主題を提示する文脈が文の"自然さ"の判断に与える影響
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(2) 雨宮朋子・野村則国・林部英雄. 90. 7). 8)ともに,独立では,統語的にも視点に関しても問題はない。しかし, 7)は自然であるが,. に対する答えとしては,. 6)の質問. 8)は不自然である。このように,その文. が話された状況によって"自然さ”が変わることがある。 状況によって文の"自然さ”が変わる条件のひとつとして,主題の問題があげられるだ ろう。以下の文を読んではしい。 9)はるこは. やおやさんで. だいこんを. かいました. 10)はるこは. おじさんに. おかねを. わたしました. 11)おじさんは. はるこに. おかねを. もらいました. 10) ll)ともに,単文では問題はない。しかし, ベると,. 9)の文を読んでから10)と11)を比. ll)ばlo)に比べて"不自然”に感じる。それは,. 題となる可能性をもっているが, である。すなわち,. 「はるこ+はこの話の中で主. 「おじさん+は,主題となる可能性をもっていないため. 9)の文を読んだ段階では,. 「はるこ+と「やおやさん+,. 「だいこん+. そして「はるこが大根を買った+という事象は,どれも次の文で代名詞に置き換えること ができる。しかし,. 「おじさん+は代名詞に置き換えることはできない。このように,代. 名詞で置き換えることができるものを本研究では主題と定めた。さらに,実際には9) の文に続く10)の文の話し手が,いくつかの主題となる可能性をもっている事象の中か ら一つを選びだし,文の主題とするということになる。つまり,. 10)の文の話し手は,. 4. つの主題となる可能性をもっている事象の中から「はるこ+を主題に選んだことになる。 「視点+ 「主題+ 日常会話の文の"自然さ”の判断に影響するものとして,上述の「統語+ のような事柄が考えられる。本研究では,このような事柄を「要因+と呼ぶことにする。 これらの要因の中には,文の"自然さ”を決定するいくつかの原則があると考えられる。 それらの原則がおのおの満たされているか否かによってより"自然な”文となるのであろ う。例えば,視点に関して言えば,. 「視点が置かれているものが文頭にくるJという原則. や「動詞の視点制約に合わせる+という原則がそれぞれ満たされることによって,より "自然な”文が作り上げられる。また,主題の原則としては,. 「主題は文頭に置かれる+と. いった原則がある。これらの原則が全て満たされるような場合には,文を作ることも理解 することも容易である。しかし,実際の会話では,必ずしもこれらの原則をすべて満たす ことができるとは限らない。そのようなときに,どのような方略を用いて,より"自然な” 文を作るのか,また,どのような文をより"自然な”文と感じるのであろうか。 筆者らは,既に文の"自然さ”を決定する要因である「視点+等の原則について研究を 行なってきた(林部・雨宮, えば,石黒,. 1985;林部,. 1991)。また,他にも関連の研究はいくつか存在する(たと 1986)。しかし,今までのところ,いずれの研究も,刺激文と. して独立した1文のみを用いており,明示的な文脈を設定しキ研究は数少ない。そこで, 明示的な文脈を刺激の一部に含め,主題に関係する原則について調べることが必要である と考える。さらに,本研究では,. 「視点+と「主題+の原則が同時には満たされない状況. を設定し,この状況での文脈の"自然さ”の判断への影響を分析することを目的とする。.
