’ 30 22 19 35 30 , 22 19 , 35 30 15 15 30 25 15 15 30 25 15 15 300 10 02 30 40 75 ・ 75 75 75 45 40 35 30;3∧レ
レ
ご 40 35 35 ‘30 40 35 ’30 30 35 30 25 25 35 ・ 30 25 221
0 6 12 24, 48 80 80 78 75 ` 58 53 53 48 58‘ 53 50 48 53 48 ° 43‘ 40 50 48 40 37 48 45 38 33 45 43 29 24 300 6 12 24 48 85 83 80 78 65 63 58 55 65 60 ` 55 55 ’ 63. 60 J 55 48 60 58 53 .43 58 55 48 40 55 55 43 35本実験に供試した山羊精子は採取直後の運動性が悪かったこ,とと,山羊精子特有の卵黄凝固酵素
の反応が強い時期の精子であったためか対照区(塩酸プロカイン無添加)の凍結山羊精液は牛精液
に比べて凍結能が低下し,凍結融解後の回復率は57妬(10倍稀釈)∼37%(40倍稀釈)であった.
とくに30倍以上の高倍串稀釈の精子は融解後の生存性が短時間で低下し,稀釈衝撃が認められた.
塩酸プロカインを添加した山羊精子の凍結直後の回復率は60740%で,無添加区と大差ない成績
を示したが,融解後の経時的な生存性は有意な差が認められた,とくに高倍率稀釈精子の稀釈障害
をか座り緩和する傾向を示した牛精子は塩酸プロカイ.ン無添加の対照区におヽいても山羊精子より
も高い耐凍性を示し,73%(6倍稀釈)∼64%(48倍稀釈)の徊復率であった.(山羊精子57∼37
%)しかし24倍以上の稀釈ではやはり融解後保存後期におヽいて高倍稀釈障害があらわれ,生存性
の低下が目立った.塩酸プロカインの添加は,添加の効果・が,山羊精子よりも顕著に認められ,凍結
能が向上し高倍稀釈の障害が著しく緩和された.即ぢヽ48・倍,という高倍稀釈区においても塩酸プロ
カインの添加区は凍結直後の生存指数が55を示し.融解後7時欄経過した精子でも28と十分実用
に供し得る良好な数値を維持し得た. へ,’∧\
凍結精子の生存におよぼす塩酸プロカインの影響(町田・青木・西川) 81
実験2 塩酸プロカインの添加時期および凍結温度が凍結後の山羊および牛精子の生存におよぼ
す影響
材料おヽよび方法
人工腔法で採取した山羊おヽよび牛精液をK.R.P.で1回洗肺したものを用いた.塩酸プロカイン
の添加は,凍結前の第2次稀釈時と凍結融解後の2つの試験区に分けて,最終濃度300
mg/d/ とな
るように添加した.グリセリンの最終濃度は7%,平衡時間は16∼20時間であった.上記2つの
試験区の精液の凍結は,ドライアイス・アルコール(DI)による緩慢凍結法と液体窒素ガス(LN)に
よる急速凍結法の2'方法で常法により凍結した.精子の活力検査は,いずれの場合も5°Cの氷水
中で融解し,38°Cの加温器上で検鏡により測定した.
結果おヽよび考察
塩酸プロカインの添加,時期(凍結前と凍結後)と凍結温度(−80°C,−196°C)が凍結融解後の精
子生存性の経時的変化におよぼす影響を山羊おヽよび牛精子について表示したのかTable
2 である.
T a b l e 2 ・ E f f e c t s o f P r o c a i n h c L o n t h e m o t i l t t u o f f r o z e n g o a l s a n d b u l k s p e r m a l o z o aj
]
Treatment
Bj
Motility(4°C)
則
Post・thawer
(hr.)
