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離散的宇宙線データ列の局所カオス解析

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(1)

離散的宇宙線データ列の局所カオス解析

大原荘司,浦田健二,小西健陽

A

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第 1 章はじめに 第 2 章離散データのカオス解析 第 3 章宇宙線のカオス解析結果と考察 第 4 章おわりに

第 1 章はじめに

地球外からくる放射線,宇宙線 (Cosmic Ray) の存在が 1920年代半ばにほぼ確かめられて 以来 80年近い年月が経過しているが,未だ宇宙線の発生源や加速機構などについて確定的な知 見が得られているわけではなし、。その大きな原因は,われわれの銀河の磁場がマイクロガウス 程度の徴弱な大きさでありながらこれによって曲げられる宇宙線 (1 015 eV の陽子中心〉のラー マ一半径 (1 018cm) よりもはるかにおおきな銀河半径 (1 022 cm) を持っているために,多く の宇宙線が長年月銀河内をさまよってから地球に到来するためと考えられる。しかしながら超 新星の爆発などによる宇宙線の発生が明らかになるにつれて,宇宙自体の生い立ちゃ現状を研 究する有力な手段として宇宙線の研究は極めて重要である。宇宙線そのものの観測としては, 気球,人工衛星などによる直接観測と宇宙線と大気の原子核との核反応の結果発生する電磁カ スケードである空気シャワーを地上の検知器で検出する方法あるいは,地中や深い水中で高エ

(

1)

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Longair

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(2)

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羽諸国

ωass-同 230h

白唱

-SEo お gz 8gaυο 百 g 目。ロZ @ M M M W M w m a w U ω 羽 ω

同凶何回同記ぢ@【同

1 次高エネルギー宇宙撮と大気原子核との核反応による空気シャワ一発生の様子。 図 1 ネルギーのミューオンやニュートリノを観測する方法がとられている。 このうち空気シャワーによる観測を近畿大学及び奈良産業大学に設置された観 われわれは, 1 次宇宙線 (98% が陽子)と空気の 誤,Ij装置で続けている。空気シャワーは図 1 に示すように, 原子核との核反応に始まる電磁カスケードであるが最終的に地上のシンチレーションカウンタ ーで観測されるのは約 lGeV のエネルギーの電子乃至陽電子である。複数のカウンターが等 同時観測 (60 ナノ秒以内のコインシデンス〉される場合 入射方向や 1 次宇宙線の換算エネルギーがコン 間隔に距離を離して設置されており, その観測時刻 (GP S による世界時), のみ, ビュータに記録される。 さてこのように観測される単位時間当たりの宇宙線の個数はポアソン分布によくフィットし, また到来時間間隔は平均 200,..__300秒で、の指数分布を示すことが確かめられている。またクラス ター解析により,宇宙線が短時間にまとまって到来したと判断できる事象が幾っか存在するこ

-

52 一

(3)

とも確認されている。本報告ではこのような過去の知見に基づきながらわれわれが新たに宇宙

線について導入適用したカオス解析の方法と結果について述べる。

宇宙線の到来時間間隔の時間並びは従来指数乱数と考えられ,コンビュータによる乱数の生

成が困難な時代には,乱数のそテ、ルとして用いられたほどである。われわれは近年,ポアンカ

レの啓蒙的考えを受け継ぎながらローレンツらによって自然界の非線形不規則現象の解釈法と

して導入されたカオスの考え方あるいは,マンデ‘ルブロらによって導入された自然界の自己相

似構造の解釈としてのフラクタルの考え方を宇宙線のこの 1 次元データ列に適用し,その不規

則性に局所的構造の有無を見出すことによって,宇宙線の分類の可能性とひいては宇宙線発生

のダイナミックスを探ろうとするものである。 カオス現象すなわち決定論的方程式で表現されながら時系列的に発生する値は初期値に鋭 敏に依存し,その結果として変動の長期的予測は全くつかないという性質を持った現象につい ては,特に種々の数学モデルを用いて盛んに議論されている。しかし実測された時系列データ のカオス解析に際してのノイズの影響や適正解析条件などについては,それほど研究されてい ないし解析結果の物理的解釈についてはなおさらである。本論は宇宙線データを例として時系 列的物理量の局所的変動を研究する手法としてのカオス解析の適正条件の研究にも主眼をおい ている。以下にその詳細を述べる。

