小学校と中学校の連携を意識した指導事例とその評価 : STEM教育の比(proportion)の概念に着目して
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第₂号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.2. 平 成 29 年 ₂ 月 February, 2017. 小学校と中学校の連携を意識した指導事例とその評価 ― STEM教育の比(proportion)の概念に着目して ―. 森 健一郎・髙橋 弾*・栢野 彰秀** 北海道教育大学釧路校 *. 釧路市立幣舞中学校 **. 島根大学. Science Education Research on Elementary and Junior High School Cooperation Focusing on Conception of“Proportion”in STEM Education. MORI Kenichiro, TAKAHASHI Dan* and KAYANO Akihide** Department of Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education *. Nusamai Lower Secondary School, Kushiro **. Simane University. 概 要 本研究は,学習指導要領に示されている理科の目標「科学的な見方や考え方を養う」ことを 達成するための具体的な方策を明らかにする研究の一部である。本研究では,中学校理科の湿 度に関する指導において,1mのパイプを組み合わせて1m3の空間を提示し,「基準量」とし ての飽和水蒸気量を具体的な分量として実感させることを試みた。質的な分析にはイメージ マップテストを用い,量的な分析には評価問題を用いた。イメージマップテストによる質的な 分析の結果,霧や雲の成因については水蒸気量と関連づけた認識が概ねなされていた。量的な 分析は,湿度の計算問題の正答率によって判断したが,正答率の有意な向上は確認できなかっ た。このことは,湿度を捉える際の飽和水蒸気量と実際の水蒸気量との関係を判断することに 困難があること,すなわち,割合を捉える際の「基準量」と「比較量」を判断することに難し さを感じている生徒が多いことを示している。. 333.
(3) 森 健一郎・髙橋 弾・栢野 彰秀. Concepts」(7つの横断的な概念)を用いること. 1.研究の背景と目的. とした。. 現行の学習指導要領における理科の目標の一つ. STEM教育とは,Science(科学) ,Technology. は「科学的な見方や考え方を養う」 (文部科学省,. (技術) ,Engineering(工学) ,Mathematics(数. 2008)ことである。この目標の達成のため,現行. 学)のそれぞれの単語の頭文字をとったものであ. の『学習指導要領解説理科編』(文部科学省,. り,現在,アメリカを中心に推進されている教育. 2008)では, 「エネルギー」, 「粒子」, 「生命」, 「地. の潮流の一つである。STEM教育は,「科学と. 球」の4つの概念で学習内容を構造化することが. 数学を土台として科学技術,とりわけ生命科学分. 示されている。. 野に携わる人材を育成する」というアメリカの戦. 学習指導要領では「科学的な知識や概念」を用. 略ともいえるものであり,学齢期にある子供達が,. いることを言語力の育成と関連づけて示してい. 将来的にそのようなフィールドで活躍することを. る。例えば, 『言語活動事例集』 (文部科学省,. 目的の一つとしている。. 2011)では,理科における言語活動の展開例とし. このSTEM教育を構成する概念に「7つの共. て「粒子」概念を扱った授業例などが紹介されて. 有する大切な概念」がある(図1)。この中には,. いる。. 「原因とその影響」,「スケール・比・量」,「安定. 本研究では,言語力の育成を視野に入れつつ,. 性と変化」など,それ自体が思考の方法となって. また, 現行の4つの概念(エネルギー, 粒子, 生命,. いるものがある。特に,「スケール・比・量」に. 地球)を用いた構造化をさらに充実させるため,. ついては,算数の段階(小学校第6学年)の全国. 清原(2014)などが提唱しているように,米国のS. 学力・学習状況調査においても,その理解に課題. TEM教育のフレームワーク,特に「7 Crosscutting. があることが示されている。. 図1 STEM教育のフレームワーク(熊野,2015). この「7つの共有する大切な概念」を教師が意 識的に用いることで,学習者の思考を支援するこ. 2.研究の方法. とができると考えた。これらの概念は単元横断的. ⑴ STEM教育のフレームワーク. なものでもあるため,生徒が意識的に繰り返し用. 言語活動による「過程」の充実と,学習内容の. いることで, 「単元横断的な思考」につながる。. 構造化の充実のために,STEM教育のフレーム. 334.
