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マイクロ波高出力半導体デバイス,回路を支える基礎基盤技術の動向

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1. ま え が き

W-CDMA(W-CDMA: Wideband Code Division Multiple

Access, 広帯域符号分割多元接続),CDMA2000 に代表

される第 3 世代の移動通信システム (IMT-2000) のサービ スが 2001 年にスタートした。IMT-2000 は第 1 世代のア ナログ (AMPS etc.),第 2 世代のディジタルセルラ (GSM, PDC, CDMA One etc.) に比べて,通信方式,装置の性能, 高速・高周波特性,サイズ,消費電力,コストのどれを とっても飛躍的に進歩している。装置の性能の中でも特 に高効率(低消費電力),低ひずみ(低漏洩電力)に対 しては厳しい要求があり,基地局,携帯電話ともに高出 力用デバイスおよび増幅器の開発に四苦八苦しているの が現状である。R&D のターゲットはすでに第 4 世代に向 けられており,さらなる高速・高周波化,さらなる高効 率・低ひずみ化の研究が着実に進んでいる。 こうした状況を踏まえ,将来の高出力デバイスおよび 増幅器の開発に向けての基礎基盤技術の動向をレビュー する1) 。基礎基盤技術の内容として,(a) 高出力デバイス およびモデリング,(b) デバイス,回路,システムのシ

マイクロ波高出力半導体デバイス,回路を支える

基礎基盤技術の動向

伊 藤 康 之 *

Technical Trends of Basic Researches on Microwave High Power

Semiconductor Devices and Circuits

Yasushi ITOH*

The 3rd generation mobile communication system (IMT-2000) has started in 2001. It includes W-CDMA and CDMA2000 with higher transmission bit rate and higher frequency than the 1st generation analog cellular systems (AMPS, etc.) and 2nd generation digital cellular systems (GSM, PDC, CDMA One, etc.). Several remarkable advances have been made in equipment performance including quality, size, power consumption, cost, etc. Especially efficiency and distortion performance of high power devices and amplifiers used in the base stations have been greatly improved. Now the R&D target has shifted to the 4th generation mobile communication system or wireless LANs with even higher transmission bit rate as well as higher operational frequency than those of the existing mobile communication systems. Therefore efficiency and distortion performance of high power devices and amplifiers have to be much improved for the future communication systems.

Under this background, the fundamental perspective of future high power devices and amplifiers is described in this paper from the following viewpoints: (a) high power devices and device modeling techniques, (b) device, circuit, and sys-tem simulation software, (c) measurement techniques, and (d) circuit design techniques for high efficiency and low dis-tortion performance. Related to (a) high power devices and device modeling techniques, the emerging device technolo-gies such as wide bandgap devices (GaN, SiC) and SiGe devices are introduced. Then in (b), the commercially available device, circuit and system simulators for wireless communications are presented. As related to (c), the recent active load-pull measurements have made a remarkable progress in fundamental, harmonic, and envelope frequencies for high effi-ciency and low distortion designs. Pulsed DC/RF and on wafer load-pull measurements have also become popular, which are briefly reviewed. In (d), the advances in high power amplifier design techniques for achieving high efficiency and low distortion are presented. Most of the theory and techniques in this paper have an origin in 1950 s to 1970 s, but these the-ory and techniques are being reborn again as a new technology suitable for the next generation wireless communication systems.

