序 章 音楽科の学習指導に関わって,児童・生徒 の読譜力の低下が指摘されている。 その解決のためには,小学生の時期に,読 譜に関する知識や技能を一定程度まで身に付 けさせることが必要であると考える。そこで, 本研究では,小学校音楽科の限られた授業時 間の中で,児童の学習意欲を高めながら効果 的に読譜指導を行う方法の開発をめざす。 読譜力が低下している理由として考えられ ることがいくつかある。まず 1 つは,音楽科 の学習において,楽譜を見て歌うことができ なくても,範唱CDを何度も聴いて音程やリ ズムを覚えたら,新しく学習する楽曲でも, 多くの児童が何とか歌えるようになっている という現状がある。そして, 2 つ目は,楽譜 を見ながら,児童とともに音符を一つ一つ確 かめながら進めていくような音楽科の学習時 間の確保が難しいということが挙げられる。 音楽科の授業時間数は学習指導要領平成10 年改訂以来,減少傾向1)にあり,各学習領域 の時間配分の中でも「楽譜を読む力」を伸ば す指導をする時間は大変少なくなっている。 こうしたことから,小学校で楽譜を読む力 を身に付けないまま,中学校に行く子どもが 多くなり,中学校の教員(音楽)に至っては 98.0%もの教員が,現在の子ども達の「楽譜 を読む力が不足している」と回答をしてい る2)。このようなことから,小学校にいる間 に読譜に関する必要な知識や技能を限られた 時間の中で,できるだけ多く身に付けさせる ための効果的な指導の手立てが必要だと考え る。 小学校学習指導要領や学校で使用される教 科書には, 3 年生以上から「楽譜を読もう」 の単元が構成されており,読譜指導をするこ とになっている。実際に楽譜が読めるように なると,子どもたちは教師が与える課題にも これまで以上に積極的に取り組み,さらに自 分たちでやりたい音楽を演奏したり,作った りしたいと考えるようになると推察する。そ こで,「楽譜を読む力」を子どもたちにもっ と身に付けさせたいという意識を教師自身が 高めていく必要があるのではないかと考え本 原 著 論 文
小学校音楽科の読譜指導
―― 児童の読譜力の実態調査及び授業実践の提案 ――
木
村
章
子
† Akiko KIMURA キーワード:読譜指導,小学校音楽科,読譜調査,五線譜 †教科教育専攻 音楽教育専修 指導教員:杉江淑子Score-reading in Music Education of
Elementary School
研究に着手した。 第 1 章 読譜力について 1 音楽活動と楽譜 1)楽譜を用いる音楽と用いない音楽 一般的に「楽譜を用いる音楽」にはどのよ うなものがあるだろうか。楽譜の種類として は,西洋音楽発祥で世に最も多く知られてい る 5 本の線を基にした五線譜,音程を持たな い打楽器記譜に用いられる一線譜,ギター等 の記譜で用いられるタブラチュア,三味線の 奏法で用いられる文化譜などがよく用いられ る。その中で五線譜は西洋から伝わって以来, 歌やピアノ,オーケストラなどの楽器演奏で 圧倒的に多く使用されている。五線譜は表音 譜であり,声楽,器楽を問わず,共通に使用 することができる。また,表記法のルールを 覚えれば異国の人とも同じ曲をみんなで演奏 することができる。 一方,「楽譜を用いない音楽」の中には, 口承で伝えられてきた世界の民族音楽,日本 でいうと,わらべ歌やあそび歌,民謡など, さらに箏や三味線等を用いた伝統的な音楽が それに当てはまるであろう。(現在は声の調 子や弦の位置を表す数字などが記載された楽 譜がある) その中でも,特に「おちゃらか」や「ずい ずいずっころばし」などのあそび歌は,筆者 が幼いころにも歌いながら遊んだ記憶がある が,楽譜を見て歌ったり,歌を覚えたりした わけではない。また,昔から伝わる盆踊り唄 なども,残されてきた楽譜はなく,主に口承 で伝えられてきた音楽である。日本の伝統芸 能は,師匠からの伝承(口唱歌)によるもの が殆どである。 このように,長い年月を超えて現代まで伝 えられている音楽の中にも,楽譜を用いずに 伝えられてきたものも多く存在する。能楽や 雅楽もその一つである。 また,現代のポピュラー音楽の世界でも, ロックバンドを組んでいる人達の多くは楽譜 をあまり用いずCDやDVDを繰り返し聴いた り,見たりして,耳や目から,音楽を真似て, つくり上げて演奏している。 このように「楽譜を用いない音楽」は数多 く存在している。先に述べたような民族音楽 や伝統音楽も,今後も引き継がれていくと思 われる。しかし,伝統音楽などは,後継者が 徐々に少なくなってきていることも耳にする。 残していくという意味で,これまで「楽譜を 用いない音楽」といわれてきた音楽も,徐々 に五線譜やそれに変わる楽譜のようなものに 残していこうという動きがあるという。三味 線の「杵屋」で使われている楽譜もその一つ である。「杵屋」の楽譜は,位置を示す勘所 や手順がわかりやすく,初心者に便利な「文 化 譜」,五 線 譜 が 得 意 な 人 は「青 柳 譜」か 「研精会譜」を用いるとのことである。替手 や唄を習うには「青柳譜」や「研精会譜」を 用いると便利である。杵屋はこのように楽譜 を整えることで入門者が増えたという話もあ る3)。 滋賀県長浜市の曳山まつりでの「シャギ リ」は曳山を動かすために演奏される。長浜 小学校の卒業生達は皆,音楽の時間に縦笛で 「シャギリ」を練習した経験がある。シャギ リの譜面は曳山祭囃子保存会が子どもに教え るために五線譜化したものである。しかし, 中には口唱歌で継承している山組もある。伝 統音楽に必要な独特の「間」などは,五線譜 では表せないため,口唱歌での指導が合わせ て行われているのであろう。このように,指 導の方法として使われることについてはメ リット,デメリットがあり,肯定・否定の 様々な議論がある。 しかし,この先,それぞれの伝統音楽の後 継者が以前より少なくなっていくことが懸念 される中,師範の演奏映像や音源だけでなく, 楽譜の五線譜化も一つの記録方法として今後 必要になってくるのではないかと考える。 楽譜の種類は「表音譜」と「奏法譜」の 2 種類に大きく分けられる。「表音譜」の中に は五線譜も含まれている。「奏法譜」は楽器 によって表され方が違うが,先にも述べたタ ブラチュアなどがそうである。「表音譜」で ある五線譜が普及した理由の一つには,五線 譜の読み方が解かれば,どんな楽器にも応用