(3) 主題を提示する文脈が文の"自然さ”の判断に与える影響. 91. 法. 2.方 激. 2-1.刺. 本研究では,. 1.節で述べたように,文の"自然さ”の判断に影響を与える要因の中か. 「主題+をとりあげ,刺激を作成した。またその中でも,話し手の視点に "受動態文”を よる制約が比較的顕著であり,簡単な刺激文の作成が可能な"授受構文” ら,. 「視点+と. 用いて各項目を決定した。以下では,受動態文と能動態文の組もそれら全体を一括して ・受動態文”と呼ぶことにするので注意されたい。また,刺激文は全て,ひらがなによる 分かち書きとした。. 具体的な刺激は,まず,主題を明示するための1文を用意した(A)。そして,同じ出 来事を表わすが, 「主語+ 「動詞+ 「語順+の要素のいくつかが異なる2文を提示する(B)o 提示された2文のうち,より"自然”であると感じられる方の文を,被験者は選択するこ とになる.また,視点を明らかにするために,提示する2文の中にそれぞれ一人称を含め・ A, Bそれぞれに,絵が1枚ずつ 主題を明示するための1文には,三人称のみを用いた。 A,. 対応する。また,後述の通り,. あめを. たくさん. さちこさんに. あめを. もらいました. あめを. くれました. さちこさんは. A. B-1わたしは. わたしに. さちこさんは. B-2. Bの文はそれぞれの絵の説明文という設定にしてあるo もっていました. なお,本研究では,比較検討するために,主題を明示する1文を最初に提示し,次に同 じ出来事を表わす2文を提示する実験と,主題を明示する1文を提示しないで,同じ出来 事を表わす2文のみを提示する実験の2つを行なったo以後,前者を<文脈あり>条件, 後者を<文脈なし>条件と呼ぶ。 「主語+. 「動詞+. 「語順+の要素の異なり方によって,いくつかのパタンが作成できる。. 授受動詞を含む文では,視点制約に適合せず不自然な文である場合は刺激から除いた。そ の結果,刺激文の組合せは,授受構文12タイプ,受動態文10タイプ,合計22タイプと なった。また,全タイプの三人称の名詞を全て変え,一人称の名詞は全て「わたし+ く+を用いた。. 2-2.被. 験. 者. 18歳から31歳までの成人のベ100人を被験者とした。但し,方言差を考慮して,東京 圏の出身の者のみを被験者とした。 なお,実験の手続きは,. 2種類であり,その内訳は以下の通りである○. <文脈なし>条件. 50人(男子21人. 女子29人). <文脈あり>条件. 50人(男子26人. 女子24人). 「ぼ.
(4) 92. 雨宮朋子・野村則国・林部英雄 続. 2-3.手. き. 主題を明示する文脈の有無の影響を検討するために,以下の2種の条件で実験を行なっ た。. <文脈なし>条件主題を明示する文脈を提示しない実験 <文脈あり>条件. 主題を明示する文脈を提示する実験 次に,各条件についてそれぞれ手続きを説明する。 <文脈なし>条件 A4の大きさの問題用紙の表紙には次のような教示が印刷されている。 「これから示す,上の文と,下の文は同じできごとを表わしています。 どちらの文のはうが自然だと思いますか。 どちらかを選んで○で囲んで下さい。+. 教示を理解した後に,刺激の粗から,自然だと判断したものに○を付けることを求める。 特に,時間制限は,設けなかったが・概ね7分から15分程度で終わった。 <文脈あり>条件 実験は・. 10人程度の集団で行い,最初に問題用紙を配り,次のような教示を行. なう。. 「これから見せる絵は2枚で一つのお諸になっています。 まず,. 1枚の絵を見せます。. 1枚目については,こちらがお話しします。次に, 2枚目の絵を見せますo絵を見て,自分が2枚目で新しく登場した人物になって. 話をするとしたら・問題用紙に書かれた二つの文のうち,どちらの文を使って, 話しますか。選んだ方に○をっけてください。+ まず・練習問題を1題行い,課題を理解したところで,本項目の反応を求めた。反応は 1題ずっ全員一緒に進めた。実施時間は20分であった。 3.結. 果. 各刺激文は,多少の"不自然さ”を感じるものもあるが,. "絶対に適していない文”では ないoしたがって,どちらが"自然”かを問い,選ばせる実験だが,正答というものは存 在しないoそこで,. <文脈なし>条件で,反応率が高い文を仮に正反応とする。本実験で. は<文脈なし>条件での正反応と非正反応の割合が<文脈あり>条件でどのように変わる かに着目し検討することになる。尚,分析方法は,林部・雨宮(1991)に基づく。 各々の刺激文に対する反応率を表1に示すo但し,この表では正反応とした刺激文が組 の上になるように配列し,. <文脈なし>条件と<文脈あり>条件を比較したとき,反応率. の差が大きい順にならべてあるo表中のG*は授受構文を,. P *は受動態文を表わす。. 「刺激対+の欄は,実際に提示した刺激文の組を示すo. 「"自然さ”の要因+の欄は,林部・ 雨宮(1991)と同様に,各刺激文が従っていると考えられる"自然さ”の要因を式で表わ したもので,各刺激文の下の式は刺激文の組で異なる要因を示す。尚,本実験で剛、た自 然さの要因については考察で詳しく述べるo の反応率を示すo. 「文有+は・. 「文軌は,. <文脈なし>条件での各刺激文 <文脈あり>条件での各刺激文の反応率を示す。その下の.
