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〈論文・報告〉スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状

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(1)スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状. 論文. スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する 期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状. Global Human Resource Development through Sport The Expectations of Japan Overseas Cooperation Volunteers The Activities and Current Conditions of the Japan Overseas Cooperation Volunteers 黒田 次郎1) Jiro Kuroda. 概要 ボランティアへの関心が高まってきている。スポーツを通じた国際貢献では、青年海外協力隊スポーツ隊員の活動が期待され ている。 本稿では、JICAスポーツ隊員が現在どのように活躍し、それが国際貢献にどう寄与しているのか、そして青年海外協力隊の ボランティア体験が帰国後どのように役立っているのかを明らかにする。 Abstract: The interest in volunteering has been increasing for the past several years. Within the area of international sports volunteerism, the Japan Overseas Cooperation Volunteers (JOCVs) have participated in volunteer activities all over the world. The purpose of this paper is to examine the current sports activities of JOCVs, how they contribute internationally and how their volunteer experiences have helped them after they return to Japan. キーワード:グローバル人材育成、青年海外協力隊. Key words:Global Human Resource Development, Japan Overseas Cooperation Volunteers 1 はじめに. 2 スポーツ隊員の現状. スポーツを通じた国際貢献では、青年海外協力隊スポーツ. 青年海外協力隊のスポーツ部門は、大きく3分野、28業種. 隊員の活動が期待されている。青年海外協力隊スポーツ部門. に分類できる1)。体育、スポーツ、武道の3分野で、各分野. は、体育、スポーツ、武道の3分野になり、これらのスポー. は競技種目ごとに28業種に分類されている。. ツ部門を通じたボランティア活動が、発展途上国援助のため. JICA による青年海外協力隊の派遣が始まったのは、1965. の国際貢献に成果をもたらしているためである。. 年のことで、以来88カ国、4万人を越す隊員を派遣してきた. 青年海外協力隊は、外務省所轄の JICA( 独立行政法人国際. が、スポーツ隊員は意外に少ない。2015年6月30日現在の派. 協力機構 ) が行っているが、JICA から派遣されるスポーツ隊. 遣実績では、スポーツ隊員に限れば次表のようになってい. 員の現状とその活動を見ることは、今後スポーツを通じた国. る。. 際貢献のために何ができるのか、それらがどのような成果に. スポーツ隊員といえども、派遣の目的は青年海外協力隊事. つながるのかを予測する大きなヒントとなる。また、そのた. 業の目的そのもので、 「開発途上地域の住民と一体となって、. めにスポーツ隊員に、どのような資質が求められているのか. 当該地域の経済及び社会の発展に協力することを目的とする. を知るための、重要な要素となる。. 海外での活動を促進し、及び助長する」 (国際協力事業団法. 本稿では、JICA スポーツ隊員が現在どのように活躍し、. 第21条(2) )となっており、スポーツ隊員はスポーツを通じ. それが国際貢献にどう寄与しているのか、そして青年海外協. てこの目的を実現することが使命とされている。. 力隊のボランティア体験がどう役立っているのかを明らかに. 青年海外協力隊で各国に派遣されるスポーツ隊員は、分野. する。. 分類別でいえば「人的資源」となっている。分野分類には計. 1)近畿大学産業理工学部経営ビジネス学科准教授 jkuroda@fuk.kindai.ac.jp. 25.

(2) 近畿大学産業理工学部かやのもり 23(2015). (表1)スポーツ隊員の派遣実績2). 26. 画・行政、公共・公益事業、農林水産、鉱工業、エネルギー、. ポーツといった分野に対する青年海外協力隊への期待が増し. 商業・観光、人的資源、保健・医療、社会福祉、その他と分. ているといえる。. 類されており、それぞれの分野分類別派遣実績は次のように. この人的資源には、スポーツ以外にもさまざまな分野があ. なっている。. る。青少年活動や環境教育といった分野の隊員の派遣が多. 人的資源は、派遣実績のなかで49%と約半数を占めている. く、スポーツの各競技をまとめて「スポーツ」と分類すれば、. が、累計からもわかるように従来は公共・公益事業や農林水. 次のような割合となる。. 産、鉱工業などの分野に派遣される隊員が多かったものが、. 青年海外協力隊の隊員の募集は、春と秋の年2回あり、選. 近年では保健・医療、教育文化、スポーツ部門の伸びが著し. 考は書類選考の一次選考で技術審査・語学力審査・健康診断. くなっている。. 審査を実施。一次合格者に対し、二次選考では東京または名. もちろん、募集し、派遣される隊員は、派遣先の国の要請. 古屋、神戸、北九州各市のいずれか JICA が指定した会場で、. によるもので、それだけ農業や鉱工業から教育や文化、ス. 面接と健康診断、職種によっては実技試験が行われる。. (図1)分野分類別集計(2015年6月30日現在)3).