(4) 小学校と中学校の連携を意識した指導事例とその評価. ワークの「比率,割合,分量(Scale, Proportion,. 関する理解度に課題があるためである。一例とし. and Quantity) 」に着目した授業モデルを開発し,. て,全国学力・学習状況調査H27 小B2算数⑵. 公立中学校で実践をおこない,質的・量的の両面. の20%増量問題(図2)1)について,正答率が8%. から評価した。. という実態がある。このことは,割合を捉える際. 「 比 率, 割 合, 分 量(Scale, Proportion, and. の「基準量」 , 「比較量」を判断することに課題が. Quantity) 」に着目した理由は,中学生の割合に. 見られる生徒が多いことを示していると考えられる。. 図2 2015年度 全国学力・学習状況調査 小学校算数B問題2⑵. 第2学年の「気象とその変化」では,1m3の 空間の飽和水蒸気量に占める水蒸気量の割合を考 えることで,霧や雲の成因,および湿度(相対湿 度)の計算方法を学習するが,全国学力・学習状 況調査の実態から判断すると,1m3の空間の飽 和水蒸気量を具体的な分量として認識することが 難しいのではないかと思われた。 そこで,湿度に関わる指導の場面で,塩化ビニ ルのパイプで作成した各辺が1mの立体(写真1) を提示し,「基準量」としての飽和水蒸気量を具. 写真1 パイプにより作成した1m3の空間. 体的な分量として実感させることを試みた。その 他,単元のねらい,評価基準,各時間の指導内容. ⑵ イメージマップテスト. は,本実践のための特別なものはなく,通常のも. IMTとは,同心円の中心に学習の重点となる. のとほぼ同一である。. キーワード(鍵概念と呼ぶ)を記載したシートを. 質的な分析はイメージマップテスト(Image. 用いた評価手法である。ここでは,鍵概念から連. Mapping Test,以下IMT)を用い,量的な分. 想した語句をまず内側の円に書き,その語句から. 析は湿度の計算についての評価問題を用いておこ. さらに連想した語句を外側の円に書く。その際,. なった。. 図3・4のように,どの語句からどの語句を連想. 335.
(5) 森 健一郎・髙橋 弾・栢野 彰秀. したかがわかるように直線を枝のように書いてい. る。この手法は,いくつかの教育研究ですでに用. く。連想語は複数あってもよい。このようにして. いられており,近年は,「思考ツール」(黒上,. 書き出された連想語の数やつながりから,作成者. 2014)の一つとして学校現場の「総合的な学習の. が鍵概念に対してもっているイメージを推定す. 時間」などを中心に活用されつつある。. 図3 「水蒸気」という鍵概念で生徒が5分間で作成したIMT(通常の授業後に作成). 前出の図3は「水蒸気」という鍵概念で生徒が. ることを期待した。しかし,学習直後だったため. 5分間で作成したものである。このIMTの場合. か,生徒Aは,「水蒸気」から「飽和水蒸気量」,. は,鍵概念「水蒸気」から連想される語句が書か. 「湿度」, 「1m3」といった語句を連想していない。. れる。このIMTは, 「露点」と「飽和水蒸気量」. 学習プランの後に作成させたIMT(図4)では,. の関係から「湿度」の意味を理解する通常の授業. 「飽和水蒸気量」,「湿度」,「1m3」といった語. (1mの立体を提示していない授業)をおこなっ. 句が書かれている。このことから,この生徒Aは,. た直後に作成させたものである。この時点では,. 学習プランを終えた時点では, 「水蒸気」から「飽. IMTに「水蒸気」という鍵概念から「飽和水蒸. 和水蒸気量」,「湿度」,「1m3」といった語句を. 気量」 , 「湿度」,「1m3」といった語句が書かれ. 関連づけて捉えられるようになったといえる。. 図4 「水蒸気」という鍵概念で生徒が5分間で作成したIMT(学習プランの後に作成). 336.