でき,演奏の幅を広げることができることで ある。そのことから,五線譜を学んだ者は, 音楽活動のどんな場面でもそれを使おうとす る。しかし,五線譜を用いるのがふさわしい 音楽もあるが,本来,用いない音楽,用いる のがふさわしくない音楽に出会ったとき,五 線譜を学んだものは困惑し,思うように演奏 することが難しい。逆に,五線譜の楽譜に馴 染みがない児童にとっては,五線譜を使って 歌ったり楽器を演奏したりすることは楽なこ とではない。このような児童は直接,口唱歌 で教える方が習得が早い場合もある。 しかし,日本の小学校音楽科の学習では五 線譜を使った指導がなされている。では, 「五線譜の楽譜を使う利点は何なのか。」こ のことを次に明確にしていきたい。 2)五線譜を学ぶことの重要性 グッドールの『音楽史を変えた五つの発 明』(2011)の中では,遥か昔,中世初期の 頃には,ローマのカトリック教会の音楽は口 伝えのものばかりで,即興的に演奏されてい たと記されている。中国でも,今のような五 線譜の楽譜ではなく,タブラチュアという大 雑把な記譜法で音楽が伝えられていた。キリ スト教の聖歌は数百という大変な数であるが, それを聖歌隊に指導する者は,楽譜がないた めに一つ一つの音を教えこみ,それは大変な 苦労をしてきたといわれている。紀元1000年 頃,グイード・ダレッツォが現在の五線譜の もとになる記譜法を考案した。そうして,音 楽が正確な音符に残されるようになり,作曲 をするものが急増し,これまで人の記憶で伝 えてきた音楽とは比べものにならないような 長大な曲も作られるようになった。楽譜があ れば,複雑な音楽も再現することが可能にな る4)。 日本でも,明治時代に西洋音楽が伝わって から今日まで,日本の音楽には楽譜が重要な 役割を果たしてきたと思われる。西洋の偉大 な音楽家たちが残した楽曲が,遠く離れた日 本にも伝えられ,今もそれを再現することが できる。また,現代の作曲家により,新しい 楽曲も次々と作られ,音楽は今も様々なジャ ンルで広がり五線譜に残されている。そして, 学校教育の音楽科の学習においては,小学校 1 年生の教科書から 6 年生の教科書まで,段 階的に学んでいけるような楽譜の表記の工夫 がなされている。 「小学校の音楽科の学習の中で『読譜指 導』が必要か,必要でないか」については, 多くの研究者の間でも,しばしば議論されて いる。 畑中は「子ども達から見た楽譜の有用性や 必要性」について,「表されている情報を読 み取り,そこに自分が表現したいイメージや 思いをのせて再構築して表現するための設計 図として,表現を深める過程で活用する『楽 曲の設計図としての楽譜』」,そして,「自分 が作った曲を忘れないように記録しておくこ とができる。また,共通な情報として,自分 以外にも演奏してもらうことができる『記録 としての楽譜』」として楽譜の必要性につい て述べている5)。さらに,Ku Wing Cheong は「初見ができる(楽譜が読める)ことによ り,新しい曲を早く学習することができる。 初見技能の重要性『楽しみ,自信,自立』の ためになくてはならない」と述べている6)。 このように,楽譜を使って音楽を学ぶことは, 自分の音楽の世界をさらに広げていくもので あると考える。 音符を読んだり,強弱記号や歌詞の意味な ど,五線譜に書かれていることを児童が理解 するようになると,さらに自分たちでやりた い音楽を演奏したり,作ったりしたいと考え るようになるであろう。そこで,新しい曲の 楽譜に児童が初めて出会ったときに,その音 楽がどんな音楽なのかを,五線譜をもとに自 分でイメージできるようになると児童の意欲 が充たされるのではないかと考える。 3)学習指導要領より 次に学習指導要領において,読譜に関する ことがどのように記されているかについて見 ておきたい。各領域の内容では,まず「A表 現」の中で歌唱や器楽の活動において,ハ長 調の楽譜を見て演奏すること(高学年はイ短 調も)が示されている。
さらに,共通事項の「イ」には以下のよう に示されている。 「音符。休符。記号や音楽にかかわる 用語について,音楽活動を通して理解す ること。」「音楽活動を通して」とは,音 符,休符,記号や音楽にかかわる用語を 音楽の学習活動の中で実際に生かすこと のできる知識として理解することの重要 性を述べたものである。そのためには, 児童が,音符,休符,記号や音楽にかか わる用語を含んだ楽譜を読むことの必要 性を感じることができるように指導する ことが大切である。 学習指導要領の「各学年の目標及び内容」 で表現や鑑賞の学習において特に「読譜」と 関わっていると思われるところは,「A表現」 の歌唱や器楽の領域であり,楽譜を見て歌っ たり演奏したりすることが示されている。さ らに,共通事項では「音符,休符,記号や音 楽にかかわる用語について,音楽活動を通し て理解すること。」と示されている。 このように学習指導要領においても各領域 で,学年ごとに段階的に読譜に関する指導を 進めていくように示されている。学習指導要 領をみると,小学校の音楽科の学習で「読 譜」の力を身に付けることにより,児童はか なりの音楽活動ができるようになると考えら れている。 しかし,実際は, 1 年生から 6 年生までの 「各学年の目標と指導」の内容を達成できて いるとは必ずしも言えないことは,先述の調 査結果からも推測できるとおりである。それ ぞれの学年のうちに,習得すべき「読譜の 力」をしっかり身に付けておかなければ,次 の学年に上がった時に教師も児童も困ること になるのである。 2 「楽譜が読める」とは 楽譜を読むというのは,五線譜に書かれた 音符を一つ一つ読むことではない。楽譜を読 むというのはどういうことなのか,楽譜を読 むためにどのような力がはたらいているのか を考えてみたい。楽譜を見て楽器を演奏する ためには,まず,楽譜を見て音符の形と位置 を読み取り(視覚表象),その音符の音を正 しく鳴らす状態〈ポジション〉に置き換え (演 奏 技 能 へ の 置 換),正 し い 音 を 奏 で る (音への置換・表現)という力が必要である。 音の高さを感じ,音と音の動きや関係を受容 し,自分で音に表現できるかどうかというこ とである。