複合生態フィールド教育研究センター報告 第28
号
著者
東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド
教育研究センター
雑誌名
複合生態フィールド教育研究センター報告
巻
28
ページ
1-101
発行年
2013-03-29
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129841
Bulletin of Integrated Field Science Center
No.28
March 2013
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序 文
平成23 年度(2011 年度)は,東北大震災からの復旧と福島第一原子力発電所事故に由来する放射能汚染の対応に追われ る1 年であった。あらためて,2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災で被災された方々にお見舞いを申し上げるとともに, 亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げる。 震災による津波によって壊滅的な被害を受けた女川フィールドセンターのみならず,東北大学全体が大きな被害を受けた。 新年度からの教育研究は大きな影響を受け,例年通りに学事を進めることは不可能であり,フィールドセンターで行う実習 等も例外ではなかった。センター全教員が参加し,農学部の新入生への導入教育科目(必修)である「陸圏・水圏コミュニケー ション論」は川渡・女川のフィールド講義を中心に組み立てられている。女川フィールドセンターを利用できない状況の下, 本科目を開講するために,川渡フィールドセンターのため池を利用して水圏のフィールド講義を行うなど種々の対応を行っ た。本科目のグループ討議では,新入生が教員とともに震災後の復旧復興と農林水産業の関わりについて真摯に論議した。 女川フィールドセンターでは,幸い人的被害は無かったものの建物内への大量の瓦礫や汚泥の流入によって殆ど全ての事 務資料や観測データが失われた。沿岸生物生産システム学研究室は,教員・学生ともに雨宮キャンパスに移転した。女川で は職員が復旧に向け,建物周辺の瓦礫撤去という困難な作業に取り組んだ。この作業には川渡からも技術職員が支援した。 23 年度末には,宿泊棟 2 階を仮事務所として事務的な業務を進められるようになった。 また,福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染は川渡フィールドセンターの位置する宮城県北部にも広がり,農場 の生産システムは大きな影響を受け,きわめて困難な状況に至っている。 一方で,フィールドセンターの教職員はそれぞれの専門性を活かし,震災からの復旧・復興のための支援活動に取り組んだ。 津波で被災した農地の調査・復旧,沿岸海洋生態系の調査,放射能汚染地帯に取り残された家畜の保護など,多面的にまた 精力的に支援活動が進められてきた。 震災に対するこれら一連の対応・活動状況については,本報告末尾に1 章を設けとりまとめることとした。また,それぞ れの業務報告の中においても説明されている。 震災直後の混乱の続く平成23 年 4 月,川渡フィールドセンターは文部科学省から「食と環境のつながりを学ぶ複合生態 フィールド教育拠点」として教育関係共同利用拠点に認定された。しかし,平成23 年度は,震災のため東北大学の学事予 定が大幅に変更となり,夏期休業期間も圧縮され,さらに近隣の他大学の教育研究も震災の影響を受けたため,大きな変更 を余儀なくされた。しかし,24 年度には,当初計画通りにプログラムを実施できるようになった。 本報告は,平成23 年度,震災後 1 年間の業務・業績報告である。この間,国内外の多くの方々,多くの機関からご支援 をいただいた。ここにあらためて深甚の謝意を表したい。 本報告が読者の何らかに参考になれば幸いである。なお,発行が遅くなったのはひとえにセンター長としてのマネジメン ト不足でありお詫びしたい。震災以降,センターを巡る状況はきわめて厳しいが,教職員一丸となって困難に立ち向かって いきたい。 平成25 年 2 月 複合生態フィールド教育研究センター長齋 藤 雅 典
目 次
Ⅰ.研 究 報 告
1 .投稿論文 ……… 1 2 .研究業績 ……… 29 1)学会誌等への掲載論文 ……… 29 2)著書・総説等 ……… 31 3)口頭発表論文 ……… 33Ⅱ.業 務 報 告
1 .概 況 ……… 41 2 .教育関係 ……… 50 3 .開放講座等 ……… 52 4 .平成23年度に実施された講演会及び研修会 ……… 57 5 .平成23年度の主な来訪者等 ……… 58 6 .農産・飼料関係 ……… 59 7 .畜産関係 ……… 68 8 .林木関係 ……… 77 9 .機械関係 ……… 78 10.クワの管理について……… 81 11.事務関係 ……… 81Ⅲ.資 料
1 .2011 年(平成23年)の気象観測表 … ……… 85 2 .職員等一覧表 ……… 86特 別 報 告
1 .全体概況 ……… 89 2 .川渡フィールドセンターにおける被害ならびに各種の対応……… 90 3 .女川フィールドセンターにおける被害ならびに各種の対応……… 92 4 .雨宮キャンパス(フィールド社会技術学分野)における被害ならびに各種の対応……… 93 5 .復旧・復興支援活動……… 93目 次
1.投 稿 論 文
研究論文 (1)小倉 振一郎・田中 繁史・遊佐 健司・狩野 広・丹内 正樹・遊佐 良一 牛ふん完熟堆肥の施用が新播採草地の雑草発生に及ぼす影響 ……… 1 (2)水野 速人・吉原 佑・佐藤 衆介・木村 和彦・田中 繁史・小倉 振一郎 北山放牧地における水および土壌のミネラル濃度 ……… 7 (3)矢部 勝也・米澤 千夏・國井 大輔・斎藤 元也・小田川 信哉 フィールドセンター北山地区針葉樹林地における 航空機ハイパースペクトルリモートセンシングによる森林管理の可能性の検討 ……… 13 解説資料 (1)米澤 千夏・小倉 振一郎・井上 晋平・佐々木 栄・國井 大輔・浪波 史子・齊藤 元也 フィールドセンター北山地区における草地の面積と傾斜度の推定 ……… 21 (2)米澤 千夏・斎藤 元也・浪波 史子・杉原 鷹彦・矢部 勝也・陶山 佳久・國井 大輔 フィールドセンター北山地区針葉樹林地の土地被覆分類図および針葉樹種分類図 ……… 252.研 究 業 績
1)学会誌等への掲載論文 ……… 29 2)著書・総説等 ……… 31 3)口頭発表論文 ……… 331
緒 言
家畜排せつ物を堆肥化し,作物生産に利用することは, 資源循環の点で大きな意義がある。しかし,家畜ふん堆肥 が多量にかつ経年的に施用されると,作物中のミネラル含 量 お よ び バ ラ ン ス が 悪 化 す る( 近 藤 ら1979; 杉 原 ら 1979;伊東ら 1982)。筆者らが行った試験では,窒素ベー スで慣行施用量と同量の牛ふん堆肥(カリウム施用量は 6.0-7.6 倍)を 3 年間施用したところ,牧草中カリウム含量 が上昇し,カルシウム含量が低下し,牧草中K/(Ca+Mg) 当量比が大きく上昇した(小倉ら2012)。 牧草中ミネラルバランスを改善する方法として,マメ科 草の混播が挙げられる。マメ科牧草は,一般に高タンパク 質であると同時に,カルシウムやマグネシウムを豊富に含 む(農業・食品産業技術総合研究機構2009)。アカクロー バ(Trifolium pratens L.)は採草用マメ科牧草の代表種であ り,生産性が高く,イネ科草との混播適性に優れているが, その一方で生育期間が短いため,永年維持が難しい(佐藤 1981;中條・大門 1984)。佐藤(1981)によれば,アカクロー バ 単 播 で は 造 成2 年 目 に 夏 枯 れ が 著 し く, メ ヒ シ バ (Digitaria adscendens (H.B.K.) Henr.)等の雑草が繁茂し,アカクローバは消滅したが,オーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)との混播では 4 年後にも生育が認められ,永 続性が改善された。 しかし,家畜ふん堆肥施用下での混播草地における雑草 発生と播種牧草の永続性についてはあまり知られていない。 草地に発生する雑草の中でも,イヌビエ(Echinochloa crus-galli (L.) Beauv.),ノゲシ(Sonchus oleraceus L.),ヒメジョ
