• 検索結果がありません。

幼稚園における保育内容と園環境の工夫に関する研究 -健康領域(運動遊び)の取り組みを通して-

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "幼稚園における保育内容と園環境の工夫に関する研究 -健康領域(運動遊び)の取り組みを通して-"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

43

幼稚園における保育内容と園環境の工夫に関する研究

 健康領域(運動遊び)の取り組みを通して 

口 野 隆 史・河 井 明 美

Ⅰ はじめに(研究の動機及び目的)

 大阪、京都という大都市から離れ、これまで自然も豊かであった地域が、ここ数年のうちに ベッドタウンとしてその環境を変化させている。特に通勤に便利な駅周辺の変化は大きい。そ のような場所にある幼稚園、保育所、こども園では、これまでの環境が急速に変化している。 環境が大きく変化しても、幼稚園等では子ども達の保育環境を整え、『幼稚園教育要領』等に 示される保育内容を総合的に子ども達に指導しなければならない。  このように子ども達を取り巻く環境は変化しているが、子ども・幼児の体力・運動能力につ いては、1980年代半ばに高いレベルでピークにあったが、現在もその頃のレベルより低い状況 にあることは報告されている(1)。先のような通勤に便利な駅近くにあり、周辺の環境が大きく 変化しつつある幼稚園において、子ども達の体力・運動能力を考えながら、保育内容(運動遊 び)や園環境の工夫のより良い在り方を探ろうと実践している幼稚園もある。  本研究では、上記のように変化する園の環境のもとで、このような取り組みを行ったO幼稚 園の 1 年間の実践(後述するが、O幼稚園には長い歴史がある。しかし本研究では、特にこの 1 年間の 実践に着目する)について、『幼稚園教育要領(平成29年告示)』に沿う形で考察を加え、より良い 保育内容・方法、より良い保育環境の在り方を探ろうと試みる。   1 .O幼稚園の 1 年間の取組を『幼稚園教育要領』の趣旨・内容に沿って考察する(その内 容・趣旨に沿う部分と、そうではない部分を考える)。   2 .逆にO幼稚園の 1 年間の取組を通して『幼稚園教育要領』の趣旨・内容が、実際の教 育・保育の実践の場に沿わない部分はないかを考察する。   3 .O幼稚園の 1 年間の取組の特に幼児の運動に関しては『幼児期運動指針』(2)を参考に考 察する。

Ⅱ 研究の方法

 本研究においては、 1 つの幼稚園の 1 年間の実践を通して、保育内容や保育環境の工夫を探 ろうと試みる。特に健康領域の幼児の体力・運動能力を高める保育の実践を通して考える。

(2)

44 Ⅱ-1 研究対象とするO幼稚園の状況(背景と環境)  S県にあるO幼稚園は、1977年 4 月K市内の幼児数の増加に伴い開園したが、1991年には市 立幼稚園の統廃合によって閉園する。全国的には少子化傾向にあるが、K市は大阪、京都の ベッドタウンとして人口が増加し、幼児数の増加により同園は2003年 4 月に再開園される。し かしさらに市の「幼保一体化推進計画」に基づき2018年 3 月末に市立幼稚園としては再閉園さ れ、2018年 4 月に公私連携によるT学園 TO こども園に移行された。  同園は JR のK駅に近く、現在は商業施設や高層マンション等に囲まれた環境に立地し、園 児も交通量の増加とともに戸外でのびのびと遊べる場が少なくなった環境で生活し、健康な体 づくりが課題となっていた。 Ⅱ-2 園児数等(2017年度)  (1)園児数: 4 歳児 1 クラス21名、 5 歳児 1 クラス32名、計53名。  (2)教職員数:園長、副園長、学級担任 2 名、障害児加配教員 3 名、特別支援教育支援員 1 名、管理補助業務員 1 名、計 9 名。 Ⅱ-3 O幼稚園の 1 年間の取組(考察の対象とする取組)  本研究においては、O幼稚園の2017年度の 1 年間の取組を考察の対象とする。取組の結果を Ⅲにおいて示し、考察を加える。 Ⅱ-4 研究の方法  本研究においては、次の「Ⅲ 結果及び考察」において示すO幼稚園の 1 年間の実践の結果 について、その保育内容・方法及び保育環境の工夫について、『幼稚園教育要領』に沿う形で 考察を加え、より良い保育内容・方法、より良い保育環境の在り方を探ろうと試みる。また幼 児の運動に関しては『幼児期運動指針』も参考に考察を行う。

Ⅲ 結果及び考察

 下記の実践報告は「平成30年度K市立教育研究所研究発表大会」の「共同研究 基盤研究部 門」における発表資料をもとに、その執筆者の 1 人である河井(当時園長)が関係資料等を再収 集し、再構成したものである。 Ⅲ-1 体づくりをめざした継続的な取組から(2017年度までの経緯)  O幼稚園の子ども達の運動遊びへの関心や運動能力の個人差は大きい。S県教育委員会の 2016年度運動能力調査の結果においては、 4 歳児(2017年度の 5 歳児)は、25m走以外の立ち幅跳 び、ボール投げ、体支持持続時間、両足連続跳び越し、捕球の項目すべてにおいて県の平均値 を下回る結果であった。こうした中で、幼児が進んで体を動かし運動遊びの楽しさが味わえる ように、また運動能力の向上が図れるよう活動内容や環境の工夫を図ることが必要と考えられ てきた。

(3)