Vol. 38, No. 1, 2004

*電気電子メディア工学科 教授 平成 15 年 10 月 20 日受付

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ミュレーション,(c) デバイスの測定法,(d) 高出力増幅 器の高効率・低ひずみ設計をとりあげ,将来の高出力デ バイスおよび増幅器の開発に向けて,現状の基礎基盤技 術の課題,方向性を明確にする。 2. 本   論 2.1 高出力デバイス マイクロ波高出力デバイスは通信システムに幅広く用 いられている。図 1 は現状および将来の通信システムを 示している。現在では第 2 世代,第 3 世代の移動通信シ ステムに代表される MWA (Mobile Wireless Access) 向けに 開発が進められているが,今後は半固定通信の NWA (Nomadic Wireless Access),固定通信の FWA (Fixed Wire-less Access),ワイヤレス LAN,第 4 世代 MWA に向けて の開発が進むと考えられる。 携帯電話への応用を考えると,高出力デバイスおよび 増幅器に対しては高効率・低ひずみ,小型,低コスト, 低電圧動作,高集積化などの性能が要求され,基地局へ の応用を考えると,マルチキャリア信号を共通増幅する 必要があるため,特に高効率・低ひずみ特性が強く要求 される。 ワイヤレス通信用高出力デバイスについて,周波数と 出力を基準に棲み分けした結果を図 2 に示す。比較的周 波数が低く出力も低い携帯電話などの応用に対しては, 現状 GaAs HBT(Hetero Bipolar Transistor,ヘテロ接合バ イポーラトランジスタ)や GaAs HEMT(High Electron Mobility Transistor,ヘテロ接合電界効果トランジスタ) の GaAs 系デバイスが主流であるが,今後は Si 系デバイ ス,すなわち SiGe HBT, CMOS, BiCMOS, SOI などに置き換 わると考えられる。これは Si 系デバイスが低コストなう えに他のアナログ低周波回路やディジタル回路と高集積 化が容易なためである。比較的周波数が高いが出力が低 いミリ波や超高速広帯域光通信用変調器のドライバなど の応用に対しては,現状 GaAs や InP デバイスが主流で ある。しかし SiGe HBT の高周波特性も改善されつつあ り,今後は競合するデバイスになると考えられる。一方, 比較的周波数は低いが出力が大きい携帯電話の基地局な どの応用に対しては,低廉化が期待できる Si LDMOSFET (Laterally Doped Metal Oxide Semiconductor FET) や高周波 特性に優れる GaAs HEMT が用いられている。最近では SiC MESFET や GaN HEMT のワイドバンドギャップデバ イスが基地局用に開発されている。ワイドバンドギャッ プデバイスは 100 V 以上の高耐圧を有し,しかも電力密

度が GaAs より 1 桁以上高いため,基地局用 HPA(High Power Amplifier,高出力増幅器)の小型化を図ることが できる。最後に比較的周波数も出力も高いレーダ等の応 用に対しては,現状 TWT (Traveling Wave Tube) が主流 であるが,小型,高信頼性を特徴とする GaAs MESFET, HEMT, HBT などを用いた固体化が進むと考えられる。 以上のように見てくると,マイクロ波高出力デバイス は,以前は GaAs デバイスが全盛であったが,今では低 コスト,高集積化を特徴とする Si デバイスが比較的周波 数の低い応用から,またさらにワイドバンドギャップデ バイスの出現により,大電力応用を中心にこれも比較的 周波数の低い応用から GaAs にとってかわっていくと考 えられる。そのためには,Si デバイスは高速・高周波 性能の改善,ワイドバンドギャップデバイスは低廉化 が最大の課題である。 2.2 デバイスモデリング 高出力デバイスの非線形モデリングは非線形回路解析 図 1 現状および将来の通信システム 図 2 ワイヤレス通信用高出力デバイスの周波数と 出力を基準とした棲み分け

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を行う際に不可欠である。これまで数多くの非線形モデ ル(電気モデル)が発表されているが,まだまだ未完 成である。ひとつの大きな原因は,これは非線形モデル があくまでもデバイスの電流電圧特性を基本とし,高周 波の電圧電流も同じように流れると仮定している点にあ る。高出力デバイスには周波数分散性があり,高周波で は直流と同じ様な電流が流れない。逆の言い方をすれば, 周波数分散性の少ない完成度の高いデバイスは,現状の 非線形モデルでも十分な精度が得られることになる。一 方,非線形特性を物理モデルから計算する試みもなされ ているが,まだ研究段階であり,実用レベルに達してい ない。電気モデルも物理モデルもまだまだ課題は山積さ れているのが現状である。ここでは最近発表された非線 形モデル(電気モデル)のトピックスを紹介する。 2.2.1 Root Model 非線形モデルの多くは解析的モデルであり,上述した ように,直流と高周波での特性を同時に表現することが 難しい問題がある。その欠点を克服する方法として, 1993年 に Root Model2) が 発 表 さ れ た 。 Root Model は Lookup Table を基本とした経験モデルであり,数多くの 直流データ,バイアスに依存した S パラメータを有する。 これらの実験データからバイアスに依存しない寄生パラ メータ,バイアスに依存する真性パラメータを抽出,大 信号モデルを構築し,非線形特性を計算する。実験デー タを基本とするため,データはスプライン関数で補間す る。精度を高めるためには大量のデータを必要になり, メモリが消費される。Root Model は Agilent 社の ICCAP3)

