氏 名 御 手 洗 洋 蔵 学位(専攻分野の名称) 博 士(農学) 学 位 記 番 号 甲 第 680 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 26 年 3 月 21 日 学 位 論 文 題 目 園芸ボランティア活動における参加者特性と活動展開の方策 について―厚木市と札幌市を事例として― 論 文 審 査 委 員 主査 教 授・博士(農学) 小 池 安比古 教 授・農 学 博 士 杉 山 信 男 農 学 博 士 松 尾 英 輔* 博士(農学) 愛 甲 哲 也** 論 文 内 容 の 要 旨 近年,まちづくりに対する市民の関心の高まりから, 公共空間での園芸ボランティア活動が多くの自治体でみ られるようになった。園芸ボランティア活動によって維 持・管理されたまち中のみどりは,景観形成や犯罪の抑 止につながるだけでなく,参加者どうしの交流を通じた コミュニティ形成においても期待できるとされている。 このような園芸ボランティア活動のもつ様々な効用を活 用して,豊かな地域社会の創造を進めていくためには, 園芸ボランティア活動の継続的な実施が重要であり,そ のことが近年の大きな課題となっている。本研究では市 民と行政の協働による園芸ボランティア活動が展開され ている神奈川県厚木市と北海道札幌市に焦点をあてた。 東京農業大学農学部のキャンパスがおかれている神奈川 県厚木市では,市民と行政の協働事業の一つとして園芸 ボランティア活動「花未来事業」を 2003 年から展開し ている。本事業は 2009 年現在で 6 年目を迎え,活動の 現状や制度の改善点などの把握は急務の課題と考えられ ている。一方,厚木市の比較対象都市として取り上げた 札幌市では 1978 年より約 30 年間にわたり「緑の愛護 員」という職務を市内の各町内会の役職者に委嘱し,地 域の緑化活動で指導的な役割を担ってもらっていた。し かし,多様なボランティア団体の発生や,愛護員の形骸 化,そして地縁団体の負担軽減が求められていたことか ら,2009 年に「緑の愛護員」を廃止し,新たに「さっ ぽろタウンガーデナー制度」を設置した。この新制度で は①制度の主な運営先として市の担当課とは別に本制度 を専門業務とする事務局が設置されている,②支援内容 がハード面ではなくソフト面が中心である,③支援対象 がボランティア団体だけでなく市民個人をも対象として いる,ことがあげられ,先進的に園芸ボランティア活動 を展開している。そこで本研究では園芸ボランティア活 動の継続的な展開に向けた方策を導きだすため,園芸ボ ランティア活動を展開して歴史が浅く,事業の改善が課 題としてあげられる神奈川県厚木市と,園芸ボランティ ア活動を長期にわたり展開するとともに,支援制度の改 変を行い,様々な支援策を講じている北海道札幌市を事 例とし,園芸ボランティア活動を継続的に展開するため に必要な方策について明らかにすることを目的とした。 1. 厚木市「花未来事業」を事例とした園芸ボランティ ア活動における参加者意識と活動継続の条件 神奈川県厚木市で行われている園芸ボランティア活動 「花未来事業」について,活動に携わる団体代表者と団 体メンバー双方の意識から,活動実態を把握するととも に,活動を継続するための条件について検討した。その 結果,団体代表者に対する聞き取り調査から活動目的と して地域貢献やコミュニティの形成といった快適な地域 環境づくりを主目的にあげる団体が多く,また団体メン バーへのアンケートからも地域の景観向上・美化や交流 などの社会的な目的を参加目的としてあげる人が多かっ た。そして実際の活動を通じて,地域の景観向上や交流 を通じて人間関係の輪を広げることのできただけでな く,園芸を楽しむとともに新たな園芸の知識・技術を得 られたことに関しても高い満足感を示していた。また, 団体代表者ならびに団体メンバーは活動する地域におい てゴミの減少などの活動効果のみられたこと,活動に対 する地域の人々のねぎらいの声や関心など,活動に対す る評価を実感しており,このことが参加者の満足感の高 ─ 100 ─ *元東京農業大学農学部教授 **北海道大学大学院農学研究院准教授
まりにも関係していることが推察された。また,今後の 活動に対する継続意欲は非常に高く,その背景として, 活動年数が浅い団体がほとんどであり,活動のマンネリ 化が未だ起きていないことが考えられる。そして行政に よる花苗支給などのハード面の支援とともに,気軽に参 加できる活動形態であること,団体内の人間関係の良好 なことなどのソフト面の条件が充実していることも活動 継続の重要な要素であることが明らかとなった。 2. 札幌市で展開される園芸ボランティア活動における 市民団体の類型化とその特徴 園芸ボランティア活動が先進的に展開されている北海 道札幌市での園芸ボランティア活動について,近年,活 動に携わる市民団体の形態が多様化している背景を踏ま えて,「さっぽろタウンガーデナー制度」に登録して活 動を行っている市民団体の類型化を試みるとともに,活 動を継続的に運営する上での課題について考察した。