45  のびのびと体を動かして遊べる場や時間が減少し、一緒に遊ぶ仲間との関係も希薄になり、 屋内の遊びに偏りがちな生活は、子どもの基礎的な運動能力の低下や体の発育に影響を与えて いると言われている。O幼稚園においては、Ⅱ-1の「同園の背景・環境」でも示したように、 急速に園周辺の環境が変化し、この傾向に拍車を掛けている。子どもの心身ともに健康な体づ くりを望む保護者は、O幼稚園が継続して取り組んできた活動に協力的で期待も大きい。 【考察】『幼児期運動指針』によれば「特に遊びに占める『絵本、テレビ・ビデオ』の割合は、 10年前(2000年→2010年)に比べて約 2 倍に増えていることもわかりました。(中略)『自転車・三 輪車など』は、平成 2 年69%、平成12年54%、平成22年43%と減少傾向にあります。このよう にあまり体を動かさない遊びが増加し、活発に体を動かす遊びの機会は少なくなりがちで す」(3)と示されている。O幼稚園も同様の傾向にあるように思われる。  『幼稚園教育要領(平成29年告示)』「第 1 章 総則」の「第 6  幼稚園運営上の留意事項」には、 保護者との関係について「 2  (前略)家庭との連携に当たっては、保護者との情報交換の機会 を設けたり、保護者と幼児との活動の機会を設けたりなどすることを通じて、保護者の幼児期 の教育に関する理解が深まるよう配慮するものとする」とあるが、O幼稚園においては、2017 年度以前から保護者は協力的である。後述するが、O幼稚園では保護者の協力が得られるよう 2017年度以前から工夫を行っている。  以下『幼児期運動指針』は『運動指針』、『幼稚園教育要領(平成29年告示)』は『教育要領』 と表記する。また、上記の『幼稚園教育要領(平成29年告示)』「第 1 章 総則」の「第 6  幼稚 園運営上の留意事項」という表記については、初出はこのように表記するが、 2 回目以降は 『教育要領』も省き「第 1 章 第 6 」というように表記する。 Ⅲ-2-(1) 「元気タイム」の見直し  Ⅲ-2では、「元気タイム」の取組について述べる。  O幼稚園の「元気タイム」とは、同園において毎週行う運動遊びの時間のことである。主に 体操やダンス、マラソン等の運動遊びを実施してきたが、子ども達の活動意欲やこの時間の姿 から、2017年度はより充実した元気タイムになるよう見直しすることにした。  前年度までの「成果」は、①体操服の着替えや準備等の身支度がスムーズにできるように なってきた、②週 2 日(火・木)の活動日が定着し保護者も着替えや水筒の準備等に協力的で運 動遊びへの理解が深まってきた、③体操やマラソンを継続してきたことで基礎体力がつき力強 く走れるようになってきた、が挙げられる。  「課題」は、活動が生活や遊びの流れを中断したり、活動の切り替えに時間がかかったりす ることで、参加することに意欲的でない子どもの姿も見られた。  そこで、以下を「見直しのポイント」とした。  ①生活の流れや遊びが途切れないように、活動時間を登園後すぐに始められる時間帯(9:00

(4)

46 〜9:20)にする。  ②一人一人が運動遊びの楽しさや充実感・達成感を味わえるように子どもの興味や関心、発 達に合わせた運動遊びを取り入れる。  ③元気タイムの時間だけでなく、遊びや生活全般の中で自分のペースで運動遊びが楽しめる ように保育環境を工夫し、フィードバックできるようにする。  ④学年ごとに活動内容を検討し、交流活動やわくわくペア(異年齢児ペア)の活動を取り入れ、 憧れや愛着、自信に繋げて活動意欲が高まるよう工夫する。 【考察】『運動指針』では、幼児期の運動について「 1 .多様な動きが経験できるように様々 な遊びを取り入れること。 2 .楽しく体を動かす時間を確保すること。 3 .発達の特性に応じ た遊びを提供すること」の 3 点が重要であるとしている(4)。O幼稚園のこの「見直しのポイン ト」は、これらの点が考慮されているように思われる。「楽しく体を動かす時間の確保」は、 毎日の保育の中で、子どもの活動の流れを止めないように工夫し、確保する必要がある。また 子どもの興味関心と発達段階に沿うことは、当然のことではあるが、その条件や環境を整える ことは難しい。実際の取組については後述する。  また先述の「第 1 章 第 6 」にもあるように、保護者の理解と協力を得ながら「元気タイ ム」のような活動を継続することが大切である。子どもは保護者に見守られ安心感を持って活 動でき、保護者は子ども成長を見守り、保育者は保護者から援助を受け、という三者の良い関 係がこの活動の原動力となっていると思われる。 Ⅲ-2-(2) 「元気タイム」 4 月の記録から( 5 歳児 4 月)  < 4 月18日(火)雨>今年度初めての元気タイムは雨のため遊戯室で行う。 5 歳児の新入園児 もいるので戸外を走る活動からスタートするより、屋内でいろいろな動きを楽しむ活動から始 める。体操では「仰向け、うつ伏せ、抱え込む」等、子どもにとって普段聞き慣れない言葉で は、動き方がわからず戸惑う子どもがいた。初めて聞く言葉も体の動きと関係付けて理解でき るように意識して言葉掛けしていきたい。  < 4 月20日(木)晴>バランス遊びではどこに力を入れれば良いかわからず、バランスを崩す 子どもが多い。今までの声かけの仕方が不十分だったことを振り返る。継続していくことで自 然に力の入れ方を感じてくれるか、もっと言葉にして説明した方が良いのか。しばらく、様子 を見ることにする。 5 月の保育参観日は親子で元気タイムをすることにしよう。  < 4 月27日(木)晴>元気タイムでバランス遊びや体操、自分のペースに合わせて走る 5 分間 走の後、縄跳びで遊んだ。連続して前跳ができない子どもも多いが、自分なりの方法で跳ぶこ とができれば良い。「友達に10回跳ぶところを見てもらおう」の言葉にA児は焦って今にも泣 き出しそうになったが、友達の拍手や応援で10回クリア。A児の安堵感が伝わった。諦めずに 取り込もうとする姿勢を大切にしたい。

(5)

47 【考察】『運動指針』の重点の 1 つ「 1 .多様な動きが経験できるように様々な遊びを取り入 れること」では「多様な動き」として、「①体のバランスをとる動き、②体を移動する動き、 ③用具などを操作する動き」の「 3 つの基本的な動き」を示している。幼児が運動を行う際に は、“食べ物の栄養バランス”と同様に、偏りのないことが大切である。O幼稚園の「元気タ イム」においては、バランス遊び、 5 分間走、縄跳び等、この「 3 つの基本的な動き」を含む ことが配慮されている。  「第 1 章 第 2  幼稚園教育において育みたい資質・能力及び『幼児期の終わりまでに育っ てほしい姿』(以下「10の姿」と記す)」には「(2) 自立心 身近な環境に主体的に関わり様々な 活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫 したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようにな る」と示されている。4/27のA児の姿は、この「自立心」で示された「育ってほしい姿」と言 えそうである。このように運動指導の場面において「皆に見てもらう」ことは、応援を受けて 力になることもある。しかしもし上手くできない時には、皆の前で所謂「さらしもの」(5) なってしまい、それが子どもの負担となることも考えておく必要がある。保育者が、その子や クラス集団の発達段階や個性をしっかり見極めておく必要がある。  写真 1( 5 月 9 日)には、子どもと一緒に活動を行う保護者の姿がある。先述の「第 1 章 第 6 」にあるように、保護者の参加・協力を得ることは重要である。 Ⅲ-2-(3) 「できた!」が実感できるスモールステップの積み重ね( 4 歳児 1 年間の取組)   4 歳児は、戸外で活動する 5 歳児の様子を廊下から見たり、園舎内で 5 歳児の動きに合わせ て体操したりしながら「元気タイム」への関心が高まっていった( 4 歳児の「元気タイム」は 5 月 から始まる。 4 月当初は 4 歳児は 5 歳児の様子を見ている)。しばらくすると 4 歳児から「何だかお もしろそう。一緒にやってみたいな」という声が聞こえてきた。体力的にも無理がないように 活動量を少しずつ増やしながら、できるようになった喜びを味わい、自発的に次のステップに 進めるよう取り組むことに配慮していった。 写真 1   5 月 9 日「親子で元気タイム」(保護者も一緒に活動する様子)

