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熱ダイナミクスを利用したスピントロニクスニューロンデバイスの数理モデル

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(1)

熱ダイナミクスを利用したスピントロニクスニュー

ロンデバイスの数理モデル

著者

菊地 優志, 佐藤 拓, Aleksandr Kurenkov, 堀尾

喜彦, 深見 俊輔

雑誌名

電子情報通信学会技術研究報告

NLP2019-104

ページ

99-104

発行年

2020

URL

http://hdl.handle.net/10097/00127784

Copyright (C)2020 by IEICE

(2)

社団法人 電子情報通信学会

THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,

INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS

信学技報

TECHNICAL REPORT OF IEICE.

熱ダイナミクスを利用した

スピントロニクスニューロンデバイスの数理モデル

菊地 優志

佐藤

Aleksandr KURENKOV

堀尾 喜彦

深見

俊輔

† 東北大学電気通信研究所 〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1

E-mail:

[email protected]

あらまし

シナプスの機能の 1 つであるスパイクタイミング依存可塑性(STDP)と,ニューロンの機能の 1 つであ

るリーク付き積分発火(LIF)特性を,同じ材料で再現するスピントロニクスデバイスが開発されている.これらのデ

バイスではニューロンとシナプスのダイナミクスを模倣するために,デバイスの熱ダイナミクスを利用している.本

稿では,スピントロニクスニューロンデバイスの数理モデルを提案する.スピントロニクスニューロンデバイスは,

パルス列が入力されたとき,デバイスの内部温度に依存してスイッチング確率が変化する確率的なスイッチング素子

である.また,入力パルスの振幅,パルス幅,頻度に応じてデバイスの内部温度が時間的に変化することを利用して

入力パルス列のリーク付き積分を実現している.提案するモデルでは,デバイスの内部温度をニューロンの内部状態,

スイッチングを発火,スイッチング確率を出力関数としてモデルを構築する.

キーワード

スピントロニクス,LIF ニューロン,ブレインモルフィックコンピューティング,熱ダイナミクス

Mathematical modeling of spintronics neuron devices

based on thermal dynamics

Yushi KIKUCHI

, Taku SATO

, Aleksandr KURENKOV

,

Yoshihiko HORIO

, and Shunsuke FUKAMI

† Research Institute of Electrical Communication, Tohoku University 2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai,

Miyagi, 980-8577 Japan

E-mail:

[email protected]

Abstract

Spintronics device has been shown to reproduce some functionalities of synapse (i.e.

spike-timing-de-pendent plasticity) and of a neuron (i.e. leaky integrate-and-fire: LIF) by same materials. In addition, these devices

take advantage of its internal thermal dynamics to mimic neuronal temporal dynamics. The spintronics neuron

devices are stochastic switching devices whose switching probability depends on the internal temperature. Thus,

the switching probability changes through the device temperature controlled by input pulse series. In our model, the

device internal temperature is regarded as an internal state of the LIF neuron. On the other hand, the switching is

treated as firing/non-firing. Finally, the switching probability characteristics according to the input pulse frequency

gives an output function of the proposed neuron model.

Key words

Spintronics, leaky integrate-and-fire neuron, brainmorphic computing, thermal dynamics

1.

ま え が き

生体の脳は低消費電力で,ロバストに超並列分散処理を行い, 高度な情報処理機能を自律的に学習することにより,常に変動 する予測不能で無限定な環境にも対応することができる.そこ で我々は,このような脳に特異的な情報処理様式をハードウェ アとして実現するため,「ブレインモルフィックコンピューティ ングパラダイム」を提案している[1], [2].この要件の1つとし て,脳の基本的構成要素であるニューロンとシナプスの応答や ダイナミクスをデバイス物理で再現する必要がある. 従来のニューロモルフィック回路[3]では,回路ごとに多数の CMOSトランジスタが必要となり,消費電力および回路面積 が増大して非効率的である場合が多い.従って,多数のニュー ロンおよびシナプスを従来のCMOS技術の延長で実現しよう — 1 —

99

-一般社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,

INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS

信学技報

This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.