オ ン(Erigeron annuus (L.) Pers.), ハ ル ジ オ ン(Erigeron philadelphicus L.),エゾノギシギシ(Rumex obtusifolius L.),
イ タ ド リ(Polygonum cuspidatum Sieb. Et Zucc.), ヨ モ ギ
(Artemisia princeps Pampan.)などは草丈が高く吸肥力が大 きい大型雑草であり,牧草との間にしばしば競合関係を生
牛ふん完熟堆肥の施用が新播採草地の雑草発生に及ぼす影響
小倉 振一郎
1・田中 繁史
2・遊佐 健司
2・狩野 広
2・丹内 正樹
2・遊佐 良一
2Effect of Application of Cattle Manure Compost on Weed Infestation in Newly Established Pasture
Shin-ichiro OGURA
1, Shigefumi TANAKA
2, Kenji YUSA
2, Hiroshi KARINO
2, Masaki TANNAI
2and Ryoichi YUSA
2キーワード:アカクローバ,オーチャードグラス,牛ふん堆肥,採草地,雑草
センター報告28:1-6(2013) じる(根本1979)。このような大型雑草の発生が懸念され る草地では,堆肥の多量施用によって雑草害が悪化する可 能性が指摘されている(根本ら1990)。当センターの草地 には,古くからイヌビエ,エゾノギシギシ,ヨモギなどの 好窒素性大型雑草が認められている(酒井ら1976;1978) ことから,家畜ふん堆肥の施用によって雑草害が悪化する 可能性がある。 そこで本研究では,新播採草地への牛ふん堆肥の施用に よる雑草侵入の状況を,イネ科牧草地およびイネ科牧草と アカクローバの混播草地において比較した。材料と方法
試験地の造成 調査は,東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィー ルド教育研究センター複合陸域生産システム部(宮城県大 崎市鳴子温泉)北山地区内の2 つの採草地(8 号圃場,1.45 ha;9 号 -2 圃場,1.37 ha)で行われた。これらの採草地は, 3-4 年間の飼料用トウモロコシ(Zea mays L.)生産と 6-7 年間の寒地型永年牧草の栽培が交互に行われている圃場で あり,土壌は非アロフェン質黒ぼく土である。本試験実施 前には,トウモロコシが2006 年 5 月から 2009 年 9 月まで 栽培され,150 kg N/ha/ 年 , 150 kg P2O5/ha/ 年および 150 kg K2O/ha/ 年(化成肥料 1,000 kg/ha/ 年)および完熟の牛ふん 堆肥が20,000 kg FM/ha/ 年施用されていた。 これらの圃場は,2009 年 10 月 2-13 日に牧草地に造成さ れた。基肥として尿素燐加安777(N-P2O5-K2O = 170-170-170 g/kg)300 kg/ha, 熔 成 燐 肥(N-P2O5-K2O = 0-20-0 g/ kg)400 kg/ha,苦土石灰(アルカリ成分 550 g/kg,マグネ シウム100 g/kg)2,000 kg/ha,牛ふん堆肥(N-P2O5-K2O = 12.3-11.2-25.0 g/kg)20,000 kg/ha が施用された。牧草の播 種は2009 年 10 月 13 日に行われた。8 号圃場はオーチャー ドグラスとトールフェスク(Festuca arundinacea Schreb.)1東北大学大学院農学研究科陸圏生態学分野
2 センター報告第28 号(2013) の混播草地(OT 草地)とし,オーチャードグラス種子 25 kg/ha およびトールフェスク種子 10 kg/ha が播種された。 また9 号 -2 圃場はオーチャードグラス,トールフェスク およびアカクローバの混播草地(OTR 草地)とし,オー チャードグラス種子20 kg/ha,トールフェスク種子 10 kg/ ha およびアカクローバ種子 5 kg/ha が播種された。 牛ふん堆肥の調製および成分分析 本試験で用いた牛ふん堆肥は,乳牛および肉牛のふんに 水分調整材としてオガクズおよびグラスサイレージを混和 し,初期水分を70 %以下とした後,堆肥製造施設におい て30-60 日間,一週間に 2-3 回撹拌して完熟させたもので ある。調製後,十勝農業協同組合連合会農産化学研究所(北 海道帯広市)に依頼し,水分含量,pH,電気伝導度(EC) および全窒素(TN),リン酸(P2O5),酸化カルシウム(CaO), 酸化マグネシウム(MgO),酸化カリウム(K2O),灰分, 全炭素(TC),硝酸態窒素(NO3-N),アンモニア態窒素 (NH4-N)および無機態窒素(無機 N)の含量を測定した(表 1)。この分析結果に基づき,以下に記した各処理区の堆肥 施用量を算出した。 処理区の設置と試験地の管理 2010 年 5 月に,各草地を同じ面積で二分し,一方を高施 肥(H)区,もう一方を低施肥区(L)とした。既報では, 完熟させた牛ふん堆肥を年4 回分割施用した場合と,同量 を年1 回一番草収穫後にまとめて施用した場合では,いず れも乾物収量および品質に違いがみられなかったことから (小倉ら2012),本試験では両区とも牛ふん堆肥のみを 1 年に1 回一番草収穫後に施用した。H 区の施用量は,窒素 ベースで化学肥料による慣行施用量(東北大学大学院農学 研究科附属複合生態フィールド教育研究センター2006)と 等量となるように施用し,L 区ではその半量とした。その際, 過去の牛ふん堆肥の成分含量のデータからN-P2O5-K2O = 3.14-6.37-21.20 kg/t 現物と仮定した。2010 年(1 年目)には, 生草の収量見込を30,000 kg FM/ha とし,7 月 8 日に牛ふん 堆 肥 をH 区 お よ び L 区 で そ れ ぞ れ 42,000 kg/ha お よ び 21,000 kg/ha 施用した。2011 年(2 年目)には,生草の収 量見込を40,000 kg FM/ha とし,一番草収穫後の 7 月 6 日 に牛ふん堆肥をH 区および L 区でそれぞれ 59,000 kg/ha お よび30,000 kg/ha 施用した。各年に用いた堆肥の成分が変 動したため,各処理区に実際に施用した有効成分量は当初 の設定とはやや異なった(表2)。 両草地とも,各年6 月 5-24 日(一番草),8 月 5-9 日(二 番草)および10 月 31 日 -11 月 17 日(三番草)にモアコ ンディショナにより地上部が収穫され,ロールベールサイ レージが調製された。 項目 平均値 最小値 最大値 水分 (% FM) 57.0 53.8 60.1 pH 7.7 7.7 7.7 EC (ms/cm) 9.6 8.3 10.8 TN (g/kg) 10.1 8.3 11.8 P2O5 (g/kg) 8.1 7.6 8.5 CaO (g/kg) 6.7 6.6 6.7 MgO (g/kg) 4.0 3.3 4.6 K2O (g/kg) 18.2 18.0 18.4 灰分 (g/kg) 136 116 156 TC (g/kg) 156 149 162 NO3-N (g/kg) 0.17 0.10 0.24 NH4-N (g/kg) 0.23 0.22 0.23 無機N (g/kg) 0.29 0.26 0.32 表1.試験期間中に供試した牛ふん堆肥の性状および化学成分. 2010 年 2011 年 圃場 処理区 N P2O5 K2O N P2O5 K2O 8 号 OT-H 107 193 707 208 301 953 OT-L 53 95 348 104 151 478 9 号 –2 OTR-H 106 192 701 208 300 951 OTR-L 54 97 355 105 152 480 表2.各処理区に実際に施用した有効成分量(kg/ha/ 年).