(6)

48   4 歳児B児は、当初「走るのしんどいな」と「元気タイム」の参加や登園をためらいがちで あった。B児が喜んで登園できるよう、また「元気タイム」にも興味をもって参加できるよう にするためにはどうすればよいか。まずは、B児の関心のある体操やダンス等を保育者と一緒 にすることで、体を動かすことの楽しさが味わえるようにした。また保育者は「ゆっくりでい いよ。できるところまででいいんだよ」と、苦手なマラソンも最後まで頑張ってみようと思え るよう励ましていった。自分のペースで走り切ることができた日には、迎えに来た母親に最後 まで走ったことを自慢げに伝え、母親からの賞賛の言葉に笑顔で応えるB児の姿が見られた。  マラソンも皆が同じ距離を走るのでは到着時間に差が出るため、 4 歳児は決められた時間 ( 3 分間)を自分のペースで走ることにした。途中歩いたり、走ったりしながら 3 分間を走り、 体力のある子どもは時間内に園庭を何周走れるか友達と競う姿も見られた。  活動当初のかけっこ(20m走)では「合図を聞いて元気よく走る」ことで走る爽快さや楽しさ が味わえるよう活動してきた。 2 学期に入って保育者は、合図の仕方や合図を送る場所、ゴー ルの示し方や注意の向け方等を考え、子ども達は合図に戸惑うことなく、また迷走することな く走れるようになってきた。一人一人の「おもしろそう、やってみたい、できたよ、ぼく(私) すごい」の気持ちを大切に『目標に向かって頑張る自分』から自信に繋げるための支援が重要 となった。   5 月から始まった 4 歳児の元気タイムであるが、年間の計画の中で 9 月の運動会や11月のマ ラソン大会を目標に子ども達の意欲も高まった。諦めずに頑張る、友達を応援できる、頑張っ た後の充実感を味わう等、幼児なりに目標を持って取り組めるように進められた。また、子ど も達の日頃の頑張りを保護者にも伝え、子どもの育ちを保護者とともに支えることで活動意欲 が高まった。 【考察】「第 1 章 第 3  教育課程の役割と編成等  4  教育課程の編成上の留意事項」におい て「教育課程の編成に当たっては、次の事項に留意するものとする」とし「(1) 幼児の生活は、 入園当初の一人一人の遊びや教師との触れ合いを通して幼稚園生活に親しみ、安定していく時 期から、他の幼児との関わりの中で幼児の主体的な活動が深まり、幼児が互いに必要な存在で あることを認識するようになり、やがて幼児同士や学級全体で目的をもって協同して幼稚園生 活を展開し、深めていく時期等に至るまでの過程を様々に経ながら広げられていくものである ことを考慮し、活動がそれぞれの時期にふさわしく展開されるようにすること」としている。 このような場面を幼稚園生活において毎日保育者が意図的に準備することは難しいが、O幼稚 園はじめ各園においては、「それぞれの時期にふさわしく展開」する場面があると思われる。 保育者はこのような幼児の「活動の展開」を捉え、幼稚園での教育課程を編成し、日々の保育 を行っているものと思われる。しかしO幼稚園のように、その場面を記録しそれを教育課程の 編成に生かすように留意しなければ、その時々の「活動の展開」に繋ぐことは難しい。「教育 課程の改善は、編成した教育課程をより適切なものに改めることであり、幼稚園は教育課程を

(7)

49 絶えず改善していくことが求められます」(6)とされるように、より良い保育内容や教育課程を 生み出していくには、日々の保育を記録しそれを改善の手立てとすることが求められる。 Ⅲ-3 「チャレンジカード」の取組から( 5 歳児 9 月)   5 歳児は体力的にも向上してきたが、まだ運動遊びに対する興味・関心には個人差が見られ た。日常の遊びの中で運動遊びに興味をもって取り組めるよう次の点に留意し「チャレンジ カード」を活用した。  ①チャレンジする項目は、縄跳び、大繩跳び、登り棒、フラフープ、鉄棒、竹馬とする。  ②友達に見てもらって「OK」をもらえば、シールを張る。  ③誰もが遊びの場に入って行けるように、また友達の姿が互いに見えるように、安全面の配 慮とともに園庭での配置場所を工夫する。  ④やってみようとする気持ちを大切に個々に応じて支援する。  ⑤朝の会等でチャレンジカードの遊びについて話し合う機会を持ち、活動意欲が高まるよう 工夫する。  夏休み中に親子で鉄棒に取り組んだ子どもも多く、友達同士でアドバイスしたり進んで運動 遊びにチャレンジしたりする姿が見られた。また、降園後の園庭開放時には親子で登り棒や鉄 棒等の固定遊具にチャレンジする姿が増え、チャレンジカードの取組に関心が高まった。当初 は友達に見てもらうことが恥ずかしく、友達を誘うことに躊躇したり、上手くできないと次々 に違う遊びに移ったりすることもあったが、その後お互いの様子を見て応援したり、友達の様 子を見て積極的に取り組んだりする姿が見られるようになった。中には活動に消極的な子ども も見られたが、友達に応援されながら 1 つ 1 つの課題が達成されると、シールが増えていく嬉 しさや満足感で遊びが継続した。遊びが停滞しがちになった時には、その遊びの活動場所を変 え、目につきやすい玄関近くに移動したり、保育者の関わりを意図的に増やすようにした。ま た、シールを張る机を木陰に設置したことで、子ども達が集まれる場ができ、気を付けている ことやどうすればうまくできるか等、友達と情報交換することが増えた。こうした設置場所や 友達との関わりを意識した環境の工夫によって、友達関係の深まりや遊びへの意欲が高まって いった。  日常における園庭の固定遊具や身近な教具を使った運動遊びも友達や保育者、保護者に励ま され「できるようになったね、頑張ったね」と声をかけてもらったことがうれしく、また頑 張った自分に自信を持ち、 1 つ 1 つの「がんばった、できた」が自尊感情や有能感を高め、次 へのステップに繋がった。  また、それぞれの遊びを通して子ども自身が新たに考え出した遊びに挑戦することもできた。 例えば、子どもが考えた遊びには、フラフープを 2 人から 3 人に増やして転がす、フラフープ を縄跳びのようにして跳ぶ、友達を誘って 2 人で縄跳びをする等の遊びを考え出し、個々が取 り組む遊びから友達と協同して遊ぶ姿が見られるようになってきた。

