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<総説>C 型肝炎ウイルスと酸化ストレス 利用統計を見る

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Ⅰ.はじめに  ウイルス性肝炎は,A から E 型肝炎に分類さ れるが,B 型と C 型肝炎は肝細胞がんの原因 となる。B 型肝炎および C 型肝炎は,それぞ れ B 型肝炎ウイルス(HBV)および C 型肝炎 ウイルス(HCV)の感染によって発症する肝 炎を意味する。このうち特に HCV 感染では細 胞性免疫によりウイルス感染細胞の排除が感染 早期に達成されれば一過性の急性肝炎として治 癒することもあるが,免疫能が正常な成人が感 染した場合であっても半数以上が慢性肝炎に移 行することが知られており,この確率は HBV よりも高い。C 型肝炎ウイルス(HCV)の感 染者数は世界で 7100 万人と推定され,新規感 染者は年数百万人と推定されている1)。HCV は血液媒介性でかつては輸血後肝炎として知ら れていたが,現在は輸血用血液から感染するこ とはほぼ皆無となった。現在,新規感染者は, 注射針の使い回しや刺青などが原因で感染する ことが多く,HBV と異なり性交で感染するこ とはほぼない。慢性 C 型肝炎に対しては,か つてはインターフェロン・リバビリン併用療法 が抗 HCV 療法の主流であったが,副作用が強 いことから治療を断念する患者が多く,さらに 耐性ウイルスの存在から著効率も 6 割程度で あった。現在はウイルス側因子を直接標的にし た 薬 剤 で あ る Direct Acting Antivirals(DAA) の登場により sustained viral response(SVR: ウイルス学的著効)の達成率は 95%以上とな り,日本や欧米で流行しているウイルス遺伝子 型 1 や 2 の感染者に対して非常に高い確率での ウイルス排除が可能となった2)。しかしながら, 様々な問題が残されており,ウイルス排除が必 ずしも C 型肝炎完治を意味するとは言えない ことも分かってきた。例えば,高齢者や肝線 維化が進行した方では,HCV 排除後も肝細胞 がん(HCC)の発がん率は健常者に比して有 意に高いことが報告されている3)。また,DAA

C 型肝炎ウイルスと酸化ストレス

天 野 稜 大,森 石 恆 司

山梨大学大学院総合研究部医学域基礎医学系 微生物学講座 要 旨:C 型肝炎ウイルス(HCV)は慢性ウイルス性肝炎の主要原因因子のひとつであり,感染

者は世界に 7100 万人と推定されている。近年,DAA(Direct Acting Antivirals)開発の進展により, C 型肝炎治療は目覚ましく進歩した。しかしながら,全てのウイルス遺伝子型に高い著効率を示さ ないことや一部で sustained viral response(SVR)に至っても肝発がんリスクが消失しないなどの 問題が残されている。HCV による肝発がんのメカニズムやウイルス複製に活性酸素種(Reactive oxygen species, ROS)の産生が関連することが報告されているが,HCV 感染機構と ROS との関 連には不明な点が多い。本稿では,HCV 感染における酸化ストレス制御と肝発がん・感染機序と の関連について概説する。 キーワード C 型肝炎,HCV,酸化ストレス,活性酸素

総  説

〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 受付:2017 年 11 月 21 日 受理:2017 年 12 月 27 日

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74 天 野 稜 大,他 自体が非常に高額であることやウイルス遺伝 子型 3 に対する SVR 達成率が低いこと,HBV の既感染者において HCV 治療によって B 型 肝炎が再燃するなどの課題が残されている4)。  C 型肝炎では,持続的感染による継続的な 炎症から起こる DNA 損傷の繰り返しが発がん の一因とされ,ウイルス因子による酸化スト レスも原因の一つとして考えられている5)。し かしながら,HCV による活性酸素(Reactive oxygen species: ROS)産生機序の詳細は未だ 不明な点が多い。ROS 自体が HCV の増殖を 直接抑制することも報告されており,ウイルス 感染による細胞内酸化ストレスの制御が病原性 だけなく増殖制御にも複雑に関与している。肝 発がん機構と感染機構に焦点を置きながら,本 稿では HCV 感染による細胞内酸化ストレスの 制御とその意義について概説する。 Ⅱ.HCV による酸化ストレスの発生  HCV 感染やそのウイルスタンパク質の発現 によって細胞内の酸化ストレスが上昇すること が知られている。HCV のゲノムがコードする ウイルスタンパク質を図 1 に示す。ウイルス タンパク質は一本の前駆タンパク質から,ウ イルスあるいは宿主プロテアーゼによって切 断され,10 個のウイルスタンパク質に成熟す る。Core,E1,E2 はウイルス粒子を構成する 構造タンパク質で,p7 から NS5B はウイルス ゲノム複製や粒子形成に機能する非構造タン パク質である。このうちコアタンパク質6–8), E1,E2,NS4B,NS5A7)の発現によって細胞 内酸化ストレスが惹起されることが報告され ている。この中で ROS 産生を強く誘導すると 報告されているのはコアタンパク質で7),単独 で肝細胞に発現させるとマウスに肝細胞がん (hepatocellular carcinoma: HCC)および肝脂 肪化が認められる9,10)。さらに,コアタンパク 質がなくても,ウイルス複製のみによっても ROS 産生亢進が認められている11)。HCV に よる ROS 産生機序には(1)ミトコンドリア 機能異常(2)ミトコンドリアへの Ca2+流入(3)