第 2 章離散データのカオス解析

前術のように,われわれの当面対象とする宇宙線到来時間間隔データ列は離散的である。宇 宙線発生のダイナミックスが連続的なものであったとしても,地球に到来しわれわれの測定条 件に合致するもののみをデータとして観測するわけであるから,本質的に離散的といえるので ある。これまでに 40万イベントの宇宙線の観測データを我々のグルーフ。で、持っている。図 2 に 1994年 2 月 7 日に観測された 300 イベントのデータ列を示す。縦軸は宇宙線到来時間間隔で

X(i)=t

i+ 1 -

t

i

(1)

で表される。横軸は観測とともに時間の進む方向である。 300 イベントは約20時間の観測に対 応してしる。通常の時系列データの取り方に従えば,縦軸は単位時間 L1t 内に観測される宇宙 線の個数が来ることになるが,これでは個々の到来時間の情報が失われるし,また L1t をよほ ど大きくとらない限り 2 桁以上の有効数字が得られないという難点がありカオス特性の解析に そぐわない。 さてこのような離散的データのカオス解析法が必ずしも確立している訳ではない現状を踏ま えて,われわれは sin 波などの連続関数データの場合との比較などを含めて,標準写像など離

散的データの数学モデ、ルに対して, Gra

as路sb叫e訂r一Proc伺

ωac∞Cω のフラクタ釦

μ/ルレ次元を求める方芸〉

(2)

辻勝文,小西健陽,北村崇,千川道幸,近畿大学理工学部研究報告, 28号57

(

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J

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-

54 ー 図 2

(5)

6

4

2

問。川匂ロむ宮川口

03.0

4.0

5.0

1

n (r)

6.0

図 3 2 次元トーラスを直接 4 次元位相空聞に形成した場合のフラクタル次元解析結果。 と Wolf の最大リアプノフ指数を求める方法などの精度や限界について計算機実験を行った。 フラクタル次元を求める場合,まず 1 次元データ列を次式に準じて m 次元位相空間のベク トル点として再構成する手続きをとる。

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31

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(2)

ここで, -rは元の 1 次元データからすステップずっとばしてデータをピックアップし m 次元 位相空間のベクトル点の各成分値に割り当てることを意味しており,通常時系列データの場合 には遅れ時間 (Delay Time) と呼ばれる。さてこのようにして埋め込まれたベクトル点の集 まり(アトラクター〉が元の 1 次元データ列を生ぜしめた元の動力学系を幾何学的にうまく再 構成しその複雑性を再現しているかどうかが解析のポイントである。次にベクトル点聞の距離 をすべて計算して距離 f 以内のベクトル点のベア数の積算値 Cm を求めその対数を f の対数 で微分する。即ちフラクタル次元 D視は式 (3) で求められる。 n.

d

l

o

g

Cmくr) 一一 日視一

dlogr

(3)

Dm がある r の区間で非整数の一定値を持ち, C

m

が r の Dm (一定値)乗に比例して増加 する場合 (CmCげ'Dm) にはアトラクターはフラクタル構造(自己相似構造〉を持つこととなり, 元の 1 次元データ列はカオス性を持つと判断される。 この方法で得られる次元値の精度を確認するために, 2 次元トーラスを直接 4 次元位相空間 に生成し , D閣を求めると図 3 のようになり r の小さな領域即ち局所面で 2 に収束し,この方法 の妥当性を証明している。ここで f の大きなところに現れる Dm のピークはトーラスのマクロ

(4) C

.

L

.

Wolf

,

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.

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ー-4

向。、句同む旬、

Q

.0

レスラーアトラクターのフラグタル次元解析結果。 (N=3000,

m=5

,T'

=5)

図の上部はディレイプロットでレスラーアトラクターがよく再構成されている。

(r)

O

ln

図 4

構造を反映している。 Dm カーブの揺らぎは,最大エントロピ一法によるスムージングの跡であ

これを最大にまた最初の Cm 値

る。

(C

m

をエントロビーを求める際の確率分布になぞらえて,

との差を最小にするように

C

m

をスムージングしながらその差分値のDm を求めていった跡で、あ

る。)また r の小さな領域での D視の大きな変動はベア数が小さいことによる統計変動である。

以上のように精度の確認されたフラクタル次元解析法をカオスアトラクターを持つ数学モデ

ルに適用し,特にノイズの影響などについて計算機実験を行った。図 4 は有名なレスラーモデ

ルの本質的に連続な 1 次元成分3000点のデータについての解析結果である。図 4 上部のディレ

に埋め込むことによ

イプロットで明らかなように 1 次元成分を 5 次元位相空間 (m=5 ,

r=5)