楽譜を見て階名で歌う場合は,楽 譜を見て音符の形と位置を読み取って(視覚 表象),ド,レ,ミの音節〈シラブル〉表象 への置換を行い,実際の音高を持つ音として 声で表現する(音への置換・表現)力が必要 である7)。 では,実際に小学校の児童が「楽譜が読め る」というのはどういうことなのか。次に段 階的に考えてみる。 ①教師の後に続いて,階名模唱する。 ②階名の音程に気を付けて正しく歌う。 ③音の長さや休み,リズムに気を付けて 歌う。 ④楽譜を見ながら,正しい音程で「ド, レ,ミ」と階名で歌う。 ⑤強弱や速さ,記号に気を付けて歌う。 ⑥歌詞の表す内容やフレーズ感を意識し, 曲想を感じ取って表現する。 ①教師の後に続いて,階名模唱する。 まず,教師の後に続いて教科書の既習教材 や慣れ親しんだ歌で存分に階名模唱ができる ことが大事だと考える。この活動は後の④の 「楽譜を見ながら,正しく階名で歌う」時に 正しい音程で歌えるための活動に繋がってい く。 ②階名の音程に気を付けて,正しく歌う。 階名模唱において,階名の音程に気を付け て(音の高さを意識して)正しく歌えること が次の段階であると考える。聴いた音の高さ が声に出した階名と結びつかないといけない。 「教師がピアノやオルガンで弾いた音を階名 で音程をつけて答える。」「どの歌唱,器楽教 材においても,階名唱を存分に行う。」「音高 感を身に付けるために『ドレミ…』というよ
うに手で操作する」ことなどが大事になって くると考える。 ③音の長さや休符,リズムに気を付けて歌う。 次の段階は,音の長さや休符,リズムに気 を付けて(意識して)歌うことである。四分 音符や二分音符などの音符と休符の形を意識 してそれぞれの音符,休符の名前とも結びつ けながら,実際の正しい音価による表現と結 びつけていく体験を繰り返していくことが大 事だと考える。 (①から③の段階を踏みながら,存分に階名 模唱をし,聴いた音の高さの動きや,音の長 さ,休符,リズムを意識し,感じ取りながら 歌うという,楽譜を実際に見て歌う前の活動 が「正しく楽譜を読めるようになる」大きな 1 つの段階と考える。 3 年生の「楽譜を読も う」の学習が始まる前の低学年の間にここま でをしっかりできるようになっておくとよい と思われる) ④楽譜を見ながら,正しい音程で「ド,レ, ミ」と階名で歌う。 五線譜の音符を見て,「ドレミ…」と階名 で歌えることが次の段階である。この場合, 鍵盤などの楽器のポジションに置き換えて表 現するのではなく,階名を正しい音程で,自 分で声に出すことを行っていく必要があると 考える。その際に音の長さや休符も,どのよ うに示されるかを理解して表現できること。 そして ド,ミ,など単音だけでなく,教科 書によく出てくる節「レミド」「ソラソ」な ど比較的,児童に馴染みのあるフレーズで 歌っていくのが効果的なのではないかと考え る。 ⑤強弱や速さ,記号に気を付けて歌う。 強弱記号や速さに気を付けて歌うことを次 の段階として考える。学習している楽曲の中 に出てくる強弱,速度記号から理解できるよ うにしていき,授業中にも用語を繰り返し使 うようにするとよいと考える。「 と書いてあ るから強く」とか「 と書いてあるから弱く」 という機械的な指導にならないように注意が 必要である。 (④から⑤の実際に五線譜の楽譜を見て「正 しく楽譜を読む」というここまでの段階でま た一区切りと考える) ⑥歌詞の表す内容やフレーズ感を意識し,曲 想を感じ取って表現する。 楽譜から音高,音価,その他の記号が読み とれるようになったら,楽曲の持つ特徴や雰 囲気を感じ取り,さらに豊かな音楽表現がで きるようにすることが大事だと考えられる。 どの学年でも自然に表現できるようにする必 要がある。 第 2 章 小学校の読譜力の現状と課題 1 低学年・中学年・高学年の読譜力の実態 −H市内17校( 2 , 4 , 6 年生)児童に対す る読譜力調査より− 1)調査の目的と内容 実際に小学校の児童はどのくらい楽譜を読 むことができているのかいないのか,読譜に おいてつまずいている点は何なのか等を明ら かにするために実態調査を計画・実施した。 調査用紙は 3 種類で,低学年( 2 年生), 中学年( 4 年生),高学年( 6 年生)とそれ ぞれ発達段階に合わせた内容のものにした。 設問は大きく 4 つで,設問 1 はそれぞれの前 の学年の教科書に掲載されている曲によく出 てくる,児童に馴染みがあると思われるフレ ーズ( 5 線譜)の階名を読む問題を10題設け た。高学年ではへ音記号の楽譜を読む問題も 入っている(低・中学年の問題はト音記号の 楽譜)。設問 2 は設問 1 と同じく,前の学年 の教科書掲載曲を載せ,階名を答える問題の 他に,楽譜の曲名を答える問題( 3 つの曲名 から正しい曲名を選択)も設けた。曲名を答 える問題を設けた理由は,音符をただ 1 つ 1 つ読むだけではなく,音の動きの連なりとし て捉えることができているかを知るためであ る。「楽譜を読むことができているか,でき ていないか」については,紙面での調査だけ では把握が難しいことから,児童が楽譜を見 て頭の中にその曲のメロディーが浮かぶかど うか,即ち,五線譜を実際の音の動きとして 置きかえることができているかがわかるよう な設問にしたのである。さらに,中・高学年 の調査では階名を書くだけでなく,階名に
合った音符を記譜する問題も入れた。設問 3 は「音楽の時間にできるようになりたいこと は何か。」について質問し,できるようにな りたいことの優先度の高い順に番号を 3 位ま でつけてもらった。最後に設問 4 では学校以 外の音楽教室などで学習した経験があるかな いかを調査した。 2)調査実施の概要 調査時期 2014年 7 月 調 査 校 S県H市内の全小学校17校 調査対象 2 年生 4 年生 5 年生の児童 (勤務校J小学校に関しては 2 年 生から 6 年生までの各学年) 調査方法 各学校に調査用紙を配布し,担任 教員等を通じて調査の実施と回収 を依頼 調査用紙の回収率 3)調査結果と分析 (1) 2 年生 回答数862人(男子439人,女子 420人,男女無記名3人) 前述したように,設問 1 には,それぞれの 前の学年の教科書に掲載されている曲によく 出てくる児童に馴染みがあると思われるフレ ーズの階名を読む問題を10題設けた。