Nicotinamide Adenine Dinucleotide Phosphate (NADPH) oxidase フ ァ ミ リ ー の 活 性 化(4) 図 1.HCV のゲノムがコードするタンパク質とその主な役割

HCV ゲノムは(+)鎖 RNA で,約 3000 アミノ酸残基からなる一本のポリプロテイ ンをコードする.翻訳後,宿主およびウイルスプロテアーゼによって切断され,10 個のタンパク質に成熟する.

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CYP2E1 の誘導(5)小胞体ストレスの関与が 考えられている(図 2)。 (1)コアタンパク質,E1,NS3 によるミトコ ンドリア機能異常  HCV コアタンパク質および E1,NS3 はミ トコンドリア内の電子伝達系酵素複合体Ⅰの活 性を阻害することでミトコンドリア機能異常を 引き起こし,細胞内に ROS の過剰産生を誘導 する12–15)。コアタンパク質を発現するトラン スジェニックマウスの肝臓ではミトコンドリア 外膜に異常が認められる6)。コアタンパク質は prohibitin と呼ばれるミトコンドリアシャペロ ン分子の発現を亢進させ,チトクローム C オ キシダーゼ(COX)との相互作用の阻害を通 して電子伝達系酵素複合体Ⅰの活性を抑制し, 結果的にミトコンドリア機能に異常を起こし, ROS 産生が誘導される16)。 (2)ミトコンドリアへの Ca2+流入による ROS 発生  いくつかの HCV 蛋白質を発現すると,他の オルガネラからミトコンドリア内へ Ca2+が流 入することで ROS 産生が誘導される。コアタ ンパク質を単独で発現すると,一部ミトコン ドリアに局在し,ミトコンドリアの Ca2+単輸 送体の活性上昇させる17,18)。さらに,非構造タ ンパク質のひとつ NS5A は小胞体内から Ca2+ を放出させることにより細胞質内 Ca2+濃度を 上 昇 さ せ19),NS4B は ER overload response (EOR)を引き起こし,小胞体内から Ca2+を 放出させる20,21)。これらによりミトコンドリア 内 Ca2+濃度が上昇し,クエン酸回路に含まれ るピルビン酸デヒドロゲナーゼやα- ケトグル タミン酸デヒドロゲナーゼが活性化する。こ れらの酵素の活性化によってミトコンドリア 内膜での電子伝達系が活性化をされ,結果的 に ROS 産生が誘導される22)。Ca2+キレート剤 図 2.HCV による ROS 産生の経路 細胞内で発現した HCV タンパク質は様々な経路で ROS 産生に関与する.E1,NS3 は電 子伝達系を阻害することで,コアタンパク質はミトコンドリアシャペロン分子の機能阻害 やミトコンドリア外膜破壊によりミトコンドリア機能異常を引き起こす.また,NS4B は EOR を引き起こすことで,NS5A は小胞体内から Ca2+を放出させることでミトコンドリ アの電子伝達系を活性化させる.コアタンパク質はミトコンドリアの Ca2+単輸送体の活性 を上昇させることで電子伝達系の活性化に関与する.さらに,コアタンパク質は Nox4 や CYP2E1 の発現誘導を介しても細胞内の ROS 産生を上昇させる.

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76 天 野 稜 大,他 によって細胞質内のカルシウム濃度を低下させ るとコアタンパク質による ROS 産生が減弱す ることから,コアタンパク質による ROS 産生 にカルシウムが重要であることが分かった17)。 このように,HCV タンパク質による細胞内酸 化ストレスの誘導に,細胞質内のカルシウム濃 度上昇が深く関与している。 (3)NADPH oxidase ファミリーの活性化  NADPH oxidase フ ァ ミ リ ー は ミ ト コ ン ド リア電子伝達系に含まれる膜輸送蛋白質であ り,Nox1 ∼ 5,DUOX1, 2 の 7 種類からなり O2–や H2O2の生成に関与している23)。コアタ