3 小倉ほか:牛ふん堆肥を施用した採草地の植生 植生調査 各区の中央部に,100 m の調査用ラインを固定し,それ に沿って1 m 間隔で 20 cm × 20 cm の調査地点を 100 地点 設定した。各地点において最も被度が大きかった植物種を 記録した。この調査を,各年5 月 27 日 -6 月 9 日(一番草 収 穫 前 ),7 月 30 日 -8 月 5 日( 二 番 草 ) お よ び 10 月 19-26 日(三番草)に行った。
結 果
両草地とも,堆肥の施用量によらず播種牧草が年次的に 衰退した(表3 および 4)。OT 草地では,2010 年 6 月には オーチャードグラスとトールフェスクの合計出現頻度がL 区およびH 区でそれぞれ 82 %および 91 %であった。2011 OT-L 区 OT -H 区 2010 年 2011 年 2010 年 2011 年 植物種名 6/9 7/30 10/19 5/27 8/5 10/26 6/9 7/30 10/19 5/27 8/5 10/26 イネ科草本 オーチャードグラス 64 74 48 60 21 3 81 88 29 52 18 0 トールフェスク 18 16 21 15 18 10 10 3 2 1 2 0 ペレニアルライグラス 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 レッドトップ 0 4 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 リードカナリーグラス 7 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 スズメノカタビラ 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 イヌムギ 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 シバムギ 0 3 7 4 2 2 0 0 0 0 0 0 イヌビエ 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 ハルガヤ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 0 0 イネ科草本計 92 97 77 80 41 16 92 91 31 56 20 0 マメ科草本 シロクローバ 0 0 0 2 1 2 0 0 1 3 1 2 その他の広葉草本 エゾノギシギシ 2 1 18 4 37 71 0 6 55 25 60 69 ヨモギ 2 0 0 9 7 2 2 1 4 8 12 11 ヒメムカシヨモギ 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 オランダミミナグサ 3 0 0 0 0 0 5 0 0 0 0 0 イヌタデ 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ハコベ 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 ツユクサ 0 2 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 オオバコ 0 0 0 3 5 5 0 1 2 2 4 9 ハルジオン 0 0 2 1 1 0 0 0 6 4 0 7 ヒメジョオン 0 0 0 0 2 0 0 0 0 1 0 1 イヌガラシ 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 ヒレハリソウ 0 0 1 0 4 3 0 0 0 1 2 1 ムラサキサギゴケ 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 イチビ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 その他広報草本計 8 3 23 18 58 82 8 9 68 41 79 98 裸地 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 年になると,5 月には L 区および H 区でそれぞれ 75 %お よび53 %認められたが,10 月には L 区で 13%,H 区では まったく認められなかった。他方OTR 草地では,2010 年 6 月にはオーチャードグラスとトールフェスクの合計出現 頻度がL 区および H 区でそれぞれ 79 %および 67 %であっ たが,その後減少し,2011 年には L 区で 13-29 %,H 区 で7-18 %であった。一方,アカクローバの出現頻度は 2010 年 7 月から 2011 年 5 月にかけて大きく上昇し,最大 で80-81 %に達した。しかし 2011 年 10 月には,L 区およ びH 区でそれぞれ 14 %および 3% に減少した。2011 年 10 月における,播種した3 草種の合計出現頻度は,L 区およ びH 区でそれぞれ 30 %および 10% であり,OT 草地より も高かった。 表3.イネ科牧草播種草地(8 号圃場)の各処理区に出現した植物種とその出現頻度(%).4 センター報告第28 号(2013) OTR-L 区 OTR-H 区 2010 年 2011 年 2010 年 2011 年 植物種名 6/9 7/30 10/19 5/27 8/5 10/26 6/9 7/30 10/19 5/27 8/5 10/26 イネ科草本 オーチャードグラス 63 40 17 13 28 13 53 36 5 15 18 7 トールフェスク 16 5 3 0 1 3 14 4 1 0 0 0 レッドトップ 6 8 1 0 0 1 9 11 0 0 0 1 リードカナリーグラス 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 4 6 イヌビエ 0 0 0 0 6 7 0 0 1 0 9 10 メヒシバ 0 0 3 0 9 16 0 0 7 0 27 31 ハルガヤ 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 イネ科草本計 85 53 25 13 44 40 76 52 15 15 58 55 マメ科草本 アカクローバ 12 42 60 80 40 14 17 47 74 81 28 3 その他の広葉草本 エゾノギシギシ 0 2 7 7 14 35 0 0 5 3 12 33 ヨモギ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 オランダミミナグサ 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 イヌタデ 0 1 7 0 0 2 0 1 5 0 0 1 イタドリ 0 1 1 0 0 2 0 0 0 0 0 0 ハコベ 0 0 0 0 0 0 3 0 0 0 0 0 ツユクサ 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 ハルジオン 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 ヒメジョオン 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 イヌガラシ 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 ヨウシュヤマゴボウ 0 0 0 0 2 0 0 0 1 0 1 0 シロザ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 ヒメオドリコソウ 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 3 コオニタビラコ 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 その他広報草本計 0 5 15 7 16 44 4 1 11 4 14 40 裸地 3 0 0 0 0 2 3 0 0 0 0 2 表4.イネ科 / アカクローバ混播草地(9 号 -2 号圃場)の各処理区に出現した植物種とその出現頻度(%). 播種牧草の年次的な衰退とは逆に,いずれの草地におい てもエゾノギシギシが大きく増加し,優占化した。2010 年 5 月におけるエゾノギシギシの出現頻度は,OT 草地では 0-2 %,OTR 草地ではまったく認められなかったが,2011 年10 月にはそれぞれ 69-71 %および 33-35 %に上昇した。 特に,OT 草地における 2011 年一番草収穫以降の増加が顕 著であった。また,OT 草地ではヨモギおよびオオバコ (Plantago asiatica L.)も増加し,広葉草本の出現頻度がき わめて高くなった。一方OTR 草地では,イヌビエおよび メヒシバが2011 年 8 月から増加したが,エゾノギシギシ 以外に増加した広葉草本は認められなかった。 堆肥の施用量による植生変化を比較すると,H 区では L 区にくらべ播種牧草の衰退が顕著に認められた。エゾノギ シギシの増加に明確な違いは認められなかったものの,OT 草地のヨモギおよびオオバコ,OTR 草地のイヌビエおよび メヒシバの出現頻度は,H 区で高い傾向がうかがえた。播 種牧草の合計出現頻度は,最も低かったOT-H 区では 2011 年10 月には 0 %であったのに対し,OTR-L 区では 30% で あった。また,OT-H 区では 2011 年 8 月にイチビ(Abutilon theophrasti Medic.)が 1 地点で記録された。