五線譜 の音符を読む学習は 3 年生から始まるため, 2 年生では音楽教室に通った経験がある児 童8)以外は,どの設問も解答するのが困難 だったということが平均点からも推測できる。 低学年の調査は, 2 年生の児童にとっては難 易度の高いものであった。学習していないた め読譜ができていなくて当然であったが, 3 年生からの読譜の学習を始める前の実態を知 るため,そして,低学年のうちに大切にして おかないといけないことは何かを知るために, 調査を依頼したのである。 設問 1 では,児童によく馴染みがあり, 知ってる児童が多いと思われる下第一線の 「ド」の音から遠くなる「ラ」や「シ」の音 がわかりにくい傾向がうかがえる。「シ」に 至っては,棒(符幹)9)がさかさまになって いることから,そのことだけで,児童は音符 を読むことを難しく感じていたのではないか と思われる。二分音符の階名も,馴染みのあ る四分音符とは違う音符ということで難しく 感じているのではないかと思われる。 この読譜調査の問題に出題した曲やフレー ズは全て前年度までに学習し,教科書にも何 度も出てきている。低学年の音楽科の学習で, 教科書の既習教材や慣れ親しんだ歌で充分に 階名模唱の経験をしていれば,この調査のよ うな問題の解答もできるようになってくるの ではないかと考える。五線譜の音符の動きを 階名で読み取って,何の曲か(曲の題名が) わかるのであれば,音符を階名で音の高さと 結びつけて読めていると判断できると考えら れる。そして,五線譜の前段階であるリズム 譜等に充分慣れておく必要があると考えられ る。また,四分音符や八分音符の音の長さや 休符,リズムを意識して普段から歌っておく ことも大切だと思われる。 (2) 4 年生 回答数892人(男子428人,女子 461人,男女無記名 4 人) 4 年生の児童は 3年生から読譜指導が始ま り, 1 年間学習をしているため,低学年( 2 年生)の読譜調査結果に比べると全体として 正答率が高いと思われる。細かく見ていくと 低学年と同様に,見慣れている四分音符でな く二分音符に惑わされ,正答率が低くなって いる問題がある。また,比較的見慣れている 四分音符であっても第一線「ド」の音から離 れている音であり,さらに音符の棒がさかさ まになっていることで,児童は難しさを感じ たのでないかと考える。音楽科の学習で使用 される教科書は「ド」の音から出発し,順に 上がっていく表記になっている場合が殆どで ある。高い「ド」の音付近の音符を見ながら 歌ったり,楽器を演奏したりすることにも慣 れていくとよいと思われる。 学年 発送数 回収数 回収率 2 年生 1058 862 81.50% 4 年生 1031 892 86.50% 6 年生 1095 938 85.70%
また,中学年の調査の設問 2 の問題には, 音符を記譜する問題も含めた。その結果,記 譜問題の正答率は,他の問題に比べてかなり 低くなっている。記譜問題はそれぞれ「ミ」 と「ソ」であり,音符の棒がさかさまになら ない四分音符であり,設問1にも設問2にも何 度も出てきている音符であるのにもかかわら ず,書くことが難しかったようである。「歌 う」「聴く」「読む」「書く」という 4 つの読 譜の力をつけることで,中学年から高学年に 向けてさまざまな音楽活動が有効になってく ると考えられる。徐々に記譜する活動にも慣 れ,普段の授業でも取り入れていく必要があ ると考える。 4 年生は, 3 年生からの五線譜を使った読 譜指導が始まってから 1 年が経過している。 音楽教室経験児童と音楽教室未経験児童との 得点の平均点の差を 2 年生の調査結果と比べ ると少しではあるが縮まっていることがわか る。また,設問 2 の曲名を答える問題の正答 率や設問 2 の平均点の差も音楽教室経験児童 と音楽教室未経験児童との差が 2 年生の調査 結果より縮まっている。このことから,児童 が学年を経て成長したことや,学校の音楽教 育の日々の成果が僅かであるがあらわれてい ることが考えられる。 (3) 6 年生 回答数938人(男子468人,女子 454人,男女無記名16人) 6 年生では,読譜指導がさらに進んでいる はずであり,調査結果も低・中・高学年の中 で一番よくできているのではないかと期待し ていた。しかし,設問 1 の平均点は,予想に 反して低かった。設問 1 の問題の正答率を見 ていくと,棒がさかさまになっている音符を 答える問題も入っているが,全体の60%以上 の児童が正解している。しかし,へ音記号の 音符を答える問題の正答率は20%∼30%と急 に下がっている。楽譜のへ音記号に気付かず, そのままト音記号の楽譜と同様にして階名を 答えた児童が多くいたと思われる。また,へ 音記号に気付きつつも,へ音記号の楽譜の音 符の読み方がわからないために,仕方なくト 音記号の楽譜の音符の読み方で答えた児童も いたかも知れない。設問 1 のト音記号の音符 の問題の所だけの平均点は高くなっている。 ここだけの平均を取り上げると, 4 年生より 力がついていることがわかる。 6 年生は,音楽教室経験児童と音楽教室未 経験児童との設問 1 の得点の平均点の差が 2 年生, 4 年生の調査結果よりさらに縮まって いることがわかった。また,設問 2 の曲名を 答える問題の正答率やその後の設問 2 の平均 点の差も音楽教室経験児童と音楽教室未経験 児童との差が 2 年生, 4 年生の調査結果より さらに縮まっている。ここでも,学校の音楽 教育の日々の成果が僅かずつであるがあらわ れていると考えられる。 へ音記号の楽譜の読み方は 5 年生の 1 学期 に学習が始まる。へ音記号で書かれた楽譜が 出てくる度に,ト音記号の楽譜の音符の読み 方との違いについてふれていく必要があると 考える。 高学年の問題では,記譜する階名が書かれ ていない問題も出題した。出題した曲は《静 かにねむれ》(武井君子 日本語詞・フォス ター作曲・浦田健次郎編曲)であったが,こ の曲はA−A −B−A という展開になって いる。そのため,題名がわかり,曲のメロ ディーを頭に思い浮かべることができたら, 問われている部分が 1 段目, 2 段目と同じ音 の動きの小節であることがわかる問題である。 しかし《静かにねむれ》という曲であるとい うことに気がつかない場合は答えるのは難し い。曲名を答える問題の正答率は47.1%であ り,他学年と比べてみても,低い結果であっ た。そのため,記譜する階名が書かれていな い問題もできなかった児童が多いと考えられ る。 1 つ 1 つの音符を読むことも大切である が,学習指導要領のA表現の領域にも示され ている通り,ハ長調やイ短調の楽譜全体を見 て歌ったり,演奏したりする力をつけること が必要であると考える。 (4)設問 3 「音楽の時間にできるようになり たいこと」について この設問は次の①∼⑦の項目を示し,その 中から「できるようになりたいこと」の優先