ン パ ク 質 は transforming growth factor-beta

(TGF-β) の 転 写 翻 訳 を 亢 進 し, そ の 下 流 の Nox4 の発現が上昇し,結果的に ROS 産生が 誘導される24)。実際にウイルス産生・感染培 養細胞や HCV 感染肝細胞で,TGF-β遺伝子 の転写上昇および Nox1 と Nox4 の発現上昇が 報告されており,Nox 遺伝子の発現上昇によ る ROS 産生制御が示唆されている24,25)。 (4)CYP2E1 の発現誘導  CYP2E1 は小胞体内に存在するエタノール分 解酵素の一つである26)。慢性 C 型肝炎患者に おいてはアルコール多飲により ROS 発生が相 乗的に上昇し,肝線維化などが増悪することが 知られている27)。実際に,初期の慢性 C 型肝 炎患者では CYP2E1 発現量が亢進しており28), in vitro の 実 験 結 果 で も CYP2E1 と コ ア タ ン パク質を共発現させると ROS 産生が亢進する こ と が 示 さ れ て い る29)。CYP2E1 は NADPH oxidase を介して ROS 産生を誘導し,コアタ ンパク質によって ROS 産生が相乗的に亢進す ると考えられる。 Ⅲ.酸化ストレスが HCV に与える影響  前述のように HCV は細胞内の酸化ストレス を上昇させる。酸化ストレスは肝発がんに関与 するばかりか,過剰に酸化ストレスが亢進する と HCV のウイルス産生や複製に影響する(図

3)。in vitro の実験では H2O2を加えることで

HCV のウイルスゲノム複製が低下することが

報告されている30–32)。この抑制は細胞内のリ

ボソーム RNA や GAPDH mRNA に影響しな いことから,ある程度 HCV RNA に特異性を 持った現象であると考えられる。しかしながら, ウイルスゲノムの安定性,ウイルスタンパク 質の翻訳効率および HCV タンパク質量には, ROS は影響しない。また,ROS の発生により ゴルジ体と粗面小胞体に発現している NS5A お よび NS3 の局在比率が粗面小胞体に高いこと が報告されている31)。ウイルス複製複合体は, 小胞体膜由来の membranous web という膜小 胞の中でウイルスゲノム複製を行う33)。HCV 複製複合体を内包する脂質膜は通常のウイル ス複製過程で産生される ROS 量では障害され ないが,過剰な ROS が存在するとその脂質膜 やウイルス蛋白質は障害を受け,HCV ゲノ ム複製が抑制されると考えられている34)。実 際に Vitamin E や Coenzyme Q10 などの脂質 溶解性の抗酸化物質は脂質膜の過酸化を抑止 し,HCV ゲノム複製を活性化させる。しかし, N-acetyl-cysteine などの非脂質溶解性の抗酸化 物質は影響を与えない30,34,35)。HCV は初代継 代肝細胞を含めて in vitro で感染を成立させる ことは未だ難しく,一部のウイルス実験室株と 特定の培養細胞株でのみで感染・複製が成立す る。培養細胞に感染するウイルス株は NS5A と NS5B に適応変異が必要であり,その適応変異 は脂質過酸化による HCV 増殖抑制に抵抗性を もつことが分かっている34)。また,ビタミン E の蓄積を亢進する SEC14L2 の発現を誘導す ると HCV 野生株もある程度培養細胞で増殖可 能となることから,抗酸化脂質過酸化に抵抗す ることが HCV 感染・複製を成立させる重要な 要因であることは間違いないようである。 Ⅳ.おわりに  HCV の感染環と酸化ストレスの関連につい

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て基礎研究成果を中心に概説した。HCV の 感染・増殖により ROS 産生が誘導されるが, ROS の存在は HCV 複製自体を阻害する。過 剰なウイルス増殖は細胞や組織を障害し,宿主 を失うこととなるため,持続感染型のウイルス 増殖にはある程度の制御機能が必要と思われ る。そのようなことから,HCV は自身の複製 量を酸化ストレスによって適度に調節している のかもしれない。しかしながら,持続的な酸化 ストレスの亢進は肝発がんを誘導することか ら,負の側面も持ち合わせている(図 3)。酸 化ストレスによる細胞死誘導に対してがん細胞 は正常細胞に比べ感受性が高いことも知られて いる。我々はケイ皮酸を基本骨格とする誘導体 化合物を合成し,その一部が過剰な酸化ストレ スを誘導することで抗 HCV 作用を示すことを 報告しており30),新規抗 HCV 剤開発という 観点からも酸化ストレスを標的にすることは 興味深い。DAA 開発が進展してきた現時点で も,ウイルス消失後に発がんリスクがあり,抗 HCV 作用および抗発がん作用という側面から, 酸化ストレスを標的とした C 型肝炎に対する 治療応用の可能性に期待したい。 参考文献

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Hepatitis C Virus and Oxidative Stress

Ryota AMANO and Kohji MORIISHI

Department of Microbiology, Faculty of Medicine, Graduate Faculty of Interdisciplinary Research, University of Yamanashi, Yamanashi, Japan

Abstract: Hepatitis C virus (HCV) is a major etiologic agent for chronic viral hepatitis in about 71 million people worldwide. Recently, development of direct acting antivirals (DAAs) have been advanced, resulting in remarkable improvement of hepatitis C therapy. However, risk of hepatocellular carcinoma (HCC) would be still increased by several factors in even patients who achieve sustained viral response (SVR). Reactive oxygen species (ROS) are reported to be involved in the induction of hepatitis C-related carcinogenesis and down-regulation of HCV propa-gation. However, relationships of ROS induction with HCV life cycle and its pathogenesis remain to be clear. This review summarizes the relevance between ROS and HCV infection.

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