(3) スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状. (図2)人的資源の派遣数割合(派遣中) (2015年6月30日現在)3). (図3)人的資源の派遣数割合(累計) (2015年6月30日現在)3). また技術審査では、各専門分野の選考委員が応募書類をも. 3 「アフリカの友人」になったスポーツ隊員. とに応募者の技術と要請を照らし合わせ、適合性を総合的に. 青年海外協力隊スポーツ隊員の活動は、派遣相手国の要請. 評価する。隊員は、派遣相手国の要請に応えるだけの技術を. によってさまざまである。警察学校や警察で、柔道、空手、. 有している必要があり、また派遣国、多くは開発途上国への. 合気道などを教える(ケニア、インドネシア、タンザニア等). 派遣のため、環境の異なる生活で健康を維持しうる身体能力. ことや、スポーツ競技連盟や協会に属し、選手の育成・コー. を有し、さらに異民族社会のコミュニケーションを理解し、. チの養成を通じて競技力の向上に協力する(シリア、グアテ. 困難を克服する情熱などが求められている。. マラ等) 、さらに身体障害者のスポーツ活動に協力する(タ. さらに、合格者には派遣前訓練が実施される。これには4. イ、ポーランド等)といった活動まで、その任務の範囲は広. 4). つの訓練がある 。. 範に渡っている。 相手国の要請によるものだが、大別すれば次のようなもの. (1)技術補完研修. になる5)。. 受入国からの要請に的確に応えるための、実践的な技術や 教授法の研修。原則的には技術補完研修の修了が、派遣前訓 練参加のための条件となる。 (2)自己学習 受入国の要請に対応するために、補完的な知識や技術の習 得を図る。個人の努力で習得可能な技術のため、自己負担で 対応可能と判断された場合に指示される。 (3)資格取得 応募時点で要請に必要とされる資格を取得していない場 合、派遣訓練開始までに取得見込みまたは取得可能な場合に 指示。資格取得が、派遣前訓練参加の条件となる。 (4)語学および講座事前学習. ・体育系大学や学部(又は学科)で学生を対象に講義、実技 指導を担当し、将来の体育、スポーツの指導者を要請する。 ・小・中・高校で教員として児童・生徒を指導する。また、 現地の教員に日本の指導法などを紹介する。 ・教育を管轄する政府の機関に属し、学校体育の指導内容や 指導法の向上に協力する。 ・スポーツを管轄する政府の機関に属し、ある競技種目の普 及やレベルアップに協力する。 ・スポーツ競技連盟や協会に属し、選手の育成・コーチの養 成などを通じ競技力の向上に協力する。 ・スポーツ競技連盟や協会に属し、指導者養成・講習会など. 集団合宿制による訓練で、現地での活動に必要な語学を身. を通じその競技種目の普及やレベルアップに協力する。. につける。事前学習終了が、派遣前訓練入所の条件となる。. ・警察学校や警察などで、柔道、空手、合気道などを教える。. 講座は、JICA 語学講師による音声指導と、映像を多用した. ・町で、町内住民を対象としたスポーツ振興計画に協力する。. 教材で、e ラーニングによって進められる。. ・スポーツクラブに属し、競技力の向上に協力する。. これらの訓練によって、派遣隊員は相手国の要請に応える. ・身体障害者のスポーツ活動に協力する。. だけの技術を習得しており、相手国での指導や生活に支障の ない資質を持つことになる。. このようにスポーツ隊員の活動はさまざまで、要請国に よっては単純な任務だけではない。工場を作ったり農業の技 術を教授したりといった任務に比べ、目に見える成果も出に. 27.

