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ミャンマーにおけるアブラナ属野菜遺伝資源の多様性と特性解明

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Academic year: 2021

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- 1 - 氏 名 吉 田 沙 樹 学位(専攻分野の名称) 博 士(国際農業開発学) 学 位 記 番 号 甲 第 790 号 学 位 授 与 の 日 付 令和 2 年 3 月 20 日 学 位 論 文 題 目 ミャンマーにおけるアブラナ属野菜遺伝資源の多様性と特性 解明 論 文 審 査 委 員 主査 教 授・博士(農学) 入 江 憲 治 教 授・博 士 ( 農 学 ) 志和地 弘 信 教 授・博士(農業経済学) 板 垣 啓四郎 教 授・博士(農学) 和久井 健 司 論 文 内 容 の 要 旨 近年の気候変動による地球温暖化は,干ばつ,高温障害や新たな病害虫の拡大などの問題 を多発させ,農業の安定生産に大きな影響を与えている。このような問題に対応するために は,新たな品種育成を進めることが肝要であり,その為に素材となる多様な遺伝資源が必要 不可欠である。Brassica 属にはカブ,ハクサイ,キャベツなどの主要野菜が含まれ,多様な 品種が分化している。特にカラシナ(Brassica juncea)は,冷温帯から亜熱帯地域まで分布 し,多様な用途から,環境ストレスや耐病虫性などの有用な形質を持つ遺伝資源が存在する ことが予測される。しかし,わが国の海外カラシナ遺伝資源は,その数が限られ特性にも不 明な点が多く,主要野菜としての価値も低いことから,消費傾向に適した品種の開発が望ま れる。 本研究は,ミャンマーにおける Brassica 属野菜遺伝資源の多様性の実態を明らかにし,主 としてカラシナの特性を評価することで,カラシナ野菜の価値の向上および育種素材として の価値を高めることを目的とし,ミャンマーにおける Brassica 属遺伝資源の探索調査および 特性解明を行った。 1. ミャンマーにおける Brassica 属植物遺伝資源の探索収集 ミャンマー連邦共和国(以下ミャンマー)は東南アジアに位置し,多様な気候と大小様々 な民族の暮らす他民族国家であることから,豊富な作物遺伝資源が存在している。ミャンマ ーにおける Brassica 属植物遺伝資源の探索調査は,2015 年から 2019 年にかけて 6 回行われ ており,2015 年は入江らによって 73 点,2016 年以降の 5 回の調査では筆者らにより 371 点,計 393 点のアブラナ科遺伝資源が収集された。遺伝資源の多くは古くから栽培されてき た在来系統であったが,近年は改良品種の導入が進んでおり,遺伝資源の喪失が懸念される。 ミャンマーでは Brassica 属野菜種は地域社会の日常的な食用あるいは油糧用として利便

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性が高く,Mohn Nyin と呼ばれるカラシナ(Brassica juncea)を中心に,カイラン(B. oleracea) やダイコン(Raphanus sativus)といったアブラナ科野菜の地方品種の栽培が多数確認された。 Mohn Nyin は,とくにミャンマーの山岳地や辺境地において日常的な野菜として食されてお り,いずれの地域においても生鮮野菜のみならず,漬物や乾燥野菜といった保存食としての 利用も散見された。また油は薬用として用いられることもあり,搾汁後の残渣は家畜飼料と するなど様々な形態で利用され,生活の基盤となる重要な野菜であった。しかしながら,そ の一方で,農家による Mohn Nyin と呼ばれる野菜の正確な種の分類は不明瞭で,形態的特 徴が非常に類似する B. juncea 以外の B. rapa 等の野菜種が混在している状況が多々見受け られた。 2. 収集された Brassica 属遺伝資源の分類同定 ミャンマーにおける伝統野菜でありながら,Brassica 類野菜種の雑駁な栽培が散見される アブラナ属野菜類の多様性の実態を明らかにすることを目的として,これまでに収集された Mohn Nyin と呼ばれるアブラナ類野菜遺伝資源について,フローサイトメトリーや SNP を 用いた分類・系統解析を行った。Mohn Nyin と呼ばれるアブラナ属遺伝資源 205 系統につい てフローサイトメーターを用いて DNA 含量を測定しゲノムサイズを比較したところ,収集 された遺伝資源の多くは 1000MBp 前後と複二倍体である B. juncea のゲノムサイズに近いこ とから,74 系統は B. juncea と推定された。一方,500Mbp 前後と二倍体である B. rapa,B. nigra