(5) 93. 主題を提示する文脈が文の"自然さ”の判断に与える影響 表1各文刺激対,それらの持っ"自然さ”の要因,選択された率及び選択率の差の予測値。 但し選択率の差に付された書事は<文脈あり>と<文脈なし>の四分割表についてX 検定の結果, 1%水準で有意であるもの.また書は5%水準で有意であるもの。 刺激対. "自然さ”の要因 Pv. ぼくはゆうこにノートをもらいました ,Gl. Ph+Pv. ぼくにゆうこはノートをくれました. 文無 文有 予測値 88. Pv. わたしはさちこにあめをもらいました さちこはわたしにあめをくれました. Pt+Ph. 66. まさしはぼくにえんぴっをもらいまJした. Pt+Ph. 100. 84. 0. 16 _16. まさしはわたしにいぬをくれました. Pt+Ph. 92. まさしにわたしはいぬを′.もらいました. Pt+Pn. 8 Ph-Pn■. G5. かずおにわたしはチーズをあげました. 76 24 16**. Pt+Pn Ph+Pv. わたしにかずおはチ-ズをもらいました. 16. 16**. ーPt-Ph+Pv. G4. 56 22事事. Pv. ぼくはまさしにえんぴっをあげました. 26_. 44. 34. -Pt-Ph+Pv. G3. ・38 26‥. -Ph G2. 62. 12. 4. 96. 88. 4. 12 8事. G6. Pv. わたしは'っよしにおにぎりをあげました っよしにわたしはおにぎりをあげました. Pt+Pn. 98. 92. 2. 8 6. -Pt+Pv-Pn G7. Pv. ばくはゆうじにみかんをもらいました ゆうじにぼくはみかんをもらいました. Pt+Pn. 82. ・14. 18 4. Pv. わたしはひできにくすりをあげました Ph+Pv. わたしにひできはくすりをもらいました. 96. 2. 4 2. ま■ことにぽくはのみものをあげました. Pt+Pn. 80. まことはぼくにのみものをもらいました. Pt+Ph. 20. GIO. ゆうこばばくにチ■-ズをもらいました. Ph+Pv. ぼくにゆうこはチーズをもらいました. 20 0. ともこにぽくははなをもらいました. 84. 18. 16. 54. 62. 46. 38. Pt-Ph-Pv+Pn G12. けいこはわたしに ̄きんぎょをくれました. Pt+Ph Ph+Pv. わたしにけいこはきんぎょをくれました Pt-Pv. ■10. -2. Pb+Pv. ぼくにともこははなをくれました. -4. 82. Pt-Pv Pt+Pn. Gil. 26 80. -Ph+Pn Pt+Ph. ・20. 98. -Ph. G9. 20. 86■. -Pt_+Pv-Pn. G8. 6. 6. -8 86. 98. 14. 2. -12. 10.
