手形訴訟における主張・証明責任 : 法科大学院教育の視点から
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(2) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). 「要件事実論」と称することとする)は次のようなものである。要件事実とは、 権利の発生、障害、消滅等の各法律効果を生じさせる具体的事実である 6)。要 件事実の証明責任は、実体法の規定を基準に分配される(法律要件分類説)7)。 そして、 要件事実の証明責任と要件事実の主張責任は、 常に同一当事者(例えば、 原告)に帰属する、とされる 8)。つまり、この見解によれば、証明責任の帰属 を明らかにすれば、主張責任の所在も確定することができることになる。裁判 実務において、要件事実に関する司法研修所の見解がいわば「公用語」として 機能しているのであれば、理論と実務の架橋を念頭に置いた法科大学院におけ る理論教育の局面においても、要件事実論と接合可能な理論教育が必要になる と思われる 9)。 一般に、訴えを提起するためには、訴状を裁判所に提出しなければならな い(民訴 133 条 1 項) 。訴状には、①原告及び被告、②請求の趣旨及び原因を 記載しなければならない(民訴 133 条 2 項) 。このため、原告の訴えに係る訴 訟物を特定する狭義の請求原因(民訴規 53 条 1 項)を明らかにする必要性が ある 10)。要件事実論によれば要件事実の証明責任と主張責任の所在は連動し ているから、ある訴訟物に関する要件事実の証明責任を分析することは、当該 訴訟物に関する主張責任の所在も分析することとなる。換言すれば、ある訴訟 物に係る証明責任の所在を特定する作業が完了すれば、主張責任の所在も明ら かになり、且つ、請求原因も特定されることになる。 要件事実論は、法律要件分類説を採用する。法律要件分類説とは、法規の 定める法律効果を権利発生、権利障害、権利阻止又は権利消滅に分類して、 当該法律の効果が自己に有利に作用する当事者に証明責任の分配する見解で ある 11)。ある事実が権利発生・障害・阻止・消滅いずれの効果を基礎づける ものであるのかは、実体法の解釈によって定まる 12)。換言すれば、実体法に 係る解釈論により、証明責任の所在が明らかとなる。実体法における証明責任 の所在を明らかにすることは、実体法に係る理論教育と要件事実論を前提とし た実務教育とを架橋することになる。このような法科大学院教育の観点からも、 2.
(3) 手形訴訟における主張・証明責任. 実体法に規定された各条文の証明責任を分析する意義がある。 ある事実を権利発生事実と位置付けるか否かなどの実体法の解釈において も、証拠との距離、立証の難易、および事実の存在・不存在の蓋然性などの要 素も考慮すべきである 13)。証明責任の分配は真偽不明の際における不利益の 配分であるため、当事者の公平性も考慮すべきであるからである。とりわけ手 形の場合は、高度の流通性を確保の観点から、手形交換所の利用など定型的な 取り扱いが行われている。そのため、証明責任の分配に関する実体法の解釈に おいても、ある事実の存在が通常想定されるか否かという視点が、重要な意義 を有するものと思われる。 ところで、手形の簡易・迅速な支払確保という要請から、手形金の請求につ 「手形による金銭の支 いては特別な訴訟制度が用意されている 14)。すなわち、 払の請求及びこれに附帯する法定利率による損害賠償の請求」については、手 形訴訟を利用することができる(民訴 350 条 1 項) 。このような要請から、手 形訴訟には、①反訴が提起できないこと(民訴 351 条) 、②やむを得ない事情 がない限り、1 回の口頭弁論期日で審理を完了しなければならないこと(民訴 規 214 条) 、③原則として、証拠調べが書証に限定されていること(民訴 352 条 1 項) 、④勝訴判決について、裁判所は職権で仮執行の宣言をしなければな らないこと(民訴 259 条 2 項) 、⑤終局判決について、控訴できないこと(民 訴 356 条)という特徴があり、手形債権者にとって有利な制度である 15)。そ のため、手形債権者は手形訴訟を利用するのが通常の形態であろう。そこで、 手形訴訟が利用されることを前提に、典型的な証明責任の分配を検討すること とする。 本稿は、法理論と要件事実論を前提とした実務とを架橋するという法科大学 院教育の視点から、手形訴訟の主な類型における主張・証明責任を検討し、法 科大学院における手形法教育への示唆を得ることを目的とする 16)。そもそも、 手形関係は、原因関係と独立している(手形の無因性) 。そこで、まず、手形 関係に係る手形金請求訴訟における請求原因を検討することとする。次に、手 3.
(4) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). 形関係と原因関係が事実上交錯する局面もあることから、原因関係が手形金請 求訴訟における請求原因に及ぼす影響を考察することとする。最後に、理論と 実務を架橋する視座から、手形法教育への示唆を得ることとする。. 2.手形金請求訴訟における請求原因 Y が、本件約束手形(手形金額 100 万円)を受取人 A に振り出し、A は X に裏書譲渡した類型を分析することとする。X が満期に本件約束手形を支払呈 示したが、Y から支払を拒まれたので、X が Y に対して手形訴訟を提起した とする。この場合の訴訟物は、 (a)手形金支払請求権と、 (b)手形法に基づく 利息請求権または (c) 遅延損害金の支払請求権である。上記(b)と(c)は択 一的関係にあり、双方を同時に請求することはできない。本節で検討するのは、 上記(a)の約束手形の手形金支払請求権の要件事実である。一般に、請求原 因は、①被告 Y が本件約束手形 1 通を振り出したこと、②本件手形の裏面に は第一裏書人 A、被第一裏書人原告 X との記載があること、③原告 X は、本 件手形を所持していることである、と解されている 17)。問題となるのは上記 ①の要件である。まず、手形上にある手形債務者(Y)の署名が真正であるこ とは、手形金を請求する者(X)が主張・証明しなければならない事実である。 手形上に手形債務者による真正な署名があることは手形上の権利の成立に不可 欠な要素であるから、署名の真正は権利発生要件となり、権利の発生を主張す る者がその証明責任を負担すべきであるからである。この点について、異論は ないとされている 18)。したがって、手形債務者の署名の真正は、請求原因を 構成する事実となる。 次に、上記①の「振り出したこと」という要件である。具体的には、手形の 交付欠缺の場合、交付欠缺の事実が請求原因となるのか、ということが問題と して顕在化する。手形の交付欠缺という事例は、手形理論と分かちがたく結び つき大きな争点になる 19)。ここでは、代表的な 2 つの見解を比較して検討す 4.