あるいは B. oleracea と近い値を示す系統も 51 系統存在した。 さらに,異なるゲノムサイズが混在している系統や B. rapa と B. juncea の中間ゲノムサイ ズ値を示す系統の存在も確認され,Mohn Nyin と呼ばれる野菜にはアブラナ属野菜数種に加 え,それらの種間交雑種が存在している可能性が示唆された。収集遺伝資源のうちシャン州 で収集された 38 系統およびアブラナ科の 6 種の栽培 84 品種の計 122 点について SNP 解析 を行ったところ,ミャンマーの Mohn Nyin と呼ばれる遺伝資源は,主として 2 つのクラス ターで識別された。フローサイトメトリーの結果から,一方は B. juncea のみで形成される グループで,もう一方は B. rapa と推定された系統のグループで,Mohn Nyin 遺伝資源には 少なくとも 2 種のアブラナ科野菜種が含まれることがわかった。またこれら 2 種のグループ は栽培品種とは異なることがわかった。以上のことから,ミャンマーにおけるアブラナ類遺 伝資源は,農家では種属を超えた雑駁な集団として維持されていることが明らかとなった。 3. ミャンマー・カラシナ遺伝資源の特性解明 ミャンマーから収集されたカラシナ遺伝資源の遺伝的特性を解明し,育種素材としての活 用することを目的とし,以下の特性について特性評価を行った。

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- 3 - 1)主要農業形質の評価 収集された遺伝資源 84 点について植物遺伝資源特性調査基準に基づき 35 項目の諸形質の 植物形態の評価を行った。その結果,ミャンマー・カラシナ遺伝資源には諸形質に多くの変 異が確認された。特に葉形の変異は大きく,また,地域間変異が見られることがわかった。 2)辛味成分(アリルイソチオシアネート)含有量の評価 カラシナには利用する際に重要な特性である辛味成分含有量がある。有用成分であるアリ ルイソチオシアネートはカラシナの辛味の主成分であり,強い辛味により味覚や嗅覚を刺激 し,人の食欲を増進させる。その他の作用として,雑草の発芽抑制効果,抗菌作用も認めら れている。収集された Mohn Nyin 遺伝資源 21 点について,ガスクロマトグラフィー質量分 析法を用いて系統ごとのアリルイソチオシアネート(AITC)含有量を測定したところ, 21 系統のAITC 量は 0-40.3294mg/g の範囲を示し,B. junceaの辛味成分含有量は多様な変異 を示すことがわかった。 3)耐暑性の評価 耐暑性評価には,LT50(細胞の 50%が損壊する温度)によって評価する細胞膜温度安定 性検定法を用いた。カラシナは,45℃の熱処理を加えた際の細胞損傷率,RI (%) によって LT50 が代用可能となるため,簡易にカラシナの耐暑性評価が可能であることがわかった。 収集された 22 系統について細胞損傷率の測定を行ったところ,対象区とした日本の品種よ りも低い RI (%) 値を示すミャンマー系統は 5 点確認され,それらの系統は耐暑性を有する と考えられた。 4. ミャンマー・カラシナ遺伝資源の花成反応 カラシナは,花成形成時の低温要求性は極めて低いかあるいは欠如し,長日要求性が高い とされている。しかし,種内には低温の効果が低いと見られる系統や,長日に影響されにく い熱帯型の系統が存在するなど,未だ不明な点が多く残る。熱帯・亜熱帯地域に適応したカ ラシナ遺伝資源の花成形成に及ぼす日長反応性と温度条件の影響を明らかにすることは,育 種素材として活用するための基礎的知見となる。 ミャンマーから導入したカラシナ遺伝資源を自然条件下で栽培したところ,抽台までに必 要な日数は 38 日~71 日と大きな品種間変異が見られた。