(4) 近畿大学産業理工学部かやのもり 23(2015). くいものでもある。. 手を育成したりするだけではない。スポーツを「文化」とし. そんななかでスポーツ隊員の活動が表彰されたものもあ. て広めるのもまた、スポーツ隊員の活動のひとつとして要請. る。1968年のエルサルバドルでのソフトボール指導以来、中. されている。. 南米、アジア、アフリカ、大洋州、中東、東欧の計36カ国で. スリランカで最もメジャーなスポーツであるクリケットの. ソフトボールと野球の指導を行ってきた JICA の取り組みが、. 選手だったスジーワ・ウィジャヤナーヤカ氏が、日本で高校. 2013年4月に国際野球連盟(IBAF)によって特別表彰を授. 野球や大学野球、社会人野球の公認審判員として活躍するよ. 与したのである。. うになったのは、やはり JICA スポーツ隊員の指導によるも. 授賞に関し、IBAF 副会長のイシェラ・ウィリアムス氏(ア. のである。. フリカ大陸代表)は、「アフリカ諸国の多くでは JICA ボラン. スジーワ氏が野球と出会ったのは、高校3年生のときだと. ティアなしに野球とソフトボールの発展は考えられない」と. いう。スリランカ初の野球隊員である植田一久氏が同国に派. これまでの JICA とスポーツ隊員の活動を高く評価し、 「アフ. 遣され、その下で野球を始めた。高校を卒業すると母校の監. リカの人々は日本の若者を“アフリカの友人”と呼び、非常. 督を務めながら、2代目の野球隊員である後田剛史郎氏が監. 6). 28. に親しみを持っている」とコメントを寄せている 。. 督を務める代表チームで、エースとして活躍した。. スポーツ隊員の活動が、アフリカの若者に大きな影響を与. しかし、野球の面白さに目ざめ、自費で大分にある立命館. えた例もある。1997年に JICA の野球隊員としてジンバブエ. アジア太平洋大学に留学して野球部に入部するものの、その. に派遣された堤尚彦氏と松本裕一氏の活動だ。. レベルの高さに選手になることを諦めざるを得なかったとい. 両氏はジンバブエ第2の都市ブラワヨに派遣され、小学校. う6)。. とセカンダリースクールを回り、野球を伝える活動に取り組. そんなときに後藤氏に勧められたのが、審判への道だっ. んだ。このとき小学生だったのが、シェパード・シバンダ氏. た。審判の技術を学び、スリランカに持ち帰ることもまた、. だった。. 母国の野球の発展につながる。スポーツ競技としての野球で. 松本氏は地域に野球クラブを立ち上げ、そのクラブでコー. はなく、文化としての野球の普及である。. チを務めたのが、明治大学硬式野球部で活躍した根岸氏だっ. スジーワ氏は福岡県内のホテルに勤務する傍ら、公認審判. た。シェパード氏は、勝つことを目的とする厳しい練習から、. 員として年間約80試合ほどで審判を務めている。. 野球に上達し、さらに野球を楽しむことを覚えたという。. 同氏は来日後、スリランカ初の野球専用グラウンド建設に. 2006年、前年にスタートした日本のプロ野球独立リーグ. 尽力し、2012年には南アジア初の野球専用グラウンドを完成. 「四国アイランドリーグ plus」に、ひとりの外人選手が入団. させてもいる。. テストに挑戦し、見事合格して「香川オリーブガイナーズ」. スポーツ隊員の活動は、文化としてのスポーツの普及に留. に選手として参加することになった。それがジンバブエから. まらない。相手国からの要請という側面はあるが、実はス. やってきたシェパード氏だった。. ポーツが国家や民族という枠組みを突き抜ける可能性を持つ. 2006年、2007年にそれぞれ30試合ずつ出場し、翌2008年に. ことに期待が寄せられてもいるからだ。. は北陸の「福井ミラクルエレファンツ」に入団して30試合に. 2003年11月3日には、国連総会において教育を普及、健康. 出場している。その後祖国の事情で帰国したが、シェパード. を増進、平和を構築する手段としてスポーツを重視し、ス. 氏は「いつか、ジンバブエに『野球アカデミー』のようなも. ポーツのもつ可能性を積極的に活用すべき、との趣旨の決議. のをつくりたい。大きな野球場を建て、必要な道具をそろえ. が採択されている。また、UNDP(国連開発計画)や各国際. て、誰でもそこに行けば野球を教わることができるような施. 機関などでも、スポーツと開発プロジェクトを連動させるこ. 設です。そうして、協力隊員たちが築いてくれた野球の土台. とで、民族の融合をはかり、教育や健康への意識を高めよう. を無にしたくはないのです」と語っている。. という試みが始められている。. JICA スポーツ隊員による活動が、日本とジンバブエを結. 「先進国と途上国の格差是正へ向けた協力活動は先進国側. ぶ大きな架け橋となった例である。また、その活動がジンバ. の免れない責任として顕在化し、そうした格差を是正しよう. ブエの野球、ひいては文化の発展に今後も寄与する事例だと. と『経済開発』の方向に加え、人間的・社会的側面を重視. いっていい。. しようとする『社会開発』などが積極的に展開されてきて いる」7)そのためにスポーツを通じた国際開発が求められ、. 4 スポーツの文化としての側面. JICA スポーツ隊員の活動にもその方面に強く働きかけるよ. スポーツ隊員の活動は、相手国の要請によってさまざま. うな活動が求められてもいるのである。. で、スポーツを普及させたり、競技技術を教えてスポーツ選.

