826 人 工 知 能 34 巻 6 号(2019 年 11 月) 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 1.開催概要 2019年度の全国大会は 6 月 4 日(火)~ 7 日(金) の 4 日間,新潟コンベンションセンター(朱鷺メッセ) で開催された(図 1).発表件数は約 1 割の英文論文(国 際セッション)を含む 748 件で,750 件程度で推移する ここ数年の高い水準を維持した.海外著名研究者を含む 豪華な基調・招待講演,新たな技術の潮流を論ずる 22 件のオーガナイズドセッション,さまざまなトピックを カバーする 12 件の企画セッションなどを含むプログラ ム構成は,内容的にも充実したものであったと思う.近 年決まって話題になる参加者数は 2 905 人で,昨年度の 鹿児島の記録(2 611 人)を大幅に更新した.とりわけ 今年度は事前参加登録のペースが速く,昨年度比 561 人 増の 2 286 人に達したところで参加登録サイトを予定よ り 4 日早くクローズする判断に至るほどであった.筆者 はちょうど 1 年前(Vol. 33, No. 6)の本誌巻頭言で朱鷺 メッセについて「鹿児島を超える参加者数でもゆったり と議論できる場を提供できる」と述べたが,この参加登 録のペースは我々の予想の上を行っていた. 2.JSAI 2019 が目指したもの 2003年の第 17 回大会以来,16 年ぶりの新潟開催. 今では想像しがたいが,当時の大会の参加者数は 500 人を切って底を打っていた.そんな大会が今や,空前 の AI ブームに湧く産業界の関心を主たる動力源として, 3 000人に届こうかという巨大イベントとなった. しかしながら,我々を取り巻く環境はけっして楽観で きるものではない.GAFA に象徴される米国の巨人企業 はあらゆるデータを独占し,それらをもたざる者と一線 を画す存在となった.また中国は国策として AI 研究を 優遇し,膨大な予算を投入して開発を推進している.競 争は全世界レベルで激化し,我が国の国際的な地位低下 が危惧されている. そんな中,全国大会も変わるべきと考えた.これまで のようにブームに乗った拡大路線をとるのではなく,た とえ参加者が何割か減るとしても,我が国 AI 研究の国 際競争力向上に真に寄与するような地に足の着いた議論 ができる場としたい.これが大会委員長,プログラム委 員長の一致した考えであった. プログラム編成はプログラム委員長の指揮下で,上 記の考えに基づいて実行された.例えばチュートリアル は昨年度よりも大幅に数を減らし,扱うトピックについ ても初学者向けというよりは一歩踏み込んだ高度なもの を選んだ.また,国内外の優れた研究成果を取り込むべ く国際化の推進に挑戦した.招待講演者として Randy Goebel教授(Alberta 大学)に参加いただいたのが国際 化施策の一つである.さらにもう一つの目玉施策として, 論文投稿,査読,発表,質疑応答をすべて英語で行う国 際セッションを「機械学習」など五つのカテゴリーで新 設した. 3.振り返って 準備段階では上述のように「参加者が何割か減るとし ても」といささか心配したが,ふたを開けてみるとこれ が全くの見込み違いで,冒頭で述べたとおり史上最多の 参加者数を得た.Goebel 先生の講演を含む 3 件の基調・ 招待講演では 1 000 人収容のメインホールが満席で,予 備会場にも聴衆が詰めかけた(図 2).国際セッション でも 80 件近くの発表があった.全発表の 1 割を多いと 見るか少ないと見るかは人それぞれであろうが,次に向 けて大きな一歩を踏み出せたのは間違いない. 図 1 打ち上がる花火にトキを組み合わせた大会ポスター 日本語版(左)と英語版(右) 図 2 浦本直彦人工知能学会会長による基調講演
特集「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」にあたって
