池田他 :イン ドネシア人看護師候補者への 日本語指導-ある病院での実践から- 15
インドネシア人看護師候補者への 日本語指導
-ある病院での実践から一
池田 敦史
1)深谷 計子
2) 堀場裕紀江3)Teac
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KeikoFUKAYA,hn 2) YbkieHORIBA,PhD 3)〔
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Thisreportdescribesamethod ofteachingJapaneseto Indonesian nursecandidateswho cam eto Japan through EPA
(
Economi cPartnershipA
greement)・Instrucdonconsistedofusingpastexaminadonsa
nd employing a variety oftechniques and strategies・Teaching techniques and strategies included breaking words and phrases down into their root forms,paraphrasing by usmg simple words
,
strengthening word knowledge (e.g.,word form adon,word associates),deepening knowledge about Japanesecultureand socie
t
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,developing awarenessofthebehaviorand lm guageexpected ofnurses,
andguessingfrom nonhguisdccontext・Basedonactual classroom pracdce,themethodofteachingas wenasspeci丘cdifficuldesencoun teredbythecandidatesaredescribed・〔
Keywor
ds〕
foreignnursecandidates,Indonesian,teachingJapanese,pracdcereport〔
要
旨〕
本稿では,経済連携協定 (EPA)により来 日したイン ドネシア人看護師候禰者 に対する日本語指導 につ いて,過去の看護師国家試験の問題 を使 って行 った 日本語指導の実践 に焦点 を当てて報告する。試験問題 の具体例 を挙げなが ら,語句の辞書形へ分解する,初級表現で言い換 える,語嚢力 (語構成,関連語など) をつける, 日本の文化社会知識 を増す,看護師 として不通切 な言動 に関する知識 を補 う,文脈以外か ら推 測する,等の指導の方法について説明 し,イン ドネシア人看護師候補者 にとって難 しい点について述べ る。〔
キーワーズ〕
外国人看護師候補者,イン ドネシア人, 日本語教育,実践Ⅰ.はじめに
2008年 8月に経済連携協定 (EPA)により来 日したイ ン ドネシア人看護師候補者 に とって,2011年の看護師 国家試験 は3回目となるが,合格 しなければ帰国を余儀 な くされる。彼 らは約半年間の基礎的な日本語教育 を受 けた後,各医療機関に配属 され,看護助手 として働 きな が ら看護師国家試験のための準備 に取 り組んでいる。本 稿 は,医療機 関 Ⅹ におけるイン ドネシア人看護師候補 者への 日本語指導 に関する実践報告である。 この医療機 関では 2009年 2月か ら候補者 5名 を受け入れ,その 日 本語お よび看護師国家試験対策のために日本語教師1名 と看護師1名が指導 に当たって きた。指導のためのカリ キュラム全体 については池 田他l)が既 に報告 した。本1)医療法人社団黄金千葉 ・相たなか病院 外国人就労支援童 AoikaiMedicalCorporadon,ChibaK舶hiwaTanakaHospital 2)聖路加看護大学 英語 st.Luke■sCouegeofNursing,Enghsh
3)神田外語大学大学院言語科学研究科 日本語教育 M aUnlVerSityofIntemadonalStudies,GradtnteSchoolofLanguageSQenCe 2010年11月5日 受理
16聖路加看護大学紀要 No.372011.3. 稿では,看護師国家試験対策のための 日本語教育の実践 に焦点を当て, とりわけ試験問題 に使われる日本語の扱 い方 と自律学習 を促進する指導の方法,社会文化的知識 の不足 を考慮 した読解の指導 について,実際に使 った試 験 問題の例 を挙 げなが ら報告す る (注 :当 レポー トは 2010年 8月の厚生労働省,有識者重点会 の答 申前 に作 成 された ものである)0
Ⅰ.