(6) 小学校と中学校の連携を意識した指導事例とその評価. これまでの筆者らの研究から,鍵概念に対して. gまで入りますか」,「現在の室温が下がっていく. 十分な理解がなされている生徒は,つながりがあ. と,この空間に入ることのできる水蒸気の量はど. ると判断される語句をIMTに次々と書いていく. うなっていきますか」といった飽和水蒸気量に関. 傾向があることが示されている。一方,そうでは. する問いや,「現在の湿度が60%です。この空間. ない生徒の場合は,他の語句とのつながりが理解. には水蒸気が何g入っていますか」といった実際. できていないことから,IMTに語句が書かれな. の水蒸気量に関する問いが可能となる。この問い. い,または関連のない語句が書かれる傾向がある. では2つの単位が組み合わさった「g/m3」を用. ことも示されている。したがって,IMTに書か. いることがないため,生徒にとって問い自体を理. れた語句の数や質を検討することにより,その生. 解しやすいのではないかと考えた。. 2). 徒の理解の状況を推測することができる 。. 本実践のように,まず実際に1m3の空間を提 示し,共通のイメージをもたせた上で授業を進め, その次に,概念化された表やグラフを扱うことで. 3.授業実践の概要. 段階的に理解が進むと考える。. 本研究における授業実践では,1m3の空間の イメージを生徒にもたせるため,塩化ビニルのパ イプを用いて各辺が1mの立体(前出の写真1). 4.授業実践の詳細. を作成した。. 単元の指導計画を表1に示す。単元のねらい,. 授業者は,これを生徒に見せながら湿度につい. 評価基準,各時間の指導内容は本実践のための特. ての学習を進め,湿度を求める際の基準量として. 別なものはなく,通常のものとほぼ同一である。. の飽和水蒸気量をより明確に意識させることを心. 湿度に関わる指導の場面で,各辺が1mの立体. 掛けた。. を提示し,「基準量」,「比較量」をそれぞれ「そ. 通常の指導では,飽和水蒸気量の定義とその単. の気温での飽和水蒸気量」,「その気温での実際の. 位「g/m3」をほぼ同時に学習し,その後,飽和. 水蒸気量」としての明確に意識させた点が,それ. 水蒸気量に関する表やグラフに触れることにな. までの指導計画と異なる点である。IMTテスト. 3. る。2つの単位を組み合わせた「g/m 」の理解. は,表中に示したように2回実施しており,それ. が困難な場合,表やグラフの意味の理解が不十分. ぞれに要した時間は5分間である。. になることが考えられる。特に飽和水蒸気量の場 合は,温度によってその値が変化するため,「基 準量」としての役割を意識しにくいのではないか と思われる。 ここで,実際に各辺が1mの立体を用いること で「基準量」としての飽和水蒸気量を視覚的に捉 えることができる。従来の指導では,教科書に記 載された定義の説明,つまり言語による説明が用 いられるが,この教具を用いることで,言語によ る説明だけではなく,視覚的に捉えることも可能 となる。実際に1m3の空間を見ながら授業を進 めることで,水蒸気量のイメージがつかみやすく なると考えた。これを見せつつ,例えば「現在の 室温が20℃です。この空間には水蒸気が最大で何. 337.
