1. 調査実施の背景
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染 拡大による社会情勢の変化のなかで,本学学生の多 くが大きな不安・心配を抱えていることが考えられ る.たとえば,本学学生自治体が実施した「新型コ ロナウィルス(COVID-19)に対する学生の不安・ 要望調査」によれば,遠隔講義に関する不安のみな らず,少なくない学生が「実習・インターンシッ プ」「学内生活」「学外生活」などの健康・生活面に おいて大きな不安を抱えていることが明らかにされ ている(日本福祉大学美浜キャンパス学生自治会, 2020). 本学では遠隔講義・授業の体制整備が進められて いるが,新型コロナウィルス感染症感染拡大による 多様な不安・心配が渦巻くなかで,学生の学習到達 を促し,様々な教育保障を行うためには,学生が抱 える健康・生活面の不安やニーズを十分に把握する ことが不可欠である. そこで本研究では,スポーツ科学部学生の健康・ 大学生活・日常生活(経済面)における不安やニー ズを把握して,学生の健康や生活面に応じた教育支 援体制構築の一助にすることを目的とする.新型コ ロナウイルス感染症が拡大する中,自身の健康や大 学生活等に不安・心配を抱えている学生一人一人へ の対応が不可欠であり,本調査の結果を踏まえて, 学生への個別的なアプローチについても適切に行う ことが可能となる. なお本調査では,藤本淳也・KCAA ほか(2020) 『大学生への新型コロナウイルス感染症拡大の影響 報告書(完成版)』,北海道教育大学釧路校学生生活 サポート室(2020)『学生の健康及び生活に関する アンケート調査―新型コロナウイルス感染症の拡が りを受けて』,日本福祉大学美浜キャンパス学生自 治会(2020)『新型コロナウィルス(COVID-19) に対する不安・要望調査』などを基に作成した.2. 方法
2.1.調査対象 日本福祉大学スポーツ科学部所属の 1 ~ 4 年生 を対象とした. 2.2.調査方法と調査時期 google フォームを用いた WEB アンケート調査 を実施した.調査は,nfu.jp の掲示板で対象学生に 配信するとともに,導入ゼミ(1 年),スポーツ フィールドワーク(2 年),専門演習 1(3 年),専 門演習Ⅱ(4 年)の各ゼミ担当教員に,学生の回答 を促す連絡をしていただくよう依頼した. 調査期間は 2020 年 5 月 11 日(月)~ 5 月 22 実践報告新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染拡大における学生の健康及び生活に関する調査報告
A survey report on student health and life in the spread of new coronavirus infection
(COVID-19)
山根 真紀 大宮 ともこ 石井 智也 住田 健 Maki YAMANE, Tomoko OMIYA, Tomoya ISHII, Ken SUMIDA
日本福祉大学 スポーツ科学部
3. 結果
3.1.単純集計の結果概要 「健康」に関して不安や心配がある学生は全体の 3%(17 名)と少なかったが(図 1・2),「気持ち が不安定」といった精神的な症状を示す学生が 4 名みられた. 「講義・授業」に関して不安や心配があると回答 した学生は全体の 43.9%を占め,心配が「ある」 と回答した学生では,「遠隔授業で十分に学習でき るのか(実技などの授業も含めて)不安」(77.8%) が最も多かった(図 3・4). 「大学生活」に関して不安や心配があると回答し た学生は全体の 1/3(35.9%)で,心配が「ある」 と回答した学生では,「就職活動や教員採用試験に 関して不安」(58.7%)が最も多かった(図 5・6). 「日常生活」に関して不安や心配があると回答した 学生は 28.3%で,心配が「ある」と回答した学生 では,「感染拡大がいつ終わるか分からず,先が見 えないことが不安」(65.5%)が最も多かった(図 7・8). 「経済」に関して不安や心配が「とてもある」ま た は「 や や あ る 」 と 回 答 し た 経 済 高 不 安 群 は 40.6%で,「どちらともいえない」「あまりない」 「全くない」の経済低不安群は 59.4%であった(図 9). アルバイトをしている学生 406 名の内,「実際に 減った」「実際に解雇された」学生は合わせて 76.8%と 8 割に及んだ(図 10・11). コロナウィルスによる感染拡大の影響を受け,大 学 や 学 部 に 要 望 が「 あ る 」 と 回 答 し た 377 名 (73.6%)では,「経済的援助を充実させてほしい」 が 62.3%,「部活動・サークル活動がどうなってい くのか等の見通しを示してほしい」が 51.7% であ り,5 割を超えた(図 12・13). 