もとのアトラクター構造がうまく再構成されていることがわかる。図 4 のように D視は

って, 元の 1 次元データに平均の値で 5% を越える指数乱数 1. 9次元付近に明瞭な一定値を持つが,

を全データに加えるとたちまち Dm のフラットネスは消え去りカオス性を失うこととなる。図

5 は 5% のノイズをレスラーモデルに加えた結果である。埋め込み次元 m は 11次元, r は 5

-

56 一

(7)

2.0

4.0

1

n (r)

図 5 レスラーアトラクターに指数乱数を 5%加えた場合の解析結果。

CN=3000

,

m=ll , τ=5)

c

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4

4

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8

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20

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m

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D

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n

図 6 レスラーアトラクターにノイズを加えた場合の埋め込み次元依存性。 にとっている。 図 6 は,上記レスラーモデルの場合のフラクタル次元値の埋め込み次元依存性をみたもので ある。 5% 以内のノイズの混入に対しては大きな次元の変動はみられない。 レスラーモデ‘ルと同じように本質的に連続関数であるがカオスとは異なり周期成分の数に対

(8)

-57-6

4

2

。 HM 町民 ωRNQ 。

1

n (r)

図 7 sin 合成関数 (sin(t) +sin(v'2t)) の相関次元解析結果。

(N=2000

,

m=5

,

,,

=3)

応する解析上の相関次元値の得られる例として, sin の合成関数についても同様の計算機実験 を行った。図 7 は,

(

s

i

n

(

t

)

+sin(

v

'

2

t

)

)

(N=2000) についての解析結果である。周期成分を 変えて,

(

s

i

n

(

t

)

+

sin(";玄t) +sin(ゾすt) +sin(";τt)) の 4 次元まで、同様の解析を行ったが,特 に次元が高くなるほど 1 周期に含まれるデータ点数の取り方に対する相関次元値の依存性が大 きい。いずれの次元でもほぼ妥当な相関次元を与えるデータ点数(1 5点/周期)を採用したの が図 7 である。埋め込み次元 m はこの場合 5 次元で, !'は 3 である。しかしどのようにこの 条件を変えても周期 2 成分では図のように, 2 よりやや大きめの相関次元を与えることとなる。 T や全体のデータ点数による依存性はみられず今のところこの理由は不明である。 T の値は, 連続関数データでは 3 から m, 次に述べる離散データの場合には 1 が Dm のフラットネスを得 るための適正値である。連続関数では T を大きくとらないとアトラクターが位相空間中に十分 広がらず,次元構造が再構成されにくい。

(5)

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1.

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5

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15

20

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図 8 sin 合成関数 (sin(t)

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n

(

-/玄t)) の相関次元の埋め込み次元依存性。 句。

.

.

.

.

.

.

句門同む RH .~司

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5.0

1

n (r)

図 9 標準写像(1 5% の指数乱数ノイズを含む〉のフラクタル次元解析結果。

4.0

6.0

CN=2000

,

m=9, τ=1) 2 次元 sin 波についての埋め込み次元依存性を図 8 に示す。 sin 波の場合も 5% を越えるノ イズの混入に対しては,すべての埋め込み次元でフラットな Dm を与えることは困難である。 ノイズの割合が増えるにつれて,相関次元値はやや増加するが埋め込み次元依存性はほとんど

-

59 ー

(10)

8

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;

;

ロ NoiselO.1

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-

4・

+

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。 。 。 。 。 。 。 。 。

20

Embedded Dimension

図 10 ノイズを含む標準写像の埋め込み次元依存性。 みられない。 次に,本質的に不連続なデータ列を与えるカオスアトラクターモデ、ルについても同様の実験 を行った。代表例の標準写像は,式 (4) の非線形 2 次元方程式で与えられる。 Xn + 1 =X.π +

Y

n

+

l

Yn

+

1

=Y

n

+Kx

sヘn

Xn

(4)