日本語指導方法 1.語句 を辞書形へ分解する 1)形態素への分解 外 国人看護師候補者 にとって学習の基本 は自主学習 と なるため,早期 に自分で辞書 を使 って調べ られる能力 を 養成する必要がある。 日本語の文は,英語のように単語 ごとに分かち書 きされていないため,まず,一つのこと ばに見える語 をどうやって最少の意味単位である形態素 に分解するかを教 えな くてはならない。ちなみに初級 日 本語の教科書では,
「朝か ら 雨が 降っている。
」のよ うに分かち書 きが されている。 中で も,試験問題で頻出するものに漢字語が挙げられ る。たとえば,
「空腹時高血糖」は辞書 に載 っていない。 これを 「空腹 +時+血糖 (値)が高い」のように分解 し て単語が 目に見えるようにすれば,辞書 を使 って意味を 兄いだすことができる。「自己+負担+割合」
「抗体 +量」 「静脈+内+投与」 も同様である。 2)形態素-の分解の過程での困難点 一方,
「要介護認定」の ように,構造的に 「要 +介護 +認定」であるが,それぞれ辞書で調べても単語が意味 することにた どり着かない もの もある。「要介護認定」 は専門用語 として一語である。特定の単語が一般的なも のか専門用語かを判断することが難 しい場合 もあるため, 一般辞書 と専門用語辞書の併用 を指導する必要がある。 複合動詞や使役形 ・受身形 についても形態素への分解 に注意が必要である。た とえば,
「起 こり得 る-起 こる +得 る」や 「手伝 って もらう-手伝 う+もらう」のよう に分けられる動詞 もあるが,
「受け止める」
「受け入れる」 「受け付 ける」 の ようにこれ以上分 け られない動詞 もあ る。 また,漢字 に 「長い」
「速い」 の ように送 り仮名が ついて1つの形態素 となることが多い。つまり仮名があ ればそこで単語が分かれる。そのことか ら 「利 き腕側 に お く」 という文 を 「利 き+脱側」 と誤って分ける場合 も 見 られた。 自主学習で きる能力 を養 うために,
「辞書 に載 ってい る形 にする」 ことをまず指導 し,わか らない単語は自分 で調べ,限られた授業時間をで きるだけ内容の説明に費 やす ようにした。2.
初級の表現に言い換 える 1)請,語句の言い換 え 試験 問題 に頻出する文法項 目として,「
∼における/ おいて」 (例 :我が国の平成19年 における死因順位第1 位 はどれか)や,
「∼に関する/関 して」が挙 げられる。 これ らはか しこまった状況,主に文章で用い られる表現 であるが,初級 レベルの 日本語学習者 には馴染みのない 表現である。慣 れない段階では,「
∼の,∼で」 など基 礎的な助詞で言い換 えて説明すると,学習者 にも理解 し やす くなる。 語 より少 し長い語句の場合 も同様である。「大地震後, 自家用車内での生活 を余儀 な くされた避難住民への肺塞 栓予 防の生活指導で適切 なのは どれか」 とい う文 中の「
∼を余儀 な くされた」 とい う表現 を「
∼をしなければ ならな くなった」 と言い換 え,
「心拍 出量が増加 してい るにもかかわらず心不全 に至るのはどれか」 という文中 の「
∼にもかかわらず」 を 「で も, しか し」 と言い換 え て説明すると,わか りやす くなる。 2)文の中の省略を補 う 日本語の文 には省略が多いため,
「誰が誰 に何 をした のか」が暖味になることがある。初級 日本語の教科書で は,学習者の理解 を促すために, 日本語 としては多少不 自然であっても 「私 は田中さんに傘 を貸 してもらいま し た」のように主語や 目的語など全 く省かない文で文法 を 導入 し,会話練習などを行 うことが多い。試験問題で使 われる日本語の文についても,省略 された部分 を明示化 することによって,文で表 されている内容がわか りやす くなる。以下はその例である。 「セルフケア行動継続への援助 で適切なのはどれか。」 1.目標評価 は看護師が行い患者に伝 える。2.
達成可能な目標 を看護師が立て患者に提示する。 3.行動の定着には習慣化が不可欠であることを伝 える。 4.それまでの経験は捨て新たな方法で取 り組むよう促す。 選択肢1-4
の 「伝 える,提示する,促す」 という述 語 に対する主語は,すべて 「看護師 (が)」 になるのだ が, 日本語の特徴 として, 3,4では省略 して も読み手 はわかる。I,2にあえて 「看護師が」 を明示 している のは,患者が主体的であるべ きセルフケアの意味を問う ている設問だか らと思われる。正解 は3
であ り,1,2
は 「看護師」が主語 になっているので誤 りとなる。3
は 「患者が行動 を定着 させ るためには,習慣 に しなければ ならない」 ということを 「看護師が伝 える」のように, 主語 を補い,言い直 して説明する。3.