度の高い順に番号を 3 位までつけるというも のである。回答をみると,質問項目③を選択 している場合が多く,子ども達自身も「楽譜 が読めるようになりたい」と思っていること が明らかとなった。 (質問項目) ①きれいな声で歌えるようになりたい。 ②リコーダーを上手にふけるようになり たい。 ③音符(楽譜)がすらすら読めるように なりたい。 ④正しいリズムで,手拍子やたいこをた たけるようになりたい。 ⑤木琴やアコーディオンなどの楽器を上 手に演奏したい。 ⑥自分で音楽を作れるようになりたい。 ⑦指揮をふれるようになりたい。 4)まとめ 低学年( 2 年生)は,まだ,五線譜の楽譜 を使った読譜指導が始まっていないため,楽 譜の音符が読める児童は音楽教室経験児童が ほとんどであった。音楽の授業の中で,階名 模唱やリズム打ちなどを繰り返し行い,リズ ム譜にも徐々に慣れ, 3 年生から始まる五線 譜の読譜指導につなげていく必要があると考 える。 中学年( 4 年生)でも,音楽教室未経験児 童の読譜力はあまり身についていなかった。 そういった場合は,やはり低学年と同様に, 階名模唱やリズム打ち,そして「ド」の音付 近の音符から徐々に慣れていく必要があると 考える。 高学年( 6 年生)では,中学年で楽譜が読 めなかった児童がそのまま高学年に上がって きている。そこで,高学年であっても低学 年・中学年と同様に,階名模唱やリズム打ち, そして「ド」の音付近の音符から徐々に慣れ ていく指導を進めたい。そして,ト音記号の 楽譜やへ音記号の楽譜にも慣れていき,楽譜 を見ながら歌ったり,演奏したりすることが 小学校卒業までにできるように指導をすすめ ていく必要があると考える。 2 実音調査と視唱調査からみる読譜力の実態 −J小学校児童( 3 , 4 , 5 年生)児童に対 する調査と分析− 1)調査の目的と内容 第 2 章の 1 ではH市内全域の小学生を対象 とした紙面による読譜力調査の結果を考察し た。しかし,紙面による読譜調査だけでは, 現在の小学生がどれだけ正しく楽譜を読むこ とができているかを知る資料としては不十分 である。実際に自分の耳で音楽を聴き,その 音を五線譜の音符と結びつけて理解できてい るか,また,五線譜の音符を見て,自分の力 で,音楽として表すことができるかを詳しく 調べるために,実音と視唱による調査を実施 した。 まず,実音調査については, 3 つの学年全 て同一の問題用紙を配布した。筆者が教室の オルガンで,(ア)(イ)(ウ)のいずれかの 音形を弾き,どれを弾いたのか,問題用紙に 書かれた五線譜の 3 つの音形の中から,正し いもの 1 つを選択するというものである。最 初に練習問題を 1 問,学級全体で行った。そ の際,始めから難しいと諦めてしまわないこ と,音をよく聴くこと,音符の上がり下がり にも気を付けることなどを伝え,解答の仕方 を共通理解させた。問題は全部で 5 問であり, それぞれ音形は 2 回繰り返して弾いた。 視唱調査についても, 3 学年とも同じ楽曲 《こいぬのマーチ》(久野静夫作詞・作曲者 不明・黒澤吉徳編曲)の楽譜を提示した。そ の楽譜を見ながら,ドレミの階名で声に出し て歌うという調査である。調査は一人ずつ, 教室の横の教材庫で行い,他の児童に音や歌 声が聞こえないようにして行った。《こいぬ のマーチ》を視唱の調査の楽曲にした理由は, 毎年,J小学校児童は 2 年生になると入学式 にこの曲を鍵盤ハーモニカで演奏することか ら,どの児童も,階名を何回も口ずさみ,覚 えて演奏した経験をしているからである。口 ずさんで覚えた階名と,五線譜の音符の動き を児童が一致させてとらえているかを調査す ることが可能であると考え,この曲を選曲し
た。 2)調査実施の概要 調査時期 2014年10∼11月 調 査 校 S県H市J小学校 調査対象 3 年生 4 年生 5 年生の児童 調査方法 各学級に調査用紙を配付し,筆者 が調査を実施 3)調査結果と分析 実音調査は,どの学年とも調査用紙に書か れた音符の動きをよく見るよう声を掛けてか ら開始した。選択肢の音符がどれも同じ動き をしているため見分けることができなかった り,付点の音符に惑わされた児童もいた。 視唱の調査では,最初の音を聞かせてから 始めたが,音程がとれない児童が多かった。 旋律の流れを追うよりも 1 つ 1 つの音符の階 名を読むことのみに一生懸命になってしまっ たためと思われる。前半部分のみヒントカー ドを見て歌い,後半は前半で歌った音符を参 考にしながら歌った児童もいた。実音調査で 聴いて答えることがよくできている児童は見 て歌うこともできていることがわかった。 J小学校児童( 3 , 4 , 5 年生)に実施し た実音・視唱調査の結果より, 3 つの学年で 共通して必要だと思われることは,次のとお りである。 ① 3 音からなる旋律を視唱することを普段 の音楽の授業で取り入れ,易しいものか ら徐々に符点など複雑なものに取り組ん でいくこと。 ( 3 ∼ 5 分くらいを毎時間継続させる。 単音の音符を読むのではない。) ②音符を見ながら正しい音程で歌うこと。 ③楽譜を見て歌ったり楽器を演奏すること に徐々に慣れていくこと。 これら 3 つのことを普段の音楽科の学習の 中に取り入れ,指導していくと徐々に「読譜 力」が身に付いていくのではないかと考える。 第 3 章 低・中・高学年の読譜指導 実践構想の提示 低・中・高学年( 2 , 4 , 5 年生)それぞ れ指導案を作成し,研究授業を実施した。 研究授業では, 3 学年とも共通して「階名 模唱」「リズム打ち」「楽譜に触れる活動」を 取り入れたが,1時間の単発的な読譜指導で あり,教師も児童も慣れない学習活動であっ たため,スムーズに進まないところもあった。 