(8)

50 【考察】「第 1 章 第 1  幼稚園教育の基本(冒頭部分)」において「(前略)幼児期の特性を踏まえ、 環境を通して行うものであることを基本とする」とし「その際、教師は、幼児の主体的な活動 が確保されるよう幼児一人一人の行動の理解と予想に基づき、計画的に環境を構成しなければ ならない。この場合において、教師は、幼児と人やものとの関わりが重要であることを踏まえ、 教材を工夫し、物的・空間的環境を構成しなければならない。また、幼児一人一人の活動の場 面に応じて、様々な役割を果たし、その活動を豊かにしなければならない」としている。「チャ レンジカード」の取り組みは、ここで述べられているように「幼児と人やものとの関わりが重 要であることを踏まえ、教材を工夫し、物的・空間的環境を構成」しようとするものであろう。 子どもの頑張りを可視化し、子どもの活動を後押しする教材と言える。  また「第 2 章 ねらい及び内容」「健康」領域の「 3  内容の取扱い」では「(2) 様々な遊 びの中で、幼児が興味や関心、能力に応じて全身を使って活動することにより、体を動かす楽 しさを味わい、自分の体を大切にしようとする気持ちが育つようにすること。その際、多様な 動きを経験する中で、体の動きを調整するようにすること」とされている。ここでの「チャレ ンジカード」の取組は、「多様な動きを経験する中で、体の動きを調整する」ことを可能にす ると思われる。「多様な動きの経験」は『運動指針』でもねらいとされている点であり、それ を支える取組である。 注 1  友達の承認によってシールを貼る 注 2  空欄には自分で考えた遊びを書き足す 写真 2  チャレンジカード

(9)

51  しかし、このような「カード、シール」を使う活動は、時には本来目的とする活動(運動遊 び)を十分に行わず、「シール」の獲得のみに強く執着する子どもを産み出すこともある。保育 者は、子ども達の様子に注意を払いながら、本来目的としている子どもの力を伸ばせるように したい。 Ⅲ-4-(1) ぼくらの運動会をしよう(子どもの姿と運動会のねらい)  Ⅲ-4では、 5 歳児の 9 月頃の運動会に関わる取組について述べる。  毎年O幼稚園では運動会が開催されるが、運動会の取組から保育の計画や内容、子どもの育 ちを支える日々の保育や行事の在り方を検討してきた。まず子どもの実態を捉え、幼児の理解 に基づいた指導計画の立案が必要となるため、子どもの姿から保育者の願いや活動のねらいを 整理する必要がある。  O幼稚園の教育課程は、 2 年間の園生活における幼児の発達の道筋を 5 期に分けている。 5 歳児 9 月は「第 4 期 : 自己の力を十分に発揮して取り組む」から最終期の「第 5 期:友達と目 的をもって幼稚園生活を展開して深めていく」への移行期にあたる。教育課程を具体化してい けるよう長期の指導計画、週や日の短期の指導計画を作成し、子ども達の主体的な活動を大切 にしてきた。特に、日々の保育の中で幼児の願いや思いを捉えた保育者のまなざしを大切にし つつ、幼児の主体性と指導の計画性をバランスよく絡ませていくことを課題としてきた。 ≪子どもの姿( 5 歳児 9 月)≫ ・ 昨年度の 5 歳児の姿に憧れ、運動会種目のリレーやパラバルーンを用いた演技等を自分たち もやりたいという思いが強い。しかし、全員が同じように園生活や行事に対して期待してい るとは言えない。 ・ チャレンジカードを使って、目的に向かって繰り返し取り組む姿が見られるようになってき た。 ・ 群れて遊ぶ姿が多くなり、クラスの皆で活動することを楽しいでいる。グループ活動では自 分の思いを通そうとする。友達と力を合わせる大切さは理解しているが、行動が伴わないこ ともある。 ≪運動会に向けた具体的なねらい≫ ・目的をもって運動遊びに挑戦し、諦めずに力いっぱい取り組む。 ・友達と力や思いを出し合い、共にやり遂げた喜びや達成感を味わう。 ・自分たちの頑張っている様子を見てもらうことを楽しみに、意欲的に取り組む。 【考察】「第 1 章 第 4  指導計画の作成と幼児理解に基づいた評価  3  指導計画の作成上の 留意事項」には、「指導計画の作成に当たっては、次の事項に留意する」として「(1) 長期的 に発達を見通した年、学期、月などにわたる長期の指導計画やこれとの関連を保ちながらより 具体的な幼児の生活に即した週、日などの短期の指導計画を作成し、適切な指導が行われるよ

(10)