(6) 94. 雨宮朋子・野村則国・林部英雄. 刺激対. 干`自然さ”の要因. ぼくはけいこを・けりました. 文無. 文有 予測値. 96. 62. Pl. ぼくにけいこはけられました. Ph. 4. 3・8 34**. -Ph. こうじはわたしをけりました. Pt+Ph. 64. 34. こうじにわたしはけられました. Pt+Pn. 36. 66. P2. Ph-Pn. まりこをぼくはなぐりました. Pt. 30…. 30. 30. 88. 70. 12. 30. P3 ぼくにまりこはなぐられました. Ph Pt-Ph. ぼくはまことになぐられました. 18*. Pt. 20/. 96. 86. 4. 14. P4. まことにぼくは_なぐられました. Ph Pt-Ph. P5. 10. ふみこ事こわたしはおいかけられました わたしをふみこはおいかけました. Pt. 20. 84. 74. 16. 26 10. -Pt. 10. かずおをわたしはなぐりました. Pt. 68. 68. かずおはわたしになぐられました. Pt+Ph. 32. 32. P6. 0. -Ph. ともこはわたしに■おいかけられました. Pt+Ph. 88. P7. _88. わたしにともこはおいかけられました. Ph. 12. 12. Pt. 0. わたしはあやこをおいかけました P8 あやこはわたしにおいかけら.れました. Pt+Ph. 90. 12. 10. Pt+Ph. 70. 74. 30′. 26. -Pt-Ph. 40. -4. ぼくはひろしにおいかけられました. 84. 90. 16. 10. Plo. ぼくをひろしはおいかけました. 40. -2. ぽくは甲できにおいかけられました ひできばばくをおいかけました. -10. 88. -Pt-Ph. P9L. 30. Ph -Ph. -6. 30■.
(7) 95. 主題を提示する文脈が文の"自然さ”の判断に与える影響. 数値は2つの条件下での反応率の差を示す。この差が"自然さ”の要因の差を直接的に反 映するものだと仮定し,前述の異なる要因を示す式を連立させて解いたものの近似の数値 を「予測値+に示した。この数値についての詳細も,考察で述べる。 次に, <文脈あり>条件の時に,主題が文頭にある文とない文の刺激対のうちから,文 頭にある文を選んだ率,例えばG5の対で上を選んだ率と,主題に助詞「ハ+が付加され ている文とそうでない文の刺激対のうちから, 「-+が付加された文を選んだ率,例えば 2に示すo但し<文脈なし>条件の時の反応率を基準と. Glの対で下を選んだ率を図1,. し,その差を示してある。尚,授受構文を図1に,受動態を図2に示す。 ○/。. ○/。. 10. 10. ′. 主題文頭. ♪・主題「-+ ′. ′. ′ ′. ノーー△主題「-+ 一一一′. ノーーー. 0. 0 文脈無し. 文脈有り. 一一一一一′. 文脈無し. 文脈有り. 主賓文頭. -5. 図2. 図1主題が文頭にある文を選択した率と 主題に「-+が付加された文を選択 した率の文脈無しを0とした比較 (授受構文). 主題が文頭にある文を選択した率と 主題に「-+が付加された文を選択 した率の文脈無しを0とした比較 (受動態文). <文脈あり>条件の時に,文頭 図1を見ると、主題が文頭にある文とない文の対では、 にある文を選ぶ率が高くなっている○例えば, G2では<文脈なし>条件では上の文,す なわち主題が文頭にない文を選ぶ率が66%なのに対し,. <文脈あり>条件では,. 44%と. 減少している。ことばを換えれば,下の文,すなわち主題が文頭にある文を選ぶ率が高く なったということである。同様に,主題に助詞「ハ+が付加されている文とそうでない文 の対では,付加されている文を選ぶ率が高くなっているo例えばG3では<文脈なし>条 件では,・下の文,すなわち主題に助詞「-+が付加されている文を選んだ率は0%なのに 対し, <文脈あり>条件では16%に増加しているoつまり,主題に助詞「ハ+が付加さ れた文を選ぶ率が上昇したといえる○また,文頭にある文を選ぶ率と「ハ+が付加されて いる文を選ぶ率の間には顕著な差は見られないo また,図2を見ると,授受構文とは異なり,. <文脈あり>条件の時には,主題が文頭に.