(7) 森 健一郎・髙橋 弾・栢野 彰秀. 表1 授業者の授業づくりを含む授業展開の概要 『自然の探究 中学校理科2』 (教育出版) 「気象とその変化」単元 第2章「空気中の水の変化」 ⑴ 対象生徒 公立中学校第2学年3クラス(合計84人) ⑵ 実践期間 201X年10月~11月(授業時数:全11時間) ⑶ 単元のねらい ・結露などの日常的な現象の観察や露点の測定実験などを行い,水蒸気の凝結について理解する。 ・気圧の高度による変化について理解し,減圧実験などにより水蒸気が水滴に変化することを体験からとら える。雲ができるときの気圧,気温及び湿度の変化を相互に関連づけて理解する。 ・降水現象から地球の水の循環について考察し,循環が太陽のエネルギーによって引き起こされることを理 解する。 次 学習内容 時 授業展開の概要 1 空気中の水蒸気 1 ・水が水蒸気に変化する様子を観察する(演示実験:霧吹きで内側をぬらしたポリ エチレンの袋にドライヤーの温風をかける) 。その後,水蒸気が水に変わる条件 について話し合う。 ・空気中の水蒸気がどのような時に水へ変化するのか考える。 . 2 ・実験 温度を変えて水蒸気を水に変える。 ・水蒸気が水に変化するとき,温度が関係していることを見いだす。 . 3 ・露点と飽和水蒸気量から温度(相対湿度)の定義について,教科書の記述をもと に学習する。 【1回目のIMT実施】 ・湿度の計算について,教科書や副教材の例題を解く。 ・霧や雲がどのようにできるのか考察する。 2 霧や雲の発生. . 4 ・実験 霧をつくる(シャーレにぬるま湯を入れ,その上にドライアイスの冷気を かける) . 5 ・露点と飽和水蒸気量から温度(相対湿度)の定義について,1m3の立体を用い て再確認する。グループ毎に枠を用いながら,具体的な数値を用いた問題につい ての考え方を説明させる活動をおこなう。. 写真2 湿度の考え方を説明している様子 6 ・雲の動きや形の変化から,雲が発達しているところでは,空気はどのように動い ているのかを考察する。 . 7 ・気圧の変化と空気の膨張について学習する。 ・高度によって気圧の変化する理由を話し合う。 . 8 ・実験 雲をつくる(容器から空気を抜くことで気圧を下げ,中の水蒸気を露点以 下にする) ・容器内の空気の温度変化,および凝結核の役割について考察する。 . 9 ・大気中の空気の上昇と下降によって起こる現象について考察する。 ・雲のでき方をもとに,雨や雪のでき方を考察する。 3 水の循環. . 10 ・教科書の図などを参考に,雨や雪のでき方についてまとめる。 ・地球上の水は常に循環しており,この循環をもたらしているのが太陽のエネル ギーであることに気づく。 ・水の循環が気象の変化を生じさせていることに気づく。 . 11 ・第2章のまとめ,副教材の練習問題に取り組む。 【2回目のIMT実施】. 338.
(8) 小学校と中学校の連携を意識した指導事例とその評価. 問のねらいは「露点を測定する場面において,最. 5.授業実践の評価. も高い湿度の時刻を指摘することができる」であ. 質的な分析はIMTを用い,量的な分析は湿度. り,正答はエである。湿度を考える際の「基準量」,. の計算についての評価問題を用いた。評価問題の. 「比較量」をそれぞれ「その気温での飽和水蒸気. 内容は,2015年4月に,当時の中学校第3学年を. 量」,「その気温での実際の水蒸気量」として明確. 対象に実施された全国学力・学習状況調査(理科). に意識しなければ正答できない設問である。本研. の設問(図5)3)を参考にした。全国学力・学習. 究で用いた各辺が1mの立体によって,この「基. 状況調査を参考にした理由は,設問ごとのねらい. 準量」としての飽和水蒸気量が明確に意識される. や平均正答率が示されているためである。この設. ことを期待した。. 図5 2015年に実施された全国学力・学習状況調査(理科)の設問. ⑴ 質的な評価について. 概念「水蒸気」にどのような質的な変化が生じた. この授業実践の質的な効果の測定は,IMTに. のか,あるいは変化が生じなかったのかを判断す. 書かれた語句の種類を検討することでおこなっ. ることができると考えた。本研究の授業実践では,. た。今回の授業実践では84名の生徒がIMTを作. 1m3の立方体を用いて湿度の学習を進めたこと. 成した。1回目のIMTは3時間目の学習を終え. から,飽和水蒸気量を1m3の空間と関連づけ,. たときに実施し,2回目のIMTは,今回の教材. かつ「基準量」として認識させることを意図して. 開発による授業をおこない,さらに単元全体の学. 授業をおこなった。1m3の立方体によって,飽. 習が終わる際に実施した。. 和水蒸気量が具体的な1m3の空間と関連づけら. 最初に作成したIMTに書かれた語句と,2回. れていれば,2回目のIMTにそれが反映される. 目のIMTに書かれた語句を比較することで,鍵. と考えた。. 339.