(5) 手形訴訟における主張・証明責任. ることとする。1 つは、手形法上の責任を意思表示に基づく責任であることを 貫徹する創造説である 20)。もう 1 つは、手形行為も法律行為の一つであるこ とを重視して交付契約により手形債務が発生するが、手形の交付が欠ける場 合などにおいて、権利外観(Rechtsschein)理論による修正を加える見解で ある 21)。権利外観理論による修正を加える場合は、手形法上の責任は法定責 任となる 22)。交付契約説を権利外観理論によって修正をする見解においては、 手形の交付欠缺の場合であっても、①有効な手形の存在(外観) 、②署名がな されたこと(帰責事由) 、③外観に対する信頼があったことという要件を満た すときは、手形債務者(被告)は手形上の責任を負うこととなる。上記①と② の主張・証明責任は、手形所持人(原告)が負担するのに対して、上記③の主 張・証明責任は手形債務者(被告)が負担すると解されている。上記③の主張・ 証明責任は手形債務者(被告)が負担すると解する理由は、手形法 16 条 1 項 の立法趣旨などに求められている 23)。 ところで、手形金支払請求権の請求原因に「本件約束手形 1 通を振り出した こと」という事実を含めると、手形理論において交付契約説を支持する場合、 「本件手形の交付」を手形所持人(原告)が主張・証明すべき事実であると解 「手形の交付」について、訴訟 する見解もある 24)。ここで顕在化する問題は、 当事者のいずれが主張・証明責任を負うのか、という点である。手形法は、手 形の振出しについて手形要件に関する規定を有するのみである(手 1 条・2 条・ 75 条) 。 「振出し」に交付が必要か否かという点は解釈論となる。 そもそも、手形の交付欠缺という事例自体は、例外的な現象である 25)。手 形を署名者以外が所持している場合、手形債務者による当該手形の交付という 事実が存在するのが、通常の類型であろう。仮に、手形の交付がないことが通 常の形態であれば、手形の取得者は常に取得時点で、 「現実に」当該手形が振 出人から受取人に交付されたことを確認せざるを得ない。手形の取得について このような煩雑な手続きがと必須とするならば、手形による決済は忌避される であろう。また、手形所持人が善意取得(手 16 条 2 項)の保護を受けるため 5.
(6) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). には、手形所持人の所持する手形が有効に成立していることが前提となる。仮 に、善意取得制度による救済を求める手形所持人に、当該手形が交付された事 実についても主張・証明責任を課すとすれば、手形の第三取得者は振出人・受 取人間の手形の授受を知り得ないから、善意取得により保護を受け得る可能性 が事実上激減することとなる。換言すると、手形債務者による当該手形の交付 がなされていないことを原則と解するならば、上記のように、手形所持人は、 手形訴訟に備えて「手形の交付」の有無を証明する手段を確保せざるを得ない。 つまり、手形の交付に係る主張・証明責任を手形債権者に課すことは、手形の 流通を著しく阻害することになるのである。したがって、手形の交付があった という事実は、請求原因ではないと解する 26)。このように解すると、理論上 は大きく異なる両説においても、手形の交付欠缺の事例において、各見解が導 き出す法的要件とその効果は異ならないこととなる。 他方、 「手形の交付がなかったこと」について、手形債務者(被告)が主張・ 証明責任を負うと解すべきか、という問題が生じる。換言すれば、 「手形欠缺 の抗弁」は、訴訟上の抗弁と位置付けるべきか、という問題がある。 「手形欠 缺の抗弁」が訴訟上の抗弁と解する場合、 「手形所持人が悪意又は重過失によ り手形を取得したこと」という事実の主張・証明責任の位置付けも明らかにす る必要がある。約束手形金請求訴訟において、手形の交付の有無が問題となる ことは、 例外的な事象である。手形の交付がないという事実は、 手形債務者(被 告)の抗弁と位置付けることも可能である。交付契約説を権利外観理論で修正 する場合、この事実の主張・証明があって、初めて、権利外観理論の適用の有 無が問題となる。あらため、手形所持人(原告)が、権利外観理論の適用を求 めるために、再抗弁として、手形に署名があったこと(帰責性)と有効な手形 が存在していること(外観)を主張・証明することとなる。これは、新たな請 求原因となる。そのため、手形所持人(原告)が悪意又は重過失により手形を 取得した事実は、権利外観理論の適用という新たな請求原因事実に対する手形 債務者(被告)の抗弁と位置付けられる。 6.
(7) 手形訴訟における主張・証明責任. しかし、権利外観理論の適用を求めるために必要な要件事実は、手形金請求 に係る請求原因を構成する事実と重複する。そうであれば、手形の交付欠缺を 抗弁の内容に組み込んで、主張することも可能であると解すべきであろう。す なわち、①手形の交付が欠缺していること、および、②手形所持人(原告)の 権利外観法理の主張を先行自白した上で、手形所持人が手形の交付が欠缺して いることについて悪意又は重過失により手形を取得したことを、 手形債務者(被 告)の抗弁と位置付けることも可能である 27)。手形の交付欠缺を知り又は重 大な過失によって知らなかったという事実の主張・証明責任を手形債務者が負 担する理由はどのような点に求められるのか。そもそも、手形の交付欠缺が例 外的事象であれば、手形の交付がなされているのが通常の類型である。そうで あれば、例外的事象を主張する者が、その証明責任を負担すべきである。その ため、手形の交付欠缺を知り又は重大な過失によって知らなかったという事実 は、権利障害事実と位置付けられる。この場合、権利障害事実を主張・証明す る者は、手形債務者(被告)である。 ここで、判例理論を確認することとする。最判昭和 46・11・16 民集 25 巻 8 号 1173 頁は、 「手形の流通証券としての特質にかんがみれば、流通におく意思 で約束手形に振出人としての署名または記名押印をした者は、たまたま右手形 が盗難・紛失等のため、その者の意思によらずに流通におかれた場合でも、連 続した裏書のある右手形の所持人に対しては、悪意または重大な過失によつて 同人がこれを取得したことを主張・立証しないかぎり、振出人としての手形債 務を負うものと解するのが相当である」とする。この判例について、学説の 多くは特定の手形理論によるものではないとする 28)。この判例理論を前提に、 手形所持人(原告)が主張・立証すべき事項は、①署名者が「流通におく意思」 で手形に署名したこと、②所持人が裏書の連続の記載のある手形を所持してい ることである、とする見解もある 29)。しかし、最判昭和 47・4・6 民集 26 巻 3 号 455 頁は、 「被上告会社の代表者は、被上告人ら主張のような記載をした本 件手形を携行中紛失したというのであるが、手形用紙に一定の手形要件を記入 7.