の 1 つのオプションであり,同じく Agilent 社の ADS4)

使用することができる。

2.2.2 Wide Bandgap Device Model

ワイドバンドギャップデバイスの開発が進むにつれて, まだ絶対的な数は少ないが,非線形モデルも徐々に発表 されてきている。ワイドバンドギャップデバイスにはど ういう 3 端子モデルが使用されるのか,周波数分散性を どう表現するのか,2 端子,3 端子耐圧をどう表現すの かなど,読者は興味津々である。ここでは興味深い 3 件 の論文を紹介する。 まず 1 つめは GaN HEMT のソース抵抗の非線形に注 目した論文5) であり,その非線形モデルを図 3 に示す。 図 3 のモデルにおいて,高電流領域ではソース抵抗が増 加し,低電流すなわちピンチオフ領域ではソース抵抗は 一定としている。これにより入力電力が低いレベルでも 早期にコンプレッションがかかりだすワイドバンドギャッ プデバイスの特性を表現している。次に示す 2 件は温度 依存性を表現したモデルである。ワイドバンドギャップ デバイスはチャネル温度が高いため,自己発熱効果6) IM の温度依存性モデル7)などが検討されている。これ らを図 4 および図 5 に示す。図 4 は温度依存性のある Curtice3)Modelと見做すことができる。図 5 は GaN HEMT

の電圧電流特性を Volterra Series で表現している。 冒頭で述べたように,これまで発表された非線形モデ ルは完成度の高いデバイスを表現するのに適している。 図 3 GaN HEMT のソース抵抗の非線形に注目した ワイドバンドギャップデバイスモデル5) 図 4 自己発熱効果を考慮したワイドバンドギャッ プデバイス温度依存性モデル6) 図 5 ワイドバンドギャップデバイスの IM 特性の 温度依存性モデル7)

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しかしまだ完成度の低い開発段階にあるデバイスの非線 形特性を表現するには十分ではなく,かなり独自の非線 形モデルの研究が望まれる。 2.3 シミュレーションソフトウェア 今日,数多くのデバイスシミュレータ,回路シミュ レータ,システムシミュレータが市販されている。これ らのシミュレータはお互いにインターフェースを持つこ とが少なく,多くのものは独立している。ワイヤレス通 信システムをいち早く立ち上げるためには,これまでの トップダウン方式ではなく,デバイス,回路,システム がお互いに深い関係を保ちながら無駄なく同時に開発を 行うのが理想である。そのためにはシミュレータ間にも 連携があり,デバイスからシステムまで一気通貫に開発 できるシミュレータやシミュレータ環境が必要である。 最近になってやっと,お互いのインターフェースを意識 したシミュレータが出現してきたので,その例を紹介す る。 2.3.1 Device Simulator GaAs などの化合物半導体デバイスを扱うことのでき るデバイスシミュレータは,Si に比べるとその数は少な い。代表的なものとして ISE 社の TCAD8) , Silvac 社の ATLAS9)があり,MESFET, HBT, HEMT, CMOS 等を含む

あらゆる Si および化合物半導体デバイスを扱うことがで きる。その中でも Silvac 社の ATLAS は,図 6 に示すよ うに,回路シミュレータ,電磁界シミュレータも取り込 み,将来的にはデバイス,回路も含めた形でシミュレー ションを行う方向に開発が進んでいる。これはデバイス の設計者が昔のように直流特性だけを気にして設計する のではなく,例えば W-CDMA の基地局のスペックも頭 に入れてデバイスを設計しなければならない現状を反映 している。 この種のシミュレータの精度が向上すると,逆に W-CDMA のマルチキャリア W-CDMA 信号を増幅した際のひ ずみを改善するためには,デバイスのどこを直せば良い のかわかるようになる。 2.3.2 Circuit Simulator 現状の回路シミュレータでは高出力デバイスおよび回 路の AM–AM 特性,AM–PM 特性,IM 特性を計算でき るが,通信システムで使用する各種の変調信号を増幅し た際のひずみ特性は計算するこができない。AM–AM 特 性,AM–PM 特性,IM 特性と変調信号を増幅した際のひ ずみ特性は深い関係があるものの 1 対 1 の対応がないた め,どこまで AM–AM 特性,AM–PM 特性,IM 特性を