標準写像は振動電場中の荷電粒子のカオティックな運動の数学モデ、ルで、ある。ここでは,電場 の強さを表す K の大きさを 3 にとって得られる Xη の 1 次元データ列について,指数乱数を 加えながら先と同様の解析を行った。 データ点数2000,指数乱数の割合 15% ,埋め込み次元 9 次元 (r- =1) の解析結果を図 9 に示す。 15% という大きなノイズの混入でありながら Dm は明瞭なフラットネスを示している。図 10 に幾つかのノイズの割合に対する標準写像のフラクタル次元の埋め込み次元依存性を示す。 ノイズの割合が 5% の場合には,一旦フラットになる傾向を示しながら高い埋め込み次元に なるにつれ徐々にフラクタル次元は上昇する。ノイズの割合の増加とともに得られるフラクタ ル次元値は大きくなる。 20% 以上のノイズの混入に対しでも特に高い埋め込み次元では適正に 埋め込まれて Dm は明瞭なフラットネスを示す。 L 、ずれの場合もフラクタル次元値は埋め込み 次元値の半分以下であり十分うまく埋め込まれて再構成された結果で、ありノイズの影響はカオ ス性を破壊するほどではないと考えられる。 同じく離散的なエノンマップやロジスティックマップの場合も傾きはやや異なるがほぼ同様

-

60 ー

(11)

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5

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図 11 Dm フラットネスの領域幅の全アトラクターサイズに対する相 対的割合のデータ点数による変化。 。 .~吋

1

n (r)

図 12 標準写像(15% の指数乱数ノイズを含む〉のフラクタノレ次元解析結果。

(N=3000

,

m=9

,

'Z'

=I)

の結果となる。総じて連続関数の場合より離散的アトラクターの場合の方がノイズの混入に対 して強固にカオス性が保持されるものと考えられる。 フラグタノレ次元の決定精度は Dm のフラットネスの領域幅に依存する事になるが,これは一 一 61 ー

(12)

応データ点数によることが予想される。標準写像,エノンマップ, sin 波についてのデータ点 数と log スケールで、得た Dm のフラットネスの幅の全アトラクターサイズに対する割合との関 係を図 11 に示す。 3000点以上ではフラットネスの幅は変わらず, 500点以下でも解析可能なフ ラットネスが得られることを示している。 Eckmann-Ruelle の基準によるとデータ点数につ いて式 (5) の要請がある。

210g

N>d

l

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g

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D

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(5)

ここで d はフラクタル次元を表わし D は全体のアトラクターサイズ,川主フラットネスの開始

点を表す。図 12にデータ点数300でノイズ 15% の場合の標準写像の解析結果を示すが ,

D/r<23

であり式 (5) から d が 4 次元以下なら , N>26 となり 300点は十分なデータ点数となる。標準 ,写像等離散的データの場合にはノイズの混入に対してここでの r の値の上昇は僅かであり,一 方連続関数の場合には r のノイズ依存性が大きく僅かなノイズで Dm のフラットネスが消える 結果となる。 以上の結果から,宇宙線到来時間間隔データ列のフラクタル次元解析に関しでも,データ点 数として 300 点以下でも十分であり従って 20時間程度毎の到来宇宙線の特性の違いを議論する ことが可能であると判断される。 さて, 1 次元データ列のカオス性の検証としてリアプノフ指数を求める方法がある。これは 位相空間内での軌道聞の距離の局所的発展率の平均の収束値を求めるもので,一般に最大の発 展率(最大リアプノフ指数)はカオスの場合には正の値をとるものとされている。 離散的データでしかもデータ点数が小さい場合には位相空間内での軌道の形成が困難であろ うと推定されるので,埋め込み次元は 5 次元にとり図 13に示すように Wolf の方法に沿って, 基準軌道上の 1 ステップ毎に(図では 1=1 として)発展率を求めその都度最隣接軌道を乗り換 えて計算を続ける方法を採用した。乗り換えに際しては,図中の角度。として π/6 以内に存

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図 13 最大リアプノフ数を求める計算方式。 1=1 にとり発展率を 求めてすぐ最隣接軌道を乗り換える。

(

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.

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n

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6 2

(13)

-0.8 λ1 0.6 0.4 0.6 λ1 0.4 0.2 。

Henon:Conv.