語重力をつける 試験問題では様 々な内容が扱われることか ら,豊富な 語嚢知識が要求 される。そのためには,理解で きる語の 数 を増やす とともに, 1つの語がその他の語 とどういう池田他 :イン ドネシア人看護師候補者への 日本語指導-ある病院での実践から- 17 関係 を持 っているか, どの ような語 と一緒 に現 れること が多 いか等 の知識 を習得す る必要がある。 1)対 義語 試験 問題 には
,
「上昇す る」 とい う反応 が正 しい とこ ろ を 「水 溶性薬物 の血祭 濃度 が低 下す る」 の ように, 「上昇」 と 「低下」 を入れ替 えることで,
「誤 りの選択肢」 を作 成 してい る場合 が多 い。 「制 限 (す る)」 に対 して 「推 奨 (す る)
」 もしくは 「禁止 (す る)」,
「抑制」 に対 して 「促進,克進」,
「控 える,避 ける」 に対 して 「促す, 勧 める」等 ,対義語 を覚 えるように指導す る。 2)語の多義性 使用頻度の高い語 は多義語であることが多 い。例 えば, 「つ とめ る」 は 「便秘予 防 に努 め る」 とい う文で使 われ ているが,同 じ 「つ とめる」 とい う音 は 「勤 める,務 め る」 な どと表記 され,異 なる意味 を持つ ことがある。 こ れ らの違いは文脈 とともに覚 えるように指導す る。 また, 「問題 の原 田は1
つ に しぼる」 の中の 「しぼる」 は,
「タ オル を しぼる」 とい う既知表現 の意味 とは異 なる。 「し ぼる」 のいろいろな使 われ方 を例文 を挙 げて説明 した。 ことばの多義性 に関 しては,辞書 を参照 して も理解 で きない こ とが あ るので注意 したい。 「ス トレス下で分泌 されるホルモ ンは どれか」 とい う文では,
「ス トレス下」 とい う表現 は知 らないため,
「ス トレス を受 けてい る状 況 で」 と説 明す る。初級 日本語 で は 「下」 は位 置 的 な 「机 の下」 とい う意味で しか知 らず,
「法令上」
「業務上 疾病」 の 「上」 も同様 にわか らない。 3)連語 外 国人 に とって最 も習得が難 しい もの として連語が挙 げ られる。例 えば,
「寝返 りをうつ」や 「いび きをか く」 な どの ように 「寝返 り,いび き」 に対 して,共 に使 われ る動詞 があ る。 これ を 「うつ
」
「か く」 だけで辞書 を引 いて も意味がわか らない。 「寝返 りをうつ」 は 「寝返 り」 を 「す る」 ことである,の ように説明す る。他 に も 「影 響」 の場合 は,「
∼が 出る, ∼ を及 ぼす ,∼ を与 える, ∼を受 ける」 な ど共 に使 われる動詞があることを合 わせ て指導 した。 4)オノマ トペ 擬音語や擬態語 は,辞書 の定義 を読 んで も理解が難 し く,直接 に 日本 人か ら感覚的 に説明 を受 けたほ うが理解 しやす い こ とが多 い。例 えば,
「突然全 身が ガタガタす るけいれん を起 こ した」
「穿刺 す る前 に 「チ ク ッとす る よ」 と声 をか ける」 の文 中 にある 「ガタガク」
「チ ク ツ と」がある。 これ らは 日本人が感覚的 に身 につ けてい る 語嚢 ・表現 であるが,外 国人が辞書 で調べ て も意味がつ かみ に くい。 「チ ク ッと」 を 「ブス ッと, グサ ッと」 と 違 う語嚢で置 き換 える とまった く違 うニュア ンスになっ て しまう。痛 み を表す場合 も 「ガンガン,ズ キズ キ」 な ど多様 であ り,患者 の訴 えを聞 く際 に非常 に重要 な表現 である。 この ようなオノマ トペが出て きた場合 は,関係 す る表現 を一緒 に教 え,文で表 された行為 や状態が どの ように異 なるか理解 で きるように指導 した。 5)比倫的表現 「湯 を湯 たんぽの口まで入 れ る」
「椅子 に深 く腰掛 けて 背 もたれ に背 をあて る」
「眼の中 にカーテ ンが引 かれ た 感 じ」 な どでは,
「口」 も 「背」 も 「カーテ ン」 も 「引 く」 もそれぞれ既知語 で はあ るが,