越仲 孝文(実行委員長,NEC)実行委員長としては,財務に責任をもつとともに,参 加者が不自由なく快適に大会に参加できるような空間づ くりに腐心した.全国大会は一種のお祭りであるから, 参加者の皆さんにはとことんこのお祭りを楽しんでいた だきたいという思いがあった. 幸いにも,一般企業とメディア企業を合わせて 90 の 会社からスポンサーの申し出をいただいた.この 90 と いう数字も昨年度から 22 増えて史上最多である.おか げさまで会場では,コーヒーを飲み,ご当地のお菓子を 食べて一息つきながら,また無料配布のお弁当を食べて 腹ごしらえをしながら,熱心に議論する風景が各所で見 られた.企業展示会場にはたくさんのブースが立ち並び, 大会を盛り上げた(図 3).企業のプレゼンテーション の場であるインダストリアルセッションやランチョンセ ミナー,ナイトセミナーなども大盛況であった. 新潟駅から会場までの足であるシャトルバスの手配, 受付の混雑緩和,会場内での動線確保,各部屋のレイア ウト等々,参加者の皆さんにいかに楽しく快適に過ごし ていただくか,大会のオペレーションではあらゆる点に 気を配ったつもりである.いくつかの施策は期待する効 果を得られたが,いくつかはそうではなかった.特に, 毎年皆さんが楽しみにしている大会 3 日目の参加者交流 会では,ご当地の名物料理や地酒をこれまでにない規模 で用意した.しかしながら,その想定規模を上回る大勢 の皆さんが参加者交流会に来てくださり,会場(万代島 多目的広場)の担当者も見たことがないというくらいの 大混雑(図 4).用意した料理も早々になくなった.こ れに限らず,反省点をあげようと思えばいくらでもあげ られる.総体的に見て今大会がどうであったか,それは 参加者の皆さん,スポンサーの皆さんの判断に任せるほ かにない.至らぬ点は多々あったが,今大会に参加され た皆さんが来年も全国大会に参加してくれることを願う のみである. 4.今 後 さて,次に向けた準備は着々と進んでいる.JSAI 2020は 2020 年 6 月 9 日(火)~ 12 日(金)に開催さ れる.場所は,熊本市に 12 月オープン予定の真新しい 施設,熊本城ホールである.直近の当学会会員数の推移 などを勘案するに,次回も参加者数の新たな記録が生ま れる可能性が高いと筆者は見ている.ともあれ,来年度 も参加者,スポンサー,大会委員などすべてのステーク ホルダの皆さんの協力を得て,全国大会を我が国の AI 研究者の拠り所としてより良いものとしたい.多くの皆 さんの関与,貢献をお願いしたい. 最後になったが,当学会の浦本直彦会長,津本周作 副会長(大会委員長)はじめ理事の皆さん,住田一男事 務局長,山野辺明子さん率いるメイプロジェクト社の皆 さん,強い意志と行動力をもちながらも愛すべき相方で あった大澤幸生プログラム委員長,木村昭悟,片上大輔 両副委員長,安達久博,早矢仕晃章両補佐,40 名を超 える大会委員の皆さん,そして山崎達也現地運営委員長 はじめ新潟大学,事業創造大学院大学の先生方と学生の 皆さんには,今大会を力強く支えていただいた.至らぬ 点が多々あったとは書いたが,支えてくださったすべて の皆さんのおかげで大きな事故もなく大会を終えること ができた.深く感謝したい. 図 3 多くのスポンサーが集まった企業展示 図 4 大勢の人で賑わった参加者交流会
828 人 工 知 能 34 巻 6 号(2019 年 11 月) 「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」 プログラム委員長は従来から,全国大会のプログラム 編成,招待講演者の選考,表彰担当と協力する表彰作業 などを主に担当してきた.今年は,一般セッションを部 分的に国際化するという挑戦を伴い,新設した国際プロ グラム委員とも連携しつつ内容を構成してきた. 一般セッション(国内)に投稿された口頭発表論文の 第一希望カテゴリーについて集計すると表 1 のように, 全 473 件(昨年 503 件)のうち機械学習,AI 応用がさ らに増え,その他は全般に減少した.各カテゴリーの手 法として機械学習の技術を用いた発表者の多くが,機械 学習カテゴリーを希望したことが一因と見られる.発表 件数よりも参加者数が増加する近年の傾向もとどまら ず,748 件の発表に対し 2 905 名(史上最多)の参加者 があり,産業界からの関心の高さが推察される.AI 応 用の投稿増加もこの推察の支持材料であろう.しかし, もはや AI ブームではない.Google トレンドで「人工知 能」を検索するとすでにピークを数年経過し,AI の一 部である「機械学習」に並ばれ,「5G」に凌駕されてい る.人々が「人工知能って何?」と問うことが少なくなっ た今も応用への関心が高く維持されている背景には,“人 工知能=機械学習”のような偏った定義付けが固定し既 存技術として関心が定着した可能性も推察される.今回 は,一般メディアで頻出するキーワードはセッション名 とせず,「構造的モデリング」,「限界の克服」など,ブー ムの先に続く研究者の挑戦を表現したセッション副題を 工夫した. オーガナイズドセッション(OS)は,JSAI 2019 で は 22 件実施した.JSAI 2018 の 25 件より減少したが, これには建設的な意味がある.