(m,T凡6)=σ, 1, 1""6) 200

s

t

e

p

s

3∞

E

x

p

.

noise(RE町 (m,T,凡6)=σ,1,1""6) dala: ト3∞ 1∞ 2∞ steps 3∞ 図 14 エノンマップ(上〉と指数乱数(下〉のステップ毎の平 均最大リアプノフ指数の収束の様子。いずれもデータ点 数は 300 であるが十分な収束が見られる。 在する最隣接軌道上の点を選ぶこととした。最大リアプノフ指数は式 (6) によって求められる。

1

W,

l

,

_

_

_

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l

)

ん=-i7-:E log-;一一

N

(6)

~1 - - 0

L

k

(

O

)

図 14にエノンマップと指数乱数各 300データについての解析結果を示す。図のように 300点の 少数データでもはっきりした収束が得られ最大リアプノフ指数を求めることが可能なことを示 している。さらにその収束値は正の値を持ち,人工的指数乱数の収束値との間に有意な差が見 られる。指数乱数でも正の最大リアプノフ指数を持つことはデータ点数が少ないことや乱数自 体が人工的,決定論的に作成されたものであり完全な乱数とはいえない,等の理由が考えられ る。ただし 300点程度のデータ数で完全な乱数が存在するかどうかは議論の余地がある。

第 3 章宇宙線のカオス解析結果と考察

前章でその有効性が確認されたフラクタル次元を求める方法と最大リアプノフ指数を求める

(7) S

.

Ohara

,

T. Kitamura

,

M. Chikawa

,

K. Tsuji

,

T. Konishi

,

1

.

Masaki and W. Unno

,

S

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c

e

and Technology

,

No. 7

,

7

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(14)

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.

h司 川町内同む門司 ' .. 司

Q

6.0

1

n (r)

図 15 宇宙線到来時間間隔データ列(約40万イベントを300 イベントずつサンプリングし た内の 1 例〉の解析結果。 99% の 300 イベントがこのようにランダム性を示す。

(N=3000

,

m=9

,

.=1)

方法を宇宙線空気シャワーの到来時間間隔データ列について適用し怨 150 イベントずつずら

しながら, 300 イベントのデータ列について前章の通りのフラクタル次元解析を行った。その 結果約99% の区間で図 15に示したようなランダムなデータ列であることを示すダイアグラムが 得られた。 Dm にフラットネスは見られず傾きの外挿接点は埋め込み次元の 9 次元にほぼ一致 する。これはランダムデータ列の特徴である。 しかし残りの約 1% の区間で図 16に示すように Dm のカーブに明瞭なフラットネスが得られ た。ただし Dm のフラットネスのレベルが埋め込み次元の半分以上となる場合にはノイズ性が 高いものとして対象から除外した。これらがカオスとノイズの臨界のデータ列といえるかもし れない。図 16はそれぞれ 1991年 9 月 19 日と 1994年 2 月 7 日の 300 イベントのデータである。こ のように明瞭な Dm のフラットネスは, 2000回作成し解析した人工指数乱数で、は得られず,単 純な偶然によるものでないことは明らかである。 低次元のフラクタル次元の得られる 300点の宇宙線到来時間間隔データについて,指数分布 から有意に外れていないことを Smirnov-Cramer-

V

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Mises のテストによって確認した。

(8) S

.

Ohara

,

T. Kitamura

,

M. Chikawa

,

W. Unno

,

K. Tsuji

,

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1.

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(9) T. Kitamura

,

S

.

Ohara

,

T. Konishi

,

K. Tsuji

,

M. Chikawa

,

W. Unno

,

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.

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and K. Urata

,

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S

.

Ohara

,

K. Urata

,

1.

Masaki

,

T. Konishi

,

W. Unno

,

T. Kitamura

,

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(15)

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句問。問、 Q 。

1

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c

:

:

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0

.

.

.

.