考 察
秋播きの人工草地では,化学肥料施用量を増加させると 牧草の生育が旺盛になり,雑草はほぼ消滅する(酒井ら 1967)。しかし本研究では,OT および OTR の両草地とも, 播種牧草は2 年間で大きく衰退し,エゾノギシギシの出現 が顕著であった。供試圃場にはもともとエゾノギシギシの 埋土種子が存在し,それらが造成時に地表に曝され,発芽, 生育して牧草の衰退を生じさせたと考えられる。エゾノギ シギシは寒地型牧草の生育が停滞する夏以降も生育が旺盛 であり(梨木ら1987),強度の遮光下でも生育が衰えない(村 山ら1976)。こうした性質によって,新播地で急速に生育5 し拡大したものと考えられる。また新播地では,播種牧草 の密度は自己間引きにより次第に低下するが,エゾノギシ ギシなどの雑草の侵入が牧草の密度低下を加速させた(梨 木1987)可能性も考えられる。 本結果は,根本(1979)が指摘するように,堆肥施用量 の高い区で大型雑草の発生が多く,牧草の衰退が顕著で あった。本試験では化学肥料区および無施肥区を設けてい ないため比較することはできないが,H 区では草地への養 分供給が多かったことで,播種牧草の生育よりもむしろエ ゾノギシギシ,ヨモギ,メヒシバおよびイヌビエなどの大 型雑草の生育に有利に作用したと考えられる。さらに,牛 ふん堆肥に雑草種子が混入し,堆肥化の過程を経ても死滅 しておらず,雑草の侵入を増大させた可能性も否定できな い。実際に強害外来雑草のイチビがOT-H 区の 1 地点で記 録されていることは,牛ふん堆肥による雑草の拡散の可能 性を強く示唆する。 このように,両草地とも大型雑草の生育が著しく,特に OT 草地では播種牧草がほぼすべて消滅したが,それにく らべOTR 草地では播種牧草が残存しており,草地の永続 性の改善が認められた。アカクローバはオーチャードグラ スとの混播適性が良好であり,アカクローバの窒素固定に よってイネ科牧草の生育が促進され(中條・大門1984), 雑草に対する競争力が増したものと考えられる。 以上のように,オーチャードグラスとトールフェスクの 混播採草地への牛ふん堆肥の施用によってエゾノギシギシ をはじめとする雑草が大きく増加した。根本ら(1990)が 示したように,本結果でも堆肥施用量が高い区では雑草害 が大きかった。しかしアカクローバの混播により,播種牧 草の永続性が改善され,とくに堆肥の施用量を減らすこと によって雑草害が弱まることが示唆された。すでに筆者ら は,牧草中ミネラルバランスを適正に保つ観点から,牛ふ ん堆肥をカリウムベースで施用し,不足する窒素を化学肥 料 で 補 う こ と が 有 効 で あ る こ と を 示 し て い る( 小 倉 ら 2012)。これらの結果をふまえると,牛ふん堆肥の施用量 の抑制は,飼料草のミネラルバランスの適正化に加え,雑 草害の軽減効果をもたらすことが期待される。したがって, アカクローバの窒素固定能を活用し,堆肥の施用量を少な くすることで,雑草の拡大を弱め,持続的に堆肥を飼料生 産に活用できると考えられる。
謝 辞
本研究は,文部科学省地域連携融合事業「コンポスト総 合科学プロジェクト」の一部として実施された。関係者の 皆様に厚く御礼申し上げる。要 約
新播採草地への牛ふん堆肥の施用による雑草侵入の状況 を,イネ科牧草地およびイネ科牧草とアカクローバの混播 草地で2 年間調査した。川渡フィールドセンター内の 8 号 圃場をオーチャードグラス(25 kg/ha)とトールフェスク(10 kg/ha)草地(OT 草地),9 号 -2 圃場をオーチャードグラ ス(20 kg/ha),トールフェスク(10 kg/ha)およびアカクロー バ(5 kg/ha)草地(OTR 草地)として造成した。各草地を 二分し,高施肥(H)区と低施肥(L)区を設け,毎年一番 草収穫後に牛ふん完熟堆肥をH 区では 42,000-59,000 kg/ha, L 区ではその半量を施用した。造成翌年から 2 年間,牧草 収穫日の直前に,各区の植物出現頻度をライン法で調べた。 両草地とも播種イネ科牧草が大きく衰退し,エゾノギシギ シが大きく増加したが,OT 草地では播種牧草が 2 年間で ほぼ消失したのに対し,OTR 草地では L 区で 30 %,H 区 で10% 生存した。また L 区は H 区にくらべ雑草の出現頻 度が小さかった。アカクローバを活用し,堆肥の施用量を 少なくすることで,雑草の拡大を弱め,持続的に堆肥を飼 料生産に活用できると考えられる。引用文献
中條博良・大門弘幸(1984)混作,間作,輪作における作 物の生長と窒素の動態.第1 報 アカクローバとの混作初 期におけるイネ科牧草の生長.日本作物学会紀事,53: 213-221. 伊東祐二郎・塩崎尚郎・橋元秀教(1982)多腐植黒ボク土 の畑地における牛ふん尿厩肥の大量施用と土壌の肥沃性. 九農試研報,22: 259-320. 近藤 熙・石井和夫・杉原 進(1979)混播草地に対する 牛ふん厩肥の連年多量施用.東北農試研報,60: 41-62. 村山三郎・小阪進一・福田勝博(1976)草地における雑草 の生態的防除に関する研究.第1 報 遮光処理が雑草の生 育・体内成分におよぼす影響.雑草研究,20: 21-26. 梨木 守・野本達郎・目黒良平(1987)草地の雑草管理に 関する研究.I.雑草の発生が新播草地における牧草の個 体密度および分布に及ぼす影響.雑草研究,32: 25-29. 根本正之(1979)人工草地における主要雑草の生態的特性. 大型雑草の刈取りに対する反応.雑草研究,24: 12-18. 根本正之・赤池忠光・山中良忠(1990)石礫地草地におけ る堆肥施用が雑草群落に及ぼす影響.雑草研究,35: 84-87. 農業・食品産業技術総合研究機構(2009)日本標準飼料成 分表.中央畜産会,東京,pp.1-268. 小倉振一郎・遊佐健司・宍戸哲郎・田中繁史・丹内正樹・ 佐藤衆介(2012)オーチャードグラス/トールフェスク 混播草地おける牛ふん堆肥の連年施用が牧草の収量と化 学成分に及ぼす影響.東北畜産学会報,62: 6-16. 酒井 博・佐藤徳雄・藤原勝見・大場義昭(1967)前作物 および窒素の施肥が草地雑草の発生に及ぼす影響.雑草 研究,6: 89-94. 酒井 博・佐藤徳雄・藤原勝見・五十嵐 昇(1976)牧草 小倉ほか:牛ふん堆肥を施用した採草地の植生6 センター報告第28 号(2013) の種類および刈取回数が牧草地雑草に及ぼす影響.第1 報 利用 1 年目の結果.日本作物学会東北支部会報,19: 119-122. 酒井 博・佐藤徳雄・藤原勝見・五十嵐 昇(1978)牧草 の種類および刈取回数が牧草地雑草に及ぼす影響.第2 報 利用 2・3 年目の結果.日本作物学会東北支部会報, 20: 54-58. 佐藤 庚(1981)オーチャードグラスとアカクローバの単 播および混播草地の生産性.I.4 年間の生産性と造成初 期の生産構造.日本草地学会誌,27: 64-70. 杉原 進・石井和夫・近藤 熙(1979)畑地に対する牛ふ ん厩肥の連年多量施用.東北農試研報,60: 17-40. 東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研 究センター(2006)業務報告.6. 農産・飼料関係.複合 生態フィールド教育研究センター報告,22: 71-79.
7
緒 言
草食家畜を健全に飼養し,家畜生産を行う上で,家畜の 養分摂取を把握することは重要である(Grings et al.,1996)。 中でもミネラルは,他の栄養素と比較して要求量が少ない ものの,欠乏すると生産性に大きな影響を及ぼし,逆に, 過剰摂取は中毒症を発生する場合がある(扇元ら,2006; 農業・食品産業技術総合研究機構,2006; 2008)。例えば, 乳牛の分娩前後にカルシウム(Ca)不足が生じると乳熱が発生する(Littledike and Goff,1987)。また,新生子牛でセ レン(Se)が不足すると白筋症の発症リスクが高まる(佐々 木,1998)。 放牧下では,舎飼下にくらべ家畜の養分摂取の制御が困 難である。植物中ミネラル含量は植物種間で大きく異なる ため(農業・食品産業技術総合研究機構,2009;水野ら, 2012),家畜のミネラル摂取と利用は放牧地の植物に大き な影響を受ける(Ohlson and Staaland, 2001)。すでに筆者ら は,植物多様性の異なる放牧地に肉用牛を定置放牧し,多 様性の高い牧区ではウシ血中ミネラル濃度およびバランス が良好に保たれることを示した(水野ら,2011;2012; Mizuno et al., 2012)。植物のミネラル含量は土壌中ミネラル 含量に大きな影響を受けるため(山根ら,1989),放牧地 土壌のミネラルを知ることは重要である。また,放牧家畜 は植物だけではなく,水(Weir,1972)や土壌(Klein and Thing, 1989;Weir, 1972;北原,2005)も摂取すると考えら
北山放牧地における水および土壌のミネラル濃度
水野 速人
1・吉原 佑
1・佐藤 衆介
1・木村 和彦
2・田中 繁史
3・小倉 振一郎
1Mineral concentrations of water and soil in Kitayama grazing area
