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<論文>韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米FTAの影響

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(1)商経学叢 第61巻第2号 2014年12月 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). 韓国エレクトロニクス業界を事例にした 韓米 FTA の影響 李. 兌. 賢. 要旨 本稿は, 韓米 FTA における協定関税率と両国の貿易統計資料を用いながら, 韓米 FTA 発効の効果と, 韓米 FTA が韓国家電メーカーに及ぼす影響を分析することを研究の 目的としている。 とりわけ, 韓米 FTA 以降の対米輸出は前年比1.3%増加し, 対米輸入は 8.9%減少した。 この輸出拡大に支えられ, 対米貿易黒字は前年同期比4 9億ドル増加の1 65.7 億ドルを記録した。また,家電製品の場合,現地生産化により大きな影響は生じないが,物 流通関システムの先進化と原材料の値上げなどで,韓国製品の競争力が上昇することが期待 されるのである。 キーワード 韓米 FTA,輸出競合度,韓国エレクトロニクス業界 原稿受理日 2014年9月30日. Abstract I analyzed them about the effect of Korea US FTA and the influence given to the Korea home-appliance maker by using tariff rate in the Korea U.S. FTA and the trade statistics document of the two countries in this report. As a result of analysis, the export after the Korea U.S. FTA to U.S. increased 1.3%, and the import to U.S. decreased 8.9% compared with the previous year, supported by export expansion, the trade to U.S. recorded 16,570 million dollars of the 4,900 million dollars increase from the year before. In addition, the household electrical appliance does not have big influence by becoming a local production but we can expect the competitiveness of the Korean product rises by last evolution of the distribution entry system and the raise of raw materials. . 127( ) 421 ─ ─ .

(2) 第61巻 第2号. は じ め に. 国際通商環境では,グローバルな生産ネットワークの展開により,輸出入のためのシス テムから貿易と投資およびサービスが有機的に接続されたシステムに進化してきた。しか し,このような国際通商環境の変化が WTO 体制では十分に反映されないため,多くの先 進国は WTO から自由貿易協定(FTA)へと移行している。 狭い領土で天然資源に乏しいことから,貿易立国を目指して経済発展を遂げてきた韓国 では,世界市場に向けての輸出拡大のみに自国の経済動向が大きく左右される。韓国の国 家戦略の基軸となる輸出戦略として,2008年の金融危機以降「輸出拡大政策」が展開され ている。韓国政府は,基本的に世界市場を成熟,成長,潜在市場という三種類に分類し, 差別化を図るためにそれぞれの市場ごとに戦略を変えるとともに,各市場において国家の 総力をあげた輸出戦略を展開してきた。韓国政府は,既にブランドイメージが定着してい る成熟市場より,これからその効果が大きくなると期待される成長市場である新興国市場 に集中的に資金を投入し,韓国ブランドの宣伝と定着を国家の優先戦略と位置づけている。 この戦略は順調に進行し,サムスン電子や LG 電子は家電製品や携帯電話,そして,現代 自動車は乗用車などにおいてこのような新興国市場で高いマーケットシェアを獲得してい るのである。他方,成熟市場に進出する場合には,さらに強力な支援策が加味される。ま ず国家戦略として FTA を駆使して,低関税率の地域を作りだし,自国の輸出企業が支援 されている。 JETRO(2 012)によると,1990年以前に発効された FTA は全世界でわずか1 6件であっ たが,90年代の10年間に50件に増加し,2 000年以降には,150件を超えて,2012年9月で は,398件の FTA が存在する。現在,多くの FTA が交渉中,あるいは,発効を待ってい る状況であるが,とりわけ,韓国との FTA に関する取り組みは積極的である。韓国はチ リ(2004年4月に発効)をはじめに,次々と FTA 交渉を進め,2012年3月に,世界の国・ 地域の国内・域内総生産(GDP)の23%を占める経済大国である米国と FTA を発効させ た。しかし,韓国の FTA は,米国などとの二国間 FTA を競合相手国に先駆けて締結す るまでは,ほとんど話題にならなかった。また,韓米 FTA が世界の政治・経済において 指導的立場を占める米国を対象とした本格的な FTA であることから,その妥結を契機と して韓国の対外経済政策において FTA の重要性は一段と高まった。韓国の対外経済政策 研究院を含む1 0カ所の FTA 研究機関の共同分析 では,韓米 FTA の発効により韓国の 128( ) 422 ─ ─ .

(3) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). 長期的な実質 GDP は5.7%増加し,雇用では長期的に約35万人増加し,そして,その発効 後15年間で対米貿易収支は年平均1.4億ドルの黒字が増大することが見込まれている。ま た,関税撤廃による価格の低下と消費者の選択幅拡大により,短期の5.3億ドルから長期の 321.9億ドルに増加することが予測されるのである。 韓米 FTA に先駆けて2011年に発効した韓 EU FTA では, 韓国において雇用は24万人 増加し, 対 EU 貿易黒字に関して輸出が25.37億ドル増加し, 輸入が2 1.75億ドル増加し, 差し引き3.61億ドルの増加が生じた。その内訳は,その多くが製造業で生じ,輸出は2 5.20 億ドルの増加,輸入は21.25億ドルの増加となり,差し引きとして3.95億ドルの増加が見込 まれる。韓 EU FTA の発効では,韓国の製造業においての対 EU 輸出の増加が期待され るのである。さらに,製造業の中でも,業種別対 EU 輸出の増加をみれば,自動車(部品 を含む)が14.07億ドルであり, 圧倒的な規模を示しているのに対して, 電気電子製品は 3.94億ドルであり,自動車の3 0%弱に過ぎなかった。その理由は,電気電子製品は現地化 が相当進んでいること,ならびに FTA 締結前から関税のかからない非関税品目が多いた め,FTA 効果が小さいことがあげられる。 グローバル経済危機後,韓国の輸出が減少に転じたにもかかわらず,米国向け輸出や貿 易収支の黒字が大幅に伸びた主要な原因として韓米 FTA が取りあげられるほど,同協定 は韓国経済に大きく貢献している。しかし,近年,日本や EU などが最大市場の米国を対 象とした FTA に積極的に取り組み,グローバルな通商環境が急速に変わっているため, 韓米 FTA による先発優位を最大限に引き出すためには対策も必要であるという指摘もあ る。また,2 012年半ばから,ウォン高の基調が続き,韓国の輸出企業の採算が悪化すると いう懸念が高まっている。ウォン相場は既に家電製品や半導体の採算水準を上回って推移 しており, 輸出するほど損失が出るケースも発生している。このため, FTA が韓国の輸 出企業に影響を及ぼさないかという懸念もある。 本稿では,韓米 FTA における協定関税率と両国の貿易統計資料 を用いながら,韓米 FTA 発効の効果,特に韓米 FTA が韓国エレクトロニクス業界に及ぼす影響を明らかにする。.  対外経済政策研究院・労働研究院・農村経済研究院・海洋水産開発院・情報通信政策研究院・ 放送委員会・韓国文化観光研究院・金融研究院・保険産業振興院・韓国開発研究院(2 011)「韓 米 FTA の経済的効果分析」 『国会韓米 FTA 特別委員会報告資料』 。  韓国外交通商部ホームページ(www.mofat.go.kr) 。  小林英夫ほか(2012)『現代がトヨタを超えるとき』ちくま新書, pp.106110, 小林英夫ほか (2012)『世界を疾走する韓国経済の裏側』ビジネス社 pp.1223。  分析では,韓米 FTA の発効以降の1年間のデータを使用している。. 129( ) 423 ─ ─ .