4

2

句ロ ω 旬、 q

0

5.0

6.0

1

n (r) 図 16 カオス性を示す宇宙線到来時間間隔データ列の解析結果。 1991年 9 月 19 日 〈上) 1994年2月 7 日〈下)

(N=3000

,

m=9

,

,,

=1)

さらに同じデータ列について値はそのままで順序をランダムに振るあるいは, 256点について フーリエ変換後の位相成分のみをランダム化してから逆変換したデータ (surrogate data) に ついて同じ解析をすると図 17に示すように図 15のランダムな場合と同じダイアグラムとなりフ ラットネスが消滅する。このことは元の宇宙線データがカラードノイズでもないことを示して いる。 パワースベクトルが 1/13 に比例するように人工的に作成したカラードノイズでは,上記の

surrogate

data を作って解析しでも Dm のフラットネスが消滅しないことを確認している。 ただしいわゆる戸ノイズの α 値とフラクタル次元値との相関関数については今後さらに検討 が必要であると考える。 さて宇宙線データが局所的に純粋のノイズではない場合があることが明らかとなったが埋め

(

1

1

)

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,

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1

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.

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.

.

.

.

.

Q

2

6.0

1

n (r)

図 17 1994年 2 月 7 日データの surrogate data テスト結果。 (N=300,

m=9

,

'Z'

=1)

D", カーブはランダムな場合と同様となる。

8

• 1

9

9

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1

1

/

1

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, •

.・

2

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0

0

2

0

Embedded Dimension

図 18 カオス性を示す宇宙鰻到来時間間隔データ列の埋め込み次元依存性。

込み次元依存性を確かめると図 18に示すように,特に高次元で顕著な依存性を示し少なくとも

典型的カオスとはいいにくい結果である。しかしフラクタル次元値は埋め込み次元の半分以下

でありまた例えば 1991年 9 月 19 日のデータ (300点)の場合には埋め込み次元 10次元付近で一定

(17)

-66-8

EO

ωEOE

OEOZMW

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••

••

••

.

,

--

20

Embedded Dimension

図 19 埋め込み次元依存性のノイズ付加による変化。 になる傾向を示すなど,図 10に示した標準写像の場合の 5% ノイズのデータと類似の振る舞い を示すことから,この埋め込み次元依存性は主としてノイズの混入によるものと推測される。 現に 9 月 19 日のデータに 30% の指数乱数を加えると図 19に示すように 10次元付近のプラトーが 消滅する。 この依存性は,標準写像その他の数学モデルの離散的データの場合ほど大きくはないが,ノ イズに対する許容性は同様に大きく基本的に連続関数のデータとは異なる性格を持っている。 このことはフーリェ解析結果でも明らかで,図 20に示すようにパワースベクトルは基本的に周 期性は示さず連続分布に僅かに準周期ピークが重なった不整合カオスの性格を持つものと考え られる。 ノイズを含むことによって埋め込み次元依存性を示すようになってもカオス性を失わないこ との証明として前章で述べた最大リアプノフ指数を宇宙線データについて求めた。図 21 は 1991 年 9 月 19 日のフラクタル次元の得られる 300 イベントと,フラクタル次元解析上ランダムと判 断できる 300 イベントの最大リアプノフ指数の収束値を比較したものである。前章のカオスモ デルの離散的データの場合と同じく有意な差が見られた。さらに 1991年 9 月 19 日付近のデータ については図 22 に示すようにフラクタル次元が系統的に変化する傾向が見られる。この場合の 埋め込み次元値は 9 次元であり,得られるフラクタル次元値はノイズの混入の影響をほとんど 受けないことを確かめている。従ってこの次元の系統的変化はノイズの割合の変化によるもの

(

1

2

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(18)

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'

a

ve NUlIber 図20 カオス性を示す宇宙諒到来時間間隔データ列 (1994年 2 月 7 日, 256 イベント〉の フーリェ解析パワースベクトル。リニアスケール〈上), log スケール〈下〉 。 Ran必mdata

0

.

6

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0

.

4

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.

2

100

200

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300

図21 カオス性を示す宇宙線到来時間間隔データ列 (1994年 2 月 7 日, 300 イベント〉 とランダム性を示すデータ列の最大リアプノフ指数の収束の様子の比較。

6 8

(19)