0 1 2 3 4 5 ・6 フQ
k
|
』
Addition of before freezing 0 300 70 75 40 45 35 40 30 40 20 30 15 25 10 20 Addition of post thawing 0 300 70 70 40 45 35 45 30 45 20 40 15 35 10 30』
Addition of before freezing 0 300 75 80 50 55 50 55 45 50 40 50 30 40 20 30 15 25 10 25 Addition of post thawing 0 300 75 75 50 55 45 55 45. 55 ・ 35 55 30 45 20 40 15 53 10 30 M fミ叫J
Addition of before freezing 0 300 70 75 40 50 40 50 40 50 40 50 35 45 35 45 30 40 30 40』
Additionpost of thawing 0 300 70 70 50 60 50 60 50 60 45 60 45 60 45 55 40 50 35 50A.ドライアイス・アルコール凍結試験区 .・
a. 塩酸プロカイン凍結前添加区・
塩酸プロカイン無添加の山羊精子は凍結の障害によって融解直後の生存性は凍結前の57%程度
まで低下した.特に本実験に供試した山羊精液の性状が一般に不良であったために,融解後の生存
性は経時的に急激な低下を示した.液状精液の保存試験で精子の活力を付加し,生存を延長する効
果が認められた塩酸プロカインの添加は,本実験の凍結精液においても融解後精子の運動性に活力
を与え,対照区を上廻る成積を示した.牛精子においても山羊精子同様,凍結直後の生存性の回復
力および融解後の経時的な活力は,塩酸プロカイン添加区か優れた数値を示した.とくに保存後期
においても良好な生存性か維持され,対照区との間に有意な差が認められた.
b.塩酸プロカイン凍結融解後添加区
凍結融解後に塩酸プロカインを添加した試験区は,凍結前に添加した試験区よりも優れた生存性
82 高知大学学術研究報告 第20巻‘ 農 学 第9号 を示した.とくに融解後4°C保存の後期においてこの傾向か顕著に認められた.このことは凍結 前に塩酸プロカインを添加して漆透圧やPHに変化を与えてコールドショツクにあわせるよりも, 凍結後に精子の代謝機能に刺激を与える塩酸プロカインを添加した方か精子の活力保持に効果があ ると推察される. B.液体窒素ガス凍結試験区 前記のDIによる凍結精子(−80°C)よりもLNによる急速凍結精子(−196°C)がいずれの試験 におヽいても凍結能が向上し,さらに融解後長時間に亘り良好な活力が保持された.とくに−80°C 凍結では融解後短時間で死滅し,凍結能の低かった山羊精子においても, -196°C凍結では耐凍性 か優れた本実験の牛精子と大差ない程度の成積を示した.この試験区においても塩酸プロカインの 添加は,無添加区に比べて優れた生存指数が測定された.塩酸プロカインを融解後添加した区の凍 結融解後7時間経過した精子でも50という高い生存指数が観察され, -196°C凍結の場合におヽいて も融解直後に塩酸プロカインを添加した試験区の成積が,凍結前添加区を上廻る傾向を示した.こ のようにLNガスによる急速凍結精子がDI凍結精子よりも優れた生存性が得られること,また DI法で耐凍性の低かった個体の精子もLN法で顕著に凍結能が向上するという報告は西川ら4・5・6) によっても報告されている.
実験3 1回凍結融解後の保存時間が2回凍結後の精子の生存性におよぼす影響
材料まヽよび方法
牛の洗潜精子をLNガスで常法により凍結した精液ストローを氷水中で融解して0,
1, 2, 3,
4, 5, 6, 7時間4°Cに保存した精液ストローの1端をカットして活力を検鏡したのち,残りのス
トローを直ちにゼラチンで閉封して,キヤニスターで再凍結した.この2回凍結精子を再び氷水で
融解し,4°Cに保存して経時的な活力の推移を観察した.なふヽ塩酸プロカイン300
mg/d/ を凍結
前の第2次稀釈時に添加してその影響について検討した.
結果おヽよび考察
1回凍結融解後の精子の経時的座活力の低下が2回凍結後の精子の生存性にどのよう左影響を斉
らすか,また2度の凍結ショックを与え老化の進んだ精子に対しても塩酸プロカインの保護効果が
あるかを調べたのがTable
3 である.