IEICE Technical Report NLP2019-104(2020-01)

(3)

1 1’ 2 2’ Hall Voltage VH Chanel Voltage Vch Spintronics device Probe 図1: 実験で用いるスピントロニクスデバイスホールバーの概 形.1-1’がチャネル端子であり,2-2’がホール端子である. とすると,その消費電力や回路規模は非常に大きくなると容易 に予想できる. 一方,近年のナノデバイス技術の進展により,新規機能デバ イスが開発されており,その中でもニューロンやシナプスに似 た機能やダイナミクスを持つデバイス(例えば,抵抗変化アナ ログメモリデバイス)が現れてきている[4]– [13].しかし,こ れまでニューロンデバイスとシナプスデバイスは,通常それぞ れ異なる材料を用いて別々に実現されている.これはニュー ロンとシナプスはその機能が互いに異なっているためである. ニューロンデバイスとシナプスデバイスを同じ材料で形成でき れば,ハードウェアの実現が容易かつ効率的になると考えられ る.また,これまではニューロンやシナプスのダイナミクスま でデバイス単体で実現した例は少ない. これに対し,本稿で用いるスピントロニクスデバイスは, ニューロンとシナプスの特性を同じデバイス構造,すなわち同 じ物理メカニズムで実現できるうえ,それらの特性だけでなく, ダイナミクスも再現できる[14].すなわち,ニューロンの典型 的な特性であるリーク付き積分発火(LIF)と,シナプスの可 塑性の1つであるスパイクタイミング依存可塑性(STDP)に 似た動作を,同じ材料で実現することができる[14]. ニューロンとして用いる2値のメモリ状態を持つスピントロ ニクス素子は,2つの状態を発火と非発火に対応させることが 可能である.このデバイスは,パルス列の入力に対して確率的 にスイッチングするが,そのスイッチング確率は,デバイスの 熱ダイナミクスによりパルス頻度に対してシグモイド関数的に 変化する.なお,入力するパルスの振幅,パルス幅,頻度によっ てこの特性を変化できる. 本稿では,ニューラルネットワークの枠組みでこのスピント ロニクスデバイスを活用するため,このデバイスのニューロン としての動作を表現する数理モデルを提案する.まず,2.でス ピントロニクスニューロンデバイスについて解説する.3. で ニューロンとしての動作を記述する数理モデルを提案する.最 後に4.でニューロンデバイスの問題点について説明する.

2.

スピントロニクスニューロンデバイス

予備的な実験で用いられているスピントロニクスデバイス全 体(ホールバー)の概形(上からみた図)を図1に示す[14].図 中で丸で示したスピントロニクスデバイスは,反強磁性材料と 強磁性材料を積み重ねた構造を用いたものである.図1に示す デバイスは,2つのチャネル端子(1,1’)と2つのホール端子 (2,2’)からなる4端子デバイスである.チャネル端子に電流 を流した際に発生するトルク(スピン軌道トルク:Spin Orbit Torque (SOT))により強磁性材料の磁化の状態を制御する.デ バイス中の磁化の状態は不揮発的に記憶される.図1のデバイ スではチャネル端子間に電流を流すことで,ホール端子間に現 れるホール電圧として記憶状態を読み出すことができる. このデバイスは,その大きさ(図1中の丸部分の直径)によ り,スピンの記憶状態を2値から多値,そして連続(アナログ) 記憶まで調整できる.例えば,図1中の丸部分の直径が5 µm のときはアナログメモリ特性が,100 nmのときは2値メモリ 特性が実現できる.これはデバイスに含まれる磁区の数の違い によるものである. 5 µmのデバイスは,アナログ的メモリ特性に加え,熱ダイナ ミクスを介してシナプスの特徴的な応答の1つであるスパイク タイミング依存可塑性が実現できることが示されている[14]. 一方,100 nmデバイスは,熱ダイナミクスによりニューロンの 典型的な機能であるリーク付き積分発火特性を示す[14].本稿 では,この100 nmデバイスをニューロンデバイスとして記述 する数理モデルを構築する. 2. 1 スピントロニクスニューロンデバイスの動作 図2にスピントロニクスニューロンデバイスの時間応答の概 略図を示す.以下では入力パルスとして電圧パルスを用いる. 図2に示すように,このデバイスはチャネル端子からパルスが 入力されると,ジュール熱によってデバイスの内部温度がある 飽和温度Tsatに向けて指数関数的に上昇する.一方,パルス入 力が無いときは,デバイスの内部温度は室温Troomに向けて指 数関数的に減少する.デバイスの内部温度Tの時間変化は,発 熱のある熱伝導方程式により次のように近似できる.ただし, デバイス内部の温度は一様とする. CdT dt = Troom− T Rth + Q (1) ここで,Cはデバイスの熱容量[J/K]Rthは空気とデバイス との熱抵抗[K/W]であり,いずれもデバイス固有の定数であ る.Qはチャネル電圧によるデバイスの内部発熱[W/m3]であ り,チャネル電圧の二乗に比例すると考えられる.よって(1) 式は,時定数τおよび比例定数kを用いて次のように書ける. τdT dt = Troom− T + kV 2 (2) (2)式より,飽和温度Tsatは次式で求められる. Tsat= Troom+ kV2 (3) 以上より,初期温度と時間毎のチャネル電圧によりデバイス温 度を求めることができる. 次にスピンの反転(スイッチング)について考える.パルス が入力されると,チャネルを流れる電流に起因するトルクによ りデバイスの磁区内のスピンは,正の電圧では上向きに,負の — 2 —