52 うにすること」とされている。その上で、行事については「(5) 行事の指導に当たっては、幼 稚園生活の自然の流れの中で生活に変化や潤いを与え、幼児が主体的に楽しく活動できるよう にすること。なお、それぞれの行事についてはその教育的価値を十分検討し、適切なものを精 選し、幼児の負担にならないようにすること」としている。O幼稚園においても入園から卒園 までの 2 年間で、各行事における子どもの発達のねらいを考えている。  運動会はどの幼稚園にとっても年間の大きな行事である。幼稚園によっては、次年度のため の新入園児獲得の行事になる場合もある。上記(5)にもあるように本来「幼児が主体的に楽し く活動できるようにすること」が大切であるが、「昨年もしたから今年もしなければならな い」という発想になると、子ども達の「主体的な」取組ではなくなる。O幼稚園では、運動会 は毎年必ず実施するという姿勢で保育者から子ども達に伝えるのではなく、子ども達( 5 歳児) の中から「運動会がいつあるのか」が話題になり、運動会に対する希望や期待が高まってきた ら、保育者はその機会を逃さず、運動会について皆で話し合うことにしている。O幼稚園では、 運動会等の行事を大人の都合ではなく「幼児が主体的に楽しく活動できるようにすること」を 第一にしている。 Ⅲ-4-(2) 終わりのないリレーから終わりのあるリレーへ   1 学期後半から始まったリレーごっこは、「走るって楽しい、バトンをもって走るのかっこ いい」と、走りたい子どもが集まって走るという約束事も少ない遊びであった。 2 学期には自 分たちで仲間を集め、準備するようになった。 5 歳児にとって曲線に沿って走るのは、簡単で はない。時にはコースから外れて、真っ直ぐ走っていく姿もある。そんな中、子ども達は三角 コーンをどこに置けば走る人の邪魔にならないか、どこに置けば皆が間違えずにうまくコース に沿って走れるのか考えながら準備をし始めた。また、 1 〜 5 の番号付きの 3 色( 3 グループ分) のリストバンドの数や順番を意識して仲間を集めている。人数が揃うと、走る順番の確認もそ こそこにスタートの合図を送る。しばらく終わりのない、勝敗のわからないリレーが始まる。 傍ではポンポンを持った応援団がカセットデッキを準備し、自分たちの選曲で踊りだす。この 応援団にとって手にするカラフルなポンポンは友達との「一体感」を共有する大切な道具に なっている。  新たにアンカー襷とゴールテープをリレーの準備物に加えると、「これ、大将がするやつ や!」と関心を持って使い、ゴールテープ係、応援係、合図係と役割を分担し、リレーの遊び もエンドレスではなくなった。しかし、グループの人数が合わなかったり、走る順番が決まら なかったりすると、始めるまでに時間がかかる。困ったことは友達と一緒に考え、相談して決 められるように働きかけ、保育者は子どもの声に耳を傾けながら様子を見守る。スタートの合 図が出されるまでに時間がかかり、待ちきれずにその場から離れていく子どもの姿も見られる。 1 人が 2 回走ることになったが誰が 2 回走るのか、スタートの合図までまた時間がかかる。そ れぞれに意見を出し合い、葛藤しながらもリレーがしたい気持ちは変わらない。何とか折り合

(11)

53 いをつけて遊び始めると、走者も応援団も勝敗に夢中になって声援に熱が入った。 【考察】上記のように「 5 歳児にとって曲線に沿って走る」のは簡単ではない。運動会で走る 楕円形のトラックがあっても、その白線に沿って走らず、斜めに横切って走る 5 歳児もいる。 幼児はトラックを横切りその先に見える具体的なゴールを目指して走る。園庭に引かれた走路 の白線は、大人には走るルートを示す印や記号であるが、幼児はゴールで待つ先生を直線的に 目指して走る。しかし、幼児も自分の前を先生や友達が走り、それが具体的な目標になるとそ の後を追うようになる(7)。そして白線だけでなく、三角コーンや旗等があれば、徐々に曲線 コースに沿って走れるようになる。また、ゴールテープやアンカーの襷は、リレーがどこで終 了するのかを示す具体的な道具であり、これらの道具の力も借りながら、子ども達はリレーの ルールを理解し、誰が何番に走るのかという作戦も考えられるようになる。  「第 1 章 第 2 」の「10の姿」の「(8) 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」には 「遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役 割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚をもつようにな る」とされているが、子ども達は園庭に引かれたトラックの白線を通して、その「役割」に気 付いたりする。また「第 2 章」の「環境」領域の「内容の取扱い」には「(1) 幼児が、遊びの 中で周囲の環境と関わり、次第に周囲の世界に好奇心を抱き、その意味や操作の仕方に関心を もち、物事の法則性に気付き、自分なりに考えることができるようになる過程を大切にするこ と」とあるが、幼児はリレー遊びを通して、保育者に教えられ、他の子ども達と一緒に活動し ていくなかで、リレーの意味や法則性を理解していくと思われる。 Ⅲ-4-(3) リレーで算数!?  「なんでか抜かされる…」「手をめっちゃ振ってみたらどう!」「してるけど…」「それなら 一緒に走ってみよう」と話す二人。走ってみて「なんでかな?」と悩む。保育者の「友達の走 り方はどうなのか見てみよう」という声かけで『なか(内側)を走っている人は速い人が多い』 ことに気づくが、この時点ではその理由には気づいていない。保育者はこの疑問にクラス皆で、 保育室の床に『紐』を並べて考えることにした。保育者の「AとBの紐はどちらが長いでしょ うか?」と言う問に対して、AとBそれぞれに約半数ずつが手を挙げ、また同じ長さだと思っ ている子どももいる。そこで、AとBの紐を直線に伸ばして比べてみることにした。実際に比 べてみるとBの紐が長く、これは子どもにとって驚きの大発見であった。遊びの中で数や長さ への関心は子どもの知的好奇心をくすぐり、幼児期に育みたい資質・能力に繋がるものである。

(12)

54  また「前の人がBを大回りしてたら、Aの近道で抜いたらいいやんな」と言う意見も出た。 リレーの遊びでは走るだけでなく、他にもバトンを落とさないためにはどうすれば良いか、靴 が脱げないためにはどうすれば良いか、どうすれば速く走れるか、走る順番を工夫すれば勝て るのではないか、友達と力を合わせて走るってどういうことか等、子ども達にとってはどれも 真剣なことで家族に聞いてみたり、工夫したり、毎日様々な試行錯誤が続いた。 【考察】「第 1 章 第 2 」の「10の姿」には「 1  幼稚園においては、生きる力の基礎を育むた め、この章の第 1 に示す幼稚園教育の基本を踏まえ、次に掲げる資質・能力を一体的に育むよ う努めるものとする」とあり「(1) 豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、 できるようになったりする『知識及び技能の基礎』。(2) 気付いたことや、できるようになっ たことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする『思考力、判断力、表 現力等の基礎』。(3) 心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする『学びに向 かう力、人間性等』」の 3 つの資質・能力が示されている。上記の運動会の練習において、子 ども達が保育者の指導のもとに、楕円形のコースの内側と外側では「速さが違う」から「走る 距離が違う」ことに気付いていく過程は、上記の「生きる力の基礎を育むための 3 つの資質・ 能力」を獲得しつつある場面と考えられる。  また「第 1 章 第 3 」の「 5  小学校教育との接続に当たっての留意事項」においては「(1) 幼稚園においては、幼稚園教育が、小学校以降の生活や学習の基盤の育成につながることに配 慮し、幼児期にふさわしい生活を通して、創造的な思考や主体的な生活態度などの基礎を培う ようにするものとする」とあるが、このリレーのような取組が「小学校以降の生活や学習の基 盤の育成につながる」ものと考えられる。 Ⅲ-4-(4) 話し合い「遅い人って…?」  リレーで 1 位になりたい気持ちがさらに高まり、チームの“作戦会議”が盛り上がる。ある 図 1  トラックの内側と外側の走路の長さの比較