2回の凍結操作を繰返し,再度に亘り強烈な低温ショックを与えた精子の回復率は1回凍結精子
の8`O∼90%で,2回の凍結操作による活力の低下は予想していた値よりもはるかに小さい数値を示
した.しかも1回凍結後融解してから2回目の凍結までの間隔が短時間め精子(1∼2時間)は融
解後も良好座生存性を維持し,経時的な生存性の推移は1回凍結の精子と殆んど差が認められなか
った.このように2回凍結精子が予想外の高い回復率を示し,1回凍結の精子と殆んど変らない生
存性を維持していたことは,同一射出精液の中にでも耐凍性の少痙い精子が第1回目の凍結ショッ
クで死滅し,凍結能の高い精子のみが選抜されて残ったため,2度目の凍結感作に耐え,生残る精
子が多くなったのでは左かろうか.ただ3度の凍結衝撃には精子は耐えられず,僅かばかりの精子
が生残るのみであった.1回凍結融解後の保存時間が3時間以上経過して老化が進んだ精子では,
2回凍結後は経時的に生存性の減退が早くなる傾向があらわれた.塩酸プロカイン300
mg/d/ の添
加は2回凍結の精子に対しても融解後の精子に活力を賦与し,無添加区に比べて高い生存指数を示
した.2回凍結融解保存後期におヽいて塩酸プロカイン添加の効果か顕著に認められた.また1回凍
結融解から2回目の凍結まで7時間も経過した塩酸プロカイン添加区の2回凍結後の生存性は,無
添加区の1回凍結後直ちに2回凍結を行左った精子と同様の生存性を示した.このように塩酸プロ
カインは2度の凍結という悪感作に対しても保護効果が認められプど
凍結精子の生存におよぼす塩酸プロカインの形響(町田・ ・西川) 83
Table 3. Inftueηgびthe molililyon the agingびbetween thefirst and secondfreezing∫εァフ^en
Time of
after
first
thawer
(hr・)
Procain HLC COりcent-ration (mg/dl) Motility (4°C)After
first
freeding
Aftersecond freezing
Incubationtime ofthawed (hr.)
0 1 2 3 4 5 0 0 300 50 60 40 50 .40 50 40 45 35 40 25 40 25 40 1 0 300 50 60 40 50 40 45 35 40 25 35 20 30 15 30 2 0 300 50 55 40 45 35 45 30 40 20 35 15 30 10 20 3 0 300 45 55 35 45 35 45 35 40 25 30 15 25 10 20 4 0 300 45 50 40 45 40 45 20 40 20 35 15 30 5 20 5 0 300 45 50 40 45 30 45 20 40 20 30 15 30 10 20 7 0 300 45 50 40 45 40 40 20 35 20 35 20 25 5 25要 約
神経細胞の代謝経路を遮断する作用を有する塩酸プロカインを凍結精子に添加して,液状精子と
同様生存性を延長する効果か認められるかについて検討し,
2, 3の知見を得た.(方法)人工腔法
で採取した山羊および牛の精液を,
K.R.P.で洗藻し,塩酸プロカインの最終濃度が300
mg/dl と
なるように調整したE.C.D.で6∼48倍に稀釈して用いた.なおヽグリセリンの最終濃度は7%,平
衡時間は16∼20時間であった.精液の凍結はドライアイスアルコール法と,液体窒素ガスの急速
凍結法で常法により凍結した.
(結果)1.塩酸プロカインを添加した凍結精子は液状梢液の場合と同様,融解後無添加区に比
べて良好な生存性を維持した.とくに高倍率稀釈の精子に対しても稀釈衝撃を緩和する傾向を示し
た.2.塩酸プロカインの添加時期が融解後の精子の生存性におよぼす影響について検討してみる
と,凍結融解後に塩酸プロカインを添加した精子が,凍結前に添加した精子よりも活力か良好とな
った. 3. 2回の凍結操作を行なった精子においても塩酸プロカインの添加は精子の凍結能を向上
し,凍結ショックに対しても保護効果のあることが確められた.
文 献 1)町田隆彦・竹林 隆・川島正彦・西川義正,体外精子の生存におよぽす麻酔剤の影響に関する研究. 高知大学学術研究報告第12巻自然科学n第8号(1963)・ 2)町田隆彦・青木晋平・西川義正,凍結精液作成上においける技術的な諸問題についての検討.高知大 学学術研究報告第19巻農学第20号(1970)・3)町田隆彦・青木晋平・西川義正,体外精子のMethylenblue Reduction Test におよぽす麻酔剤の影響.
高知大学学術研究報告第18巻農学第5号(1969)・
4)西川義正・宮本 元・入谷 明,ストロー法による室素ガス簡易凍結法の実用化に関する研究.凍結
精液研究会会報17, 10-16 (1965)・ ,
84 高知大学学術研究報告 第20巻 農 学 第9号
&i・,47: 1403 (1964)・
6) Clegg, E. D., B. W. Pickett and E. W. Gibson, Nonmechanical nitrogen vapor freezing of bull semen.
島j.Ret).Storfs aがIc.Exp. str・,0.5: 14 (1965). ’・