しかし,低学年の研究授業は中学年・高学年 の研究授業の後に実施したことから,授業を 進める要領もわかり,「階名模唱」「リズム打 ち」は比較的テンポよく進められた。(ここ では,低学年の指導案を提示する)。普段の 音楽科の授業では,これらの活動をパターン 化して教師も児童もお互いに慣れることによ りスムーズに展開していけるとよいだろう。 「楽譜に触れる活動」については,「五線 譜カード」や「ヒントカード」「リズム譜」 など,児童が自分の手元で操作できるカード が有効的であった。個人のカードを準備する のは大変な作業に思われるかも知れないが, 教師の無理がないように毎時間少しずつ増や していけばよいし,新しいカードが準備でき なかったとしても,これまでの同じカードを 使って,カードを並び替えて「音符のしりと り」や「音あて」をしたり,1枚選んだカー ドをリコーダーで吹き「学級全員でリレー」 をするなど,さまざまな活用ができると思う。 機械的にならず,児童がもっとやりたいと思 えるような活動を取り入れていけるようにし たい。
学習指導案 低学年( 2 年生)の本時の展開 木 村 章 子 24 学習内容と学習活動 ○教師の支援 ★評価 1.「ドレミ…」とピアノの音を聴きながら教師の後に 続いて発声練習をする。 ⇒聴いて模倣する。正しい音程で歌う。 2.既習の歌唱曲「こぐまの二月」を歌う。 ⇒正しい音程で歌う。 3.教師のリズム打ちを聴いて手拍子を真似て打つ。 ⇒聴いて模倣する。正しいリズムで打つ。 ↓ (たん)や(た)(た)のリズム譜でリズム遊びをする。 ⇒[とまと・(うん)]リズム譜から音符へ 4.教師の「ドレミ…」のリレーを聴いて 同じように歌う。(リレー) ↓ 歌った通り,鍵盤ハーモニカで吹き,慣れてきた ら,順に音でリレーをする。 [ドレミ・(うん)→レミド・(うん)→ミレド・(うん) →レドド・(うん)…] 5.教師の「ドレミ…」のしりとりを聴いて先にやった 「ドレミ…」のリレーとの違いを考える。 6.五線カードをしりとりになるように並べて歌ったり, 鍵盤ハーモニカで演奏したりする。[ドレミ・(うん) →ミドレ・(うん)→レミド・(うん)→ドレド・(うん) …] ↓ 鍵盤ハーモニカで演奏してみて,カードの順番を変 えたいと思ったら,貼り替える。 7.友だちのつなげたしりとりの階名唱をしたり,鍵盤 ハーモニカで皆で演奏したりする。 階名唱「ドレミ」で歌う。 1 小節ごとに,教師がオルガンやピアノを弾き,そ の後に続いて鍵盤ハーモニカを演奏する。 8.鍵盤ハーモニカで「こぐまの二月」を階名唱する。 9.鍵盤ハーモニカで「こぐまの二月」を演奏する。 10.ふりかえり ○歌う姿勢や口形などにも気を付けるよう声をかける。 正しく音が取れるように発声と同時にピアノを弾く。 ○始めに歌詞で歌い,次に階名で歌う。 ○ ♩ ♩ ♩ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ など,自信をもって打てるように 聴き分けやすいリズムを打つ。 ○リズム譜から音符への移行の時に ○ = ♩ ○︱ = ♪ ♪ = ♫ であることに気付けるようにする。 ★進んで歌っている。(興味・関心・意欲) ★教師の後に続いて歌ったり,演奏したりすることが できる。(表現の技能) ○ ♩ ♩ ♩ 㸱㸧ㄪᰝ⤖ᯝศᯒ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ のリズムでつなげることを知ら せる。 (♫を使える児童は,やってみてもよい) ○始めは数人ずつ,続けていけるようにし,徐々に人 数を増やしていけるようにする。 ○黒板に,わかりやすく大きく書き示す。 ○教科書の既習曲などから,よく出てくるような音形が 書かれた五線カード(音符は白抜きの階名が書かれた もの)を 5 枚程度準備し,各々が手元で操作できるよ うにする。 ドレミ・ミレド・ドミド・ソファミ・ ファミレ・ミファソ・ドドド・ミミミ・ソラシ・ レミファ・ソソド・ドシラ・シラソ・ファソド (*ミーレミドなど♫のリズムのものが出てきたら 音符は教師が書く。*音符の階名が白抜きのカー ドだけでなく,黒のものも 1 枚混ぜておき,何と よむ音符か,しりとりでどのようにつなげられる か考えられるようにする) ○自信をもって歌ったり演奏したりできるよう,しりと りでつなぐ枚数は児童に選択させる。 ○カードはセロテープで下敷きに貼り,後で張り直して もいいことを伝える。 ○音符を覚えたら,音符の白抜きを塗りつぶすよう伝え る。 ○プリントで読譜チェックをする。
第 4 章 継続的な読譜指導の計画と実践 1 発達段階に合わせた継続的な読譜指導計 画と指導方法 1)指導計画 さらに読譜力を着実に身につけさせるため に,音楽の時間に毎時間少しずつでも継続的 な指導をしていくことにより効果を上げてい きたい。前述の研究授業の時と同様に,決し て機械的に音符を教え込むことがないように 留意し,児童が「おもしろい」と思うような 取り組みを進めていきたいと考える。低・ 中・高学年で読譜力調査をした結果より, 「ド」(ハ長調・ハ音 以降同じ)音付近の 音から離れていくほど,音符を読むのが難し いと感じる児童が多かった。そのため,声を 出したり,音符に慣れるための活動は始めの うちは「ド」付近の音程を中心に進めていく ようにする。 2)具体的な指導方法 低・中・高学年に実施した研究授業の指導 案展開の部分を中心に, 3 学年とも共通に実 施した内容を基本にして,取り組む内容を考 えてみる。まずは,教師の後に続いて歌う階 名模唱を発声練習を兼ねて行う。いつも同じ 階名模唱だけでなく,階名によるリレーやし りとりなども取り入れていく。次に,リズム 打ちに取り組む。これも,最初の階名模唱と 同じように教師の叩いた後に続いて,児童が 手拍子でリズムをたたく。その後の学習内容 に合わせ,教科書の楽譜の中に出てくるリズ ムも取り入れていくようにする。そして,音 符に慣れるための活動として,低学年の研究 授業で使用した「五線譜カード」を準備し, 毎回数枚ずつ使って活動をする。この「五線 譜カード」は音符に白抜きの階名が書かれた ものであり,それぞれ 1 セットずつ並べて, 手元で操作できるようにしている。数枚の 内, 1 枚は白抜きにせず,黒の音符のカード を混ぜ,何の音なのか,考えることができる ようにする。