Hayato MIZUNO
1, Yu YOSHIHARA
1, Shusuke SATO
1, Kazuhiko KIMURA
2, Shigefumi TANAKA
3and Shin-ichiro OGURA
1キーワード:植物,土壌,放牧地,水,ミネラル
センター報告28:7-11(2013) れるため,これらのミネラル組成も同時に知る必要がある。 そこで本研究では,既報(水野ら,2011)で供試した植 生の異なる3 つの放牧草地の飲水および土壌のミネラル濃 度について検討した。材料と方法
放牧地 調査は東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィール ド教育研究センター複合陸域システム部(宮城県大崎市鳴 子温泉)北山地区(北緯38˚46′32.8″,東経 140˚44′32.3″) の六角牧区,大尺牧区,および梨の木平牧区の3 つの牧区 で行われた。六角牧区では,人工草地(3.2 ha)を試験用 放牧地として用い,林地を含めなかった。一方,大尺牧区 は人工草地(3.1 ha)と林地(16.9 ha)を,梨の木平牧区 は改良野草地(1.6 ha)と林地(59.4 ha)を,あわせて 1 つの牧区として用いた。本調査を実施した2010 年には, 日 本 短 角 種 成 牛( 放 牧 開 始 時:2.2 ± 0.5 歳,367 ± 102 kg)が,六角牧区および大尺牧区に各 8 頭,梨の木平牧区 に6 頭放牧された。飲水場として,六角牧区および大尺牧 区では水槽を設け,同じ井戸から水をポンプで汲み上げて 利用した。梨の木平牧区では牧区内を流れる沢を水場とし て利用した。施肥として,六角牧区,大尺牧区および梨の 木平牧区の草地部にLP100 および苦土入り燐加安 16 号が 散布された(表1)。 牧区 年間施肥量(kg) 施肥成分量(kg/10 a) LP100 燐加安苦土入り16 号 N P K 六角 530 260 2.1 0.5 0.5 大尺 70 40 1.0 0.3 0.3 梨の木平 140 80 0.4 0.1 0.1 表1. 放牧地の年間施肥量および 10 a 当たりの施肥成分量 1東北大学大学院農学研究科陸圏生態学分野 2宮城大学食産業学部ファームビジネス学科 3東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター8 センター報告第28 号(2013) 水のミネラル分析 水 の 採 取 は2010 年 7 月 23 日,8 月 6 日,8 月 20 日,9 月2 日,9 月 15 日,10 月 4 日および 10 月 14 日に行われた。 採取日の天候はすべて,晴れまたは曇りであった。採取に はプラスチック製広口瓶(100 ml,商品名アイボーイ)を 5 % 硝酸に 12 時間浸漬し,蒸留水で洗浄したものを使用し た。 各 牧 区 の 飲 水 場 か ら300 ml の水を採取し,GLASS MICROFIBRE FILTERS(Whatman®) で ろ 過 後,200 ml に は濃硝酸を2 % 添加し,残り 100 ml は無添加のまま,広 口瓶に入れて分析時まで4 ˚C で保存した。分析項目として, ナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),硫酸(SO4),塩 素(Cl),カリウム(K),カルシウム(Ca),マンガン(Mn), 鉄(Fe),コバルト(Co),銅(Cu)および亜鉛(Zn)濃 度を測定した。Na, Mg, K および Ca 濃度は原子吸光光度法, Mn,Fe,Co,Cu および Zn 濃度は ICP-MS,Cl および SO4 濃度はイオンクロマトグラフィーを用いてそれぞれ分析し た。原子吸光光度法は,濃硝酸添加サンプルに干渉抑制剤 としてストロンチウム(Sr)を添加し,原子吸光光度計 (AA-280FS, Varian Japan®) で 測 定 し た。ICP-MS は濃硝
酸添加サンプルに内部標準としてインジウム(In)を添加 し,ELAN-DRC, PerkinElmer®で測定した。イオンクロマ トグラフィーには無添加サンプルを用い,イオンクロマト グラフィー装置(IC-20, DIONEX®)と陰イオン分離カラム (SI-90 E, SHODEX)を使用して行った。なお,溶離液は 1.8 mM Na2CO3/1.7 mM NaHCO3とした。 土壌中のミネラル分析 土壌の採取は2010 年 7 月 23 日および 10 月 26 日に行わ れた。採取日の天候はいずれも晴れまたは曇りであった。 大尺牧区および梨の木平牧区では草地部で4 ヶ所および林 地部で4 ヶ所の計 8 ヶ所,六角牧区では林地が存在しない ため草地部のみ4 ヶ所で採取した。表層のリターを除去し, 縦10 cm ×横 5 cm ×深さ 5 cm の土壌を 2 サンプル採取し, 風乾後,以下の分析に供した。分析項目として,Cu,Zn, Mn,有効態 P,交換性 K,交換性 Mg,交換性 Ca,Fe,Se, Co,Na,Cl,SO4濃度およびpH を測定した。土壌の Cu, Zn,Mn,有効態 P,交換性 K, 交換性 Mg, 交換性 Ca 濃度 およびpH は十勝農業協同組合連合会農産化学研究所に分 析を依頼した。Na,Co,Fe および Se 濃度は 2 % 硝酸溶液 で抽出しICP-MS を用いて分析した。Cl および SO4濃度は 蒸留水で抽出した後,イオンクロマトグラフィーを用いて 分析した。ICP-MS およびイオンクロマトグラフィーの分 析条件は水分析と同様であった。
結 果
飲水中のミネラル濃度は,いずれの成分においてもきわ めて低かった(表2)。Na,Mg,K および Ca は,7 月 23 日 -9 月 2 日の値にくらべ,9 月 15 日にすべての牧区で濃 度の低下が認められた。六角牧区では他の牧区にくらべ, Mn および Fe の平均濃度が高く,Cu の平均濃度が低かった。 大尺牧区では,Zn 濃度が 9 月 15 日以降に上昇した。また 梨の木平牧区では,Mg,K,Ca の平均濃度が他の牧区に くらべ低かった。放牧牛の推定飲水量を17 ℓ/ 頭 / 日(Mc-Dowell,1985)として推定した,飲水由来ミネラル摂取量(表 3)は,いずれの成分においても要求量の 1 % 以下であった。 土壌中ミネラル含量は採取地点間の変動が大きく,多く の分析項目で標準偏差が高い値となった(表4)。pH はす べての牧区で4.7-4.8 と低く,酸性土壌であった。六角牧 区では他の牧区にくらべ有効態P が含量が高く,初夏およ び初秋いずれにおいても基準値を超えていたが,一方で交 換性Mg および Mn 含量は低く,初夏および初秋いずれに おいても基準値を下回った。大尺牧区および梨の木平牧区 では,六角牧区にくらべMn 含量が高く,初夏および初秋 いずれにおいても基準値の範囲内であった。また,Mn 含 量は草地にくらべ林地で高かった。交換性Ca および Cu 含 量は,いずれの牧区においても基準値にくらべ低く,それ ぞれ22.2-93.8 ppm および 0.1 ppm であった。考 察
水に含まれるミネラルは微量であり,反芻動物は飲水に よって要求量を満たすことはできない(McDowell,1985)。 本研究においても,水に含まれるミネラル濃度はきわめて 低かったことから(表 2 および 3),放牧牛のミネラル摂取 に飲水はほとんど寄与していないと考えられる。水源が同 じ大尺牧区と六角牧区においてMn,Fe,Cu,Zn 等の濃度 が大きく異なった原因は不明だが,梨の木平牧区でMg,K およびCa 濃度が他牧区にくらべ低かったのは,水源が異 なっていたことが一つの要因として考えられる。また, 9 月15 日に認められた Na,Mg,K および Ca 濃度の低下は, 9 月 11 日 -9 月 14 日の降雨が原因と考えられる。 土壌のミネラル濃度は,採取地点間の変動が大きかった が,牧区間で違いが認められた。まず,六角牧区では他の 牧区にくらべ有効態P が高かった(表 4)。六角牧区は他の 牧区にくらべP の施肥量が多く(表 1),その影響が表れた と考えられる。また,土壌中Mn 含量は草地より林地で高 かった。北山放牧地に生育する植物のMn 含量は,草地の 牧草にくらべ林地の木本類で高いことが明らかになってい るが(Mizuno et al.,2012),林地部の土壌中 Mn 含量が高かっ たことに由来した可能性がある。また,草地部の土壌中 Mn および Mg 含量は,六角牧区にくらべ大尺牧区および 梨の木平牧区で含量が高く,かつ採取地点間の変動が大き かった。本研究で供試した大尺牧区および梨の木平牧区は 六角牧区にくらべ地形の起伏が激しく斜面方位が多様で あったことから,これらの地形的要因が土壌中の養分分布 に偏りを生じさせ(倉島,1980),ミネラル含量の変動を もたらしたと推察される。