Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
有床義歯補綴系「総義歯の筋圧形成について教えてくだ
さい。」
Author(s)
櫻井, 薫
Journal
歯科学報, 111(3): 313-314
URL
http://hdl.handle.net/10130/2419
Right
総義歯の印象は,望まれる外形つまり機能運動を
障害しない配慮,また床下組織に対する負担軽減へ
の配慮を行う必要があります。そのためには口腔内
診査を確実に行う戦略をとり,それに基づいた各個
トレーを使用した印象採得を行うことが望ましいと
考えます。今回のテーマの「筋圧形成」についても
各個トレーを使用することを想定し記載いたしま
す。
各個トレーの設計には,「床基礎面をどう表現す
るか」,「床辺縁をどう表現するか」,「床研磨面をど
う表現するか」を考えなくてはなりません。床基礎
面を選択加圧印象で表現する場合は,口腔内診査で
得られた情報を元にして,加圧する部位,リリーフ
する部位(フラビーガム,骨隆起,骨鋭縁,切歯乳
頭,オトガイ孔部,顎舌骨筋線部など)を決定いた
します。トレーと粘膜との間隙が狭いと加圧され,
逆に間隙が広いほど弱圧になります。すなわち義歯
機能時の咬合咀嚼圧を負担させる加圧部位にはス
ペーサーを設置せず,リリーフする部位にはパラ
フィンワックス1枚を設置します。
上記のうち筋圧形成印象で表現する部分は,床辺
縁となります。一般的にモデリングコンパウンドを
用いる場合,各個トレーの外形はアーラインやレト
ロモラーパッドを除き,床外形予想線つまり模型で
の齦頬移行部あるいは齦唇移行部または歯槽堤と口
腔庭との移行部の最下点を連ねた線より3−4mm
短く製作します。しかし,この短くする量は材料に
よって異なります。またトレーの辺縁では印象材が
流れてしまうため,床後縁ではアーラインよりも5
mm トレーを長くし,アーライン部に印象圧をかけ
るようにします。
各個トレー製作上の注意点として,①トレー辺縁
の厚径が厚い場合に筋圧形成時に機能運動の障害と
なるので必要以上に厚くならないようにする。②ト
レーの外形は義歯の外形予想線をもとにしなければ
ならない。③顎堤の吸収が著しく,平坦な場合は筋
圧形成時の口唇圧や舌圧がかからず,適正な辺縁形
態が得られない。そのため,蝋堤型の各個トレーを
作製する,が挙げられます。
口腔内で各個トレー試適後に筋圧形成印象を行い
ます。今回はモデリングコンパウンドを用いた場合
についてご説明いたします。しかし,流動性の低い
シリコーンラバー系あるいはスティック状のハイド
ロプラスチックなどの材料を用いた場合も術式は同
様です。上顎の筋圧形成の場合は,左側臼歯部,前
歯部,右側臼歯部の順で3ブロックに分けて行いま
す(図1)。まず,トレー乾燥後にトーチで先端のみ
軟化した棒状のモデリングコンパウンドをトレー辺
縁に盛りつけます。それを約60℃の温湯に浸漬した
のち,口腔内への圧接を行います。
有床義歯補綴系
Q&A
臨床のヒント
Q&Aコーナーを新設しました。まず東京歯科大学の3
病院の臨床研修歯科医から寄せられた質問に対しての回
答です。回答は本学3施設の専門家にお願い致します。
内容によっては基礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数
の回答者に依頼する場合もあります。毎号掲載いたしま
すので,会員の皆様もご質問がございましたら,ぜひ東
京歯科大学学会までeメールかファックスで依頼してい
ただきたいと存じます。必ずご期待に添えることと思い
ます。今号は総義歯の筋圧形成に関する質問です。
総義歯の筋圧形成について教えてください。
Question
Answer
歯科学報 Vol.111,No.3(2011)
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上顎臼歯部の筋圧形成では,まず開閉口,吸綴運
動および側方運動をさせて翼突下顎ヒダを印記しま
す。次に下顎骨筋突起部の運動の印記のために側方
運動と前後運動を行います。頬筋の運動や頬小帯の
印記には,吸綴運動や開閉口を行います。
この時に筋圧形成した部位のトレーが露出した場
合は,トレー辺縁が長すぎるために削去します。逆
に口腔内を直視して,筋圧形成不足の場合はモデリ
ングコンパウンドを追加し,辺縁形成を繰り返し行
います。またモデリングコンパウンドがトレー内部
に入り込んだ場合,その部位が強加圧されてしまう
ので除去します。
上顎前歯部は上唇小帯を明瞭に印記させるように
します。頬小帯の印記には口唇突出と口角牽引を行
います。しかし上唇小帯の印記は高齢患者自身の運
動では不十分な場合が多く,その場合は手指でト
レーを支えた状態で,もう一方の手指で口唇を前
後・左右に動かして印記します。
次に下顎の筋圧形成の場合,左側レトロモラー
パッド部から頬小帯部,前歯唇側部,右側レトロモ
ラーパッド部から頬小帯部,右側(左側)舌側床後縁
部,顎舌骨筋線部から反対側同部の順で6ブロック
に分けて行います(図2)。
レトロモラーパッド部から頬小帯部にかけてはレ
トロモラーパッド部,咬筋付着部,頬棚部が重要で
す。レトロモラーパッド部の後方1/3は臼歯腺であ
り,被圧変位性に富んでいます。後縁の封鎖性を図
るためには,レトロモラーパッド後方部は開口運動
を行い緊張させて印記します。大臼歯後方の咬筋付
着部は,閉口時に咬筋が収縮し,その前方の頬筋を
押して義歯脱離の原因となるため,咬筋の緊張を促
すための閉口運動を行わせて印記を行います。頬棚
部は吸綴運動や口角牽引を行わせて辺縁形成しま
す。
下顎前歯唇側部は頬小帯,下唇小帯,オトガイ筋
付着部を印記します。頬小帯と下唇小帯は頬粘膜を
軽く引き上げた状態で上下・左右に動かして印記さ
せます。オトガイ筋付着部は顎堤の吸収が進むと相
対的に高位になります。口唇を強く引っ張りすぎる
と前歯部印象域がすべて可動組織になるため口唇突
出や口角牽引などの機能運動の範囲に留めます。ま
た,床辺縁が厚い場合はオトガイ筋の作用により義
歯の脱離の原因となるため注意が必要です。
舌側床後縁部はトレーを口腔内に入れモデリング
コンパウンドを人差し指で伸ばし,舌尖で上口唇内
側を軽くなめさせ印記させます。
顎舌骨筋線部から反対側同部はトレーを保持した
状態にて舌尖で上唇内面を左右大きくなめる,ある
いは嚥下運動を行うことで顎舌骨筋線の緊張状態お
よび舌小帯を印記させます。
Answer:大神浩一郎,櫻井 薫
東京歯科大学有床義歯補綴学講座
図1
図2
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歯科学報 Vol.111,No.3(2011)
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