(8) 96. 雨宮朋子・野村則国・林部英雄. ある文よりもない文を選ぶ率が高くなっている。例えば,. P3では,. は上の文,すなわち主題が文頭にある文を選ぶ率は88%なのに対し,. <文脈なし>条件で <文脈あり>条件. 70%に減少する。つまり,主題が文頭にない文を選ぶ率が高くなる。主題に助詞. では,. 「ハ+を付加した文とそうでない文では,授受構文と同様に付加した文を選ぶ率が高くなっ <文脈なし>条件では下の文,すなわち主題に助詞「-+を付. ている。例えばPlでは,. 加した文を選ぶ率は4%なのに対し,. <文脈あり>条件では38%に上昇している。しか. し,主題に助詞「-+を付加した文を選ぶ率は,受動態文よりも授受構文の方が高くなっ ている。 これらのことから,. <文脈なし>条件と<文脈あり>条件では,. ′`自然さ”の判断が異. なると考えられる。. 4.考. 察. 本研究では,林部・雨宮(1991)に従って,以下のような仮説に基づいて考察する。 仮説:文の"自然さ”は,さまざまな要因の重みづけられた線形な加算によって決定 される。. 本実験で,考えられる文の"自然さ”を決定する要因に次のものが考えられる。 Pr. 動詞の視点制約 例えば,授受動詞の場合,. 「あげる+は主語の位置に視点が置かれることを要. 求するが, 「くれる+は助詞「ニ+の付加された名詞句(間接目的語)の位置 に視点が置かれることを要求する。また,受動態文では,主語の位置に視点が 置かれることを要求する。このように,一部の動詞は視点が置かれる位置を制 約する。 Pg. 主語文頭原則 文法上の主語は文頭に置かれる。. Pf. 視点主語原則 視点が置かれたものが主語になる。. Pv. 視点文頭原則 視点が置かれたものは文頭に置かれる。. Ph. 主題「-+原則. 主題には助詞の「-+をっける。.
(9) 97. 主題を提示する文脈が文の"自然さ”の判断に与える影響 Pt. 主題文頭原則. 主題は文頭に置かれる。 「ニ+特別ルール. Pn. 「ハ+が. 主題が明示された場合,文頭の主題に「ニ+が付加されている方が, 付加されている方より"自然”である。. ここにあげた制約及び原則は,はとんど現在までの言語学ないしは言語心理学の知見に 「こ+特別ルー 基づいたものである。詳細は林部・雨宮(1991)にあたられたい。但し, ルは,一般に適用される原則とは考えにくいが,本実験の結果を説明するにあたって必要 だと思われるものである。. しかし,主題「-+原則と主題文頭原則及び「ニ+特別ルールは主題が明示されたとき <文脈なし>条件で にのみ適用されるので,・<文脈なし>条件では考慮しない。つまり, は, Pr,. Pg,. Pf,. Pv,の4つの要因が存在する。この4つの要因を林部・雨宮(1991)と. 同様に分析すると,授受構文・受動態文ともに動詞の視点制約,主語文頭原則がかなり強 く働き,次いで視点文頭原則,視点主語原則が働くと考えられる。即ち, 動詞の視点制約. >. 主語文頭原則. >. 視点文頭原則・視点主語原則. となる。これは,林部・雨宮(1991)とはぼ同じ結果である。 <文脈あり>条件を分析し,主題を. さて,この<文脈なし>の条件の結果をふまえて,. 明示する文脈が"自然さ”の判断にどのように影響するのか考察する。 本実験では, <文脈なし>条件での各々の刺激文の組の反応を基準とし,. <文脈あり>. 条件で変化した反応を分析し,主題が明示されたときの各要因の影響について考察する。 ここでも,林部・雨宮(1991)の仮説をもとに,以下の通りに分析を進める。 各刺激文の組み合わされた2文の問の"自然さの要因”の違いを求める。非正反応の <文脈なし>条件での値を基準とし<文脈あり>条件での値との差を求める。例えば,義 1のGlの上の文に存在する"自然さの要因”は,. Pvで,下の文に存在する`唱然声の要. 因”は, Ph+Pvであり,従ってこの2文の"自然さの要因”の違いは,. 条件間の値の差は, 26である。 て,次のような式を立てる。. Phである。また,. "自然さの要因”の遠いが条件間の値の差をもたらすとし Glでいえば,. Ph-26という式が成り立っ。このように式. を各刺激文について求め,それを連立させて,要因の重みを求める。 その結果から,受動態文について払Pn-60, Ph-26,. Pv-10,. Ph-30,. Pn-30,. Pt-10,授受構文では,. Pt-0という値が予想できる。この値を各組の要因の差の式に代入し. て得られた"予測される値”を衰1の予測値に示した。また,図3は,授受構文の実測値 と予測値の比較を図示したものである。図4は,受動態文の実測値と予測値の比較である。 図3. ・. 4をみると,実測値が大きい方すなわち,図の左部分はおよそ一致しているといえ. るが,実測値が小さい方すなわち,図の右部分は一致していない.これは,右部分の刺激.