(5) スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状. 5 スポーツ隊員としての活動. 宇都宮奈美氏と萩裕美子氏は、ともにマダガスカルで柔道. 2014年に、JICA 青年海外協力隊員の体育教師としてブー. の普及、発展の活動に参加している。. タンに派遣された長谷直樹氏は、これまでのブータンの体. マダガスカル共和国は、インド洋に浮かぶ世界で4番目に. 育教育では、競技スポーツの指導が中心で、児童一人一人. 大きな島だが、もともとフランスの植民地時代にフランス軍. の発育、発達状況を考慮した授業が実施されていないこと. 人によって柔道が伝わっている。当時は畳の上にマダガスカ. から、「日本式保健体育科教育の実践を通じ生徒のウエルネ. ル人が上がることは許されていなかったが、1960年の独立後. スを向上させること」を活動の目標として定め、ブータン. はマダガスカル人によって柔道が行われるようになったとい. 教育省カリキュラム局(DCRD:Department of Curriculum. う経緯がある。. Research and Development)の「保健体育指導要領」の策. このマダガスカルの教育省には、教育柔道の組織「JUDO. 8). 定に貢献することを最終ゴールとして活動を行ったという 。. IN SCHOOL」があり、この機関によって全国の学校のなか. ブータン王国といえば、日本では「幸せの国」 「微笑みの国」. に併設された施設で柔道が行われている。また、大学の入試. として知られるが、青年海外協力隊派遣取決が署名されたの. 試験に柔道の科目があり、柔道学科まであるものの、指導者. は1987年のことである。以来、農業・農村開発、インフラ整. がいないために実施されていないという現状もあった。. 備、公共サービス改善、環境改善、気候変動対策などで協力. 宇都宮、萩両氏は1カ月間という短期派遣だったが、ア. を展開されており、2001年からはシニア海外ボランティアと. ンチラベ、チルヌマンディティ、アンブチャマンジャカで生. して体育分野での派遣も行われてきた。. 徒を指導し、またナショナルチームと合同練習も行ってい. 長谷氏が派遣されたのは、ブータン王国の最西端にあるハ. る10)。. 県の公立校で、「保健体育指導の実践を通じ、保健体育指導. マダガスカルに限らず、発展途上国では物的支援が要求さ. とスポーツ指導の相違点を明確に提示し、同分野における教. れることが多いが、マダガスカルでは「柔道衣も畳もいらな. 育の重要性の理解を促進すること」が活動概要だった。. いから、指導者が欲しい」と人的支援の要請があった。宇都. 配属後にまず行ったのは、保健体育で使用可能な教具の確. 宮、萩両氏は、これこそ真の柔道国際化であると感じたとい. 認と管理だった。さらに、より効率の良い指導のために、生. う。. 徒の身体測定と体力テストを実施。これによって生徒の発育 度合や体力を考慮した指導が行えるようになった。. 6 多様化するニーズ. 8カ月の活動で、今後は「駅伝大会」をハ県で催し、日本. JICA ボランティアにスポーツ部門が取り入れられたのは、. 文化の紹介とともに日本独自のスポーツ文化を紹介し、日本. 1968年のエルサルバドルへのソフトボール指導部隊の派遣が. とブータンの文化交流も目指しているそうだ。. 最初である。1970年にはフィリピンに野球指導のためにス. JICA スポーツ隊員の競技分野には、柔道や空手といった. ポーツ隊員が派遣されており、以来アフリカ、中南米、アジ. 武道も含まれている。