(8) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). してこれに振出人として署名をした者は、特段の事情のないかぎり、流通にお く意思で手形を作成したものと解すべきである」とする。この判例は、手形に 署名があれば、署名者が「流通におく意思」で手形に署名したものとして取り 扱うことを原則とし、特段の事情がある場合にのみ、例外として署名者が「 『流 通におく意思』で手形に署名しなかった」ものとして位置付けている。そのた め、 「流通におく意思がなかったこと」は例外的事象であるから、手形債務の 発生を障害する事実として位置付けることも可能である 30)。つまり、判例理 論を前提とした場合でも、署名者が「 『流通におく意思』で手形に署名しなかっ たこと」は、抗弁と位置付けうる。このように解釈するならば、判例理論によ る場合でも、請求原因は、交付契約説を権利外観理論で修正する場合と同様と なる。 「署名者が『流通におく意思』で手形に署名しなかったこと」を抗弁と位置 付ける場合、交付契約説を権利外観理論で修正する見解との関係が問題となる。 判例理論が特定の手形理論によらないとすれば、 「流通におく意思」は、署名 者の帰責性に着眼した要素と評価することができる。外観上適法な署名があれ ば、第三者は署名者が「流通におく意思」で署名されたものと信じるのが通常 の在り方である。そのため、前述のように、手形債務の発生を障害する事実と して位置付けることができる。そうであれば、 「 『流通におく意思』で手形に署 名しなかったこと」を抗弁として位置づけることは、署名者に帰責性がなかっ たという事実について主張・証明責任を負担させることになるのである。この ように、署名者に「流通におく意思」を求める判例理論は、交付契約説を権利 外観理論で修正する見解とも親和的である。 手形の流通保護の観点からは、手形の交付欠缺の事例においても、請求原因 は、①被告 Y が本件約束手形 1 通に署名したこと、②本件手形の裏面には第 一裏書人 A、被第一裏書人原告 X との記載があること、③原告 X は、本件手 形を所持していること、となる。次に、判例理論を前提とすると、抗弁として、 被告 Y は本件手形を交付しておらず、且つ、流通におく意思で署名を行って 8.
(9) 手形訴訟における主張・証明責任. いないこと、となる。. 3.白地手形の補充権に関する主張・証明責任 手形法 10 条は、 「未完成ニテ振出シタル為替手形ニ予メ為シタル合意ト異ル 補充ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ違反ハ之ヲ以テ所持人ニ対抗スルコトヲ得ズ 但シ所持人ガ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ為替手形ヲ取得シタルトキハ此ノ限 ニ在ラズ」と規定している(なお、約束手形について、手形法 77 条 2 項) 。本 条は、白地手形が流通することを前提に、白地補充権の濫用について規定して いるのである。白地手形と無効手形のメルクマールは、白地補充権の有無であ る 31)。署名者が具体的に補充権を与えた場合に白地手形が成立することにつ いて、問題は生じない。上記のような具体的な意思がない場合における白地補 充権の成否については、争いがある。まず、署名者の意思を重視して、白地手 形行為者と手形の交付を受けた者との間における補充権授与契約によって、白 地補充権が与えられるとする見解がある(主観説)32)。もっとも、この見解に よると、白地補充権は、白地補充契約によって限定されるから、論理的には不 当補充ということが観念しえない。そこで、手形法 10 条は、不当補充された 後の手形面上から白地補充権の濫用があったか否かが判別できないことに着目 して、手形流通保護の見地から、手形の外観を信頼した善意の第三者を保護す る規定と位置付けられる 33)。 これに対して、当事者の具体的な意思にかかわらず、書面の外形上、要件の 補充が予定されている証券は白地手形であるとする(客観説)34)。また、書面 の外形上、白地になっている要件が将来補充を予定されていると認められると きは、署名者がこのような書面であることを認識し、又は認識すべくして署名 した以上、当事者の具体的意思にかかわらず、白地補充権が発生するとする見 解がある(折衷説)35)。このような見解の対立は、白地手形の局面においても、 手形に関する責任を意思表示に基づく責任であることを貫徹するのか、あるい 9.
(10) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). は、行為者の意思に基づかない場合には法定責任により補完するのか、という 考え方の対立に結びつくことなる 36)。 そもそも、白地手形の不当補充において、証明責任の分配が問題となる事実 は、①振出人が手形要件をすべて記載したか否か、②白地の要件がある場合 には、白地補充権が授与されたか否か、③補充権が授与され場合、白地補充 権の内容、④白地補充権が濫用されて不当補充がなされたか否か、④不当補 充がなされた場合、当該不当補充に係る手形所持人の悪意・重過失の有無と される 37)。これらの主張・証明責任の分配が問題となるのである。 最判昭和 42・3・14 民集 21 巻 2 号 349 頁は、 「手形金額を白地として約束手 形を振り出した者は、その手形につき、合意により予定された金額をこえる金 額を手形金額とする補充がなされた場合においても、右違反をもつて手形の取 得者に対抗しえないのを原則とし(手形法 77 条 2 項、10 条本文) 、ただ例外 として、 (1)手形を取得した者において右補充が合意に違反してなされたもの であることを知り、もしくは重過失によりこれを知らないでこれを取得したと き、または、 (2)合意の内容を知り、もしくは重過失によりこれを知らないで 手形を取得した者が、合意に違反する補充をしたときには、振出人は、右合意 により予定された金額の限度において手形上の責を負うに止まるのである。し たがつて、右(1)または(2)の事実の主張、証明がないときは、これによる 不利益は振出人にこれを帰せしめなければならない」とする。つまり、判例理 論にしたがえば、前述の①乃至⑤の事実(白地手形行為者による署名の真正に 係る事実を除く)は、すべて白地手形行為者が主張・証明責任を負担すること となる。折衷説も、白地手形であることを認識し、又は認識すべき状態で署名 すれば、 白地補充権が発生するから、 論理的には判例と同様の結論に至る。他方、 手形法 10 条は外観を信頼した第三者を保護する特別規定であるとする見解で も、判例と同様の主張・証明責任の分配を行うこともできる 38)。手形法 10 条 は、不当補充という病理現象に対応した規定であることを鑑みると、前述の① 乃至⑤の事実(白地手形行為者による署名の真正に係る事実を除く)はすべて 10.