「湯 たんぽのお湯 を 入 れ る ところ」
「椅子 の部分」
「カーテ ンを閉めた状態」 と,候補者 の知 らない表現 として使 われているので,気 をつ けて覚 える よう指導す る。 「胃 もたれ」 か ら類推 し て,
「背 もたれ」 も何 らかの体 の症状 と勘違 い してい た ケースがあった。 4.日本の文化知識 を増 す 1)食事 食材 は文化 によって さまざまであ る。候補者 に とって は 日本 に来 て初 めて見 た食材が少 な くない。そ こで, 日 本特有 の食 品 についての語嚢 を増 やす ため,食事介助 の 業務 時 に関心 を持 って食材 を観察 し, メニュー カー ドな どか らメモす る習慣 をつけ させ た。薬 との相互作用 や検 査前 の禁忌食 として試験 に頻 出の 「納豆」 や 「ひ じき」 な どは母 国で馴染 みのない食材 なので,意識 して覚 える よう指導 した。 食習慣 も文化 によって異 なる。候補者 の多 くはイスラ ム教徒 であ り, イス ラム教徒 は飲 酒 を しない。 また,慕 教 が異 なって もイ ン ドネシアでは女性 の飲酒が珍 しいた め,飲酒習慣 については説明が必要である。彼 らは,ビー ル,焼酎, またはウ イスキーな ど, どの種類 のアル コー ル飲料が どの程度 な ら大量 の飲 酒癖 として見 なされるか な どを知 らない。 また 日本酒であれば一合 ,二合 ,一升 と日本独特 の単位で呼ぶ ことも指導 の必要がある。 2)住居 住居 も国 に よって違 いが あ る。在 宅看 護 の領域 で は 「玄 関の間Uの広 さ」
「廊 下の床 の状態」 な ど患者 の家 の 構 造 についての出題がある。東南 アジア諸 国で は一般的 に浴室 に浴槽 はな く,多 くの場合 , トイ レと併設 されて いることが多 いなどの特徴がある。問題 を解 く鍵 として, 他 国 と違 って 日本で は玄関 また敷居 に も段差 があ り転倒 の危 険性 があることを提示す る必要がある。 また一戸建 て,公営住宅,マ ンシ ョンな どの集合住宅,隣近所 との 関係 な ど 「住」 に関す る 日本事情 の ほか,
「高齢者独居 世帯」
「孤独死」 な ど住宅 関連 の問題 について も説 明が 必要 である。 3)電化製品 電化製 品の普及 もそれぞれの国に気候 や文化 によって 異 なる。パ ソコン,電気毛布 ,ホ ッ トカーペ ッ ト,電磁 調理器,I
C レコー ダーはいず れ も日本 の一般家庭 に見18 聖路加看護大学紀要 No.372011.3. られるが,イン ドネシアの家庭ではパ ソコン以外は見る ことはない。 このような日本の一般家庭 における常識的 な家財道具なども授業の中で触れるべ きであろう。 4)家族 家族の単位 もイン ドネシアと日本では異なる。イン ド ネシアの場合は,場所や家族 にもよるが, 1カ月あるい は数 カ月に一度全点で集 まり,いわゆる 「講」のような 相互扶助活動 も行われる。「(羊水検査 について)親族会 議で決定することを勧 める」 という設問に対 して,核家 族化が進み,家族 ・親戚関係が一般的にはあまり緊密で な くなった日本社会 において 「親族会議」 を開いて物事 を決めることはほとんどないことを説明 してお く必要が ある。 また,最近,児童虐待や高齢者虐待の家族関係 に ついての設問があるが,こういった家庭 は一般的ではな いがたまにあるケースなので,「こんなことはイン ドネ シアではあ り得 ないか ら問題が間違 っている」 という先 入観 を捨てて問題 を解かせ, 日頃のニュースで取 り上げ られる虐待 などの話題 を授業の中で取 り入れることが, 状況設定問題 を解 くヒン トにもなる。 5.着講師 としての不適切な言動に関する知識 を補 う 看護師 としての不適切な言動 を問 う設問では,専 門知 識の使用の不適切 さではな く, 日本語表現の不適切 さか ら正解 を判断 しな くてはならないことがある。 日本語の 微妙なニュアンスの違いは外国人にとって非常に難 しい。 看護師の不適切 な言動 を示す設問 として