(4) 第61巻 第2号. 1 為替相場の変動と日韓の輸出競合関係. 韓国は特定少数の財閥系企業が経済の多くの分野を占める経済体制である。国内市場は 人口ほぼ5,000万人でそれほど大きいとは言えない。また,北朝鮮と臨戦態勢にある現状に おいて,サムスン電子や現代自動車のような強力な輸出企業が外貨を稼いで,韓国経済を 強くすることが期待されている。このため,韓国政府は,様々な局面で有力企業を支援し てきた。たとえば,韓国の政策当局は為替市場においてウォン売りの介入を行い,政策的 にウォン安を続けた。これまで,サムスン電子は政府から有形無形の支援を受けながら, 目的整合的な強力なキャッチアップ戦略で企業組織を構築してきた。その結果が,スマー トフォンやタブレット PC ,さらには,液晶,半導体,テレビ事業などの成功に繋がった のである。 2012年以降, 韓国は急速なウォン高・円安に見舞われている。同年1 0月に1 00円=1,500 ウォン台まで移行していたウォン・円レートは,同年12月に,1,200円台,2013年1月に, 1,100ウォン台,5月には,1,000ウォン台に上昇した(図1参照)。世界各国の量的緩和や 金利引き下げなどにより,大規模な為替操作が繰り広げられることから,韓国の輸出商品 の価格競争力が弱体化し,輸出企業が大きな打撃をうけることが懸念される。 2013年2月に韓国の知識経済省が発表した貿易統計によれば,貿易収支が20億6,100ドル の黒字であり,13カ月連続で黒字を続けた。その内訳は前年同月に比べて,輸出が8.6%, 輸入は1 0.7%減少しており,輸出より輸入の減少幅が大きかったことによる不況型の黒字 である。項目別に見ると,輸出では,船舶が4 0.3%,自動車が15.1%,一般機械が15.1%減 少するなど,主力輸出品は二桁の減少率であるのに対して,無線通信機器が10.2%,石油 化学が7.8%増加している。この点,為替相場の変動による影響に時差が生じることを考 えると,円安は,韓国の輸出だけでなくて,今後の経済成長率を抑制するものと危険視し されている。 韓国政府は, 総額17億3,000億ウォン(約1兆5,000億円)の追加補正予算案 を発表し,円安の影響を受ける現代自動車やサムスン電子など輸出依存型の韓国企業にお いて,海外での製品価格の上昇により業績の伸びが阻害される中,雇用の創出,景気の刺 激を図るとともに, 円安に対する企業の対応を支援している。2012年に,貿易依存度が  韓国は元々財閥など一部の有力企業が全体経済に占める割合が大きいのが特徴である。上位10 社の資産の割合は6 8.7%に達するため, 大手1社だけでも経営状況が変化した場合の影響は大き い。  経済知識省対外交易の資料,http://www.itstat.go.kr。. 424 ─ 130( ) ─ .

(5) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). 112%に達している韓国経済は, 為替相場の変動に大きくゆさぶられている。 このような ウォン高・円安の状況においても,サムスン電子の2013年1~3月期の連結決算は,前年 同期比で売上高が1 7%増加の5 2兆8,700億ウォン, 営業利益が5 4%増加の8兆7,800億ウォ ン,純利益は42%増加の7億1,500億ウォンである。アップルとの特許訴訟に関連して引 当金を計上したこともあり,最高益は更新できなかったが,スマートフォンの販売は好調 で,IT 部門が全体の業績をけん引した。 半導体部門では,パソコン用 DRAM の価格が 上昇し,ディスプレイ部門でも,スマートフォン用の有機 EL パネルが好調で,いずれも 利益が回復しているのに対して,家電部門では減少している。ウォン高がある程度の減益 要因になったが,スマートフォンなどの販売増加がこれを相殺したのである。ウォン高の 中で, サムスン電子は, 製造装置や材料の多くを日本などから輸入するほか,主力のス マートフォンの製造の多くをベトナムなどの海外に移転させるなど,為替変動リスクへの 対応を進めている。しかし,自動車メーカーの海外生産比率はまだ40%台にとどまり,遅 れが目立つ。この点,スマートフォンと半導体で世界トップクラスにあるサムスン電子に 比べて,他社にはこのような競争力がない。また,韓国の輸出依存型企業は,日本企業と 比べて,全体としては品質や技術のような価格以外の競争力が不足している。韓国の輸出 依存型企業にとって競争相手は日本企業であり,その中でも自動車メーカーは日本企業に 比べて技術力などで見劣りしている。 たとえば,苦戦を強いられているのが現代自動車 で, 中国を中心に世界販売台数が117万台(傘下の起亜自動車を除く)であり,前年に比 べて8%増加したにもかかわらず,同社の1~3月期の営業利益は,前年同期に比べて全 体では11%減少した。競争力の低下で利益率が減少したことに加えて,海外での売上高が ウォン換算で目減りしたことがその要因である。 ウォン高の最大の原因は,米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和第3弾(QE3)に 乗り出したのをはじめ,先進国の中央銀行が景気を下支えするために,事実上,無制限に 資金を供給しているからである。このようにして供給された資金は,アジアをはじめとす る新興国に流入し,新興国の通貨価値を無理に押し上げている。とりわけ,韓国は国家格 付けの上昇により外貨が大量に流入し,その結果,通貨高のベースが他の新興国に比べて 速い。ウォン高がさらに進めば,輸出がさらに厳しくなり,輸出に過度に依存している韓  中央日報国際経済貿易,http://money.joins.com。  苦戦を強いられているのが現代自動車で,同社の1~3月期の営業利益は,中国を中心に世界 販売台数が117万台(傘下の起亜自動車を除く)と前年比で8%増加したにもかかわらず, 前年 同期に比べて11%減少している。競争力の低下により収益率が下がったうえ, 海外の売上高が ウォン換算で目減りした。また,米国での燃費の水増し表示によるイメージダウンなども影響し ている。. 131( ) 425 ─ ─ .