(11) 手形訴訟における主張・証明責任. 権利障害事実と位置付けることができる。本条但書は、このことを例示した規 定とも解釈できる。したがって、いずれの見解に立っても、前述の①乃至⑤の 事実(白地手形行為者による署名の真正に係る事実を除く)の主張・証明責任 は、権利の発生を障害しようとする白地手形行為者が負担することとなる。. 4.変造前の原文言に関する主張・証明責任 手形法 69 条は、 「為替手形ノ文言ノ変造ノ場合ニ於テハ其ノ変造後ノ署名者 ハ変造シタル文言ニ従ヒテ責任ヲ負ヒ変造前ノ署名者ハ原文言ニ従ヒテ責任ヲ 負フ」と規定する(なお、約束手形について 77 条 1 項 7 号) 。本条は、変造が あった場合も、署名者が署名時の文言に従って手形に係る責任を負う旨を明ら かにしている。通常、手形所持人(原告)は、手形の現文言に従って手形金を 手形債務者(被告)に請求することとなる。しかし、手形面上の文言が変造さ れている場合、手形債務者は、手形所持人の請求を否認することとなる。手形 の文言も、請求原因事実の一部を構成するからである。手形法 69 条によれば、 手形債務者(被告)は、自己が署名した時点の手形上の文言(原文言)によっ てのみ責任を負う。このため、手形所持人(原告)は、原文言に基づいて手形 債務者に手形金を請求するほかない。問題となるのは、変造前に原文言にかか る主張・証明責任の所在である。 手形面上の金額や満期日が変造された約束手形を取得した手形所持人(原告) は、手形債務者(被告)に対して、どのような請求をなしうるのか、という問 題である。 従来の通説は、手形の外形に異常があるか否かで区別する見解である。それ によれば、①手形の外形に異常がない場合は、署名者が、自己の署名後に変造 がなされた事実及び変造前の文言を証明する責任を負担し、②手形の外形に異 常がある場合(外形上変造の痕跡がある場合)は、変造前の文言による責任を 問うためには、手形所持人が、署名が変造前に行われたこと及び原文言を証明 11.
(12) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). する責任を負うとする見解である 39)。この見解に対しては、次のような批判 がある。そもそも、真偽不明の状態によって法律効果の不発生という法律上の 不利益を被る客観的証明責任と、当事者の主観的立証活動の必要性とが区別さ れる 40)。上記の見解が手形の外形に異常があるか否かで証明責任の配分を変 更することは、証明責任の問題と「証明の必要性」を混同したものである、と いうのである 41)。 最判昭和 42・3・14 民集 21 巻 2 号 349 頁 は、 「約束手形 の 支払期日(満期) が変造された場合においては、その振出人は原文言(変造前の文言)にしたが つて責を負うに止まるのであるから(手形法 77 条 1 項 7 号、69 条) 、手形所 持人は原文言を主張、立証した上、これにしたがつて手形上の請求をするほか はないのであり、もしこれを証明することができないときは、その不利益は手 形所持人にこれを帰せしめなければならない」とする 42)。手形所持人(原告) が主張すべき事実は手形債務者(被告)の手形行為の内容であり、手形の現文 言ではないことを理由に、この判例を支持する見解もある 43)。判例法理にし たがえば、手形債務者(被告)による「変造の抗弁」は、手形所持人(原告) の請求原因に対する否認となる。これは否認であるから、手形債務者(被告) は、変造の事実について主張・証明責任を負担することはない 44)。もっとも、 手形債務者(被告)の手形上の署名について真正性が証明されると、手形上の 記載全体の真正な成立が推定されるため(民訴 228 条 4 項) 、 手形上の現文言が、 手形債務者(被告)の署名時の文言と推定されることとなる 45)。民事訴訟法 228 条 4 項は、法定証拠法則であると解されている 46)。法定証拠法則であれば、 手形債務者(被告)は、 反証によりこの推定を覆すことができる 47)。換言すれば、 手形上の記載内容が手形債務者(被告)の意思に基づくものであるかどうかに ついて、裁判所に真偽不明の心証に至らせれば、現文言に基づく手形上の責任 変造の事実に関する証拠を提出する必要があるのである。 を免れる 48)。つまり、 これが、 「証明の必要性」である。 これに対して、変造の事実を主張する者が、①手形債務者(被告)の署名後 12.
(13) 手形訴訟における主張・証明責任. に変造がなされたこと、および、②変造前の原文言について主張・証明責任を 負うとする見解もある 49)。この見解は、手形の流通性保護の見地から、手形 の現文言が真正であることを推定することを前提に、手形所持人(原告)が変 造前の原文言により手形金を請求する場合は手形所持人(原告)が①変造の事 実と②原文言の主張・証明責任を負担し、手形債務者(被告)が変造前の原文 言による責任しか負わないと主張する場合には手形債務者(被告)が①変造の 事実と②原文言の主張・証明責任を負担するとする 50)。 注目すべきは、客観的立証責任(証明責任)と「証明の必要性」とを峻別す ることを前提としても、原文言に関する主張・証明責任の分配について、正反 対の結論が導き出されている点である。変造前の原文言の主張・証明責任の分 配という問題は、法律要件分類説を採用するのであれば、手形法 69 条の解釈 に帰着する。手形法 69 条は、変造された手形の署名者の責任に関する規定で ある。手形法 69 条前段は、変造後の手形に署名した者が変造後の文言に従っ て責任を負うとする。変造後の文言は、現存する手形に記載された現文言とな る 51)。そうであれば、手形所持人(原告)は、変造後の現文言によって請求 を行うのが通常の形態であろう。変造後の手形を取得した者は、手形面上の文 言を認識しているのであるから、その文言に基づく権利を取得することとなる。 手形法 69 条前段は、このような原則的な形態を前提に規定された条文である から、変造後の現文言に関する主張・証明責任は、現文言に基づいて手形金を 請求する者が負う。これに対して、変造前の原文言に関する署名者の責任を規 定する手形法 69 条後段は、手形法 69 条前段が想定する類型の例外にあたる。 つまり、手形金額であれば、原文言より現文言の方が少額であることは稀であ ろうし、満期であれば、原文言の満期より現文言の満期が短いことも稀であろ う。そのため、手形法 69 条後段は、本条前段の抗弁にあたる 52)。手形の流通 保護の観点から、変造後の手形を取得した者は、現文言に基づいて手形を取得 しているのであり、原文言に基づく手形を取得したわけではないから、このよ うな取り扱いも妥当性を欠くものでないと考える。 13.