100

(4)

-t Input Pulse t1 t2 t3 t4t5 t6 t7 t8 0 (a) Internal State t t1 t2 t3 t4t5 t6 t7 t8 Troom (b) Hall Resistance t t5 t7 0 (c) Hall Voltage t t5 t6 0 (d) 図2: スピントロニクスニューロンデバイスの時間応答の概略 図.(a)入力パルス,(b)内部状態,(c)ホール抵抗,(d)ホール 電圧. 電圧では下向きに確率的に磁化反転し,デバイスのスイッチン グが起こる.このスイッチング確率は,デバイス温度に依存し てシグモイド関数的に変化する.すなわち,デバイス温度が低 いときにはスイッチング確率が低く,デバイス温度が高くなる につれてスイッチング確率が高くなり.デバイス温度が十分に 高いときにはスイッチング確率が1に漸近する[14].また,パ ルスの振幅が高いほどスイッチング確率は高くなり,振幅が1 Vを超えると確実にスイッチングする. このスイッチングの状態は,チャネル方向に電流を流すこと により,ホール端子に生じるホール電圧から読み出すことがで きる.なお,読み出しにはDC電圧を用いるが,その値は電圧 印加によりデバイスがスイッチングしないように十分に低い値 であることが望ましい.このとき,チャネル電流Ichは次式で 表わされる. Ich= Vch R (4) ここで,Vchはチャネルに印加するDC電圧値,Rはデバイ スのチャネル方向の抵抗であり,実験に用いるデバイスでは 500 Ω程度の値である.例えば,50 mVのDC電圧を読み出し 電圧にした際のチャネル電流はIch= 50 mV/500 Ω = 100 µA である. 以下にホール電圧VHを次式で定義する. VH= RHall· Ich (5) ここで,RHallはホール抵抗[V/A]であり,実験に用いるデバ イスでは,次の2値を取る. RHall=

{

0 [V/A] (下向き) 0.01 [V/A] (上向き) このとき,ホール電圧はデバイスの磁化状態が下向きの際には 0 V,上向きの際には0.01× 100 µA = 1 µVとなる. 以下では,デバイスの内部温度をニューロンにおける膜電位に, ホール抵抗をニューロンの発火および非発火状態に対応させる. すなわち,RHall= 0 V/Aの状態を非発火,RHall= 0.01 V/A

の状態を発火とする.このとき,スイッチング確率の入力パル ス列に対する変化をニューロンの出力関数とみなす. 2. 2 スピントロニクスニューロンデバイスの操作 前節で説明したスピントロニクスニューロンデバイスの動作 をもとに,このデバイスに対し,リセット,書き込み,読み出 しの3つの操作を行う. デバイスへの書き込みを行う前にはデバイスをリセットし, デバイスを非発火の状態にする.このときの回路構成を図3に 示す.図3においてリセットは次の手順で行う. (1) チャネル端子をパルスジェネレータに接続し,ホール 端子は開放する. (2) パルスジェネレータから出力するパルスのパルス幅を P W = 100 ns,パルス電圧をVp=−1.5 Vに設定する. (3) パルスを一回印加する. 1 1’ 2 2’ PW=100 ns Vp=1.5 V Pulse generater 図3: リセット時の回路構成. 書き込みでは,非発火の状態のデバイスのチャネル端子に任 意のパルス数,あるいはパルス頻度のパルス列を入力する.パ ルスが入力されている間は内部状態に対応するデバイスの内部 温度が指数関数的に上昇し,そのデバイス温度に応じた確率で 発火(スイッチング)する.このときの回路構成を図4に示す. 図4の回路において,書き込みは次の手順で行う. (1) チャネル端子をパルスジェネレータに接続し,ホール 端子は開放する. (2) パルスジェネレータから出力されるパルス列の周波 数をfinに,あるいはパルス数をnpulseにし,P W = 100 nsVp= 0.777 Vに設定する. (3) パルス列を印加する. 読み出しでは,チャネル端子に直流の読み出し電圧を印加し て,発生するホール電圧を測定する.このホール電圧の大きさ により発火,非発火を判別する.このときの回路構成を図5に 示す.図5の回路において読み出しは次のような手順で行う. (1) チャネル端子をDC電圧源に接続し,ホール端子を電