そ の結果,団体を活動場所の相違と,地縁組織や近隣企業 等の地域組織との連携の有無により,「街路系・地域連 携型」,「街路系・単独型」,「花壇系・地域連携型」,「花 壇系・単独型」の 4 形態に分類できた。①「街路系・地 域連携型」では活動規模の大きい団体が多く,活動目的 が街並みの形成など街づくりに向けられている。課題と しては次世代を担うメンバーの育成があげられている。 ②「街路系・単独型」では小規模団体が多く,活動を通 じ皆で楽しむことを目的としており,サークルの要素が 強い。課題としては実働メンバーの確保があげられてい る。③「花壇系・地域連携型」は主に小規模団体からな り,地域の緑化やコミュニティの醸成を目的としてい る。課題としては次世代のリーダーやメンバーの育成 と,町内会との良好な関係維持があげられている。④ 「花壇系・単独型」は多種多様な目的をもつ小規模団体 が多く,サークルの要素が強い集団であり,抱える課題 も目的同様,多様であった。このように各集団で活動目 的や課題の異なることが明らかとなったが,各々の課題 である人材の育成や共有,町内会などの地域組織との良 好な関係維持などを解決し,団体の活動を継続的に運営 していくためには,行政,地域組織,ボランティア団体 など多様な主体どうしの連携が重要といえる。また,活 動主体間の連携を円滑に行っていくためには,行政の担 当機関の他に,各々の主体間のネットワークづくりを支 援する組織や仕組みの必要性も示唆された。 3. 札幌市を事例とした園芸ボランティア活動における 団体メンバーの意識と団体形態 札幌市で展開される園芸ボランティア活動の支援制度 の一つである「さっぽろタウンガーデナー制度」につい て,本章では当該制度に登録する市民団体のメンバーを 対象にアンケート調査を実施し,団体メンバーの参加目 的と所属する団体の活動目的との整合性について,メン バーの属性や問題点なども考慮して分析し,今後の園芸 ボランティア活動のあり方について考察した。その結 果,まず団体メンバーへの意識調査より,活動への参加 目的として「健康・生きがいづくり」,「地域貢献」,「交 流」,「園芸活動」の 4 因子のあることがわかった。そし て,抽出された活動への参加目的 4 因子に対する積極性 や意識の相違により,団体メンバーを 4 集団に分類する ことができた。4 集団各々について述べると,①主に定 年後の人々が余暇や生きがいづくりとしてボランティア 活動に取り組み始めた人々で構成された「健康・生きが い重視型」,②園芸ボランティア歴の短い人が多いもの の目的意識は高く,次世代を担いうる若い世代で構成さ れた「園芸・社会目的型」,③園芸ボランティア経験の 豊富な女性の割合が多く,全ての目的に対して高い意識 をもっている人々で構成された「個人・社会目的型」, ④健康・生きがいづくりや園芸活動など,主に自らの楽 しみとして活動に参加している人々で構成された「個人 目的重視型」である。さらに本章では,団体メンバーの 参加目的を基に分類された 4 集団それぞれにどのような 団体形態のメンバーが所属しているかを検証するため, 前章で明らかとなった市民団体 4 形態を用いて,団体メ ンバー 4 集団と 4 団体形態との関係性について分析した 結果,これら 4 集団各々には多様な団体形態に所属する メンバーの含まれていることがわかった。そして団体の 活動目的とメンバー自身のもつ活動への参加目的が必ず しも一致するとは限らないことが明らかとなった。した がって,今後,園芸ボランティア活動をより継続的に展 開するためには,メンバーの参加目的と団体の活動目的 の整合を図ることのできるよう支援する必要があるとい える。 総 括 以上,本研究から公共空間での園芸ボランティア活動 の継続的な実施には,①園芸資材などのハード面の支援 とともに,メンバーの活動目的の達成やメンバー相互の 良好な関係性維持といったソフト面の条件の充実,② 各々の団体の抱える課題の解決やソフト面の支援充実に 向けた多様な活動主体間のネットワークの形成,③メン ─ 101 ─
バーの参加目的と団体の活動目的の整合を高める,とい う施策の構築が必要といえる。 審 査 報 告 概 要 本研究は,園芸ボランティア支援制度の見直し時期を 迎えた神奈川県厚木市と先進的な取り組みを行っている 北海道札幌市を事例として,これらの地域における園芸 ボランティア活動の実態を団体の代表者からの聞き取り とメンバーへのアンケートにより把握し,活動の継続的 な実施に向けた方策を導きだすことを目的とした。その 結果,園芸ボランティア活動の継続的な活動展開には, 多様な活動主体間の連携を促すためのネットワークの構 築,ボランティア団体とその個人の目指す方向の整合性 を高める必要があることを見出した。これらの成果は, 詳細な社会調査の分析結果にもとづく新たな知見として 高く評価できるとともに,わが国における今後の園芸ボ ランティア活動の推進に大きく寄与すると判断される。 よって,審査員一同は博士(農学)の学位を授与する 価値があると判断した。 ─ 102 ─