(13)

55 日、C男はリレーチーム内(10人)で走者の順番を決める方法として、速い人が最初と最後で遅 い人を真ん中に挟んで走ってはどうかと提案した。提案通りに進もうとしたところ、D男が何 か言おうとしているE子に気づく。E子はC男の「遅い人は真ん中」という発言に対し、皆頑 張って走っているのに『遅い人』というのは間違っているのではないかと指摘する。最初は何 も言わなかった他児も「ぼくも、そんなこと言われるのいやや」「私もEちゃんの気持ちわか るわ」等、E子の思いに共感する。「私 5 番走ったことないしいい?」「ぼくは 7 番…じゃんけ んしようか!」「じゃんけんは神様が決めること。話し合いで決める方がいいわ!」等と、子 ども達はどんな理由で自分は何番に走りたいのかを皆に説明しながら順番を決めた。最終的に このグループでは、遅い人ではなく「ちょっとドキドキしちゃう人」「もうちょっと頑張った ら速くなる人」を真ん中に挟むという作戦に決まり、結果的にはC男の提案した順番になった。 しかし、この話し合いで大切なことは勝つための順番を決めるだけでなく、相手のことを理解 してよく考えること、友達の小さな声もしっかり聴いて話し合うことだという話し合いの基本 となることで、疑問に思ったことを尋ねたり、自分の思いをしっかりと相手に伝えたりするこ とを学んだことであった。状況を理解して提案したC男、E子の声を拾って伝えようとしたD 男、相手の立場になって考えようとしたE子、皆が納得して決めようとしたチームの仲間、ど の子もがチームとして存在し、生き生き活動している。 【考察】小学校以降の体育授業においても、運動技能の低い子どもと高い子どもがともに学び 合うことは大切である。しかし上記のように「走るのが遅い子」や「ボール運動の下手な子」 という言い方をしてしまうと、子どもの学び合いは成立しにくい。運動の技能等の習熟には時 間が掛かり個人差もある。誰もが最初から「走るのが速い子、ボール運動が上手い子」であっ たわけではない。「走るのが速い子」も以前は「もうちょっと頑張ったら速くなる人」であっ たはずである。その時自分がどうしたから走るのが速くなったのかを思い出し、それを「もう ちょっと頑張ったら速くなる人」に伝えることができれば、速い子の認識も深まる。また「頑 張ったら速くなる人」の気付きも共有できる。このような取組であれば子ども達の学び合いが 成立し、どの子の運動技能も向上する可能性がある(8)。この取組は上記のように「もうちょっ と頑張ったら速くなる人」という子どもの発想を大切にし、その事に耳を傾け保育を進め、ま たそれを記録に留めた、意味のある取組である。  「第 1 章 第 2 」の「10の姿」には「(4) 道徳性・規範意識の芽生え 友達と様々な体験を 重ねる中で、してよいことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに 共感したりし、相手の立場に立って行動するようになる。また、きまりを守る必要性が分かり、 自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったりするよ うになる」「(9) 言葉による伝え合い 先生や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親 しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、 相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる」と示されている。

(14)

56 ここでの話し合いは、「お友達と仲良くしよう」という標語的な言葉だけではなく、子ども達 が「何が嫌で、なぜ、どうしたいのか」、上記(4)の「友達の気持ちに共感したりし、相手の立 場に立って行動する」ということが、(9)の「言葉による伝え合い」により実践されている。 毎日このような場面を意図的に再現できる訳ではないが、子ども達が「10の姿」を獲得しつつ ある場面であろう。 Ⅲ-4-(5) お兄さん、お姉さんを招待しよう  「自分たちの運動会」を意識して活動している 5 歳児は、 1 年生(卒園児)に自分が頑張って いる競技や応援してほしい競技をはがきに描き、運動会に招待することにした。  バルーンの絵を描いているF児は、顔を全部黒く塗った。尋ねてみると上から見ると皆髪の 毛が黒いからだと話す。顔も見えるように描いてはどうかと言ってしまった後、空間認識も成 長発達とともに高まっていくと思うと、余計な声掛けをしてしまったように思った。それぞれ のイメージや表現を受け止め、「描きたい」「描くことが楽しい」と思える表現活動を大切にし たい。 【考察】「第 1 章 第 2 」の「10の姿」には「(10) 豊かな感性と表現 心を動かす出来事など に触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考え たことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、 意欲をもつようになる」と示されている。 5 歳児たちは何とか小学校の 1 年生たちに伝えたい と「感じたことや考えたことを自分で表現」しようとしている。「第 2 章」「表現」領域の「内 写真 3  小学生への招待状(例)

(15)