(5)

1 1’ 2 2’ PW=100 ns Vp=0.777 V 1 2 npulse Frequency=fin Pulse Generater 図4: 書き込み時の回路構成. 圧計に接続する. (2) DC電圧を0.05 Vに設定する. (3) DC電圧を印加し,このときのホール電圧を測定する. (4) 発火判定を行う.このとき,ホール電圧が0 Vならば 非発火,1 µVならば発火と判定する. 1 1’ 2 2’ V=50 mV DC Voltage Source DC Voltmeter 図5: 読み出し時の回路構成.

3.

スピントロニクスニューロンデバイスの数理

モデル

3. 1 ニューロン素子としてのモデル化 図6と図7に,それぞれ,モデルニューロンの記号とその時 間応答の概略図を示す.図6中,ωijは入力jからニューロン iへのシナプス荷重,Ti(t)は時刻tでのニューロンiの内部温 度,f (·)は出力関数である.文献[14]に示されているように, スピントロニクスニューロンデバイスは,短い間隔で繰り返し 入力パルスを受け取ると内部温度が高くなることによる入力パ ルス列のリーク付き時空間積分と,内部温度に応じた確率的な スイッチング特性を示す. そこで,スピントロニクスデバイスをLeaky Integrate-and-Fire(LIF)ニューロンとして数理モデル化する.外部入力の影 響を考慮すると,書き込み時のニューロンデバイスの内部温度 の時間変化は(6)式によって与えられる.ただし,全ての入力 パルスの幅と振幅は同一で,それぞれ,P WおよびVpとする. τdTi(t) dt = Troom− Ti(t) Input 1 Input 2 Input j Input N wi1 w i2 wij w iN Internal State Ti(t) Output Function f(Ti(t)) 図6: モデルニューロンの概略図.

t

Input

Pulse

t

1

t

2

t

3

t

4

t

5

t

6

t

7

t

8

t

9

t

10

0

(a)

Internal

State

t

t

1

t

2

t

3

t

4

t

5

t

6

t

7

t

8

t

9

t

10

T

room

(b)

Neuron

State

fire

t

t

9

0

(c)

図7: スピントロニクスニューロンデバイスの時間応答の概略 図.(a)入力パルス,(b)内部状態,(c)ニューロンの状態.  + N

j=1 ωij P C

j n=0 gj(Ti(tnj), t− t n j− P W, P W, Vp) (6) ここで,Ti(t)は時刻tでのi番目のニューロンの内部温度,N は外部入力の数,P Cjj番目の外部入力から受け取ったパル スの数,ωijj番目の外部入力からi番目のニューロンへの シナプス荷重,tnjj番目の外部入力からのn番目のパルスの 入力時刻である. また,(6)式中のgj(·)は外部入力jからのパルスによる内 部温度の増加量を与える関数であり,(2)式より次のように書 ける. g(w, x, y, z) =

(

Tsat(z)− w

)

·

(

1− exp

(

−y τ

))

· δ(x) (7) ここで,δ(·)はクロネッカのデルタである.すなわち,図7に 示すように,内部温度はパルス入力中に指数関数的に上昇する のではなく,パルス立下り時に増加分が加算されるとする. 一方,Tsatは(3)式から次のように求められる. Tsat= Troom+ kVp2 (8) 次に,非発火状態のニューロンiが外部入力からパルスを1 個受け取ったとき,ある確率pswで発火するとする.この確率 を与える出力関数f (Ti(t))を次のようなシグモイド関数で近似 する. — 4 —