(6) 第61巻 第2号. 国経済の回復は遅れざるを得ない。また,2012年9月の安倍内閣の発足以降の積極的な通 貨緩和政策による急激な円安がウォン高と重なっている。このような日韓の為替相場の相 反した動きは,両国間での輸出製品の競合が高いことを考慮すると,韓国の輸出に少なか らぬマイナスの影響が出ると懸念されている。. 図1 ドルと円に対するウォンの相場の推移. (注)レートは月末値。 (出所)韓国銀行 Economic Statistics System(http://ecos.bok.or.kr)。. 韓国のトップ100社の輸出品目(HS6桁)のうち,約半数が日本のトップ1 00の輸出品目 (HS6桁)と重複しており,2012年では半分に近い49品目に達している。また,同品目の 輸出が韓国の総輸出の50%以上を占めている(表1参照)。 なお,世界市場でも,韓国と日本の輸出競合度(ESI:Export Similarity Index) は, 2008年0.456から2011年0.486まで上昇し,20 12年には少し下落して0.481を記録した。しか し,全体としては上昇傾向にある(図2参照)。品目別では,従来から石油製品,船舶, 輸送機械などで競合度が高い。また,最近,競合度が高くなった品目には,非電気機械, 金属,化学製品などがある。乗用車を含む輸送機械の競合度は,2009年に,0.611まで減少 したが,2 012年には0.627まで増大した。2 010年以降,非電気機械(0.556)や化学製品 (0.506)の競合度が相対的に大きく増大して,電気機械の競合も持続な増大傾向にある (表2参照)。  ESI( Export Similarity Index )とは二国間の輸出構造の類似性(競合度)を表す指数で, 1に近づくほど競合度が高く0に近づくほど競合関係にない(補完関係にある)ことを表す。. 426 ─ 132( ) ─ .

(7) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李) 表1 韓国と日本の100大輸出品目の中で重複されている品目 2008年. 2011年. 2012年. 重複品目数. 43品目. 50品目. 49品目. 重複品目の輸出比率. 43.2%. 51.5%. 51.4%. (注)HS6単位で計算。 (出所)韓国貿易協会より作成。. 図2 日韓の輸出競合度(ESI)の推移. (注)HS6単位で計算。 (出所)韓国貿易協会より作成。. 表2 日韓品目別輸出競合度(ESI)の推移 品目. 2007. 2008. 2009. 2010. 2011. 2012. 石油製品. 0.905. 0.900. 0.853. 0.920. 0.898. 0.870. 船舶. 0.783. 0.719. 0.706. 0.759. 0.643. 0.657. 輸送機械. 0.656. 0.649. 0.611. 0.625. 0.614. 0.627. 非電気機械. 0.501. 0.522. 0.489. 0.518. 0.553. 0.556. 皮・ゴム. 0.586. 0.558. 0.581. 0.578. 0.558. 0.555. 金属 (鉄鋼包含). 0.512. 0.531. 0.495. 0.547. 0.548. 0.537. 化学製品. 0.488. 0.476. 0.482. 0.490. 0.489. 0.506. 電気機械. 0.456. 0.452. 0.470. 0.497. 0.480. 0.490. 繊維・衣類. 0.451. 0.467. 0.452. 0.445. 0.459. 0.447. 木材・紙製品. 0.113. 0.429. 0.432. 0.439. 0.423. 0.419. 全体品目. 0.461. 0.456. 0.469. 0.479. 0.481. 0.401. (注)HS6単位基準で計算。 (出所)UN comtrade,韓国貿易協会より作成。. 133( ) 427 ─ ─ .

(8) 第61巻 第2号. 2 韓米 FTA 発効以降の経済効果. 2010年以降,韓国の対米輸出はその比率をやや減少させたが,依然として増加傾向が続 き,2013年の輸出も2.4%というように緩やかな増加を実現している。他方,韓国の対米輸 入は,2009年に金融危機の余波で大幅に減少し,2012年に再びマイナスを記録し,2013年 も減少傾向は続いている。また,対米貿易収支は,2008年の金融危機以降,黒字増加傾向 が続き,201 2年度には輸出増加と輸入減少を背景に1 51.8億ドルの黒字を達成した。このた め,2012年の対米貿易収支の黒字は,2011年の116.4億ドルから35.4億ドル増加した。. 表3 対米貿易動向 (単位:億ドル,%) 年度. 2007年. 2008年. 2012年. 2013年 1~2月. 585.3. 99.8. (1.3) (-18.8). (32.3). (2.8). (4.1). (2.4). 372.2. 38 3.6. 290.4. 445.7. 434.4. 66.9. (10.6). (3.1) (-24.3). (39.1). (10.3). 829.9. 847.4. 902.2. (8.0). (2.1) (-21.3). 貿易収支. 85.5. 80.1. 増減額. -9.8. -5.3. 交易. (6.0). 376.5. 2011年 562.1. 輸入. 463.8. 2010年 498.2. 輸出. 457.7. 2009年. 290.4. 666.9. 1,007.8. -(2.8) (-14.6) 1,018.7. 166.7. (35.3). (11.7). (1.1). (-5.2). 86.1. 94.1. 116.4. 151.8. 32.9. 6.0. 8.0. 22.3. 35.4. 13.8. (注)( )は前年同期対比増加率。 (出所)韓国貿易協会,関税庁の統計より作成。. なお,内訳として,対米輸出は主として自動車,IT,石油製品,鉄鋼,機械などの工業 製品であり,輸入は半導体や半導体製造用装置,精密化学原料など一部の最先端の製品と, 穀物類,畜産品,飼料などで構成されている。2012年では,無線通信機器や半導体などの 一部の IT 製品と機械を除いて, 工業製品の輸入は大幅に減少している。ここで,韓米 FTA 発効以降の対米貿易において,韓米 FTA 以降の1年間の対米輸出は,前年同期に比 べて1.3%増加した。 他方, 輸入は8.9%減少し, 輸出の増加と輸入の減少により, 対米貿 易収支は49億ドル増加の166.7億ドルを記録した。これは,韓米 FTA が発効された2 012年 3月から2013年2月の対世界輸出の伸び率を上回った。 なお,韓米 FTA が発効日を基準とした2 012年3月から2013年2月までの統計において も,対米輸出は1.4%増加し,輸入は9.1%減少したのである。 428 ─ 134( ) ─ .