57 容の取扱い」においては「(2) 幼児の自己表現は素朴な形で行われることが多いので、教師は そのような表現を受容し、幼児自身の表現しようとする意欲を受け止めて、幼児が生活の中で 幼児らしい様々な表現を楽しむことができるようにすること」と示されている。「教師はその ような表現を受容し」とあるが、上記のように「『顔も見えるように描いてはどうか』と、 言ってしまった後、空間認識も成長発達とともに高まっていくと思うと、余計な声掛けをして しまったように思った」とあるが、この先生は「表現」領域の「内容の取扱い」に沿う意識を 持って保育にあたっている。 Ⅲ-5-(1) 「元気っ子ひろば」の取組から  Ⅲ-5では、保護者との関係も含めた取組について述べる。  同園の「元気っ子ひろば」は、年 5 回( 6 月、11月 2 回、 1 月、 2 月)、鉄棒やマット、ボール 等を使って体を動かす遊びに外部講師を招聘し、内 3 回を保護者も参観・参加できるようにし た。親子で運動遊びを楽しみ、体を動かして遊ぶことに関心をもって取り組む姿が見られた。 非日常的な外部講師とのかかわりや楽しい遊びに子ども達の関心も高く、やる気がどんどん引 き出されて楽しむ子どもの様子から、保育者も子どもへの声のかけ方や指導のポイント等を学 ぶことができた。また、保護者は我が子の運動遊びに対する興味や基礎的な運動能力、身のこ なし等について客観的に捉え、子どもの体づくりについて改めて関心を持つ機会になった。  元気っ子ひろばの開催後は、園庭の固定遊具に挑戦する我が子に付き添う保護者の姿が多く 見られ、子どもにとっても身近な友達や保育者、特に保護者が応援してくれることで運動遊び の意欲を高めることに繋がった。 Ⅲ-5-(2) 園だよりや学級通信の取組から  保護者との関係が園経営のパートナー的存在として子どもの成長のために一緒に子育てする 関係性であるか、サポーター的存在として園には協力的であるが園からの発信が主となりがち な関係か、あるいは互いの関係性は薄く単なる施設利用者にとどまるかは園にとっても大きな 違いになる。O幼稚園では、園と家庭がそれぞれの役割を果たすとともに保護者の思いを共感 的に受け止め、教育活動や園運営について自己評価や関係者評価を通して教育活動の改善に努 めてきた。遊びを通して子どもの学びや成長していく姿、保育者のワクワクした気持ちや感動 を保護者に伝えることは保護者との関係づくりにおいて重要であり、保護者の意識の変容に繋 げたい。一見マイナスにとらわれがちな子どもの行為も次に繋がる成長のプロセスとして共に 支えていくことができる。  「園だより」では園の教育方針や教育目標、行事予定等とともに子どもの姿を通して子ども 達の育ちを伝えることを大切にし、「学級通信」では担任の保育観や個性を生かした内容を通 して家庭には直接的に見えない子ども達の園での様子を伝えた。保護者は通信を毎回楽しみに し、保育者は子どもの変容や保護者の反応から前向きに、また意欲的に保育に向き合った。

(16)

58 【考察】Ⅲ-5-(1)と(2)について。「第 1 章 第 6   2 」では、地域や家庭との連携の重要性を 示し、その後に次のように述べている。「(前略)また、家庭との連携に当たっては、保護者と の情報交換の機会を設けたり、保護者と幼児との活動の機会を設けたりなどすることを通じて、 保護者の幼児期の教育に関する理解が深まるよう配慮するものとする」。O幼稚園においては 「園と家庭がそれぞれの役割を果たすとともに保護者の思いを共感的に受け止め、教育活動や 園運営について自己評価や関係者評価を通して教育活動の改善に努めてきた」としている。  保護者との関係を「単なる施設利用者」ではなく「サポーター的存在」からさらに「パート ナー的存在」へと関係を深める努力を行っている。「元気っ子ひろば」というような具体的な 保護者参観の場をつくり、またその情報の交換を行う「通信」を発信している。保護者に参加 を促すことは、時には保護者に負担を課すことになるが「一見マイナスにとらわれがちな子ど もの行為も次に繋がる成長のプロセスとして共に支えていく」という考えをもとに、保護者の 理解も得られていると思われる。 Ⅲ-5-(3) 保護者アンケートから  2017年度の園評価に関わる保護者アンケート結果(表 1 )から運動習慣の基盤づくりに関連す る項目を抽出し、保護者の評価から園の取組についてまとめた。  アンケート項目「②子どもはだんだん体力がついてきている」から、 5 歳児の保護者は子ど もの体力が向上したと捉えており、全体的に園の体力づくりに関する活動に対して保護者は肯 定的に捉えていることが伺える。それは同園の特徴は園庭が広いことから体を存分に動かせる 環境にあること、また体力向上を目指した取組を多く設けていること等からであろうと推察さ れる。子どもの遊びが屋内に偏りやすい傾向にある中で、望ましい生活習慣の確立や体力低下 に繋がる課題が多く存在するが、保護者は日々の子どもの姿を通して基礎体力の向上を実感し ている。2016年度の運動能力調査において、現在の 5 歳児が 4 歳児当時ほとんどの項目で県の 平均値を下回る結果であったが、2017年度には県の平均値に近付くことができ、中には県の平 均値を上回る項目も見られ、子どもの基礎体力が前年度より徐々に向上してきたことが窺えた。  また、アンケート項目「①子どもは幼稚園に行くのを楽しみにしている」についても全体的 に肯定的な回答であり、運動遊びや園の教育活動に対する保護者の理解や協力的な姿勢が子ど もの自信や意欲、充実した園生活に繋がって行ったと考えられる。

(17)

59

【考察】「第 2 章」「健康」領域の「ねらい」の(3)には「健康、安全な生活に必要な習慣や態 度を身に付け、見通しをもって行動する」と示されている。 5 歳児においては「子どもはだん だん体力がついてきている」の質問に対し「よくあてはまる」が93%と高い数字を示している。

(18)

60 このように幼稚園卒園時に「体力がついてきている」ことも大切であるが、「健康」領域のね らいの(3)にあるように「習慣や態度を身に付ける」ことが、就学後の子ども達には重要なこ ととなる。『運動指針』には「幼児期によく体を動かして遊ぶ経験をした子どもは、その後も 活動的な傾向にある」(9)と示されている。卒園後この子ども達が、この時期の習慣を継続でき ているかどうかを見守ることも今後の課題である。  「第 2 章」「人間関係」領域の「ねらい」の(2)には「身近な人と親しみ、関わりを深め、工 夫したり、協力したりして一緒に活動する楽しさを味わい、愛情や信頼感をもつ」と示されて いる。 5 歳児の保護者の自由記述には「同じ友達と遊んでいることが多かったが、最近ではい ろいろな友達の名前を聞くことが増えた」「友達とのやり取りで相手を思いやる言葉や行動が 増えた」とある。これらの自由記述からは、特に「ねらい(2)」の様々な 2 年間のO幼稚園で の活動を通して得られた「身近な人と親しみ、関わりを深め」た様子や「工夫したり、協力し たりして一緒に活動する楽しさを味わい、愛情や信頼感をもつ」様子が窺え、子ども達はこの 「幼稚園教育において育みたい資質・能力」を獲得しつつあるように思われる。 Ⅲ-6  1 年の振り返り  都市化が進み、戸外でのびのびと遊べる場が減少していく地域のO幼稚園における 1 年間の 取組から、保育内容や保育環境の在り方について以下のことが言える。  ①子どもの実態を把握し、発育や興味関心に合わせて計画的・継続的に運動遊びを進めてい くことが大切であるが、遊びの動機づけや環境構成の工夫によって主体的な遊びに繋いでいく ことができた。  ②身体を動かして遊ぶ時間の確保、楽しんで運動遊びのできる環境、一緒に遊べる仲間の存 在が子どもの心と体づくりには大切であり、体力や運動能力の発達とともに社会性や創造性を 育むことができた。  ③運動遊びをきっかけとして、子どものめあてや目的意識と保育者のねらいや教育的意図が 重なり合い、健康領域のみならず幼児の発達の側面となる各領域にわたって遊びが展開して いった。  ④遊びを通して色々なことに疑問を持ったり発見したり、試行錯誤したりしながら子ども自 らが対象と関わる姿から、たくましさややさしさの育ちが見られる。また、子どもが「おもし ろそう、やってみたい」と思える保育者の働きかけを大切に、異年齢の関わりや「できた、楽 しい」のスモールステップによる成功体験は、一人一人の満足感や充実感となって子どもの有 能感を高めていった。  ⑤園教育の充実を図るためには、子どもの姿を保護者と共有し、園と家庭がよりよい関係性 を築くことが重要である。保護者の保育参加や参観、園だより等の情報発信や保育の可視化を 通して幼稚園教育の理解を深め、信頼に基づいた協力関係によって質の高い保育を実践してい くことが大切である。