(10) 98. 雨宮朋子;野村則国・林部英雄. ○/。. 40. 20. G9. GI. G2. G3. G4. G5. G6. G7. GIO. G上l. G12. G8. -20. 図3. 文脈を付加したことによる各刺激文の選択率(影つき)の変化とその予測値(白抜き) (授受構文). ○/。. ム0. 20. P7. PI. P2. p3. P4. P5. P6. P8. P9. plO. -20. 図4. 文脈を付加したことによる各刺激文の選択率(影つき)の変化とその予測値(白抜き) (受動態文).
(11) 99. 主題を提示する文脈が文の"自然さ”の判断に与える影響. 文の組合せが明らかに,. "自然さ”に差があるためと考えられる。ことばを換えれば,こ. こであげた要因以外のものが強く影響しているためと思われる。因に,条件間の反応率の 差をX2検定したところ,左部分は5%水準で優位となっている。このことを考えると, この予測値は,はぼ適当なものと考えて差し支えないであろう。そうはいっても,受動態 文については,右部分があまりにもー致していない。さらに,ここで挙げたもの以外の要 因についても検討を要することを示唆している。話し手が受動態を使う場合は,視点や主 題といった問題だけではなく,例えば「被害+を意識的に表現するなど,もっと特別な意. 味を有していると考えられる。しかし,本研究は,視点と主題を中心的な課題としている ため,ここでは,取り上げないこととする。 さて,予想される要因の重みから,主題が明示されたときの"自然さの要因”の重みは, 次のように表わすことができるといえる。 「ニ+特別ルール. >. 主題「-+原則. >. 主題文頭原則・視点文頭原則. 主題が明示された時たは,主題「ハ+原則と主題文頭原則が最も強く働くと思われてい たが;本実験の結果からは,これら2つの原則よりも「ニ+特別ルールが強く働いている と考えられる。 <文脈なし>条件で正反応であった刺激文は<文脈あり>条件でもはとん ど正反応であった。このことから,普通語順であること-など<文脈なし>条件で取り上げ た要因が"自然さ”を決定する重要な要因であることは紛れもないことである。つまり, この重みの順番は, "不自然さ”を与える文に存在する要因のうちで,主題が明示された. 時に"不自然さ”を和らげるものを表わしているといえることを記しておく0 ここで,. 「ニ+特別ル-ルに従っていると考えられ. 「ニ+特別ルールについて考えたいo. る刺激文の組は, G4,. G5,. G6,. G7,. G9,. G7の. Gll,である。このうちG6,. 反応率の違いは,視点文頭原則と主題文頭原則の優先順位の違いのためとも考えられる0 また, G4∴G5,. G上l,は,. <文脈あり>条件で,動詞「も、らう+の方を"自然”と感. じるということを表わしていると考えることもできる。授受動詞の「あげる+. 「くれる+. と「もらう+について簡単に説明をしよう。これらは視点が置かれているものの位置の制 約が異なるだけではなく,行為の方向が異なる。つまり「あげる+と「くれる+は,視点 「くれ 「もらう+は行為の方向が「あげる+ は異なるが行為の方向は同じといえる。一方, 「もらう+は行為者が文頭にくるという一般的な形からは る+と異なる。言い換えれば, ずれているといえる.このことが,. 「もらう+め視点制約をやや弱めることになるのでは. ないか。本実験は,要因に矛盾を含む文,特に動詞の視点制約に適合しない文をも提示し て,. "自然さ”の判断を求めている。判断がつきにくい被験者が,どちらかといえば許容. される方の文,すなわち「もらう+を含む文を選んだと考えることもできるであろう。つ まり,助詞の「ニ+のために"自然さ”が増したか引まなく,動詞の視点制約の強弱に影 <文脈なし>条件と同様に動詞め 響を受けたためと言えるかもしれない。そう考えると, 視点制約の重みが非常に高いと言えるであろう。しかし,明確な結論を得るには「もらう+ についての詳細な研究を待たねばならないであろう。.