そのなかで2010年にエクエドルに派遣. ア、東欧など36カ国に延べ278人の野球・ソフトボール指導. され、剣道を指導したのが岩本貴光氏である。「エクアドル. 者が派遣されている11)。. 国で剣道の普及・発展(特にナショナルチームの技術力向. これは国連のスポーツ関連政策の第1期に相当するもの. 上)」を目的とし、基礎的修練の在り方を指導している。. だ。国連のスポーツ関連政策は、第1期:1952~94年、第2. 「剣道は日本語中心の指導になるが、エクアドル剣士に伝 える時は、英語の中にスペイン語を織り交ぜての指導となり. 期:1995~2000年、第3期:2001年~現在の3期に分けるこ とができる12)。. 大変苦慮した」9)と述べているが、実際に相手国に派遣され、 体験することでのみわかる苦労もある。. (1)第1期:1952~94年. 岩本氏の派遣の目的のひとつは、エクアドルのナショナル. 国際協力事業のなかにスポーツを先駆的に導入した国際連. チームの強化だが、そのために(1)基本の徹底指導、 (2). 合教育科学文化機関(ユネスコ)が、1952年に教育部門に体. 柔軟性をもった応じ技の習得、 (3)高次元の集中力の要請、. 育・スポーツ関連セクターを設け、以後ユネスコが体育・ス. (4)継続的な稽古メニュー作成と実践、の4つを目標とし. ポーツと国際協力のなかで重要な役割を果たす。. て設定した指導を行ったという。 また、継続的に稽古を行っていくために、練習試合や大会. (2)第2期:1995年~2000年. の企画・運営のサポートを行っている。これによって、エク. 国 連 環 境 計 画(UNEP:United Nations Environment. アドル・ナショナルチームは世界剣道連盟に加入し、世界剣. Programme)が中心となり、自然環境とスポーツとの共存. 道大会にも初出場するまでになった。. が求められた時期。1999年には「スポーツを通じた平和社会. 29.

(6) 近畿大学産業理工学部かやのもり 23(2015). の実現」が宣言され、国連機関と各国政府、民間セクター、. 1990年の「入国管理及び難民認定法」の改正にともない、. 財団、NGO などが国際的スポーツ組織との協力態勢の確立. 在留日系人が急増したことから、彼らの子供たちが言語の問. をすすめる。. 題や社会環境に馴染めないことから、教育現場にさまざま な問題が発生してきた。このような背景に伴い、JICA では. (3)第3期:2001年~現在. 2008年の「日本ブラジル交流年(ブラジル移住100周年)」を. 貧困によるテロの撲滅などのために、開発途上国の開発プ. 契機として、日本の教員をブラジルに派遣し、現地の学校教. ログラムや平和構築プログラムのなかで、スポーツを積極的. 育現場のニーズに応えるとともに、ポルトガル語や現地の生. に活用しようとする国際的な意思統一がなされた時期。. 活週間・文化・学校教育環境等を学び、帰国後に本邦在留日. JICA のスポーツ隊員の派遣が、1968年であったことを考. 系子女の教育の充実を図ることを期待して活動を開始してい. えれば、JICA の活動は世界的にも早くからスポーツによる. る14)。. 国際貢献に取り組んできたといえる。. また、この日系社会青年ボランティアと同じく、 「日系社. もともと日本の青年を海外(アジア対象)に派遣する計画 13). 30. 会シニアボランティア」も募集されており、シニア隊員を対. は、1957年(昭和32年)当時から構想されていた 。1961年. 象に中南米地域に隊員を派遣している。. に、アメリカ合衆国のボランティア組織「平和部隊」が設立. これらのシニア隊員や日系社会ボランティア隊員には、青. されたため、日本の青年海外協力隊もこれを手本として発足. 