(9) 森 健一郎・髙橋 弾・栢野 彰秀. IMTの分析は,森ら(2016)の手法を用いた。. 「基準量」, 「比較量」, 「露点」, 水蒸気量」, 「1m3」,. IMTの分析では,書かれた語句のすべてを対象. 「湿度」を対象としていたが,「基準量」と「比. として分類し, 傾向をつかむという手法もあるが,. 較量」を書いた生徒がいなかったため,「飽和水. この作業は短時間で終えることができず,まと. 蒸気量」,「1m3」,「露点」,「湿度」を対象にし. まった時間が必要であるため,学校現場における. て分析をおこなうこととした。. 実践に用いるには現実的ではないという課題が. 1回目のIMTにおいては,期待された語句の. あった。森ら(2016)の手法は,予め出現するこ. 組み合わせを書いた生徒は84人中22人であった。. とが期待される語句を設定しておき,その語句の. この人数は全体の26%であった。IMTに「飽和. みを分析の対象にするというものである。. 水蒸気量」,「1m3」,「露点」,「湿度」の語句が. 「基準量」, 今回は, 「飽和水蒸気量」, 「1m3」,. 書かれていることが,湿度の理解がなされている. 「比較量」 , 「露点」,「湿度」を対象とした。1. ことの直接的な根拠であるとはいえない。しかし,. 3. m の立体を導入することで,「飽和水蒸気量」を 3. 筆者らの先行研究を踏まえると,これらの語句を. 「1m 」を「基準量」として認識し,「比較量」. 書いていない生徒,すなわち,鍵概念の「水蒸気」. である実際の水蒸気量を「露点」から判断し, 「湿. 「露点」, 「湿度」 から「飽和水蒸気量」, 「1m3」,. 度」を正しく求めることができる,あるいは求め. などの語句を連想していない生徒は,湿度の理解. るための立式を正しくおこなうことができるよう. に課題を抱えている可能性があることが予想され. になると考えたからである。今回の分析において. る。. は,当初,期待された語句の組み合わせを「飽和 表2 1回目のIMTに書かれた語句の状況(一部)※番号は出席番号と一致していない。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20. 飽和水蒸気量 1立方メートル 基準量 ○ ○ ○. 比較量 露点 ○ ○ ○ ○. ○. 湿度 ○ ○. ○ ○. ○. ○ ○. ○ ○ ○ ○. 2回目のIMTにおいては,期待された語句の. 5人, 「比較量」を書いた生徒は見られなかった。. 組み合わせを書いた生徒は84人中38人であった。. この人数の差について,対応のある2つの集団. 1回目に比べると45%であり,数値のみを見ると. における母比率の差の検定(z検定による両側検. 増加している。なお,「基準量」を書いた生徒は. 定)をおこなったところ,5%水準で有意である. 340.
(10) 小学校と中学校の連携を意識した指導事例とその評価. ことが確認された(p=0.01)。このことから,今. MTは,単元学習の最後に実施したため,導入し. 回の授業実践の後, 「水蒸気」から「飽和水蒸気量」,. た教材のみによるものだとはいえないが,指導計. 3. , 「露点」 , 「湿度」の語句を連想するこ 「1m 」. 画そのものの効果は確認できたと考える。. とができる生徒が増加したといえる。2回目のI 表3 2回目のIMTに書かれた語句の状況(一部)※番号は出席番号と一致していない。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20. 飽和水蒸気量 1立方メートル 基準量 ○ ○ ○ ○ ○. 比較量 露点 ○ ○ ○ ○ ○. ○ ○ ○. ○ ○ ○ ○. ○ ○ ○ ○ ○. 湿度 ○. ○ ○ ○. ○. ○ ○ ○. ○ ○ ○. ○. ○ ○. ○ ○ ○. ⑵ 量的な評価について. 生徒の平均正答率が公開されている4)。学年は1. この授業実践の量的な効果の測定は,評価問題. 年ずれているが,これまでの全国学力・学習状況. の正答率を検討することでおこなった。評価問題. 調査では,同じ系統の設問についての正答率には,. の内容は,2015年4月に,当時の中学校第3学年. 年度による大きな変動がないことから,公表され. を対象に実施された全国学力・学習状況調査(理. ている平均正答率を指標の一つとして活用できる. 科)の設問(前出の図5)を参考にした。この調. と判断した。全国学力・学習状況調査を受ける時. 査では,設問ごとのねらいや平均正答率が示され. 期が第3学年の4月であることと,本研究の実践. る。この平均正答率は,全国規模の集計だけでは. 時期が第2学年の12月であることを合わせて考慮. なく,国立,公立,私立といったカテゴリーごと. すると,履修を終えた学習内容に大幅な違いはな. の集計結果も公開されている。また,各市町村に. いと考える。. おいても,設問ごとの正答率を公開している場合. 授業実践の評価の一つとして,全国学力・学習. が多い。. 状況調査の平均正答率を上回ることも指標の一つ. 全国学力・学習状況調査の設問の概要・趣旨と. になると考えた。なお,数値としては上回ってい. 合致する問題を作成し,評価問題とすることで,. ても,それが統計的に意味のある差であるかどう. 当時の中学校第3学年の平均正答率を指標の一つ. かを検討する必要がある。これについては,比率. として活用できるのではないかと考えた。評価問. の差の検定によって検証した。. 題作成の参考にした全国学力・学習状況調査の結. 評価問題は,図5に示したものを参考に,数値. 果については,北海道教育委員会から,北海道の. や文章を変更したものを作成した。実施したのは,. 341.