(9) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李) 表4 韓米 FTA 発効以降の対米貿易状況(単位:億ドル,%) 2011.3月~2012.2月. 2012.3月~2013.2月. FTA 発効以降. 金 額. 金 額. 増減率. 金 額. 増減率. 輸出. 580.0. 587.7. 1.3. 570. 1.4. 輸入. 463.2. 421.9. -8.9. 399. -9.1. 貿易収支. 116.7. 165.7. 42.1. 172. 39.1. (注)前年度同期非増加率。 (出所)韓国貿易協会,関税庁の貿易統計より作成。. 全体の基調として,韓国全体の輸出が不振であるのに対して,対米輸出は着実な増加傾 向を示していた。2012年3月から2013年2月までの対世界輸出は,前年同期に比べて2.0% 減少した。それに対して,対米輸出は1.3%増加した。このため,韓国全体の輸入規模は 縮小しているけれども,対米輸入はより大幅に減少している。なお,2012年3月から2013 年2月まで韓国の対世界輸入は3.4%減少したが,既に述べたように,対米輸入は,前年同 期に比べて8.9%減少した。 また,国別では,韓米 FTA の発効以降,対米,対中および対 ASEAN との貿易黒字が 大幅に増加し,これに伴って,対世界貿易収支も,前年同期に比べて67.6%増加し,319.1 億ドルを記録した。なお,2012年3月から2013年2月の対米貿易黒字は,前年同期に比べ て8.9%増加し,1 65.7億ドル,対中黒字は71.1%増加し551.8億ドル,そして,対 ASEAN 黒字は8 1.0%増加し,283.1億ドルを記録した。 韓米 FTA の効果をより詳細に分析するためには,韓国の輸出よりも,米国の輸入での FTA の効果を確認する必要がある。 とりわけ米国市場での競争相手国との比較において 相対的な効果を確認することが重要である。これに関して,韓米 FTA についての米国側  を基準に作成されているため,韓国の の公表資料は,米国の HS コード8桁(HTSUS)  では,その品目の関税が引き下げられた関税品目か否か 輸出統計( HSK コード10桁 S ). の正確な判断が困難である。このため,米国側の HS コードで作成された米国側の輸入統  同一期間において,韓国最大の相手国である中国に対する輸出は0.7%増加し,対 ASEAN 輸 出は9.2%と高い伸びを実現した。反面,対日輸出と対 EU 輸出はそれぞれ5.8%,10.3%減少し た。主要新興国への輸出はロシアへの輸出は7.8%,インドやブラジルへの輸出はそれぞれ3.8%, 17.3%減少している(韓国貿易協会,関税庁の輸出統計データ)。  同一期間の主な資源の輸入相手国の中で, 主に原油を輸入している GCC 諸国からの輸入は 4.8%増加し,天然カスを輸入する対ロシアの輸入は1.1%, 主な輸入相手国である中国, 日本か らの輸入は,それぞれ7.3%,7.9%減少した(韓国貿易協会輸入統計データ)。  アメリカ合衆国統一商品名やコードシステム(HTSUS: Harmonized Tariff Schedule of the United States)。  大韓民国(HSK: Harmonized Tariff Schedule of Korea) 。. 135( ) 429 ─ ─ .

(10) 第61巻 第2号. 計を,韓米 FTA の米国側の公表資料と関連させることによって,品目別に韓米 FTA に より関税引き下げが行われたかどうかが判断されるのである。また,米国市場における需 要の変化を反映するための枠組みを活用して,米国全体の輸入が検討され,さらに,米国 市場内での競争国(日本,中国,台湾)にもこれを適用して FTA の相対的な有効性が分 析される。 韓米 FTA 発効後, 米国の対韓輸入品目は大幅に関税を引き下げる FTA 関税品目と非 関税品目に分類されるが,FTA 関税品目は,2012年3月15日の韓米 FTA 発効後に,米国 の対韓国の輸入時の関税を引き下げられたり,撤廃されたりした品目群である。それに対 して, FTA 非関税品目には, 無関税品目も含まれるが,一定期間にわたり関税が維持さ れている品目などであり,韓米 FTA 発効後にも米国の対韓輸入時に関税の変化がない品 目群である。景気低迷の長期化で韓国の輸出環境が悪化している状況下で,2012年3月か ら12月までに,FTA 関税品目の輸出は14.6%増加した。その一方で,同期間の FTA 非関 税品目の輸出は2.9%減少した。このような FTA 関税品目と非関税品目における相反した 輸出の成果から,韓米 FTA の関税撤廃効果が韓国の輸出に肯定的な役割を果たしたと考 えられる。また,韓米 FTA の米国側での開放を,米国輸入市場で競争している主要国と の貿易と比較して, FTA 関税品目別輸出効果(米国の輸入実績)を分析した結果,FTA 関税品目群で韓国の対米輸出の成果が相対的に大きかった。 FTA 関税品目群の場合, 韓 米 FTA 発効以降の対米輸出(米国の対韓国輸入)は,前年同期に比べて1 4.6%増加し, 同一期間での同一品目に日本の対米輸出(米国の対日本輸入)は13.0%,中国は6.9%,台 湾は8.5%増加し,韓国の輸出増加率が最も大きい。その一方で,同期間での FTA 関税品 目群に対する米国側の輸入規模は0.4%減少した。. 表5 FTA 関税別対米輸出動向(米国の対韓国輸入動向)(単位:%). 年度. FTA 発効以後 2012年3月~2012年12月. 2011年3月~12月 金額(億ドル). 金額(億ドル). 増減率(%). 比率(%). FTA 関税品目 . 157.2. 18 0.1. 14.6. 36.1. FTA 非関税品目. 328.6. 319.0. -2.9. 63.9. 全体. 485.8. 499.1. 2.7. 100.0. (出所)韓国貿易協会,US ITC の貿易データより作成。. また,業種別では,自動車部品,石油化学,一般機械,繊維,靴,石油製品,一次産品 や加工品などのほとんどの産業において,韓米 FTA 関税品目を中心に対米輸出が拡大し 430 ─ 136( ) ─ .

