エンターテイメント・エデュケーションを活用した
家庭教育事業の実施と評価(第2期)
伊藤純子1)、高橋佐和子2)、新村智世3)、北村聡3) 1)聖隷クリストファー大学、2)神奈川県立保健福祉大学、3)浜松市こども家庭部次世代育成課1
背景
健康を決定する因子であるヘルスリテラシー(Nutbeam,2000)の向上には、児童期からの教育が必要である(中 山、2016)。望ましい生活習慣の確立には家庭教育力の向上が求められる一方で、現代の傾向として、核家族化 や生活様式の多様化による家庭教育力の低下が懸念されている。 研究者らは 2017 年より、浜松市こども家庭部次世代育成課と協働して市内保育園・こども園の保護者を対象と した家庭教育講座を実施している。保護者対象の教育における課題として、このような教育機会に積極的に参加 しない群、いわゆる無関心層へのアクセスが挙げられる。 事業の立ち上げに先立ち、市が管轄する保育園・こども園の職員、担当行政職員を対象とした聞き取り調査を行っ た。その結果、職員らが教育に参加して欲しいと感じる保護者の特徴は、養育上の課題があり、児に生活習慣の 乱れ、心身の健康の不安定さ、偏食等の課題が顕著にみられる家庭であった。さらに、経済的な不安定さ、ひと り親家庭、地域の社会活動や学校活動への不参加等の課題が把握された。これは先行研究と合致する状況であり、 既存の家庭教育事業、保健福祉事業に加え、特に重点的な対策を講じる必要があると考えられた。2
目的
就学前児童の保護者を対象として、特に、健康に関する学習機会への参加意欲の低い保護者層に焦点を当て、 家庭教育力の格差解消に寄与する教育プログラムの実施と評価を行う。3
方法
本稿では 2019 年 6 月~ 2019 年 11 月に浜松市内の保育園・こども園において家庭教育プログラムを用いて行っ た家庭教育講座「浜松市家庭教育講座-健康力を育てる子育て・自立を促す関わりのコツ」後に、参加者に対して 実施したアンケート調査の結果と考察を報告する。 家庭教育講座で用いたプログラムは、精緻化見込みモデル(Petty,R.E &Cacioppo.JT,1986)を理論的背景とし て「情緒・経験則システム」を活用して設計されている。さらにアプローチ方法としてエンターテイメント・エデュケー ション(Shighal A,Rogers EM.2011, 以降 E-E)を取り入れている。E-E の効果を高め機序に擬似社会的交流があ り、対象者とプログラム実施者の間の認知、情操、行動面に擬似的交流感が効果的に得られるよう配慮している。 本プログラム中では、すごろく型教材を開発し試用することでこの効果が得られるよう配慮している。第 2 期プロ グラムではこの教材の開発と試用を中心的な取り組みと位置付けており、独立した項目として評価している。保護 者と保育園職員に自記式の質問紙調査を実施した。倫理的配慮として聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を 得た方法(No.18014)を遵守した。 35 地域連携推進センター_2019第11号年報_CC19_本文.indd 35 2020/10/09 8:494
結果
市内の保育園・こども園の計 5 施設、延べ 208 人の保護者を対象に家庭教育講座を実施した。内訳は表 1 の 通りである。 表1 家庭教育講座の保育園・こども園 園名 講座開催日 参加者数 1 A こども園 2019 年6月 23 名 2 B 幼稚園 2019 年6月 48 名 3 C こども園 2019 年 8 月 18 名 4 D 保育園 2019 年 11 月 11 名 5 E 保育園 2019 年 11 月 8 名 1) 質問紙の構成家庭教育講座を受講した 5 園の参加者、職員計 108 人に対し、ARCS モデル(JOHN M. KELLER, 1983) により構成した質問紙を用いて学習効果を評価した。