抑えれば通信スペックを満たすのかがわからないのが現 状である。この問題を解決するために Agilent 社では ADS に従来のシステムシミュレータ CDS の機能を取り 入れて対応を図っている4) 。また Agilent 社はディジタル 的に変調された信号を増幅した際のひずみ特性を計算で きる Envelope Simulator10) を開発した。

Envelope Simulator を図 7 に示す。Envelope Simulator はディジタル的に変調された信号のキャリアではなく包 絡線をサンプリングするため,SPICE に比べて計算時間 が短いのが特徴である。また従来のハーモニックバラン ス法と異なり,変調された信号を高調波の和で表現する のではなく,包絡線の時間軸の信号とキャリアまたは LO 図 6 デバイスシミュレータの例 Silvac 社の ATLAS9)

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信号で表現するため,同じく計算時間が短いのが特徴で ある。Envelope Simulator は現在では ADS の 1 つのオプ ションになっている。 2.3.3 System Simulator AWR 社のシステムシミュレータ VSS200211) は現状のワ イヤレス通信システムのディジタル信号解析,RF 信号 解析ができる。VSS2002 を図 8 に示す。VSS2002 では通 信システムを構成するコンポーネントをブロックで表現 し,各ブロック間を流れるデータを Multi-Rate Discrete-Time Method を用いて制御,解析する。また AM, FM, OFDM, QAM, MSK, PSK などの変調信号を作り出すこと もできる。VSS2002 は Microwave Office と連動させてデー タやスペックの橋渡しが可能であり,例えば BER, ACPR などのシステム仕様を満たす RF 回路を設計することも 可能である。 2.4 デバイス測定法 ワイヤレス通信システム用高出力デバイスに対しては, 高効率で低ひずみな特性が強く要求されている。この要 求に応えるために,デバイス,モデリング,シミュレー タの開発において様々な工夫が凝らされている。一方, デバイス測定でも,従来通りの直流,S パラメータ,シ ングルキャリアでの AM–AM, AM–PM 特性の測定に加え て,高調波ロードプル測定,変調波ロードプル測定,包 絡線ロードプル測定などの工夫が行われている。また前 節 のデバイスモデリングで述べた周波数分散性,自己発 熱の影響を知るために,DC, RF ともにパルス変調をかけ て直流特性,S パラメータを測定する方法も開発されて いる。このように測定器や測定方法においても飛躍的な 進歩をとげている。しかしここで気になる点は,デバイ スの製品応用に重点が置かれているため,規格で定めら れた仕様を満たす測定器や測定方法の開発に注力され, 高周波の電圧波形、電流波形を直接見るとか,印加電 力,温度,バイアスなどに依存した 4 端子パラメータを 精度良く測定するとか,もっとも基本的であるがその開 発が難しい測定器や測定方法の開発が忘れられているの が残念である。ここでは飛躍的な進歩をとげた測定方法 として,まずパルス変調をかけた DC/RF 測定を紹介し, 次に基本波,高調波に対するアクティブロードプル測定, 最後に包絡線ロードプル測定を紹介する。 2.4.1 パルス変調をかけた DC/RF 測定 今日ではパルス変調をかけた DC/RF 測定がポピュラー になりつつある。パルス変調をかける理由は,高出力デ バイスの周波数分散性を知るためである。周波数分散性 は表面あるいは基板レベルでの電子のトラップが原因し ていると考えられ,高周波帯での電流,出力の減少をも たらす。パルス変調をかけるもう 1 つの理由は,デバイ スの自己発熱を抑えるためである。例えばサファイヤ基 板を用いた GaN HEMT などは放熱性に劣るために,パ ルス変調をかけた場合とかけない場合では I–V 特性に大 きな差が生じる。同様にして S パラメータ測定において も,DC, RF ともにパルス変調をかけることが試みられて いる12)–14) 。DC, RF ともにパルス変調をかける場合のタイ ムチャートの例を図 9 に示す。図 9 では,FET のゲー ト・ドレーンともに ON 状態の時にパルス変調された高 周波信号を印加して S パラメータ測定を行っている。 実際の応用例として,パルスの幅,パルス間隔を変化 させて DC, RF (S21) を測定した報告例15)を図 10 に示す。 I–V 特性,S21ともにパルス条件に大きく依存しているの 図 8 AWR 社のシステムシミュレータ VSS200211) 図 9 DC, RF ともにパルス変調をかける場合のタイ ムチャートの例