(14) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). 5.原因関係と手形関係 (1)原因関係欠缺の抗弁 手形の無因性から、手形関係は、原因関係の無効、不存在又は消滅の影響を 受けない 53)。しかし、手形の授受を行った当事者間においては、手形債務者は、 原因関係に基づく抗弁を対抗することができる。原因関係に基づく抗弁の中 で、その主張・証明の内容が問題となるのは、原因関係欠缺の抗弁である 54)。 これは原因関係が不存在であることを内容とする抗弁であるが、原因関係の不 存在は消極的事実であるため 55)、原因関係が不存在である一切の事由を主張・ 証明する必要があるからである。この原因関係欠缺の抗弁は、人的抗弁と解さ れている 56)。 振出人である手形債務者(被告)が、受取人たる手形所持人(原告)からな された手形金の請求を、原因関係欠缺の抗弁によって支払いを拒む場合を想定 することとする。この場合、手形債務者(被告)が、原因関係の欠缺について 主張・証明責任を負担すると解されている 57)。その理由は、原因関係の存否 は手形関係に影響を及ぼさないのが手形法の原則であること(無因性) 、原因 関係の不存在が認められない場合の不利益は、手形債務者(被告)に帰すべき であることに求められている 58)。このことは、要件事実論の一般原則の例外 である。要件事実論は、消極的事実について主張・証明責任を負担させないこ とを原則としている 59)。しかし、原因関係の不存在については、手形法上の 制度である無因性の観点から、消極的事実の主張・証明責任を手形債務者(被 告)が負担するのである。 被告の抗弁として主張・証明すべき事実は、①直接の当事者であること、② 原因関係が不存在であることである 60)。上記①は、実際の手形上の権利が移 転した関係を主張・証明すれば足りると解されている 61)。上記②については、 原因関係が不存在であるというあらゆる事由を主張・証明しなければならな いと解されている 62)。もっとも、手形行為の原因が多数存在することは通常 14.
(15) 手形訴訟における主張・証明責任. ありえないから、手形債務者(被告)が、ある原因(原因 A)がないと主張・ 証明する場合は、同時に他の原因(原因 B)もないという主張・証明であると 解することは可能である 63)。仮に、手形債務者(被告)が原因 A の不存在を 主張・証明した場合に、 手形所持人(原告)が原因 B の存在を主張することは、 手形所持人(原告)に主張・証明責任がある再抗弁ではなく、積極否認と解さ れている 64)。手形所持人(原告)が手形債務者(被告)の主張していない積 極的事実を訴訟で主張することを間接反証と解すると、手形所持人(原告)が 主張・証明責任を負担することになり、手形の無因性に反することになるから である(松山地西条支判昭和 49・10・31 判時 766 号 105 頁) 。. (2)利益相反取引と手形の振出 前述のように、手形の無因性から、手形関係は、原因関係から独立している。 したがって、原因関係は、原因関係に基づく人的抗弁という形でのみ、手形関 関係に影響を及ぼす。しかも、原因関係に基づく人的抗弁の主張は、手形法 17 条により、原則として制限される。手形の流通保護を強調する考え方を前 提にすると、会社と取締役間の手形行為においても、上記(1)と同様に、会社・ 取締役間の利益相反取引に係る取締役会の承認(会社 356 条・365 条)がなかっ たという原因関係に基づく抗弁以外は、手形関係に影響を及ぼさないはずであ る。つまり、手形の無因性を強調すれば、会社と取締役間の原因関係が利益相 反取引に該当したとしても、原因関係に基づく人的抗弁を対抗しない限り、会 社と取締役間の手形関係には影響を及ぼさないのであるから、手形行為は会社 法 356 条 1 項 2 号の「取引」に該当しない、と解するのが論理的である 65)。 しかし、最大判昭和 46・10・13 民集 25 巻 7 号 900 頁の多数意見は、上記と は異なる見解を採用している。すなわち、①手形行為も利益相反取引に該当す ること、②商法旧 265 条の適用については、手形上の記載によるべきではなく、 現実に行為をした当事者を基準として判断すべきであること、③会社がその取 締役に宛てて約束手形を振り出した場合においては、会社は、当該取締役に対 15.
(16) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). しては、取締役会の承認を受けなかったことを理由として、その手形の振出の 無効を主張することができること、④当該手形が第三者に裏書譲渡されたとき は、 その第三者に対しては、 その手形の振出につき取締役会の承認を受けなかっ たことのほか、当該手形は会社からその取締役に宛てて振り出されたものであ り、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかったことについて、第三者が 悪意であったことを主張・証明しなければ、その振出の無効を主張して手形上 の責任を免れえないことである。 判例のように、手形の振出しが利益相反取引に該当すると解し、且つ、その 効果について相対的無効説を採用する場合、取締役会の承認がないときには、 手形法の基本的枠組みを会社法の理論によって修正することとなる。すなわち、 手形の振出しが取締役会の承認を経ずになされた場合は無効であり、この無効 は物的抗弁であるため、何人にも対抗できるはずである。ところが、取締役会 の承認を経ない利益相反取引の効果を相対的無効とすれば、少なくとも善意の 第三者に対して、物的抗弁を対抗できなくなるからである 66)。本節では、こ のような判例法理を前提に、いかなる事実が請求原因となり、また、いかなる 事実が抗弁となるのかを、確認することとする。 まず、利益相反取引における手形金の請求原因となる事実は、通常の手形 金請求の場合と同様である。受取人白地の手形などであれば、間接取引と異 なり、第三者は当該手形行為が会社との利益相反取引に該当することを知り 、受 得ない 67)。手形法も白地手形の存在を容認している以上(手 10 条参照) 取人白地の手形の受け取りを拒絶する義務を課すことは現実的でない。会社法 は、法令を遵守する義務を取締役に課している(会社 355 条) 。仮に、ある行 為が利益相反取引に該当する場合、当該行為について取締役会の承認を経ずに 当該行為が行われることは想定すべきではない(会社 356 条・365 条) 。取締 役会の承認を得ていない利益相反取引は例外的事象であるため、手形の流通保 護の観点から、手形の振出行為について、利益相反取引に関する取締役会の承 認があった事実を請求原因に含ませるべきではないのである。 16.