日(金)とした. 2.3.調査項目と分析方法 調査は以下の 7 項目とした. 1)「健康」に関する不安や心配について 2)「講義・授業」に関する不安や心配について 3)「大学生活」に関する不安や心配について 4)「日常生活」に関する不安や心配について 5)「経済」的な不安の程度について 「経済」に関して不安や心配が「とてもあ る」または「ややある」と回答した学生を経 済高不安群,「どちらともいえない」「あまり ない」「全くない」を経済低不安群とした. 6)アルバイトの状況 7)大学や学部への要望 単純集計では,各項目を度数および%で示した. また,1)~ 6)についてはχ2検定を用いて学年間 の比較を,その後の検定として残差分析を行い,ど の学年に特徴があるのかを検討した.分析には統計 パッケージ SPSS Ver.21 を用い,p<0.05 を有意と した. 2.4.調査回答 調査回答者は 512 名(有効回答率 69.7%)で, 詳細については表 1 に示した. 2.5.用語について インターネット回線を通して行う授業は,オンラ イン授業,遠隔授業,リモート授業,WEB 授業, オンデマンド授業など様々な名称が存在するが,こ の報告書ではすべて遠隔授業とした. 表1. 調査対象者 総数 回答数 回答率 1年 182 168 92.3% 2年 194 126 64.9% 3年 176 122 69.3% 4年 183 96 52.5% 合計 735 512 69.7% 表 1 調査対象者6 4 1 1 1 1 1 1 1 0 1 2 3 4 5 6 7 腹痛や下痢 気持ちが不安定である 貧⾎を起こした 喉、たん ⾷欲がない 全⾝の倦怠感がある, 運動不⾜ 体がかゆい 薬局でバイトをしているから 無回答 図2. 「ある」と回答された⽅:健康に関してどのようなこと が⼼配ですか?(n=17) 77.8% 33.3% 25.3% 20.0% 15.6% 5.3% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 遠隔授業で⼗分に学習できるのか (実技などの授業も含めて)不安 対⾯授業が始まったら、通学で感染 してしまうのではないか不安 遠隔授業の準備で、設備を揃える ための新たな費⽤がかかる 遠隔授業がどのように⾏われるのか 不安 新型コロナウィルスに感染し、⻑期 ⽋席した場合の単位取得に関する不安 その他 図4. 「ある」と回答された⽅:「講義・授業」に関してど のようなことが⼼配ですか?(複数回答項⽬)(n=225) 58.7% 38.0% 38.0% 23.9% 19.0% 2.7% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 就職活動や教員採⽤試験に関して不安 インターンシップ・教育実習が実施でき るかどうか⼼配 対⾯授業開始後の⼤⼈数が集まるところ3 密(講義・⽣協の⾷堂など)への対策… 体調⾯で不安が⽣じた場合の⽀援が受け られるのかが⼼配である ボランティア活動が継続的に実施できる か⼼配 その他 図6. 「ある」と回答された⽅:「⼤学⽣活」に関してどのよ うなことが⼼配ですか?(複数回答項⽬)(n=184) ある, 225, 43.9% ない, 287, 56.1% 図3. 「講義・授業」に対する不安や⼼配がありま すか?(n=512) ある, 184, 35.9% ない, 328, 64.1% 図5. 「⼤学⽣活」で不安や⼼配がありますか? (n=512) 図 1 あなた自身の健康に関して不安や心配があり ますか?(n = 512) 図 3 「講義・授業」に対する不安や心配がありま すか?(n = 512) 図 5 「大学生活」で不安や心配がありますか? (n = 512) 図 2 「ある」と回答された方:健康に関してどの ようなことが心配ですか?(n = 17) 図 4 「ある」と回答された方:「講義・授業」に関 してどのようなことが心配ですか?(複数回 答項目)(n = 225) 図 6 「ある」と回答された方:「大学生活」に関し てどのようなことが心配ですか?(複数回答 項目)(n = 184)