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がわかる。 2.4.2 基本波,高調波に対するアクティブロードプ ル測定 ロードプル測定は市販されているチューナ16)用いて行 われるが,測定できるインピーダンス範囲が限られ,ま たチューナの損失により測定精度が劣化するため,最近 アクティブロードプル測定が再び注目を集めている。ア クティブロードプル測定には Active Loop Technique17)と等

価ロードプル法18) がある。前者は出力信号の一部を取り 出して,増幅器,移相器を通して DUT に戻す方法,後 者は入力信号の一部を増幅器,移相器を通して DCT の 出力に注入する方法である。等価ロードプル法の一例を 図 11 に示す。 上記は基本波に対するロードプル測定であるが,最近 では高調波に対するロードプル測定の必要性が高まって いる。これは高調波に対する終端条件が増幅器の効率, ひずみ特性に大きな影響を与えるためである。図 11 の 基本波ロードプル測定の場合と同様に,高調波ロードプ ル測定にも Active Loop Technique19)

と 6-Port Technique20) がある。6-Port Technique の例を図 12 に示す。入力信号 は電力分配器を通して n 分配され,その後逓倍,振幅・ 位相を調整されて DUT の出力に注入される。各高調波 に対してそれぞれ振幅・位相を独立して調整できる(イ ンピーダンスを変化できる)特徴がある。 2.4.3 包絡線ロードプル測定 ディジタル変調された信号を増幅した際のひずみ特性 が,包絡線の周波数での終端条件により大きく変化する ことは良く知られている。これは 2 波の信号を増幅した 際の IM 特性が差周波数(包絡線,ビートの周波数)の 終端条件で変化する21)ことと同じである。前節で述べた

Envelope Simulator はまさしく Envelope の周波数での終 端条件がひずみ特性に与える影響を計算するソフトウェ アである。包絡線ロードプル測定22) は 1998 年に提案さ れた。提案された包絡線ロードプル測定は入出力のバイ アス回路と可変インピーダンス回路を接続し,基本波, 高調波から切り離して包絡線の周波数でもインピーダン スを変化できる特徴がある。 2.5 高出力増幅器の高効率設計 近年,マイクロ波デバイスの非線形特性の測定,モデ リング,シミュレーション技術の著しい進歩により,高 出力増幅器の高効率設計が容易になりつつある。また近 年の DSP(Digital Signal Processing,ディジタル信号処 理)技術の向上により,これまでは比較的低い周波数帯 でしか使用されなかった技術が次第にマイクロ波帯でも 使用できるようになってきている。このような技術の例 図 10 パルスの幅,パルス間隔を変化させて DC, RF (S21) を測定した報告例 15) 図 11 等価ロードプル法18) 図 12 高調波ロードプル測定の一例20)(6-Port Tech-nique)