9 水野ほか:放牧地における水と土壌のミネラル濃度 7/23 8/6 8/20 9/2 9/15 10/4 10/14 平均 Na (ppm) 六角 6.8 7.1 6.7 7.4 2.0 6.2 6.2 6.1 大尺 6.7 6.2 6.5 6.5 2.9 4.5 4.1 5.3 梨の木平 4.7 4.4 4.5 4.5 2.7 3.9 3.9 4.1 Mg (ppm) 六角 1.6 1.6 1.6 1.6 0.7 1.6 1.6 1.5 大尺 1.5 1.4 1.5 1.6 0.8 1.1 1.0 1.3 梨の木平 0.9 0.9 0.9 0.9 0.6 0.7 0.8 0.8 SO4 (ppm) 六角 1.2 2.1 1.1 1.1 2.1 1.5 1.3 1.5 大尺 1.4 1.2 1.3 1.4 0.7 1.0 0.8 1.1 梨の木平 1.5 1.8 1.7 1.5 0.7 1.3 0.9 1.3 Cl (ppm) 六角 4.1 6.9 4.1 3.7 3.6 3.6 3.9 4.3 大尺 3.8 4.1 3.6 3.7 1.6 2.5 2.4 3.1 梨の木平 4.3 5.1 4.4 3.9 1.0 3.6 3.6 3.7 K (ppm) 六角 2.5 2.9 2.1 2.6 1.2 2.0 2.9 2.3 大尺 2.5 2.2 2.2 2.2 0.9 1.5 1.4 1.9 梨の木平 1.0 1.1 0.8 1.0 0.5 0.8 0.7 0.9 Ca (ppm) 六角 5.6 5.4 5.6 5.7 3.3 5.5 5.1 5.2 大尺 7.2 7.4 6.7 6.3 2.0 3.4 2.9 5.1 梨の木平 2.2 2.4 2.5 2.4 1.0 1.7 2.1 2.0 Mn (ppb) 六角 25.7 14.0 13.5 3.0 12.1 4.9 12.0 12.2 大尺 1.5 0.3 2.1 0.5 2.8 2.1 1.5 1.6 梨の木平 1.6 1.7 0.8 0.6 6.5 1.5 2.0 2.1 Fe (ppb) 六角 145.0 152.0 129.0 160.0 26.4 127.0 55.2 113.5 大尺 18.1 20.0 34.1 11.9 3.2 8.0 8.4 14.8 梨の木平 23.2 58.3 37.2 13.5 16.8 9.8 14.7 24.8 Co (ppb) 六角 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 大尺 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 梨の木平 0.0 0.1 0.1 0.0 0.5 0.1 0.7 0.2 Cu (ppb) 六角 0.4 1.0 0.0 0.3 0.1 0.0 0.0 0.3 大尺 6.1 5.3 7.7 3.9 0.9 2.8 2.3 4.1 梨の木平 4.7 7.3 4.2 2.2 21.8 2.6 7.4 7.2 Zn (ppb) 六角 91.7 34.1 44.6 30.9 7.7 56.0 4.1 38.4 大尺 39.2 29.1 44.8 37.5 173.0 90.1 111.0 75.0 梨の木平 37.4 77.0 24.0 40.2 89.1 44.3 20.5 47.5 表2.飲水場から採取された水のミネラル濃度. Na (mg) Mg (mg) SO4 (mg) Cl (mg) K (mg) Ca (mg) Mn (µg) Fe (µg) Co (µg) Cu (mg) Zn (µg) 六角 103.1 25.2 25.1 72.5 39.2 87.8 206.9 1929.7 0.5 4.5 653.4 大尺 90.5 21.6 19.0 52.6 31.6 87.1 26.5 251.7 0.2 70.4 1274.3 梨の木平 69.5 14.0 22.7 62.8 14.5 34.6 35.4 421.3 3.7 122.0 807.5 要求量2) 3816 -6360 -159003180 -50889540 – -3180044520 22000 -127200318000 -318000636000 -445.2699.6 -2544063600 -127000254400 表3. ウシの飲水由来ミネラル摂取量1). 1)ウシの飲水量を 17 ℓ/ 頭 / 日(McDowell, 1985)として算出. 2)日本飼養標準肉用牛(2008)350 kg 育成肉用雌牛の要求量.
10 センター報告第28 号(2013) 表4. 各牧区の土壌中ミネラル含量. 六角 大尺 梨の木平 基準1) 草地部 草地部 林地部 草地部 林地部 平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差 7 月 23 日 pH 4.65 0.24 4.95 0.19 4.78 0.22 4.98 0.25 4.78 0.21 5.5 ~ 6.5 Na(mg/100g) 2.13 0.91 1.90 0.28 1.44 0.16 1.82 0.29 1.95 0.13 交換性Mg(mg/100g ) 7.35 1.08 18.18 15.18 13.45 9.90 16.98 6.19 16.55 9.29 20 ~ 30 有効態P(mg/100g) 64.03 32.43 25.28 24.72 4.68 3.00 3.85 1.86 1.98 0.51 20 ~ 50 SO4(mg/100g) 2.86 0.23 2.63 0.39 3.05 0.81 3.17 0.28 5.44 5.71 Cl(mg/100g) 1.28 0.57 1.06 0.30 1.68 0.24 2.32 1.33 3.01 2.16 交換性K(mg/100g ) 12.30 2.38 14.93 8.50 21.63 9.03 26.10 7.85 15.13 6.46 26 ~ 32 交換性Ca(mg/100g ) 23.80 3.15 81.30 107.57 50.95 22.81 25.43 13.07 88.58 78.55 569 ~ 797 Mn(ppm) 10.96 7.00 66.10 71.76 116.79 57.77 59.17 25.40 163.26 121.43 50 ~ 500 Fe(mg/100g) 3.22 2.22 2.33 2.05 0.68 0.21 0.79 0.18 1.30 1.40 Co(ppm) 0.14 0.06 0.19 0.03 0.22 0.06 0.15 0.05 0.06 0.07 Cu(ppm) 0.06 0.03 0.09 0.09 0.11 0.07 0.10 0.04 0.05 0.05 0.5 ~ 8 Zn(ppm) 3.00 1.16 14.15 17.28 8.86 2.33 9.37 1.76 30.52 18.08 2 ~ 40 Se(ppb) 0.03 0.01 0.03 0.01 0.03 0.01 0.04 0.01 0.02 0.00 10 月 26 日 pH 4.78 0.31 4.73 0.24 4.83 0.34 4.80 0.22 4.65 0.21 5.5 ~ 6.5 Na(mg/100g) 1.04 0.28 1.14 0.22 1.51 0.55 1.46 0.29 1.10 0.57 交換性Mg(mg/100g ) 8.90 6.99 8.73 3.35 14.20 13.48 23.00 19.92 22.13 20.39 20 ~ 30 有効態P(mg/100g) 58.20 32.46 23.25 20.11 9.38 11.83 3.05 1.11 2.63 0.57 20 ~ 50 SO4(mg/100g) 2.00 0.41 2.42 0.82 2.32 0.53 2.54 0.81 3.60 1.09 Cl(mg/100g) 1.13 0.38 0.95 0.28 2.59 0.92 3.17 0.95 2.22 0.34 交換性K(mg/100g ) 8.85 0.76 11.70 5.21 15.28 7.73 23.73 10.48 19.28 8.60 26 ~ 32 交換性Ca(mg/100g ) 48.73 69.27 22.15 16.18 45.85 72.46 42.10 11.90 93.83 101.84 569 ~ 797 Mn(ppm) 13.67 24.60 50.86 43.53 98.26 94.85 99.90 72.99 241.98 199.82 50 ~ 500 Fe(mg/100g) 8.58 5.82 4.51 2.00 2.59 1.85 2.83 1.42 1.34 0.76 Co(ppm) 0.13 0.07 0.32 0.07 0.38 0.07 0.28 0.10 0.42 0.16 Cu(ppm) 0.05 0.02 0.11 0.08 0.08 0.07 0.10 0.03 0.07 0.02 0.5 ~ 8 Zn(ppm) 3.11 0.87 4.88 0.32 7.61 3.82 9.65 3.72 16.53 18.28 2 ~ 40 Se(ppb) 0.05 0.02 0.05 0.01 0.06 0.02 0.07 0.02 0.04 0.01 1)北海道農政部(2010)より引用. Ca および Cu 含量は全牧区で基準値を下回った。Suga-wara ら(1983)は,本研究と同じ北山地区の桂清水牧区に おいてCu 含量が不足していると報告したが,本研究も同 様の結果が得られた。交換性Ca は pH と密接な関係がある。 土壌分析の結果,すべての牧区のpH が非常に低かったこ とから,石灰の施用量が不足していた可能性も考えられる。 内陸部に生息する動物は土舐めによって不足するミネラ ルを摂取していることはよく知られている。例えば,ジャ コウウシ(Klein and Thing,1989)やアフリカゾウ(Weir, 1972)は土舐めによって Na を摂取することが報告がされ ている。また,北原ら(2005)はエゾシカが土舐めによっ てCa を得ていることを示唆している。本研究において, 放牧牛が土舐めを行っていたか否かは定かではないが,土 壌中ミネラル含量のばらつきが大きい放牧地では,ミネラ ル含量の高い場所で土舐めを行うことで,特定のミネラル 不足を補うことができると考えられる。また牧草および野 草中のミネラルは,風塵や雨などで付着したごく一部を除 けば,ほとんどすべてその生育した土壌に由来する(檀原 ら,1988)。すなわち,植物が生育する地形の違いや,施 肥などによって土壌性状に差が生じ,植物に移行するミネ ラルの割合が異なると考えられる。したがって,多様な地 形および植生下では,放牧家畜はミネラル含量の異なる多 様な植物を採食するすることで,ミネラルの欠乏リスクを 抑制できる可能性がある。