次に抽苔時期の異なる 5 品種を選抜し,KATSUONA (かつお菜),YAMAGATA SEISAI

(山形青菜),および PAK85838 の比較品種とともに日長および温度条件がカラシナの花成

形成に及ぼす影響を調べた。異なる温度条件が花成反応に及ぼす影響について調べた結果, 低温区では,全ての品種・系統の抽苔が確認された。最も早く抽苔したのは M15 の 49 日に 対し,最も遅かったのは,KATSUONA と YAMAGATA SEISAI の 170 日であった。一方高温 区では,全ての系統が抽苔しなかった。抽苔した品種・系統の中で,KATSAUONA と

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YAMAGATA SEISAI 以外の品種・系統は抽苔後に開花が確認された。このことから, KATSUONA と YAMAGATA SEISAI の開花には,さらなる低温が必要と考えられた。これら の結果から,ミャンマー系統は低温区高温条件下おいては抽苔日数の品種間差異が見られ, 高温条件下では抽苔の遅延あるいは未抽苔となることがわかった。 異なる日長条件下における抽苔日数の変化を調べたところ,KATSUONA は全ての温度条 件下においても抽苔せず,低温がなければ抽台しない超晩生品種であると推察された。一方, KATSUONA 以外の系統は 12 時間日長条件下で抽苔し,一定の長日条件下では低温が無くとも 抽台が可能であった。これらの品種・系統の抽苔は日長(長日)に影響し,限界日長が存在するこ とが示唆されたが,13 時間日長で抽苔が遅れる短日性のような反応を示す系統も存在した。 以上のことから,カラシナ遺伝資源には,日長(長日)条件および温度(低温)条件に対 し,様々な花成反応特性の変異が存在することが明らかになった。本研究で供試したミャン マー・カラシナ遺伝資源は,南シャン州地域で収集された遺伝資源である。同地域の遺伝資 源に多様な変異が見られたのは,山岳地や谷地など複雑な地形を有する同地域では,日長, 気温,降水量などの自然環境や昨季に対する適応により,様々な花成反応特性の変異が生じ たと推察された。

本研究の結果,ミャンマーには B. juncea および B. rapa を中心に,多様な Brassica 属遺伝 資源が存在し,高い遺伝的多様性を有することが明らかとなった。とくに B. juncea の多様 性は,ミャンマーと国境を接するインドや中国がカラシナ遺伝資源の多様性 2 次中心地であ り,両国の間に位置するミャンマーはカラシナ類遺伝資源が多様に分化したためと推察され た。また,複雑な地形や環境条件に合わせた地域特有の品種選択,食文化の影響に加え,農 家圃場では集団内の遺伝的雑駁性を維持した状態が, Brassica 属野菜種間内の遺伝的多様 性が保全されている要因であると考えられた。これらの多様なアブラナ属遺伝資源は種内に とどまらず,属間の遺伝子プールにおける有用な育種素材として活用が期待される。 審 査 報 告 概 要 本研究は,2016 年から 2019 年にかけて,計 5 回のミャンマーにおける Brassica 属野菜類 の遺伝資源(GR)探索調査を行い,391 点を導入した。それら導入 GR はフローサイトメト リー倍数性検定から,その多くは B. juncea もしくは B. rapa と分類した。さらに,二倍体と 複二倍体の中間値を示す系統の存在を確認し,種間交雑が発生している可能性があると考え た。SSR および SNP を用いた系統解析を行い,ミャンマーの B. juncea と B. rapa の系統群 は,日本や中国の系統とは異なる,生態的分化を生じていると推察した。さらに農業形質の 遺伝的変異を調べ,多様性が大きいことを明らかにした。これらの Brassica 属遺伝資源は種

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内にとどまらず,属間の遺伝子プールにおける有用な育種素材として活用が期待される。本 研究は,持続可能な農業を推進する遺伝資源の保全と利用に貢献すると評価し,審査委員一 同は,博士(国際農業開発学)の学位を授与する価値があると判断した。

参照

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