(12) 100. 雨宮朋子・野村則国・林部英雄. また,主題「ハ+原則と主題文頭原則については,主題「-+原則の方が主題文頭原則 よりも重みが高いということになる。繰り返しになるが,いちばん"自然”と感じられる 文というのは,主題「ハ+原則と主題文頭原則の両方に従っている文,すなわち普通語噸 で主題が主語である文である。しかし,日常の会話では,この主題というものは省略され ることが多い。つまり,あえて文の要素として残すということば特別な含意があると感じ られるのではないだろうか。本実験の刺激文は主題を省略していないので全て特別な含意 を持っているということになる。これについては,本研究の目的ではないのでここでは論 じないことにするが,このことが少なくとも結果に影響していると思われる。 5.ま. と. め. 結果から,文の"自然さ”を決定する大きな要因として,動詞の視点制約に従うことと 主語文頭原則に従うこと,すなわち普通語順であることがあげられる。この2つの原則は, 他の原則と比較しても,かなり"自然さ''に影響を与えるものと考えられる。これらは, 文理解の基本的な要因といえるかも知れない。 また,主題が明示された時の要因として,主題「ハ+原則と主題文頭原則をあげた。し かし,実験全体としては,主題はあまり大きく結果に影響したとはいえない。その理由と しては,実験自体の問題点もいくつかあげられるだろう。特に次のことについて,さらに 検討をしなければならないであろう まず,本実験では実験の簡略化のために,主題を明示する1文を提示したが,はたして, 1文で主題が明確に決定されるのかは疑問である。. 1.節で述べたように,談話では文中. で主題になりうる要素は通常は複数ある。本実験での刺激文もすべて,主題になりうる要 素が複数あった。複数の要素の中から,次の話し手が主題を決定する。その時,話し手は 話された状況や聴き手との共有知識,先行する談話などに影響される。このようなことも 考慮にいれて,どのような場合に何が主題とされるかといったようなことも研究の対象と することが今後の課題であると思われる。 また,主題が明示されたときには,主題「-+原則と主題文頭原則が強く影響すると思 われたが,実験全体の結果としては,さほど強く影響していなかった。. 4.節でも触れた. が,これは,本来ならば主題が省略される傾向があることを示唆しているように思われる。 主題は話し手と聴き手に共有なものでなければならない。そして,話し手だけが持ってい る知識,すなわち新しい情報を主題に付加し聴き手に提供する。つまり,会話の目的は, 新しい情報の伝達である。そのため,すでに,両者が知識として持っているものを繰り返 したり,文頭に置いて強調することば,それを意識的に行なっているという感じを聴き手 に与える。さらに言えば,聴き手はそこに特別な含意をくみ取ることになる。本実験で, そのような特別な含意を感じた被験者は,これらの原則に従った文を選び,感じなかった 被験者は原則に従っていない文を選んだと推測できる。また,特別な含意を含まない場合, 含意があると誤解されないように主題は省略されるか,. 「代名詞+に変換されるのであろ. う。あくまでも,これは推測であり,今後の実験的検証が待たれる。 筆者らは,先行研究に引続き,本研究でも談話における言語機能について考察してきた。 \.
(13) 101. 主題を提示する文脈が文の"自然さ”の判断に与える影響. 談話における言語機能として,. 「視点+ 「主題+を取り上げてきたが,本実験の結果から,. 例えば「主題+を表現する方法としての「省略+そして「代名詞+をとりあげて,より詳 しく研究する必要があるといえる。そのことにより,談話における言語機能がより明確に なるであろう。. 6.文 林部英雄. 献. 1986. 日本語における語噸の決定について. 横浜国立大学教育紀要. 26,. 195-203・. 1991. 林部英雄・雨宮朋子. 言語機能が文の"自然さ''の判断に与える影響一発連的観点からの実験的検討一 横浜国立大学教育紀要 石黒広昭. 31,. 105-115.. 1985. テクストの組織化における視点の役割一産出者の視点からのテクスト世界の意味的統合一 教育心理学研究 久野. 時. 3(2),. 1978. 談話の文法. 大修館. 135-145..
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