(11) 森 健一郎・髙橋 弾・栢野 彰秀. 単元の学習がすべて終了した12月である。この評. 率が有意に向上していることは確認できなかっ. 価問題について正答することができた生徒は,84. た。基準量と比較量をより明確に意識させようと. 名中35名であった。正答率は41.2%である。全国. したものの,2015年度の全国学力・学習状況調査. 学力・学習状況調査の設問の平均正答率(北海道). のまとめ(小学校)で指摘されている課題「基準. は,37.7% であった(生徒数40952名)。正答率の. 量,比較量,割合の関係を正しく捉えることに依. 数値のみを単純に比較すると,指標として設定し. 然として課題がある」がそのまま当てはまる結果. た37.7%を上回っている。ここで,この2群の母. となった。このまとめでは,指導改善のポイント. 比率の差の検定として,z検定による両側検定を. として「問題の状況を丁寧に読み解き,その関係. おこなったところ,有意差は認められなかった(p. を図や数直線などに表して捉えるようにするこ. =0.45) 。平均値で比較すれば正答率の増加傾向. と」が述べられている。これは,小学校算数につ. が見られたものの,統計的な有意差は認められな. いての指摘であるが,今回の実践の結果を踏まえ. かった。. ると,小学校算数についてだけではなく,中学校 理科の割合に関する学習においても考慮すべき内 容と思われる。. 6.考 察. 全国学力・学習状況調査のまとめにおける「中. 本研究は,学習指導要領に示されている理科の. 5) 学校についての分析および指導改善のポイント」. 目標「科学的な見方や考え方を養う」を達成する. には,比較量や基準量の語句は登場していない。. ための具体的な方策を明らかにする研究の一部で. しかし,小学校と中学校の学習内容の接続の面か. ある。これによって,空気中の水蒸気に関わる概. らも,また,正答率が変化していないという現状. 念を扱うための具体的な指導展開例や教材開発の. からも,「示された情報から基準量と比較量を特. 蓄積に貢献することができると考えた。. 定する」場面を意識的に設定し,3年間の中で繰. 湿度に関する指導においては,基準量と比較量. り返していくことが求められる。具体的には,第. をより明確に意識させることで,「露点」,「飽和. 1学年では「濃度」,第2学年では本稿で扱って. 水蒸気量」 , 「湿度」の相互の関係が促進されると. いる「湿度」である。これらについて,「示され. 考え,教具を開発し,それを用いて授業実践をお. た情報から基準量と比較量を特定する」場面を意. こなった。今回の研究では,湿度を求めるための. 識的に設定し,指導していくことが必要と思われ. 立式が正しくできることをねらいとした。そのた. る。今回の実践については,意識的に基準量につ. めに,1m3の立体を作成し,「基準量」としての. いての指導をおこなったものの,該当単元のみの. 飽和水蒸気量を視覚的にイメージさせることを試. 試みであった。小学校時に理解が困難であった割. みた。. 合について中学校で理解をするためには,第1学. IMTによる質的な分析の結果, 「水蒸気」か 3. 年の「濃度」の指導から,「示された情報から基. 「露 ら連想した「飽和水蒸気量」について「1m 」,. 準量と比較量を特定する」ことを繰り返し意識さ. 点」 , 「湿度」の語と関連づけた認識がなされてい. せる指導が必要であったと思われる。. ることが確認できた。しかし,「基準量」を書い. 今回の実践の結果から判断すると,正答できて. た生徒が5人, 「比較量」を書いた生徒が見られ. いない場合は,飽和水蒸気量と実際の水蒸気量の. なかったことを考慮すると,湿度を求める立式に. 関係を図や数直線などで表すことに困難があると. 必要な考え方については,その重点が意識されて. 考えられる。現行の教科書では,「小学校の割合. いない可能性が高いと思われる。評価問題による. については理解がなされている」という前提で湿. 量的な分析の結果は,湿度(相対湿度)の計算問. 度の説明がなされている。結果として,湿度に困. 題の正答率によって判断することとしたが,正答. 難を感じている生徒については,湿度の指導を丁. 342.