ある, 145, 28.3% ない, 367, 71.7% 図7. 「⽇常⽣活」で不安や⼼配がありますか? (n=512) している, 406, 79.3% していない, 106, 20.7% 図10. 現在、アルバイトをしていますか?(n=512) ある, 377, 73.6% ない, 135, 26.4% 図12. コロナウィルスによる感染拡⼤の影響を 受け、⼤学や学部に要望はありますか?(n=512) 実際に減った, 301, 74.1% 実際に解雇さ れた, 9, 2.2% 以前と変化が ない, 73, 18.0% 以前より増え た, 23, 5.7% 図11. コロナウイルス感染拡⼤の影響で、アルバイトの機会 が減ったり、解雇されたりしたことがありますか? (n=406) とてもある, 62, 12.1% ややある, 146, 28.5% どちらともい えない, 39, 7.6% あまりない, 181, 35.4% 全くない, 84, 16.4% 図9. 現在から6⽉にかけて、⽣活が困難、授業料が払えない などの経済的な不安はどの程度ありますか?(n=512) 経済⾼不安群 40.6% 経済低不安群 59.4% 図 7 「日常生活」で不安や心配がありますか? (n = 512) 図 10 現在、アルバイトをしていますか? (n = 512) 図 12 コロナウイルスによる感染拡大の影響を受 け、大学や学部に要望はありますか? (n = 512) 図 11 コロナウイルス感染拡大の影響で、アルバ イトの機会が減ったり、解雇されたりした ことがありますか?(n = 406) 図 9 現在から 6 月にかけて、生活が困難、授業料 が払えないなどの経済的な不安はどの程度あ りますか?(n = 512) 65.5% 46.2% 26.9% 25.5% 22.1% 17.2% 16.6% 4.1% 4.8% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 感染拡⼤がいつ終わるか分からず 先が⾒えないことが不安 家族のことが⼼配(感染させてしまう かもしれない等) 知らないうちに誰かに感染を広げて いるかもしれない いろいろな情報が氾濫していて、どれ が正しいのか分からない 感染したらどうしたらいいか わからない 感染したことが周りに知られてしまう ことによる差別・偏⾒が怖い マスクや消毒液が⼿に⼊らず不安 基礎疾患等があり外出が できない その他 図8. 「ある」と回答された⽅:「⽇常⽣活」に関してどのよ うなことが⼼配ですか?(複数回答項⽬)(n=145) 図 8 「ある」と回答された方:「日常生活」に関し てどのようなことが心配ですか?(複数回答 項目)(n = 145)
62.3% 51.7% 24.1% 24.1% 21.2% 15.4% 13.0% 12.2% 4.5% 0.5% 経済的援助を充実させてほしい 部活動・サークル活動がどうなってい くのか等の⾒通しを⽰してほしい 情報をこまめに発信してほしい 授業形態の⼯夫(遠隔授業、ネット配 信、短縮授業、レポート対応) 新歓などの企画を⼯夫して実施してほ しい 対⾯授業の開始をもう少し繰り下げて ほしい ⾷堂など多くの学⽣が集まるところは 改善してほしい もっと学⽣の意⾒を聞いてほしい。 健康チェック体制をしっかりしてほし い その他 図13. 新型コロナウィルスによる感染拡⼤の影響を受け、 ⼤学や学部にどのような要望がありますか? (複数回答項⽬)(n=377) 図 13 新型コロナウイルスによる感染拡大の影響 を受け、大学や学部にどのような要望があ りますか?(複数回答項目)(n = 377) ず,最も不安が高い「就職活動や教員採用試験に関 する不安」は学年とともに高くなるが,2 年生で有 意に低く 4 年で有意に高かった.「インターンシッ プ・教育実習が実施できるかどうか不安」も学年と ともに高くなっていくが,1・4 年生は有意に低く, 3年生で有意に高かった.一方,コロナ感染対策 (3 密への対策)に関する不安は,4 年生に比べ下 位学年が高かった.「体調面で不安が生じた場合の 支援が受けられるのかが心配」では,学年とともに 低下し,1 年生が有意に高く,4 年生が有意に低 かった. 「経済面」(図 19・20)では,学年の進行ととも に「経済高不安群」の割合が高まる傾向にあり,1 年生は有意に低く(p<0.01),4 年生は有意に高 かった(p<0.01).また学生のアルバイト状況は, 1年生は他の学年に比べ,アルバイトをしていない 学生が有意に高く,2 ~ 4 年生は解雇されたあるい は収入が減少した学生が 1 年生より有意に高かっ た.学生の経済面に関連しているアルバイト状況に ついて調べてみたところ,アルバイトをしていない 学生は 1 年生が 2 ~ 4 年生に比べ有意に高く,解 雇されたり,収入が減少した学生は 2 ~ 4 年生が 1 年生より有意に多かった.