年海外協力隊とは異なりとくに「部門」という区分けは設定. したのだろうと思われがちだが、アメリカの平和部隊よりも. されていない。日系社会での活動を対象としたものだからだ. 日本での取り組みのほうが早かったのである。. が、体育・スポーツ分野では野球やソフトボールなどの要請. 1960年3月には、新樹会(青年運動の指導者組織)の前身. が多いという特徴がある15)。また、日本語や日本文化を伝え. である「日本健青会」が、青少年団体幹部連絡会議の席上で、. るものが多いようだ。. 「青年海外派遣計画」についての見解を表明している。青年. さまざまな環境や制度、さらに相手国の要請に対応すべ. 海外協力隊は、このときの見解を活かした上での発足であ. く、青年海外協力隊もまた派遣分野や部門を細分化し、隊員. る。. やシニアボランティアがより相手国の要請に応えられるよう. 青年海外協力隊派遣開始当初は、日本の得意スポーツであ. 発展させてきたというのが、JICA の現状なのである。. る「柔道」の派遣が多く、スポーツ部門の7割以上を占めて いたが、次第に競技よりむしろ教育に対する協力の要請が増. 7 世界で活躍するスポーツ隊員. え、1980年以降は「体育」の隊員派遣の比重が大きくなって. 世界のトップクラブでは、ブラジル出身のサッカー選手が. いる。. 何人も活躍している。ブラジルの国技はカポエラだが、サッ. それに加えて、隊員の勤務形態や要請内容の多様化によ. カーが国技ではないかと勘違いするほどサッカー人気が高. り、協力隊員に求められる資格のレベル、相手国からのニー. い。そのサッカー王国ブラジルが、野球で注目を集めた出. ズ等もますます多様化している。. 来事がある。2012年の第3回ワールド・ベースボール・クラ. また、近年では日本社会の高齢化にともない、ボランティ. シック(WBC)だ。. ア活動に関心を寄せるシニア世代も増えてきている。. ブラジルはこの大会の予選で、メジャーリーガーを擁する. JICA には20歳~39歳の隊員で構成される青年海外協力隊. パナマを2度に渡って破り、初出場ながら本戦進出を決める. の他、40歳~69歳の隊員で構成されるシニア海外ボランティ. という快挙を達成したのである。その躍進の裏に、JICA の. ア、さらにアジア・アフリカ・中南米・大洋州・中東の国々. 日系社会青年ボランティアの取り組みがあった。. で1カ月~1年未満の活動を行なう短期ボランティアの3. 同大会で、ブラジル代表チームの打撃・走塁コーチを務め. つの部門がある。. たのが、黒木豪氏だった。黒木氏は日系社会青年ボランティ. シニア海外ボランティアは青年海外協力隊と同じく、2年. アとして、協会が運営する野球クラブの13~14歳カテゴリー. 間の派遣となっているが、「自分の持っている技術・知識や. のチームで野球を教えていた。その教え子たちが、全国大会. 経験を開発途上国の人々のために活かしたい」というシニア. で上位入賞したのに注目したブラジル野球連盟が、黒木氏に. のボランティア意識は高い。. WBC のコーチを要請したのである。. これらの隊員とは別に、JICA には中南米地域の国々を中. 黒木氏は、WBC 大会前に積極的に相手チームのデータを. 心とする「日系社会青年ボランティア」という制度もある。. 収集。そのデータに基づく戦術で、ブラジルがパナマを破る. これは日系人社会及び地域社会の発展に協力するための派遣. という快挙を達成したのである。. 制度である。. この第3回 WBC では、ドミニカ共和国が全勝優勝した。.