-0.35 0.3 0.25 a 斗 qu 円'』 4E CO 一ωcoE 一 QCOPMW3と 00 2∞ 4∞ steps 。

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400

600

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図22 フラクタノレ次元値の系統的変化的にコンシステントに変化 する最大リアプノフ指数ω。 ではなくフラクタル次元そのものが相対的に変化しているためと判断できる。そしてこの系統 的変化にコンシステントに対応して最大リアプノフ指数が変化する。このような系統的な変化 は偶然には起こり得ないと考えられる。 次に前述の宇宙線データ中のノイズはどのような形態で混入しているか検討してみたい。 1994年 2 月 7 日の 300 イベントについて時間間隔の 400 秒までをランダムと交換しでも図 23 に 示すように Dm のフラットネスは消滅しない。このことから全体のカオスを決定しているのは 到来時間間隔の大きな揺らぎであって小さな変動ではないことが分かる。 また,同じデータについて始めから 30データずつ個別に平均値を変えないで指数乱数と交換 することを 20回ずつ繰り返しその都度 Dm のフラットネスの現れる頻度を求めてプロットする と図 24の結果となり 2 つの下向きのピーグが見出された。これらのピーク付近のデータを同数 のランダム列に変換すると全データの Dm のフラットネスを消滅させ易くなり,逆にいえばこ の付近のデータがそれ以外のデータよりも有効に全体のカオス性を決定づけていることが分か る。ただしこのピークの部分の 100----150 データのみを解析しでも得られるフラクタル次元値に 全体のフラクタル次元値との大きな違いはなく, 1991年 9 月 19 日のようなフラクタル次元値の

-

69 ー

(20)

系統的変化とは今のところ異なる現象と考えられる。

1

問。、句ロむ旬、

Q

(r)

カオス性を示す宇宙線到来時間間隔データ列(1994年 2 月 7 日〉の時間 間隔 400 秒以下のデータを平均値の閉じ指数乱数に変換した新たなデー タ列のフラクタル次元解析結果。 (N=300,

m=9

,

,,

=1)

ln

図23

-•

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-

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20

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カオス性を示す宇宙線到来時間間隔データ列(1994年 2 月 7 日〉の部分的 30データを指数乱数に変換した場合 (20回の繰り返し〉のフラットな Dm の出現率の変化。 2 つのピークはそれぞれ異なる赤経方向に対応する。 -70 一

Event

図 24

(21)

第 4 章おわりに

標準写像のような本質的に離散的なデータとレスラーモデルのような本質的に連続的なデー タとのカオス性の違いが系統的な解析の結果明らかとなった。特にノイズに対する堅牢性では 離散的データが優れており,これは離散的カオス時系列の特性であると考えられる。 またこのことから本質的に離散的である宇宙線データについても地球への到来過程で、当然予 想されるノイズの混入に対してその堅牢性故にカオス性を保持できる場合があり,それが局所 的カオスとして観測されたと解釈できる。宇宙線の観測は地球の自転に伴って天球上を走査す るもので図 24の 2 つのピークは特定の赤経に対応しており,

2

0

h および 5h 付近はわれわれの 銀河の方向である。これから推察できることは,ある方向からの一連の宇宙線が主として全体 のカオス性を担っており,他の方向からの宇宙線が主としてノイズに寄与していると考えられ る。 即ち発生源をほぼ同じくする複数の宇宙線が発生過程あるいは加速過程を通じて空間系列的 にカオスとなり,その後多少の揺動を受けながらもほぼカオス系列を保ちながら地球に到来し たものと考えられる。従って,カオス宇宙線の発生源は太陽系とさほど遠くではないのではな いかと推察される。またカオス宇宙線が到来以前に空間的カオス構造を備えていると考えると, 例えば大阪の近畿大学と奈良の奈良産業大学のように 10km 以上離れた地点での観測データ についてほぼ同時期にカオスデータ列が観測される可能性もあり,そのようなデータが積みね られれば新たな宇宙線像の構築が期待される。 宇宙線到来時間間隔のデータ列を例として本論で確かめられた離散的データに対するカオス 解析の方法は環境計測データなど他の不規則で離散的な観測データにも適用可能でありカオス 解析によるカオスデータ列の同定と他の観測物理量との聞に何らかの相関が得られれば,カオ ス発生のダイナミックスもさらに明瞭になるものと思われる。 謝辞 カオス解析および宇宙線データの扱いについて,種々のご指導を戴いた近畿大学理工学総合研 究所の海野和三郎先生と北村 崇先生並びに近畿大学宇宙線観測グループの諸先生に謝意を表 します。 -71 ー

図 7 sin 合成関数 (sin(t) +sin(v'2t)) の相関次元解析結果。

参照

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