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として,ここでは D 級,E 級などのこれまでは比較的低 い周波数帯でしか使用されなかった Switching Mode 増幅 器の設計と高調波終端の技術をとりあげる。高調波終端 の技術も高出力増幅器の高効率化の手法として,古くか ら良く知られているが,近年の非線形特性の測定,モデ リング,シミュレーション技術の向上により,ひずみ特 性に与える影響もクリアになってきている。 2.5.1 Switching Mode 増幅器 高効率動作の基本は電圧と電流が同時に存在しないこ とである。E 級増幅器は Switching Mode 増幅器の一種 で,トランジスタをスイッチのように動作させ,電圧と 電流がトランジスタ内で同時に存在しないように設計す る。 図 13 に E 級増幅器の回路構成,電圧・電流波形の例23) を示す。トランジスタが低抵抗で ON 状態にある場合に は電流のみが存在し,トランジスタが高抵抗で OFF 状 態にある場合には電圧のみが存在する。これまで高周波 化が難しかったのはスイッチングの遷移時間を RF の周 期に対し十分に短くできなかったためである。 もうひとつの Switching Mode 増幅器として D 級増幅 24)がある。2 種類の D 級増幅器を図 14 に示す。ひと つは電圧モードの D 級増幅器であり,他のひとつは電流 モードの D 級増幅器である。D 級増幅器は Switching Mode 増幅器としてオーディオ機器に広く用いられてい る。しかし高周波帯になると,デバイスの寄生リアクタ ンス成分が顕著になり,これが実質的な損失となり,増 幅器の出力,効率の劣化をもたらす。もしトランジスタ に容量 C があると, のエネルギーがサイクルごと に消費される。したがって如何に容量 C による電力消費 を減らすかが課題である。 2.5.2 高調波終端 高出力増幅器の高効率に動作させる観点から動作級と 高調波終端の条件の関係を分類した文献25)があり,興味 深いので紹介する。文献では高調波の終端条件を以下の 4つに分類しており,これを図 15 に示す。 1 2CV 2 図 13 E 級増幅器の回路構成,電圧・電流波形23) の例 図 14 D 級増幅器24) 図 15 高調波終端条件の分類25)

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(1) SS Mode:偶高調波,奇高調波ともに短絡。高調波 無し。A, B, C 級動作 (2) OS Mode:偶高調波は短絡。奇高調波は開放。F 級 動作 (3) SO Mode:偶高調波は開放。奇高調波は短絡。逆 F 級動作 (4) OO Mode:偶高調波,奇高調波ともに開放。E 級動 課題はすべての偶高調波,奇高調波に対して効率が最 大になる終端条件を満たす回路を如何に実現するかであ る。これまで数多くの終端回路が提案されてきている。F 級動作で回路素子数を減らす方法26),F 級動作の第 3 高 調波 Peaking 法27) がその例である。高調波終端がひずみ 特性に与える影響についても検討されている。文献28),29) では F 級動作で高調波終端しても IM 特性が劣化しな かったと報告されている。 2.6 高出力増幅器の低ひずみ設計 高出力増幅器の低ひずみ設計も前節の高効率設計と同 様,近年の非線形特性の測定,モデリング,シミュレー ション技術の向上により,以前はノウハウであったもの が技術として確立しつつある。ここでは高出力増幅器の 低ひずみ設計技術について,最近のトピックスを幾つか とりあげる。内容は古くからあるひずみ補償技術である が,設計方法が技術として確立しつつある点,周波数が マイクロ波帯まで上がってきている点が大きな進歩であ る。また包絡線の情報のみを用いて簡便にひずみ補償を 行うクレバーな手法も注目に値する。さらにバイアス回 路,帰還ループ,温度変化など時間が長い成分がひずみ 特性に与える影響などは典型的なノウハウであったが, これらがメモリ効果として技術に昇格し,市民権を獲得 しているのも面白い。

2.6.1 Microwave Doherty Amplifier ドハティー増幅器の例30) を図 16 に示す。ドハティー 増幅器は,B 級動作のキャリア増幅器,C 級動作のピー キング増幅器,1/4 波長の線路から構成される。入力レ ベルが低い場合には B 級動作のキャリア増幅器が優勢に なり,高効率に動作する。入力レベルが高くなると,今 度は C 級増幅器が優勢になり,C 級増幅器の gain expan-sion により B 級増幅器の線形性が補償される。したがっ て高効率が得られると同時に線形性も改善される。この ようにドハティー増幅器はかなり広いダイナミックレン ジで高効率が得られと同時にひずみ特性も改善できる特 徴がある。しかし課題は帯域,利得,VSWR の改善であ る。

2.6.2 Adaptive Feedforward Linearizer

フィードフォワードリニアライザは広帯域にわたって 低ひずみな特性が得られるため,携帯電話の基地局用増 幅器などに広く用いられている。アダプティブフィード フォワードリニアライザはバイアス,温度,パワーレベ ル等の条件が変化しても対応できるように適応制御回路 が設けられている。適応制御が可能になったのも DSP の 飛躍的な進歩によるところが多く,また DSP を用いた適 用制御については様々な方法が提案されている31)–34)