経済的不安レベルと学生 のアルバイト状況の関係は,アルバイトを解雇さ れ,収入が減少した学生において経済高不安群が有 意に高かった.学年別では 1 年生と 4 年生で有意 差が認められ,1 年生では経済高不安群は経済低不 安群に比べ,アルバイトを解雇されたり,収入が減 少したりした学生が有意に高く,一方でアルバイト をしていない学生の経済不安は他の学生より有意に 低かった.4 年生でも,経済高不安群は経済低不安 群に比べ,アルバイトを解雇されたり収入が減少し たりした学生が有意に高く,アルバイトの状況に変 化がなかったり増えたりした学生の不安は低かっ た. 3.2.学生の不安や心配について(学年比較) まず,コロナウィルスによる感染拡大の影響を受 け,学生が経験した,「健康」「講義・授業」「大学 生活」「日常生活」および「経済」の不安のレベル について検討した(図 14).その結果「講義・授業」 (43.9%)が最も高く,次いで「経済」(40.6%), 「大学生活」(35.9%)と続いた.「健康面」につい ての不安は最も低かった(3.3%). 次いで,それぞれの不安について学年ごとで比較 した.その結果,学年間で有意な差が認められたの は「 講 義・ 授 業 」( χ2= 25.565,df=3,p<0.01), 「大学生活」(χ2= 22.742,df=3,p<0.01),「経済」 (χ2= 14.208,df=3,p<0.01)であった. 「講義・授業」(図 15・16)では,4 年生が他の 学年に比べ,不安が低く(p<0.01),2 年生と 3 年 生の不安が高かった(p<0.05).具体的な不安要素 を見ると,「対面授業が始まったら,通学で感染し てしまうのではないかと不安」において,1 年生が 他の学年より有意に低かったが,それ以外の要素に 学年差は認められなかった. 「大学生活」(図 17・18)では,1 年生の不安が 低く(p<0.01),3 年生の不安が高かった(p<0.01).
43.9% 40.6% 35.9% 28.3% 3.3% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 講義・授業 経済 ⼤学⽣活 ⽇常⽣活 健康 図14. 学⽣が感じた各要因の不安レベル(n=512) ある, 41.7% ある, 53.2% ある, 53.3% ある, 24.0% ない, 58.3% ない, 46.8% ない, 46.7% ない, 76.0% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年 2年 3年 4年 図15. 「講義・授業」に関する不安の有無(学年別) ある ない ** χ2=25.565,df=3、p<0.01.残差分析:**p<0.01,*p<0.05 * * ある, 26.2% ある, 30.2% ある, 51.6% ある, 40.6% ない, 73.8% ない, 69.8% ない, 48.4% ない, 59.4% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年(n=168) 2年(n=126) 3年(n=122) 4年(n=96) 図17. 「⼤学⽣活」に関する不安の有無(学年別) ある ない χ2=22.742,df=3、p<0.01.残差分析:**p<0.01,*p<0.05 ** ** 31.5% 40.5% 44.3% 52.1% 68.5% 59.5% 55.7% 47.9% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年… 2年… 3年… 4年… 図19. ⽣活が困難、授業料が払えないなどの経済的不安の有 無(学年別) 経済⾼不安群 経済低不安群 χ2=11.635,df=3、p<0.01.残差分析:**p<0.01 ** ** 80.0% 20.0% 28.6% 27.1% 17.1% 79.1% 38.8% 25.4% 16.4% 19.4% 77.3% 39.4% 22.7% 12.1% 10.6% 65.2% 39.1% 21.7% 30.4% 13.0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% WEB授業で⼗分に学習できるのか (実技などの授業も含めて)不安 対⾯授業が始まったら、通学で感染 してしまうのではないか不安 WEB授業の準備で、設備を揃える ための新たな費⽤がかかる WEB授業がどのように⾏われるのか 不安 新型コロナウィルスに感染し、⻑期 ⽋席した場合の単位取得に関する不安 1年 2年 3年 4年 ** **p<0.01(残差分析) 図 14 大学生が感じた各要因の不安レベル(n = 512) 図 15 「講義・授業」に関する不安の有無(学年別) 図 17 「大学生活」に関する不安の有無(学年別) 図 19 生活が困難、授業料が払えないなどの経済 的不安の有無(学年別) 図 16 「講義・授業」に関する不安要素(学年別)(n = 226) 図 18 「大学生活」の不安要素(学年別)(n = 185) 56.8% 20.5% 29.5% 38.6% 11.4% 39.5% 34.2% 60.5% 34.2% 15.8% 60.3% 63.5% 39.7% 15.9% 25.4% 76.9% 20.5% 23.1% 10.3% 20.5% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 就職活動や教員採⽤試験に 関して不安 インターンシップ・教育実習が 実施ができるかどうか⼼配 対⾯授業開始後の⼤⼈数が集ま るところ3密(講義・⽣協の ⾷堂など)への対策が⼼配 体調⾯で不安が⽣じた場合の ⽀援が受けられるのかが⼼配 ボランティア活動が継続的に 実施できるか⼼配 図18.「⼤学⽣活」の不安要素(学年別)n=185 1年 2年 3年 4年 残差分析:**p<0.01, *p<0.05 ** * ** * * ** * ** *
が容易に想像できる.そこで,そのような状況下に おかれた学生の不安や心配を理解し,安心・安全に 大学生活を送れるための支援策を検討するために本 調査は実施された. 以下では「健康」「授業・講義」「大学生活」「日 常生活」「経済」の 5 つの側面から,スポーツ科学 部学生全体の不安の実態について,また,学年によ る不安の特徴について,さらに経済的な不安状況と 関連する要因について考察した. 4.1.スポーツ科学部の学生が抱える不安の実態 学生の不安が最も高かったのは「授業・講義」で 4割を超え,「遠隔授業で十分に学習ができるのか」, 「遠隔授業のための準備費用がかかってしまう」,ま た「実際にどのようにやるのか」といった,新たに 取り入れられた授業形態に関する不安が高かった. したがって,遠隔授業実施に当たり,学生への丁寧 な説明や準備が整わない学生へのサポートが必要で あった.このことについて大学からは,遠隔授業に 際し,実施マニュアルの提供,科目担当教員からの お知らせへの投稿(nfu.jp),さらにはゼミ教員か らの指導やアドバイスなどが行われた.その後の経 過を見ると,大多数の学生は問題なく授業を受講で きていると考えられた.一方で,次々と送られる メールやお知らせを正しく認識し,的確に実行でき ない学生が一定数存在するという問題が明らかに なった.今後は,そのような学生に対するサポート 体制や内容について検討することが求められる.ま た,対面授業が始まった際の通学での感染不安も高 く,対面授業再開のガイドラインの決定には慎重に ならざるを得ない. 10 月現在,対面授業が一部再開されるため,ス ポーツ科学部では学生に対し感染拡大防止として, ①手洗い・消毒の徹底,② 3 密を回避する,③マ スク着用,④健康管理票のチェック,⑤更衣室利用 の制限,⑥体調管理,⑦対面授業に参加できない場 合の注意事項(スポーツ科学部の学生の皆さんへ, 2020)を提示した.内容は特別新しいことではな いが,基本的な感染対策が取られている.どこまで 感染対策を徹底するのかについては議論のあるとこ
4. 考察
本研究は,新型コロナウイルス感染拡大により前 期授業の開始が遅れ,再開された直後 2020 年 5 月 11日からの 2 週間で実施された調査結果をまとめ たものである.授業は再開されたものの,すべて ZOOMによる遠隔授業となり,学生は慣れない授 業形態に不安を感じていたと予想できる.また,ア ルバイト収入が減少したり,中には解雇されたり と,学生の生活をも脅かされていた.