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謝 辞
放牧地の設置と管理にご助力とご助言を賜った,東北大 学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究セン ター渋谷暁一氏および千葉 孝氏に深く感謝申し上げる。要 約
放牧地のミネラル環境は家畜の健全性と健康性に大きな 影響を及ぼす。そこで本研究では,六角牧区(人工草地), 大尺牧区(人工草地+林地)および梨の木平牧区(改良野 草地+林地)の土壌および飲水のミネラル濃度について検 討した。飲水に含まれるミネラル濃度は,いずれの成分に おいてもきわめて低く,飲水によるウシの推定ミネラル摂 取量は,要求量の1 % 未満だった。土壌では交換性 Ca お よびCu 濃度がすべての地点で基準値よりも低かった。六 角牧区にくらべ大尺牧区および梨の木平牧区では,土壌中 Mn および Mg 含量の地点間変動が大きく,平均含量が高 かった。また,Mn 含量は草地にくらべ林地で高かった。 これらの結果は地形や施肥等の違いによると考えられる。 このような土壌中ミネラルの地点間差異は,植物中ミネラ ル含量と関係があると考えられるため,多様な地形および 植生下では,放牧家畜はミネラル含量の異なる多様な植物 を採食するすることで,ミネラルの欠乏リスクを抑制でき る可能性がある。引用文献
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1. はじめに
日本は先進国の中で有数の森林大国である。国土面積に 占める森林面積は約66 %であり,森林の約 4 割の 1000 万 ha を人工林が占めている。戦後を中心として造成されたス ギやヒノキなどの人工林では,間伐等の施業が必要な育成 段階にあり,木材として利用可能となる50 年以上の高齢 級の人工林が年々増加しつつある。これらの人工林は,造 林・保育による資源の造成期から間伐や主伐による資源の 利用期に移行する段階にあり,資源の循環利用を通じて持 続的な森林経営を確立していくことが必要となっている。 しかしながら,日本の林業は森林所有者の施業意欲の低 下や林業就業者の減少・高齢化により長期的に停滞してい る。その原因の一つに採算性の悪化がある。木材価格は 1980 年に最高値を記録した後,現在までに 4 割下落してい る。これに対し,木材生産にかかるコストである素材生産 費や運材費は1976 年以降しばらく変化なく推移し,最近 10 年間で 3 割程度低減したのみにとどまっている。このた め,木材の売上から素材生産費・運材費などの生産コスト を差し引いた粗収入は,1980 年の 2 割程度にまで減少して いる。さらに,主伐による粗収入に比べると間伐の粗収入 は少ない(林野庁,2010)。 日本の林業は,植林から伐採までの長期にわたる投資に 見合った収入を得ることが困難な状況となっており,採算 が合わないという経済的な理由から伐採が手控えられてい る現状にある。このため,人工林において間伐等の施業が 十分に実施されない状況や,伐採しても再び植栽が行われ ない状況がみられる。その結果,森林の持つ国土保全や水 源かん養などの多面的機能の発揮に支障が生じることも懸 念されている。 リモートセンシングでは同じ場所を周期的に観測するこ とで植生の生育段階や生育状況などの植生情報を取得し, また観測地の状況を現地に行かなくとも把握することが可フィールドセンター北山地区針葉樹林地における
航空機ハイパースペクトルリモートセンシングによる森林管理の可能性の検討
矢部 勝也
1・米澤 千夏
1・國井 大輔
2・斎藤 元也
3・小田川 信哉
4Assessment of coniferous forest on FSC using Airborne Hyperspectral Image
Katsuya YABE, Chinatsu YONEZAWA, Daisuke KUNII, Genya SAITO and Shinya ODAGAWA
キーワード:樹種分類,植林年数,間伐強度
センター報告28:13-19(2013) 1東北大学大学院農学研究科,2農林水産政策研究所, 3東京工業大学イノベーション研究推進体,4アジア航測株式会社 能である。リモートセンシング技術により,作業や移動が 困難である山中の植生情報を容易に把握でき,山中の植生 情報は要伐採地の選定に役立つことが期待される。 航空機搭載型ハイパースペクトルデータは,衛星マルチ スペクトルデータによる土地被覆分類をさらに細分化する 情報として位置づけられる。衛星マルチスペクトル観測で ある陸域観測技術衛星(ALOS)の光学センサ AVNIR-2 に よる観測では,可視域から近赤外域までの観測波長範囲を 4 バンドに分解し,空間分解能が 10 メートル程度の分光画 像を取得する。それに対して,本研究で使用した航空機搭 載 型 ハ イ パ ー ス ペ ク ト ル セ ン サAISA(Airborne Imaging Spectrometer for Applications)Eagle による観測では,可視域から近赤外域までの観測波長範囲を67 バンドに分解し, 1 メートル程度の空間分解能の画像が取得できる。高い波 長分解能と高い空間分解能が航空機ハイパースペクトル観 測の特徴である。これらの特徴を利用して,植生分類をは じめとした画像分類において,分類項目の細分化が可能で あると考えられる。 筆者らはこれまでに2,200ha の面積を有する東北大学 フィールド教育研究センター北山地区を対象としてリモー トセンシング技術を用いた植生調査をおこなってきた。植 生分布図では,対象地域の土地被覆を針葉樹・広葉樹・草地・ 水田・畑地ほかに区分している(Namiwa et al., 2009)。こ こではさらに,航空機ハイパースペクトルリモートセンシ ングによる針葉樹林地の樹種分類をおこない,間伐状況お よび植林年数などの森林管理に必要な詳細な植生状況の把 握の可能性を検討した。
2. 解析対象地域と使用データ
1)解析対象地域 東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育 研究センター(Field Science Center : FSC)複合陸域生態シ14 センター報告第28 号(2013) ステム部の北山地区は宮城県大崎市西部に位置している。 本地区は高地から中間域に森林・草地,低地域に林地・草 地さらに耕地がバランス良く配置されている(東北大学大 学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター, 2006)。 現在のFSC 北山地区の敷地は 1947 年に東北帝国大学附 属川渡農場となる以前に60 年弱軍馬の育成所として使わ れており,その当時は大半が野草地で覆われ,広葉樹や針 葉樹の占有面積は少なくかつ局在していたようである。し かし,1963 年頃には既に多くの低木の侵入が見られた。 1968 年頃には一部で針葉樹の植林が行われ,1970 年以降 人工草地の大面積造成とスギを主体とする針葉樹の植林が 行われた(西脇,1998)。植林から 40 年程度経過し,木材 として利用可能となる人工林となりつつある。これから, 間伐や主伐による資源の利用期に移行する段階である。ま た,対象地域には異なる間伐強度の試験区が設定されてい る。 FSC 北山地区については,1960 年代に作成された植生な らびに経営計画図,1965 年以前および 1965 年から 1984 年 までの5 年ごとの植林年数が記載された植林図があるが以 降の植林の記録は不明である。 2)現地調査 現地植生を調査し,植生調査データを作成した。GPS を 携帯し位置情報を取得しながら,現地植生をデジタルカメ ラにより撮影した。調査後,GIS(Geographic Information System)ソフトウェアである ArcGIS を使用し,複数の植 生調査データを一つのデータベースとして管理した。 3)航空機ハイパースペクトル観測 資源・環境観測解析センター(現宇宙シ ステム開発利用 推進機構)との共同で,AISA Eagle が 2007 年 7 月 24 日に 対象地域を観測したデータを解析した。(株)パスコ社所 有のAISA Eagle をセスナに搭載し,FSC 北山地区全体を網 羅するよう南北に13 本,東西に 1 本,計 14 本のコースで 観 測 し た( 図1)。AISA Eagle では 400nm~1000nm の波長 帯を観測し,観測波長帯を67 バンドに分解し得られる分 光画像データを解析に利用している。スペクトル分解能は 2.9nm であり,空間分解能を 1.5m に設定した。1 飛行での 観測幅は900m である。 4)データ解析 AISA Eagle システム上での幾何補正済みの観測データを, リ モ ー ト セ ン シ ン グ 画 像 解 析 ソ フ ト で あ るERDAS IMAGINE によって画像間の幾何補正をおこなった。幾何 補正モデルは2 次多項式変換(Polynomial)で,内挿手法 は最近隣内挿法(Nearest Neighbor Method)を用いた。FSC 全体を東西にかけて観測しているコース(c14)は,南北 にわたるすべてのコースと重なる部分がある。そのために, c14 を基準として画像間の誤差を解消するために画像間の 位置合わせを行った。相互の基準点となるGCP(Geometric Correction Point)を 40 ~ 70 地点配置した。処理後,各画 像間の地理情報の誤差を1 画素以内に抑えることができた。 図1 AISA Eagle による撮影コース