また,覚えた音符は白抜きの部 分を黒く塗りつぶし,音符を読むときに白抜 きのカタカナの文字に頼ることが少しづつ 減っていくようにしていきたい。 これらの①声を出す活動②リズムを打つ活 動③音符に慣れる活動の 3 つの活動を音楽の 時間,毎回 3 ∼ 5 分の間に行っていくように する。児童にとって難しい活動にならないよ うに配慮し, 3 つの活動の比重のかけ方を変 えたり,少しずつステップアップしたりしな がら,児童が達成感を味わうことができるよ うに進めていきたい。 2 3 年生と 5 年生を対象とした実践 1)目的と方法 本研究 2 年目に筆者が音楽科の指導を受け 持つことになったのが, 1 年目と同じ勤務校 であるJ小学校の 3 年生( 2 クラスのうちの 1 クラス)と 5 年生( 2 クラスのうちの 1 ク ラス)であった。本研究 1 年目に行った調査 の結果や 1 時間の単発的な授業を行った際に 見えてきた児童の読譜のつまずきや問題点を 少しずつ改善しながら学習を進めることとし, それぞれのクラスの音楽科の授業において毎 回 3 ∼ 5 分間を読譜指導に当てた。それを 1 学期間( 3 学期制)試みた後,第 2 章で報告 した調査と同じ内容の紙面調査と実音調査を 行い,その結果を,本研究 1 年目に実施した データーと比較し,考察する計画を立てた。 ただし,第 2 章第 1 節の「H市内17校( 2 , 4 , 6 年生)に実施した読譜調査」は 2 , 4 , 6 年生用に調査用紙を作成し,実施したもの である。 3 年生と 5 年生に調査を実施したデ ーターはJ小学校のものだけであるため人数 が少なく,比較が難しいことも推測される。 そこで,最終的には,研究 1 年目のJ小学校 の 3 , 5 年生との比較,市内17校で実施した 4 , 6 年生との比較を合わせて分析を進めた。 さらに,第 2 章第 2 節の「J小学校児童( 3 , 4 , 5 年生)に実施した実音調査」について も研究 2 年目に,筆者が指導に当たっている 5 年生の児童に再度実施し,比較,分析を進 めた。
3)2015年度 読譜調査結果 1 学期間,授業毎に 3 ∼ 5 分の継続的な指 導を行った後の読譜調査の結果,研究 1 年目 の 4 年生の平均点と比較すると(成長もある が)やはり,伸びが見られた。研究 1 年目の 5 年生と平均点と比較してみてもよく聴き取 れていることがわかった。特に男子児童は, 音楽教室経験児童が 1 名だけであるのに,平 均点が高かったことは,「五線譜カード」を 使った「継続的な読譜指導」で何度もオルガ ンの 3 音の音節を聴いてきた成果があらわれ たのではないかと思われる。研究 1 年目, 4 年生時に同じ実音調査を受けた児童の中で, 実音調査前に「音符を読むのが苦手」「わか らない」と言ったり,視唱調査でも階名の書 いたヒントカードを見ないと歌えなかった児 童が何人かいた。その児童の研究 1 年目に 4 年生で調査した正答数と研究 2 年目に 5 年生 で調査した正答数を比較すると満点には届か ないものの伸びが見られた。耳で聴いた音の 高さと五線譜の音符の高さが徐々につながっ てきているのではないかと思われる。 4)まとめ 2015年度の 3 , 5 年生に実施した「継続的 な読譜指導」の実践記録を見直してみると, 5年生に実施した読譜指導より, 3 年生に実 施した読譜指導の方が基礎的な易しい内容の ものであった。 3 年生に実施した読譜指導は「ド」付近の 音符を,声に出したり,五線譜カードで確か めたりする活動を繰り返し行った。リズム打 ちも易しいリズムをある程度の期間続けた。 また,読譜指導を始めてからしばらくは,四 分音符のみでの学習を進め,八分音符は四分 音符に充分慣れたころから取り入れた。音高 感をつけるために声を出しながら手で音の高 さを操作する活動も 5 年生より長く取り入れ た。 5 年生に実施した読譜指導は,早い段階か ら八分音符を取り入れ,リズム打ちも複雑な ものを取り入れた。高学年なので中学年で 行っていた読譜指導と同じものではなく,全 体的に中学年より,やや高度な内容のものを 扱った方がよいと考えたからである。しかし, その結果,中学年の活動よりも機械的で児童 に難しいと感じさせる学習活動になっていた のではないかと思われる。音高感をつけるた めに声を出しながら手で音の高さを操作する 活動も, 5 年生ではあまり取り入れていな かった。 5 年生であっても読譜を苦手と感じ る児童には低・中学年と同様の指導が必要 だったのではないかと考える。 これらのことより,高学年であっても,低 学年や中学年で行うような基本的で理解の容 易な活動により,丁寧な読譜指導を行うこと が必要であると考える。児童につまずきが見 られた時は常に低・中学年の内容に戻って進 めていく必要があると思われる。 「継続的な読譜指導」では①声を出す活動 ②リズムを打つ活動③音符に慣れる活動を繰 り返し行ってきた。 3 つの活動はいずれも児 木 村 章 子 26 2)実践記録( 3 年生、 5 年生とも 1 学期間実施:平成27年 4 月∼ 7 月まで) (1) 3 年生 21人(男子10人 女子10人) (例) 3 年生 1 回目 内 容 具体的な活動 児童の様子 ①声を出す 活動 ドミソミド を「あ」で歌う(順に音を上げていく)。教師の 後に続いて階名模唱(ドレミ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ )(レミド ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ )など、 3 音を 中心にした簡単なもの。オルガンの声を出す機能も使用。 よく聴けて、反応している。 ②リズムを 打つ活動 (タンタンタン 㸱㸧ㄪᰝ⤖ᯝศᯒ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ )から簡単なリズム打ち。 5 パターンくらい。 教師を真似てやっている。 ③音符に慣 れる活動 ドレミ 㸱㸧ㄪᰝ⤖ᯝศᯒ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ 、ミレド 㸱㸧ㄪᰝ⤖ᯝศᯒ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ 、ドミソ 㸱㸧ㄪᰝ⤖ᯝศᯒ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ 、ドミド 㸱㸧ㄪᰝ⤖ᯝศᯒ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ の五線譜カードを 使って階名模唱。教師の声を聴いて階名模唱をするときに当 てはまるカードを上にあげながら声を出す。 ドの音符は始めから黒く塗った音符。 ドミド 㸱㸧ㄪᰝ⤖ᯝศᯒ ➨㸱❶ ప࣭୰࣭㧗Ꮫᖺࡢㄞ㆕ᣦᑟ ᐇ㊶ᵓࡢᥦ♧ のカードだけ黒。よくでき ている。