特に新入生は 先生も知らない,友人もいないといった孤独な中で していない* , 43% していない* , 13% していない* , 9% , 6% 不変・増 , 20.2% 不変・増 , 16.7% 不変・増 , 20.5% 不変・増 , 16.7% 解雇・減少** , 36.3% 解雇・減少** , 70.6% 解雇・減少** , 70.5% 解雇・減少** , 77.1% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年 2年 3年 4年 図20. アルバイトの状況(学年別) χ2=89.287,df=6、p<0.001 残差分析:していない:1年>2〜4年,*p<0.05,解雇・減少:2〜4年>1年, **p<0.01 26.4% 51.3% 5.7% 11.3% 5.7% 7.0% 3.8% 3.5% 10.6% 27.6% 18.9% 20.9% 15.1% 11.3% 15.1% 14.8% 5.7% 11.3% 13.9% 22.0% 54.7% 27.8% 75.5% 42.6% 81.1% 37.4% 84.9% 25.2% 75.5% 50.3% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 経済⾼不安群 経済低不安群 経済⾼不安群 経済低不安群 経済⾼不安群 経済低不安群 経済⾼不安群 経済低不安群 経済⾼不安群 経済低不安群 1年 2年 3年 4年 全体 図21. 経済的不安レベルとアルバイト状況(学年別) アルバイトしていない 不変・増加 減った解雇 残差分析:全体:χ2=34.573 ,df=2,p<0.001.⾼不安群:バイトをしていない、不変・増が少なく、 減った・解雇が多い.1年:χ2=12.469 ,df=2,p<0.01.⾼不安群:バイトをしていないが少なく、減 った・解雇が多い.4年:χ2=10.227 ,df=2,p<0.01.⾼不安群:バイトが不変・増が少なく、減っ た・解雇が多い 図 20 アルバイトの状況(学年別) 図21 経済的不安レベルとアルバイト状況(学年別)チェックする機能を働かせ,学生が落ちこぼれない ような支援が必要であろう.また,対面授業開始後 の大学のコロナ対策も学生の不安要因であった.対 面授業に当たっては感染対策に関する学生への注意 喚起とともに大学としての対策も周知すべきであろ う. 4 番目は「日常生活」で,全体の 3 割弱の学生が 不安を感じていた.不安を感じている学生の 2/3 が 「感染拡大がいつ終わるか分からず,先が見えない ことに不安」を感じ,また自分自身が家族や友人な どに感染を広げてしまうのでは,という心配や不安 もあった.多くの学生が新型コロナウイルス感染拡 大により,大学での学びや生活ばかりでなく様々な ことで精神的ストレスを受け,不安や心配を募らせ ていることがうかがえる.本学には学生支援セン ターや学生相談室など学生のためのサポート施設が ある.それらを有効利用できるよう学生への情報提 供や学部の学生支援チームによるサポートなど組織 的な支援体制が求められる. 「健康」に関する不安や心配があると回答した学 生は 3.3%と最も少なかったが,「気持ちが不安定 である」といった精神的な不安を訴える学生が少な からずいることが明らかとなった.授業や生活のこ とが原因で精神的不調を訴えていることが十分考え られるため,そのような学生には個別対応が必要と 考えられる. 4.2.学年による不安の特徴 学年間で有意な差が認められたのは「講義・授 業」「大学生活」「経済」の不安であった. 「講義・授業」に関する不安では,2.3 年生で高 く,4 年生で低いことが特徴である.大学での授業 を経験している 2・3 年生では,遠隔授業の実施方 法をはじめ評価,レポート提出など,対面での授業 との違いに対する不安や心配があると推察される. 一方で 4 年生はほとんど授業がないことが,1 年生 については,大学の授業経験不足やそもそも大学で の学びについての理解が低いことが影響し,低く なっていると考えられる. 「講義・授業」に関する具体的な不安要素につい て,「通学での感染不安」が 1 年生において有意に ろだが,当面はこの対策を徹底し,経過を観察して いくことになる. 次に不安が高かったのは,「今後の生活が困難」, 「授業料が払えない」などの「経済」的な不安で, 「とてもある」「ややある」の経済高不安群が 4 割 を占めた.コロナウィルスによる感染拡大の影響を 受け,実際にアルバイトの機会が減ったり,解雇さ れたりした学生はアルバイト実施学生の 7 割を超 えたことからも,経済的な不安はさらに高まるもの と推察される.また,大学や学部によせられた要望 でも,「経済的援助の充実」が最も高く,さらに, 本学学生自治会が実施したアンケート調査でも学費 減免や給付型奨学金を望む声が多数あげられてい た.そこで本学では「オンライン授業受講のための 情報環境整備等支援一律給付」3 万円の支給や「日 本福祉大学経済援助給付奨学金」を今年限りの特例 として「要件を緩和」と,「採用人数の大幅拡大 (20 名/前期のところ 120 名(後期も))」を行い, 経済的支援を充実させた.