(17) 手形訴訟における主張・証明責任. ところで、判例(最判昭和 47・4・4 民集 26 巻 3 号 373 頁)によれば、手 形振出行為が双方代理(民 108 条)である場合においては、手形振出行為が双 方代理行為であることを第三者が知っていたことのみが、手形振出人である本 人の抗弁となる。つまり、 本人の許諾又は承認は、 第三者である手形所持人(原 告)の請求原因となる 68)。これに対して、手形振出行為が利益相反取引に該 当する場合は、前述のように、その手形の振出につき取締役会の承認を受けな かったことのほか、当該手形は会社からその取締役に宛てて振り出されたもの であり、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかったことについて、第三 者が悪意であったことが、手形振出人である会社の抗弁事実となる。法律上の 性質が類似するにもかかわらず、主張・証明責任の所在が異なるのである。こ の点について、判例は、民法 108 条において、本人の許諾又は承認がないこと を原則と位置付けるため、その存在を請求原因事実とするのに対して、利益相 反取引においては、取締役会の承認があることを原則と位置付けて、その不存 在を抗弁とするものと解されている 69)。 問題は、 抗弁の内容である。判例(前掲最大判昭和 46・10・13)の多数意見は、 手形行為について取締役会の承認が必要である旨を判示している。手形の無因 性を考慮すれば、原因関係についても、取締役会の承認が必要なのか、という ことが問題となる。多数意見は、この点に言及していない 70)。この点につい て、大隅裁判官の補足意見が参考となる。大隅裁判官の補足意見は、手形行為 とその原因関係双方について取締役会の承認が必要である旨を明言される。し たがって、抗弁事実としては、①手形行為又は原因関係のいずれについても取 締役会の承認がなかったこと、② (a) 当該手形は会社からその取締役に宛てて 振り出されたものであり、且つ、その振出につき取締役会の承認がなかったこ とについて、第三者が悪意であったこと、又は (b) 原因関係について取締役会 の承認がなかったことについて、第三者が悪意であったこと、となる。これに 対して、第三者保護の観点から、原因関係のみについて、取締役会の承認を経 ていれば良いとする見解もある 71)。確かに、この見解は、手形流通保護に資 17.
(18) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). する見解である。しかし、手形の無因性を前提にすれば、原因関係と手形関係 は別個独立の存在であること、会社法は、会社の利益を保護するために利益相 反取引規制を設けていることからすれば、手形行為とその原因関係双方につい て取締役会の承認が必要であると解さざるを得ないと思われる。 大隅裁判官の補足意見は、重大な過失がないことも、善意であることの要件 としている。手形流通保護の観点から、手形上に取締役会の承認を受けた旨の 附箋が添付されていれば、これを確認するのみで、重過失はないと解すべきで ある 72)。また、上記のような附箋がない場合は、利益相反取引であることが 知り得る状態で手形を取得したのであれば、取締役会の議事録を確認するなど の調査義務を尽くす必要があろう 73)。. 6.結びにかえて 以上のように、法科大学院における手形法教育において、証明責任の所在が 問題となる類型を分析した。本稿の考察によって、手形法教育に対する示唆と して、以下の点が確認された。①証明責任の分配は実体法の解釈によって決定 されるところ、実体法の解釈に多様性があるため、証明責任の分配が一義的に 定まるものではないこと(変造) 、②手形の流通性確保の観点から、手形理論 の構成にかかわらず、証明責任の分配を決定することも可能であること(手形 の交付欠缺、白地手形の補充権)③要件事実論においては、消極的事実の証明 責任を当事者に負担させないこととなっているが、実体法の制度枠組みから例 外が生じること(原因関係欠缺の抗弁) 、④会社法における利益相反取引規制 との関係から、手形訴訟における抗弁の内容が定まる場合があること(手形と 利益相反取引)である。 主張・証明責任の配分は、実体法の解釈によって決定される。実体法の解釈 である以上、 現実の取引実態を反映した主張・証明責任の配分もありうる。もっ とも、現実の取引実態を正確に把握するためには、絶え間ない実態調査が必要 18.