(11) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). た。それに対して,電気電子業種の場合,同一期間で FTA 関税品目は4.2%増加したが, FTA 非関税品目は26.4%減少するという大きな不振を見せた。. 表6 韓米 FTA 発効以降の韓米 FTA 関税別対米輸出成果(単位:%) FTA 発効以後(2012年3月~12月)米国の対韓輸出増加率 業界 全体. FTA 関税品目. FTA 非関税品目. 全体. 2.7. 14.6. -2.9. 自動車部品. 25.0. 25.5. -6.9. 石油化学. 3.8. 18.9. -4.3. 電気電子. -21.9. 4.2. -26.4. 一般機械. 6.5. 14.1. 2.7. 繊維・衣類・靴. 4.5. 4.3. 5.8. 繊維. 9.0. 9.1. 8.2. 衣類. 27.0. 28.9. 22.2. -11.7. -11.1. -96.8. 繊維製品. 1.5. 2.2. -0.2. 石油製品. 32.8. 2.8 3. ―. タイヤ. 7.6. 7.3. 42.3. 食品(一次産業とその加工品). 6.5. 11.8. -2.2. 靴. (出所)韓国貿易学会輸出入統計データより作成。. 3 韓国エレクトロニクス業界の世界市場への進出. 韓国のエレクトロニクス業界は,ラジオの生産を中心に1960年代にスタートした。1960 年代後半には, 金星社(現:LG 電子)や,サムスン電子などが主に日本メーカーからの 技術を導入し,白黒テレビの生産を開始し,生産初期段階から輸出も実施した。1970年代 に,韓国資本の企業投資割合が大きくなり,製造や技術開発の経験により知的資源が蓄積 され,高度成長が始まった。1 980年代には, 大企業の本格的な参入とともに,半導体や VTR などの大規模投資による事業が創造され,飛躍的な成長が達成された。1 990年代に は,エレクトロニクス業界は,高付加価値製品の携帯電話機などで海外直接投資を行い, 成長への道を探った。1990年代中頃まで,韓国のエレクトロニクス業界は,カラー TV, VTR ,CD Player など低機能な家電製品中心の産業構造であったが,メモリー半導体, ディスプレイ(TFT-LCD) ,携帯電話機,DVD Player,デジタル TV など高機能な付加 137( ) 431 ─ ─ .

(12) 第61巻 第2号. 価値製品へと急速に移行した。 韓国経済では,かつては鉄鋼や造船などの重工業がリードしてきたが,現在では,半導 体,携帯電話,ディスプレイ( TFT-LCD )などのエレクトロニクス業界がリードしてい る。このため,液晶テレビ,大型液晶パネル,フラッシュメモリ,携帯電話などの主要 製品のグローバルマーケットシェアにおいて,韓国エレクトロニクス業界をリードするサ ムスン電子と LG 電子が上位3位以内に入っている。特に韓国の躍進を象徴するのが,次 章でより詳細に検討するサムスン電子である。韓国の大手7グループ(サムスン電子,現 代自動車,ポスコ,SK テレコム,現代重工業,LG 電子,大韓航空)の連結営業利益の 合計は約12兆3,800億ウォン(約1兆1,160億円)であり,その7割はサムスン電子による ものであることからも,韓国の GDP の2 2%を生み出すサムスン電子のパワーは韓国の現 在を象徴していると考えられる。 サムスン電子の主力部門は半導体であり,これを内包した携帯電話部門全体の業績では, 売上台数は約3億台に達し,その中でのスマートフォンの販売台数は約1億台であり,米 アップル社の8,000万台を大きく上回る。後発のメーカーであるサムスン電子が,日本を抜 いて世界トップに躍り出た要因の一つには日本からの技術導入がある。1960年代にサムス ン電子が電子事業をスタートさせた当初,日本から技術者の支援があった。日本からの技 術導入は,「週末技術者」と「ムーンナイト」と呼ばれる方法により遂行された。「週末技 術者」は,「80年代初め,日本の半導体技術者を,毎週韓国に招聘して,接待をしながら, 彼らから半導体の技術を学ぶ」というものであり,「週末になると, このような日本人技 術者で韓国行きの飛行機は満席になった」のである。「ムーンナイト」では,サムスン電 子は,日本に研究所を開設し,そこに日本人技術者を呼び,韓国人技術者に技術を習得さ せた。現在では,日本人技術者の重要性は以前と比べて低下している。また,日本人技術 者はスマートフォン設計などのような重要プロジェクトには参加させない。なぜなら,サ ムスンの技術が外部に,とくに日本に流出するのを恐れるからである。現在でも,サムス ン電子で多くの日本人が働いているが,彼らの職場は主に製造部門である。サムスン電子 は多くの日本製製造機械を使用している。彼らは,日本製製造機械の使い方を韓国人技術 者に教えている。このようにして,1990年以降,サムスン電子は,DRAM やナンドフラッ シュの分野において,日本勢を寄せ付けない強さで,世界市場でのシェアを拡大した。そ  朴英元(2011)「韓国企業のグローバル成長戦略と FTA 」東京大学ものづくり経営研究セン ター,pp.3036。  サムスングループの年間輸出額は約1100億ドルで,2011年の韓国輸出額の22%を占めている。 サムスングループの主力会社であるサムスン電子の2011年の売上高が約650億ドルで, グループ 全体の約60%を占めている。なお,GDP は2010年基準(日本経済新聞,2013年5月5日)。. 432 ─ 138( ) ─ .