102

(6)

-f (Ti(t)) = psw(Ti(t)) = 1 1 + exp(ε· (Ti(t)− Tmid)) (9) ここで,εはシグモイド関数の急峻さ,Tmidはf (Tmid) = 0.5 となる内部温度をそれぞれ表し,どちらもデバイス固有の定数 である. 3. 2 シミュレーションによるモデルとデバイスの比較 1つの外部入力のみを考え,シナプス荷重を1する.このと き,提案したニューロンモデルを用いて,入力パルス列の周波 数finとパルス数npulseを変化させた際の,発火確率Pswの シミュレーションを行う.得られた結果とスピントロニクス ニューロンデバイスによる実験結果を比較する. 実験およびシミュレーションは以下の手順で行う. (1) デバイスをリセットする. (2) 測定したいパルス周波数finおよびパルス数npulseを 決定する. (3) デバイスへの書き込みを行う. (4) デバイスの読み出しを行い発火判定を行う. (5) (1)に戻る. (6) 上記の手順を100回繰り返し,発火確率Pswを求める. finに対する応答特性では,パルス数を10,000発に固定し, パルス周波数を10 kHzから10 MHzまでスイープする.一 方,npulseに対する応答特性については,パルス列の周波数を8 MHzに固定し,パルスの数を1から15,000回まで変化させる. まず,(6)式中の時定数τを実験より決定する.図8に,実 験により得られたfinに対するスピントロニクスニューロンデ バイスの応答特性を示す.図8に示すように,fin= 1 MHz, すなわちパルスの間隔が900 nsより短くなるとPswは大きく 増加し始める.これは,低い周波数,すなわち長いパルス間隔 では,冷却時間が十分長いため内部温度が上昇しなかったため であると考えられる.この結果より,時定数τは100 nsから 1 µsであると予想される.そこで,シミュレーション実験では τ = 800 nsとする. 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0.01 0.1 1 10

Frequency f

in

MHz

Switching Probability

P

sw 図8: 実験により得られたスピントロニクスニューロンデバイ スのfinに対するスイッチング確率Psw特性. (8)式中の比例定数kについても決定する必要があるが, ニューロンデバイスの温度特性に関する実験は行われていない ため,デバイスの動作温度より推定する.実験における飽和温 度Tsatは320 Kから400 K程度である.実験に用いた入力パ ルスの振幅は0.777 Vであるため,(8)式から,比例定数kの値 は40から160と推定される.そこでシミュレーション実験で はk = 50とする. 以上のτkを用いたときの内部温度Tfinとnpulseに 対する応答特性のシミュレーション結果を,図9および図10 にそれぞれ示す.シミュレーションには4次のルンゲクッタ法 を用いた.これらの結果から,低頻度のパルス列では,多数の パルスを入力しても内部温度はあまり上昇しないのに対し,高 頻度のパルス列では十数回程度の少ないパルス数でも内部温度 が大きく上昇し飽和状態となることが確認された. これらの結果から,周波数finが一定でパルス数npulseが十 分大きいとき,パルス列による発火確率Pswと単一パルスによ る発火確率pswについて,次の式が成り立つと考えられる. Psw= 1− (1 − psw)npulse (10) (9)式と(10)式,および,スピントロニクスニューロンデバイ スのfinに対する応答特性から,(9)式中の出力関数のパラメー タは,ε = 0.47Tmid= 330.2 Kと推定できる. 図11に,実験結果から推測されるスピントロニクスニュー ロンデバイスと,提案したニューロンモデルのシミュレーショ ンにより得られた温度特性を示す.また,図12と図13に,ス ピントロニクスデバイスの実験及びニューロンモデルのシミュ レーションにより得られた周波数応答特性とパルス数応答特性 の比較をそれぞれ示す.これらの比較より,提案したニューロ ンモデルが,実際のデバイスの熱ダイナミクスや,デバイス温 度に依存した確率的なスイッチング特性を十分に表現している と考えられる. 300 305 310 315 0.01 0.1 1 10

Frequency f

in

MHz

Temperature

T

K

図9: ニューロンモデルから得られた内部温度のfinに対する 応答特性. 300 305 310 315 1 10 100 1000 10000

Number of Pulse n

pulse

Temperature

T

K

図10:ニューロンモデルから得られた内部温度のnpulseに対す

(7)