童が音を耳でよく聴いて歌ったり,リズムを 打ったり,五線譜カードを探したりする活動 であったため,音を聴き分けることは研究 2 年目の読譜調査結果からもわかるように,か なりできるようになってきたと思われる。そ れが,五線譜の音符の動きと結びついていく よう,今後も「継続的な読譜指導」を続けて 実践していきたいと考える。 終 章 読譜指導を進めるにつれて,J小学校の児 童の様子が変わってきたと感じることがいく つかあった。まず,大きな行事として校内音 楽会があった。これに向けてどの児童も練習 に取り組むのであるが, 5 年生の児童に音楽 会で使用する楽譜を配付する際に,「(音符 が)読めるようになってきたので,階名が書 いてない楽譜でやりたい。」という児童が数 名いた。また,普段の音楽科の学習で次の単 元に進み,新しい曲と出会ったときに,児童 が教科書の楽譜を見て階名で口ずさんだり, すぐ,リコーダーで吹きはじめている姿も見 られるようになった。どちらも,少しずつで あるが楽譜の音符が読めるようになり,音楽 活動に積極的に参加しようとしている様子が 感じられた。 3 年生でも,音符が読めない児童のために 教科書の楽譜の音符の読み方を一つ一つ黒板 で確かめるのに,以前はとても時間がかかっ ていた。しかし,リコーダーの《あの雲のよ うに》を学習する際に,音符の階名を始めの 音だけ全体で確認すれば,次々と階名を読ん だり書いたりでき,以前より明らかに短い時 間でできるようになった。 このような児童の姿から 5 年生, 3 年生, どちらも音楽活動に積極的に参加しようとし ている様子が以前より感じられるようになっ た。 今後も「継続的な読譜指導」の内容を常に 意識しながら,それぞれの学年の指導を積み 上げていくことを大切にしたいと考える。 児童は楽譜の音符を階名で読めるように なっても,実際の音の高さと結びつきにくく, なかなか正しい音程で歌うことができずにい た。「楽譜を見て階名で歌う力」の視覚表象 から音節表象への置換は,ある程度できるよ うになっても,それから音への置換(自分の 声で表現すること)が難しく,どのようにす ればその壁を越えることができるのかを何度 も考えさせられた。それに必要な活動は,や はり低学年までに階名模唱やリズム打ちを存 分に経験しておくことが重要なポイントと なってくるのであろう。 限られた少ない時間の中での指導であるが, 読譜指導は急ぎすぎても身に付かない。毎日, 5分であっても,少しづつの積み上げを大切 にしていきたい。 毎年同じ児童を同じ教師が担当するわけで はない。そのため,学年ごとの積み上げをど うしていくか課題が残る。 多くの児童が,楽譜が読めるようになりた いと思っている。その思いを叶え,児童の意 欲的な学びにつながる効果的な手立てを今後 も探り続けていきたい。 注 1)中央教育審議会 初等中等教育分科会教育課程 部会「小学校における各教科等の授業時数等の 変遷―文部科学省」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/ chukyo/chukyo3/029/siryo/06051225/004/004. him 2)「教科 音楽の授業内容と学力に関する調査」平 成18年度科学研究費補助金調査報告書より(杉 江.2007 pp.3-12) 3)長唄、三味線の稽古 http://www.kineyarokurou.sakura.ne.jp 4)グッドール(松村哲也 訳)2011『音楽史を変 えた五つの発明』白水社,pp.21-56 5)畑中浩美2009「読譜指導は必要か」音楽教育実 践ジャーナル vol.7 no.1 ,p.36
6)Ku Wing Cheong 2009「マレーシアにおける初 見の教育」音楽教育実践ジャーナル vol.7 no.1 p.56 7)杉江淑子 2007 「教科 音楽の授業内容と学力 に関する調査」平成18年度科学研究費補助金調 査報告書. pp.7-8 8)今までにピアノやエレクトーン等の音楽教室に 通った経験がある児童を以降「音楽教室経験児 童」という。 9)符幹のことを以後「棒」という。
参考文献 杉江淑子 2009『教科「音楽」の授業内容と学力 に関する調査』科学研究費補助金基盤研究B「音 楽科における教育内容の縮減と学力低下の様相」 (研究代表 小川容子)教師調査班調査報告書 文部科学省 2008『小学校学習指導要領解説 音 楽編』 杉江淑子 2008「1950∼60年代の学力向上政策と 音楽科教育−元教師へのインタビュー調査より」 滋賀大学教育学部教育実践総合センター紀要 第 16巻 pp. 111-121 畑中浩美 2009「読譜指導は必要か−楽譜のよさ に気づかせて学ぶ意欲につなげるために」音楽教 育実践ジャーナル vol.7 no.1 pp.33-41 Ku Wing Cheong 2009「マレーシアにおける初 見の教育−ピアノ教室の教育的視野」 音楽教育 実践ジャーナル vol.7 no.1 pp.55-59 緒方満 編著 2010『読譜力という基礎的能力− 小・中学校を一貫して育む学力−』教育芸術社 長浜み∼な協会 2010「特集 祭りを引き継ぐ人 たち」地域情報誌 み∼なvol.106, ハワード・グッドール 松村哲哉訳 2011『音楽 史を変えた五つの発明』白水社 『教育音楽 中学・高校版』2013.2月号「でき る教師は読譜指導がうまい!」音楽之友社 『教育音楽 小学版』2015.4月号「音符と結び つくリズム指導」音楽之友社 教科用図書2012 『小学生の音楽』1∼6年生,教 育芸術社