(13) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). して,米アップル社の iPhone と世界のトップを争う地位にまで到達したのである。 なお,韓国企業と米国企業, たとえば, アップルとサムスン電子の決定的な相違は, OEM に頼るアップルとは対照的に,サムスン電子は自社の生産拠点を世界中に持ち,各 地域や国の市場に合った製品を迅速に生産・販売していることである。とりわけ,海外進 出時には,必ず自社の系列部品企業を随伴して進出し,品質確保に努めている。 表7は,2012年のスマートフォンの世界シェアの推移である。 世界的な市場調査会社 IDC の調査によると,サムスン電子は,アップルの iPhone を超えて,2 012年に世界の トップに達している。. 表7 2011年と2012年のスマートフォンの市場シェア(単位:百万台) 製造社. 2011年 出荷量. 2011年 市場シェア. 2012年 出荷量. 2012年 市場シェア. 年 間 成長率. Samsung. 28.1. 22.7%. 56.3. 31.3%. 100.4%. Apple. 17.1. 13.8%. 26.9. 15.0%. 57.3%. RIM. 11.8. 9.6%. 7.7. 4.3%. -34.7%. ZIE. 4.1. 3.3%. 7.5. 4.2%. 82.9%. HTI. 12.7. 10.3%. 7.3. 4.0%. -42.5%. その他. 49.9. 40.3%. 74.0. 41.2%. 48.3%. 総合. 123.7. 100.0%. 179.7. 100.0%. 45.3%. (出所)IDC(Internet data center)より作成。. また,米国市場調査会社 SA によると,サムスン電子が2 012年の第3四半期(7~9月) に米国の第4世代(4G)の移動通信市場で販売したスマートフォンは400万台であり, シェア37.6%の首位に立った。2位は,iPhone5を260万台販売したアップル(シェア27.6%) である。第2四半期に首位だったモトローラは150万台(14.1%)にとどまり,3位に後退 した。 4位の LG 電子は120万台(11.3%)である。 サムスン電子の4G スマートフォン の販売台数は, 第2四半期(1 20万台)の3倍以上に増加したのである。そして,2012年 12月18日に米 IHS iSuppli が公表した同年の世界市場での携帯電話出荷台数推計では,サ ムスン電子の年間出荷台数のシェアは前年から5ポイント増加した29%であり,初めて1 位を記録している。1998年から首位を維持してきたノキアのシェアは6ポイント減少し 24%の2位になり, アップルは1 0%のシェアで続き, 中国 ZTE(シェア6%), LG 電子 (同4%)の順位で並んでいる。 前年に比べて2012年の世界での携帯電話市場におけるス  小林英世(2011)「現代がトヨタを超えるとき」ちくま新書,pp.4145。. 139( ) 433 ─ ─ .

(14) 第61巻 第2号. マートフォンの出荷台数は3 5.5%増加したが,携帯電話の出荷台数は1%増加にとどまる 見通しで,世界市場の流れは携帯からスマートフォンに移っている。 1984年に,サムスン電子は日本の技術導入のもとで自動車用携帯電話を製造したが,こ れが携帯電話事業に乗り出すきっかけとなった。当時, 韓国の携帯電話市場は米国メー カーの独占状態であったが,1989年に自社技術による初めての携帯電話「SH100」を完成 し,試行錯誤を繰り返して,1994年に韓国の地形に強い携帯電話「Anycall」を発売した。 そして,iPhone への対抗モデルとして Galaxy シリーズのスマートフォンやタブレット, 時計型のスマートデバイスなどの新しいモデルを続々と開発している。半導体のメモリー・ メーカーの印象が強かったサムスン電子は,市場と顧客の動向をいち早く捉えて,携帯端 末に注力するメーカーに変身したのである。サムスン電子の2012年での世界携帯端末販売 台数は3億8,463万台であり,同社は最終製品である携帯端末で収益を得るだけでなくて, 自社のスマートフォン向けの DRAM や有機 EL パネルをスマートフォンに搭載すること で,垂直統合型の強みを発揮している。有機 EL パネルは,他社のスマートフォンやデジ タルカメラへの外販も進め,世界市場をほぼ独占している。 その一方で,韓国企業と日本企業と比較すると,たとえば,液晶 TV パネルの出荷額の シェアは,2000年にシャープが86.0%,サムスンが0.2%であったが,2005年にはシャープ が18.5%,サムスンが23.5%となり,逆転している。そして,2012年には,シャープが8.2%, サムスンが2 6.4%にまで差が拡大した。 液晶パネルシェアにおける,日本製と韓国製の差 は,シャープやパナソニックなど日本企業が自社での使用を主な目的として液晶 TV パネ ルを製造しているのに対して,サムスン電子や LG 電子などの韓国企業は世界各国の他社 への供給も含めて製造していることから生じる。このため,韓国のメーカーには量産効果 が働き,日本メーカーは液晶パネルの製造コストで勝負できない状況となっているのであ る。. 4 韓米 FTA による韓国エレクトロニクス企業に対する影響. 韓米 FTA 発効以降,電気電子製品の品目では,FTA 関税品目の増加が続いているが, FTA 非関税品目の輸出は大幅に減少した。韓米 FTA が発効された2 012年3月以降の1 0カ 月間で,FTA の関税品目の対米輸出は前年同期に比べて4.2%増加したのに対して,同期  藤田哲雄(2013)「わが国の電機産業の再生に向けて―新たなイノベーション創成の仕組みが 必要―」『JRI レビュー』Vol.6,No.7。. 434 ─ 140( ) ─ .

(15) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). 間での FTA 非関税品目は2 6.4%減少した。対米輸出が急減した FTA の非関税品目とし ては,携帯電話や半導体などが主であり,携帯電話は生産基地の変更,そして半導体は市 況の悪化などの影響で対米輸出が停滞する様相を見せた。. 表8 米国の対韓電子電気製品の輸入の動向(単位:%) 2011年. FTA 発効以後2012年312月. 2012年. 金額(億ドル). 金額(億ドル). 金額(億ドル). 増加率(%). FTA 関税品目 . 23.8. 24.9. 21.0. 4.2. FTA 非関税品目. 137.0. 102.8. 8 5.9. -26.4. 電気電子全体. 160.8. 127.7. 106.9. -21.9. (出所)韓国貿易協会「韓米 FTA 関税別輸出入統計」より作成。. 韓米 FTA 発効後,具体的な品目では,リチウムイオン電池,スイッチ,ミキサー,小 型電動機などにおいて2.6~4.2%に関税が引き下げられ,あるいは,撤廃され,それらは 輸出を大幅に増大させ,対米輸出を主導している。トランス,通信用同軸ケーブル,その 他電線などの電気製品とフラットパネル TV や TV 部品, および携帯電話などは, 韓米 FTA 発効前の対米輸出規模は小さかったら,FTA 発効を契機に,輸出を大幅に増やし, 4桁以上の輸出増加率も記録された。 通貨危機以降,半導体や無線通信機器(携帯電話を含む)などの輸出品目を生産する代 表的な企業であるサムスン電子,ならびに LG 電子などは,その国際的な存在感を増大さ せている。しかし,主要品目の動きで注目されてきたのは,船舶および部品,石油製品, フラットディスプレイなどである。船舶は,設計技術やロボットを用いた建造技術などが 台頭の主な要因である。石油製品は,巨大な装置を用いた規模の経済により輸出を伸ばし ている。フラットディスプレイでは,サムスン電子や LG ディスプレイが進撃を続けてい る。 かつては,韓国に優位がないとされた自動車部品も,韓国自動車業界の海外工場の稼働 に伴い,輸出を増加させている。しかし,自動車やその部品については国産化政策などと の関係から関税その他の措置により保護を継続する国も多いため,韓国は主要市場におけ る自動車やその部品の一層の関税引き下げに大きな関心を持っており, FTA 交渉の場で も自動車について韓国は格別の注意を払っている。それに対して,IT 製品は,WTO が 1996年に定めた ITA(Information Technology Agreement)に基づいて,関税が免除  奥田聡(2010)韓国の FTA,pp.3040。. 141( ) 435 ─ ─ .