このモデルは学習意欲を高め、動機づけとなる学習 体験に必要な要素を、注意(ATTENTION)・関連性(RELEVANCE)・自信(CONFIDENCE)・満足感 (SATISFACTION)の 4 つの観点で示しており、この観点を測定し、値が高ければ、実施した健康教育は 魅力があり、行動変容につながる可能性が高いと評価される。「プログラムの中で提案された内容は自分にも できそうだと思ったか(自信:図 1)」、「話の内容は役に立つと思うか(関連性:図 2)」、「話の内容に興味をもて、 面白かったか(注意:図 3)」、「教室に参加してよかったか(満足感:図 4)」について「かなりそう思う」から「全 く思わない」の 6 件法で尋ねた。また、すごろく型教材の評価は「おもしろく、興味を持てたか(図 5)」、「す ごろくの目的が理解できたか(図 6)」として同様に尋ねた。 2) 家庭教育講座のプログラムについて 「プログラムの中で提案された内容は自分にもできそうだと思ったか(図 1)」は、「かなりそう思う」が 41%、「そ う思う」と答えた参加者は 58%であった。「話の内容は役に立つと思うか(図 2)」は、「かなりそう思う」が 75%、「そう思う」と答えた参加者は 25%であった。 図3 おもしろかった 図4 参加してよかった 図1 自分にもできそう 図2 役に立つ 3% 1% 1% 1%1% 78% 20% 75% 25% 74% 41% 58% 22% 凡 例 かなりそう思う そう思う どちらかというとそう思う どちらかというとそう思わない そう思わない 全くそう思わない 36 地域連携推進センター_2019第11号年報_CC19_本文.indd 36 2020/10/09 8:49
「話の内容に興味をもて、面白かったか(図 3)」は、「かなりそう思う」が 74%、「そう思う」と答えた参加 者は 22%であった。「教室に参加してよかったか(図 4)」は、「かなりそう思う」が 78%、「そう思う」と答え た参加者は 20%であった。 3) すごろく型教材について 「おもしろく、興味を持てたか(図 5)」、については、「かなりそう思う」が 51%、「そう思う」と答えた参加 者は 46%であった。「すごろくの目的が理解できたか(図 6)」につては、「かなりそう思う」が 47%、「そう思う」 と答えた参加者は 45%であった。 図5 すごろくは面白かった 図6 すごろくの目的がわかった 2%1% 2%5%1% 47% 45% 51% 46% 凡 例 かなりそう思う そう思う どちらかというとそう思う どちらかというとそう思わない そう思わない 全くそう思わない 4) すごろく型教材に関する代表的な意見(自由記述) ・他のお母さんたちと思いを共有でき、普段は怒ることも笑い話になっていた。 ・普段感じていることを共有できてよかったです。共感って本当に大事なんだなと思います。 ・親同士のコミュニケーションをとるツールにもなって良かった。 ・自分はあまり体験していない事でも、目線が違えば「あるある」になるなと感じました。 ・とてもおもしろかった。今までやったことのない新しい企画でとてもよかった。 ・子育ての大変さやあるあるを、他のお母さん方と共有できるのってすばらしい。 ・とても楽しかったです。主人ともやってみたいです。ストレス発散にもなるなと思いました。 ・日々分刻みでゆっくり毎日を振り返る機会がなかったため、良いきっかけになりました。 ・子供の年齢に合っていなくて少し共感しずらい気がしました。 ・内容がお父さん目線すぎる。お母さん、祖父祖母だと入り込めない。 ・もう少し時間があれば、全部のコマ楽しめたかなと思う。 5) 保育園・こども園職員からの代表的な意見(自由記述) ・3 年間抽選に外れていたが、ようやく当選した。期待した通り多くの参加があった。 ・ポイントは押さえているが堅苦しくないので、親御さんが楽しんで参加してくれている。 ・2 回目だが、おもしろいという噂が保護者の間に広がり、当日を楽しみにしていた。 37 地域連携推進センター_2019第11号年報_CC19_本文.indd 37 2020/10/09 8:49