(19) 手形訴訟における主張・証明責任. である。今後、手形取引が電子手形に移行した場合に、取引実態を、主張・証 明責任の分配にどのような影響を与えるのかを検討することが今後の課題であ る 74)。. 【2011 年 6 月 30 日脱稿】. *本稿は、草稿段階において、川村正幸教授(駿河台大学学長) 、永石一郎弁護士から有益 な示唆を賜った。記して謝意を表する次第である。なお、当然のことながら、本稿にお けるすべての誤謬は筆者の責任に帰す。 1)司法制度改革審議会「司法制度改革審議会意見書―21 世紀の日本を支える司法制度―」 (平 成 13 年 6 月 12 日)67 頁。 2)司法研修所編『増補 民事訴訟における要件事実』第 1 巻(法曹会、昭和 61 年)3 頁。 3)奈良次郎「主要事実と間接事実の区別」三ケ月章=青山善充編『民事訴訟法の争点〔新版〕 』 224 頁(1988 年) 。 4)高橋宏志「跋――要件事実論への誤解」伊藤滋夫=山崎敏彦編著『ケースブック要件事実・ 事実認定』 (有斐閣、2003 年)370 頁参照。 5)笠井正俊「要件事実論と民事訴訟」伊藤眞=山本和彦編『民事訴訟法の争点』160 頁(2009 年) 。要件事実論の諸類型については、二宮照興「要件事実論と弁護士の視点」判タ 1162 号 99 頁以下(2004 年)を参照。 6)司法研修所・前掲注(2)3 頁。つまり、この見解によれば、要件事実と主要事実は同義 となる。 7)詳細は、司法研修所・前掲注(2)5 − 11 頁を参照。なお、本稿では、客観的立証責任の 意味で「証明責任」という用語を使用することとする。 8)司法研修所・前掲注(2)20 − 21 頁。 9)要件事実論については、学理上の批判もある(松本博之「要件事実論と法学教育【要件 事実論批判 を 中心 に】 (1) ・ (2) ・ (3) 」自由 と 正義 54 巻 12 号(2003 年)98 頁、55 巻 1 号 54 頁(2004 年) 、55 巻 2 号 92 頁(2004 年)参照) 。本稿は、法科大学院教育における 要件事実論の実際上の「位置付け」を考慮して、要件事実論を所与の前提として仮定し た場合に、接合可能な理論教育の方向性を探るものである。 10)狭義の請求原因と広義の請求原因について、 伊藤眞『民事訴訟法〔第 3 版 4 訂版〕 (有斐閣、 2010 年)169 頁。 19.
(20) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). 11)伊藤・前掲注(10)327 − 328 頁。 12)伊藤・前掲注(10)328 頁。 13)伊藤・前掲注(10)328 − 329 頁。 14)本稿では、特に断らない限り、 「手形」という用語を、 「約束手形」の意味で使用するこ ととする。 15)手形訴訟の一般的な説明として、森本滋編著『手形法小切手法講義[第 2 版] 』 (成文堂、 2010 年)208 頁(早川徹) 。 16)手形訴訟における立証責任に関する先駆的な研究として、鴻常夫「約束手形金請求訴訟 における要件事実」鈴木忠一=三ケ月章監修『実務民事訴訟講座』第 4 巻(日本評論社、 昭和 44 年)227 頁、森本滋「手形金の請求と立証責任」 (吉川大二郎博士追悼論集) 『手 続法の理論と実践』 〔上巻〕 (法律文化社、昭和 55 年)165 頁、伊沢和平「手形金請求に おける立証責任」立教法学 24 号 1 頁(昭和 60 年)がある。 17)司法研修所編『10 訂 民事判決起案の手引』 (法曹会、平成 18 年)所収「事実摘示記載 例集」7 頁。なお、本件約束手形は、訴状に添付する別紙目録によって特定することと なる。約束手形要件(手 75 条)の充足は、別紙目録により証明することとなる。 18)森本・前掲注(16)167 頁。 19)学説の状況については、川村正幸『手形・小切手法 第 3 版』 (新世社、2005 年)52 頁 以下を参照。 20)前田庸『手形法・小切手法』 (有斐閣、1999 年)61 頁。 21)ド イ ツ 語 の“Recht と い う 用語 は、 「法」と も「権利」と も 訳 せ る。本稿 で は、 "Rechtsschein の一般的な訳語である「権利外観」という語を当てた。なお、権利外観 理論の視点から分析した交付欠缺の抗弁について、川村正幸『手形抗弁の基礎理論』 (弘 文堂、平成 6 年)32 頁以下を参照。 22)森本・前掲注(16)巻 169 頁。なお、権利外観責任は、原則に対する例外と言い切るこ とができないとされる。森本・前掲注(16)170 頁。 23)森本・前掲注(16)170 頁。 24)坂井芳雄『約束手形請求訴訟における要件事実とその立証(三訂版) ( 』法曹会、 平成 8 年) 43 頁は、交付の事実も手形金請求者に主張・証明責任があるとする。この見解によれば、 「交付欠缺の抗弁」は、訴訟上の「否認」となる。坂井・前掲注(24)54 頁。 25)川村・前掲注(19)56 頁、 田邊光政『最新手形法小切手法〈5 訂版〉 ( 』中央経済社、2007 年) 67 頁を参照。 26)同様の結論を支持する見解として、賀集唱「手形金請求の要件事実とその機能―いわゆ 20.
(21) 手形訴訟における主張・証明責任. る人的抗弁について―」鈴木忠一編(松田判事在職 40 年記念) 『会社と訴訟』下巻(有斐閣、 昭和 43 年)998 頁。また、請求原因において「振り出した」という文言を使用すべきと する見解においても、 「実務では、 一般に、 『振り出した』との表現は、 完成手形に交付(発 行)が伴う場合を指し、白地手形の振出や交付欠缺の場合については右と異なる請求原 因事実が必要であると考えられていると思われる」ことを指摘する文献もある(稲守孝 夫「手形金請求訴訟 の 請求原因」村上慶一編『裁判実務大系』第 2 巻(青林書院、昭和 59 年)40 頁) 。 27) 「手形所持人が悪意又は重過失により手形を取得したこと」を、 「交付欠缺の抗弁」と位 置付ける見解もある(森本・前掲注(16)169 頁) 。 28)例えば、田邊・前掲注(25)72 頁。 29)田中芳樹「手形行為の成立と手形の交付」西村則夫編『現代裁判法大系』 (新日本法規、 平成 10 年)12 頁。 30)稲守・前掲注(26)41 頁。 31)川村・前掲注(19)123 頁。 32)大森忠夫「白地手形」鈴木竹雄=大隅健一郎編『手形法・小切手法講座』2 巻(有斐閣、 昭和 41 年)49 頁以下。 33)森本・前掲注(16)178 頁参照。 34)升本喜兵衞『手形小切手法論』 (巖松堂書店、昭和 18 年)134 − 135 頁。 35)前田・前掲注(20)251 頁。この見解は、 いわゆる二段階創造説と軌を一にするとされる。 前田・前掲注(20)251 − 252 頁。 36)森本・前掲注(16)180 頁。 37)森本・前掲注(16)176 頁。 38)森本・前掲注(16)179 頁。なお、ドイツ法においても、白地手形を引き渡したことに より、白地補充権の授与が推定されるとして、白地手形を授与した者に、不当補充がな された旨の証明責任を負担させる見解がある。Peter Bülow, Heidelberger Kommentar zum Wechselgesetz/Scheckgesetz und zu den Allgemeinen Geschäftsbedingungen, 4., neu bearbeitete Aufl., C.F. Müller, 2004, WG Art. 10, Rn.18. 39)菱田政宏 「手形の変造・抹消」 鈴木竹雄=大隅健一郎編 『手形法・小切手法講座』 第1巻 (有 斐閣、昭和 39 年)276 頁。 40)伊藤・前掲注(10)326 − 327 頁。 41)坂井芳雄『裁判手形法(増補第 4 版) 』 (一粒社、昭和 63 年)181 頁。 42)本判決に関する学説の状況については、高橋宏志「変造手形の原文言の立証責任」手形 21.