今回,類似した OS 提案 については原則として融合せず,OS の趣旨との合致性 と実行性の視点から最大 1 件を選択することを募集時に 宣言した.提案者は類似提案の存在を懸念したであろう. しかし,応募された 22 件の OS はすべて実施にふさわ しいとの判断に至ったのは,企画の独自性が一層磨かれ た結果といえよう. 今回,一般セッションと対等な位置付けで国際セッ ションを初めて実施した.招待講演者として海外から招 聘した Randy Goebel 教授(Alberta 大学)には他の講 演者(浦本直彦会長,丸山 宏氏ほか)同様,AI 研究と その社会的意義についてトレンドに流されない本質的な お話を筆者からお願いし,ポジネガ織り交ぜた将来構想 と問題提起,独自のアプローチを発信していただいた. 国内一般セッションと OS では従来のプロセスで表彰対 象として選んだが,国際セッションでは英語発表という 事情と今後の国際展開力を見据え,国際セッションの 5 カテゴリー(表 1)をカバーし得る国際プログラム委員 7名が各論文に 2 名以上の査読者に依頼し,2 か月かけ て査読を行った.当日の評価委員と座長による評価も加 味し,表彰対象と Springer から追って発刊する優秀選 抜論文を選考した. 論文の質向上も目指した.和英とも概要に「①目的と ②結果の概要か結論」を含めることを採択の必要条件と して CFP に明示した.これに投稿者は十分注意され, 不採択はほとんど出ていない.国際でも 80 件を採択し, うち 29 件は Springer から出す選抜論文に選ばれた.会 期中,見知らぬ留学生らしい人から国際化への謝辞を述 べられることもあった. 書き足りないことは多いが,紙面はない.しかし,本 学会の浦本直彦会長,津本周作副会長(大会委員長), 山田誠二前会長,越仲孝文実行委員長,早矢仕晃章プロ グラム委員長補佐,小野田崇前プログラム委員長,住田 一男事務局長,(株)メイプロジェクト代表取締役山野辺 明子 ,国内外からの参加者など,多くの皆様にはこの場 を借りて深く感謝申し上げたい. カテゴリー:国際セッショ ンの 5 カテゴリー(* 印) も和訳に統合 割合〔%〕 国際 5 カテゴリー中の割合 2019 2018 国際(国内) 基礎・理論(一部は *) 4.9 3.6 *機械学習 23.3 17.2 37.5(57.9) データマイニング 5.7 8.1 *知識の利用と共有 2.3 3.8 12.5(基礎・理論 を一部含み比較 困難) Webインテリジェンス 0.6 3.2 Web マイニング 1.5 2.8 *エージェント 5.3 6.7 21.3(13.2) ソフトコンピューティング 1.5 2.2 自然言語処理,情報検索 13.3 16.4 画像・音声 5.3 5.5 *ロボットと実世界 4.0 6.1 7.5(10.0) *ヒューマンインタフェー ス / 教育支援 5.3 7.1 21.3(13.2) AI応用 27.1 17.2 表 1 第一希望カテゴリーの分布
プログラム編成と一般(国際・国内)セッション
大澤 幸生(プログラム委員長,東京大学)「2019 年度人工知能学会全国大会(第 33 回)」
2019年度人工知能学会全国大会では,1 件の基調講演 と 2 件の招待講演が行われた.
まず,大会初日,人工知能学会会長・三菱ケミカル ホールディングス先端技術・事業開発室デジタルトラン スフォーメーショングループ Chief Digital Technology Scientistの浦本直彦氏による基調講演「社会を変革す る人工知能の広がりとチャレンジ」が,津本周作大会委 員長の司会で行われた.浦本氏からは,人工知能研究の これまでの栄枯盛衰について説明があり,現在の人工知 能技術を支える要素とそのもたらす価値について紹介が あった.深層学習アルゴリズムの進展,大量のデータ処 理が可能となり,世の中のディジタル変革の波,データ 主導の流れから,誰でも新しい技術を試せるようになっ たこと,これが昨今の AI ブームを支えているのではな いかと指摘があった. 2018年 10 月に Gartner 氏による「人工知能,幻滅期へ」 の記事が出されたことを示し,AI 分野に冬の時代がく るのかを他の技術の歴史と比較することで考察された. 機械翻訳,SOA,クラウドコンピューティング,IoT な どと比較され,現在の AI 技術は過去の技術と同じよう な課題がある.人工知能技術の適用にあたっての現実的 な問題の 5 点を示された.過去の問題の解決方法を示し, さまざまなことを手がけることで課題を解決することが 重要ではないかと述べられた.