同時期に文部科学省から の「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』 (文部科学省,2020)や国からの「特別定額給付金」 一律 10 万円の支出も重なり,学生にとって急場を しのぐ形にはなったと思われる.しかし,調査から すでに 4 か月が経過し,経済状況も一定傾向が見 られるものの,感染拡大第 2 波の到来による影響 や第 3 波への備えを考えるとより持続的な支援が 求められる.したがって今後も定期的に学生の経済 的不安について調査していくことが必要であろう. 3 番目は「大学生活」に関してで,3 割強の学生 が不安を感じていた.最も多かったのは「就職活動 や採用試験のこと」「インターンシップや教育実習 といった実習に関すること」など就職に関すること である.大学への入構禁止が続く中,就活にどのよ うに取り組んだらよいのか,どこで情報を入手する のかといったガイダンスの多くがオンデマンド配信 となり,自分のタイミングやスケジュールに合わせ て視聴できるメリットがある反面,自分で計画を立 てて取り組まなければならないため,自己管理がで きない学生には不向きである.したがって,視聴し たかどうか,内容を理解できたかどうかなどを
不安感が高い傾向にあり,大学への要望でも「経済 的援助の充実」が最も高かった. さらに,大学生活に関する学生の不安感には学年 差が認められ,就職活動に関しては学年が高くなる ほど,インターンシップについては 3 年生で高かっ た.加えて対面授業開始後の新型コロナウイルスへ の感染対策への不安は 2 年生が最も高かった. 以上のことから遠隔授業の実施については,学生 の不安内容を把握したきめ細かな対応が求められる とともに,学生が大学生活で感じる不安感には学年 差があることをふまえて指導していくことも重要で ある.さらに,経済的に苦しい学生への持続的な支 援が必要であり,そのためには今後も定期的に学生 の様子を把握するための調査を実施していくことが 不可欠である. 引用文献 1) スポーツ科学部の学生の皆さんへ(2020/9/30) 対面 授業一部再開後の感染拡大抑止へのご協力のお願い 2) 文部科学省「学びの継続」のための『学生支援緊急給 付金』 ~ 学びの継続給付金 ~ https://www.mext.go. jp/a_menu/koutou/hutankeigen/mext_00686.html (202010.11 閲覧) 3) 日本福祉大学美浜キャンパス学生自治会 COVID-19 対 策局(2020) 自治会アンケート結果、2020 年度第 1 回全学学生委員会資料,p.27-40. 4) 藤本淳也・KCAA ほか(2020) 『大学生への新型コロ ナウイルス感染症拡大の影響 報告書(完成版)』 5) 北海道教育大学釧路校学生生活サポート室(2020) 『学生の健康及び生活に関するアンケート調査―新型コ ロナウイルス感染症の拡がりを受けて』 6) 日本福祉大学美浜キャンパス学生自治会(2020) 『新 型コロナウィルス(COVID-19)に対する要請書』. 2020年度第 2 回全学学生委員会資料,p.33-44. かった.しかし,遠隔授業に関する不安はやはり 1 年生が高いため,今後丁寧な指導が必要であること が推察される. 「大学生活」に関する不安は,全体では 1 ~ 3 年 にかけて学年の進行とともに高まり,1 年生が有意 に低く 3 年生が有意に高かった.大学生活は在籍 年数が長くなるほど人間関係や活動の場が広がり, 関りも深くなるため,学校へ行けない今の状況はそ ういった関係が保ちにくいと予想される.学生同士 が繋がれる場や活動できる場を,感染予防対策を徹 底しつつ実施していく必要があろう. 「大学生活」に関する具体的な不安には,学年差 が顕著に認められた.就職活動や教員採用試験に関 する不安では 4 年生が,インターンシップや教育 実習に関しては 3 年生が高かった.また,新型コ ロナウイルスの感染対策やそれらの支援に関して は,1・2 年生が高かった.したがってそれぞれの 学年状況を見極めた対応が必要である. 「経済」高不安群は,学年進行に伴い増加する傾 向にあった.学費や生活費のため 8 割の学生がア ルバイトを行っているが,その中の 7 割以上の学 生が新型コロナウイルスの感染拡大によりアルバイ トの機会が減ったり,解雇されたりした.そういっ た学生は経済高不安群の割合が高く,学年が高いほ どその傾向が強いことが示された.アルバイトの状 況は学生の経済的な不安と直接的に結びつき,アル バイトで得た収入が学生の経済を支える割合が学年 が進むにつれ高くなっていることが推察される.