(19)

61 【考察】Ⅲ-6の考察も含めて、次の「Ⅳ おわりに(まとめ)」において、まとめを示す。

Ⅳ おわりに(まとめ)

 ここでは「Ⅰ はじめに」で示した、 3 つの研究の目的について確認しまとめを示す。  「研究目的 1 」は、今回研究の対象としたO幼稚園の 1 年間の取組が『教育要領』に沿うも のであるのかどうか考察することであった。先のⅢ -6の「一年の振り返り」の 5 項目に「タイ トル」を付けると、①発達に合わせた主体的な遊びを促す環境構成、②運動遊びの環境構成と 社会性、創造性の育成、③運動遊びを軸にねらいの明確化、④子どもの興味関心を高める成功 体験、⑤保護者の保育参加、といようにまとめることができる。まとめるとこの 5 項目となる が、これらは 1 年間のO幼稚園の取組を通して得られた貴重な成果である。  『教育要領』の前文では「一人一人の幼児が、将来、自分のよさや可能性を認識するととも に、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変 化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにす るための基礎を培うことが求められる。このために必要な教育の在り方を具体化するのが、各 幼稚園において教育の内容等を組織的かつ計画的に組み立てた教育課程である」としている。 本研究において考察の対象としたO幼稚園の 1 年間の取組は、ここまで示したように、上記の 5 項目も含め、基本的にこの前文にある『教育要領』の趣旨・内容に沿うものであると考えら れる。  「研究目的 2 」は、今回研究対象としたO幼稚園の 1 年間の取組が『教育要領』の趣旨・内 容に沿わない部分はないのかを考察することであった。『教育要領』「第 2 章 ねらい及び内 容」の冒頭には「各領域に示すねらいは、幼稚園における生活の全体を通じ、幼児が様々な体 験を積み重ねる中で相互に関連をもちながら次第に達成に向かうものであること、内容は、幼 児が環境に関わって展開する具体的な活動を通して総合的に指導されるものであることに留意 しなければならない(下線は筆者)」とされている。ここに述べられている「ねらい→内容→活 動」は、この矢印の順により具体性のあるものとなる。先に述べたように、O幼稚園の取組は 『教育要領』に沿い展開されている。しかし「子どもの主体的な遊びを支えるために保育者の 総合的指導が必要なことはわかるにしても、それを実践することはそれほど容易なことではな い」(10)とも言われている。先述のように、O幼稚園の取組は基本的には『教育要領』に沿うも のであり、成果を示していると考えるが、様々な条件・環境(保育者の労働の条件も含め)が整わ なければ『教育要領』に沿うように保育を展開することが難しい場合もあると考える。  「研究目的 3 」は、今回研究の対象としたO幼稚園の 1 年間の取組が『運動指針』に沿うも のであるのかを考察することであった。O幼稚園の 1 年間の運動に関わる取組は、幼児の実態 をしっかり把握し、保護者の協力も得ながら、『運動指針』に沿う以上の取組を行ってきたと 考える。

(20)

62 謝辞  今回改めて古い資料の収集にご協力頂いたK市職員の皆様に、また本研究の実践にO幼稚園において共 に取り組み報告をまとめた皆様に、深く感謝致します。 引用・参考文献 ( 1 ) スポーツ庁『平成30年度体力・運動能力調査の結果について』2019年(報道発表資料)p.2 ( 2 ) 文部科学省『幼児期運動指針』2012年(サンライフ企画) ( 3 ) 前掲書( 2 )p.18 ( 4 ) 前掲書( 2 )p.7 ( 5 ) 中森史郎『体育ぎらいの子』1983年(岩波書店)p.15 ( 6 ) 汐見稔幸,無藤隆監著『〈平成30年施行〉保育所保育指針 幼稚園教育要領 幼保連携型認定こど も園教育・保育要領 解説とポイント』2018年(ミネルヴァ書房)p.363 ( 7 ) 学校体育研究同志会大阪支部編『幼児の運動文化論』1990年(あいわ出版)p.42 ( 8 ) 出原泰明『体育の学習集団論』1986年(明治図書)pp.132-139 ( 9 ) 前掲書( 2 )の p.22 (10) 塩美佐枝編,児島雅典他著『保育内容総論(第 4 版)』2019年(同文書院)p.23

参照

関連したドキュメント

概要・目標 地域社会の発展や安全・安心の向上に取り組み、地域活性化 を目的としたプログラムの実施や緑化を推進していきます

 プログラムの内容としては、①各センターからの報 告・組織のあり方 ②被害者支援の原点を考える ③事例 を通して ④最近の法律等 ⑤関係機関との連携

都は、大気汚染防止法第23条及び都民の健康と安全を確保する環境に関する条例

都は、大気汚染防止法第23条及び都民の健康と安全を確保する環境に関する条例

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

なお、保育所についてはもう一つの視点として、横軸を「園児一人あたりの芝生

※優良緑地として登録を 希望する場合は、第 6 条各 号の中から2つ以上の要 件について取組内容を記

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2