(7) スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状. 実はドミニカ共和国でも、日本の JICA ボランティア経験者. 献の歴史や多くの事例が、この議論にある程度の解答を与え. が活躍している。百瀬喜与志氏だ。百瀬氏は1995年~1997年. ている。. に JICA 野球隊員として、コスタリカで活動している。 任務終了後は米国・セントラルフロリダ大学で運動生理学 を学び、その後メジャーリーグでコンディショニング・コー チを、さらにドミニカ共和国やベネズエラで育成機関の選手 を担当するなどの活動を行っていたが、ドミニカ共和国の監 督などの要望でナショナルチームに帯同し、それが WBC で の全勝優勝につながっている。 エチオピアでバレーボールの普及・強化活動に携わったの は、梅崎さゆり、吉田雅行、吉田康成の3氏だった。スポー ツ隊員として派遣された3氏は、主に技術指導を担当し、テ クニカル・アドバイザーとして活動した。ナショナルチーム やプロチーム、ユースプロジェクトなどの強化活動に関わ り、代表選手やユースプロジェクトの選手選考、コーチ講習 会の講師といった専門的な経験や知識を要する仕事も任され たという16)。 ナショナルチームの強化では、オールアフリカン大会の予 選であるゾーン大会に照準を合わせていたが、指導したチー ムはそれまで大会出場経験がなかったものの、指導後はゾー ン大会を突破し、好成績を収めている。 隊員の活動は、技術の指導や強化にとどまらない。レベル を向上させるためには、充実した学校教育やスポーツ指導が 行われることが望ましく、そのためにはコーチの質の向上、 学校体育の充実などが課題となる。コーチ講習会や学校での 児童の指導などが、将来的なレベルの向上につながってお り、この分野でもスポーツ隊員に期待が寄せられている。 スポーツを通じた国際協力では、JICA が中核的な役割を 担ってきている。この JICA の活動を国際的に見れば、スポー ツを通じた国際協力では、派遣人数から見ても日本が世界で も最も組織的な活動を行っているといえる。 もちろん、諸外国ではキリスト教精神に基づき、個人や 民間ベースのボランティア活動が活発に行われているが、 ODA や JICA のような国レベルでの組織的なボランティア は、まだ広く普及しているとはいえない。 2000年9月には、147の国家元首を含む189の国連加盟国代 表が参加する国連ミレニアム・サミットで、「国連ミレニア ム宣言」が採択されている。スポーツを応用すれば、スポー ツと開発が相互に連動しつつ、開発アプローチという問いに 新しい視覚から解答が出せるのではないか、との議論も巻き 17). 起こった 。 この議論は、2020年に開催が決まった東京オリンピックを 前に、ますます深く、活発に行われていくだろう。日本では、 東京オリンピックに向けて本格的なスポーツ振興事業が開始 されているが、これまでの JICA のスポーツを通じた国際貢. 引用・参考文献 1) JICAボ ラ ン テ ィ ア の 歩 み:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/history/index.html(2014年10月21日 参照) 2) JICAボ ラ ン テ ィ ア 派 遣 実 績:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/publication/results/jocv.html#r04 (2015年6月30日参照) 3) JICAボ ラ ン テ ィ ア 派 遣 実 績:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/publication/results/jocv.html#r03 (2015年6月30日参照) 4) JICAボランティア「合格後のスケジュール」 :http:// www.jica.go.jp/volunteer/application/seinen/training/ index.html(2015年6月30日参照) 5) 廣川俊男(1995)青年海外協力隊スポーツ隊員とSports of All, 新潟産業大学人文学部紀要 第2号 116-117 6) JICAボ ラ ン テ ィ ア ス ト ー リ ー06:http://www.jica. go.jp/volunteer/outline/story/06/index.html(2015年 6 月30日参照) 7) 小林勉(2014年)なぜスポーツを通した国際開発か? 現代スポーツ評論 36-37 創文企画 8) 長谷直樹(2014)ブータン王国における保健体育 立教 Roots:https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view _main&active_action=repository_view_main_item_deta il&item_id=11245&item_no=1&page_id=13&block_id= 49 9) 岩本貴光(2014)南アメリカにおける剣道の普及・発展 についての一考察 Bulletin of Beppu University Junior College 10)宇都宮奈美、萩裕美子(2007)マダガスカル柔道の現状 ―青年海外協力隊短期派遣活動からの考察― 鹿屋体育 大学学術情報リポジトリ 11)小栗俊之(2001)国際ボランティア団体・青年海外協力 隊に関する研究―スポーツ部門における現状と課題― 文京学院大学研究紀要 3(1)59-77 12)齊藤一彦・岡田千あき・鈴木直文(2015)国際関連機関 によるスポーツを通じた国際協力 スポーツと国際協力 (26-39)大修館 13)JICAボ ラ ン テ ィ ア の 歩 み:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/history/index.html(2014年10月21日 参照) 14)JICAパンフレット(2012)日系社会青年ボランティア 現職教員特別参加制度について:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/publication/pamphlet/index.html 15)齊藤一彦・岡田千あき・鈴木直文(2015)ODAによるス ポーツを通じた国際協力 スポーツと国際協力(47-56) 大修館 16)梅崎さゆり・吉田雅行・吉田康成(2008)エチオピアの バレーボールの現状と今後の課題について 大阪教育大 学紀要 第IV部門 第57巻 第1号(207-225) 17)小林勉(2014年)なぜスポーツを通した国際開発か? 現 代スポーツ評論 50-51 創文企画. 31.

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