(16) 第61巻 第2号 表9 米国の対韓電子電気品目の輸入の動向(単位:%). HTSUS. 品目(略). FTA 関税 基準関税 (%) (%). 分類. 米国の対韓輸入 (百万ドル,%) 2011 2012. 2012 2013 金額. 金額. 増加率. リチウムイオン 電池. 3.4. 0. ― 187.5 177.7. ―. 85437096 Other. 他電気機器. 2.6. 0. 136.3 229.5 197.3. 65.0. 85365090 Other. スイッチ. 2.7. 0. 53.9 65.1 53.7. 17.5. 85094000 mixer. ミキサー. 4.2. 3.7. 18.2 53.6 47.4. 172.0. 2.8. 0. 39.5 52.2 43.9. 33.8. 7.6 23.6 20.1. 219.3. 85076000. 85011060. Lithiumion batteries. 金額. 2012.312. Of 1 8.65W or 小型電動機 more. . .. 85444990 Other. 他電線. 3.9. 0. 85045080 Other. トランス. 3.0. 2.0. 85442000 Coaxial cable. 通信用ケーブル. 5.3. 0. 85287264 Other. TV. 3.9. 2.6. 0.07 3.16 3.00 4273.3. TV 部品. 4.0. 2.6. 0.10 2.11 1.60 1482.6. 85299003. Entered with component. 85131020 Flash lights. 携帯用電灯. 1.0 17.8 17.6 1728.3 3.9 13.8 13.0. 272.3. 12.5 11.2 10.0 0.03 1.23 1.22 4411.6. (注)米国の HTSUS コード8単位基準。 (出所)韓米 FTA 協定文,韓国貿易協会,外交通商部の資料より作成。. されることが多い。このため,電子業界は,韓米 FTA 締結による直接的な対米輸出競争 力向上より,むしろ物流インフラの改善などの間接的な効果が大きいとみなされた。これ は,4年後の関税撤廃が合意された電気自動車の輸出競争力向上と,あるいは,韓国で少 量に生産される製品の価格競争力向上という分析の結論である。そして,実際に,電気・ 家電製品を中心にして生産する多くの韓国企業が,電気自動車市場の進出を検討している。 サムスン電子と LG 電子などの大企業では,関税撤廃効果が制限的であるという反応か らみられる。なぜなら,すでにメキシコなどの,アメリカに隣接国で製品を生産しており, 関税の引き下げによる恩恵はあまり大きくないからである。たとえば,TV と冷蔵庫はそ れぞれ5%,1~2%の関税が適用されているが,メキシコ工場で生産される TV の場合, 現在も事実上無関税であり,アメリカに輸出される半導体と携帯電話も現在,無関税が適 用されている。 しかし,関税引き下げの直接的な恩恵ではないが,サムスン電子が米国向け半導体輸出 で物品取扱手数料の免除を受ける。韓米 FTA 発効に伴い,韓国製品の原産地証明を行う 436 ─ 142( ) ─ .

(17) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). 場合,関税と共に物品取扱手数料も免除される。現在,物品取扱手数料を米国が課してい るすべての輸入品に対して,申告1件あたり2 5~485ドル(約2,000~3万8,500円)が業者 から徴収されている。 このため, サムスン電子の同手数料は,年間約1 00億ウォン(6億 8,000万円)を上回る。また,2012年3月15日に発効した韓米 FTA により,サムスン電子 は,同手数料の免除だけでなくて,米国に輸出する半導体の原産地を検証するための資料 提出も免除される。免除される資料は製造原価や関連会計を示すものであり,サムスン電 子は半導体の対米輸出を「仕向地持ち込み渡し・関税込み条件」にしているため,物品取 扱手数料の免除などの恩恵を受けられるのである。 これにより, 日本や台湾などのメー カーに比べて,競争力が高まることが見込まれる。 その一方で,韓米 FTA の発効以降,米国内での韓国家電メーカーに対するダンピング 裁定が相次いで起きている。2012年3月19日に,米国商務省は,サムスン電子と LG 電子 が米国市場でフレンチドア式冷蔵庫(両開き扉の冷蔵庫)をダンピングしているとして, 反ダンピング関税の適用を決めた。反ダンピング関税率は,販売価格基準で,サムスン電 子の韓国製冷蔵庫が5.16%,メキシコ製冷蔵庫が1 5.95%,LG 電子の韓国製製品が1 5.41%, メキシコ製製品が30.34%となる。韓国メーカーは,米国市場で販売量を伸ばしていたとこ ろで,ダンピングの裁定は大きな打撃となった。フレンチドア式冷蔵庫の昨年の市場規模 は25億ドル(約2,090億円)であり,サムスン電子と LG 電子が10億ドル(約835億円)以 上を占めた。10%以下の利ざやのもとで,激しく競争する米国市場において,15~30%の 関税が課せられることは,事実上,冷蔵庫を売るなと言うことに等しい。ダンピングの裁 定は,1983年のサムスン電子のテレビ以降,ほとんど行われてない。今回の裁定は,現地 市場におけるライバル米家電大手ワールプールが提訴したものであるが, 米国家電メー カーのシェア合計は韓国メーカーに及ばない。テレビや携帯電話端末市場を韓国メーカー に奪われている米国政府としても,現在の状況は無視できなかったのである。ワールプー ルは,冷蔵庫だけでなくてエアコンも,同年12月に韓国メーカーをダンピングの疑いで提 訴した。また,2 013年1月23日に,米国国際貿易委員会( ITC )が,サムスン電子と LG 電子の洗濯機に対して反ダンピング関税を課している。米国は,サムスン電子と LG 電子 が生産,輸出する洗濯機に対して,サムスンに9.29%,LG に1 3.02%の関税を課し,追加 で相殺関税(サムスンに1.85%)を課している。現在,韓国政府は,米政府との間に計15 件の WTO 提訴案件を抱えている。 現代自動車は,乗用車などでこのような新興国の市場において高いマーケットシェアを 獲得している。しかし,韓国の輸出依存型企業にとって,競争相手は日本企業であり,韓 143( ) 437 ─ ─ .