2.6.3 Adaptive Predistortion Linearizer

フィードフォワードリニアライザと同様にプリディス トーションリニアライザの歴史も古く,構成が簡単なた めに,携帯電話や衛星通信用の送信増幅器などスペース に余裕のない部分に広く用いられている。原理も簡単で, 送信増幅器と逆の特性を有するリニアライザを増幅器の 前に接続することにより線形性を確保するものである。 適応型プリディストーションリニアライザの例35)を図 17

に示す。送信増幅器と逆の特性を RTM (Real Time Model-ing) 法で作り,プリディストータに供給してひずみ補償 を行う。アナログ型と異なり,周波数,入力レベル,バ イアス条件に応じて最適なひずみ特性を DSP で作りだす ことができるため,ひずみ補償の効果が大きい特徴があ

(9)

る。図 17 以外の方法として,プログラマブル RF プリ ディストーションリニアライザ36)

,カルテジアンプリディ ストータ37)が良く知られている。

2.6.4 EER, ET 法

EER (Envelope Elimination and Restoration) 法38)は高効

率動作しているキャリア増幅器と高効率動作している包 絡線増幅器を組み合わせ,高効率と低ひずみを同時に満 たす手法である。EER 法のブロックダイアグラムを図 18 に示す。EER 法では包絡線に関する振幅・位相情報を ピックアップし,これを DSP により I–Q に対応付け,必 要に応じて包絡線を制御して線形性を保つ方法である。 EER 法を用いると高効率が得られる動作条件でも線形性 が改善できる点にある。

一方,ET (Envelope Tracking) 法39)

も EER と同様の手 法であり,S 級の変調器に用いられる。 2.6.5 メモリ効果 通常の非線形回路解析ではメモリレスを仮定している。 すなわち或る瞬間のシステムの振幅,位相は入力信号の みに依存していると考えている。しかし現実にはバイア ス回路の影響,帰還ループ,温度変化など時間に長い成 分の影響も受ける。バイアス回路のインピーダンスが増 幅器のひずみ特性に影響を及ぼすことも一種のメモリ効 果である。メモリ効果はこれまではノウハウとして片付 けられてきたが,近年の非線形回路解析手法や測定法の 著しい進歩により,目が向けられるようになった。図 19 は様々な電圧源,電流源が IIP3に及ぼす影響について検 討した例40)であり,その他にもメモリ効果を検討した発 表が多い41),42) 3. 結   び ワイヤレス通信用高出力デバイスおよび増幅器を支え る基礎基盤技術についてレビューを行った。高出力デバ イス,回路,システムの高効率・低ひずみを実現する基 礎基盤技術は,すでに数十年前に提案されたものが多く, 原理的には何も変わっていない。しかし近年のデバイス, 非線形回路解析,測定法,DSP などの著しい技術進歩や 目まぐるしいワイヤレス通信システムの普及に伴い,古 くからある基礎基盤技術は,新しい要求に応えるために 新しい形の新技術として生まれかわっていくように思わ れる。 参 考 文 献

1) Y. Itoh and K. Honjo, “Fundamental Perspective of

Fu-図 17 適応型プリディストーションリニアライザ

の例35)

図 18 EER 法のブロックダイアグラム38)

図 19 様々な電圧源,電流源が IIP3に及ぼす影響

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ture High Power Device and Amplifier for Wireless Com-munication Systems”, IEICE Trans. Electron., vol. E86-C, No. 2, pp. 108–119, February 2003.

2) D. E. Root, et al., “Measurement-Based Large-Signal Diode Model, Automated Data Acquisition System, and Verification with On-Wafer Power and Harmonic Mea-surements”, 1993 IEEE IMS Digest, pp. 261–264. 3) AGILENT, ICCAP Manual, 2003.

4) AGILENT, ADS Manual, 2003.

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図 7 Agilent 社 の Envelope Simulator 10)
図 16 ドハティー増幅器の例 30)
図 18 EER 法のブロックダイアグラム 38)

参照

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