大会 2 日目には Preferred Networks, Inc. フェローの 丸山 宏氏による招待講演「『人工知能』をどのように読 み解くか」が,越仲孝文実行委員長の司会で行われた. 丸山氏は,三つのトピックについてお話をされた. 一つ目は人工知能とは何かであった.人工知能は分野 の名前であるが,その応用技術を人工知能としているこ とが多く,非常に多義性のある言葉である.人工知能技 術に関わる人達は,この誤解を正すことが求められてい ると述べられた. 二つ目は,新しい計算モデルについてであった.深層 学習とは,関数をプログラミングする方法の問題とみなす こともできる.これまでの関数の設計とは異なり,深層 学習では入出力は訓練データで例示され,パラメータは ほぼ自動で推定されて訓練される.モデル,アルゴリズ ムは未知でも良くなってきた.丸山氏はこのことをブラッ クボックス最適化と呼ばれ,私達が知っている数学や数 学の考え方とは大きく異なっていることを示された. 三つ目は,科学・工学への展開についてであった.こ れまではオッカムの剃刀に例えられるように,問題解決 においてはパラメータが少ないシンプルなモデルが良し とされてきた.丸山氏はこれは人間の認知限界によって 拘束されたためではないかと指摘された.深層学習では 多くのパラメータを扱え,中のモデルについては解釈が 困難なところも多いが,人間の認知限界に左右されない 解決方法が生まれ,新しい科学へとつながるのではない かと述べられた.またブラックボックスを扱う科学を工 学へと展開していくには,社会の理解,需要を得る方法 についても考えていく必要があると述べられた.スライ ドの最後のメッセージは「技術に対して誠実に向き合っ てください」であった.
大会 3 日目には Computing Science at the University of Alberta, Canada, and co-founder of the Alberta Machine Intelligence Instituteの Randy Goebel 教授に よる招待講演「Explain Yourself – A Semantic Stack for Artificial Intelligence」が,大澤幸生プログラム委員長 の司会で行われた.Goebel 教授からは冒頭に,深層学 習ウイルスによる AI 分野のパンデミックが現在起こっ ていると指摘がなされた.Goebel 教授はモデルという ものは説明可能であることが肝要であるとし,一層だけ でなく多層のかつ粒度の異なるモデルから構成されるモ
基調講演・招待講演
西原 陽子(立命館大学),廣川 暢一(筑波大学) 図 1 浦本直彦氏による基調講演 図 2 丸山 宏氏による招待講演830 人 工 知 能 34 巻 6 号(2019 年 11 月) デルを同時に構成することが望ましいと指摘をされた. Goebel教授はどういう人があなたにとって最も良い先 生でしょうか? と,聴講者に繰り返し問いかけをされ, 各モデルの科学的な説明可能性,そして科学的な合理性 が重要だと述べられた. 世界や世の中の現象はある一面から捉えられるもので はなく,複数の観点から見て初めて全体像がわかるよう な複雑なものである.私達は,多層のかつ異なる粒度の モデルを構築する方法を学ばなければならない.そして, 得られた各モデルの理由付けをサポートしなければなら ないと述べられた.人工知能分野では,トップダウンの モデル構築とボトムアップのモデル構築,そして説明可 能性の三つを備えるべきだと示された. いずれの講演も会場が満員になるほど盛況であり,講 演終了後の質問にも長蛇の列ができた.人工知能が今後, 社会にどのような影響を与えていくのか,そのために 我々はどのようなことに注意を向けていかなければなら ないかを改めて考える機会となった.なお,講演者のご 厚意により,講演資料は Web サイトからダウンロード 可能となっている.興味をもたれた読者はそちらをご覧 いただきたい. 図 3 Randy Goebel 教授による招待講演