(18) 第61巻 第2号. 国自動車メーカーは日本企業に比べて技術力などで見劣りしている。しかし,将来的に, 自動車業界は,電気自動車の生産に適した組織構造の変換が必要になると予想される。す でに,サムスン電子は BMW と,LG 電子は現代自動車や GM と技術提携している。電 気自動車に搭載される可能性が高いリチウムイオン電池の世界シェアにおいて,2008年は パナソニック,2011年は三洋電機がトップであったが,2012年にはサムスン電子がトップ の座を占めている。. お わ り に. 長期化する世界的な景気低迷の影響で韓国の貿易環境が悪化する状況において,韓米 FTA の発効以降の輸出の増加,および貿易黒字は,韓米 FTA の懸念とは異なり,かなり の役割を果たしたものと見られる。韓米 FTA が発効された2 012年3月以降の1年間では, 対米輸出は前年同期に比べて1.3%増加,対米輸入は,8.9%減少した。この輸出の拡大と 輸入の減少に支えられ,対米貿易黒字は,前年同期に比べて49億ドル増加の165.7億ドルを 記録した。また,電気電子業界の場合,同一期間において,FTA 非関税品目の輸出が2 6.4% 減少するなどの,極度の不振が見られたが,FTA 関税品目の輸出は4.2%増加した。 農産物の関税は15年間かけて削減させるため,農産物の輸入がどのように変化して,国 内農業に対してどのように影響するかは今なお未知である。その一方で,非農業分野では, 韓国政府は米国向けの輸出が増加したと公表しているが,これには為替相場が非常に影響 している。 自動車などの米国向け輸出は増加したことは確かであるが,これが韓米 FTA の影響か, あるいは為替相場の影響かを分析することは難しい。このため,現在では, FTA の効果を正しく評価することは困難である。 一部の工業製品や食品の関税率は,米国と EU との FTA 発効後即時にゼロになり,大 幅に引き下げられたが,店頭での価格は下がっていない。たとえば,ヨーロッパから輸入 するワインの市場販売価格はまったく下がっておらず,むしろ上がっている。そこには, 流通の問題が関与しており,関税撤廃による利益が消費者ではなく,流通業者と輸入業者 にかなり留保されている。このため,最近の韓国では,関税が低くなれば,消費者に利益 が渡ると単純に考えていたことに対して反省が生まれ,必ずしもそうではないことが認識 され始めたのである。 また,エレクトロニクス業界は既に海外生産体制を取り揃えているため,関税引き下げ による直接な恩恵は大きくない。ただし,電子業界は間接的影響と効果に期待を寄せてい 438 ─ 144( ) ─ .

(19) 韓国エレクトロニクス業界を事例にした韓米 FTA の影響(李). る。輸出入に関する社会間接資本(SOC)などインフラ改善が可能になること,あるいは, 米国との貿易量の増加により物流通関システムの先進化が可能になるとの期待である。具 体的には,サムスンの場合,韓米 FTA 協定により交易量が増加すれば,物流やその他の 輸出インフラの改善効果が認められる。サムスン経済研究所は,韓米 FTA の発効により エレクトロニクス業界には大きな影響はないが,ただ通関が速くなるなどの間接的効果は 期待できると見込んでいる。これに関して,サムスン電子においては,メキシコのチフア ナで TV 生産工場を,アメリカのテキサスオースチンで半導体工場を稼働しており,直接 的な恩恵は大きくない。アメリカとメキシコの両国が既に無関税協定を結んでおり,主要 輸出品である半導体もアメリカに現地生産工場があるので,直接的な恩恵は大きくない。 しかし, FTA 発効による全般的な交易増大効果まで考慮に入れると,間接的な恩恵など が期待されるであろう。 また,サムスン電子と同様に,現地生産ラインをとり揃えた LG 電子も,既存の事業構 造において大きな変化はない。LG 電子は,北米市場に供給する携帯電話と LCD TV,モ ニター,冷蔵庫など大部分の製品をメキシコにある二つの工場で生産している。このため, LG 電子においても, サムスン電子と同様に,韓国で生産された新製品や小品種高級製品 は, FTA 発効により関税引き下げの恩恵を受けると期待された。しかし,米国国際貿易 委員会(ITC)のサムスン電子と LG 電子に対する反ダンピング関税により,これらの家 電メーカーの行先が懸念されている。このため,韓国家電メーカーに関する韓米 FTA の 関税引き下げの恩恵を期待するより,むしろ,外国人投資家の誘致の促進,韓国製品に対 するイメージの向上,両国間の技術協力の拡大,原材料の値下げなどで韓国製品の競争力 の強化が求められている。. 参 考 文 献. Be Doksang(2 012)『Inside Samsng』Midasbooks. Chang, B. H. Dynamism of Korean Electronics and IT Industry: Global Industry Alliance and Business Strategy of Samsung, Souyou, 2 005. Chesbrough, H. W.(2004),“Managing Open Innovation: Chess and Poker”, Research Technology Management, Vol.47 No.1, pp.2326. International Monetary Fund(2008)World Economic Outlook. Park Youngwon, Tomofumi Amano and Geywan Moon(2011),“Open Innovaion and・Cluster Innovation: Korean IT Industry Development Model badel based on Gumi Cluster, Forthcoming” . Park, Y. W. and Hong, P. “ Korean IT Industry and Platform Leadership: A Comparative Study with Japanese Experiences”Asia Academy of Management Fifth Conference in Waseda. 145( ) 439 ─ ─ .

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参照

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