(22) 横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月). 小切手判例百選[第 6 版]46 頁(2004 年)を参照。 43)坂井・前掲注(41)181 頁。 44)もっとも、 「債務者は変造の事実を主張・証明して、所持人主張の手形要件事実に対す る否認をなすべきことになる」とする見解もある(川村・前掲注(19)99 頁) 。 45)川村・前掲注(19)99 頁。 46)伊藤・前掲注(10)333 頁。 47)伊藤・前掲注(10)334 頁。 48)坂井・前掲注(41)187 頁、川村・前掲注(19)99 頁。 49)竹内昭夫『判例商法Ⅰ』 (弘文堂、昭和 51 年)268 頁以下、森本・前掲注(16)174 頁。 50)竹内・前掲注(49)268 − 269 頁、森本・前掲注(16)174 頁。 51)複数回変造された場合であっても、最後になされた変造後の文言は現存する手形の現文 言となる。 52)村松俊夫「手形訴訟においての若干の問題」鈴木忠一編(松田判事在職 40 年記念) 『会 社と訴訟』下巻(有斐閣、昭和 43 年)991 − 992 頁。 53)川村・前掲注(19)32 頁参照。 54)この問題に関する学説の状況について、石原全「原因関係欠缺の抗弁の主張・立証責任」 手形小切手判例百選[第 5 版]176 頁(1997 年)を参照。 55)村上博巳『証明責任の研究〔新版〕 』 (有斐閣、昭和 61 年)358 頁。 56)大隅健一郎=河本一郎『注釈手形法・小切手法』 (有斐閣、昭和 52 年)190 頁。 57)大隅=河本・前掲注(56)207 頁。また、川村・前掲注(19)217 頁参照。 58)村上・前掲注(55)358 − 359 頁。 59)永石一郎「要件事実のすすめ(下) 」自由と正義 50 巻 5 号 78 頁以下(1999 年) 60)上杉晴一郎「原因関係欠缺 の 抗弁」村上慶一編『裁判実務大系』第 2 巻(青林書院、昭 和 59 年)258 頁以下。 61)大隅=河本・前掲注(56)206 頁。 62)大隅=河本・前掲注(56)208 頁、坂井・前掲注(41)64 頁。な お、京都地判昭和 61・ 6・19 判タ 625 号 213 頁は、 「手形の無因性と訴訟の実際から考え、手形債務者が原因関 係の欠缺を主張するには、特定の原因のみを指定してその不存在をいうだけでは足りず、 手形債権者の積極否認事実等弁論の全体に顕れた事実から原因関係となり得る事実につ いてもその不存在を主張立証すべきものと解するのが相当である」とする。 63)坂井・前掲注(41)64 頁、川村・前掲注(19)217 頁。 22.
(23) 手形訴訟における主張・証明責任. 64)坂井・前掲注(41)64 頁。 65)なお、 本判決における少数意見(岩田・村上・関根・藤林・岡原各裁判官の意見)は、 「金 銭の支払いのためもしくはその支払いにかえて約束手形が振り出された場合、または信 用授受を原因としていわゆる融通約束手形が振り出された場合に、右振出により振出人 が厳格な手形上の債務を負担するに至るとしても、原因関係上の債務が金銭の支払いを もつてされるとき以上に、約束手形の振出自体が債権者に利益で債務者に不利益なもの となるとはいいがたい」ことを理由として、手形行為は利益相反取引に該当しないとす る。民集 25 巻 7 号 915 頁。 66)川村・前掲注(19)83 頁。 67)竹内・前掲注(49)281 頁。 68)一般に、代理人乙による双方代理に基づく甲・丙間の契約効果の発生を主張する者は、 ①甲の代理人乙と丙の代理人乙との契約の締結、②乙の顕名、③上記①の契約締結に係 る甲・乙間および丙・乙間それぞれの代理権の発生原因事実、④甲及び丙の双方が上記 ①の契約締結について許諾又は承認を与えたことを主張・証明しなければならない(司 法研修所編・前掲注(2)83 − 84 頁) 。な お、上記①乃至③ の み の 事実 で は、民法 108 条との関係から主張自体失当となるため、上記④の事実を併せて主張しなければならな い。これもいわゆる「せり上がり」の一種である(司法研修所編・前掲注(2)292 頁) 。 69)司法研修所編・前掲注(2)86 頁。 70)この理由として、本件が融通手形の事案であるため、そもそも原因関係がないと考えら れた可能性や、原審の段階で原因関係に関する抗弁の主張がなかったと考えられた可能 性がある。 71)民集 25 巻 7 号 915 頁。 72)会社代表者において手形証券上に「取締役会承認済代表取締役」なるゴム印が押さてい ることを確認したのみで、重過失がないと解する。代表取締役の押印がない場合につい て、問題視する見解もある(色川裁判官の意見・民集 25 巻 7 号 920 頁参照) 。しかし、 代表取締役の押印がなかった場合、 「取締役会承認済代表取締役」の押印の真正につい てまで確認を求めることは、手形の流通性を害するであろう。 73)議事録には公信力はないが(竹内・前掲注(49)277 頁参照) 、議事録を確認する以上に 手形取得者は承認の有無を確認する手段がないのであるから、議事録の確認のみで調査 義務を果たしたと解すべきである。 74)取引実態を純粋に主張・証明責任の分配に反映させることは、取引実態の調査結果が変 動すれば、主張・証明責任の配分も変化することとなる。このような結論を是認するこ とは裁判実務を不安定にするため、慎重な配慮が必要になろう。 23.
(24)
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