15 データ解析のフローチャートを図2 に示す。衛星マルチ スペクトルデータの解析において一般的な教師付き分類で ある最尤法を用いた土地被覆分類を基本とした。解析した ハイパースペクトルデータは67 バンドを有しているため, 使用するバンドの選定を行った。教師データをもとに教師 クラス間の分離度を算出し,土地被覆分類に最適な6 バン ドの組み合わせを選定した。 分離度はクラス間の分離性の定量的な量であり,教師付 き分類を行うときの指標となる。分離度としてバッタチャ ヤ距離を用いた。バッタチャヤ距離は,リモートセンシン グ画像解析フリーソフトウェアであるMultiSpec を用いて 算出した。最尤法において分類対象の輝度値と,教師クラ ス間の平均輝度値と分散から算出される尤度が最大となる 教師クラスに分類処理が行われる。教師データを教師クラ スごと100 画素程度設定した。6 バンドの組み合わせを選 ぶ上で,土地被覆分類において分類カテゴリーを全体的に バランスよく分離し,かつ,分類カテゴリー間が明瞭に分 離できるようにした。そこで,各クラス間の分離度の平均 値が高い順に50 通りの組み合わせを算出した。そしてそ の中で各クラス間の分離度の最低値が最も高い組み合わせ を選定した。 図2 解析の流れ
3. 結果と考察
1)土地被覆分類 まず,FSC 北山地区全域の土地被覆分類をおこなった。 撮影コース上のc11 より教師エリアを選択し,すべてのコー スをつなぎ合わせた後に分類図を作成した。教師クラスは, 針葉樹(スギ),広葉樹,裸地,草地,建物(人工物)と して,教師データをクラスごと100 画素程度設定した。 MultiSpec を使用した最尤法において,教師領域を設定後, 分類図を作成し,明らかに実際の対象と異なるものを新し いクラスとして教師を追加し再分類する手順がおこなわれ ている(加藤ら,2007)。そのため,分類図作成後,植生 調査データと異なる部分を新しいクラスとして追加し再分 類した。選定されたバンドを見ると,青色域,緑色域,赤 色域,レッドエッジの波長帯から1 バンド,近赤外域の波 長帯から2 バンド選定され,全観測波長帯からバランスよ く選定されていることがわかる(表1)。教師クラスの分光 反射特性を図3 に示す。デジタル値は,教師領域として設 定した領域のデジタル値の平均とした。解析対象物は波長 帯ごとに特有の反射強度を示している。例えば,裸地や人 工物は全波長帯にて大きな反射強度を,植生は緑色域と近 赤外域の波長帯で大きな反射強度を示している。図4 に FSC 全体の土地被覆分類結果を示す。分類結果にはゴマ塩 状に他のクラスの分類画素が含まれているが,これを抑制 するための平滑化処理として7x7 ウィンドウの多数決処理 を適用した。 2)針葉樹林の樹種分類 NDVI および DVI を用いた解析によっても針葉樹林地の 抽出をおこない,ここで針葉樹林とされた地域と比較した ところ99.5 %の画素が一致したことから,土地被覆分類図 から抽出した針葉樹林地を対象として樹種分類をおこなっ た。 土地被覆分類図による針葉樹林地抽出結果を使用して観 矢部ほか:フィールドセンター北山地区針葉樹林地における 航空機ハイパースペクトルリモートセンシングによる森林管理の可能性の検討16 センター報告第28 号(2013) 選定バンド(上段 バンド、下段 波長(nm)) クラス間の分離度 平均値 最低値 土地被覆分類 8 18 29 38 40 49 97.65 23.00 460.09 545.73 643.43 723.89 741.86 823.93 針葉樹樹種分類 11 12 21 34 43 58 47.16 15.28 485.77 494.34 572.17 688.00 769.13 906.08 間伐状況把握 13 15 39 42 50 60 1.42 0.82 502.90 520.02 732.88 759.99 833.06 924.42 植林年数把握 2 8 14 25 48 49 12.28 410.02 460.09 511.46 607.76 814.80 823.93 表1 選定されたバンド 図3 土地被覆分類における教師クラスの分光反射特性 図4 FSC 北山地区の土地被覆分類 測コースc11 の針葉樹林地抽出画像データを作成した。教 師領域を設定し,針葉樹の樹種分類に適したバンドの組み 合わせを選定した。教師カテゴリーは,スギ,ヒノキ,マツ, 非針葉樹の4 カテゴリーとした。マスクをかけ針葉樹以外 のカテゴリーを除去したが,明らかに草地や広葉樹である と判読できる領域は,非針葉樹として追加した。これは土 地被覆分類における誤分類によるものである。表1 に示し た選定された6 バンドを使用して樹種分類を行った。樹種 分類結果を図5 に示す。樹種分類結果においても画像中に 異なる分類区分が散在しているが,これらの単独または数 画素の分類を抑制するための平滑化処理として7 × 7 ウィ ンドウの多数決処理を適用した。 3)間伐状況の把握 異なる間伐強度を設定した試験区を対象に,航空機ハイ パースペクトルデータの解析によって間伐強度の把握がで きるかどうかを試みた。解析対象地は,33,400m2の面積を 有する(図6(a))。間伐強度は 3 種類あり,拡大図の左上 から,なし(間伐を施業していない領域),弱(弱度間伐地), 強(強度間伐地)と交互に設置され,それぞれ3 箇所の計 9 箇所設置されている。
17 使用した6 バンドを表 1 に示す。解析対象地は,撮影コー スc6,c7 上に位置している。c6,c7 をモザイク処理し, 目視判読によりスギ林である領域のシェイプファイルをフ リーハンドで作成した。このシェイプファイルをもとに解 析対象地の画像データを作成した。さらに,スギ林抽出マ スクによりスギを示す画素を抽出した。間伐強度が異なる 3 箇所において教師領域を 100 画素設定し,教師付き分類 を試みた。 強度間伐の地点では,黒く表示されデジタル値が0 であ る画素,すなわち,スギと示されない画素が他の地点より 多いために間伐が実施されていることが判読できる。解析 対象地と解析対象地以外の境界線付近に非スギ画素の分布 が確認できるので,解析対象地以外の領域からスギ以外の 植生が混入し非スギ画素の割合が高くなったと考えられる。 教師領域における分類精度は90.1 %であった。強度間伐地 図5 FSC 北山地区の針葉樹樹種分類 図6 異なる間伐強度を設定した試験区(a)とハイパース ペクトル画像の分類結果(b) 図7 間伐強度の違いに基づいた分類における教師クラス の分光反射特性 では強度間伐地として分類された画素の割合が多いが,間 伐を実施していない領域と弱度間伐地ではあまり違いがな い。その原因として,間伐の実施は2003 年であり,観測 がおこなわれた2007 年には弱度間伐地の樹冠の大部分が スギで再び覆われてしまったことが影響していると推察さ れる。教師領域における分光反射特性を図7 に示す。図 7 より,すべての観測波長帯においてなしと弱は分光反射特 性 が 類 似 し て い る が, 強 は780 ~ 810nm お よ び 850 ~ 900nm の波長帯において他の 2 つに比べて反射強度が低い ことを示す部分があるので強度間伐地のみ分類できること が考えられる。 4)植林年数の把握 航空機ハイパースペクトル観測による植林年数把握の可 能性について検討した。本研究で作成した樹種分類図(以 後,樹種分類図は本研究で作成した樹種分類図を示す)か ら既存の植林図に示された領域以外にもスギ林が存在して いることが判読できる。これは,昭和60 年以降に植林さ れた領域があることを示している。 観測コースc11 は 45 ~ 49 年に植林された領域以外のす べての植林年数の領域を含むコースである。対象樹種をス ギとして,c11 のスギ林を樹種分類図を用いて抽出し植林 年数ごとの教師領域を設定し,使用バンドを選定した(表 1)。バンド選定に用いた教師領域は,昭和 40 年以前と 40 ~44 年に植林された領域である。その後,FSC 全体を解 析した。 図8 に植林年数ごとの教師クラスによる分類結果を示す。 植林図を現地の森林状況を表す指標として活用した。分類 結果と植林図による植林年数との対応は芳しくなかった。 リモートセンシングでは,現状の量的または質的な植生情 報を分光反射特性により土地被覆分類に利用している。植 矢部ほか:フィールドセンター北山地区針葉樹林地における 航空機ハイパースペクトルリモートセンシングによる森林管理の可能性の検討