0 0.0001 0.0002 0.0003 0.0004 0.0005 302 304 306 308 310 312 314 316

Device

Model

Temperature T K

Switching Probability

p

sw 図 11: スピントロニクスニューロンデバイス(実験)および ニューロンモデル(シミュレーション)の温度特性. 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0.01 0.1 1 10

Device

Model

Frequency f

in

MHz

Switching Probability

P

sw 図12: スピントロニクスニューロンデバイスおよびニューロン モデルのfinに対する応答特性. 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1 10 100 1000 10000

Device

Model

Number of Pulse n

pulse

Switching Probability

P

sw 図13: スピントロニクスニューロンデバイスおよびニューロン モデルのnpulseに対する応答特性.

4.

ニューロンデバイスの問題点

生体ニューロンとスピントロニクスニューロンデバイスを比 較すると,スピントロニクスニューロンデバイスは,内部状態, すなわち,内部温度を任意に低下させる機能を陽に持たない点 が異なっている.例えば,生体ニューロンでは,抑制性結合か ら入力を受け取った際や,ニューロンが発火した直後のリセッ ト時に内部状態(膜電位)が減少する.しかし,スピントロニク スニューロンデバイスでは,内部状態(内部温度)の低下は自 然冷却によっている.そのため,抑制性結合や不応性の実現が 困難である.この点は,このデバイスをニューラルネットワー ク中に用いる際に考慮する必要がある. また,このデバイスは発火機構を持っていないため,別のデ バイスによってパルスの発生を行う必要がある.これについて は,別途検討中である.

5.

ま と

スピントロニクスニューロンデバイスのLIFニューロンとし てのモデルを提案した.提案モデルにより,スピントロニクス ニューロンデバイスが示すリーク付き積分発火特性やシグモイ ド関数的な確率的発火特性を記述することができた.さらに, 実際のデバイスより得られた実験結果との比較により,提案モ デルの妥当性を確認した. 今後は,さらに多くのデバイス測定を通して,モデルパラメー タのチューニングを行い,提案したモデルを活用してニューラ ルネットワーク回路を設計する.

本研究は東北大学電気通信研究所における共同プロジェクト 研究(H21/A21)およびJST-CREST JPMJCR19K3の支援を 受けて行われたものである. 文 献 [1] 堀尾喜彦,日本神経回路学会誌,DOI:10.3902/jnns.25.140, 2018. [2] 堀尾喜彦,応用物理,DOI:10.11470/oubutsu.88.9_619, 2018.

[3] E. Chicca, F. Stefanini, C. Bartolozzi, and G. Indiveri, Proc. IEEE, DOI:10.1109/JPROC.2014.2313954, 2014. [4] P. Krzysteczko, et. al., Adv. Mater.,

DOI:10.1002/adma.201103723, 2012. [5] S. Boyn, et. al., Nat. Commun.,

DOI:10.1038/ncomms14736, 2017.

[6] Y.-F. Wang, et. al., Sci. Rep., DOI:1038/srep10150, 2015.

[7] D. Kuzum, R. G. D. Jeyasingh, B. Lee, and H.-S. P. Wong, Nano Lett., DOI:10.1021/nl201040y, 2012. [8] F. Alibart, et. al., Adv. Funct. Mater., DOI:

10.1002/adfm.201101935, 2012.

[9] Y. Li, et. al., Sci. Rep., DOI:10.1038/srep01619, 2013. [10] M. T. Sharbati, et. al., Adv. Mater.,

DOI:10.1002/adma.201802353, 2018. [11] P. Stoliar, et. al., Adv. Funct. Mater.,

DOI:10.1002/adfm.201604740, 2017.

[12] S. Dutta, et. al., Sci. Rep., DOI:10.1038/s41598-017-07418-y, 2017.

[13] Z. Wang, et. al., in Proc. IEEE IEDM, DOI:10.1109/IEDM.2018.8614586, 2018.

[14] A. Kurenkov, S. DuttaGupta, C. Zhang, S. Fukami, Y. Horio, and Hideo Ohno, Adv. Mater., DOI:10.1002/adma.201900636, 2019.

— 6 —

104

図 10: ニューロンモデルから得られた内部温度の n pulse に対す る応答特性.

参照

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