(12) 小学校と中学校の連携を意識した指導事例とその評価. 寧におこなったとしても,期待しているような効 果が得られにくいといえる。 本研究で提案した指導を受けた生徒達が,「露 点」 , 「飽和水蒸気量」,「湿度」の相互の関係につ. 成26年度業務成果報告書』科学技術振興機構,17-21. http://www.jst.go.jp/cpse/fsp/about/fsph26_end/ fsp26_shizuoka.pdf(2016年9月29日確認) 文部科学省(2008)『学習指導要領解説理科編』大日本図 書. いて,全国の公立中学校の正答率よりも高い割合. 黒上晴夫・田村学・滋賀大学教育学部附属中学校(2014). で理解していることを期待したが,標準的な正答. 『こうすれば考える力がつく!中学校 思考ツール』小. 率にとどまった。第2学年の湿度に関する指導に おいては,その事項のみを重点的に指導したとし ても効果が得られにくい可能性があるため,第1 学年の「濃度」の指導から基準量と比較量をより 明確に意識させることが必要と思われる。なお, 今回の実践研究では,誤答および無回答の生徒に. 学館 文部科学省(2011)『言語活動の充実に関する指導事例集 ―思考力,判断力,表現力等の育成に向けて 中学校版』 教育出版 森健一郎・栢野彰秀・髙橋弾(2016) 「中学校理科におけ るイメージマップを活用した「指導と評価の一体化」 の試み-第2学年 「気象とその変化」 を事例として-」 『北海道教育大学紀要』66巻2号,263-274.. ついての分析はなされていない。そのような生徒 が,そもそも基準量や比較量についてどのような 概念理解をしているかについては,他の手法を用. 附記:本 研究は科学研究費基盤研究(C)(課題 番号15K04471)による。. いて検討する必要がある。 (森 健一郎 北海道教育大学釧路校准教授). 註. (髙橋 弾 釧路市立幣舞中学校教諭) (栢野 彰秀 島根大学教授) . 1)http://www.nier.go.jp/15chousa/pdf/15mondai_ shou_sansuu_b.pdf(2016年9月25日最終確認) 2)モニタリングについては,生徒の理解の状況の評価 としておこなうことはもちろんであるが,生徒自身が 単元学習の途中で自己の学習状況のモニタリングをす ることも可能であり,そのような視点からの実践研究 も,例えば,栢野ら(2013)などにおいてなされている。 3)http://www.nier.go.jp/15chousa/pdf/15mondai_ chuu_rika.pdf(2016年9月29日最終確認) 4)http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/gky/gks/ H27_point_2.pdf(2016年9月29日最終確認) 5)http://www.nier.go.jp/15chousakekkahoukoku/ hilights.pdf(2016年9月29日最終確認). 参考文献 栢野彰秀・廣島亨・森健一郎(2013)「イメージマップを 活用した形成的評価に基づく授業づくりのための基礎 的研究-小学校理科第4学年「水のすがた」,「水のゆ くえ」単元を事例として-」 『島根大学教育学部紀要(教 育科学)』47巻,29-40. 清原洋一(2014) 「理科の学習内容の関連性-内容の構造 化の経緯と米国STEM教育のフレームとの対比-」 『理科の教育』63巻,5-8. 熊野善介(2015) 『静岡STEMジュニアプロジェクト平. 343.
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